説明

オレフィン系樹脂組成物及びその成形品

【課題】優れた艶消し性を示すオレフィン系樹脂組成物を開発する。
【解決手段】オレフィン系重合体、架橋アクリル系重合体及び無機充填剤を含有するオレフィン系樹脂組成物。特に、オレフィン系重合体がポリプロピレン又はポリエチレン、架橋アクリル系重合体がアルキル基の炭素数が2〜18のアルキル(メタ)アクリレート単位を主成分とする重合体、無機充填剤が鱗片状フィラーから選択したものからなるオレフィン系樹脂組成物並びに高級感を有する当該組成物からなる成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた艶消し性を示すオレフィン系樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系樹脂組成物は、加工性、耐薬品性、耐候性及び電気特性等に優れていることから、汎用樹脂として、自動車部品、家電製品、OA機器をはじめ、各種の射出成形品、ブロー成形品、真空・圧空成形品、フィルム、シート等の分野において幅広く用いられている。しかしながら、オレフィン系樹脂組成物は、いわゆる「プラスチッキー」と呼ばれる、高光沢、ソリッド感、接触した際のキイキイ音等プラスチックス特有の特徴を有している。
【0003】
近年、高機能化や製品の大型化が進みつつあり、それに伴いオレフィン系樹脂組成物には、例えば自動車の内装部品分野に於いては、コスト的、さらに環境負荷の低減を目的に無塗装化の進展に伴い、高級感外観の発現、具体的には落ち着いた風合いをもたらす艶消し特性の向上が求められている。
【0004】
このような背景から、艶消し処理として、金型やカレンダーロールの表面にエンボスを設けて成形品の表面に細かい模様を付ける方法が採用されている(特許文献1)。しかしながら、金型やカレンダーロールの表面にエンボスを設けることは経済的に不利であり、経済的に有利な平滑な金型やカレンダーロールで艶消し成形品を得られることが望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開平2−92944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、優れた艶消し性を示すオレフィン系樹脂組成物及びかかる樹脂組成物からなる高級感のある成形品を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行なった結果、オレフィン系重合体、架橋アクリル系重合体及び無機充填剤を配合することにより、成形品表面の艶消し特性を顕著に向上させることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、下記(1)〜(5)項記載のオレフィン系樹脂組成物及び当該オレフィン系樹脂組成物を成形して得られる成形品を提供するものである。
(1)オレフィン系重合体、架橋アクリル系重合体及び無機充填剤を含有するオレフィン系樹脂組成物。
(2)上記無機充填剤が鱗片状フィラーである上記(1)項記載のオレフィン系樹脂組成物。
(3)上記オレフィン系重合体がポリプロピレン又はポリエチレンである上記(1)〜(2)項記載のオレフィン系樹脂組成物。
(4)上記架橋アクリル系重合体がアルキル基の炭素数が2〜18のアルキル(メタ)アクリレート単位を主成分とする重合体である上記(1)〜(3)項記載のオレフィン系樹脂組成物。
(5)上記(1)〜(4)項記載のいずれかのオレフィン系樹脂組成物を成形して得られる成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明のオレフィン系樹脂組成物は、高級感のある艶消し性を発現し、且つ、衝撃強度を備えた成形品を得ることができる。従って、本発明のオレフィン系樹脂組成物は、自動車部品、家電製品、OA機器等の各種成形品用の材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で用いるオレフィン系重合体としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ−1−ブテン、ポリイソブチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン3元共重合体、ポリメチルペンテン、エチレン又はプロピレンと酢酸ビニル、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族ビニル等のビニル単量体とのランダム、ブロック及びグラフト共重合体が挙げられる。これらの重合体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの重合体の中では、特に、優れた艶消し性が示すことから、ポリプロピレン又はポリエチレンが好ましい。
【0010】
また、架橋アクリル系重合体は、架橋性単量体、アクリル系単量体及びその他の単量体を重合して得られる重合体である。その架橋性単量体は、重合性二重結合を2つ以上有する多官能性単量体であり、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;アリルメタクリレート;ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼンが挙げられる。
【0011】
アクリル系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルメタクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等の官能基を有する(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸が挙げられる。これらの単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの単量体の中では、オレフィン系重合体との相容性が良好なことから、アルキル基の炭素数が2〜18のアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0012】
その他の単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体;塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン、臭化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデンが挙げられる。これらの単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
架橋性単量体の含有率は、用いる全単量体100質量%中、0.5〜40質量%が好ましい。
架橋性単量体の含有率が0.5質量%以上であれば、重合体の架橋性が十分であり、艶消し効果が向上する。架橋性単量体の含有率が40質量%以下であれば、架橋性単量体の重合効率が良好となる。
【0014】
本発明の架橋アクリル系重合体の製造方法としては、公知の重合方法を用いることができ、例えば、乳化重合、ソープフリー重合、またはこれらの重合方法で得られた重合体粒子を種(シード)として用いるシード乳化重合、膨潤重合、二段階膨潤重合、又は微細懸濁重合が挙げられる。これらの重合方法の中では、微細懸濁重合が好ましい。
【0015】
微細懸濁重合とは、単量体、界面活性剤、水及び油溶性開始剤からなる水性混合物をホモジナイザー、ホモミキサー等で強制乳化して粒子径1.0〜100μmの微細な液滴とし、これを加熱することにより液滴内に溶解している油溶性開始剤を分解し、ラジカルを発生させラジカル重合を進行させる方法であり、架橋アクリル系重合体が分散したラテックスを得ることができる。
【0016】
油溶性開始剤とは、水に対する溶解度が5wt%未満のラジカル重合開始剤であり、例えば、アゾニトリル、アゾアミド、環状アゾアミジン、アゾアミジン、マクロアゾ化合物等のアゾ化合物;ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート等の過酸化物が挙げられる。
【0017】
架橋アクリル系重合体が分散したラテックスから、架橋アクリル系重合体を粉体として回収する方法としては、例えば、塩又は酸を用いた凝析、噴霧乾燥、凍結乾燥が挙げられる。これらの方法により、架橋アクリル系重合体を粉体として回収することができる。
これらの方法の中では、噴霧乾燥が好ましい。噴霧乾燥の方式は特に限定せず、二流体ノズル式、圧力ノズル式、回転ディスク式等の公知の方法を用いることができる。噴霧乾燥における乾燥室の出口温度は、50〜120℃が好ましく、60〜100℃がより好ましい。
【0018】
本発明における架橋アクリル系重合体の平均粒子径の好ましい下限は1μmである。また、好ましい上限は100μmである。平均粒子径が1μm以上であれば、艶消し効果が十分に発現する。平均粒子径が100μm以下であれば、得られる成形品の表面外観が良好となる。
尚、本発明における平均粒子径とは、体積平均粒子径である。
架橋アクリル系重合体の形状は球形が好ましい。架橋アクリル系重合体の形状が球形であれば、艶消し効果が高くなる傾向がある。
【0019】
本発明で用いる無機充填剤としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、クレー、ワラストナイト、チタン酸カリ、ガラス繊維が挙げられる。
これらの無機充填剤の中では、架橋アクリル系重合体と良好な相乗効果が得られ、顕著な艶消し効果が示されることから、タルク等の鱗片状フィラーが好ましい。
また、無機充填剤に表面処理を施すことにより、成形品の機械的強度や成形品の表面外観が良好となるので好ましい。
【0020】
本発明のオレフィン系樹脂組成物は、オレフィン系重合体100質量部に対して、架橋アクリル系重合体を1〜30質量部、無機充填材を10〜100質量部配合したものが好ましい。
オレフィン系重合体100質量部に対して、架橋アクリル系重合体を1質量部以上配合すれば、艶消し効果が十分に発現する。オレフィン系重合体100質量部に対して、架橋アクリル系重合体を30質量部以下配合すれば、得られる成形品の機械的強度が損なわれない。
オレフィン系重合体100質量部に対して、無機充填材を10質量部以上配合すれば、艶消し効果が十分に発現する。オレフィン系重合体100質量部に対して、無機充填材を100質量部以下配合すれば、得られる成形品の機械的強度が損なわれない。
【0021】
本発明のオレフィン系樹脂組成物は、必要に応じて、当該樹脂の分野において一般に用いられている紫外線吸収剤、抗酸化剤、耐候性安定剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤、顔料、難燃剤、分散剤等の添加剤を配合することができる。
本発明のオレフィン系樹脂組成物の成形方法としては、例えば、射出成形法、ブロー成形法、真空・圧空成形法、Tダイ押出成形法、異型押出成形法、カレンダー成形法及びインフレーション成形法が挙げられる。これらの中では、射出成形法が好ましい。
【実施例】
【0022】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は、「質量部」を示す。
実施例及び比較例における諸物性の測定は、下記(1)〜(3)の方法によった。
【0023】
(1)体積平均粒子径
架橋アクリル系重合体のラテックスを試料とし、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(LA−910、(株)堀場製作所製)を用いて測定した。
【0024】
(2)艶消し性
板状試験片を用い、JIS K7105に準拠して、60°鏡面光沢度を測定した。艶消し性は、以下の基準で評価した。
◎:光沢度が50%以下
○:光沢度が50より高く60%以下
×:光沢度が60%より高い
【0025】
(3)衝撃強度
アイゾット衝撃試験用試験片を用い、ASTM D−256に準拠して、アイゾット衝撃値を測定した。
【0026】
[製造例1] 架橋アクリル系重合体(B1)の製造
下記の混合物を、ミキサー(ウルトラタラックスT−25、IKA製)を用いて12,000rpmで2分間乳化処理を行ない、乳化分散液を得た。
混合物:
脱イオン水 500部
i−ブチルメタクリレート 85.0部
n−ブチルアクリレート 5.0部
エチレングリコールジメタクリレート 10.0部
ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステルナトリウム塩
(フォスファノールRS−610NA、東邦化学(株)製) 0.4部
有機過酸化物
(パーオクタO、日本油脂(株)製) 0.20部
【0027】
温度計、冷却管、攪拌装置を装備した反応容器に、得られた乳化分散液を投入し、200rpmで攪拌しながら内温を65℃に昇温して、3時間加熱した。次いで、内温を80℃に昇温して1時間加熱を行ない、重合を完結させた。
得られた架橋アクリル系重合体(B1)ラテックスを室温まで冷却した後、300メッシュナイロン濾布を用いて濾過した。
【0028】
濾過後の架橋アクリル系重合体(B1)ラテックスを、スプレードライヤー(L8型、大河原化工機(株)製)を用い、乾燥用ガスの入口温度190℃、乾燥用ガスの出口温度80℃、アトマイザ回転数20,000rpmの条件で噴霧乾燥し、架橋アクリル系重合体(B1)を得た。
架橋アクリル系重合体(B1)の体積平均粒子径は8.7μmであった。
【0029】
[実施例1〜8、比較例1〜8]
オレフィン系重合体、架橋アクリル系重合体及び無機充填剤を、表1に記載の割合で配合し、二軸押出機を用いて220℃で溶融混練して、オレフィン系樹脂組成物のペレットを得た。
【0030】
配合に用いた各原料の詳細は以下の通りである。
(オレフィン系重合体)
PP:ポリプロピレン樹脂(ノバテックスFY−4、日本ポリプロ(株)製)
PE:ポリエチレン樹脂(ハイゼックス5305E、(株)プライムポリマー製)
【0031】
(架橋アクリル系重合体)
B1:架橋アクリル系重合体(B1)
PMMA粒子:
架橋ポリメタクリル酸メチル粒子(MBX−8、積水化成工業(株)製)
(無機充填剤)
タルク:(マイクロエースP−6、日本タルク(株)製)
炭酸カルシウム:(白艶華CCR、白石カルシウム(株)製)
【0032】
【表1】

得られたオレフィン系樹脂組成物のペレットを、射出成形機を用いて220℃で成形して縦100mm、横50mm、厚さ3mmの板状試験片を作製し、光沢度を測定した。また、射出成形機を用いて220℃で成形して、ASTM−D256に準拠した試験片を作製し、アイゾット衝撃試験を実施した。結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2から明らかなように、実施例1、2は、比較例1〜4に比較して艶消し性が良好であり、衝撃強度の低下も少なかった。
実施例3、4は、実施例1、2に比較して艶消し性が若干低いものの良好であり、衝撃強度は同等であった。
実施例5、6は、比較例5〜8に比較して艶消し性が良好であり、衝撃強度の低下も少なかった。
実施例7、8は、実施例5、6に比較して艶消し性が若干低いものの良好であり、衝撃強度は向上した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系重合体、架橋アクリル系重合体及び無機充填剤を含有するオレフィン系樹脂組成物。
【請求項2】
無機充填剤が鱗片状フィラーである請求項1記載のオレフィン系樹脂組成物。
【請求項3】
オレフィン系重合体がポリプロピレン又はポリエチレンである請求項1又は2記載のオレフィン系樹脂組成物。
【請求項4】
架橋アクリル系重合体がアルキル基の炭素数が2〜18のアルキル(メタ)アクリレート単位を主成分とする重合体である請求項1〜3のいずれかに記載のオレフィン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のオレフィン系樹脂組成物を成形して得られる成形品。

【公開番号】特開2009−179667(P2009−179667A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18325(P2008−18325)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】