説明

オレフィン系熱可塑性エラストマーの成形体、組成物及び製造方法

【課題】弾性(特に弾性回復)と引張り強さとのバランスに優れるとともに、フィッシュアイ等の外観不良がないオレフィン系熱可塑性エラストマーの成形体、この成形体に用いられるオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物及びこのオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】オレフィン系熱可塑性樹脂と、オレフィン系架橋ゴムとを含むオレフィン系熱可塑性エラストマーの成形体であって、オレフィン系架橋ゴムは、オレフィン系ゴムがハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂によって架橋されたものであり、オレフィン系ゴムは、配合割合が20〜70質量%であり、ハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂は、ハロゲン含有率が3.5質量%以下であり、配合割合が0.5〜10質量%であり、混練及び動的架橋が超臨界流体の存在下で行われたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン系熱可塑性樹脂と架橋されたオレフィン系ゴムとを含むオレフィン系熱可塑性エラストマーの成形体、この成形体に用いられるオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物及びこのオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、オレフィン系の熱可塑性エラストマーは、軽量でリサイクル化が容易である上に、射出成形や異形押出成形等の通常の熱可塑性樹脂の成形方法によって容易に成形体を得ることができることから、さまざまなものに用いられている。しかしながら、オレフィン系熱可塑性エラストマーは、加硫ゴムと比較して弾性(特に弾性回復)に劣るという問題がある。
【0003】
上記のオレフィン系熱可塑性エラストマーのように、軽量でリサイクル化や成形が容易である利点を有しながら、弾性を向上させたものとして、特許文献1には、分子量分布が比較的シャープな共役ジエンポリマーの架橋ゴムと、熱可塑性樹脂とを含む熱可塑性エラストマー組成物が提案されている。しかしながら、この熱可塑性エラストマー組成物は、製品(特に自動車部品)の要求性能の一つである引張り強さを満たすものではなかった。
【0004】
一方、上記のように、架橋ゴムと熱可塑性樹脂とを含む熱可塑性エラストマー組成物を得る手法として、特許文献2には、架橋剤と共にオレフィン系のゴムとオレフィン系の熱可塑性樹脂とを二軸押出機に供給することで動的架橋を行い、架橋ゴムと熱可塑性樹脂とが均一に分散し、物性に優れたオレフィン系の熱可塑性エラストマーを、連続的に、簡略化された方法で製造する技術が提案されている。しかし、一般に、樹脂に比べて高分子量であるαオレフィン共重合体等のゴムを単体で溶融混練を行うと、剪断発熱により押出機内の温度が高温に達し熱劣化が進行してしまうことから、弾性と引張り強さとのレベルが両立した熱可塑性エラストマー組成物を得ることは難しい。その上、混練時等に押出機内の温度が高温に達することから、架橋反応をコントロールすることができず、成形品等に過架橋状態の架橋ゴムに起因するフィッシュアイ等の外観不良が生じることがあった。
【0005】
ポリプロピレン系樹脂と、プロピレン及び他のαオレフィンの熱可塑性エラストマーとからなるポリプロピレン系樹脂組成物におけるフィッシュアイを少なくする製造方法として、特許文献3には、超臨界状態の二酸化炭素の存在下で混練する技術が提案されている。しかし、この技術で得られたものは、弾性が劣るものであった。なお、特許文献4には、二種類の熱可塑性樹脂を超臨界状態の二酸化炭素の存在下で混練する技術が提案されているが、この技術で得られたものも、弾性が劣るものであった。
【0006】
また、特許文献5には、熱可塑性樹脂とゴム成分とを超臨界状態の二酸化炭素の存在下で混練した後、二酸化炭素の臨界状態を開放して、ゴム成分の架橋を行う熱可塑性エラストマー発泡体の製造方法が提案されている。しかし、この方法は、架橋ゴムの発泡体を含む熱可塑性エラストマー組成物を得る方法であることから、熱可塑性樹脂中における架橋ゴム粒子が粗大なものしか得ることができないため、フィッシュアイが生じることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−139297号公報
【特許文献2】特公平2−52648号公報
【特許文献3】特開2002−146038号公報
【特許文献4】特開2002−322288号公報
【特許文献5】特開平11−310656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、弾性(特に弾性回復)と引張り強さとのバランスに優れるとともに、フィッシュアイ等の外観不良がないオレフィン系熱可塑性エラストマーの成形体、この成形体に用いられるオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物及びこのオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のオレフィン系熱可塑性エラストマーの成形体は、オレフィン系熱可塑性樹脂と、オレフィン系架橋ゴムとを含むオレフィン系熱可塑性エラストマーの成形体であって、前記オレフィン系架橋ゴムは、オレフィン系ゴムがハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂によって架橋されたものであり、前記オレフィン系ゴムは、配合割合が20〜70質量%であり、前記ハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂は、ハロゲン含有率が3.5質量%以下であり、配合割合が0.5〜10質量%であり、前記オレフィン系熱可塑性樹脂と前記オレフィン系ゴムとの混練及び前記ハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂による前記オレフィン系ゴムの動的架橋が超臨界流体の存在下で行われたことを特徴とする。
【0010】
本明細書において、配合割合とは、オレフィン系熱可塑性エラストマーを得るために用いられる(配合される)原料の合計量に対する各原料の割合である。
【0011】
本発明のオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物は、オレフィン系熱可塑性樹脂と、オレフィン系架橋ゴムとを含むオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物であって、前記オレフィン系架橋ゴムは、オレフィン系ゴムがハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂によって架橋されたものであり、前記オレフィン系ゴムは、配合割合が20〜70質量%であり、前記ハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂は、ハロゲン含有率が3.5質量%以下であり、配合割合が0.5〜10質量%であり、前記オレフィン系熱可塑性樹脂と前記オレフィン系ゴムとの混練及び前記ハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂による前記オレフィン系ゴムの動的架橋が超臨界流体の存在下で行われたことを特徴とする。
【0012】
本発明のオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は、オレフィン系熱可塑性樹脂と、配合割合が20〜70質量%のオレフィン系ゴムとを超臨界流体の存在下で混練する混練工程と、前記オレフィン系ゴムを超臨界流体の存在下で動的架橋する架橋工程とを有し、前記架橋工程には、架橋剤としてハロゲン含有率が3.5質量%以下のハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂が用いられ、
前記ハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂の配合割合が0.5〜10質量%であることを特徴とする。
【0013】
本発明における各要素の態様を以下に例示する。
【0014】
1.オレフィン系熱可塑性樹脂
オレフィン系熱可塑性樹脂としては、特に限定はされないが、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等が例示できる。
オレフィン系熱可塑性樹脂の物性としては、特に限定はされないが、オレフィン系ゴムと混練しやすく、オレフィン系熱可塑性エラストマーの物性が良好になることから、230℃、21.18N(2.16kgf)におけるMFR(メルトフローレート)が0.1〜30(g/10分)であることが好ましく、より好ましくは、0.5〜10(g/10分)である。
オレフィン系熱可塑性樹脂の配合割合としては、特に限定はされないが、オレフィン系熱可塑性エラストマーの物性が良好になることから、5〜55質量%であることが好ましく、より好ましくは、10〜50質量%である。
【0015】
2.オレフィン系ゴム
オレフィン系ゴムとしては、特に限定はされないが、EPDM(エチレン−プロピレン−非共役ジエンゴム)、EPM(エチレン−プロピレンゴム)、EBM(エチレン−ブチレン共重合体)、EOM(エチレン−オクテン共重合体)等のエチレン−αオレフィン共重合体が例示でき、これらの一種であってもよいし、二種以上であってもよい。また、ハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂による架橋がしやすいことかことから、少なくともEPDMを含むものであることが好ましい。さらに、オレフィン系架橋ゴムが、オレフィン系熱可塑性樹脂の連続相中に、より小さい粒子として分散できることから、EPDMと他のエチレン−αオレフィン共重合体とであることがより好ましい。これは、EPM、EBM、EOM等の他のエチレン−αオレフィン共重合体には相溶化作用があることによる。
オレフィン系ゴムの配合割合は、20質量%未満ではオレフィン系熱可塑性エラストマーの弾性が悪くなり、70質量%を超えると混練しにくくなる。好ましくは、28〜70質量%であり、より好ましくは、32〜64質量%である。また、オレフィン系ゴムが少なくともEPDMを含むものである場合には、EPDMの配合割合は、特に限定はされないが、15〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは、18〜64質量%である。さらに、オレフィン系ゴムがEPDMと他のエチレン−αオレフィン共重合体との場合には、他のエチレン−αオレフィン共重合体の配合割合は、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、1〜10質量%である。
【0016】
3.オレフィン系架橋ゴム
オレフィン系架橋ゴムは、成形品の表面外観が良くなることから、オレフィン系熱可塑性樹脂の連続相中に平均粒径が1μm以下の粒子状に分散していることが好ましい。これは、オレフィン系熱可塑性樹脂の連続相中に分散しているオレフィン系架橋ゴムの粒子が大きいと成形品の表面にフィッシュアイとして現われることによる。
ここで、オレフィン系架橋ゴムの粒径とは、オレフィン系熱可塑性エラストマーの成形体の断面に現われたオレフィン系架橋ゴムの面積(断面積)と等面積の円の直径(円相当径)の値であり、オレフィン系架橋ゴムの平均粒径とは、この値(円相当径)の平均値である。
【0017】
4.架橋剤
ハロゲン含有率が3.5質量%以下のハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂を架橋剤として、オレフィン系ゴムの動的架橋を行うことにより、架橋反応を好適にコントロールすることができ、オレフィン系ゴムの過架橋が抑制されて成形品の外観不良になるフィッシュアイの発生を抑制できると共に、オレフィン系ゴムの発泡が抑制されて安定して混練・動的架橋を行うことができる。
ハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂のハロゲン含有率は、0.1〜3.5質量%であることが好ましく、より好ましくは、1〜3質量%であり、さらに好ましくは、2.5〜3質量%である。
ハロゲン含有率が3.5質量%以下のハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂の配合割合が、0.5質量%未満ではオレフィン系熱可塑性エラストマーの弾性回復が悪くなり、10質量%を超えるとフィッシュアイが生じると共に、混練・動的架橋を安定して行うことができなくなる。
【0018】
5.他の原料
オレフィン系熱可塑性エラストマーに添加される他の原料としては、特に限定はされないが、混練をよりよくするための可塑剤や成形品の強度等の物性を向上させるフィラー等が例示できる。また、他の原料は、配合されていてもよいし、配合されていなくてもよい。
【0019】
6.超臨界流体
超臨界流体は、超臨界状態にある物質であれば特に限定はされないが、超臨界二酸化炭素、超臨界窒素等が例示できる。
具体的には、二酸化炭素は、臨界温度が31.1℃(304.1K)であり、臨界圧が7.38MPaであることから、超臨界二酸化炭素は、温度が31.1℃以上であり、且つ圧力が7.38MPa以上の状態にある二酸化炭素である。
混練工程及び架橋工程における超臨界流体の導入量としては、特に限定はされないが、オレフィン系熱可塑性樹脂等のオレフィン系熱可塑性エラストマーを得るための原料の合計量100質量部に対し、0.05〜30質量部であることが好ましく、より好ましくは、0.1〜15質量部である。この導入量が0.05質量部未満では、混練中及び動的架橋中におけるオレフィン系熱可塑性樹脂とオレフィン系ゴムとの混合物の溶融粘度が低下しにくくなり、30質量部を超えると、単位時間当たりに得られるオレフィン系熱可塑性エラストマーの量が少なくなり、生産性が悪くなる。
【0020】
7.混練・動的架橋
混練及び動的架橋を行う設備としては、特に限定はされないが、二軸混練機、一軸混練機等の連続して処理する設備でもよいし、加圧ニーダ等のバッチで処理する設備でもよい。また、混練と動的架橋とは、同じ設備で行ってもよいし、異なる設備で行ってもよい。
また、混練と動的架橋とは略平行して行ってもよいし、混練を行った後に動的架橋を行ってもよい。架橋ゴムの粒子がより小さくなることから、ある程度の混練を行った後に動的架橋を行うことがより好ましい。
また、混練及び動的架橋中におけるオレフィン系熱可塑性樹脂及びオレフィン系ゴムの熱劣化を抑制できることから、混練及び動的架橋におけるオレフィン系熱可塑性樹脂とオレフィン系ゴムとの混合物の温度は150℃以下であることが好ましい。また、混練中における混合物の温度と動的架橋中における混合物の温度とは、同じであってもよし、異なっていてもよい。
【0021】
8.成形方法
成形体の成形方法としては、特に限定はされないが、押出成形、射出成形等の熱可塑性樹脂の成形に用いられる方法等が例示できる。
【0022】
9.成形体
成形体の用途としては、特に限定はされないが、バンパー、カウルルーバ、ガラスラン、オープニングトリム等の自動車の外装品や、インストゥルメントパネル、フロントピラー、コンソール、センタクラスタ、デッキサイドトリム等の自動車の内装品等が例示できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、弾性(特に弾性回復)と引張り強さとのバランスに優れるとともに、フィッシュアイ等の外観不良がないオレフィン系熱可塑性エラストマーの成形体、この成形体に用いられるオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物及びこのオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1のオレフィン系熱可塑性エラストマーの成形体の断面の顕微鏡写真である。
【図2】本発明のオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物の混練・動的架橋に用いた二軸混練機の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0025】
本発明の実施例として6種類のオレフィン系熱可塑性エラストマーの成形体と、比較例として5種類のオレフィン系熱可塑性エラストマーの成形体とを作成し、それぞれについて測定及び評価を行った。そして、その結果、配合割合(組成)及び製造条件を次の表1に示す。なお、EPDM1及びEPDM2の欄における()内の数値は、EPDMの配合割合であり、可塑剤の欄における()内の数値は、EPDM1又はEPDM2に含まれている可塑剤を合わせた可塑剤の全量である。
【0026】
【表1】

【0027】
本実施例及び比較例には、次の原料を用いた。
オレフィン系熱可塑性樹脂として、三種類のポリプロピレンを用いた。それぞれのポリプロピレンは、230℃における21.18Nの荷重でのMFRが異なり、PP1のMFRは0.6(g/10分)であり、PP2のMFRは1.5(g/10分)であり、PP3のMFRは6(g/10分)であった。
オレフィン系ゴムとして、二種類のEPDM(エチレン−プロピレン−非共役ジエンゴム)とEPM(エチレン−プロピレンゴム)とを用いた。EPDMは、125℃におけるムーニー粘度が51のEPDM1と、120℃におけるムーニー粘度が66のEPDM2とであった。なお、EPDM1は可塑剤を40質量%含有(EPDMは60質量%)し、EPDM2は可塑剤を25質量%含有(EPDMは75質量%)していた。また、EPMは、230℃における21.18Nの荷重でのMFRが7(g/10分)であった。
架橋剤として、ハロゲンの含有率が異なる二種類のハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂を用いた。可塑剤1はハロゲン含有率が2.8質量%のものであり、可塑剤2はハロゲン含有率が3.6質量%のものであった。
また、EPDM中の可塑剤の他に別途添加した可塑剤として、40℃における動粘度が96mm/s(cSt)の鉱物油を用いた。
【0028】
各試料は、図2に示す二軸混練機を用い、次のようにして製造した。
各試料の配合割合のPP、EPDM、EPM及び可塑剤を二軸混練機(日本製鋼所社の「TEX30α」L/D:60)のホッパーより投入した。
投入された上記原料が混練機の槽内で混ぜられながら先端へと進む途中において、二酸化炭素を槽内に導入し、混合された原料を超臨界二酸化炭素の存在下においた。
そして、超臨界二酸化炭素の存在下で混練されながら混練機の先端へと進む途中で、架橋剤と可塑剤とをサイドフィードして、動的架橋を行った。
その後、混練機の脱気口より二酸化炭素を排出することで、二酸化炭素を分離し、各試料を得た。
なお、超臨界二酸化炭素の導入後、動的架橋が終わるまでの槽内は、温度が35℃以上、圧力が7.4MPa以上になるようにして、二酸化炭素が超臨界状態を維持できるように管理した。
【0029】
各試料の測定及び評価は、次のようにして行った。
【0030】
(1)製造安定性
上記のようにして製造したときに、製造を1時間以上連続して行えた場合を○とし、ストランドの発泡や材料吐出の変動により、製造を1時間以上連続して行えなかった場合を×と評価した。
【0031】
(2)押出成形品の外観
上記のようにして製造された各試料を、一軸押出機(L/D:15)を用いて、200℃にて、厚さ1mmの押出シートを成形し、この押出シートの長さ500mmの間における表面に現われたフィッシュアイの数を測定した。フィッシュアイがない場合を○とし、フィッシュアイが少数ある場合を△とし、フィッシュアイが多数ある場合を×と評価した。
【0032】
(3)オレフィン系架橋ゴムの平均粒径
成形体の中央付近の断面において、この断面に現われている各オレフィン系架橋ゴム(粒子状のゴム)の面積(断面積)を測定し、その円相当径を求め、この平均値をオレフィン系架橋ゴムの平均粒径とした。
具体的には、上記押出シートの中央付近を厚さ方向に切断して測定断面を形成し、この断面に現われているオレフィン系架橋ゴムの部位を重金属で処理し、着色した。
そして、このオレフィン系架橋ゴムの部位を着色した測定断面の15×15μmの範囲を走査型電子顕微鏡を用いて拡大した。この拡大した画像(図1参照)に画像解析処理(二値化処理)を行って、この画像中でのオレフィン系架橋ゴム部(図1の他部より色が淡い部位)の占有域を特定した。
このようにして特定されたオレフィン系架橋ゴム部の占有域の一つ毎を画像解析により、その面積を算出し、この面積と等面積の円の直径を求めた。そして、それぞれの占有域について求めた直径の値を算術平均したものをオレフィン系架橋ゴムの平均粒径とした。
【0033】
(4)圧縮永久歪み(弾性回復)
JIS K6301に準拠し、70℃の試験温度で22時間の試験時間の条件で試験を行い測定した。
【0034】
(5)引張り強さ
JIS K6301に準拠して測定した。
【0035】
以上の結果より、比較例は次のようであった。
比較例1は、超臨界二酸化炭素の存在下で混練しないことで、混合物の溶融粘度が上昇した結果、混練部分の混合物温度が上昇し、架橋反応をコントロールすることができなかったため、安定した架橋反応が行えず、過架橋に起因するフィッシュアイが生じた、また、不十分な架橋に起因するストランドの吐出により製造が不安定であった。
比較例2は、ハロゲン含有率が3.6質量%のハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂を架橋剤に用いたことで、過架橋に起因するフィッシュアイが生じた。
比較例3は、オレフィン系ゴムの配合割合が14.4質量%と少ないことで、オレフィン系架橋ゴムが少なく弾性回復が劣った。
比較例4は、架橋剤の配合割合が12質量%と多いことで、過架橋に起因するフィッシュアイが生じた。
比較例5は、架橋剤の配合割合が0.4質量%と少ないことで、オレフィン系架橋ゴムが少なく弾性回復が劣った。
【0036】
一方、全ての実施例は、次のようであった。
1)超臨界二酸化炭素の存在下で混練及び動的架橋を行ったことから、混合物の溶融粘度の上昇が抑えられて、混合物の温度も150℃以下であったことから、架橋反応を最適にコントロールすることが可能となり、オレフィン系ゴムの発泡を抑制し、安定してEPDMを架橋することが可能となった。そのため、ストランドの発泡や材料吐出の変動などが生じず、1時間以上連続して製造できた。また、過架橋に起因するフィッシュアイも生じなかった。
2)ハロゲン含有率が2.8質量%のハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂を架橋剤に用いて動的架橋を行ったことから、架橋反応を最適にコントロールすることが可能となり、過架橋に起因するフィッシュアイも生じなかった。
3)オレフィン系ゴムの配合割合が28〜63.8質量%であったことから、十分なオレフィン系架橋ゴムが得られ、圧縮永久歪みの値が38%以下と弾性回復も良好であった。
4)ハロゲン含有率が2.8質量%のハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂の架橋剤の配合割合が0.5〜10質量%であったことから、過架橋に起因するフィッシュアイも生じず、且つ十分なオレフィン系架橋ゴムが得られ、圧縮永久歪みの値が38%以下と弾性回復も良好であった。
5)圧縮永久歪みの値が38%以下と弾性回復が良好であると共に、引張り強さの値が5.0MPa以上であることから、弾性回復と引張り強さとのバランスに優れていた。
【0037】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系熱可塑性樹脂と、オレフィン系架橋ゴムとを含むオレフィン系熱可塑性エラストマーの成形体であって、
前記オレフィン系架橋ゴムは、オレフィン系ゴムがハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂によって架橋されたものであり、
前記オレフィン系ゴムは、配合割合が20〜70質量%であり、
前記ハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂は、ハロゲン含有率が3.5質量%以下であり、配合割合が0.5〜10質量%であり、
前記オレフィン系熱可塑性樹脂と前記オレフィン系ゴムとの混練及び前記ハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂による前記オレフィン系ゴムの動的架橋が超臨界流体の存在下で行われたことを特徴とするオレフィン系熱可塑性エラストマーの成形体。
【請求項2】
前記オレフィン系架橋ゴムは、前記オレフィン系熱可塑性樹脂の連続相中に平均粒径が1μm以下の粒子状に分散している請求項1記載のオレフィン系熱可塑性エラストマーの成形体。
【請求項3】
前記オレフィン系熱可塑性樹脂がポリプロピレンであり、
前記オレフィン系ゴムが少なくともEPDMを含むものである請求項1又は2記載のオレフィン系熱可塑性エラストマーの成形体。
【請求項4】
オレフィン系熱可塑性樹脂と、オレフィン系架橋ゴムとを含むオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物であって、
前記オレフィン系架橋ゴムは、オレフィン系ゴムがハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂によって架橋されたものであり、
前記オレフィン系ゴムは、配合割合が20〜70質量%であり、
前記ハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂は、ハロゲン含有率が3.5質量%以下であり、配合割合が0.5〜10質量%であり、
前記オレフィン系熱可塑性樹脂と前記オレフィン系ゴムとの混練及び前記ハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂による前記オレフィン系ゴムの動的架橋が超臨界流体の存在下で行われたことを特徴とするオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記オレフィン系架橋ゴムは、前記オレフィン系熱可塑性樹脂の連続相中に平均粒径が1μm以下の粒子状に分散している請求項4記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記オレフィン系熱可塑性樹脂がポリプロピレンであり、
前記オレフィン系ゴムが少なくともEPDMを含むものである請求項4又は5記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
オレフィン系熱可塑性樹脂と、配合割合が20〜70質量%のオレフィン系ゴムとを超臨界流体の存在下で混練する混練工程と、
前記オレフィン系ゴムを超臨界流体の存在下で動的架橋する架橋工程とを有し、
前記架橋工程には、架橋剤としてハロゲン含有率が3.5質量%以下のハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂が用いられ、
前記ハロゲン化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂の配合割合が0.5〜10質量%であることを特徴とするオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項8】
前記混練工程及び前記架橋工程における前記オレフィン系熱可塑性樹脂と前記オレフィン系ゴムとの混合物の温度は150℃以下である請求項7記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項9】
前記オレフィン系熱可塑性樹脂がポリプロピレンであり、
前記オレフィン系ゴムが少なくともEPDMを含むものである請求項7又は8記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−235703(P2010−235703A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83163(P2009−83163)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】