説明

オレフィン系重合体組成物およびこれを用いて得られる樹脂成形物

【課題】 充填材としてタルクが配合されたオレフィン系重合体組成物でありながら、得られる樹脂成形物の表面に傷が付いた場合であっても当該傷は目立つことがなく、その意匠性、美観、質感等が損なわれるのを防止することができるオレフィン系重合体組成物を提供する。
【解決手段】 オレフィン系重合体に、着色剤で被覆された着色剤被覆タルクが充填材として配合されてなる。前記着色剤は、前記オレフィン系重合体と同系統の色相を発現する着色剤であることが好ましく、例えばカーボンブラックであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充填材としてタルクが配合されたオレフィン系重合体組成物およびこれを用いて得られる樹脂成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車内装部品としては、所望の色相に着色されたオレフィン系重合体の成形物が汎用されている。オレフィン系重合体を着色する場合、自動車内装部品などの分野では、黒色、灰色、紺色、こげ茶色等のような濃い色相が好まれる傾向がある。
他方、オレフィン系重合体の成形物を作製する際には、機械的強度等の物性向上を目的として充填材が配合されるのが通常であり、充填材としては例えばタルクが汎用されている。
ところで、自動車内装部品には、例えば、シートベルト用金具、コイン、ボールペン、その他の金属材料等により部品表面に傷が付くことがある。そのような場合、充填材として配合されている白色のタルクが成形物の傷付き部に現れて、その傷の部分が肉眼で白く見えることになり、特に、上述したようにオレフィン系重合体成形物自体が濃い色相に着色されたものであると、白色を呈しているタルクの出現はとりわけ目立つことになる。このように、充填材としてタルクが配合されたオレフィン系重合体の成形物に傷が付くと、部品の意匠性、美観、質感等が著しく損なわれるという問題があった。
【0003】
このような問題を回避するため、例えば、無機充填材の表面を塩素化ポリオレフィン系樹脂でコーティングし、これを特定の割合で熱可塑性樹脂と混合した耐傷付性樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−307015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の耐傷付性樹脂組成物は、樹脂組成物自体が白色に近い薄い色相を呈するものである場合には、ある程度、傷を目立たなくする効果が認められるものの、濃い色相に着色された樹脂組成物に白色のタルクが配合されている場合などには、その効果は未だ不充分であるのが実情であった。
【0006】
そこで、本発明は、充填材としてタルクが配合されたオレフィン系重合体組成物でありながら、得られる樹脂成形物の表面に傷が付いた場合であっても当該傷は目立つことがなく、その意匠性、美観、質感等が損なわれるのを防止することができるオレフィン系重合体組成物と、これを用いて得られる樹脂成形物とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、オレフィン系重合体に充填材として配合するタルクを、着色剤、好ましくは前記オレフィン系重合体と同系統の色相を発現する着色剤で被覆することにより、たとえオレフィン系重合体成形物自体が濃い色相に着色されたものであっても、得られる樹脂成形物の表面に付いた傷は目立つことがなく、その意匠性、美観、質感等が損なわれるのを防止することができることを見出した。そして、着色剤で被覆されたタルクは、被覆されていない従来のタルク(以下、「一般タルク」と称することもある)と比べても、遜色のない機械的物性をオレフィン系重合体に付与するものであることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記のオレフィン系重合体組成物および樹脂成形物を提供する。
(1)オレフィン系重合体に、着色剤で被覆された着色剤被覆タルクが充填材として配合されてなることを特徴とするオレフィン系重合体組成物。
(2)前記着色剤が、前記オレフィン系重合体と同系統の色相を発現する着色剤である、前記(1)に記載のオレフィン系重合体組成物。
(3)前記着色剤がカーボンブラックである、前記(1)または(2)に記載のオレフィン系重合体組成物。
(4)前記オレフィン系重合体が、ポリプロピレン、ポリエチレン、プロピレンとエチレンとの共重合体、またはそれらのポリマーアロイである、前記(1)〜(3)のいずれかに記載のオレフィン系重合体組成物。
(5)前記着色剤被覆タルクは、着色剤を含有するシリカゲルが化学的な結合を介してタルク表面を被覆したものである、前記(1)〜(4)のいずれかに記載のオレフィン系重合体組成物。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載のオレフィン系重合体組成物を含む成形材料を成形して得られることを特徴とする樹脂成形物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、充填材としてタルクが配合されたオレフィン系重合体組成物でありながら、得られる樹脂成形物の表面に傷が付いた場合であっても当該傷は目立つことがなく、その意匠性、美観、質感等が損なわれるのを防止しうるオレフィン系重合体組成物を提供することができる。このような効果を有する本発明のオレフィン系重合体組成物を用いて得られる樹脂成形物は、自動車等の各種内装部品等の素材として好適に利用される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のオレフィン系重合体組成物は、オレフィン系重合体に、充填材として、着色剤で被覆されたタルク(以下、「着色剤被覆タルク」と称することがある)を配合したものである。
【0011】
本発明において使用するオレフィン系重合体としては、特に制限されないが、ポリプロピレン、ポリエチレン、プロピレン−エチレン共重合体、またはそれらのポリマーアロイ等が好ましく挙げられる。特に、ポリプロピレンからなる樹脂成形物は傷を受けやすいことから、本発明の効果を有意に発揮するうえでは、オレフィン系重合体はポリプロピレンであることが望ましい。
前記オレフィン系重合体は、着色剤を含有するものであってもよいし、着色剤を含有しないものであってもよい。つまり、本発明は、濃い色相に着色された重合体組成物の成形物に傷が付いた際に当該傷が目立たないようにすることを目的とするものであるから、本発明のオレフィン系重合体組成物をそのまま(つまり、着色剤を添加しないで)成形して樹脂成形物を製造する場合には、通常、オレフィン系重合体を所望の色相に着色するための着色剤が配合されることになる。他方、本発明のオレフィン系重合体組成物は、成形に供する際に着色剤と混合することにより所望の色に着色して成形材料とするマスターバッチとして用いることもでき、そのような場合には、前記オレフィン系重合体は着色剤を含有していなくてもよいのである。着色剤を含有する場合、その種類や含有量は、得ようとする成形物に応じて適宜設定すればよいが、本発明の効果を有意に発揮するうえでは、着色されたオレフィン系重合体が濃い色相を呈するよう設定することが望ましい。なお、ここでいう着色剤は、オレフィン系重合体にあらかじめ含有させておいてもよいし、オレフィン系重合体と別にオレフィン系重合体組成物に配合するようにしてもよい。
【0012】
タルクは、シリカ(SiO2)と酸化マグネシウム(MgO)を主成分とする天然鉱物である。本発明において前記着色剤被覆タルクの原料とするタルク(被覆前のタルク;以下「原料タルク」と称することもある)としては、樹脂成形物の充填材として使用されるものであれば、特に限定されないが、補強効果等に優れる点からは、天然のタルクに粉砕(例えばジェットミル等による粉砕)・分級を施して製造されたものが好ましく、具体的には、次の物性を有する粉体であることが好ましい。すなわち、アスペクト比は、5〜30であることが好ましく、より好ましくは5〜20である。平均粒子径(D50)は、1〜20μmであることが好ましい。篩い上相対粒子量が25%である時の粒子径(25%粒子径)を篩い下相対粒子量が75%である時の粒子径(75%粒子径)で除した値(25%粒子径/75%粒子径)は、2.0〜5.0であることが好ましい。なお、アスペクト比は、タルク粒子の平均粒子径(μm)をその平均厚さ(μm)で除した値である。25%粒子径および75%粒子径は、粒子径(μm)と相対粒子量(%)の相関図から算出される。これらは、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製「SALD−200V ER」)を用いて測定することができる。
【0013】
本発明において前記着色剤被覆タルクの原料とする着色剤(原料タルクの被覆に用いる着色剤;以下「被覆着色剤」と称することもある)としては、特に制限はなく、樹脂の着色剤として一般に使用されている無機顔料や有機顔料などが使用できる。例えば、ベンガラ等の各種の酸化鉄、蛍光物質である希土類酸化物、黄鉛、アルミナ等の金属酸化物系顔料、チタン黒、チタンイエロー、群青、コバルトブルー等の金属化合物系顔料、カーボンブラック、フタロシアニン系、スレン系、アゾ系、キナクリドン系、ジオキサジン系、アンスラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、アゾメチン系、ペリレン系、ペリノン系、イソインドリノン系等の有機顔料やレーキ化した染料等が挙げられる。これら被覆着色剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0014】
前記被覆着色剤は、前記オレフィン系重合体と同系統の色相を発現する着色剤であることが好ましい。より好ましくは、前記被覆着色剤として、オレフィン系重合体と同じ着色剤を用いるのがよい。なお、本発明のオレフィン系重合体組成物が成形に供する際に着色剤と混合して用いるマスターバッチであり、前記オレフィン系重合体が着色剤を含有するものではない場合、被覆着色剤は、成形に供する際に混合する着色剤によって発現される色相と同系統の色相を発現するものであることが好ましく、成形に供する際に混合する着色剤と同じ着色剤であることがより好ましい。
【0015】
なお、白色を呈するタルクを充填材として含有する着色樹脂成形物に傷が付いた際に最も傷が目立つことになるのは、樹脂成形物が黒色に着色された場合(換言すれば、前記オレフィン系重合体が黒色顔料を含有する場合もしくは成形に供する際に黒色顔料が混合される場合)であることに鑑みると、前記被覆着色剤として黒色顔料、特にカーボンブラックを用いることが、本発明の効果を有意に発揮するうえで、好ましい。カーボンブラックとしては、酸性カーボンからアルカリカーボンまで広範囲のものが使用でき、特に限定されない。
【0016】
前記着色剤被覆タルクは、原料タルクの表面を、好ましくは原料タルク重量に対して0.1〜30重量%、より好ましくは原料タルク重量に対して1〜25重量%に相当する量の被覆着色剤で被覆したものであるのがよい。被覆着色剤の量が前記範囲未満では、樹脂成形物の表面に傷が付いた場合に当該傷を目立たせないという本発明の効果が充分に得られないおそれがあり、一方前記範囲を超えると、タルク本来の性能が損なわれる傾向がある。
【0017】
前記着色剤被覆タルクは、被覆着色剤を含有するシリカゲルが化学的な結合を介してタルク表面を被覆したものであることが、着色剤被覆タルクの分散性に優れるとともに、樹脂成形物の表面に傷が付いた場合に当該傷を目立たせないという本発明の効果を効率よく得られる点で、好ましい。すなわち、被覆着色剤とシリカゲルとを含有する着色剤含有シリカゲルを用いて原料タルクの表面を被覆することにより得られた着色剤被覆タルクが好ましいのである。この場合、原料タルク重量に対して、0.1〜30重量%の被覆着色剤と0.1〜50重量%のシリカゲルとを含有する着色剤含有シリカゲルを用いることが好ましく、より好ましくは、原料タルク重量に対して、1〜25重量%の被覆着色剤と10〜45重量%のシリカゲルとを含有する着色剤含有シリカゲルを用いるのがよい。
【0018】
前記着色剤被覆タルクの製造方法としては、特に制限はないが、例えば、特開平05−178623号公報、特開平07−133211号公報、特開平11−193354号公報、特開平2000−319128号公報、特開平2001−011342号公報、特開平2002−212462号公報等に記載の方法で製造することができる。
【0019】
例えば、着色剤含有シリカゲルを用いて原料タルクの表面を被覆した着色剤被覆タルクは、有機分散媒体に分散剤を用いて被覆着色剤を分散させ、被覆着色剤が分散された系において原料タルクの存在下、アルコキシシランをゾル−ゲル反応させる方法によって製造することができる。以下、着色剤被覆タルクの製造方法の一例として、このアルコキシシランのゾル−ゲル反応を利用した方法について詳しく述べる。
【0020】
前記アルコキシシランのゾル−ゲル反応は、水の存在する液状媒体中でアルコキシシランが加水分解してSi−OH基が生成するとともに、それが縮合してSi−O−Si基を形成するものである。
前記アルコキシシランとしては、例えば、下記一般式(1)
Si(OR)4 (1)
(式(1)中、4個のRは、炭素数1〜3のアルキルであり、各々、同一であってもよいし、異なっていてもよい)
で表されるテトラアルコキシシランが挙げられる。ここで、Rで表される炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。具体的には、テトラエトキシシラン等が挙げられる。
【0021】
前記アルコキシシランとしては、前記テトラアルコキシシランに加えて、下記一般式(2)
1xSi(OR)4-x (2)
(式(2)中、Xは1〜3の整数であり、X個のR1と(4−X)個のRとは、炭素数1〜3のアルキル基であり、各々、同一であってもよいし、異なっていてもよい)
で表されるアルキル変性アルコキシシランを併用してもよい。ここで、R、R1で表される炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。
【0022】
被覆着色剤を分散させるための分散剤としては、例えば、ポリビニルブチラール、アクリル酸および/またはメタアクリル酸を共重合したアクリル系重合体のアルカノールアミン塩、N−ビニルピロリドン−N,N−ジアルキルアミノアルキルアクリレート共重合体、N−ビニルピロリドン−N,N−ジアルキルアミノアルキルアクリレート共重合体のジアルキル硫酸塩、N−ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体、メチルビニルエーテル−ジアルキルマレエート共重合体等が挙げられる。
【0023】
被覆着色剤を分散させる有機分散媒体としては、特に制限はないが、ゾル−ゲル反応における反応媒体として後述する水溶性有機溶剤を使用し、この水溶性有機溶剤をゾル−ゲル反応における反応媒体の一部として使用することが好ましい。
前記ゾル−ゲル反応における反応媒体としては、水と水溶性有機溶剤の混合物を使用するのが好ましい。水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級脂肪族一価アルコールが好ましく挙げられる。
【0024】
前記ゾル−ゲル反応には、触媒を使用するのが好ましい。触媒としては、例えば、各種の酸類や塩基類が使用できるが、アルカノールアミン類が特に好ましい。アルカノールアミン類としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルモノエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、ジエチルモノエタノールアミン、モノエチルジエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、ジメチルモノプロパノールアミン、モノエチルジプロパノールアミン等が挙げられる。
【0025】
前記ゾル−ゲル反応は、適宜設定すればよいが、例えば、反応媒体、有機分散媒体に分散させた被覆着色剤、アルコキシシランおよび原料タルクを攪拌しながら混合し、さらに、攪拌下で触媒を添加した後、10〜30℃の常温で攪拌した後、60〜90℃で加熱することにより行なうことができる。着色剤被覆タルクは、ゾル−ゲル反応で得られた反応生成物から固形物を濾別し、水や水溶性有機溶剤等で洗浄することにより残留の触媒や分散剤を取り除いた後、120〜160℃程度の加熱乾燥を行うことによって、分取することができる。
【0026】
本発明のオレフィン系重合体組成物において、オレフィン系重合体と着色剤被覆タルクとの含有比率は、特に制限されないが、オレフィン系重合体:着色剤被覆タルク(重量比)=20〜99.5:0.5〜80であることが好ましく、オレフィン系重合体:着色剤被覆タルク(重量比)=40〜98:2〜60であることがより好ましい。
【0027】
本発明のオレフィン系重合体組成物においては、本発明の目的を損なわない範囲内で、着色剤被覆タルクと一般タルクを併用してもよい。一般タルクを併用する場合、着色剤被覆タルク100重量部に対して、一般タルクを300重量部以下とすることが好ましく、より好ましくは150重量部以下とするのがよい。一般タルクの使用量が前記範囲を超えると、樹脂成形物の表面に傷が付いた場合に当該傷を目立たせないという本発明の効果が充分に得られないおそれがある。
【0028】
本発明のオレフィン系重合体組成物においては、本発明の目的を損なわない範囲内で、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、離型剤、帯電防止剤等の一般的な添加剤を配合することもできる。
【0029】
本発明のオレフィン系重合体組成物は、前述した各成分(すなわち、オレフィン系重合体、着色剤被覆タルク、および必要に応じてその他の成分)を混合して、混練機等で均一に混練することにより得ることができる。なお、本発明のオレフィン系重合体組成物は、混練された状態のものであってもよいし、混練して得られた混練物を必要に応じて所望の形状に成形して固化させたものであってもよい。
【0030】
本発明の樹脂成形物は、前記本発明のオレフィン系重合体組成物を含む成形材料を成形して得られるものである。本発明の樹脂成形物は着色されたものであり、本発明のオレフィン系重合体組成物が着色剤(すなわち、オレフィン系重合体を着色するための着色剤)を含有しないものである場合には、通常、成形に供する成形材料に着色剤が添加される。この場合、成形材料に混合する着色剤としては、本発明のオレフィン系重合体組成物に含まれる着色剤被覆タルクを被覆する被覆着色剤によって発現される色相と同系統の色相を発現するものであることが好ましく、該被覆着色剤と同じ着色剤であることがより好ましい。
【0031】
本発明の樹脂成形物を得る際の成形は、例えば、射出成形法、押出成形法等の各種成形法により行なうことができる。
本発明の樹脂成形物は、機械的強度等の一般的な物性を備えながら、表面に傷が付いた場合であっても当該傷は目立つことがなく、その意匠性、美観、質感等が損なわれるのを防止することができるものであり、例えば、自動車内装材等の各種用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
下記においては、特に断りのない限り、「部」は重量部を、「%」は重量%を表す。
【0033】
また、材料としては以下のものを使用した。
・カーボンブラック:三菱化学(株)製「カーボンブラック♯30」(平均一次粒子径=24nm)
・ブチラール樹脂:積水化学(株)製「エスレックBL−1」
・タルク:林化成(株)製「ミクロンホワイト♯5000S」(粒子径範囲=0.5〜30μm、平均粒子径=4.5μm、アスペクト比=15、25%粒子径=7.6μm、75%粒子径=2.6μm)
・ポリプロピレン(PP):(株)プライムポリマー製「J830HV」
【0034】
(製造例1−カーボンブラック被覆タルク(カーボン5%被覆タルク)の製造)
カーボンブラック40部を、分散剤であるブチラール樹脂24部をイソプロパノール336部に溶解させた溶液と共にビーズミルに仕込み、粉砕しながら分散させて、カーボンブラック分散液(A)を得た。次に、液の滴下装置、還流冷却器、攪拌器および外部加熱装置を有する反応器に、イソプロパノール600部、テトラエトキシシラン116.6部、水35部、前記カーボンブラック分散液(A)102部を順次仕込み、室温下で10分間攪拌して、均一な分散液とした。次いで、タルク160部を仕込み、室温下で30分間攪拌した後、ジエタノールアミン35.2部をイソプロパノール200部に溶解させた溶液を10分間かけて滴下した。室温下で10分間攪拌した後、外部加熱で80℃に昇温し、同温度で60分間保った。その後、80℃の温水530部を30分間かけて滴下し、滴下後、さらに30分間攪拌して、反応を終了させた。反応物を冷却した後、固形物を濾別し、イソプロパノール、水で洗浄することにより、溶媒、分散剤、触媒を取り除き、その後、120℃で乾燥して、粉体であるカーボンブラック被覆タルクを得た。
【0035】
得られたカーボンブラック被覆タルクの実際の収量は205部であった。他方、カーボンブラック全量とテトラエトキシシラン全量が転化したシリカとによって全てのタルク表面が被覆されたときの理論収量は203.8部であるから、実際の収量と理論収量とはほぼ同等であり、上記反応収率はほぼ100%とみなせる。また、得られたカーボンブラック被覆タルクを構成する成分組成は、理論上、タルク78.5%、カーボンブラック5.0%、シリカ16.5%である。
得られたカーボンブラック被覆タルクを衝撃式粉砕機にて10秒間粉砕したところ、粉砕後の粉体の粒径は0.5〜10μmの間に分布し、平均粒径は4.0μmであった。つまり、得られたカーボンブラック被覆タルクは、原料のタルクとほぼ同等な粒度分布および平均粒径を有するものであった。
なお、得られたカーボンブラック被覆タルクを光学顕微鏡を用いて400倍で観察したところ、タルクの表面がカーボンブラックによって均一に被覆されていることが確認できた。
【0036】
(製造例2−カーボンブラック被覆タルク(カーボン10%被覆タルク)の製造)
液の滴下装置、還流冷却器、攪拌器および外部加熱装置を有する反応器に、イソプロパノール400部、テトラエトキシシラン213.7部、水35部、製造例1で得たカーボンブラック分散液(A)246部を順次仕込み、室温下で10分間攪拌して、均一な分散液とした。次いで、タルク160部を仕込み、室温下で30分攪拌した後、ジエタノールアミン35.2部をイソプロパノール150部に溶解させた溶液を10分間かけて滴下した。室温下で10分間攪拌した後、外部加熱で80℃に昇温し、同温度で60分間保った。その後、80℃の温水530部を30分間かけて滴下し、滴下後、さらに30分間攪拌して反応を終了させた。反応物を冷却した後、固形物を濾別し、イソプロパノール、水で洗浄することにより、溶媒、分散剤、触媒を取り除き、その後、120℃で乾燥して、粉体であるカーボンブラック被覆タルクを得た。
【0037】
得られたカーボンブラック被覆タルクの実際の収量は248部であった。他方、カーボンブラック全量とテトラエトキシシラン全量が転化したシリカとによって全てのタルク表面が被覆されたときの理論収量は246.2部であるから、実際の収量と理論収量とはほぼ同等であり、上記反応収率はほぼ100%とみなせる。また、得られたカーボンブラック被覆タルクを構成する成分組成は、理論上、タルク65.0%、カーボンブラック10.0%、シリカ25.0%である。
得られたカーボンブラック被覆タルクを衝撃式粉砕機にて10秒間粉砕したところ、粉砕後の粉体の粒径は0.5〜10μmの間に分布し、平均粒径は4.1μmであった。つまり、得られたカーボンブラック被覆タルクは、原料のタルクとほぼ同等な粒度分布および平均粒径を有するものであった。
なお、得られたカーボンブラック被覆タルクを光学顕微鏡を用いて400倍で観察したところ、タルクの表面がカーボンブラックによって均一に被覆されていることが確認できた。
【0038】
(製造例3−カーボンブラック被覆タルク(カーボン15%被覆タルク)の製造)
液の滴下装置、還流冷却器、攪拌器および外部加熱装置を有する反応器に、イソプロパノール400部、テトラエトキシシラン231.5部、水60部、製造例1で得たカーボンブラック分散液(A)400部を順次仕込み、室温下で10分間攪拌して、均一な分散液とした。次いで、タルク160部を仕込み、室温下で30分攪拌した後、ジエタノールアミン35.2部をイソプロパノール150部に溶解させた溶液を10分間かけて滴下した。室温下で10分間攪拌した後、外部加熱で80℃に昇温し、同温度で60分間保った。その後、80℃の温水640部を30分間かけて滴下し、滴下後、さらに30分間攪拌して反応を終了させた。反応物を冷却した後、固形物を濾別し、イソプロパノール、水で洗浄することにより、溶媒、分散剤、触媒を取り除き、その後、120℃で乾燥して、粉体であるカーボンブラック被覆タルクを得た。
【0039】
得られたカーボンブラック被覆タルクの実際の収量は268部であった。他方、カーボンブラック全量とテトラエトキシシラン全量が転化したシリカとによって全てのタルク表面が被覆されたときの理論収量は266.7部であるから、実際の収量と理論収量とはほぼ同等であり、上記反応収率はほぼ100%とみなせる。また、得られたカーボンブラック被覆タルクを構成する成分組成は、理論上、タルク60.0%、カーボンブラック15.0%、シリカ25.0%である。
得られたカーボンブラック被覆タルクを衝撃式粉砕機にて10秒間粉砕したところ、粉砕後の粉体の粒径は0.5〜10μmの間に分布し、平均粒径は4.25μmであった。つまり、得られたカーボンブラック被覆タルクは、原料のタルクとほぼ同等な粒度分布および平均粒径を有するものであった。
なお、得られたカーボンブラック被覆タルクを光学顕微鏡を用いて400倍で観察したところ、タルクの表面がカーボンブラックによって均一に被覆されていることが確認できた。
【0040】
(実施例1および比較例1)
ポリプロピレンに着色剤であるカーボンブラック(三菱化学製「カーボンブラック♯30」)を加えることにより得られた着色ポリプロピレン、製造例1で得られたカーボンブラック被覆タルク(カーボン5%被覆タルク)、および一般タルク(林化成(株)製「ミクロンホワイト♯5000S」)を、表1に示す配合割合で混合し、得られた混合物を二軸混練機により190〜230℃で5〜15分間混練して、オレフィン系重合体組成物を得た。そして、このオレフィン系重合体組成物を射出成形して、自動車内装用革シボ付き黒色樹脂成形物(名刺サイズ、板厚2mm、シボ深さ100%)を作成した。なお、着色ポリプロピレンを得る際に着色剤として用いたカーボンブラックの使用量は、ポリプロピレン、カーボンブラック被覆タルク、および一般タルクの合計100部に対して2部とした。
【0041】
得られた各樹脂成形物について、下記の方法で受傷時の傷の目立ちにくさを評価した。結果を表1に示す。
<受傷時の傷の目立ちにくさ>
得られた樹脂成形物を試験片とし、これに以下の試験条件にて直線状の傷をつけた後、傷部分の色の濃淡をグレースケール(JIS−L0804)を用いて目視で判定した。グレースケールは、1級〜5級の5段階からなり、数字が大きい級ほど色が濃い(黒に近い)ことを意味する。なお、例えば、2級よりは濃く、3級よりは薄い場合には「2級−3級」と示した。
試験機名:全自動クロスカット膜剥離試験機((株)上島製作所製「AD−1120S」)
試験荷重:175g
先端形状:針状
試験速度:500mm/min
線の間隔:0.75mm
線の本数:22本
【0042】
【表1】

【0043】
得られた各樹脂成形物の一般的物性値について、それぞれ表2に示す試験規格および試験条件に従い測定した。なお、MFRの測定は、成形前のオレフィン系重合体組成物を用いて行なった。結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表1および表2に示される結果から、充填材としてカーボンブラック被覆タルクを使用した実施例1のオレフィン系重合体組成物の成形物は、一般タルクを使用した比較例1のオレフィン系重合体組成物の成形物に比べ、傷部分の色が濃く、傷が目立たないことが明らかであり、しかも、比較例1の重合体組成物を用いて得られた成形物と同等の一般物性を発現することが明らかである。
【0046】
(実施例2〜4および比較例2)
製造例1で得られたカーボンブラック被覆タルク(カーボン5%被覆タルク)に代えて、製造例2で得られたカーボンブラック被覆タルク(カーボン10%被覆タルク)を用い、配合割合を表3に示す通りとしたこと以外、実施例1と同様にして、オレフィン系重合体組成物および自動車内装用革シボ付き黒色樹脂成形物を得、それらについて、実施例1と同様にして、受傷時の傷の目立ちにくさの評価と一般的物性値の測定を行なった。それらの結果を表3および表4に示す。なお、表4においては、試験規格および試験条件を省いたが、各項目とも表2と同様である。
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
表3および表4に示される結果から、充填材としてカーボンブラック被覆タルクを使用した実施例2〜4のオレフィン系重合体組成物の成形物は、一般タルクを使用した比較例2のオレフィン系重合体組成物の成形物に比べ、傷部分の色が濃く、傷が目立たないことが明らかであり、しかも、比較例2の重合体組成物を用いて得られた成形物と同等の一般物性を発現することが明らかである。
【0050】
(実施例5〜7および比較例3)
製造例1で得られたカーボンブラック被覆タルク(カーボン5%被覆タルク)に代えて、製造例3で得られたカーボンブラック被覆タルク(カーボン15%被覆タルク)を用い、配合割合を表5に示す通りとしたこと以外、実施例1と同様にして、オレフィン系重合体組成物および自動車内装用革シボ付き黒色樹脂成形物を得、それらについて、実施例1と同様にして、受傷時の傷の目立ちにくさの評価と一般的物性値の測定を行なった。それらの結果を表5および表6に示す。なお、表6においては、試験規格および試験条件を省いたが、各項目とも表2と同様である。
【0051】
【表5】

【0052】
【表6】

【0053】
表5および表6に示される結果から、充填材としてカーボンブラック被覆タルクを使用した実施例5〜7のオレフィン系重合体組成物の成形物は、一般タルクを使用した比較例3のオレフィン系重合体組成物の成形物に比べ、傷部分の色が濃く、傷が目立たないことが明らかであり、しかも、比較例3の重合体組成物を用いて得られた成形物と同等の一般物性を発現することが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系重合体に、着色剤で被覆された着色剤被覆タルクが充填材として配合されてなることを特徴とするオレフィン系重合体組成物。
【請求項2】
前記着色剤が、前記オレフィン系重合体と同系統の色相を発現する着色剤である、請求項1に記載のオレフィン系重合体組成物。
【請求項3】
前記着色剤がカーボンブラックである、請求項1または2に記載のオレフィン系重合体組成物。
【請求項4】
前記オレフィン系重合体が、ポリプロピレン、ポリエチレン、プロピレンとエチレンとの共重合体、またはそれらのポリマーアロイである、請求項1〜3のいずれかに記載のオレフィン系重合体組成物。
【請求項5】
前記着色剤被覆タルクは、着色剤を含有するシリカゲルが化学的な結合を介してタルク表面を被覆したものである、請求項1〜4のいずれかに記載のオレフィン系重合体組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のオレフィン系重合体組成物を含む成形材料を成形して得られることを特徴とする樹脂成形物。

【公開番号】特開2010−202682(P2010−202682A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46501(P2009−46501)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(504105737)林化成株式会社 (4)
【出願人】(591075467)冨士色素株式会社 (24)
【Fターム(参考)】