説明

オーディオ装置

【課題】歪みが少ない音質重視のモードと、歪みが多くても大音量が得られる音圧重視のモードを両立することが可能なオーディオ装置を提供する。
【解決手段】音量レベル設定手段を有する操作部と、音声信号を入力する入力部104と、設定された音量レベルに応じて入力信号を一次信号に増幅する第一の可変利得増幅部を有するボリューム部201と、一次信号のピークレベルを検出する検出部202と、ピークレベルから算出される歪みレベルおよび音量レベルに基づいて出力レベルを選択するテーブルを有する演算部203と、出力レベルに基づいて一次信号を制限し二次信号とする第二の可変利得増幅部を有する増幅部204と、二次信号を出力する出力部106と、を備える。演算部203は、音量レベルが大きい第一の値のときは出力レベルを制限せず、音量レベルが第一の値より小さい第二の値のときは出力レベルを制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオ装置に関し、特に、出力信号の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
入力信号をボリュームによって増幅する機能を備え、電源電圧よりも出力値が大きくなる場合には、出力値に制限をかけ、歪みの発生を抑制するオーディオ装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、入力信号レベル検出部で検出した入力信号の信号レベルに応じて可変利得増幅部の増幅利得を可変制御するようにした信号処理回路において、オーディオ装置の音量調節部の音量設定レベルに対応させた複数の入出力特性テーブルを備えた利得算出部と、オーディオ装置の音量調節部の設定音量に応じて利得算出部内の対応する入出力特性テーブルを選択するテーブル選択部とを設け、テーブル選択部で選択された入出力特性テーブルを用いて、入力信号レベル検出部で検出された入力信号の信号レベルに対応する増幅利得を求め、可変利得増幅部の増幅利得を該値に可変制御する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−75367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された技術では、音が歪んでも大音量の音声を聞きたいというユーザの要望に応えることができないといった問題点があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、歪みが少ない音質重視のモードと、歪みが多くても大音量が得られる音圧重視のモードを両立することが可能なオーディオ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のオーディオ装置は、音量レベル設定手段を有する操作部と、信号を入力する入力部と、設定された音量レベルに応じて入力信号を一次信号に増幅する第一の可変利得増幅部と、一次信号のピークレベルを検出する検出部と、ピークレベルおよび音量レベルに基づいて利得を決定する演算部と、利得に基づいて一次信号を増幅し二次信号とする第二の可変利得増幅部と、二次信号を出力する出力部と、を備える。演算部は、音量レベルが大きい第一の値のときは利得を制限せず、音量レベルが第一の値より小さい第二の値のときは利得を制限する。
【0008】
このような構成によれば、音量レベルが大きいときは、音量レベルに応じた音声が出力される。一方、音量レベルが小さいときは、歪みが小さい音声が出力される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、歪みが少ない音質重視のモードと、歪みが多くても大音量が得られる音圧重視のモードを両立することが可能なオーディオ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施の形態におけるオーディオ装置の機能的構成を示すブロック図
【図2】同信号処理部の機能的構成を詳細に表したブロック図
【図3】同ピークレベルを検出する際の信号波形処理過程を示す図
【図4】同音声信号の入力レベルと出力レベルとの関係を示す図
【図5】本実施の形態におけるテーブルの一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施の形態)
[1.オーディオ装置100の概要]
[1−1.オーディオ装置100の構成]
図1は、本実施の形態におけるオーディオ装置100であるドックスピーカの機能的構成を示すブロック図である。オーディオ装置100は、外部音源(図示せず)または内部音源(図示せず)から供給される音声信号(例えば楽曲データ)を再生するための装置である。
【0012】
本実施の形態に限らず、オーディオ装置100は、携帯型音響再生装置であってもよい。また、いわゆるミニコンポーネントステレオ再生装置のような据え置き型の装置であってもよい。再生対象の音声信号のフォーマットは、従来から知られるどのようなフォーマットであってもよい。
【0013】
内部音源は、ハードディスクドライブ、不揮発メモリ、RAM(Random Access Memory)、CD(Compact Disk)ドライブ、DVD(Digital Versatile Disk)ドライブあるいは、BDドライブなどで構成される。また、外部音源は、例えば、CDプレーヤ、DVDプレーヤ、BDプレーヤ、カセットデッキ、あるいは、ネットワーク経由で転送される音声信号をリアルタイムで再生するストリーム再生装置など、オーディオ装置100の外部から音声信号を供給する装置で構成される。オーディオ装置100に供給される音源は、外部音源または内部音源のいずれか一方であってよい。
【0014】
操作部101は、利用者の指示を入力するためのユーザインターフェイスである。操作部101は、利用者の操作により再生音量の調整を行う音量レベル設定手段であるボリュームキーを有する。すなわち、利用者は、ボリュームキーを操作することにより、音量レベルであるボリューム値を設定できる。また、ボリュームキーは、ロータリーエンコーダ、マイクロスイッチなどで構成される。
【0015】
制御部102は、表示部103と信号処理部105とを制御する。制御部102は、図示しない制御手段(CPU:Central Processor Unit)、メモリ(RAM、ROM:Read Only Memory)などを有する。
【0016】
表示部103は、利用者が視認できるように、オーディオ装置100の状態などの情報を出力する。表示部103は、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイなどの表示装置を有する。
【0017】
入力部104は、外部音源または内部音源から供給される音声信号を入力信号としてオーディオ装置100に取り込むためのインターフェイスである。入力部104は、HDMI(High Definition Multimedia Interface)端子、光デジタル音声入力端子、アナログピンジャックなどを有する。
【0018】
信号処理部105は、音声信号を増幅し出力部106に出力する。なお、信号処理部105の詳細は、後に説明される。
【0019】
出力部106は、増幅された音声信号を放音する。出力部106は、スピーカ、ヘッドフォンまたはイヤホンなど、電気による音声信号を機械による振動に変える変換器であればどのようなものでもよい。
【0020】
[1−2.オーディオ装置100の動作]
利用者が設定したボリューム値に基づいて、入力信号を増幅し、音声信号を出力する動作について説明する。まず、操作部101は、利用者により設定されたボリューム値を制御部102に送る。次に、制御部102は、表示部103を制御して、ボリューム値を表示部103で表示させる。また、入力部104より入力された音声信号は、信号処理部105により増幅され出力部106に送られる。ここで制御部102は、ボリューム値に応じて信号処理部105で増幅される音声信号の増幅率を制御する。増幅された音声信号は、ボリューム値に応じた音量で、出力部106から放音される。
【0021】
[2.信号処理部105の詳細]
図2は、信号処理部105の機能的構成を詳細に表したブロック図である。信号処理部105は、ボリューム部201と、検出部202と、演算部203と、増幅部204とを有する。図1と同じ構成には、同符号を付し、説明を適宜省略する。
【0022】
ボリューム部201は、入力信号を一次信号に増幅するための第一の可変利得増幅部を有する。ボリューム部201は、入力された音声信号を、制御部102により設定されたボリューム値に応じた利得で増幅することにより、一次信号とする。さらに、ボリューム部201は、一次信号を検出部202と、増幅部204とに送る。
【0023】
検出部202は、ボリューム部201により増幅された一次信号のピークレベルを検出する。図3A、図3Bおよび図3Cは、ピークレベルを検出する際の信号波形処理過程を示す一例である。なお、図3A、図3Bおよび図3Cにおいて、縦軸は信号強度を表し、横軸は時間を表す。ここで、一次信号のピークレベルを検出するために、以下の処理が行われる。まず、図3Aに示すように、一次信号の波形が検出される。次に、図3Bに示すように、一次信号の波形が半波整流される。次に、図3Cに示すように一次信号がローパスフィルタにかけられ、平滑化され、ピークレベルが検出される。最後に、検出部202は、ピークレベルを演算部203に送る。
【0024】
演算部203は、ROMなどのメモリに格納されたテーブルと、照合手段と、選択手段とを有する。演算部203は、ピークレベルと基準となる利得から基準出力レベルを算出する。算出された基準出力レベルからさらに算出される歪みと設定されたボリューム値とをテーブルと照合する。歪みを表す仕様として、全高調波歪み率(THD:Total Harmonic Distortion)が知られている。全高調波ひずみは以下の式で定義される。
【0025】
THD = 歪み成分電圧 / 基本波電圧 × 100 [%]
図5は、本実施の形態におけるテーブルの一例である。利用者が設定するボリューム値は、0から20までである。
【0026】
図5に示すように、ボリューム値が小さいとき(0から10)は、許容される全高調波歪み率は、小さい(0.1%)。すなわち、全高調波歪み率が0.1%を超えないように、出力レベルが制限される。ボリューム値が大きくなると(10から16)、許容される全高調波歪み率も大きくなる(3%から7%)。すなわち、全高調波歪み率が、ボリューム値から決定される許容値を超えないように、出力レベルが制限される。さらに、ボリューム値が大きくなると(18から20)、許容される全高調波歪み率に制限はなくなる。この場合、出力レベルは制限されない。さらに、演算部203は、出力レベルが制限されない場合は基準となる利得を、出力レベルが制限される場合は、許容される全高調波歪み率とピークレベルによって算出される利得を、増幅部204に送る。
【0027】
増幅部204は、一次信号を増幅し二次信号とする第二の可変利得増幅部を有する。すなわち、増幅部204は、一次信号を演算部203によって算出された利得に応じて増幅することにより二次信号とする。
【0028】
図4は、本実施の形態における音声信号の入力レベルと出力レベルとの関係を示す図である。図4において、電源非飽和領域とは電源電圧により信号がクリッピングせず、入力レベルに対して出力レベルが線形性を示す領域を表わし、電源飽和領域とは電源電圧により信号がクリッピングし、入力レベルに対して出力レベルが非線形性を示す領域を表わす。電源飽和領域においては、出力レベルが増大するにつれて全高調波歪み率が悪化する。
図4に示すように、ボリューム値が小さいとき(例えばボリューム値:4)には、出力レベルは入力レベルに応じて線形に上昇する。しかし、出力レベルに制限がかかる値(許容全高調波歪み率:0.1%)を超えないように、出力レベルは制限される。この場合、電源非飽和領域のみが使用されるため、信号はクリッピングせず、歪みが小さい。
【0029】
ボリューム値が大きいとき(例えばボリューム値:14)には、出力レベルは入力レベルに応じて線形に上昇する。しかし、電源電圧以上の飽和領域においては、信号がクリッピングを生じるため出力レベルは入力レベルに対して非線形に上昇するが、出力レベルに制限がかかる値(許容全高調波歪み率:5%)を超えないように、出力レベルは制限される。この場合、電源電圧を超える非飽和領域も使用されるが、全高調波歪み率は許容値を超えない。
【0030】
さらにボリューム値が大きいとき(例えばボリューム値:20)には、出力レベルは入力レベルに応じて線形に上昇する。また、電源電圧以上の飽和領域においても、許容全高調波歪み率の制限が無いので、入力レベルが上昇するのに伴い、出力レベルも非線形に上昇する。この場合、全高調波歪み率は出力レベルが大きくなるにしたがって増大する。
【0031】
すなわち、図4において、ボリューム値が大きいことは、傾きが大きいことである。言い換えると、ボリューム値が小さいときには、入力レベルの上昇に応じて出力レベルが線形に上昇する領域が大きい。一方、ボリューム値が大きいときには、入力レベルの上昇に応じて出力レベルが線形に上昇する領域は小さくなる。
【0032】
最後に、増幅部204は、二次信号を出力部106に送る。
【0033】
以上の動作により、本実施の形態のオーディオ装置は、ボリューム値が小さい場合には、クリッピングが防止される事により、音質が維持される。つまり、音量を増加させる事より音質を維持する事が優先される。一方、ボリューム値が大きい場合には、音質は落ちるが音量を大きくする。つまり、音質を維持する事よりも音量を維持する事が優先される。
【0034】
[3.まとめ]
本実施の形態におけるオーディオ装置100は、音量レベル設定手段を有する操作部101と、音声信号を入力する入力部104と、設定された音量レベルに応じて入力信号を一次信号に増幅する第一の可変利得増幅部を有するボリューム部201と、一次信号のピークレベルを検出する検出部202と、ピークレベルおよび音量レベルに基づいて利得を選択するテーブルを有する演算部203と、利得に基づいて一次信号を増幅し二次信号とする第二の可変利得増幅部を有する増幅部204と、二次信号を出力する出力部106と、を備える。演算部203は、音量レベルが大きい第一の値のときは利得を制限せず、音量レベルが第一の値より小さい第二の値のときは利得を制限する。
【0035】
このような構成によれば、音量レベルが大きいときは、音量レベルに応じた音声が出力される。一方、音量レベルが小さいときは、歪みが小さい音声が出力される。
【0036】
よって、歪みが少ない音質重視のモードと、歪みが多くても大音量が得られる音圧重視のモードを両立することが可能になる。
【0037】
[4.その他の実施の形態]
上述のように、本発明の実施の形態が例示された。しかし、本発明は、これには限られない。そこで本発明の他の実施の形態が、以下にまとめて説明される。なお、本発明は、これらには限定されず、適宜修正された他の実施の形態に対しても適用可能である。
【0038】
実施の形態では、ピークレベルおよび音量レベルに基づいて利得を選択するテーブルを有する演算部203が示された。しかし、本発明はこれには限られない。演算部203は、ピークレベルと音量レベルをパラメータとして、利得を算出する関数を備えてもよい。
【0039】
また、実施の形態では、ピークレベルおよび音量レベルに基づいて利得を選択する例が示された。しかし、本発明は、これには限られない。電源電圧レベルと音量レベルに基づいて出力レベルを決定してもよい。また、利得の決定のために、関数またはテーブルを用いることもできる。このような構成によっても、音量レベルが大きいときは、音量レベルに応じた音声が出力される。一方、音量レベルが小さいときは、歪みが小さい音声が出力される。
【0040】
よって、歪みが少ない音質重視のモードと、歪みが多くても大音量が得られる音圧重視のモードを両立することが可能になる。
【0041】
さらに、実施の形態では、ドックスピーカがオーディオ装置100として示された。しかし本発明はこれには限られない。映像表示機能を備えた携帯型DVDプレーヤ、携帯型BDプレーヤ、携帯電話などにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、歪みが少ない音質重視のモードと、歪みが多くても大音量が得られる音圧重視のモードを両立するオーディオ装置を提供できる。したがって、本発明は、音声出力機能を有するAV(Audio Visual)機器などに広く有用である。
【符号の説明】
【0043】
100 オーディオ装置
101 操作部
102 制御部
103 表示部
104 入力部
105 信号処理部
106 出力部
201 ボリューム部
202 検出部
203 演算部
204 増幅部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音量レベル設定手段を有する操作部と、
信号を入力する入力部と、
設定された音量レベルに応じて入力信号を一次信号に増幅する第一の可変利得増幅部と、
前記一次信号のピークレベルを検出する検出部と、
前記ピークレベルおよび前記音量レベルに基づいて利得を決定する演算部と、
前記利得に基づいて前記一次信号を増幅し二次信号とする第二の可変利得増幅部と、
二次信号を出力する出力部と、を備え、
前記演算部は、前記音量レベルが大きい第一の値のときは前記利得を制限せず、前記音量レベルが前記第一の値より小さい第二の値のときは前記利得を制限する、
オーディオ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のオーディオ装置であって、
前記演算部は、前期ピークレベルおよび前記音量レベルに基づいて歪みを算出し、さらに前記歪みに基づいて利得を算出する、
オーディオ装置。
【請求項3】
請求項1に記載のオーディオ装置であって、
前記演算部は、前期ピークレベルおよび前記音量レベルに基づいて歪みを算出し、さらに前記歪みに基づいて利得を選択するテーブルを有する、
オーディオ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−160811(P2012−160811A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17543(P2011−17543)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】