説明

オートタキシンの精製方法

【課題】 診断薬、治療薬、機能解析等に必要な自然体(native form)のオートタキシンをそのリゾホスホリパーゼD活性を失うことなく、高純度、高回収率で取得できる方法を提供すること。
【解決の手段】 試料に含まれるオートタキシンを抗オートタキシン抗体に結合させ、前記抗体に結合しなかった不純物を洗浄分離後、前記抗体に結合したオートタキシンを溶出させる方法で、オートタキシンを精製する際、オートタキシンの溶出にpH=4.5以上の緩衝液を用いることで前記課題を解決することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオートタキシン濃度を定量する体外診断薬もしくはリゾホスホリパーゼD活性測定を実施する体外診断薬に用いる既知濃度標準物質となるオートタキシンまたはオートタキシンに対する抗体作製や動物への感作により抗体を誘導するための抗原となるオートタキシンを、その酵素活性であるリゾホスホリパーゼD活性を損なうことなく、簡便かつ高純度に精製する方法ならびに材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトオートタキシンは、1992年M.L.StrackeらによってA2058ヒト黒色腫細胞培養培地から細胞運動性を惹起する物質として単離された分子量約125KDaの糖蛋白質である(非特許文献1)。オートタキシンはそのリゾホスホリパーゼD活性によりリゾホスファチジルコリンを基質としリゾホスファチジン酸(LPA)を産生する。生体内ではLPAが癌の増殖、転移に関与していることが多くの研究者により示され(非特許文献2から4)、その産生酵素であるオートタキシンと様々な疾病との因果関係が研究されている。最近になり、ヒトオートタキシンを定量する手法が確立され(特許文献1、非特許文献5)、濾胞性リンパ腫でオートタキシン濃度の上昇が明らかとなり診断マーカーとして期待されている(特許文献1、非特許文献6)。
【0003】
体外診断マーカーにおいては、患者検体を定量する際に既知濃度オートタキシン標準物質が必須である。また、オートタキシンと癌との因果関係より、オートタキシンを標的とした分子標的薬等の研究が試みられており、これら医薬品開発においても、抗体作製のためや機能解析のための高純度なオートタキシンは必須である。純度の高いオートタキシンを取得するためには、DEAE基を有するイオン交換カラムやPhenyl基を有する疎水カラム、あるいはブルー色素を有する群特異的汎用カラムクロマトグラフィーにより精製が行なわれている(非特許文献7および8)。しかし、これら汎用クロマトグラフィーでの精製純度は必ずしも十分でなく、また回収率も著しく低い。
【0004】
簡便かつ、高純度なオートタキシンを高回収率で得る方法として、オートタキシン抗原特異的なプローブを用いた精製が知られている。例えば、組換えヒトオートタキシンであれば蛋白質発現時に適当な精製用タグ(例えば、ポリヒスチジンタグ、mycタグ、FLAGタグといった汎用のタグ)を付加した状態で発現を行なえば、前記精製用タグを用いた精製が可能である。しかしながら、前記精製方法は不純物の非特異的結合を完全に排除することはできないこと、溶出用試薬が高価なことから必ずしも実用的ではない。また、取得できるオートタキシンは精製用タグが付加された蛋白質として回収されるため生体内オートタキシンと同等品を得るためには、その後の精製用タグの切断除去操作、およびタグを除去したオートタキシンの精製操作を必要とする等煩雑であり回収量低下はさけられない。
【0005】
オートタキシンを精製する別の方法としては、オートタキシンに対する抗体(抗オートタキシン抗体)を用いたアフィニティー精製法である。本方法は特別な精製用タグを必要とせず、多くの蛋白質を高純度、高回収率で取得することができる。しかしながら、抗体をアガロースや磁性微粒子等の担体に結合させてアフィニティー精製を実施する際、最終的に担体上の抗体に結合したオートタキシンを溶出させなければならない。溶出には、pH=3.5付近の酸性溶液での溶出、KSCN等のカオトロピックイオン溶液での溶出、グアニジンや尿素等の変成剤での溶出、温和な条件での溶出が可能な市販の溶出緩衝液(例えば、Gentle Elution Buffer(PIERCE社製))での溶出等があげられるが、これらいずれの溶出においても、オートタキシンが有するリゾホスホリパーゼD活性が失活する問題があった。現在、高純度なオートタキシンをそのリゾホスホリパーゼD活性を失うことなく取得する方法については知られてなく、簡便かつ高回収率でリゾホスホリパーゼD活性を有した自然体(native form)のオートタキシンを取得する方法が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2008/016186号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Biol.Chem.、256、2524−2529、1992
【非特許文献2】Nat.Rev.Cancer、3、582−591、2003
【非特許文献3】Int.J.Cancer、10.109、833−838、2004
【非特許文献4】Blood、106、2138−2146、2005
【非特許文献5】Clin.Chim.Acta、388、51−58、2008
【非特許文献6】Br.J.Haematl.、143、60−70、2008
【非特許文献7】J.Cell Biol.、158、227−233、2002
【非特許文献8】J.Biol.Chem.、277、39436−39442、2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
各種疾患において血液中、組織中のオートタキシン濃度が変動することが報告されることから、血液中等の濃度測定による体外診断さらには癌等の治療薬開発において高純度かつリゾホスホリパーゼD活性を有した自然体(native form)のヒトオートタキシンを取得する方法が望まれている。しかしながら、前述したように、汎用カラムでの精製や、精製用タグを付加した精製ではリゾホスホリパーゼD活性を失うことなくオートタキシンを高純度、高回収率で取得することは困難であった。また、抗オートタキシン抗体を用いた精製であっても、溶出工程時にオートタキシンの有するリゾホスホリパーゼD活性を失うことなく溶出することはできなかったため、リゾホスホリパーゼD活性を失うことなくオートタキシンを高純度、高回収率で取得することは困難であった。
【0009】
そこで本発明の課題は、診断薬、治療薬、機能解析等に必要な自然体(native form)のオートタキシンをそのリゾホスホリパーゼD活性を失うことなく、高純度、高回収率で取得できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を鑑みてなされた本発明は、以下の発明を包含する。
【0011】
第一の発明は、抗オートタキシン抗体を用いたオートタキシンの精製方法であって、前記抗体に結合したオートタキシンを溶出させる際、pH=4.5以上の緩衝液で溶出させることを特徴とする、オートタキシンの精製方法である。
【0012】
第二の発明は、前記抗オートタキシン抗体が、配列番号7のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と配列番号8のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有した抗体である、第一の発明に記載の精製方法である。
【0013】
第三の発明は、前記緩衝液が多価カルボン酸緩衝液である、第一または第二の発明に記載の精製方法である。
【0014】
第四の発明は、前記多価カルボン酸がクエン酸または酒石酸である、第三の発明に記載の精製方法である。
【0015】
なお、第一から第四の発明に記載の方法で得られたオートタキシンも本発明に含まれる。
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
本発明は、試料に含まれるオートタキシン(ATX)を抗オートタキシン(抗ATX)抗体に結合させ、前記抗体に結合しなかった不純物を洗浄分離後、前記抗体に結合したATXを溶出させることで、ATXを精製する方法において、ATXを溶出させる際に温和な条件、具体的にはpH=4.5以上の緩衝液を用いて溶出させることを特徴とする。
【0018】
本発明の精製方法における、精製対象試料としては、ヒトATXを含んだヒト組織、またはヒト全血やヒト血清といったヒト体液を試料として用いることもできる。しかしながら、診断薬、治療薬、機能解析等に用いるためのATXの取得を目的とする場合は、大量にATXを取得する必要があるため、遺伝子組み換え技術により得られた、ATXを大量に発現可能な細胞を培養した培養液を試料とするのが好ましい。前記ATXを発現可能な細胞を調製するには、公知の遺伝子情報(例えば、GenBank No.L46720)を基に、cDNAライブラリーからATX遺伝子を取得後(必要に応じてポリヒスチジンタグ等の精製用タグを付加してもよい)、大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等から選択した適切な細胞に対して形質転換を行なうことで調製することができる(特許文献1)。
【0019】
本発明における抗ATX抗体とは、ATXを特異的に認識する抗体の中から適宜選択することが可能であるが、精製したATXを診断薬や治療薬等に適用させることを考慮すると、リゾホスホリパーゼD活性を有した自然体(native form)のATXを特異的に認識する抗体を用いるのが好ましい。なお、前記自然体のATXを特異的に認識する抗体は特許文献1の方法にて取得することが可能である。また、pH=3.5付近でATXを精製するとATXの有する酵素活性(リゾホスホリパーゼD活性)が失われることから、pH=4.5以上、好ましくはpH=5.0以上の緩衝液で、結合したATXの溶出が可能な抗体が好ましい。前記好ましい抗体の一例として、配列番号7のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と配列番号8のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有した抗体があげられる。
【0020】
本発明における溶出させる際に用いる緩衝液としては、pH=4.5以上の領域で緩衝作用を有する緩衝液の中から適宜選択すればよく、グリシン緩衝液、クエン酸緩衝液、酒石酸緩衝液等を例示できる。中でもクエン酸緩衝液や酒石酸緩衝液といった多価カルボン酸緩衝液が好ましく、特にクエン酸緩衝液が好ましい。
【0021】
本発明の方法を用いてATXを精製する際、抗ATX抗体を容易に回収できる点や抗ATX抗体を効率的に利用できる点で、担体に固定した抗ATX抗体を用いて精製するのが好ましい。前記担体としては、抗ATX抗体にATXを結合させるときまたは抗ATX抗体からATXを溶出させるときに使用する緩衝液に対して不溶性であり、抗ATX抗体を固定させても抗ATX抗体が有するATX認識性能が失われない担体の中から適宜選択すればよく、クロマトグラフィー用担体として通常用いられるアガロース、セルロース、デキストラン、キトサン、ビニルポリマー、シリカ等が例示できる。前記担体を用いたATX精製方法の一態様として、ATXを含む試料を、抗ATX抗体を固定させた担体を充填したカラムにロードして、ATXを抗ATX抗体に結合させ、リン酸緩衝液等適切な緩衝液で前記抗体に結合しない不純物をカラムから除去した後、pH=4.5以上の緩衝液で前記抗体に結合したATXを溶出する精製方法があげられる。前記担体を用いたATX精製方法の別の態様としては、磁性微粒子を配合した担体に抗ATX抗体を結合させたものに対しATXを含む試料を添加後、B(Bound)/F(Free)分離により前記抗体に結合しない不純物の除去を行ない、pH=4.5以上の緩衝液で前記抗体に結合したATXを溶出する精製方法があげられる。なお、本発明のATX精製方法は、pH=4.5以上の温和な条件でATXを溶出させるが、pH=4.5のグリシン緩衝液中に30分以上放置するとATXの有する酵素活性(リゾホスホリパーゼD活性)が低下する(実施例1および図2参照)ことから、ATXを溶出させた後、ATX溶出液に対し1/10容量程度の1M Tris−HCl(pH=8.0)の緩衝液等を速やかに加えることで溶出液を中和させるのが好ましい。前記中和させたATX溶出液は、その後、適切な緩衝液で透析することにより酵素活性を有した高純度ATXを得ることができる。
【0022】
本発明の精製方法で得られた本発明のATXは、高純度、かつ自然体(native form)のATXが有する酵素活性(リゾホスホリパーゼD活性)を保持しているため、ATX濃度測定試薬やATX活性測定試薬で用いる既知濃度標準品、ATXを標的とした分子標的治療薬開発のための抗原、また前記分子標的治療薬の薬効解析のための体内濃度測定試薬用抗原、抗オートタキシン抗体誘導のためのワクチン抗原等へ利用することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、抗オートタキシン抗体(抗ATX抗体)を用いたオートタキシン(ATX)の精製方法において、前記抗体に結合したATXを溶出させる際、pH=4.5以上の緩衝液で溶出させることを特徴としている。本発明の精製方法により、特別な精製用タグを付加することなく、自然体(native form)のATXを、その酵素活性(リゾホスホリパーゼD活性)を保持したまま、簡便、高純度に精製することができる。
【0024】
特に、抗ATX抗体として、配列番号7のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と配列番号8のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有した抗体を用いることにより、自然体のATXを、その酵素活性を保持したまま、簡便、高純度かつ大量に得ることができる。
【0025】
なお、本発明の精製方法で得られた本発明のATXは、酵素活性を保持しており、また高純度であることから、診断薬、治療薬、機能解析等の用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ポリヒスチジンタグを付加した精製ヒトオートタキシン(ATX−his)をpH=2.5で30分間(左下の白丸)、またはpH=3.5で30分間(中央の白丸)処理したときの、リゾホスホリパーゼD(lysoPLD)活性(横軸)とオートタキシン(ATX)濃度(縦軸)との関係図。なお、オートタキシン(ATX)濃度は非特許文献5に記載の酵素免疫測定方法により測定した。
【図2】精製ATX−hisをpHの異なるグリシン緩衝液で処理したときの、各処理時間における残存活性を調べた図。TBSで処理した試料をコントロールとし、残存活性は前記コントロール試料未処理(0分)時のATX濃度測定値を100%として計算している。
【図3】担体に各種抗ATXモノクローナル抗体を結合させたカラムを用いて、ATX−his試料を精製したときの、溶出パターンを示した図。なお、点線はpHに相当する電気伝導度を示しており、縦軸は非特許文献5に記載の酵素免疫測定方法により測定した、活性を有するATX濃度を示している。
【図4】担体に各種抗ATXモノクローナル抗体を結合させたカラムを用いて、ATX−his試料を精製したときの、溶出パターンを示した図。なお、縦軸はELISA法により測定した、活性を失ったATX濃度を示している。
【図5】担体に各種抗ATXモノクローナル抗体を結合させたカラムを用いて精製したATX−hisを、SDS−PAGEにて純度確認した結果の図。染色はCBB(Coomassie Brilliant Blue)で行なっている。
【図6】担体に各種抗ATXモノクローナル抗体を結合させたカラムを用いて精製したATX−hisの比活性を比較した図。なお比活性は、非特許文献5に記載の酵素免疫測定方法により測定した活性を有するATX濃度を、SDS−PAGE(図5)の105kDaに位置するバンド強度より測定した全ATX濃度で除した値である。
【図7】各種抗ATXモノクローナル抗体にATXを結合させ、その後pH=2.5から5.0のグリシン緩衝液(100mM)で前記ATXを溶出した際の、ATXの解離率を示した図。
【図8】各種抗ATXモノクローナル抗体にATXを結合させ、その後pH=4.0から7.0のクエン酸緩衝液(100mM)で前記ATXを溶出した際の、ATXの解離率を示した図。
【図9】抗ATXモノクローナル抗体(R10.7)にATXを結合させ、その後1mM EDTA溶液またはpH=5.0のクエン酸緩衝液(100mM)で前記ATXを溶出した際の、ATXの解離率を示した図。
【図10】各種抗ATXモノクローナル抗体にATXを結合させ、その後pH=5.0の各種緩衝液(100mM)で前記ATXを溶出した際の、ATXの解離率を示した図。
【図11】各種抗ATXモノクローナル抗体にATXを結合させ、その後pH=3.5から6.0の酒石酸緩衝液(100mM)で前記ATXを溶出した際の、ATXの解離率を示した図。
【図12】抗ATXモノクローナル抗体(R10.7)にATXを結合させ、その後20から100mMのクエン酸緩衝液(pH=5.0)で前記ATXを溶出した際の、ATXの解離率を示した図。
【図13】担体に抗ATXモノクローナル抗体(R10.7)を結合させたカラムを用いて、ATX試料を精製したときの、溶出パターンを示した図。なお、点線はpHに相当する電気伝導度を示しており、縦軸は吸光度(OD280)を示している。また、1、2および3は回収したフラクション領域を示す。
【図14】実施例10にて、担体に抗ATXモノクローナル抗体(R10.7)を結合させたカラムを用いて、ATX−his試料を精製したときの、各回収フラクション中およびカラム通過フラクション中のATX量を示した図。
【図15】実施例10にて、担体に抗ATXモノクローナル抗体(R10.7)を結合させたカラムを用いて、ATX−his試料を精製したときの、各回収フラクションおよびカラム通過フラクションのSDS−PAGE結果(A)ならびに抗ATX抗体(R1.1A8)によるウェスタンブロティング結果(B)を示した図。レーンF1、F2およびF3は図13における各回収フラクションを、レーンPはカラム通過フラクションをそれぞれ表す。
【図16】実施例11にて、担体に抗ATXモノクローナル抗体(R10.7またはR10.23)を結合させたカラムを用いて、ATX試料を精製したときの、溶出パターンを示した図。
【図17】実施例11にて、担体に抗ATXモノクローナル抗体(R10.7またはR10.23)を結合させたカラムを用いて、ATX試料を精製したときの、回収フラクションのSDS−PAGE結果を示した図。なお、ロード量は、濃度が吸光度(OD280)で0.1Absの試料を7μL/レーンである。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
実施例1 オートタキシン(ATX)のpH安定性
オートタキシン(ATX)のpH安定性の検証を実施した。
(1−1)特許文献1に記載の方法に従って構築したバキュロウイルス−昆虫細胞系で発現させたヒトATX(25.3μg/mL)を含むTBS(10mM Tris−HCl、150mM NaCl、pH7.4)溶液を、TBS、100mM グリシン緩衝液(pH=3.5)または100mM グリシン緩衝液(pH=2.5)でそれぞれ10倍希釈後、室温にて30分放置し、TBSにて透析を実施した。
(1−2)各試料中のATX濃度を非特許文献5に記載の酵素免疫測定方法を用いてATX抗原量から測定し、リゾホスホリパーゼD活性を非特許文献8に記載の方法に従い測定した。
【0029】
結果、図1に示す通り、各試料中における酵素免疫測定方法によるATX濃度の測定値はリゾホスホリパーゼD活性値と良好な相関関係を示し、非特許文献5に記載の酵素免疫測定方法がリゾホスホリパーゼD活性(以下、単に酵素活性とする)を有するATXのみを定量していることが明らかとなった。そこで、非特許文献5に記載の酵素免疫測定方法を用い、ATXのpH安定性を検証した。
(2−1)ヒトATX(25.3μg/mL)を含むTBS(10mM Tris−HCl、150mM NaCl、pH=7.4)溶液を、TBSまたは100mM グリシン緩衝液(pH=4.5、pH=4.0、pH=3.5、pH=3.0またはpH2.5)に1/10容量添加し、混合した。
(2−2)一定時間ごとに混合試料を回収し、1/10容量の1M Tris−HCl(pH=8.0)の添加により速やかに中和した後、ATX除去ウシ血清にて10倍希釈し、非特許文献5に記載の酵素免疫測定方法にてリゾホスホリパーゼD活性を有するATXを測定した。TBSを添加した試料の添加0分後の測定値を100%残存活性とし、他の試料の測定値から残存活性を算出した。
【0030】
結果を図2に示す。100mM グリシン緩衝液(pH=4.5)を混合したときは、30分後であっても残存活性は100%を示したが、pH=4.5より酸性条件では活性の低下が著しく、特にpH=3.5より酸性条件では混合後5分でATXの酵素活性は失われることがわかる。従って、実際の精製作業としてpH=3.5より酸性条件での処理は好ましくないことがわかる。また、pH=4.0であっても混合後10分で活性の低下が認められたことから、好ましくはpH=4.5以上、かつ中和操作まで30分以内で精製作業を完了するのが必須であることが明らかとなった。
【0031】
実施例2 抗体結合カラムを用いたATX精製(その1)
特許文献1に記載の方法に従って取得した抗ATXモノクローナル抗体(約50種)から予備評価により選定した、7種類のモノクローナル抗体を用いてATXを精製した。
(1)抗ATXモノクローナル抗体R10.4、R10.7、R10.9、R10.12、R10.16、R10.21、R10.23をそれぞれプロテインGカラムにて精製後、プロトコールに従い1mL容量のHiTrap NHS−activated HP(GEヘルスケアバイオサイエンス社)カラムにそれぞれ5mgのモノクローナル抗体を結合させたものを作製した。
(2)ポリヒスチジンタグを付加したヒトATX(ATX−his)試料を下記に示す方法で調製した。
(2−1)特許文献1およびプロトコールに従い、Bac−to−Bacバキュロウイルス発現システム(Invitrogen社)を用い、ATX−his発現ウイルスを調製した。
(2−2)1.5×10cells/mLのSf9細胞液500mLにATX−his発現ウイルスを添加後、5日間培養し、上清を回収した。
(2−3)回収した上清は、AKTAprime plus(GEヘルスケアサイエンス社)を用い、5mL容量のHiTrap Blue HPカラム(GEヘルスケアサイエンス社)にて濃縮を行なった。具体的には、10mM Tris−HCl(pH=8.0)にて平衡化したHiTrap Blueカラムに(2−2)の培養上清をロードした後、さらに10mM Tris−HCl(pH=8.0)にて十分洗浄後、1M NaClを含む10mM Tris−HCl(pH=8.0)にてATX−hisを溶出した。なお、ATXの検出は溶出フラクションを非特許文献5に記載の方法で測定することで行なった。
(2−4)得られた約20mLのATX−his濃縮試料を回収後、TBS(10mM Tris−HCl、150mM NaCl(pH7.4))にて透析を行ない、これをATX−his試料とした。
(3)AKTAprime plus(GEヘルスケアサイエンス社)と(1)で作製した抗体結合カラムを用いて、(2)で調製したATX−his試料の精製を下記に示す方法で行なった。
(3−1)(2)で調製したATX−his試料5mLを(1)で作製した抗体結合カラムにロードした後、充分TBSで洗浄した。
(3−2)100mMクエン酸緩衝液を用い、pH=5.0からpH=3.5までのリニアグラジエントにより結合したATX−hisを溶出した。なお溶出フラクションは、あらかじめ1/10容量の1M Tris−HCl(pH=8.0)を添加したチューブに回収されるため、速やかに中和される環境となっている。各フラクションは非特許文献5に記載の酵素免疫測定方法にて活性を有するATX濃度の算出を行なった。
(3−3)一方、溶出フラクション中の変性ATX−hisの検出をELISA法により行なった。具体的には、溶出フラクションをTBSにて10倍希釈後、96穴マイクロタイタープレートに50μL/ウェルで添加し、4℃にて一昼夜コーティングを行なった。TBSにて洗浄後、3%の牛血清アルブミンを含むTBSにてブロッキングし、西洋ワサビペルオキシダーゼで標識した、変性ATXを強く認識するモノクローナル抗体R1.1A8(1μg/mL)を添加し2時間反応させた。その後、TBSで洗浄し、TMB基質(KPL社)を添加後、15分反応させた。1Mリン酸により反応を停止し、450nmの吸光度を測定した。
【0032】
溶出パターンを図3に示す。カラムに結合したモノクローナル抗体の種類により様々な溶出パターンを示した。非特許文献5に記載の酵素免疫測定方法により算出した、酵素活性を有するATX−his濃度が最大値を示すフラクションのpHはそれぞれ、pH=4.20(R10.4)、pH=4.83(R10.7)、pH=4.46(R10.9)、pH=3.93(R10.12)、pH=2.50(R10.16)、pH=3.51(R10.21)、pH=4.04(R10.23)であり、R10.7結合カラムが最も温和な条件でATXを溶出できることがわかる。さらに、R10.7結合カラムの溶出パターンを確認すると、溶出ピークもシャープであることから、R10.7結合カラムは、結合したATX−his全てを溶出するpHも、他の抗体結合カラムと比較し温和な条件であることが予想される。
【0033】
一方、ELISA法の結果を図4に示す。R10.7結合カラムを用いて得られた溶出フラクションのうち、活性を有するATX−hisを多く含むフラクション(4から11mLのフラクション)をELISA法で測定した結果、反応性が非常に弱いことが明らかとなった。一方、R10.12結合カラムやR10.21結合カラムを用いて得られた溶出フラクションのうち、活性を有するATX−hisを多く含むフラクションをELISA法で測定した結果、強い反応性を示していた。以上の結果より、図3に示すATXの有する酵素活性と図4に示すELISA法の結果とは相関しないこと、およびATX−hisが酸性側で溶出させるとATXの有する酵素活性が失われることがわかる。
【0034】
各抗体結合カラムを用いて得られた溶出フラクションのうち、ATX濃度が5μg/mL以上を示したフラクションを回収し、速やかにTBSにて透析後、Amicon Ultra(Millipore社)(分画分子量:10000)で1mLになるまで遠心濃縮を行なった。前記濃縮試料を、非特許文献5に記載の酵素免疫測定方法にて活性を有するATX−hisを定量し、SDS−PAGEにてATX−his絶対量(活性を有するATX−his量+活性を失ったATX−his量)を分析した。酵素免疫測定試薬による活性を有するATX−hisの定量の結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

R10.7結合カラムおよびR10.9結合カラムを用いたとき、活性を有するATX−hisの回収率が高いことがわかる。また、SDS−PAGE結果を図5に示すが、いずれの抗体結合カラムを用いてもATX−hisを高純度に精製していることがわかる。なお、図5において、R10.21による精製ATXが少ない理由は、R10.21が強酸性側で溶出されるためATXの有する酵素活性を指標にしたフラクション回収時の損失が非常に大きかったとものと考えられる。
【0036】
SDS−PAGEのうち、ATX−hisに相当するバンドをChemistage CC−16(倉敷紡績社)にてスキャン後、Labo−1Dソフトウェア(倉敷紡績社)にてバンドのシグナル強度(OD)を測定した。その結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

表1で示される活性を有するATX−his量と、表2で示されるATX−his絶対量とから計算した、精製ATX−his中の活性を有するATX−hisの割合(比活性)を図6に示す。R10.7結合カラムを用いたATX精製が、回収率が高く、比活性も高いことが分かる。
【0038】
実施例3 モノクローナル抗体の解離定数測定
実施例2で使用した抗ATXモノクローナル抗体の解離定数をBIACORE T100(GEヘルスケアバイオサイエンス社)を用いて測定し、ATX溶出pHと比較した。
【0039】
CM5チップに対し抗ATX抗体をアミン結合させたもの(以下、単に抗体結合チップとする)を用意し、ATXをリガンドとして相互作用解析を実施し、BIAevaluationソフト(GEヘルスケアバイオサイエンス社)のBinding解析によりK(結合速度定数)、K(解離速度定数)、K(解離定数)をそれぞれ算出した。結果を表3に示す。
【0040】
【表3】

各抗体結合チップを用いたときの、活性を有するATX濃度が最大値を示すフラクションのpH(実施例2)と、結合した抗体のK(解離定数)(表3)の間には相関性は認められなかった。また、最も温和な条件で溶出可能なR10.7が他の抗体と比較し、K、K、Kに大きな違いはなかった。以上より、抗体の解離、結合能とATXを溶出するpHとの間には相関性がないことがわかる。
【0041】
実施例4 pHとATX解離率との関係(グリシン緩衝液)
実施例3で調製した抗体結合チップとpHが異なるグリシン緩衝液とを用い、抗体−ATX間の解離解析をBIACORE T100(GEヘルスケアバイオサイエンス社)にて実施した。
【0042】
抗体結合チップにATXを結合させた後、pHの異なる100mMグリシン緩衝液を流速30μL/分で30秒間流すことによりATX解離率を測定した。結果を図7に示す。
【0043】
R10.7では、pH=5.0においても約20%の解離が認められるものの、他の抗体ではpH=5.0での解離がほとんど認められず、pH=4.5であっても10%以下の解離率であった。よって、R10.7以外はpH=4.5以上の温和な条件ではグリシン緩衝液でATXが溶出されないことがわかった。
【0044】
実施例5 pHとATX解離率との関係(クエン酸緩衝液)
実施例3で調製した抗体結合チップとpHが異なる100mMクエン酸緩衝液とを用い、実施例4と同様の方法で抗体−ATX間の解離解析を実施した。結果を図8に示す。
【0045】
グリシン緩衝液での溶出(実施例4)と異なり、pH=4.5以上の温和な条件下におけるATXの溶出が、R10.4、R10.7、R10.9の3抗体で認められた。前記3抗体を使用したときのpHによる解離率の変化を確認したところ、R10.4では酸性が強いほど解離率が上昇するのに対し、R10.7およびR10.9ではpH=5.0で解離率の極大を示した。なお、R10.7ではpH=5.0のクエン酸緩衝液を使用したときの解離率は100%であった。
【0046】
実施例6 EDTAを用いたときのATX解離
実施例5の結果において、抗体−ATX間の解離がクエン酸のキレート作用によるものかを確認するため、1mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸)溶液を用い実施例4と同様の実験を行なった(なお、抗体はR10.7を使用している)。結果を図9に示す。
【0047】
1mM EDTA溶液による解離が認められなかったことから、実施例4と5との違いが、クエン酸のキレート作用によるものではないことが明らかとなった。
【0048】
実施例7 緩衝液組成とATX解離率との関係
実施例4から6の結果より、抗体−ATX間の解離がpHのみに依存するものではなく、緩衝液組成にも依存する可能性が示唆されたため、pHが同一で組成が異なる緩衝液を用いて、実施例4と同様の方法で抗体−ATX間の解離解析を実施した。なお、緩衝液は100mM酢酸緩衝液(pH=5.0)、100mMコハク酸緩衝液(pH=5.0)、100mM酒石酸緩衝液(pH=5.0)、および100mMクエン酸緩衝液(pH=5.0)を使用し、抗体は実施例5で100mMクエン酸緩衝液(pH=5.0)でATXの溶出が確認された3抗体(R10.4、R10.7、R10.9)を使用した。結果を図10に示す。
【0049】
クエン酸緩衝液および酒石酸緩衝液を使用したとき、抗体からのATXの解離が認められ、特にクエン酸緩衝液を使用したとき最も高いATX解離率を示した。なお、解離率はR10.7、R10.9、R10.4の順であった。
【0050】
実施例8 pHとATX解離率との関係(酒石酸緩衝液)
実施例7の結果より、酒石酸緩衝液を使用してもATXの解離が確認されたため、実施例3で調製した抗体結合チップとpHが異なる100mM酒石酸緩衝液とを用い、実施例4と同様の方法で抗体−ATX間の解離解析を実施した。なお、抗体は実施例7で100mM酒石酸緩衝液(pH=5.0)でATXの溶出が確認された3抗体(R10.4、R10.7、R10.9)を使用した。結果を図11に示す。
【0051】
R10.7では、pH=4.5およびpH=5.0において約60%の解離が認められるものの、R10.4およびR10.9では解離率が10から20%と極めて低かった。よって、R10.7以外はpH=4.5以上の温和な条件では酒石酸緩衝液で溶出されないことがわかった。
【0052】
実施例9 溶出液中のクエン酸濃度とATX解離率との関係
実施例3で調製したR10.7結合チップと濃度が異なるクエン酸緩衝液(pH=5.0)とを用い、実施例4と同様の方法で抗体−ATX間の解離解析を実施した。結果を図12に示す。
【0053】
クエン酸濃度の低下に伴い解離率は低下し、クエン酸濃度60mM以下では解離率50%を下回り有効な解離が認められないことがわかった。よって、ATX精製で使用する溶出液のクエン酸濃度は70mM以上が必要であることが明らかとなった。
【0054】
実施例10 抗体結合カラムを用いたATX精製(その2)
R10.7結合カラムを用いATX−hisの精製を実施した。
(1)プロトコールに従い、5mL容量のHiTrap NHS−activated HP(GEヘルスケアバイオサイエンス社)カラムに25mgのR10.7モノクローナル抗体を結合させて、R10.7結合カラムを作製した。
(2)実施例2の(2)と同様の方法で、HiTrap Blue HPカラムを用い、約20mLのATX−his濃縮試料を調製した。
(3)AKTAprime plusと(1)で作製したR10.7結合カラムを用いて、(2)で調製したATX−his濃縮試料を以下に示す方法で精製を行なった。
(3−1)TBS透析を施したATX−his試料をR10.7結合カラムにロードした後、充分TBSで洗浄した。
(3−2)100mMクエン酸緩衝液を用い、pH=5.0からpH=3.5までのリニアグラジエントにより、結合したATX−hisを溶出した。
(4)溶出フラクションのうち、8から32mLのフラクション(以下、フラクション1)、32から48mLのフラクション(以下、フラクション2)、48から72mLのフラクション(以下、フラクション3)をそれぞれ回収後、TBSで透析した。
(5)透析後の各フラクション中の、活性を有するATX濃度を非特許文献5に記載の酵素免疫測定方法により決定した。また、透析後の各フラクションを、SDS−PAGEによりタンパク純度の確認を行ない、ATXのN末端側を認識する抗ATX抗体(R1.1A8)を用いたウェスタンブロッティングにより精製タンパクがATXであるかの確認を行なった。
【0055】
溶出パターンを図13に示す。R10.7結合カラムに結合したタンパク質は溶出開始後速やかに溶出された。フラクション1中の、活性を有するATX濃度から、ATX−his回収率を計算したところ約90%と非常に良好であった(図14)。
【0056】
フラクション1から3についてSDS−PAGEを行なった結果、フラクション1において100kDa付近に単一のバンドを確認し、R10.7結合カラムにより非常に高純度にタンパクを精製できることがわかった(図15(A)のF1参照)。さらに、ウエスタンブロッティングの結果、フラクション1における前記バンドが確かにATXであることが判明した(図15(B)のF1参照)。一方、R10.7結合カラム通過フラクションについてSDS−PAGEおよびウェスタンブロッティングを行なったところ、通過フラクションには低分子化した分解ATXが含まれていることが明らかとなった(図15(A)および(B)のP参照)。よって、R10.7結合カラムによるATX精製は、完全長ATXを取得するのに効果的であることを示している。
【0057】
実施例11 抗体結合カラムを用いたATX精製(その3)
精製用タグを有さないヒトATX試料ならびに、R10.7結合カラムおよびR10.23結合カラムを用いヒトATXの精製を行なった。
(1)実施例2と同様な方法で精製用タグを有しないヒトATX試料を調製した。
(2)(1)で調製したヒトATX試料をR10.7結合カラムまたはR10.23結合カラムにロードした後、充分TBSで洗浄した。
(3)100mMクエン酸緩衝液をpH=5.0からpH=3.5のリニアグラジエントにより結合したヒトATXを溶出した。
(4)溶出フラクションのうち、タンパクの溶出が確認されたフラクション(R10.7結合カラム:8から36mLまでのフラクション、R10.23結合カラム:8から56mLまでのフラクション)を回収後、速やかに透析した。
(5)ロードしたヒトATX試料、抗体結合カラム通過フラクション、(4)で回収したフラクションについて、それぞれ非特許文献5に記載の酵素免疫測定方法により、活性を有するATX濃度を定量し、回収率を算出した。
【0058】
溶出パターンを図16に示す。R10.7結合カラムでは溶出開始後速やかに溶出された。一方、R10.23結合カラムの溶出パターンはR10.7に比較し酸性側であった。R10.7結合カラムおよびR10.23結合カラムを用いて精製したとき回収フラクションの積分値(OD280×容量)を計算したところ、それぞれ210(R10.7)および207(R10.23)であることから、回収した蛋白質の総量はほぼ同量であることがわかる。
【0059】
ロードしたヒトATX試料、抗体結合カラム通過フラクション、回収フラクション中の、活性を有するATX濃度を定量し回収率を算出した結果を表4に示す。
【0060】
【表4】

R10.7結合カラムおよびR10.23結合カラムを用いたときの、それぞれの回収フラクション中のタンパク量は、積分値から同程度回収できているにも関わらず、活性を有するヒトATXの回収率は、R10.7結合カラムを用いたときが88.5%、R10.23結合カラムを用いたときが33.6%と大きく異なり、R10.7結合カラムを用いた精製方法が、酵素活性を失うことなく、高回収率にてヒトATXを精製可能な方法であることがわかる。また、回収フラクション中のタンパク純度をSDS−PAGEにて確認したところ、いずれの抗体結合カラムを用いたときも高純度なタンパク精製が可能であることがわかった(図17参照)。以上より、本発明の精製方法により、ポリヒスチジンといった精製用タグを有しない、天然体ヒトATXの精製が可能であることがわかる。
【0061】
実施例12 R10.7の配列分析
抗ATXモノクローナル抗体R10.7の塩基配列を以下の方法で決定した。
(1−1)重鎖遺伝子の増幅は、RNeasy Miniキット(QIAGEN社)にてtotal RNAを回収した後、One−step RT−PCRキット(QIAGEN社)を使用しプロトコールに従い実施した。PCRプライマーは、5’−ggagcccagtcctggac−3’(配列番号1、GenBank No.L22652の1から17番目の塩基に相当)および5’−gtcacggtgactggctca−3’(配列番号2、GenBank No.L22652の588から605番目の塩基の相補鎖に相当)を用いた。
(1−2)PCR産物をABI PRISM 310(アプライドバイオシステムズ社)にてシークエンスし塩基配列を決定した。シークエンスプライマーは5’−ggagcccagtcctggac−3’(配列番号1)および5’−gtcacggtgactggctca−3’(配列番号2)を用いた。
(2−1)軽鎖遺伝子の増幅は、重鎖と同様に回収したtotal RNAを鋳型として、One−step RT−PCRキット(QIAGEN社)を使用しプロトコールに従い実施した。PCRプライマーは、5’−tgacacagtctcca−3’(配列番号3、GenBank No.BC088255の82から95番目の塩基に相当)および5’−tggatggtgggaagat−3’(配列番号4、GenBank No.BC088255の420から435番目の塩基の相補鎖に相当)を用いた。
(2−2)PCR産物を、重鎖と同様にシークエンスし塩基配列を決定した。シークエンスプライマーは5’−tgacacagtctcca−3’(配列番号3)および5’−tggatggtgggaagat−3’(配列番号4)を用いた。
【0062】
前述の方法で得られた、重鎖可変領域の塩基配列を配列番号5に、軽鎖可変領域の塩基配列を配列番号6にそれぞれ示す。また、前記塩基配列より決定される重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列を配列番号7および8にそれぞれ示す。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の技術は高純度オートタキシンを必要とする産業分野で利用可能である。例えば、オートタキシン濃度測定試薬やオートタキシン活性測定試薬で用いる既知濃度標準品、オートタキシンを標的とした分子標的治療薬開発のための抗原、また前記分子標的治療薬の薬効解析のための体内濃度測定試薬用抗原、抗オートタキシン抗体誘導のためのワクチン抗原等への利用が考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗オートタキシン抗体を用いたオートタキシンの精製方法であって、前記抗体に結合したオートタキシンを溶出させる際、pH=4.5以上の緩衝液で溶出させることを特徴とする、オートタキシンの精製方法。
【請求項2】
前記抗オートタキシン抗体が、配列番号7のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と配列番号8のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有した抗体である、請求項1に記載の精製方法。
【請求項3】
前記緩衝液が多価カルボン酸緩衝液である、請求項1または2に記載の精製方法。
【請求項4】
前記多価カルボン酸がクエン酸または酒石酸である、請求項3に記載の精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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