説明

カスポファンギン製剤

本発明は真菌感染症の予防及び/又は治療に有用な活性成分として医薬的に許容可能なカスポファンギン塩を含有する医薬組成物に関する。前記組成物は更に特定増量剤を含有しており、付加的pH調整剤を少量含有するか又は全く含有せず、液体又は固体形態とすることができ、例えば凍結乾燥組成物とすることができる。前記組成物は良好な安定性に加え、凍結乾燥製剤から再構成された溶液中に形成される肉眼では見えない粒状物質量の低減を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真菌感染症及び/又は前記感染症に起因する病態の予防及び/又は治療に有用な医薬活性成分を含有する医薬組成物に関する。より詳細には、本発明は活性成分としての化合物カスポファンギンと、特定増量剤を含有しており、付加的pH調整剤を少量含有するか又は全く含有せず、液体又は固体組成物、例えば凍結乾燥組成物である組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の組成物は有効な抗真菌剤及び抗原虫剤として知られる式I:
【0003】
【化1】

の化合物であるカスポファンギン遊離塩基を医薬活性成分として含有する。エキノカンジン系に属するアザシクロヘキサペプチド化合物であるカスポファンギンはCAS登録番号162808−62−0と、CAS名1−[(4R,5S)−5−[(2−アミノエチル)アミノ]−N−(10,12−ジメチル−1−オキソテトラデシル)−4−ヒドロキシ−L−オルニチン]−5−[(3R)−3−ヒドロキシ−L−オルニチン]ニューモカンジンBを割当てられている(Merck Indexオンライン,2001−2005年版,Merck & Co.,Inc.,Whitehouse Station,NJ,USA編)。カスポファンギンは例えばヨーロッパ特許EP 0 904 098 B1に記載されているようにカスポファンギン二酢酸等の各種の医薬的に許容可能な塩として存在する。カスポファンギンとその製造方法は例えばWO94/21677とEP 620232に記載されており、これらの文献は特にカスポファンギンが多数の他のアザシクロヘキサペプチド化合物とその医薬的に許容可能な塩(例えば塩酸、硫酸、クエン酸又は他の酸付加塩)のうちで真菌感染症の抑制に特に有用であることを開示している。カスポファンギン(トリス)トリフルオロ酢酸塩とその(トリス)塩酸塩が記載されている。WO96/24613はカスポファンギン及び特にカスポファンギン二酢酸塩の他の製造方法を開示している。カスポファンギンはアスペルギルス種(Aspergillus sp.)、ヒストプラズマ種(Histoplasma sp.)、コクシジオイデス種(Coccidioides sp.)、ブラストミセス種(Blastomyces sp.)及び/又はカンジダ種(Candida sp.)等の糸状菌及び酵母類により誘発される感染症の予防及び/又は治療と、ニューモシスチス・ジロヴェチ(Pneumocystis jiroveci)(旧分類ニューモシスチス・カリニ:Pneumocystis carinii)により誘発される肺炎等の感染症の予防及び/又は抑制及び/又は治療に有効である。カスポファンギンは非経口投与することができ、例えば凍結乾燥又は液体製剤である組成物の使用により静脈内投与することができる。
【0004】
ヨーロッパ特許EP 0 904 098 B1又は米国特許US5,952,300はカスポファンギンと、25mMから50mMの付加的酢酸緩衝液と、増量剤(例えばスクロース及び/又はマンニトール又はその混合物)を含有する凍結乾燥製剤を開示している。前記製剤は酒石酸緩衝液に代えて酢酸緩衝液を使用するため、化学的安定性が高いと述べられている。酢酸緩衝液に代えることにより、分解物が少なくなり、安定性が増し、保存期間の長い凍結乾燥製剤が得られると報告されている。しかし、非経口用、特に静脈内投与用最終製剤とするための凍結乾燥用液体製剤を製造するには2段階のpH調整段階が必要であり、時間と細心の注意を要する。
【0005】
更に、例えばパントプラゾール注射用製剤についてWO02/41919 A1に記載されているように、例えば注射用水、生理食塩水、5%グルコース水溶液等のキャリヤー溶液でこのような凍結乾燥医薬組成物を再構成すると、肉眼で見える粒子及び/又は肉眼では見えない粒子が溶液中に形成される場合があると報告されている。滅菌固体、例えば凍結乾燥固体から再構成した溶液等の注射溶液は目視検査で観測可能な粒子を実質的に含まないようにするのが一般的である。患者への安全性のために、このような注射溶液は肉眼では見えない粒子数が少ないことも望ましい。このような粒子は例えば凍結乾燥製剤を充填したバイアルのガラスに由来する外来粒子の可能性がある。このような肉眼では見えない粒子は例えば再構成した製剤を静脈内投与する患者に塞栓症の危険を増す恐れがある。例えばWO02/41919 A1でパントプラゾール製剤について記載され、US6,900,184 B2でピペラシリンとタゾバクタムを含有する組成物について記載されているような従来の非経口投与用医薬製剤、例えば再構成用凍結乾燥固体又はインスタント液体製剤では粒子形成を減らすためにエチレンジアミン四酢酸(EDTA)又はそのナトリウム塩を一般に使用することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】EP 0 904 098 B1
【特許文献2】WO94/21677
【特許文献3】EP 620232
【特許文献4】WO96/24613
【特許文献5】US5,952,300
【特許文献6】WO02/41919 A1
【特許文献7】US6,900,184 B2
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Merck Indexオンライン,2001−2005年版,Merck & Co.,Inc.,Whitehouse Station,NJ,USA編。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
EDTA又は同類物質を添加しなくても患者への安全性を増すように肉眼では見えない粒子数の少ないカスポファンギンを含有する液体又は凍結乾燥組成物を提供することが望ましい。更に、このような組成物は安定性が良好で保存期間が長く、簡単で迅速な方法により製造できることが望ましい。
【0009】
更に、別のカスポファンギン塩を提案し、カスポファンギンの代替塩形態の使用可能性を当業者に提示することも望ましい。前記新規塩は安定であり、大規模製造が可能であり、カスポファンギン塩を含有する医薬組成物の製造時に取り扱い易いことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、医薬的に許容可能なカスポファンギン塩と、凍結乾燥ケーキを形成するのに適した増量剤等の医薬的に許容可能な賦形剤を含有する医薬組成物がごく少量のpH調整剤の存在下、更には付加的pH調整剤又は緩衝液の実質的不在下、例えば付加的酢酸緩衝液又は緩衝剤として知られる他の物質及び/又は緩衝能をもつ他の物質を添加しなくても意外にも安定であることを今回意外にも見出した。
【0011】
本発明者らは、安定な製剤を得るためにはごく少量のpH調整剤を添加すれば十分であり、例えば前記カスポファンギン塩の0.3モル当量未満の量の酢酸を添加すれば十分であることを見出した。本発明者らは更に、医薬的に許容可能なカスポファンギン塩、例えばカスポファンギン二酢酸を使用するならば、安定な製剤を得るためにpH調整剤を添加する必要もないことを見出した。
【0012】
更に、本発明者らは、本発明の組成物を凍結乾燥後に溶媒で再構成すると、EDTA又は同類化合物の不在下にも拘わらず、肉眼では見えない粒子数が有意に減少することも発見した。更に意外なことに、本発明の組成物はEDTAナトリウムを添加した組成物に比較して粒子数が減少した。
【0013】
従って、本発明は、
a)医薬的に許容可能なカスポファンギン塩と、
b)前記カスポファンギン塩の0.3モル当量未満の量の付加的pH調整剤と、
c)凍結乾燥ケーキを形成するために有効な医薬的に許容可能な量の賦形剤、好ましくは増量剤を含有する医薬組成物を提供する。
【0014】
好ましくは、医薬的に許容可能なカスポファンギン塩はカスポファンギン二酢酸であり、増量剤は好ましくは1種類以上の増量剤(本明細書では増量用糖類とも言う)、好ましくはマンニトール、スクロース又はその組み合わせから構成される。
【0015】
本発明の別の態様では、本発明の組成物は付加的pH調整剤を実質的に含有しない。
【0016】
更に、本発明は上記のような本発明の医薬組成物の凍結乾燥により取得可能な凍結乾燥粉末を提供する。この凍結乾燥粉末は非経口投与用、好ましくは静脈内投与用液体組成物を形成するために再構成するのに適している。更に、本発明は前記凍結乾燥粉末を水溶液、好ましくは場合によりメチルパラベン及び/又はプロピルパラベン及び/又は0.9%ベンジルアルコールを添加した蒸留及び/又は滅菌注射用水、静菌性注射用水、あるいは標準食塩水ないし生理食塩水、例えば0.9%塩化ナトリウム溶液、又は0.45%もしくは0.225%塩化ナトリウム溶液、又はリンゲル液及び/又は乳酸リンゲル液で再構成することにより取得可能な医薬組成物を提供する。
【0017】
本発明は更に、哺乳動物、好ましくはヒトで真菌感染症あるいはカンジダ種及び/又はアスペルギルス種及び/又はニューモシスチス・ジロヴェチにより誘発される病態の予防及び/又は治療用医薬、好ましくは静脈内医薬の製造用としての本発明の組成物の使用を提供する。
【0018】
本発明は更に医薬的に許容可能なカスポファンギン塩を含有する医薬組成物の製造方法を提供し、本方法は、
1)増量剤又は増量剤の組み合わせを水に溶解させる段階と、
2)段階1)で得られた溶液に医薬的に許容可能なカスポファンギン塩を加え、溶解させる段階と、
3)前記カスポファンギン塩の0.3モル当量未満の量の付加的pH調整剤を添加する段階と、
4)段階3)で得られた溶液を濾過する段階と、
5)段階4)で得られた溶液を凍結させる段階と、
6)凍結させた溶液を凍結乾燥する段階を含む。
【0019】
別の態様では、本発明は段階3)を含まない上記方法により、医薬的に許容可能なカスポファンギン塩を含有する医薬組成物を製造するための方法を提供する。
【0020】
更に、本発明は上記方法により取得可能な組成物を提供する。
【0021】
本発明の医薬組成物は意外にも安定しており、即ち総不純物数が少なく、別途の実質的量の酢酸又は酢酸緩衝液を含む従来の組成物で認められる数と同等又はそれ以下である。更に、本発明の組成物は酢酸緩衝液を添加した従来の製剤及び/又はEDTAを添加した製剤に比較して肉眼では見えない粒子数が少ない。本発明の組成物は従来技術の方法に比較して簡単な方法で容易に製造できるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例6に記載の方法に従って超純水で再構成後の凍結乾燥組成物1から5の総不純物を示す。超純水とは超純水精製システム、例えばMillipore Gradient A10とUVランプ及び限外濾過から得られる水である。超純水は注射用水USP及びPh.Eur.と同等の性質をもつ。 組成物1は実施例1に従って製造した。この組成物は実質的量の付加的酢酸緩衝液を添加し、EP 0 904 098 B1の実施例1に従って製造した。組成物2は実施例2に従って製造した。凍結乾燥前に少量の酢酸を加えてpHをpH6.0に調整した。組成物3は実施例3に従って製造した。凍結乾燥前に非常に少量の酢酸を加えてpHをpH6.5に調整した。組成物4は実施例4に従って製造した。カスポファンギン二酢酸をマンニトールとスクロースの水溶液に溶解させた。それ以上pH調整は行わなかった。組成物5は実施例5に従って製造した。凍結乾燥前にEDTAナトリウム2水和物を添加し、終濃度0.8mg/mlとした。図1中、Y軸はHPLCにより測定した相対ピーク面積(%)として総不純物を示す。X軸は各凍結乾燥組成物を5℃で指定週数保存したことを示す。
【図2】カスポファンギンアッセイの結果を示す。凍結乾燥組成物をX軸に指定する週数2から8℃で保存後に、図1に定義した組成物1から5を実施例7に記載の方法に従って間接的に測定した。Y軸はアッセイで検出されたカスポファンギンの量を示し、HPLCにより測定した相対ピーク面積(%)として表す。
【図3】図1に定義した組成物1から5のバイアル1本当たりの寸法>10μmの肉眼では見えない粒子量を示す。粒子数は凍結乾燥組成物をX軸に指定する週数約5℃で保存後に実施例11に記載の方法に従って測定した。粒子の測定は凍結乾燥サンプルの再構成直後に実施した。Y軸はバイアル1本当たりの粒子数で表した>10μmの肉眼では見えない粒子数を示す。
【図4】図1に記載した組成物1から5のバイアル1本当たりの寸法>25μmの肉眼では見えない粒子量を示す。粒子数は凍結乾燥組成物をX軸に指定する週数2から8℃で保存後に実施例11に記載の方法に従って測定した。粒子の測定は凍結乾燥サンプルの再構成直後に実施した。Y軸はバイアル1本当たりの粒子数で表した>25μmの肉眼では見えない粒子数を示す。図1から4中、X軸上の0値は分析が凍結乾燥直後に行われたことを意味する。
【図5】実施例17に記載したように製造した結晶質プロピオン酸カスポファンギンのX線粉末回折(XRPD)パターンを示す。
【図6】実施例21に記載したように製造した医薬組成物に含まれる場合の非晶質プロピオン酸カスポファンギンのX線粉末回折(XRPD)パターンを示す。 図5及び6中、横軸はθ/2θ(°)(CuKα線)を示し、縦軸はカウント毎秒(cps)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1実施形態において、本発明の医薬組成物は医薬活性成分としての医薬的に許容可能なカスポファンギン塩と、凍結乾燥ケーキを形成するために適切及び/又は有効な医薬的に許容可能な賦形剤と、前記医薬的に許容可能なカスポファンギン塩の0.3モル当量未満の量、好ましくは0.2モル当量未満、より好ましくは0.1モル当量未満の量の付加的pH調整剤を含有する。
【0024】
別の実施形態において、本発明の医薬組成物は医薬活性成分としての医薬的に許容可能なカスポファンギン塩と、凍結乾燥ケーキを形成するために適切及び/又は有効な医薬的に許容可能な賦形剤を含有しており、前記組成物は付加的pH調整剤を実質的又は完全に含まない。本明細書で使用する「実質的に含まない」又は「完全に含まない」とは、本発明の組成物を形成するために別途量のpH調整剤、例えば酢酸又は酢酸緩衝液を添加しないことを意味するものとする。当然のことながら、本発明の前記医薬組成物は別途添加する緩衝剤も含まない。
【0025】
本明細書で使用する「カスポファンギン」なる用語は式Iの化合物として示すカスポファンギン遊離塩基を意味する。医薬的に許容可能なカスポファンギン塩は例えばEP 0 620 232に記載されている。医薬的に許容可能なカスポファンギン塩は本発明の組成物に含まれる医薬活性成分である。本発明は更にその溶媒和物及び/又は水和物も含む。
【0026】
本明細書で使用する「医薬的に許容可能なカスポファンギン塩」なる用語はカスポファンギンの非毒性塩を意味し、カスポファンギンの遊離塩基を適切な有機酸又は無機酸と反応させることにより一般に製造される一酸、二酸及び三酸形態を含む。酸付加塩及び第四級塩のアニオンを提供する塩として適切な医薬的に許容可能な塩は塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、乳酸、マレイン酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、プロピオン酸、琥珀酸、蓚酸、リンゴ酸、グルタミン酸、パモ酸等の酸から誘導されるものであり、更にBerge S.M.,Bighley L.D.,Monkhouse D.C.:“Pharmaceutical Salts”,Journal of Pharmaceutical Sciences,66(1),1977,pp.1−19に記載の医薬的に許容可能な塩に関連する他の酸と、Strickley R.G.:“Parenteral Formulations of Small Molecules Therapeutics Marketed in the United States(1999)−Part I”;PDA Journal of Pharmaceutical Science & Technology,53(6),1999,324−349に記載の塩形態の対イオンに関連する酸も挙げられる。
【0027】
医薬的に許容可能なカスポファンギン塩は酢酸、クエン酸、酒石酸、プロピオン酸、琥珀酸、蓚酸、リンゴ酸、マレイン酸、乳酸、グルタミン酸又はパモ酸から選択される有機酸との酸付加塩が好ましい。医薬的に許容可能なカスポファンギン塩はカスポファンギン二酢酸塩、プロピオン酸塩又は乳酸塩が最も好ましい。
【0028】
本発明の組成物に含まれる賦形剤は凍結乾燥ケーキを形成するために有効な増量剤が好ましい。本明細書で使用する「凍結乾燥ケーキを形成するために有効な増量剤」なる用語はこの増量剤が製剤又は組成物の嵩を増し、フリーズドライ即ち凍結乾燥後に完全なケーキを生成することを意味するものとする。このような増量剤は更に安定化作用があり、凍結乾燥製剤又は組成物の嵩を更に増すので、安定化剤ないし安定剤と言う場合もある。適切な増量剤としては限定されないが、多価糖アルコール類、例えばグリセリン、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール及びマンニトール等の3価以上のアルコール類;ラクトース、スクロース、トレハロース、デキストロース、デキストラン、ヒドロキシエチル澱粉、フィコールもしくはゼラチン、又はその混合物等が挙げられる。好ましい増量剤はマンニトールとスクロース、又はその混合物である。
【0029】
本発明の組成物は更に別の例えば1種類以上の医薬的に許容可能な賦形剤を添加することができ、このような賦形剤としては、筋肉内、皮下、静脈内、腹腔内又は筋肉内投与用注射用製剤等の非経口投与用組成物に適切であるとして当分野で知られている希釈剤又はキャリヤーが挙げられる。このような賦形剤としては、例えば酸化防止剤、浸透圧調整剤、防腐剤、炭水化物、ロウ、水溶性及び/又は膨潤性ポリマー、親水性又は疎水性材料、ゼラチン、油類、溶媒、水等が挙げられる。
【0030】
適切な溶媒又は希釈剤としては限定されないが、水性溶媒、好ましくは水、例えば場合によりメチルパラベン及び/又はプロピルパラベン及び/又は0.9%ベンジルアルコールを添加した蒸留及び/又は滅菌注射用水、静菌性注射用水、あるいは標準食塩水ないし生理食塩水、例えば0.9%塩化ナトリウム溶液、又は0.45%もしくは0.225%塩化ナトリウム溶液、又はリンゲル液及び/又は乳酸リンゲル液が挙げられる(なお、%は重量百分率である)。これらの溶媒及び/又は希釈剤は凍結乾燥粉末形態の本発明の組成物を再構成するため、及び/又はこれにより得られた再構成溶液を更に希釈するためにも使用することができる。
【0031】
本明細書で使用するpH調整剤なる用語は液体組成物、例えば溶液のpHを医薬的に許容可能なpH値等の所望値、例えば約5から約8、例えば約5から約7.5のpH値に調整するのに適した化合物又は物質を意味するものとする。pH調整剤は緩衝剤又は「緩衝液」又は「緩衝液系」を含むものとする。本明細書で使用する「緩衝剤」、「緩衝液」又は「緩衝液系」なる用語は交換可能であり、液体組成物、例えば溶液のpH値と緩衝液系に固有の特定範囲内に維持するのを助長する1種類以上の医薬的に許容可能な賦形剤を意味するものとする。「医薬的に許容可能な賦形剤」なる用語は非毒性賦形剤を意味するものとする。従って、本発明の組成物に含まれるpH調整剤としては限定されないが、医薬的に許容可能なカスポファンギン塩の形成に関連して本明細書に記載する有機酸又は無機酸(例えば塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、マレイン酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、プロピオン酸、琥珀酸、蓚酸、乳酸、リンゴ酸、グルタミン酸、パモ酸等)、Berge S.M.et al.,1977(上記参照)に記載の医薬的に許容可能な塩に関連する他の酸及びStrickley R.G.,1999(上記参照)に記載の塩形態の対イオンに関連する酸;有機又は無機塩基(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、又は緩衝剤(例えば酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、リン酸塩、琥珀酸塩、アミノ酸等)、又はStrickley R.G.,1999(上記参照)に記載のものが挙げられる。
【0032】
本発明の組成物は組成物が液体組成物である場合、即ち更に例えば水を含有する場合には、好ましくはカスポファンギン塩基として計算したカスポファンギンを約0.1mg/mlから約500mg/ml、例えば約10mg/mlから約200mg/ml、好ましくは約20mg/mlから約60mg/ml、最も好ましくは42mg/mlの濃度で含有する。
【0033】
賦形剤は好ましくは約10mg/mlから約200mg/mlの量、好ましくは約40mg/mlから約60mg/mlの量、より好ましくは約50mg/mlの量で存在する増量剤である。好ましくは、本発明の組成物はマンニトールとスクロースの混合物を含有しており、マンニトールは約10mg/mlから約200mg/ml、好ましくは約10mg/mlから約30mg/ml、最も好ましくは約20mg/mlの量で存在し、スクロースは約10mg/mlから約200mg/ml、好ましくは約20mg/mlから約40mg/ml、最も好ましくは約30mg/mlの量で存在する。上記濃度(mg/ml)は液体形態、即ち更に例えば水を含有する本発明の組成物の濃度である。
【0034】
本発明の組成物の好ましい1実施形態に含まれるpH調整剤は例えば凍結乾燥前のその液体形態における本発明の組成物のpHを約5から約7、好ましくは約5.5から約6.5、より好ましくは約6.0の値に調整するために必要な医薬的に許容可能な量を使用することが好ましい。本発明の組成物を下記のように凍結乾燥する場合には、pH調整剤は凍結乾燥組成物を溶媒、例えば水で再構成後に得られる液体組成物中のpH値を約5から約8、好ましくは約6から約7.5とするために有効な量を使用することが好ましい。本発明の組成物に含まれる好ましいpH調整剤は酢酸又は塩酸である。本発明の前記好ましい実施形態において、組成物は前記医薬的に許容可能なカスポファンギン塩の0.3モル当量未満の量の付加的pH調整剤を含有する。カスポファンギン塩と付加的pH調整剤のモル比は好ましくは2:1を上回り、例えば3:1,を上回り、好ましくは4:1、5:1、8:1又は10:1を上回り、特に25:1を上回る。
【0035】
従って、好ましい1態様では、本発明の医薬組成物は、
a)カスポファンギン塩基として計算したカスポファンギン約0.1mg/mlから約500mg/ml、例えば約10mg/mlから約200mg/ml、好ましくは約20mg/mlから約60mg/ml、より好ましくは約42mg/mlと、
b)約5から約7、好ましくは約5.5から約6.5、より好ましくは約6.0のpH値にするために有効な医薬的に許容可能な量のpH調整剤、好ましくは酢酸と、
c)凍結乾燥ケーキを形成するために有効な増量剤、好ましくは増量剤及び/又は増量用糖類の混合物である賦形剤約10mg/mlから約200mg/ml、好ましくは約40mg/mlから約60mg/ml、より好ましくは約50mg/mlと、
水を含有する。
【0036】
好ましくは、増量用糖類混合物はマンニトール20mg/mlとスクロース30mg/mlの混合物から構成される。
【0037】
好ましくは、本発明の組成物は塩基として計算したカスポファンギン42mg/mlに対応する46.6mg/mlの量のカスポファンギン二酢酸を含有する。カスポファンギン塩と付加的pH調整剤のモル比は好ましくは2:1を上回り、例えば3:1を上回り、好ましくは4:1、5:1、8:1又は10:1を上回り、特に25:1を上回る。
【0038】
別の好ましい実施形態において、本発明の組成物は上記成分a)、c)及び水を含有するが、付加的pH調整剤を実質的又は完全に含まない。
【0039】
上記液体組成物のpH値は約5から約7、好ましくは約5.5から約6.5、より好ましくは約6.0である。
【0040】
上記本発明の医薬組成物、即ちその液体形態、例えば水溶液形態の組成物は好ましくはバイアル1本当たり約1mlから約3ml、より好ましくは約1.25ml又は約1.75mlの量をバイアルに充填する。
【0041】
本発明の上記医薬組成物は凍結乾燥するのに適しており、例えば凍結乾燥粉末を得るために下記方法に従って好ましくは上記バイアル、例えばガラスバイアル内で凍結乾燥することができる。塩基として計算したカスポファンギンと、付加的pH調整剤が存在する場合にはこのようなpH調整剤、好ましくは酢酸と、好ましくはマンニトールとスクロースの混合物である増量剤のmgで表したこのようなバイアル1本内の前記凍結乾燥粉末の好ましい実施形態の組成は上記濃度(mg/ml)に1.25又は1.75を掛けることにより簡単に計算することができる。従って、本発明は更に非経口投与用、好ましくは静脈内投与用液体組成物を形成するために再構成するのに適した上記医薬組成物の凍結乾燥により取得可能な凍結乾燥粉末を提供する。
【0042】
凍結乾燥粉末形態の本発明の医薬組成物の好ましい実施形態は、
i)カスポファンギン塩基52.5mgに対応するカスポファンギン二酢酸58.28mgと、マンニトール約25mgと、スクロース約37.5mgと、更にpH調整用酢酸例えば約0.1mgから1.4mg、好ましくは約0.1mgから約0.7mg;又は
ii)カスポファンギン塩基52.5mgに対応するカスポファンギン二酢酸58.28mgと、マンニトール約25mgと、スクロース約37.5mg;又は
iii)カスポファンギン塩基73.5mgに対応するカスポファンギン二酢酸81.59mgと、マンニトール約43.75mgと、スクロース約52.5mgと、更にpH調整用酢酸例えば約0.16mgから約2mg、好ましくは約0.16mgから約1mg;又は
iv)カスポファンギン塩基73.5mgに対応するカスポファンギン二酢酸81.59mgと、マンニトール約43.75mgと、スクロース約52.5mgを含有しており、好ましくはこれらから構成される。
【0043】
好ましい実施形態i)及びiii)に存在する上記のようなpH調整剤である付加的酢酸は上記凍結乾燥粉末を本明細書に記載するような水性溶媒又は希釈剤約10.5mlで再構成する場合に約5から約8、好ましくは約6から約7.5のpH値を得るために有効な量で存在する。
【0044】
従って、本発明の医薬組成物は固体形態、例えば皮下、静脈内、腹腔内又は筋肉内投与用注射用製剤等の非経口投与用液体を調製するのに適した凍結乾燥粉末形態、例えば凍結乾燥ケーキ形態等の粉末形態とすることができる。
【0045】
従って、好ましくは上記液体医薬組成物の凍結乾燥により得られた前記凍結乾燥粉末又はケーキは本明細書に記載するような相溶性希釈剤及び/又は溶媒の添加、例えば水溶液、好ましくは場合によりメチルパラベン及び/又はプロピルパラベン及び/又は0.9%ベンジルアルコールを添加した蒸留及び/又は滅菌注射用水、静菌性注射用水、あるいは標準食塩水ないし生理食塩水、例えば0.9%塩化ナトリウム溶液、又は0.45%もしくは0.225%塩化ナトリウム溶液、又はリンゲル液及び/又は乳酸リンゲル液の添加、例えば適切な量の前記溶媒又は希釈剤を凍結乾燥に使用するバイアル、例えばガラスバイアルに直接加えることにより、非経口投与前に再構成することができる。
【0046】
従って、好ましい1態様において、本発明は本発明の凍結乾燥粉末を水溶液、好ましくは前記水溶液、より好ましくは場合によりメチルパラベン及び/又はプロピルパラベン及び/又は0.9%ベンジルアルコールを添加した蒸留及び/又は滅菌注射用水、静菌性注射用水、あるいは標準食塩水ないし生理食塩水、例えば0.9%塩化ナトリウム溶液、又は0.45%もしくは0.225%塩化ナトリウム溶液、又はリンゲル液及び/又は乳酸リンゲル液10.5mlで再構成することにより取得可能な医薬組成物を提供する。より好ましい態様において、本発明は本発明の凍結乾燥粉末の上記好ましい実施形態を上記のような水溶液10.5mlで再構成することにより取得可能な医薬組成物を提供する。前記好ましい医薬組成物では、これに含まれるカスポファンギン塩基として計算したカスポファンギンと、マンニトール、スクロース及び存在する場合には付加的pH調整剤、好ましくは酢酸の濃度(mg/ml)は本発明の凍結乾燥粉末の上記好ましい実施形態にmgで示した対応量を10.5で割ることにより簡単に計算することができる。
【0047】
従って、本発明は更に非経口、好ましくは静脈内投与に適した本発明の凍結乾燥組成物を再構成した水溶液を提供する。
【0048】
上記のような凍結乾燥ケーキの再構成後に得られる医薬組成物は好ましくはpH値約5から約8、好ましくは約6.0から約7.5である。
【0049】
あるいは、上記のように成分a)、c)及び場合によりb)と水を含有する本発明の組成物は液体形態で存在することができ、例えば予め凍結乾燥した後に再構成する必要なく、例えば非経口投与用インスタント溶液とすることができる。
【0050】
本発明の医薬組成物は安定な製剤であり、本明細書に記載するような凍結乾燥粉末の再構成液形態等の液体製剤の場合には肉眼では見えない粒子数の低減を示す。好ましくは、前記液体形態の本発明の医薬組成物はUSP 27,<788>Particulate matter in injections by light obscuration particle count testに従って測定したバイアル1本当たりの10μmを上回る寸法の肉眼では見えない粒子数が500個未満、好ましくは300個未満である。
【0051】
好ましい1実施形態において、本発明の組成物は、
1)増量剤又は増量剤の組み合わせを水に溶解させる段階と、
2)段階1)で得られた溶液に医薬的に許容可能なカスポファンギン塩を加え、溶解させる段階と、
3)前記カスポファンギン塩の0.3モル当量未満の量の付加的pH調整剤、好ましくは酢酸又は水酸化ナトリウムを添加し、段階2)で得られた溶液のpH値を約5から約7、好ましくは約5.5から約6.5、より好ましくはから約6.0に調整する段階と、
4)段階3)で得られた溶液を濾過し、濾液をバイアル、好ましくは凍結乾燥用バイアルに充填し、前記バイアルを部分的に打栓する段階と、
5)棚温度を約−50℃に調整することにより、段階4)で得られたバイアルに充填した溶液を凍結乾燥機で凍結させる段階と、
6)棚温度を約−40℃に調整し、凍結させた溶液からの水の昇華を確保するのに適した圧力を調整することにより、凍結溶液を凍結乾燥する段階を含む。
【0052】
別の好ましい実施形態において、本発明の組成物は段階3)を省略することにより付加的pH調整剤の添加を省略する以外は上記方法と実質的に同一段階を含む方法により製造される。本発明のこの第2の方法では、段階2)で得られた溶液、即ち増量剤又は増量剤の組み合わせを水に溶解させ、得られた溶液に医薬的に許容可能なカスポファンギン塩を加え、溶解させた後に得られた溶液を直接濾過し、バイアルに充填し、段階4)、段階5)及び段階6)で上記のように更に処理する。好ましくは、医薬的に許容可能なカスポファンギン塩はカスポファンギン二酢酸である。
【0053】
段階3)で使用する酢酸は1.25N酢酸が適切である。場合により、溶液の所望総容量を調整するために、上記第1の方法の段階3)又は第2の方法の段階2)で得られた溶液に水を加えてもよい。
【0054】
濾過は公知方法に従うか又は公知方法と同様に実施することができ、例えば濾過は細孔径0.22μm以下の医薬的に許容可能な濾過膜を使用して実施することができる。
【0055】
非経口投与用医薬組成物を得るように、段階6)で得られた凍結乾燥溶液を更に処理することができる。このような処理は好ましくは凍結乾燥の完了後に本発明の凍結乾燥組成物を充填したバイアルを完全に打栓する段階と、温度約2℃から約8℃、例えば約5℃、又は他の適切な保存条件下で保存する段階を含む。
【0056】
凍結乾燥ないしフリーズドライは公知方法に従うか又は公知方法と同様に実施される。好ましくは、凍結乾燥は一次乾燥と二次乾燥を含み、一次乾燥は棚温度約−40℃の温度で実施され、二次乾燥は棚温度約15℃で実施される。完全な乾燥サイクルは約15から18時間を要する。凍結乾燥は適切な圧力、例えば0.12mbar未満の圧力を使用して公知方法に従い、例えばVirtis Advantage IIとして市販されているVirtis凍結乾燥機で実施することができる。
【0057】
従って、本発明は更に上記方法の1種により取得可能、好ましくは取得された医薬組成物を提供する。
【0058】
凍結乾燥組成物はカスポファンギン塩基として計算したカスポファンギン終濃度を例えば約5mg/ml又は7mg/mlとするように、哺乳動物、例えばヒト対象に投与する前に本明細書に記載するような適切な希釈剤又は溶媒で希釈、例えば再構成することができる。再構成した溶液をバイアルから取り出し、その後の静脈内輸液に備えて輸液バッグに移すことができる。こうして、再構成した溶液を本明細書に記載するような適切な溶媒又は希釈剤で更に希釈し、輸液に適した溶液を患者に提供することができる。好ましい溶媒又は希釈剤は場合によりメチルパラベン及び/又はプロピルパラベン及び/又は0.9%ベンジルアルコールを添加した蒸留及び/又は滅菌注射用水、静菌性注射用水、あるいは標準食塩水ないし生理食塩水、例えば0.9%塩化ナトリウム溶液、又は0.45%もしくは0.225%塩化ナトリウム溶液、又はリンゲル液及び/又は乳酸リンゲル液である。上記のような再構成溶液形態の本発明の医薬組成物の希釈は再構成溶液7mlから10ml、好ましくは7ml又は10mlを本明細書に記載する希釈剤で総容量約100mlから約300ml、好ましくは約110mlから約250ml又は約260mlまで希釈することにより実施することができる。再構成溶液の希釈は塩基として計算した医薬的に許容可能な治療有効量のカスポファンギンを含有する医薬組成物を提供するように実施すべきである。本明細書で使用する「治療有効」なる用語は所望治療効果、予防効果、生理的及び/又は薬理的及び/又は抗微生物効果、例えば抗細菌又は抗真菌及び/又は抗原虫効果を提供することを意味するものとする。本明細書に記載する疾患の予防及び/又は治療用投与計画は熟練医師により例えば下記のように容易に決定されよう。
【0059】
本発明の組成物は真菌又は原虫により誘発される感染性疾患を予防及び/又は治療するために哺乳動物、好ましくはヒト対象及び/又は患者に投与することができる。
【0060】
従って、本発明は哺乳動物、好ましくはヒトにおける真菌感染症、特にC.albicans、C.tropicalis、C.krusei、C.glabrata及びC.pseudotropicalis等のカンジダ種と、A.fumigatus、A.flavus及びA.niger等のアスペルギルス種により誘発される真菌感染症の予防及び/又は治療用医薬としての本発明の組成物の使用を提供する。本発明の組成物はアムホテリシンB及びフルコナゾールに耐性であると推定されるカンジダ菌株にも有効である。更に、本発明の組成物は免疫抑制状態の患者、例えばエイズ患者が特に冒され易いニューモシスチス・ジロヴェチにより誘発される肺炎の予防及び/又は治療にも使用することができる。ニューモシスチス・ジロヴェチは旧分類ではニューモシスチス・カリニとして分類され、原虫に分類されていたが、現在では真菌とみなされている。
【0061】
好ましくは、本発明の組成物は医薬活性成分として治療有効量のカスポファンギンを含有する。静脈内投与する場合には、活性成分の最も好ましい用量は約200ml/時の輸液速度で約1.67μg/kg/分から約33μg/kg/分となろう。このような投与では、本発明の組成物はEP 0 904 098 B1に記載されているように、体重50kgの患者を基準に活性成分、即ちカスポファンギン塩基0.025mg/mlから0.5mg/mlを含有するようにすべきである。
【0062】
本発明の医薬組成物、特に付加的pH調整剤と付加的緩衝剤の両者を実質的又は完全に含まない組成物は公知カスポファンギン製剤に比較していくつかの利点がある。
【0063】
本発明の液体組成物、特に付加的pH調整剤を実質的又は完全に含まない組成物における肉眼では見えない粒子数の低減は本発明の驚くべき特徴である。一般に、例えばUS6,900,184やWO02/41919 A1から予想されるように、EDTAは溶液中のイオン、例えばガラスバイアルから放出されるカルシウムイオンと錯形成し、例えば水酸化物や珪酸塩と共に沈殿を形成する可能性があると考えられるので、注射用溶液の肉眼では見えない粒子を有効に減らすためにはEDTAナトリウム等の粒子形成抑制剤の存在が必要であると予想されていた。予想に反し、本発明の組成物はこのような粒子形成抑制剤が存在しないにも拘わらず、前記肉眼では見えない粒子のより顕著な低減を示す。これは特に付加的pH調整剤を実質的に含まない本発明の組成物で認められる。
【0064】
従って、本発明の組成物は好ましくはUSP 27,<788>Particulate matter in injections:Light Obscuration Particle Count Testに従って測定したバイアル1本当たりの10μmを上回る寸法の肉眼では見えない粒子数が500個未満、好ましくは300個未満である。従って、本発明の組成物は肉眼では見えない粒子に起因する塞栓症の潜在的危険を低減することにより、前記組成物を非経口投与、例えば静脈内投与する患者の安全性を増すという利点がある。
【0065】
別の利点として、本発明の組成物は総不純物量の少ない安定な組成物を提供し、特に付加的緩衝剤又はpH調整剤を実質的に含まない本発明の組成物では、エチレンジアミン分離に起因する主カスポファンギン分解物(本明細書ではCAF−42とも言う)も有意に低減する(実施例12及び表5参照)。本発明の組成物の高い安定性は保存中にその高い活性成分含量が維持されることからも明らかである。付加的緩衝剤を添加する場合には一般に2段階のpH調整段階が必要であるが、本発明の組成物、特に付加的pH調整剤を含まない組成物のこの有利な安定性は付加的緩衝剤を添加する必要なしに得られる。従って、本明細書に記載するような凍結乾燥に適した液体形態のこのような医薬組成物の調製時間は少なくとも10%短縮すると予測される。少量、即ち組成物に含まれるカスポファンギン塩の0.3モル当量未満の量の付加的pH調整剤を含有する本発明の組成物はその製造に1段階のpH調整段階しか必要としない高度に安定な製剤でもある。従って、本発明の組成物は従来技術の方法に比較して平易な方法により簡単に製造できる。
【0066】
別の利点として、本発明の医薬組成物、特に付加的pH調整剤を含まない組成物は付加的酢酸緩衝液を含有する従来のカスポファンギン製剤に比較して例えばCAF−二量体1等の不純物の形成が少ないという点で高純度を示す(実施例13参照)。
【0067】
本発明者らは更に、特に注射用水又は生理食塩水で再構成した凍結乾燥粉末状の本発明の医薬組成物が付加的緩衝液、例えば酢酸緩衝液の不在下にも拘わらず、2日間25℃で保存中にほぼ同一値のpHを維持するという点で良好な安定性を示すことを発見した。更に、本発明の再構成溶液、特に付加的pH調整剤と付加的緩衝剤の両者を実質的又は完全に含まない溶液は総不純物及び/又は主分解物CAF−42及び/又は不純物CAF−二量体1の量が少ないという点でも予想外に良好な安定性を示すことも確認された。
【0068】
本発明者らは更に、式Iの化合物の新規塩、即ち本明細書に記載するような医薬組成物に適したプロピオン酸との酸付加塩も発見した。
【0069】
従って、別の態様において、本発明はプロピオン酸との酸付加塩としての式I:
【0070】
【化2】

の化合物である新規カスポファンギン塩を提供する。前記新規塩をプロピオン酸カスポファンギンとも言う。
【0071】
別の態様において、本発明のプロピオン酸カスポファンギンは約1:1から約1:3、より好ましくは約1:1.5から約1:2.5、例えば1:1.8から1:2.2、最も好ましくは約1:2のモル比で式Iのカスポファンギンとプロピオン酸を含む。このような塩はジプロピオン酸カスポファンギンとして定義することができ、式IIの化合物に対応し得る。
【0072】
従って、より好ましい態様において、本発明は式II:
【0073】
【化3】

のプロピオン酸カスポファンギンを提供する。
【0074】
式IIの化合物をジプロピオン酸カスポファンギンとも言う。
【0075】
本発明は更に、プロピオン酸とのその酸付加塩及び/又は上記のようなプロピオン酸カスポファンギンの形態であり、好ましくは結晶質形態又は非晶質形態の式Iのカスポファンギンを提供する。
【0076】
本明細書で使用する「プロピオン酸カスポファンギン」なる用語は本発明の新規カスポファンギン塩を意味するものとし、特に式Iのカスポファンギンとプロピオン酸のモル比が約1:1から約1:3であり得る「プロピオン酸との酸付加塩としての式Iの化合物」、「式IIの化合物」及び「ジプロピオン酸カスポファンギン」を含むものとする。本明細書で使用する「カスポファンギンプロピオン酸付加物」なる用語はカスポファンギンとプロピオン酸の酸付加塩を意味するものとする。
【0077】
本発明のプロピオン酸カスポファンギン、特に結晶質形態のジプロピオン酸カスポファンギンは下表10に示すようなH−NMRデータ(CDOD,300MHz)及び/又は13C−NMRデータ(CDOD,75MHz)により特徴付けることができる。ジプロピオン酸カスポファンギンは実施例17に記載したように製造した。
【0078】
【表1】



表10中、PRA=プロピオン酸;[PPM]=百万分率で表した化学シフトの単位;m=多重線,d=二重線,dd=二重線の二重線,t=三重線,q=四重線。番号はシグナル帰属の基準とする構造式IV:
【0079】
【化4】

中の番号を示す。
【0080】
表10に示すように、特に結晶質形態の本発明のプロピオン酸カスポファンギンはそのH−NMRスペクトルにおいてプロピオン酸のメチル基に由来する約1.11ppmの三重線とプロピオン酸のメチレン基に由来する約2.19ppmの四重線により特徴付けることができる。
【0081】
表10に示すように、特に結晶質形態のプロピオン酸カスポファンギンは更にその13C−NMRスペクトルにおいてプロピオン酸の夫々メチル基、メチレン基及びカルボキシル基に由来する約10.1、30.6及び182.2ppmのシグナルにより特徴付けることができる。
【0082】
別の態様において、プロピオン酸カスポファンギン、特に結晶質形態のジプロピオン酸カスポファンギンは実質的に図5に従うX線粉末回折(XRPD)パターンにより特徴付けることができる。ジプロピオン酸カスポファンギンは実施例17に記載するように製造し、XRPD測定方法についても同実施例に記載する。
【0083】
更に別の態様において、プロピオン酸カスポファンギン、特に結晶質形態のジプロピオン酸カスポファンギンは約2.92、5.04、5.88、9.02及び10.23°の2θで表される値に強度ピークをもつX線粉末回折(XRPD)パターンにより特徴付けることができる。
【0084】
あるいは、プロピオン酸カスポファンギン、特に結晶質形態のジプロピオン酸カスポファンギンは2.9±0.2、5.0±0.2、5.9±0.2、9.0±0.2及び10.2±0.2、例えば2.9±0.1、5.0±0.1、5.9±0.1、9.0±0.1及び10.2±0.1°の2θで表される値に強度ピークをもつX線粉末回折(XRPD)パターンにより特徴付けることができる。
【0085】
プロピオン酸カスポファンギン、特に結晶質形態のジプロピオン酸カスポファンギンは更に結晶が凝集体を形成することが可能な易流動性で易水溶性の角柱であるという点により特徴付けることができる。従って、本発明は例えばプロピオン酸カスポファンギンを活性成分として含有する医薬組成物の製造中に取り扱い易い結晶質プロピオン酸カスポファンギンを提供する。結晶質プロピオン酸カスポファンギンは非晶質形態よりも安定であるという利点がある。
【0086】
好ましい1実施形態において、結晶質プロピオン酸カスポファンギンは約1:1から約1:3、好ましくは約1:1.5から約1:2.5、例えば1:1.8から1:2.2、より好ましくは約1:2の式Iのカスポファンギンとプロピオン酸の規定モル比により特徴付けられる。このような塩はジプロピオン酸カスポファンギンとして定義することができ、式IIの化合物に対応し得る。式Iのカスポファンギンとプロピオン酸の前記規定モル比は上記易流動性と易水溶性に加え、プロピオン酸カスポファンギン、特に結晶質ジプロピオン酸カスポファンギンを本明細書に記載するような医薬組成物の製造に使用するのに特に有利にする。
【0087】
本発明の結晶質プロピオン酸カスポファンギン、特にジプロピオン酸カスポファンギンは高い結晶度を示す。従って、本発明は好ましい1態様において、非晶質プロピオン酸カスポファンギン、特に非晶質ジプロピオン酸カスポファンギン含量が5%未満、特に1%未満である結晶質形態のプロピオン酸カスポファンギン、特にジプロピオン酸カスポファンギンにも関する。別の好ましい態様において、本発明は非晶質プロピオン酸カスポファンギン、特に非晶質ジプロピオン酸カスポファンギンを実質的又は完全に含まない結晶質形態のプロピオン酸カスポファンギン、特にジプロピオン酸カスポファンギンに関する。非晶質プロピオン酸カスポファンギン及び/又は非晶質ジプロピオン酸カスポファンギンを実質的又は完全に含まない結晶質プロピオン酸カスポファンギン、特に結晶質ジプロピオン酸カスポファンギンは良好な安定性を示す。
【0088】
非晶質プロピオン酸カスポファンギン、特に非晶質ジプロピオン酸カスポファンギンは易水溶性であり、例えばプロピオン酸カスポファンギンを活性成分として含有する医薬組成物の製造中に取り扱い易い。好ましい1実施形態において、本発明の非晶質プロピオン酸カスポファンギンは式Iのカスポファンギンとプロピオン酸のモル比が約1:1から約1:3、好ましくは約1:1.5から約1:2.5、例えば1:1.8から1:2.2、より好ましくは約1:2であることを特徴とする。このような塩はジプロピオン酸カスポファンギンとして定義することができ、式IIの化合物に対応し得る。
【0089】
別の好ましい実施形態において、非晶質プロピオン酸カスポファンギン、特にジプロピオン酸カスポファンギンは上記範囲内の式Iのカスポファンギンとプロピオン酸の規定モル比を示す。前記規定モル比をもつ前記非晶質プロピオン酸カスポファンギンは、結晶質プロピオン酸カスポファンギン又は結晶質ジプロピオン酸カスポファンギンを水に溶解させた後に、得られた溶液を公知方法に従って凍結乾燥することにより、結晶質プロピオン酸カスポファンギン、特に結晶質ジプロピオン酸カスポファンギンを非晶質形態に変換することにより得ることができる。従って、前記規定モル比をもつ非晶質プロピオン酸カスポファンギン、特にジプロピオン酸カスポファンギンは本明細書に記載するような医薬組成物の製造に特に適している。
【0090】
本発明の非晶質プロピオン酸カスポファンギン、特にジプロピオン酸は検出可能な極微量の結晶質プロピオン酸カスポファンギン、特に結晶質ジプロピオン酸カスポファンギンも伴わずに製造することができる。従って、本発明は好ましい1実施形態において、結晶質プロピオン酸カスポファンギン、特に結晶質ジプロピオン酸カスポファンギン含量が5%未満、特に1%未満である非晶質形態のプロピオン酸カスポファンギン、特にジプロピオン酸カスポファンギンに関する。別の好ましい態様において、本発明は結晶質プロピオン酸カスポファンギン、特に結晶質ジプロピオン酸カスポファンギンを実質的又は完全に含まない非晶質形態のプロピオン酸カスポファンギン、特にジプロピオン酸カスポファンギンに関する。
【0091】
例えば結晶質又は非晶質形態の本発明のプロピオン酸カスポファンギンは更に残留溶媒、例えばC−Cアルコール(例えばメタノール又はエタノール)又は酢酸C−Cアルキルエステル(例えば酢酸エチル)等の残留有機溶媒、及び/又は水を含むことができる。1態様では、プロピオン酸カスポファンギンは約10%まで、例えば10%まで、例えば約5%まで、例えば5%までの残留有機溶媒、及び/又は約10%まで、例えば約1%から約10%、例えば約2%から約8%の水を含むことができる(なお、%は重量百分率である)。含水率は公知方法に従って測定することができ、例えばカールフィッシャー法に従って測定することができる。残留有機溶媒は公知方法により測定することができ、例えばDB−Waxキャピラリーカラムを使用してヘッドスペースガスクロマトグラフィーGCにより測定することができる。理論に結び付けるものではないが、本発明者らは上記量の残留有機溶媒、例えばエタノール又は酢酸エチル、及び/又は水が結晶質形態のプロピオン酸カスポファンギン内に存在することにより安定化作用をもたらすと考えている。
【0092】
従って、1態様において本発明は約10%まで、例えば10%まで、例えば約5%まで、例えば5%までの残留有機溶媒、好ましくはC−Cアルコール(例えばメタノール又はエタノール)又は酢酸C−Cアルキルエステル(例えば酢酸エチル)、及び/又は約10%まで、例えば約1%から約10%、例えば約2%から約8%、例えば2%から8%の水を含有する例えば結晶質形態又は非晶質形態のプロピオン酸カスポファンギンを提供する(なお、%は重量百分率である)。
【0093】
本発明の別の実施形態において、例えば結晶質形態又は非晶質形態のプロピオン酸カスポファンギンは残留有機溶媒を実質的又は完全に含まないものでもよい。
【0094】
公知乾燥方法、例えば減圧乾燥又は例えば公知方法に従って窒素流を流すことにより、本発明の結晶質プロピオン酸カスポファンギンから過剰の残留有機溶媒及び/又は水を除去することができる。あるいは、本明細書に記載する方法により得られた固体結晶生成物に温度約0℃から約30℃、例えば約10℃から約25℃、例えば室温(例えば25℃±5℃)で相対湿度約20%から約55%、例えば約30%から約50%の加湿窒素を流すことにより残留有機溶媒を結晶質プロピオン酸カスポファンギンから除去し、ICHガイドライン(International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use,ICH Harmonized Tripartite Guideline,Impurities:Guideline for Residual Solvents,Q3C(R3),Current Step 4 version,Parent Guideline dated 17 July 1997)に合致する残留溶媒含量の結晶質プロピオン酸カスポファンギンを得ることができる。あるいは、前記結晶質プロピオン酸カスポファンギンを温度約0℃から約30℃、例えば約10℃から約25℃、例えば室温(例えば25℃±5℃)で相対湿度約20%から約80%、好ましくは約30%から約50%に暴露することにより残留溶媒を結晶質プロピオン酸カスポファンギンから除去し、上記ICHガイドラインに合致する残留溶媒含量の結晶質プロピオン酸カスポファンギンを得ることができる。場合により、残留有機溶媒を実質的又は完全に含まず、本明細書に記載するような医薬組成物の製造に特に適切な非晶質プロピオン酸カスポファンギン、特に非晶質ジプロピオン酸カスポファンギンを提供するために、上記のように加湿窒素流を流した後又は水分に暴露した後に得られた結晶質プロピオン酸カスポファンギンを水に溶解させ、上記のように凍結乾燥することにより更に非晶質形態に変換してもよい。
【0095】
本発明は更に、例えば結晶質又は非晶質形態の本発明のプロピオン酸カスポファンギンと、場合により更に1種類以上の当分野で公知の医薬的に許容可能な賦形剤を含有する医薬組成物を提供する。好ましい1態様において、本発明の医薬組成物は結晶質形態又は非晶質形態のプロピオン酸カスポファンギンと、更に本明細書に記載する医薬的に許容可能な賦形剤の1種類以上を含有する。
【0096】
本発明の非晶質形態のプロピオン酸カスポファンギンが本明細書に記載するような医薬組成物に含まれる場合には、前記プロピオン酸カスポファンギンは図6に示すそのXRPDパターンに明白なピークを示さず、同図中、プロピオン酸カスポファンギン、より特定的にはジプロピオン酸カスポファンギンを含有する医薬組成物は実施例21に記載するように製造し、XRPD測定法は実施例17に記載する。
【0097】
好ましい1態様において、本発明の医薬組成物は液体形態、より好ましくは水溶液形態である。本発明の医薬組成物は例えば非経口投与用インスタント溶液、例えば水溶液として存在することができる。
【0098】
別の好ましい態様において、本発明の医薬組成物は固体形態、好ましくは凍結乾燥粉末形態である。
【0099】
好ましい1実施形態において、本発明の医薬組成物は医薬活性成分としての本発明のプロピオン酸カスポファンギン、例えばジプロピオン酸カスポファンギンと、医薬的に許容可能な賦形剤、好ましくは凍結乾燥ケーキを形成するために適切及び/又は有効な増量剤と、医薬的に許容可能なpH値、例えば約5から約8、例えば約5.5から約7.5、例えば約5.5から約7.0、例えば約5.5から約6.5、例えば約6.0のpH値を得るために有効な付加的緩衝液、好ましくは下記に定義するようなプロピオン酸緩衝液を含有する。緩衝液、好ましくはプロピオン酸緩衝液は医薬組成物の緩衝能に寄与する。
【0100】
別の好ましい実施形態において、本発明の医薬組成物は医薬活性成分としての本発明のプロピオン酸カスポファンギン、例えばジプロピオン酸カスポファンギンと、医薬的に許容可能な賦形剤、好ましくは凍結乾燥ケーキを形成するために適切及び/又は有効な増量剤と、pH値を本明細書に記載するような医薬的に許容可能なpH値に調整するために有効な付加的pH調整剤、例えばプロピオン酸を含有する。本明細書で使用するpH調整剤なる用語は上記に定義した通りである。
【0101】
別の好ましい実施形態において、本発明の医薬組成物は医薬活性成分としての本発明のプロピオン酸カスポファンギン、例えばジプロピオン酸カスポファンギンと、凍結乾燥ケーキを形成するために適切及び/又は有効な医薬的に許容可能な賦形剤を含有しており、前記医薬組成物は付加的緩衝液又はpH調整剤を実質的に含まない。本明細書で使用する「実質的に含まない」とは本発明の医薬組成物を形成するために別途量のpH調整剤、例えばプロピオン酸緩衝液又はプロピオン酸を添加しないことを意味する。
【0102】
本発明の医薬組成物の好ましい賦形剤は凍結乾燥ケーキを形成するために有効な増量剤であり、このような好ましい増量剤は上記の通りである。
【0103】
本発明の組成物は更に1種類以上の別途の医薬的に許容可能な賦形剤を含むことができ、このような賦形剤としては、筋肉内、皮下、静脈内、腹腔内又は筋肉内投与用注射用製剤等の非経口投与用組成物に適切であるとして当分野で知られている希釈剤又はキャリヤーが挙げられる。適切な賦形剤と適切な溶媒及び/又は希釈剤については上記の通りである。凍結乾燥粉末形態の本発明の組成物を再構成するため、及び/又はこれにより得られた再構成溶液を更に希釈するために使用される好ましい溶媒及び/又は希釈剤は場合によりメチルパラベン及び/又はプロピルパラベン及び/又は0.9%ベンジルアルコールを添加した蒸留及び/又は滅菌注射用水、静菌性注射用水、あるいは標準食塩水ないし生理食塩水、例えば0.9%塩化ナトリウム溶液、又は0.45%もしくは0.225%塩化ナトリウム溶液、又はリンゲル液及び/又は乳酸リンゲル液である。
【0104】
好ましい本発明の組成物は塩基として計算したカスポファンギン約0.1mg/mlから約500mg/ml、例えば約10mg/mlから約200mg/ml、好ましくは約20mg/mlから約60mg/ml、より好ましくは約22mg/mlから約45mg/ml、最も好ましくは約25mg/ml、約30.6mg/ml又は約42mg/mlに対応する濃度でプロピオン酸カスポファンギン、特にジプロピオン酸カスポファンギンを含有する水溶液である。
【0105】
より好ましくは、上記水溶液は更に、濃度約10mg/mlから約200mg/ml、好ましくは濃度約20mg/mlから約60mg/ml、例えば約25mg/mlから約55mg/ml、より好ましくは約30mg/mlから約52mg/ml、最も好ましくは約32.5mg/ml、約39.4mg/ml又は約50mg/mlで存在する増量剤を含有する。好ましくは、増量剤は好ましくはモル比約1:2から約2:1、より好ましくは約1:1のマンニトールとスクロースの混合物である。
【0106】
従って、好ましい1態様において、本発明は、
I)カスポファンギン塩基として計算したカスポファンギン約0.1mg/mlから約500mg/ml、例えば約10mg/mlから約200mg/ml、好ましくは約20mg/mlから約60mg/ml、より好ましくは約22mg/mlから約45mg/ml、最も好ましくは約25mg/ml、約30.6mg/ml又は約42mg/mlに対応する濃度のプロピオン酸カスポファンギン、例えばジプロピオン酸カスポファンギンと、
II)凍結乾燥ケーキを形成するために有効な増量剤、好ましくは増量剤混合物である賦形剤約10mg/mlから約200mg/ml、好ましくは約20mg/mlから約60mg/ml、例えば約25mg/mlから約55mg/ml、より好ましくは約30mg/mlから約52mg/ml、最も好ましくは約32.5mg/ml、約39.4mg/ml又は約50mg/mlと、
III)場合により、約5から約7、好ましくは約5.5から約6.5、より好ましくは約6.0のpH値を得るために有効な医薬的に許容可能な量の緩衝液、好ましくはプロピオン酸緩衝液、又はpH調整剤、好ましくはプロピオン酸と、
水を含有する水溶液形態の組成物に関する。
【0107】
好ましくは、成分II)で使用される増量剤は増量剤混合物であり、好ましくはモル比約1:2から約2:1、より好ましくは約1:1のマンニトールとスクロースの混合物がより好ましい。
【0108】
従って、好ましい1実施形態において、水溶液形態の本発明の組成物は成分I)及びII)と、緩衝液、好ましくはプロピオン酸緩衝液が医薬的に許容可能な量で存在する成分III)と、水を含有する。所望pH値に達するために有効な医薬的に許容可能な量のプロピオン酸緩衝液を提供するように、適切な量のプロピオン酸と水酸化ナトリウム、又はプロピオン酸とプロピオン酸ナトリウム、又はプロピオン酸ナトリウムと無機強酸(例えばHCl)を使用することができる。好ましくは、成分III)中に存在するプロピオン酸緩衝液は約5から約7、好ましくは約5.5から約6.5、より好ましくは約6.0のpH値を得るように適切な量のプロピオン酸とNaOHを上記水溶液に加えることにより調製される。付加的緩衝液、好ましくはプロピオン酸緩衝液を含有する水溶液の調製は例えばヨーロッパ特許EP 0 904 098 B1に記載の方法と同様に実施することができ、例えば前記方法に従って実施することができ、又は例えば実施例20に記載するように実施することができる。緩衝液、好ましくはプロピオン酸緩衝液は好ましくは約1mmol/lから約200mmol/l、より好ましくは約12.5mmol/lから約100mmol/l、最も好ましくは約15mmol/lから約50mmol/l、例えば約17mmol/lから約25mmol/lの範囲で存在する。緩衝液は本発明の組成物Iに多少の緩衝能を付加することを目的とする。
【0109】
別の好ましい実施形態において、水溶液形態の本発明の組成物は上記成分I)及びII)と、pH調整剤、好ましくはプロピオン酸が所定pH値を得るために有効な医薬的に許容可能な量、例えば約5から約7、好ましくは約5.5から約6.5、より好ましくは約6.0のpH値を調整するために必要な量で存在する成分III)と、水を含有する。成分III)で使用される好ましいpH調整剤はプロピオン酸又は塩酸、より好ましくはプロピオン酸である。好ましくは、付加的pH調整剤は本発明のプロピオン酸カスポファンギン、特にプロピオン酸カスポファンギンの0.3モル当量以上又は以下の量で存在する。別の好ましい実施形態において、プロピオン酸カスポファンギン、特にジプロピオン酸カスポファンギンと付加的pH調整剤のモル比は2:1を上回り、例えば3:1を上回り、好ましくは4:1,5:1,8:1又は10:1を上回り、特に25:1を上回る。pH調整剤、好ましくはプロピオン酸は好ましくは約5mmol/lまで、例えば約2mmol/lから約4mmol/l、好ましくは約3mmol/lの範囲で存在する。付加的pH調整剤、好ましくはプロピオン酸を含有する水溶液の調製は本明細書、例えば実施例2及び3に記載の方法と同様に実施することができ、例えば前記方法に従って実施することができ、又は実施例21に記載するように実施することができる。
【0110】
更に別の好ましい実施形態において、水溶液形態の本発明の組成物は上記成分I)及びII)と水を含有するが、付加的緩衝液又は付加的pH調整剤を実質的及び/又は完全な含まない。付加的緩衝液又は付加的pH調整剤を含まない前記組成物は本明細書、例えば実施例4もしくは14に記載の方法と同様に調製することができ、例えば前記方法に従って調製することができ、又は例えば実施例22に記載するように調製することができる。
【0111】
本発明の組成物の特に好ましい実施形態は、
xi)塩基として計算したカスポファンギン約25mg/mlに対応する約28.4mg/mlの濃度のプロピオン酸カスポファンギン、特にジプロピオン酸カスポファンギンと、マンニトール約13mg/mlとスクロース約19.5mg/mlの混合物である増量剤約32.5mg/mlと、水と、場合によりpH調整剤としてプロピオン酸緩衝液約17mmol/l又はプロピオン酸1.8mmol/l;あるいは
xii)塩基として計算したカスポファンギン約30.6mg/mlに対応する約34.8mg/mlの濃度のプロピオン酸カスポファンギン、特にジプロピオン酸カスポファンギンと、マンニトール約15.8mg/mlとスクロース約23.6mg/mlの混合物である増量剤約39.4mg/mlと、水と、場合によりpH調整剤としてプロピオン酸緩衝液約20mmol/l又はプロピオン酸約2.2mmol/l;あるいは
xiii)塩基として計算したカスポファンギン約42mg/mlに対応する約47.7mg/mlの濃度のプロピオン酸カスポファンギン、特にジプロピオン酸カスポファンギンと、マンニトール約20mg/mlとスクロース約30mg/mlの混合物である増量剤約50mg/mlと、水と、場合によりpH調整剤としてプロピオン酸緩衝液約25mmol/l又はプロピオン酸約3mmol/lを含有する。
【0112】
場合により存在する緩衝液、好ましくはプロピオン酸緩衝液又はpH調整剤は上記液体組成物のpH値を好ましくは約5から約7、例えば約5.5から約6.5、より好ましくは約6.0とするために有効である。
【0113】
上記のような水溶液形態の本発明の組成物を好ましくはバイアル1本当たり約0.1mlから約15ml、例えば約0.3mlから約9ml、好ましくは約0.1mlから約3.3ml、より好ましくは約0.3mlから約3mlの容量でバイアルに充填し、
−例えば、カスポファンギン塩基として計算したカスポファンギン約20mgに対応する量のプロピオン酸カスポファンギン、例えばジプロピオン酸カスポファンギンを含有する医薬組成物を得るためには、好ましくはバイアル1本当たり約0.476mlの容量で組成物xiii)を充填し;あるいは
−例えば、カスポファンギン塩基として計算したカスポファンギン約52.5mgに対応する量のプロピオン酸カスポファンギン、例えばジプロピオン酸カスポファンギンを含有する医薬組成物を得るためには、好ましくはバイアル1本当たり約1.25mlの容量で組成物xiii)、又は好ましくはバイアル1本当たり約1.714mlの容量で組成物xii)、又は好ましくはバイアル1本当たり約2.1mlの容量で組成物xi)を充填し;あるいは
−例えば、カスポファンギン塩基として計算したカスポファンギン約73.5mgに対応する量のプロピオン酸カスポファンギン、例えばジプロピオン酸カスポファンギンを含有する医薬組成物を得るためには、好ましくはバイアル1本当たり約1.75mlの容量で組成物xiii)、又は好ましくはバイアル1本当たり約2.4mlの容量で組成物xii)、又は好ましくはバイアル1本当たり約2.94mlの容量で組成物xi)を充填し;あるいは
−例えば、カスポファンギン塩基として計算したカスポファンギン約10.5mgに対応する量のプロピオン酸カスポファンギン、例えばジプロピオン酸カスポファンギンを含有する医薬組成物を得るためには、好ましくはバイアル1本当たり約0.25mlの容量で組成物xiii)、又は好ましくはバイアル1本当たり約0.343mlの容量で組成物xii)、又は好ましくはバイアル1本当たり約0.42mlの容量で組成物xi)を充填し;あるいは
−例えば、カスポファンギン塩基として計算したカスポファンギン約367.5mgに対応する量のプロピオン酸カスポファンギン、例えばジプロピオン酸カスポファンギンを含有する医薬組成物を得るためには、好ましくはバイアル1本当たり約8.75mlの容量で組成物xiii)、又は好ましくはバイアル1本当たり約12mlの容量で組成物xii)、又は好ましくはバイアル1本当たり約14.7mlの容量で組成物xi)を充填する。
【0114】
他の医薬組成物が得られるように、例えば組成物xi)、xii)又はxiii)等の水溶液形態の本発明の組成物を上記容量と異なる容量(ml)でバイアルに充填してもよく、バイアル1本当たりのカスポファンギン塩基として計算したプロピオン酸カスポファンギン、例えばジプロピオン酸カスポファンギン含量は容易に計算することができる。
【0115】
適切な量の水溶液形態の本発明の組成物、例えば上記のような組成物xi)、xii)又はxiii)をバイアルに充填することにより得られる医薬組成物は好ましくはカスポファンギン塩基として計算したカスポファンギン約10.5mgから約367.5mg、好ましくは約50mgから約77mg、より好ましくは約52.5mg又は約73.5mgに対応する約11.93mgから約417.3mgの単位用量のジプロピオン酸カスポファンギンを含有する。前記医薬組成物は各々5%の過量充填量を含むので、夫々カスポファンギン塩基として計算したカスポファンギン約10mg、約350mg、好ましくは約50mg又は約70mgの単位用量を提供するように使用することができる。これらの医薬組成物は例えばインスタント溶液としてそのまま非経口投与してもよいし、及び/又は本明細書に記載する溶媒及び/又は希釈剤で更に希釈後に非経口投与してもよい。
【0116】
好ましい1態様では、水溶液形態の本発明の組成物、例えば適切な量の上記のような組成物xi),xii)又はxiii)をバイアル、例えばガラスバイアルに充填後、公知方法に従って凍結乾燥即ちフリーズドライし、凍結乾燥粉末形態の本発明の医薬組成物を得る。
【0117】
凍結乾燥は例えば以下のように実施することができ、例えば実施例20に記載の方法と同様に実施することができ、例えば前記方法に従って実施することができる。即ち、適切な量の水溶液、例えば組成物xi)、xii)又はxiii)を充填したバイアルを部分的に打栓し、例えばChrist Epsilon 2−6D(商標)フリーズドライヤーとして市販されている凍結乾燥機を使用することにより、バイアルの底にケーキが形成されるまで凍結乾燥する。要約すると、温度約−40℃で約0.04mbar真空下に約960分間一次乾燥を実施する。+15℃で約0.011mbar真空下に約3時間以内二次乾燥を実施する。処理パラメーターは例えばバイアルの充填高さの変動に合わせて調整することができ、各凍結乾燥工程の処理時間は公知方法に従って組成物の完全な乾燥を確保するように調整することができる。
【0118】
従って、好ましい1態様において、本発明は更に固体形態、例えば粉末形態の医薬組成物を提供し、好ましくは水溶液形態の本発明の組成物、好ましくは上記のような組成物xi)、xii)又はxiii)の凍結乾燥により取得可能、好ましくは取得された凍結乾燥粉末形態の医薬組成物を提供する。前記凍結乾燥粉末は皮下、静脈内、腹腔内又は筋肉内投与用、好ましくは静脈内投与用注射用製剤等の非経口投与用液体を調製するのに適している。
【0119】
好ましくは、凍結乾燥粉末形態の医薬組成物はカスポファンギン塩基として計算したカスポファンギン約10.5mgから約367.5mg、好ましくは約50mgから約77mg、より好ましくは約52.5mg又は約73.5mgに夫々対応する約11.93mgから約417.3mg、好ましくは約56.8mgから約87.43mg、より好ましくは約59.61mg又は約83.46mgの単位用量のジプロピオン酸カスポファンギンを含有する。前記医薬組成物は各々5%の過量充填量を含むので、本明細書に記載する溶媒、例えば水性溶媒10.5mlで再構成し、患者に投与するため及び/又は更に希釈するために再構成溶液10mlを取り出した後に、カスポファンギン塩基として計算したカスポファンギン夫々約10mgから約350mg、好ましくは約50mg又は約70mgの単位用量を提供するために使用することができる。
【0120】
好ましい1実施形態において、本発明の凍結乾燥粉末は塩基として計算したカスポファンギン約50mgから約55mg、好ましくは約52.5mgに夫々対応する約56.78mgから約62.45mg、好ましくは約59.61mgの単位用量のジプロピオン酸カスポファンギンを含み、更にマンニトール約23.8mgから約28.7mg、好ましくは約25mgから約28mgとスクロース約35.6mgから約43mg、好ましくは約37mgから約41mgを含み、更にプロピオン酸約2.23mgから約2.75mg、好ましくは約2.3mgから約2.6mgを含む。付加的プロピオン酸緩衝液の一部である前記付加的プロピオン酸は上記凍結乾燥粉末を本明細書に記載するような水性溶媒又は希釈剤約10.5mlで再構成する場合に、約5から約8、好ましくは約6.0から約7.5のpH値を得るために有効な量で存在する。従って、上記凍結乾燥粉末はプロピオン酸緩衝液に由来する上記量のプロピオン酸に加えて医薬組成物に含まれるジプロピオン酸カスポファンギンのプロピオン酸対イオンに由来するプロピオン酸も含む総プロピオン酸約9mgから約10.2mg、好ましくは約9.4mgから約9.7mgを含有する。凍結乾燥粉末の特に好ましい実施形態は、塩基として計算したカスポファンギン52.5mgに対応するジプロピオン酸カスポファンギン59.61mgを含み、更にマンニトール25mgとスクロース37.5mg、又はマンニトール27mgとスクロース40.5mg、又はマンニトール27.3mgとスクロース40.95mgの混合物を含み、更にプロピオン酸緩衝液の一部であるプロピオン酸夫々2.31mg又は2.58mg又は2.5mgを含む。従って、前記特に好ましい実施形態はジプロピオン酸カスポファンギンのプロピオン酸対イオンに由来するプロピオン酸7.11mgを含む総プロピオン酸夫々9.43mg又は9.62mg又は9.7mgを含有する。
【0121】
別の好ましい実施形態において、本発明の凍結乾燥粉末は塩基として計算したカスポファンギン約50mgから約55mg、好ましくは約52.5mgに夫々対応する約56.78mgから約62.45mg、好ましくは約59.61mgの単位用量のジプロピオン酸カスポファンギンを含み、更にマンニトール約23.8mgから約28.7mg、好ましくは約25mgから約28mgとスクロース約35.6mgから約43mg、好ましくは約37mgから約41mgを含み、更にプロピオン酸約0.12mgから約0.45mg、好ましくは約0.19mgから約0.39mgを含む。前記付加的プロピオン酸は上記のようなpH調整剤であり、上記凍結乾燥粉末を本明細書に記載するような水性溶媒又は希釈剤約10.5mlで再構成する場合に約5から約8、好ましくは約6.0から約7.5のpH値を得るために有効な量で存在する。従って、上記凍結乾燥粉末はpH調整剤である上記量のプロピオン酸に加えて医薬組成物に含まれるジプロピオン酸カスポファンギンのプロピオン酸対イオンに由来するプロピオン酸も含む総プロピオン酸約6.9mgから約7.9mg、好ましくは約7.3mgから約7.5mgを含有する。凍結乾燥粉末の特に好ましい実施形態は、塩基として計算したカスポファンギン52.5mgに対応するジプロピオン酸カスポファンギン59.61mgを含み、更にマンニトール25mgとスクロース37.5mg、又はマンニトール27mgとスクロース40.5mg、又はマンニトール27.3mgとスクロース40.95mgの混合物を含み、更にpH調整剤であるプロピオン酸約0.29mg又は約0.31mg又は約0.32mgを含む。従って、前記特に好ましい実施形態はジプロピオン酸カスポファンギンのプロピオン酸対イオンに由来するプロピオン酸7.11mgを含む総プロピオン酸夫々約7.40mg又は約7.43mg又は約7.44mgを含有する。
【0122】
更に別の好ましい実施形態において、本発明の凍結乾燥粉末は塩基として計算したカスポファンギン約50mgから約55mg、好ましくは約52.5mgに夫々対応する約56.78mgから約62.45mg、好ましくは約59.61mgの単位用量のジプロピオン酸カスポファンギンを含み、更にマンニトール約23.8mgから約28.7mg、好ましくは約25mgから約28mgとスクロース約35.6mgから約43mg、好ましくは約37mgから約41mgを含むが、pH調整剤又はプロピオン酸緩衝液の一部である付加的プロピオン酸を含有していない。上記凍結乾燥粉末は医薬組成物に含まれるジプロピオン酸カスポファンギンのプロピオン酸対イオンのみに由来する総プロピオン酸約6.75mgから約7.47mg、好ましくは約7.11mgを含有する。凍結乾燥粉末の特に好ましい実施形態は、塩基として計算したカスポファンギン52.5mgに対応するジプロピオン酸カスポファンギン59.61mgを含み、更にマンニトール25mgとスクロース37.5mg、又はマンニトール27mgとスクロース40.5mg、又はマンニトール27.3mgとスクロース40.95mgの混合物を含む。前記特に好ましい実施形態は更にジプロピオン酸カスポファンギンのプロピオン酸対イオンに由来する総プロピオン酸7.11mgを含有する。
【0123】
別の好ましい実施形態において、本発明の凍結乾燥粉末は塩基として計算したカスポファンギン約70mgから約77mg、好ましくは約73.50mgに夫々対応する約79.5mgから約87.43mg、好ましくは約83.46mgの単位用量のジプロピオン酸カスポファンギンを含み、更にマンニトール約33.3mgから約40.4mg、好ましくは約35mgから約38.5mgとスクロース約49.4mgから約60.4mg、好ましくは約52mgから約57.5mgを含み、更にプロピオン酸約3.05mgから約3.85mg、好ましくは約3.24mgから約3.64mgを含み、前記プロピオン酸は付加的プロピオン酸緩衝液の一部であり、上記凍結乾燥粉末を本明細書に記載するような水性溶媒又は希釈剤約10.5mlで再構成する場合に約5から約8、好ましくは約6.0から約7.5のpH値を得るために有効な量で存在する。従って、上記凍結乾燥粉末は医薬組成物に含まれるジプロピオン酸カスポファンギンのプロピオン酸対イオンに由来するプロピオン酸も含む総プロピオン酸約12.54mgから約14.28mg、好ましくは約13.20mgから約13.60mgを含有する。凍結乾燥粉末の特に好ましい実施形態は、塩基として計算したカスポファンギン73.5mgに対応するジプロピオン酸カスポファンギン83.46mgを含み、更にマンニトール35mgとスクロース52.5mg、又はマンニトール37.8mgとスクロース56.71mg、又はマンニトール38.22mgとスクロース57.33mgの混合物を含み、更に付加的プロピオン酸緩衝液の一部であるプロピオン酸夫々3.24mg又は3.5mg又は3.62mgを含む。従って、前記特に好ましい実施形態はジプロピオン酸カスポファンギンのプロピオン酸対イオンに由来するプロピオン酸9.96mgを含む夫々13.2mg又は13.47mg又は13.58mgの総プロピオン酸量を含有する。
【0124】
別の好ましい実施形態において、本発明の凍結乾燥粉末は塩基として計算したカスポファンギン約70mgから約77mg、好ましくは約73.50mgに夫々対応する約79.5mgから約87.43mg、好ましくは約83.46mgの単位用量のジプロピオン酸カスポファンギンを含み、更にマンニトール約33.3mgから約40.4mg、好ましくは約35mgから約38.5mgと、スクロース約49.4mgから約60.4mg、好ましくは約52mgから約57.5mgを含み、更にプロピオン酸約0.11mgから約1.07mg、好ましくは約0.34mgから約0.54mgを含む。pH調整剤である前記付加的プロピオン酸は上記凍結乾燥粉末を本明細書に記載するような水性溶媒又は希釈剤約10.5mlで再構成する場合に約5から約8、好ましくは約6.0から約7.5のpH値を得るために有効な量で存在する。従って、上記凍結乾燥粉末はpH調整剤である上記量のプロピオン酸に加えて医薬組成物に含まれるジプロピオン酸カスポファンギンのプロピオン酸対イオンに由来するプロピオン酸も含む総プロピオン酸約9.7mgから約11.5mg、好ましくは約10.3mgから約10.5mgを含有する。凍結乾燥粉末の特に好ましい実施形態は、塩基として計算したカスポファンギン73.5mgに対応するジプロピオン酸カスポファンギン83.46mgを含み、更にマンニトール35mgとスクロース52.5mg、又はマンニトール37.8mgとスクロース56.71mg、又はマンニトール38.22mgとスクロース57.33mgの混合物を含み、更にpH調整剤であるプロピオン酸夫々約0.40mg又は約0.44mg又は約0.45mgを含む。従って、前記特に好ましい実施形態はジプロピオン酸カスポファンギンのプロピオン酸対イオンに由来するプロピオン酸9.96mgを含む総プロピオン酸夫々約10.37mg又は約10.40mg又は約10.41mgを含有する。
【0125】
更に別の好ましい実施形態において、本発明の凍結乾燥粉末は塩基として計算したカスポファンギン約70mgから約77mg、好ましくは約73.50mgに夫々対応する約79.5mgから約87.43mg、好ましくは約83.46mgの単位用量のジプロピオン酸カスポファンギンを含み、更にマンニトール約33.3mgから約40.4mg、好ましくは約35mgから約38.5mgと、スクロース約49.4mgから約60.4mg、好ましくは約52mgから約57.5mgを含むが、pH調整剤又はプロピオン酸緩衝液の一部である付加的プロピオン酸を含有していない。上記凍結乾燥粉末は医薬組成物に含まれるジプロピオン酸カスポファンギンのプロピオン酸対イオンのみに由来する総プロピオン酸約9.5mgから約10.5mg、好ましくは約10mgを含有する。凍結乾燥粉末の特に好ましい実施形態は、塩基として計算したカスポファンギン73.5mgに対応するジプロピオン酸カスポファンギン83.46mgを含み、更にマンニトール35mgとスクロース52.5mg、又はマンニトール37.8mgとスクロース56.71mg、又はマンニトール38.22mgとスクロース57.33mgの混合物を含む。前記特に好ましい実施形態は更にジプロピオン酸カスポファンギンのプロピオン酸対イオンに由来する総プロピオン酸9.96mgを含有する。
【0126】
別の好ましい実施形態において、本発明の凍結乾燥粉末は塩基として計算したカスポファンギン約10mgから約11mg、好ましくは約10.5mgに対応する約11.36mgから約12.5mg、好ましくは約11.9mgの単位用量のジプロピオン酸カスポファンギンを含み、更にマンニトール約4.75mgから約5.78mg、好ましくは約5mgから約5.5mgmgとスクロース約7.1mgから約8.6mg、好ましくは約7.5mgから約8.2mgを含み、場合により更に付加的プロピオン酸緩衝液の一部であり、上記凍結乾燥粉末を本明細書に記載するような水性溶媒又は希釈剤約10.5mlで再構成する場合に約5から約8、好ましくは約6.0から約7.5のpH値を得るために有効な量で存在するプロピオン酸約0.44mgから約0.56mg、好ましくは約0.46mgから約0.53mgを含む。従って、上記凍結乾燥粉末が付加的プロピオン酸緩衝液を含有する場合には、医薬組成物に含まれるジプロピオン酸カスポファンギンのプロピオン酸対イオンに由来するプロピオン酸も含む総プロピオン酸約1.8mgから約2.05mg、好ましくは約1.9mgから約1.95mgを含有する。上記凍結乾燥粉末が付加的プロピオン酸緩衝液を含有しない場合には、医薬組成物に含まれるジプロピオン酸カスポファンギンのプロピオン酸対イオンのみに由来する総プロピオン酸約1.36mgから約1.49mg、好ましくは約1.42mgを含有する。上記凍結乾燥粉末の特に好ましい実施形態は、塩基として計算したカスポファンギン10.5mgに対応するジプロピオン酸カスポファンギン11.92mgを含み、更にマンニトール5mgとスクロース7.5mg、又はマンニトール5.4mgとスクロース8.11mg、又はマンニトール5.46mgとスクロース8.19mgを含み、場合により更に付加的プロピオン酸緩衝液の一部であるプロピオン酸夫々0.46mg又は0.5mg又は0.52mgを含む。これらの特に好ましい実施形態がプロピオン酸緩衝液を含有する場合には、ジプロピオン酸カスポファンギンのプロピオン酸対イオンに由来するプロピオン酸を含む総プロピオン酸夫々1.89mg又は1.92mg又は1.94mgを含有する。これらの好ましい実施形態がプロピオン酸緩衝液を含有しない場合には、ジプロピオン酸カスポファンギンの対イオンに由来する総プロピオン酸1.42mgを含有する。
【0127】
別の好ましい実施形態において、本発明の凍結乾燥粉末は塩基として計算したカスポファンギン約350mgから約386mg、好ましくは約367.5mgに対応する約397.4mgから約438.3mg、好ましくは約417.3mgの単位用量のジプロピオン酸カスポファンギンを含み、更にマンニトール約166mgから約200mg、好ましくは約175mgから約192mgとスクロース約250mgから約300mg、好ましくは約263mgから約287mgを含み、場合により更に付加的プロピオン酸緩衝液の一部であり、上記凍結乾燥粉末を本明細書に記載するような水性溶媒又は希釈剤約10.5mlで再構成する場合に約5から約8、好ましくは約6.0から約7.5のpH値を得るために有効な量で存在するプロピオン酸約15.27mgから約19.1mg、好ましくは約16.2mgから約18.2mgを含む。従って、上記凍結乾燥粉末が付加的プロピオン酸緩衝液を含有する場合には、医薬組成物に含まれるジプロピオン酸カスポファンギンのプロピオン酸対イオンに由来するプロピオン酸も含む総プロピオン酸約62.7mgから約71.4mg、好ましくは約66mgから約68mgを含有する。上記凍結乾燥粉末が付加的プロピオン酸緩衝液を含有しない場合には、医薬組成物に含まれるジプロピオン酸カスポファンギンのプロピオン酸対イオンのみに由来する総プロピオン酸約47.43mgから約52.3mg、好ましくは約49.8mgを含有する。凍結乾燥粉末の特に好ましい実施形態は、塩基として計算したカスポファンギン367.5mgに対応するジプロピオン酸カスポファンギン417.30mgを含み、更にマンニトール175mgとスクロース262.5mg、又はマンニトール189mgとスクロース283.56mg、又はマンニトール191.1mgとスクロース286.65mgの混合物を含み、場合により更に付加的プロピオン酸緩衝液の一部であるプロピオン酸夫々16.19mg又は17.52mg又は18.08mgを含む。これらの特に好ましい実施形態がプロピオン酸緩衝液を含有する場合には、ジプロピオン酸カスポファンギンのプロピオン酸対イオンに由来するプロピオン酸を含む総プロピオン酸夫々65.99mg又は67.33mg又は67.88mgを含有する。これらの特に好ましい実施形態がプロピオン酸緩衝液を含有しない場合には、ジプロピオン酸カスポファンギンの対イオンに由来する総プロピオン酸49.8mgを含有する。
【0128】
塩基として計算したカスポファンギン約10.5mg又は約367.5mgに対応する約11.9mg又は約417.3mgの単位用量のジプロピオン酸カスポファンギンを含有する上記凍結乾燥粉末の他の好ましい実施形態は、付加的プロピオン酸緩衝液の代わりに、上記凍結乾燥粉末を本明細書に記載するような水性溶媒又は希釈剤約10.5mlで再構成する場合に約5から約8、好ましくは約6.0から約7.5のpH値を得るために有効な量のプロピオン酸をpH調整剤として含有する。pH調整剤であるプロピオン酸の前記対応量は例えば塩基として計算したカスポファンギン約50mgから約55mgに対応するジプロピオン酸カスポファンギンを例えば含有する他の好ましい上記実施形態について示した量と同様に簡単に計算することができる。
【0129】
上記のような本発明の凍結乾燥粉末形態の医薬組成物は本明細書に記載するような相溶性希釈剤及び/又は溶媒、例えば水溶液を加えることにより、例えば凍結乾燥に使用するバイアル、例えばガラスバイアルに適切な量の前記溶媒又は希釈剤を直接加えることにより、非経口投与前に再構成することができる。
【0130】
従って、本発明は上記のような本発明の凍結乾燥粉末を水溶液、好ましくは水、例えば場合によりメチルパラベン及び/又はプロピルパラベン及び/又は0.9%ベンジルアルコールを添加した蒸留及び/又は滅菌注射用水、静菌性注射用水、あるいは標準食塩水ないし生理食塩水、例えば0.9%塩化ナトリウム溶液、又は0.45%もしくは0.225%塩化ナトリウム溶液、又はリンゲル液及び/又は乳酸リンゲル液で再構成し、非経口投与に適した本発明の凍結乾燥組成物を再構成した水溶液を形成することにより取得可能、好ましくは取得された医薬組成物を提供する。
【0131】
好ましい1態様において、本発明は本発明の凍結乾燥粉末を水溶液、好ましくは上記好ましい溶液10.5mlで再構成することにより取得可能な医薬組成物を提供する。より好ましい1態様において、本発明は本発明の凍結乾燥粉末の上記好ましい実施形態及び特に好ましい実施形態を水溶液、好ましくは水、例えば場合によりメチルパラベン及び/又はプロピルパラベン及び/又は0.9%ベンジルアルコールを添加した蒸留及び/又は滅菌注射用水、静菌性注射用水、あるいは標準食塩水ないし生理食塩水、例えば0.9%塩化ナトリウム溶液、又は0.45%もしくは0.225%塩化ナトリウム溶液、又はリンゲル液及び/又は乳酸リンゲル液10.5mlで再構成することにより取得可能な医薬組成物を提供する。前記好ましい医薬組成物では、前記組成物に含まれるカスポファンギン塩基として計算したジプロピオン酸カスポファンギンと、マンニトール、スクロース及びプロピオン酸の濃度(mg/ml)は本発明の凍結乾燥粉末の上記好ましい実施形態及び特に好ましい実施形態にmgで示す対応量を10.5で割ることにより簡単に計算することができる。
【0132】
上記のような再構成溶液形態の本発明の医薬組成物は、患者への輸液に適した溶液を提供するように、適切な溶媒又は希釈剤、好ましくは本明細書に記載するような好ましい溶媒及び/又は希釈剤で更に希釈することができる。上記のような再構成溶液形態の本発明の医薬組成物の希釈は、再構成溶液7mlから10ml、好ましくは7ml又は10mlを本明細書に記載する希釈剤で総容量約100mgから約300ml、好ましくは約110mlから約250ml又は260mlまで希釈することにより実施することができる。再構成溶液の希釈は医薬的に許容可能な治療有効量のプロピオン酸カスポファンギン、特にジプロピオン酸カスポファンギンを含有する医薬組成物を提供するように実施すべきである。「治療有効」なる用語と本明細書に記載する疾患の予防及び/又は治療用投与計画については上記に定義した通りである。
【0133】
上記のような本発明の凍結乾燥粉末の再構成後の医薬組成物は好ましくはpH値約5から約8、好ましくは約6.0から約7.5である。
【0134】
好ましい1態様において、本発明の医薬組成物は本明細書に記載するような非経口投与に適している。理論に結び付けるものではないが、本発明者らは本発明の医薬組成物が同組成物に含まれるプロピオン酸カスポファンギン、例えばジプロピオン酸カスポファンギンの安定性を増進すると考えている。
【0135】
更に好ましい態様において、本発明は高純度を示すプロピオン酸カスポファンギンを含有する非経口投与用医薬組成物を提供する。前記高純度は例えば本明細書、例えば実施例20から28に記載するような凍結乾燥粉末の再構成溶液である医薬組成物中で確認され、同実施例によると総不純物含量がごく少なく、例えば公知方法に従ってHPLCにより測定した総不純物量が1.5%未満、好ましくは1.3%以下、例えば1%以下、例えば0.7%から約0.9%以下であり、及び/又は>25μmの肉眼では見えない粒子量がごく少なく、例えば公知方法に従って測定した>25μmの肉眼では見えない粒子がバイアル1本当たり30個未満、好ましくは25個未満、例えば18個以下、及び/又は>10μmの肉眼では見えない粒子がバイアル1本当たり例えば650個未満、好ましくは620個未満、例えば>10μmの肉眼では見えない粒子がバイアル1本当たり615個以下である。HPLCによる総不純物の測定及び/又はUSP 29,<788>Particulate matter in injections:Light Obscuration Particle Count testに従う方法による肉眼では見えない粒子の測定については実施例20及び/又は実施例23から28に記載する。
【0136】
更に、本発明の医薬組成物は経口、局所、鼻孔内及び座剤投与に適した医薬組成物を含む。経口投与用医薬組成物は液体又は固体組成物とすることができる。従って、上記組成物は上記型の投与に適した医薬的に許容可能な賦形剤を含むことができる。このような賦形剤と前記組成物の製造におけるそれらの使用方法は公知である。
【0137】
好ましい1態様では、結晶質プロピオン酸カスポファンギン、例えば結晶質ジプロピオン酸カスポファンギンを上記医薬組成物の製造に使用する。
【0138】
別の好ましい態様では、水への溶解と本明細書に記載するような凍結乾燥により結晶質プロピオン酸カスポファンギン又は結晶質ジプロピオン酸カスポファンギンを変換させることにより得られた非晶質プロピオン酸カスポファンギン、例えば非晶質ジプロピオン酸カスポファンギンを上記医薬組成物の製造に使用する。より好ましくは、変換に使用する結晶質プロピオン酸カスポファンギン又は結晶質ジプロピオン酸カスポファンギンを上記のように変換前に加湿窒素で処理するか又は水分に暴露して残留有機溶媒を除去する。
【0139】
本発明は更にプロピオン酸カスポファンギンの製造方法を提供する。
【0140】
従って、1実施形態において、本発明は、
A)塩形態のカスポファンギン、好ましくはカスポファンギン二酢酸を有機溶媒と水の混合物、好ましくはC−Cアルコールと水の混合物である適切な溶媒に溶解させる段階と、
B)段階A)で得られた混合物をプロピオン酸の存在下で逆相HPLCにより精製する段階と、
C)段階B)で得られた画分を凍結乾燥する段階を含むプロピオン酸カスポファンギンの製造方法に関する。
【0141】
段階A)で使用する有機溶媒は好ましくはC−Cアルコール、例えばメタノール又はエタノール等、より好ましくはメタノールである。従って、段階A)で使用する有機溶媒と水の混合物である好ましい溶媒はメタノールと水の混合物である。
【0142】
上記方法において、塩形態のカスポファンギン、例えばカスポファンギン二酢酸は無機酸又は有機酸等の適切な酸、好ましくは有機酸、より好ましくはプロピオン酸の添加により、塩基としてのカスポファンギンを適切な有機溶媒、例えばC−Cアルコール、例えばメタノール又はエタノール、好ましくはメタノールと水の混合物に溶解させることによりin situ製造することができる。
【0143】
段階B)、即ち段階A)で得られた混合物をプロピオン酸の存在下で逆相HPLCにより精製し、高濃度画分を得る段階はアセトニトリルと水とプロピオン酸の混合物をアプライして逆相HPLCカラムから生成物を溶出させることにより実施することができる。アセトニトリルと水の混合物は22アセトニトリル/78水(v/v)混合物に約0.25%プロピオン酸、例えば約0.05%から2.0%、例えば0.1%から1.0%、例えば0.2%から0.5%プロピオン酸を添加したものとすることができる(なお、%は重量百分率である)。逆相HPLCは公知方法に従い、例えばC−8又はC−18逆相吸着剤及びカラム、例えばYMC Europe GmbHの市販品を使用して実施することができる。
【0144】
段階C)、即ち段階B)で得られた画分を凍結乾燥する段階は公知方法と同様に実施することができ、例えば公知方法に従って実施することができる。
【0145】
段階C)で得られる生成物、即ち凍結乾燥物は例えば実施例17で製造するような特にその非晶質形態の本発明のプロピオン酸カスポファンギンであり、同実施例ではこれをカスポファンギンプロピオン酸付加物と称している。
【0146】
別の実施形態において、本発明は上記段階A)からC)に加え、
D)段階C)で得られた凍結乾燥物を有機溶媒と水の混合物、好ましくはC−Cアルコールと水の混合物に溶解させる段階と、
E)プロピオン酸を加えた後、酢酸C−Cアルキルエステル、好ましくは酢酸エチルを加えて懸濁液を得る段階と、
F)段階E)で得られた懸濁液からプロピオン酸カスポファンギンを単離する段階を更に含むプロピオン酸カスポファンギンの製造方法に関する。
【0147】
段階D)で使用する有機溶媒は好ましくはC−Cアルコール、例えばメタノール又はエタノール等、より好ましくはエタノールである。従って、有機溶媒と水の混合物である好ましい溶媒はエタノールと水の混合物である。
【0148】
段階E)で使用する酢酸C−Cアルキルエステルは、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル又は酢酸イソブチル、好ましくは酢酸エチルとすることができる。
【0149】
段階E)、即ちプロピオン酸を加えた後、酢酸C−Cアルキルエステル、好ましくは酢酸エチルを加えて懸濁液を得る段階は例えば以下のように実施することができる。段階D)で得られた混合物にプロピオン酸を加えた後に1回目の酢酸エチルの添加を行い、結晶化が開始するまで室温即ち約25℃±5℃で撹拌し、シード床が形成されるまで例えば約1時間撹拌を続けた後、長時間、例えば約3から約5時間、例えば約4時間かけて2回目の酢酸エチルの添加を行い、得られた結晶懸濁液を例えば約1時間エージングさせる。場合により、溶液にシード添加してもよい。
【0150】
段階F)、即ち段階E)で得られた懸濁液からプロピオン酸カスポファンギンを単離する段階は公知方法に従って実施することができ、例えば結晶懸濁液を濾過して結晶固体を回収し、例えば減圧下に周囲温度、例えば約25℃±5℃等の室温で乾燥し、プロピオン酸カスポファンギン、例えばジプロピオン酸カスポファンギンを得る。場合により、濾過により得られた固体を乾燥前に例えばエタノール、水及び酢酸エチルの混合物で洗浄してもよい。乾燥工程は公知方法に従って窒素流を流すことにより実施してもよい。あるいは、濾過により回収した結晶固体に上記のように例えば相対湿度20%から55%、例えば30%から50%の加湿窒素を流し、残留有機溶媒を除去してもよい。この処理により、プロピオン酸カスポファンギンの残留水分を抑制し、望ましくない分解物の形成を減らすことができる。
【0151】
好ましくは、段階F)で得られるプロピオン酸カスポファンギンはジプロピオン酸カスポファンギンであり、より好ましくは例えば実施例17で製造するようなその結晶質形態の式IIのジプロピオン酸カスポファンギンである。
【0152】
別の実施形態において、本発明は、
A’)塩形態のカスポファンギン、好ましくはカスポファンギン二酢酸を適切な溶媒、好ましくは水に溶解させる段階と、
B’)段階A’)で得られた溶液のpH値を約9.0に調整し、懸濁液を得る段階と、
C)段階B’)で得られた懸濁液を濾過し、場合により得られた生成物を水洗する段階と、
D’)段階C’)で得られた生成物を、プロピオン酸を添加した有機溶媒、好ましくはC−Cアルコールに溶解させ、溶液を得る段階と、
E’)段階D’)で得られた溶液を濾過し、酢酸C−Cアルキルエステル、好ましくは酢酸エチルを加え、懸濁液を得る段階と、
F’)段階E’)で得られた懸濁液からプロピオン酸カスポファンギンを単離する段階を含むプロピオン酸カスポファンギンの製造方法を提供する。
【0153】
段階D’)で使用する有機溶媒は好ましくはC−Cアルコール、例えばメタノール又はエタノール等、より好ましくはエタノールである。
【0154】
段階E’)で使用する酢酸C−Cアルキルエステルは、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル又は酢酸イソブチル、好ましくは酢酸エチルとすることができる。
【0155】
段階E’)は例えば以下のように実施することができる。段階D’)で得られた溶液に1回目の酢酸エチルの添加を行い、結晶化が開始するまで室温即ち約25℃±5℃で撹拌し、シード床が形成されるまで約1時間撹拌を続けた後、長時間、例えば約3から約5時間、例えば約4時間かけて更に酢酸エチルを加え、得られた結晶懸濁液を例えば約1時間エージングさせる。場合により、溶液にシード添加してもよい。
【0156】
段階F’)、即ち段階E’)で得られた懸濁液からプロピオン酸カスポファンギンを単離する段階は例えば同様に濾過及び乾燥により公知方法に従って実施することができ、例えば上記段階F)と同様に実施することができ、例えば同段階に従って実施することができる。
【0157】
好ましくは、段階F’)で得られるプロピオン酸カスポファンギンは例えば実施例18で製造するようなその結晶質形態の例えば式IIのジプロピオン酸カスポファンギンである。
【0158】
更に別の実施形態において、本発明は、
A”)式III:
【0159】
【化5】

の化合物又はその酸付加塩を好ましくは有機溶媒と水の混合物、より好ましくはC−Cアルコールと水の混合物である適切な溶媒に溶解又は懸濁させる段階と、
B”)式IIIの化合物又はその酸付加塩をプロピオン酸の存在下で接触水素化により還元する段階と、
C”)段階B”)で得られた生成物をプロピオン酸の存在下で逆相HPLCにより精製する段階と、
D”)段階C”)で得られた画分を凍結乾燥する段階を含むプロピオン酸カスポファンギンの製造方法を提供する。
【0160】
段階A”)で使用する適切な溶媒は還元に対して不活性である。このような溶媒は当業者が日常的試験で識別することができる。適切な溶媒は例えばC−Cアルコール(例えばメタノール、エタノール又はイソプロパノール)等のアルコール類、N,N−ジメチルホルムアミドやN−メチルピロリドン等のアミド類であり、場合により水と併用する。好ましい適切な溶媒は有機溶媒、より好ましくはC−Cアルコール(例えばエタノール、メタノール又はイソプロパノール)と水の混合物である。更に好ましい溶媒の1例はイソプロパノールと水の混合物である。
【0161】
段階A”)で使用する式IIIの化合物の好ましい酸付加塩は一酢酸塩、即ち式IIIa:
【0162】
【化6】

の化合物である。
【0163】
還元段階B”)は例えば次のように実施することができる。段階A”)で得られた溶液又は懸濁液にプロピオン酸を加え、塩基性物質、例えばアンモニア水でpH値を約6.5に調整する。式IIIの化合物又はその酸付加塩の還元には、任意ニトリル還元剤を使用することができる。好ましくは、接触水素化法を適用する。式IIIの化合物又はその酸付加塩の還元は国際出願WO2007/057141 A1に記載されているような触媒と条件を適用することにより実施することができる。式IIIの化合物は本明細書に援用するWO2007/057141 A1の式VIの化合物に対応する。
【0164】
段階C”)、即ち段階B”)で得られた生成物を逆相HPLCにより精製する段階は次のように実施することができる。段階B”)で還元の完了後、触媒を例えば濾過により反応混合物から除去した後、残った濾液を場合により活性炭で精製する。次に濾液を場合により更に濾過後に蒸発させ、粘性残渣を得、有機溶媒と水の混合物である適切な溶媒に溶解させればよく、ここで有機溶媒は好ましくはC−Cアルコール、例えばメタノール又はエタノール、より好ましくはメタノールである。即ち、段階C”)ではメタノールと水の混合物を使用するのが好ましい。プロピオン酸の存在下での逆相HPLCによる精製は本明細書に記載する段階B)と同様に実施することがてき、例えば同段階に従って実施することができる。
【0165】
段階D”)、即ち段階C”)で得られた画分を凍結乾燥する段階は本明細書に記載する段階C)と同様に実施することがてき、例えば同段階に従って実施することができる。
【0166】
段階D”)で得られる生成物、即ち凍結乾燥物は例えば実施例19で製造するような特にその非晶質形態の本発明のプロピオン酸カスポファンギンであり、同実施例ではこれをカスポファンギンプロピオン酸付加物と称している。
【0167】
別の実施形態において、本発明は上記段階A”)からD”)に加え、
E”)段階D”)で得られた凍結乾燥物を有機溶媒と水の混合物、好ましくはC−Cアルコールと水の混合物に溶解させる段階と、
F”)プロピオン酸を加えた後、酢酸C−Cアルキルエステル、好ましくは酢酸エチルを加えて懸濁液を得る段階と、
G”)段階F”)で得られた懸濁液からプロピオン酸カスポファンギンを単離する段階を更に含むプロピオン酸カスポファンギンの製造方法に関する。
【0168】
段階E”)で使用する有機溶媒は好ましくはC−Cアルコール、例えばメタノール又はエタノール等、より好ましくはエタノールである。従って、段階E”)で使用する有機溶媒と水の混合物である好ましい溶媒はエタノールと水の混合物である。
【0169】
段階F”)で使用する酢酸C−Cアルキルエステルは、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル又は酢酸イソブチル、好ましくは酢酸エチルとすることができる。
【0170】
段階E”)、F”)及びG”)は本明細書に記載する段階D)、E)及びF)と同様に実施することができ、例えばこれらの段階に従って実施することができる。
【0171】
好ましくは、段階G”)で得られるプロピオン酸カスポファンギンは例えば実施例19で製造するようなその結晶質形態のより好ましくは式IIのジプロピオン酸カスポファンギンである。
【0172】
本明細書に記載する方法により得られた結晶質カスポファンギンを水に溶解させた後、得られた溶液を公知方法に従って凍結乾燥すると、その非晶質形態の本発明のプロピオン酸カスポファンギンが得られる。好ましい1態様では、変換に使用する結晶質プロピオン酸カスポファンギン又は結晶質ジプロピオン酸カスポファンギンを上記のように変換前に加湿窒素で処理するか又は水分に暴露して残留有機溶媒を除去する。別の好ましい態様では、得られた非晶質プロピオン酸カスポファンギンは上記範囲内の式Iのカスポファンギンとプロピオン酸の規定モル比を示し、本明細書に記載するような残留有機溶媒含量の低下により特徴付けられる。
【0173】
従って、本発明は上記方法の任意1種により取得可能、好ましくは取得された非晶質又は結晶質形態のプロピオン酸カスポファンギン、好ましくはジプロピオン酸カスポファンギンを提供する。
【0174】
本明細書に記載する方法で出発材料として使用する塩形態、例えば医薬的に許容可能な塩形態のカスポファンギン、例えばカスポファンギン酢酸塩もしくは二酢酸及び/又は塩基としてのカスポファンギンは上記WO94/21677及び/又はWO96/24613に開示の方法と同様に製造することができ、例えばこれらの方法に従って製造することができる。あるいは、本明細書に記載する他の方法で使用するカスポファンギン又はその塩の1種、及び/又は式IIIの化合物、例えば式IIIaの化合物は本明細書に援用する国際出願WO2007/057141 A1に記載されているように製造することができる。式IIIの化合物及び式IIIaの化合物はWO2007/057141 A1の式VIの化合物と式VIaの化合物に夫々対応する。一般に、本明細書に記載する方法では任意公知起源から入手可能な他の任意カスポファンギン塩を出発材料として使用することができる。
【0175】
その結晶質又は非晶質形態の本発明のプロピオン酸カスポファンギン、例えばジプロピオン酸カスポファンギンは医薬として使用することができる。更に、好ましくは式Iのカスポファンギンとプロピオン酸が上記範囲内の規定モル比である特に結晶質形態又は非晶質形態のプロピオン酸カスポファンギン、例えばジプロピオン酸カスポファンギンは、特に哺乳動物、例えばヒト患者における例えばC.albicans、C.tropicalis、C.krusei、C.glabrata及びC.pseudotropicalis等のカンジダ種と、A.fumigatus、A.flavus及びA.niger等のアスペルギルス種により誘発される真菌感染症の予防及び/又は治療用の例えば本発明の医薬組成物の形態の医薬の製造に使用することができる。更に、好ましくは式Iのカスポファンギンとプロピオン酸が上記範囲内の規定モル比である特に結晶質形態又は非晶質形態のプロピオン酸カスポファンギン、例えばジプロピオン酸カスポファンギンは、特に哺乳動物、例えばヒト患者におけるニューモシスチス肺炎等のニューモシスチス・ジロヴェチ(旧分類ニューモシスチス・カリニ)により誘発される感染症の予防及び/又は治療用の例えば本発明の医薬組成物の形態の医薬の製造に使用することができ、免疫抑制状態の患者、例えばエイズ患者である前記患者は特にニューモシスチス肺炎に冒され易い。
【0176】
従って、本発明は医薬としてのその結晶質及び/又は非晶質形態のプロピオン酸カスポファンギンの使用に関する。更に、本発明は真菌感染症及び/又はニューモシスチス・ジロヴェチ(旧分類ニューモシスチス・カリニ)により誘発される感染症の治療及び/又は予防用医薬及び/又は医薬組成物の製造用としての、その結晶質及び/又は非晶質形態のプロピオン酸カスポファンギンの使用に関する。
【0177】
結晶質形態又は非晶質形態の本発明のカスポファンギン塩、即ちプロピオン酸カスポファンギン、例えばジプロピオン酸カスポファンギンは新規形態の活性成分カスポファンギンであるため、カスポファンギン製剤製造の有益な選択肢を当業者に与える。プロピオン酸カスポファンギン、特にジプロピオン酸カスポファンギンは大規模製造を可能にし、良好な安定性と純度を示し、これを含有する対応する医薬組成物を工業的規模で製造する際に取り扱い易いという利点がある。
【0178】
結晶質プロピオン酸カスポファンギン、例えば結晶質ジプロピオン酸カスポファンギンはその安定性、結晶構造及びその凝集体形成性に加え、その易流動性とその易水溶性により、医薬組成物の製造で使用するのに特に有利である。結晶質プロピオン酸カスポファンギンは大規模製造が可能であり、上記ICHガイドラインQ3C(R3)に合致する医薬的に許容可能なレベルに達するように平易な方法により簡便に残留有機溶媒を除去することができる。更に、結晶質プロピオン酸カスポファンギンは本明細書に記載するような平易な方法により、式Iのカスポファンギンとプロピオン酸の化学量論的組成が規定値であり、場合により更に残留有機溶媒含有量の少ない非晶質形態に簡単に変換することができる。
【0179】
非晶質プロピオン酸カスポファンギン、例えば非晶質ジプロピオン酸カスポファンギンは易水溶性を示し、上記方法により高度に純粋な形態、即ち実質的又は完全に残留有機溶媒を含まない形態で得ることができるため、医薬製剤の製造に有利に使用することができる。更に、非晶質プロピオン酸カスポファンギン、例えば非晶質ジプロピオン酸カスポファンギンは大規模製造も可能である。
【0180】
例えば本発明のプロピオン酸カスポファンギンを含有する再構成水溶液形態の好ましくは非経口投与用の医薬組成物は総不純物量及び/又は肉眼では見えない粒子がごく少量であるため、高純度である。更に、本発明の医薬組成物は組成物に含まれるプロピオン酸カスポファンギンの安定性を増進する。
【0181】
以下、実施例により本発明を例証するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。全温度は摂氏で表し、未補正値である。
【実施例】
【0182】
実施例1から5及び14から16において、表1から4及び7から9は凍結乾燥用液体製剤である組成物1から8の成分を示す。
【0183】
実施例6から11では、これらの実施例に記載する分析方法にカスポファンギン塩基52.5mgを充填したバイアルを使用する。超純水10.5mlで希釈後、前記バイアルはカスポファンギン塩基、即ち式Iの化合物5.0mg/mlを含む。従って、各バイアルは5%の過量充填量を含む。
【0184】
(実施例1)(比較例)
EP 0 904 098 B1の実施例1によるカスポファンギン二酢酸と別途量の酢酸緩衝液を含有する組成物1の製造
【0185】
【表2】

【0186】
マンニトール5gとスクロース7.5gを水約200mlに溶解させることにより組成物1の液体製剤を製造した。次にpH値を測定し、酢酸を終濃度1.5mg/mlまで加え、pHを1N NaOHでpH3に調整した。次に、カスポファンギン二酢酸46.6mg/ml又は塩基として計算したカスポファンギン42mg/mlに対応するカスポファンギン二酢酸11.7gを加え、1N NaOHを使用してpHをpH値6.0に調整した。容量を水で250mlに調整し、孔径0.22μmのDurapore(商標)メンブレンを装着したMillex(商標)−GVシリンジ駆動式フィルターユニットで溶液を濾過し、15mlガラスバイアルに1.25mlずつ充填した。Helvoet Pharmaから市販されているような凍結乾燥ストッパーでバイアルを部分的に打栓し、バイアルの底にケーキが形成されるまで凍結乾燥した。凍結乾燥組成物を超純水10.5mlで希釈し、本明細書に記載する分析試験を実施する前に終濃度5.0mg/mlのカスポファンギンを得た。
【0187】
(実施例2及び3)
カスポファンギンと付加的pH調整剤、即ち酢酸を含有する組成物2及び組成物3の製造:
【0188】
【表3】

【0189】
バッチサイズを100mlとし、実施例1に従ってマンニトールとスクロースを溶解させることにより組成物2及び3の液体製剤を製造した。次に、カスポファンギン塩基42mg/mlに対応するカスポファンギン二酢酸46.6mg/mlを加え、pH値を測定した処、6.59であったので、1N酢酸を加えて夫々pH6.0又はpH6.5に調整した。組成物2には、終濃度2.19mmol/lの付加的酢酸又は付加的酢酸とカスポファンギンのモル比0.0569に対応する酢酸0.1315mg/ml(液体製剤の最終容量に基づいて計算)を加えた。水で容量を調整後、pH6.05が得られた。組成物3には、終濃度0.31mmol/lの付加的酢酸又は付加的酢酸とカスポファンギンのモル比0.00813に対応する酢酸0.0188mg/ml(液体製剤の最終容量に基づいて計算)を加えた。水で容量を調整後、pH6.54が得られた。実施例1と同様に容量を水で調整し、即ち最終容量100mlとし、溶液を濾過し、バイアルに充填し、生成物を凍結乾燥した。実施例1と同様に凍結乾燥組成物2及び3の再構成及び/又は希釈を行った。
【0190】
(実施例4)
カスポファンギンを含有し、付加的pH調整剤を含まない組成物4の製造:
【0191】
【表4】

【0192】
バッチサイズを200mlとし、実施例2及び3に従ってマンニトールとスクロースを溶解させることにより組成物4の液体製剤を製造した。次に、カスポファンギン塩基42mg/ml即ちカスポファンギン二酢酸46.6mg/mlを加え、それ以上pH値の調整を行わなかった。実施例1と同様に容量を水で調整し、即ち最終容量200mlとすることによりpH値5.96を得、溶液を濾過し、バイアルに充填し、バイアルを凍結乾燥した。実施例1と同様に凍結乾燥組成物4の再構成及び/又は希釈を行った。
【0193】
(実施例5)
カスポファンギンと別途量の酢酸緩衝液と更にEDTAを含有する組成物5の製造:
【0194】
【表5】

【0195】
実施例1に記載したようにマンニトールとスクロースを溶解させ、酢酸を加え、NaOHの添加によりpHを調整し、カスポファンギン二酢酸を加えることによりバッチサイズ50mlの組成物5の液体製剤を製造した。次に、EDTAナトリウム2水和物0.81mg/ml(最終調整容量に基づいて計算)を加え、1N NaOHでpHをpH6.0に調整した。実施例1と同様に容量を水で調整し、即ち最終容量50mlとすることによりpH値5.99を得、溶液を濾過し、バイアルに充填し、バイアルを凍結乾燥した。実施例1と同様に凍結乾燥組成物5の再構成及び/又は希釈を行った。
【0196】
(実施例6)
総不純物の測定:
凍結乾燥直後、即ち「0週」又は2℃から8℃、即ち平均5℃で2、4、8もしくは12週間保存後に凍結乾燥組成物1から5を分析した。超純水10.5mを加えることにより組成物を再構成した後、UV検出器を使用して逆相HPLC法により総不純物量を分析した(移動相A:トリフルオロ酢酸1.0mlを水2000mlに加える;移動相B:アセトニトリル1600mlと水400mlを混合し、トリフルオロ酢酸1.0mlを加える;溶媒:水/アセトニトリル70/30(v/v);固定相:Silica RP−18、例えばSymmetry C18,3.5μm,100Å−Waters市販品;勾配溶出;流速:1.5ml/min;温度:20℃;UV検出220nm)。定量限界は<0.1%と定義した。このように測定した総不純物量を各種組成物の安定性の指標とした。図1はHPLCにより測定した全ピーク面積の総和(100%に相当)とカスポファンギンについて測定したピーク面積の差を計算することにより求めたピーク面積比(%)として表した総不純物測定値を示す。図1から明らかなように、試験した全製剤は1.7%以下の総不純物を示した。総不純物は5℃保存に比較して25℃保存後のほうが多いようであった(データは示さず)。
【0197】
意外にも、付加的pH調整剤又は酢酸緩衝液を含まない組成物4は同等又は同等以上の安定性を示すようであり、即ち図1に示すように、組成物4は付加的酢酸緩衝液を含む組成物1等の従来の組成物に比較して保存後の総不純物が有意に少なかった。25℃で12週間保存後も、組成物4は組成物1等の従来の組成物よりも総不純物が少なかった(データは示さず)。
【0198】
従来技術文献によると、例えばEP 0 904 098 B1に記載されているような組成物1等の従来の組成物では安定な組成物を得るために付加的緩衝液の存在が不可欠であると教示されているので、これは予想外である。より詳細に説明すると、EP 0 904 098 B1は別の緩衝液即ち酒石酸緩衝液を含む製剤に比較して分解物の少ない安定な製剤を得るためには別途量の酢酸緩衝液の存在が不可欠であると述べている。従って、組成物4等の本発明の組成物が製剤中に緩衝液又はpH調整剤を加えなくても同等に良好又は同等以上に良好な安定性を示すことは意外である。
【0199】
(実施例7)
化合物Iの含量測定(カスポファンギンアッセイ)
凍結乾燥直後、即ち「0週」、又は2℃から8℃、即ち平均5℃で2、4、8もしくは12週間保存後に凍結乾燥組成物1から5を分析した。超純水10.5mを加えることにより組成物を再構成した後、実施例6に記載したようにUV検出器を使用して逆相HPLC法によりカスポファンギンアッセイを分析した。図2はHPLCにより測定した全ピーク面積の総和(100%に相当)と総不純物について測定したピーク面積%の差を計算することにより求めたピーク面積比(%)として表したカスポファンギン含量、即ちカスポファンギンアッセイを示す。このように測定したカスポファンギン含量を各種組成物の安定性の指標とした。即ち、図2から明らかなように、組成物2から4は2から8℃で保存中の安定性が非常に良好であり、組成物1等の従来の組成物と同等であった。付加的pH調整剤を実質的に含まない組成物4は試験期間にわたって最高のカスポファンギン含量を維持したことから、試験した全製剤中で最高の安定性を示すと思われた。経時的な安定性の低下、即ちカスポファンギン含量の有意低下は確認されなかった。25℃で保存した場合にも同様の結果が確認され、組成物4は全試験期間にわたって最高のカスポファンギン含量を示したが、試験した全製剤で経時的に約0.5%から約1%の僅かなカスポファンギン減少が認められた(データは示さず)。25℃で保存した場合も、本発明の組成物、特に付加的pH調整剤を実質的に含まない組成物4等の組成物は良好な安定性を示した。実施例6で既に述べたように、従来技術は安定な組成物を得るために付加的緩衝液の存在が重要であると教示しているので、この知見は意外であった。
【0200】
(実施例8)
残留水分(KF含水率)の測定
凍結乾燥直後又は夫々2℃から8℃、即ち平均5℃で2、4、8もしくは12週間保存後、又は25℃で1、2、4、8もしくは12週間保存後に凍結乾燥組成物1から5を分析した。USP<921>method Ic及びPh.Eur.2.5.32に従い、カールフィッシャーの電量法により残留水分を測定した。組成物1から5の残留水分値は約0.2%から約2.3%であった。25℃で保存後のほうが数値は高くなる傾向がある。一般に、試験したサンプルの残留水分は組成物の品質に負の影響を与えるとは予想されなかった。
【0201】
(実施例9)
比濁計濁度単位(NTU)の測定
凍結乾燥直後又は夫々2℃から8℃、即ち平均5℃で2、4、8もしくは12週間保存後、又は25℃で1、2、4、8もしくは12週間保存後に凍結乾燥組成物1から5を分析した。超純水10.5mを加えることにより組成物を再構成した後、Pharm.Eur.5th ed.,Chapter 2.2.1の方法に従って溶液の透明度を分析した。結果を同書に記載の方法に従って比濁計濁度単位(NTU)で示す。NTUは再構成溶液中の肉眼で見える粒子の量を表す。5℃又は25℃で保存した全組成物のNTU値は時間が経過しても3.0未満であり、従って、組成物1から5の再構成溶液はいずれも透明であり、即ちこれらの溶液は目に見える粒子を含んでいなかった。
【0202】
(実施例10)
凍結乾燥後に再構成した溶液のpH値の測定
凍結乾燥直後又は夫々2℃から8℃、即ち平均5℃で2、4、8もしくは12週間保存後、又は25℃で1、2、4、8もしくは12週間保存後に凍結乾燥組成物1から5を分析した。超純水10.5mを加えることにより組成物を再構成した後、該当pH範囲に校正した標準実験室pHメーターを使用してpH値を分析し、測定は公知電位差滴定原理に従って実施した。5℃で保存中に、組成物3のpH値は6.9から7であったが、それ以外の試験した製剤のpH値は全て6.5から6.7であった。25℃で保存した場合には、やはり組成物3のpH値は6.9から約7.2であったが、それ以外の試験した製剤のpH値は6.2から約6.6であった。即ち、本発明の大半の組成物のpH値は従来の組成物1と同等であった。
【0203】
(実施例11)
肉眼では見えない粒子の測定
凍結乾燥直後、即ち「0週」、又は2℃から8℃、即ち平均5℃で2、4、8もしくは12週間保存後に凍結乾燥組成物1から5を分析した。超純水10.5mを加えることにより組成物を再構成した後、USP 27,<788>Particulate matter in injections:Light Obscuration Particle Count testに従って粒子数を測定することにより、肉眼では見えない粒子を分析した。組成物1から4では、総容量31.5mlに対応するバイアル3本を1回の測定用にプールした。組成物5では、USP 27,<788>Particulate matter:Light Obscuration Particle Count Test及びPharm.Eur.5th ed,2.9.19.Light Obscuration Particle Count Testの方法に従ってバイアル10本をプールした。肉眼では見えない粒子の測定には、1回の測定にバイアルを3本プールするか10本プールするかは重要でないと思われた。図3及び4は組成物1から5で測定したバイアル1本当たりの夫々寸法>10μm及び>25μmの肉眼では見えない粒子数として結果を示す。図3及び4に明示されるように、4週間後に測定した値は測定アーチファクトによる外れ値の可能性が高く、例外であるが、付加的pH調整剤を実質的に含まない組成物4は意外にも保存中に従来の組成物1を含む他の全組成物に比較してバイアル1本当たりの寸法>10μm又は>25μmの肉眼では見えない粒子数の有意低下を示した。25℃で12週間保存した場合にも、組成物4は従来の組成物1に比較してバイアル1本当たりの寸法>10μm又は>25μmの肉眼では見えない粒子数の有意低下を示した(データは示さず)。更に意外なことに、組成物4は公知粒子形成抑制剤EDTAを含有する組成物5に比較しても肉眼では見えない粒子数の有意低下を示した。
【0204】
図3及び4から明らかなように、別途量のpH調整剤を含有する本発明の組成物である組成物2及び3の結果は相互間及び保存中に変動を示した。図4から明らかなように、組成物2及び3は従来の組成物1に比較してバイアル1本当たりの寸法>25μmの肉眼では見えない粒子が少なかった。バイアル1本当たりの寸法>10μmの肉眼では見えない粒子数は組成物1で観測された数値とほぼ同等であると思われた。25℃で12週間保存した場合には、組成物2及び3は従来の組成物1に比較してバイアル1本当たりの寸法>10μm又は>25μmの肉眼では見えない粒子数の低下を示した(データは示さず)。
【0205】
(実施例12)
分解物CAF−42の測定
凍結乾燥直後、即ち「0週」、又は2℃から8℃、即ち平均5℃もしくは25℃で12週間保存後に凍結乾燥組成物1から4を分析した。超純水10.5mを加えることにより組成物を再構成した後、メチレンジアミンがカスポファンギン分子から分離するときに形成されるカスポファンギンの主分解物であるCAF−42の有無を実施例6に記載したような逆相HPLC法により分析した。実施例6に記載したようなクロマトグラフィーパラメーターを適用してRRT(相対保持時間)1.98におけるピークの積分によりCAF−42をHPLCにより測定した。定量限界は<0.1%と定義した。RRT 1.98におけるピーク面積とピーク面積≧0.1%の全ピークのピーク面積の和の比を計算することにより求められる相対ピーク面積(%)としてCAF−42を表す。下表5は保存中に測定した分解物CAF−42の量を示す。
【0206】
【表6】

【0207】
表5から明らかなように、特に組成物4は2から8℃及び25℃のいずれでも12週間保存した場合に組成物1等の従来のカスポファンギン組成物に比較してカスポファンギンの主分解物であるCAF−42の形成の有意低減を示した。25℃での12週間保存は米国行政当局から販売認可を得るために申請される医薬品の医薬安定性を試験するのに適したストレス条件として当局により認められている。従って、例えば酢酸等の付加的pH調整剤を含まない組成物4は例えばEP 0 904 098 B1に記載されているような組成物1等の従来の組成物に比較して分解物CAF−42の形成が少ないという点で良好な安定性を示し、この良好な安定性は保存中にも維持された。実施例6に既に記載したように、望ましくない分解物生成の少ない安定なカスポファンギン製剤を得るためには付加的酢酸緩衝液の存在が不可欠であることを教示しているEP 0 904 098 B1に照らすと、この知見は意外である。
【0208】
(実施例13)
不純物CAF−二量体1の測定
凍結乾燥直後、即ち「0週」、又は2℃から8℃、即ち平均5℃もしくは25℃で12週間保存後に凍結乾燥組成物1から4を分析した。超純水10.5mを加えることにより組成物を再構成した後、保存中にカスポファンギン組成物中に形成される可能性のある不純物CAF−二量体1の量を実施例6に記載したような逆相HPLC法により分析した。実施例6に記載したようなクロマトグラフィーパラメーターを適用してRRT(相対保持時間)2.41によりCAF−二量体1を測定した。定量限界は<0.1%と定義した。RRT 2.41におけるピーク面積とピーク面積≧0.1%の全ピークのピーク面積の和の比を計算することにより求められる相対ピーク面積(%)としてCAF−二量体1を表す。下表6は保存中に測定した不純物CAF−二量体1の量を示す。
【0209】
【表7】

【0210】
表6から明らかなように、特に組成物4は2から8℃及び25℃のいずれでも12週間保存した場合に組成物1等の従来のカスポファンギン組成物に比較して不純物CAF−二量体2の形成の有意低減を示した。従って、例えば酢酸等の付加的pH調整剤を含まない組成物4は付加的酢酸緩衝液を含有する組成物1等の従来のカスポファンギン製剤に比較して不純物CAF−二量体1の形成が少ないという点で高純度を示し、この高純度は保存中にも維持された。
【0211】
(実施例14)
カスポファンギンを含有し、付加的pH調整剤を含まない組成物6の製造:
【0212】
【表8】

【0213】
バッチサイズを200mlとし、実施例4に従ってマンニトールとスクロースを溶解させることにより組成物6の液体製剤を製造した。次に、カスポファンギン塩基42mg/ml、即ちカスポファンギン二酢酸46.6mg/mlを加え、それ以上pH値の調整を行わなかった。実施例1と同様に容量を水で調整し、即ち最終容量200mlとすることによりpH値5.96を得、溶液を濾過し、バイアルに充填し、バイアルを凍結乾燥した。実施例1とは異なり、溶液1.75mlをバイアルに充填した。超純水10.5mlを加えて終濃度7.0mg/mlのカスポファンギンを得ることにより、実施例1と同様に凍結乾燥組成物6の再構成及び/又は希釈を行った。
【0214】
(実施例15)
カスポファンギンと付加的pH調整剤、即ち酢酸を含有する組成物7の製造:
【0215】
【表9】

【0216】
バッチサイズを40mlとし、実施例1に従ってマンニトールとスクロースを溶解させることにより組成物7の液体製剤を製造した。次に、カスポファンギン塩基42mg/mlに対応するカスポファンギン二酢酸46.6mg/mlを加え、pH値を測定した処、5.68であったので、1.25N酢酸を加えてpH5.0に調整した。組成物7には、最終モル濃度13.75mmol/lの付加的酢酸又は付加的酢酸とカスポファンギンのモル比0.179に対応する酢酸0.82mg/ml(液体製剤の最終容量に基づいて計算)を加えた。水で容量を調整、即ち最終容量40mlとした後、pH5.00が得られた。実施例1と同様に溶液を濾過し、バイアルに充填し、生成物を凍結乾燥した。実施例1と同様に凍結乾燥組成物7の再構成及び/又は希釈を行った。
【0217】
夫々実施例8、9、10、11及び12に記載した方法に準拠する方法により以下の分析結果が得られた。なお、残留水分は凍結乾燥直後に測定し、NTU、pH、肉眼では見えない粒子及びCAF−42は凍結乾燥製剤の再構成直後に測定した。
残留水分(KF):0.6%
NTU:0.1
pH:5.6
>10μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり143個
>25μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり12個
CAF−42は0.15%であることが判明し、それ以外に≧0.1%の他の分解物は検出されなかった。
【0218】
(実施例16)
カスポファンギンと付加的pH調整剤、即ち酢酸/水酸化ナトリウムを含有する組成物8の製造:
【0219】
【表10】

【0220】
バッチサイズを40mlとし、実施例1に従ってマンニトールとスクロースを溶解させることにより組成物8の液体製剤を製造した。次に、カスポファンギン塩基42mg/mlに対応するカスポファンギン二酢酸46.6mg/mlを加え、pH値を測定した処、5.68であったので、水酸化ナトリウム/酢酸を加えてpH7.0に調整した。水で容量を調整、即ち最終容量40mlとした後、pH6.84が得られた。実施例1と同様に溶液を濾過し、バイアルに充填し、生成物を凍結乾燥した。実施例1と同様に凍結乾燥組成物8の再構成及び/又は希釈を行った。
【0221】
夫々実施例8、9、10、11及び12に記載した方法に準拠する方法により以下の分析結果が得られた。なお、残留水分は凍結乾燥直後に測定し、NTU、pH、肉眼では見えない粒子及びCAF−42は凍結乾燥製剤の再構成直後に測定した。
残留水分(KF):0.67%
NTU:0.2
pH:6.7
>10μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり338個
>25μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり19個
CAF−42は0.26%であることが判明し、それ以外に≧0.1%の他の分解物は検出されなかった。
【0222】
(実施例17)
分取HPLCによるジプロピオン酸カスポファンギンの製造
カスポファンギン二酢酸(3.5g)をメタノール(50ml)と水(250ml)に溶解させ、YMC Europe GmbHから市販されているような逆相C−8カラムとC−8吸着剤を使用して分取HPLCにより精製した。約0.25%プロピオン酸(なお、%は重量百分率である)を添加した22アセトニトリル/78水(v/v)混合物を使用して生成物を溶出させた。高濃度画分をプールし、凍結乾燥し、非晶質白色固体としてカスポファンギンプロピオン酸付加物(3.7g)を得た。
【0223】
凍結乾燥物(3.7g)を25℃のエタノール(33.3ml)と水(3.7ml)に溶解させた。不溶分を濾別した。プロピオン酸(224μl)を濾液に加えた。次に酢酸エチル(44.4ml)を30分以内加え、結晶化が生じるまで混合物を25℃で撹拌した後、更に約1時間撹拌した。更に酢酸エチル(29.6ml)を4時間加え、結晶懸濁液を1時間エージングさせた。結晶質固体を濾別し、エタノール/水/酢酸エチル(18ml/2.2ml/40ml)混合物で洗浄した。湿潤ケーキを周囲温度で減圧乾燥し、結晶質ジプロピオン酸カスポファンギン2.5gを得た。
カスポファンギンアッセイ:82.6%(HPLC,遊離塩基として計算)
含水率:5.5%(カールフィッシャー法による,クーロメーターオーブン/110℃)
プロピオン酸:10.5%(HPLC)。
【0224】
得られた生成物のXRPDパターンを図5に示す。H−NMRデータと13C−NMRデータを表10に示す。
【0225】
方法:
カスポファンギンアッセイ用HPLCは以下の条件を適用することにより公知方法に従って実施した:カラム:YMC−Pack ODS−AQ,S−3μm,12nm,150×4.6mm,流速:1.6ml,カラム温度:25℃,波長:210nm,
溶離液A:40mMスルファミン酸
溶離液B.水/アセトニトリル/メタノール=250/550/30(w/w/w)中40mMスルファミン酸
【0226】
【表11】

【0227】
プロピオン酸測定用HPLC:カラム:Aquasil C 18,5μm,100Å(オングストローム単位),250×4.6mm,流速:1.0ml/min,カラム温度:40℃,波長:220nm
溶離液A:10mMスルファミン酸
溶離液B:アセトニトリル
【0228】
【表12】

【0229】
エタノール:2.46%ガスクロマトグラフィー,カラムDB−WAX,30m×0,53mm ID,1.0μm層,流速:2.5ml He/min,検出器:FID 250℃,インジェクター:200℃,ヘッドスペースサンプラー。
【0230】
【表13】

【0231】
X線粉末回折(XRPD)パターンは以下の条件下で測定した:機器:X−Ray Powder Diffractometer D−8(AXS−BRUKER),θ−θ角度計,サンプルチェンジャー,ターゲット:銅,Kα1+Kα2波長:0.15406nm,平行ビーム光学系(受光側ソーラスリット:0.07mm),エネルギー分散型計数器,標準サンプルホルダー。データ収集:40kV,40mA,連続スキャン2−40°θ/2θ,ステップサイズ:0.01,計数時間2秒;周囲条件(20℃±5℃,及び湿度30%−60%)。
【0232】
(実施例18)
カスポファンギン塩基を経由するジプロピオン酸カスポファンギンの製造
カスポファンギン二酢酸(5.0g)を水(400ml)に溶解させた。1N NaOHをゆっくりと加えることにより溶液のpH値を注意深く9.0に調整した。得られた懸濁液を30分間撹拌した後、濾過した。フィルターケーキを十分に水洗した。プロピオン酸(616μl)を添加したエタノール(36.0ml)に湿潤生成物を溶解させた。溶液を活性炭(0.5g)で処理し、濾過した。酢酸エチル(60ml)を30分以内濾液に加えた後、シード添加し、1時間25℃で撹拌した。更に酢酸エチル(40ml)を4時間加え、結晶懸濁液を1時間エージングさせた。固形分を濾別し、周囲温度で減圧乾燥し、結晶質ジプロピオン酸カスポファンギン3.4gを得た。
【0233】
(実施例19)
分取HPLCによるジプロピオン酸カスポファンギンの製造
本明細書に援用する国際出願WO2007/057141 A1の実施例7及び実施例9に従い、本明細書に記載する式IIIaの化合物を製造した。式IIIaの化合物はWO2007/057141 A1の式VIaの化合物に対応する。式IIIaの化合物1gを2−プロパノール(24ml)と水(4ml)の混合物に溶解させた。プロピオン酸(4.4ml)と25%アンモニア水(2.2g)を加え、pH値が約6.5の溶液を得た。5%Rh/Al(100mg)の添加後、出発材料が0.5%未満になるまで混合物を大気圧で水素雰囲気下に30℃で激しく撹拌した。触媒を濾別し、濾液に活性炭(100mg)を加えて撹拌した。懸濁液を濾過し、濾液を蒸発させた。残渣をメタノール(12.5ml)と水(62.5ml)に溶解させ、YMC Europe GmbHから市販されているような逆相C−8カラムを使用して分取HPLCにより精製した。約0.25%プロピオン酸(なお、%は重量百分率である)を添加した22アセトニトリル/78水(v/v)混合物を使用して生成物を溶出させた。高濃度画分をプールし、凍結乾燥し、非晶質白色固体としてカスポファンギンプロピオン酸付加物(0.8g)を得た。
【0234】
実施例17に記載したように凍結乾燥物を結晶化させ、単離し、乾燥し、結晶質ジプロピオン酸カスポファンギン0.55gを得た。
【0235】
(実施例20)
ジプロピオン酸カスポファンギンを含有する医薬組成物の製造
【0236】
【表14】

【0237】
マンニトールとスクロースを水に溶解させて夫々の濃度が40mg/ml及び60mg/mlの溶液とし、得られた混合物5mlをガラスビーカーに加え、154.2mg/mlプロピオン酸120μlを加えてpH3.21とし、1N NaOH 10μlの添加によりpHを3.64に調整することにより液体組成物を製造した。実施例17に記載したように製造した結晶質ジプロピオン酸カスポファンギン(アッセイ78.6%)533.3mgを加え、塩基として計算したカスポファンギン42mg/mlに対応する終濃度とした。ジプロピオン酸カスポファンギンの溶解後、pH5.08が得られ、1N NaOH 60μlの添加により6.0に調整した。溶液を10ml容量フラスコに移し、水を加えて最終容量10mlとし、容量フラスコの重量計量により測定した処、最終溶液は周囲温度で密度1.02396g/mlであった。Eppendorf Multipette(商標)を使用してISO GmbH,Bad Konigshofen,Germanyから市販されているような6Rガラスバイアルに溶液476μlを移した。バイアルを部分的に打栓し、バイアルの底にケーキが形成されるまで凍結乾燥し、凍結乾燥はChrist Epsilon 2−6D(商標)フリーズドライヤーとして市販されているような凍結乾燥機を使用して実施した。要約すると、凍結乾燥は以下のように実施した。ガラスバイアルを60分間5℃で保存した。温度を50分以内に+5℃から−45℃まで下げた。温度を−45℃に150分間維持し、0.04mbarの真空度で引くことにより一次乾燥を開始した。温度を5分間以内に−40℃まで上げた。一次乾燥は温度−40℃の温度と0.04mbarの真空度を960分間保持することにより実施した。二次乾燥では、真空度を0.011mbarまで下げた。1K/minのランプ速度で温度を+15℃まで上げた。二次乾燥は+15℃にて真空度0.011mbarで3時間以内実施した。
【0238】
各凍結乾燥バイアルの処方はカスポファンギン塩基20mgに対応するジプロピオン酸カスポファンギン22.7mg、マンニトール9.5mg、スクロース14.3mg及びプロピオン酸0.88mgとした。超純水4.0mlを加えることにより再構成を行い、カスポファンギン終濃度が5.0mg/mlであり、高純度、即ち総不純物量が約1.30%(下記のようにHPLCにより測定)である再構成溶液を得た。超純水とは超純水精製システム、例えばMillipore Gradient A10とUVランプ及び限外濾過から得られる水である。超純水は注射用水USP及びPh.Eur.と同等の性質をもつ。再構成溶液のpHは6.4であった。>10μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり390個;>25μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり18個(肉眼では見えない粒子はUSP 29,<788>Particulate matter in injections:Light Obscuration Particle Count testに従って測定し、バイアル3本を各々水4mlで再構成し、得られた溶液をFalcon(商標)管に移し、粒状物を含まない水を加えて約30mlとした)。
【0239】
総不純物測定のためのHPLC:
UV検出器を利用して逆相HPLCによる(移動相A:スルファミン酸0.61gを水767.5gとアセトニトリル182.8gに溶解させた;移動相B:スルファミン酸0.15gを水250gとアセトニトリル589.5gに溶解させた);溶媒:スルファミン酸/水/アセトニトリル0.61g/930ml/70ml;カラム,150×4.6mm ID;固定相:Silica RP−18、例えばWaters Corporation,Massachusetts,USAから市販されているようなSymmetry C18,3.5μm,100Å(オングストローム単位);勾配溶出;流速:1.5ml/min;温度:25℃;UV検出210nm。定量限界は<0.1%と定義した。カスポファンギン参照溶液を使用して同類カスポファンギン物質に相当する試験溶液中の全ピークを評価した。
【0240】
(実施例21)
ジプロピオン酸カスポファンギンを含有する医薬組成物の製造
【0241】
【表15】

【0242】
マンニトールとスクロースを水に溶解させて夫々の濃度が40mg/ml及び60mg/mlの溶液とし、得られた混合物5mlをガラスビーカーに加え、実施例17に記載したように製造した結晶質ジプロピオン酸カスポファンギン(アッセイ78.6%)533.3mgを加え、塩基として計算したカスポファンギン42mg/mlに対応する終濃度とすることにより液体組成物を製造した。ジプロピオン酸カスポファンギンは約3分以内に溶解し、pH値6.99が得られた。1.25Nプロピオン酸溶液25μlの添加によりpH値を6.0に調整した。得られた溶液に水を加えて最終容量10mlとした。Eppendorf Multipette(商標)を使用してISO GmbH,Bad Konigshofen,Germanyから市販されているような10Rガラスバイアルにこの溶液476μlを移した。バイアルを部分的に打栓し、バイアルの底にケーキが形成されるまで凍結乾燥し、凍結乾燥はChrist Epsilon 2−6D(商標)フリーズドライヤーとして市販されているような凍結乾燥機を使用し、実施例20に記載した手順を適用することにより実施した。各凍結乾燥バイアルの組成はカスポファンギン塩基20mgに対応するジプロピオン酸カスポファンギン22.7mgと、マンニトール9.5mgと、スクロース14.3mgと、プロピオン酸0.1102mgであった。超純水4.0mlを加えることにより再構成を行い、カスポファンギン終濃度が5.0mg/mlであり、高純度、即ち総不純物量が約0.65%(実施例20に記載したようなHPLC)である再構成溶液を得た。再構成溶液のpHは6.2であった。>10μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり226個;>25μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり5個(肉眼では見えない粒子は実施例20に記載したように、USP 29,<788>Particulate matter in injections:Light Obscuration Particle Count testに従う方法により測定した)。
【0243】
実施例17に記載したように測定した凍結乾燥製剤のXRPDパターンを図6に示す。
【0244】
(実施例22)
ジプロピオン酸カスポファンギンを含有する医薬組成物の製造
【0245】
【表16】

【0246】
マンニトールとスクロースを水に溶解させて夫々の濃度が40mg/ml及び60mg/mlの溶液とし、得られた混合物5mlをガラスビーカーに加え、実施例17に記載したように製造した結晶質ジプロピオン酸カスポファンギン(アッセイ78.6%)533.3mgを加え、塩基として計算したカスポファンギン42mg/mlに対応する終濃度とすることにより液体組成物を製造した。ジプロピオン酸カスポファンギンは約3分以内に溶解し、pH値6.99が得られた。得られた溶液に水を加えて最終容量10mlとした。Eppendorf Multipette(商標)を使用して10Rガラスバイアルにこの溶液476μlを移した。バイアルを部分的に打栓し、バイアルの底にケーキが形成されるまで凍結乾燥し、凍結乾燥はChrist Epsilon 2−6D(商標)フリーズドライヤーとして市販されているような凍結乾燥機を使用し、実施例20に記載した手順を適用することにより実施した。各凍結乾燥バイアルの処方はカスポファンギン塩基20mgに対応するジプロピオン酸カスポファンギン22.7mg、マンニトール9.5mg及びスクロース14.3mgとした。超純水4.0mlを加えることにより再構成を行い、カスポファンギン終濃度が5.0mg/mlであり、高純度、即ち総不純物量が約0.95%(実施例20に記載したようなHPLC)である再構成溶液を得た。再構成溶液のpHは6.3であった。>10μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり315個;>25μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり8個(肉眼では見えない粒子は実施例20に記載したように、USP 29,<788>Particulate matter in injections:Light Obscuration Particle Count testに従う方法により測定した)。
【0247】
(実施例23)
ジプロピオン酸カスポファンギンを含有する医薬組成物の製造
実施例20に記載したように調製し、水を加えて最終容量10mlとした溶液1.25mlをEppendorf Multipette(商標)により10Rガラスバイアルに移した。バイアルを部分的に打栓し、バイアルの底にケーキが形成されるまで凍結乾燥し、凍結乾燥はChrist Epsilon 2−6D(商標)フリーズドライヤーとして市販されているような凍結乾燥機を使用し、実施例20に記載した手順を適用することにより実施した。処理時間は一次乾燥工程と二次乾燥工程の完了を確保するように調整し、即ち生成物温度が棚温度に達するまで処理工程を延長した。各凍結乾燥バイアルの処方はカスポファンギン塩基52.5mgに対応するジプロピオン酸カスポファンギン59.6mg、マンニトール25mg、スクロース37.5mg及びプロピオン酸2.31mgとした。超純水10.5mlを加えることにより再構成を行い、カスポファンギン終濃度が5.0mg/mlであり高純度、即ち総不純物量が約1.1%(実施例20に記載したようなHPLC)である再構成溶液を得た。再構成溶液のpHは6.4であった。>10μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり512個;>25μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり16個(肉眼では見えない粒子は実施例20に記載したように、USP 29,<788>Particulate matter in injections:Light Obscuration Particle Count testに従う方法により測定し、バイアル3本を各々水10.5mlで再構成し、得られた溶液をFalcon(商標)管に移した)。
【0248】
(実施例24)
ジプロピオン酸カスポファンギンを含有する医薬組成物の製造
実施例20に記載したように調製し、水を加えて最終容量10mlとした溶液1.75mlをEppendorf Multipette(商標)により10Rガラスバイアルに移した。バイアルを部分的に打栓し、バイアルの底にケーキが形成されるまで凍結乾燥し、凍結乾燥はChrist Epsilon 2−6D(商標)フリーズドライヤーとして市販されているような凍結乾燥機を使用し、実施例20に記載した手順を適用することにより実施した。処理時間は一次乾燥工程と二次乾燥工程の完了を確保するように調整し、即ち生成物温度が棚温度に達するまで処理工程を延長した。各凍結乾燥バイアルの処方はカスポファンギン塩基73.5mgに対応するジプロピオン酸カスポファンギン83.5mg、マンニトール35mg、スクロース52.5mg及びプロピオン酸3.24mgとした。超純水10.5mlを加えることにより再構成を行い、カスポファンギン終濃度が7.0mg/mlであり、高純度、即ち総不純物量が約1.0%(実施例20に記載したようなHPLC)である再構成溶液を得た。再構成溶液のpHは6.5であった。>10μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり485個;>25μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり12個(肉眼では見えない粒子は実施例20に記載したように、USP 29,<788>Particulate matter in injections:Light Obscuration Particle Count testに従う方法により測定し、バイアル3本を各々水10.5mlで再構成し、得られた溶液をFalcon(商標)管に移した)。
【0249】
(実施例25)
ジプロピオン酸カスポファンギンを含有する医薬組成物の製造
実施例21に記載したように調製し、水を加えて最終容量10mlとした溶液1.25mlをEppendorf Multipette(商標)により10Rガラスバイアルに移した。バイアルを部分的に打栓し、バイアルの底にケーキが形成されるまで凍結乾燥し、凍結乾燥はChrist Epsilon 2−6D(商標)フリーズドライヤーとして市販されているような凍結乾燥機を使用し、実施例20に記載した手順を適用することにより実施した。処理時間は一次乾燥工程と二次乾燥工程の完了を確保するように調整し、即ち生成物温度が棚温度に達するまで処理工程を延長した。各凍結乾燥バイアルの処方はカスポファンギン塩基52.5mgに対応するジプロピオン酸カスポファンギン59.6mg、マンニトール25mg、スクロース37.5mg及びプロピオン酸0.29mgとした。超純水10.5mlを加えることにより再構成を行い、カスポファンギン終濃度が5.0mg/mlであり、高純度、即ち総不純物量が約1.1%(実施例20に記載したようなHPLC)である再構成溶液を得た。再構成溶液のpHは6.4であった。>10μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり512個;>25μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり16個(肉眼では見えない粒子は実施例20に記載したように、USP 29,<788>Particulate matter in injections:Light Obscuration Particle Count testに従う方法により測定し、バイアル3本を各々水10.5mlで再構成し、得られた溶液をFalcon(商標)管に移した)。
【0250】
(実施例26)
ジプロピオン酸カスポファンギンを含有する医薬組成物の製造
実施例21に記載したように調製し、水を加えて最終容量10mlとした溶液1.75mlをEppendorf Multipette(商標)により10Rガラスバイアルに移した。バイアルを部分的に打栓し、バイアルの底にケーキが形成されるまで凍結乾燥し、凍結乾燥はChrist Epsilon 2−6D(商標)フリーズドライヤーとして市販されているような凍結乾燥機を使用し、実施例20に記載した手順を適用することにより実施した。処理時間は一次乾燥工程と二次乾燥工程の完了を確保するように調整し、即ち生成物温度が棚温度に達するまで処理工程を延長した。各凍結乾燥バイアルの処方はカスポファンギン塩基73.5mgに対応するジプロピオン酸カスポファンギン83.5mg、マンニトール35mg、スクロース52.5mg及びプロピオン酸0.40mgとした。超純水10.5mlを加えることにより再構成を行い、カスポファンギン終濃度が7.0mg/mlであり、高純度、即ち総不純物量が約1.2%(実施例20に記載したようなHPLC)である再構成溶液を得た。再構成溶液のpHは6.4であった。>10μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり615個;>25μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり21個(肉眼では見えない粒子は実施例20に記載したように、USP 29,<788>Particulate matter in injections:Light Obscuration Particle Count testに従う方法により測定し、バイアル3本を各々水10.5mlで再構成し、得られた溶液をFalcon(商標)管に移した)。
【0251】
(実施例27)
ジプロピオン酸カスポファンギンを含有する医薬組成物の製造
実施例22に記載したように調製し、水を加えて最終容量10mlとした溶液1.25mlをEppendorf Multipette(商標)により10Rガラスバイアルに移した。バイアルを部分的に打栓し、バイアルの底にケーキが形成されるまで凍結乾燥し、凍結乾燥はChrist Epsilon 2−6D(商標)フリーズドライヤーとして市販されているような凍結乾燥機を使用し、実施例20に記載した手順を適用することにより実施した。処理時間は一次乾燥工程と二次乾燥工程の完了を確保するように調整し、即ち生成物温度が棚温度に達するまで処理工程を延長した。各凍結乾燥バイアルの処方はカスポファンギン塩基52.5mgに対応するジプロピオン酸カスポファンギン59.6mg、マンニトール25mg及びスクロース37.5mとした。超純水10.5mlを加えることにより再構成を行い、カスポファンギン終濃度が5.0mg/mlであり、高純度、即ち総不純物量が約1.3%(実施例20に記載したようなHPLC)である再構成溶液を得た。再構成溶液のpHは6.5であった。>10μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり395個;>25μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり13個(肉眼では見えない粒子は実施例20に記載したように、USP 29,<788>Particulate matter in injections:Light Obscuration Particle Count testに従う方法により測定し、バイアル3本を各々水10.5mlで再構成し、得られた溶液をFalcon(商標)管に移した)。
【0252】
(実施例28)
ジプロピオン酸カスポファンギンを含有する医薬組成物の製造
実施例22に記載したように調製し、水を加えて最終容量10mlとした溶液1.75mlをEppendorf Multipette(商標)により10Rガラスバイアルに移した。バイアルを部分的に打栓し、バイアルの底にケーキが形成されるまで凍結乾燥し、凍結乾燥はChrist Epsilon 2−6D(商標)フリーズドライヤーとして市販されているような凍結乾燥機を使用し、実施例20に記載した手順を適用することにより実施した。処理時間は一次乾燥工程と二次乾燥工程の完了を確保するように調整し、即ち生成物温度が棚温度に達するまで処理工程を延長した。各凍結乾燥バイアルの処方はカスポファンギン塩基73.5mgに対応するジプロピオン酸カスポファンギン83.5mg、マンニトール35mg及びスクロース52.5mgとした。超純水10.5mlを加えることにより再構成を行い、カスポファンギン終濃度が7.0mg/mlであり、高純度、即ち総不純物量が約0.9%(実施例20に記載したようなHPLC)である再構成溶液を得た。再構成溶液のpHは6.4であった。>10μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり587個;>25μmの肉眼では見えない粒子:バイアル1本当たり23個(肉眼では見えない粒子は実施例20に記載したように、USP 29,<788>Particulate matter in injections:Light Obscuration Particle Count testに従う方法により測定し、バイアル3本を各々水10.5mlで再構成し、得られた溶液をFalcon(商標)管に移した)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)医薬的に許容可能なカスポファンギン塩、
b)前記カスポファンギン塩の0.3モル当量未満の量の付加的pH調整剤、及び
c)凍結乾燥ケーキを形成するために有効な医薬的に許容可能な量の賦形剤、好ましくは増量剤
を含有する医薬組成物。
【請求項2】
医薬的に許容可能なカスポファンギン塩が酢酸、クエン酸、酒石酸、プロピオン酸、琥珀酸、蓚酸、リンゴ酸、マレイン酸、乳酸、グルタミン酸又はパモ酸から選択される有機酸との酸付加塩である請求項1の医薬組成物。
【請求項3】
医薬的に許容可能なカスポファンギン塩がカスポファンギン二酢酸である請求項1又は2の医薬組成物。
【請求項4】
カスポファンギン塩と付加的pH調整剤のモル比が4:1を上回り、特に10:1を上回る請求項1から3のいずれかの医薬組成物。
【請求項5】
付加的pH調整剤が酢酸である請求項1から4のいずれかの医薬組成物。
【請求項6】
増量剤が1種類以上の増量剤から構成される請求項1から5のいずれかの医薬組成物。
【請求項7】
増量剤がマンニトール、スクロース又はその組み合わせである請求項7の医薬組成物。
【請求項8】
a)カスポファンギン塩基として計算したカスポファンギン約0.1mg/mlから約500mg/ml、好ましくは約20mg/mlから約60mg/ml、
b)約5から約7、好ましくは約5.5から約6.5のpH値を得るために有効な医薬的に許容可能な量のpH調整剤、好ましくは酢酸、
c)凍結乾燥ケーキを形成するために有効な増量剤、好ましくは増量用糖類混合物である賦形剤約10mg/mlから約200mg/ml、好ましくは約40mg/mlから約60mg/ml、
及び水を含有する請求項1から7のいずれかの医薬組成物。
【請求項9】
a)カスポファンギン二酢酸46.6mgに対応するカスポファンギン塩基として計算したカスポファンギン約42mg/ml、
b)約6.0のpH値を得るために有効な医薬的に許容可能な量のpH調整剤、好ましくは酢酸、
c)マンニトール約20mg/mlとスクロース約30mg/mlの混合物である増量剤約50mg/ml、
及び水を含有する請求項8の医薬組成物。
【請求項10】
前記組成物が付加的pH調整剤を実質的に含まない請求項1から9のいずれかの医薬組成物。
【請求項11】
pH値が約5から約7、好ましくは約5.5から約6.5、より好ましくは約6.0である請求項1から10のいずれかの医薬組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかの医薬組成物の凍結乾燥により取得可能であり、並びに非経口、好ましくは静脈内投与用液体組成物を形成するために再構成するために適切な凍結乾燥粉末。
【請求項13】
水溶液、好ましくは場合によりメチルパラベン及び/又はプロピルパラベン及び/又は0.9%ベンジルアルコールを添加した蒸留及び/又は滅菌注射用水、静菌性注射用水、又は標準食塩水ないし生理食塩水、例えば0.9%塩化ナトリウム溶液、又は0.45%もしくは0.225%塩化ナトリウム溶液、又はリンゲル液及び/又は乳酸リンゲル液で請求項12に記載の凍結乾燥粉末を再構成することにより取得可能な医薬組成物。
【請求項14】
pH値が約5から約8、好ましくは約6.0から約7.5である請求項13の医薬組成物。
【請求項15】
安定な製剤である請求項1から14のいずれかの医薬組成物。
【請求項16】
肉眼では見えない粒子数の低減を示す請求項13から15のいずれかの医薬組成物。
【請求項17】
USP 27,<788>Particulate matter in injections by light obscuration particle count testに従って測定した10μmを上回る寸法の肉眼では見えない粒子数がバイアル1本当たり500個未満、好ましくは300個未満である請求項16の医薬組成物。
【請求項18】
哺乳動物、好ましくはヒトにおける真菌感染症又はカンジダ種(Cabdida sp.)及び/又はアスペルギルス種(Aspergillus sp.)及び/又はニューモシスチス・ジロヴェチ(Pneumocystis jiroveci)により誘発される症状の予防及び/又は治療用医薬、好ましくは静脈内医薬の製造用としての、請求項1から17のいずれか一項に記載の医薬組成物の使用。
【請求項19】
医薬的に許容可能なカスポファンギン塩を含有する医薬組成物の製造方法であって、
1)増量剤又は増量剤の組み合わせを水に溶解させる段階、
2)段階1)で得られた溶液に医薬的に許容可能なカスポファンギン塩を加え、溶解させる段階、
3)前記カスポファンギン塩の0.3モル当量未満の量の付加的pH調整剤を添加する段階、
4)段階3)で得られた溶液を濾過する段階、
5)段階4)で得られた溶液を凍結させる段階、及び
6)凍結させた溶液を凍結乾燥する段階
を含む前記方法。
【請求項20】
段階3)を含まない請求項19の方法。
【請求項21】
請求項19又は20の方法により取得可能な組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−544662(P2009−544662A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521249(P2009−521249)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【国際出願番号】PCT/EP2007/057623
【国際公開番号】WO2008/012310
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(305008042)サンド・アクチエンゲゼルシヤフト (54)
【Fターム(参考)】