説明

カゼイン由来ペプチドを含む医薬組成物及びその使用方法

本発明は、カゼインに由来するペプチドに、及び泌乳動物の管理におけるそれらの使用に、特に、泌乳家畜動物の乾乳期を短縮し、乳汁収量及び出産後の乳汁衛生を強化し、且つ家畜の福祉を改善する方法に関する。本発明は、無菌溶液の形態にあってカゼインに由来するペプチドを含む、透明で実質的にミセルを含まない医薬組成物にさらに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカゼインに由来するペプチド及び泌乳動物の管理におけるその使用、特に泌乳家畜動物の乾乳期を短縮し、乳生産及び出産後の乳衛生を向上させて、家畜福祉を改善する方法に関する。本発明は、さらに、カゼインに由来するペプチドを、透明でミセルを実質的に含まない無菌溶液の形態で含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カゼイン(CN)はヒト及び非ヒト哺乳動物乳中の主要なタンパク質である。カゼインは、3分画からなり、各分画の電気泳動度によりα、β及びγと既に特性化されている(Hippら、1952年、Dairy Sci.35巻、272頁)。現在、カゼインはサブグループαS1、αS2、β及びκの各々のアミノ酸配列により定義されている(Engelら、1984年、Dairy Sci.67巻、1607〜1608頁)。
【0003】
カゼインの酵素加水分解により、若年者の健康及び適正な成長に寄与し得て(FitzGeraldら、1998年、Int.Dairy J.8巻、451〜457頁)、乳腺機能の局所的調節剤として役立つペプチドが遊離される(Silanikoveら、2000年、Life Sci.67巻、2201〜2212頁;Shamayら、2002年、Life Sci.70巻、2707〜2719頁)。セリンプロテアーゼであるプラスミンは乳汁中の主要なプロテアーゼであり、βカゼイン、αS1カゼイン及びαS2カゼインから耐煮沸性ペプチド(プロテオース−ペプトン)を生成させることが知られている。
【0004】
カゼインホスホペプチド(CPP)としても知られているプロテオース−ペプトン(PP)は、乳清タンパク質の約3分の1を占める(Andrews、1983年、J.Dairy Res.50巻、45〜55頁)。乳汁中のプラスミンは主としてその不活性形であるプラスミノーゲンで見出され、プラスミノーゲンのプラスミンへの変換はプラスミノーゲン活性化因子により調整される(Politis I.、1996年、J.Dairy Sci.79巻、1097〜1107頁)。
【0005】
カゼイン由来ペプチドは幾つかの生物活性及び応用を有することが示されている。乳汁化合物についての研究は、カゼインが関係する殺菌活性を示した。米国特許第3,764,670号は、微生物に対する抗生物質特性を有する、カゼインに由来する新規なポリペプチドを開示している。
【0006】
カゼインペプチドの免疫調整活性も観察されている。例えば、国際PCT特許出願WO01/13739号は、カゼインホスホペプチドなどのリン酸化されたアミノ酸を含むタンパク質を直接又は食物中に入れて投与することにより、哺乳動物の免疫を増強し、それらの成長を促進する方法を開示している。哺乳動物の免疫が増強されると、感染性疾患に対するそれらの抵抗性が強化され、それらの成長を阻害する因子が排除され、それにより哺乳動物の成長が促進される。
【0007】
米国特許出願公開第20020147144号及び第20040167073号は、免疫応答を刺激し増強してウイルス感染を防御し、血清コレステロールレベルを正常化させて造血を刺激することができる、乳汁カゼインのαS1分画のN末端に等しい配列に由来する又はそれと類似する生物活性ペプチドを開示している。
【0008】
国際PCT特許出願WO2005/081628号は、免疫応答を刺激し増強してウイルス感染を防御し、血清コレステロールレベルを正常化させて造血を刺激することを含むがこれらに限定はされない免疫調節及び他の処置活性の能力を有する、乳汁カゼインのαS1、αS2、β又はκカゼイン分画の配列に由来する又はそれと類似の生物活性ペプチドを開示している。前記カゼイン由来ペプチドは無毒性で、免疫疾患、糖尿病、高コレステロール血症、血液疾患及びウイルス関連疾患を処置し予防するために使用することができる。
【0009】
欧州特許出願EP1375513号は、カゼインに由来するペプチドの中で、複数のホスホセリン残基を含むアミノ酸配列を有するペプチドが強力な免疫増強活性を示すことを開示している。具体的に、前記発明はアミノ酸配列Q1−SerP−X−SerP−Q2(SerPはホスホセリン残基を表し、Xは1から3個の任意のアミノ酸残基を表し、Q1及びQ2は独立に、存在しないか又は任意のアミノ酸残基の少なくとも1つを表わす)からなるペプチドを含む免疫増強剤に関する。
【0010】
本発明の発明者の一人及び共同研究者の米国特許第6,391,849号は、カルシウムキレート剤として作用するカゼイン由来プロテオース−ペプトン、並びに乳汁生産の一時的及び持続的中断、乳腺退縮の誘発並びに感染の予防、処置及び回復を含む乳腺の生理的変化の制御におけるその使用を開示している。
【0011】
カゼインホスホペプチドは、Ca、Mg、及びFeなどの多量元素と共にZn、Ba、Cr、Ni、Co及びSeなどの微量元素に結合して、それらを小腸中で可溶化してその結果吸収可能にすることができるという独特の性質を有することが示されている。CPPはそれ自体、飲料及び幼児食における添加物並びに歯科医薬で使用される。例えば、米国特許第5,834,427号は、新規なアミノ酸配列を有する精製カゼインホスホペプチド(CPP)及びそれを含む精製カゼインを開示している。CPP又はそれを含むカゼインは、動物中で無機質を可溶化してそれらを吸収する改良された能力を有する。CPP又はそれを含むβカゼイン−Hは、動物における無機質吸収を増強する有効量で、食料、飲料、医薬、化粧品、飼料に添加することができる。βカゼイン−H又は本発明のCPPと薬学的に許容される担体とを含む経口組成物は、象牙質の過敏性を減少又は軽減することができる。
【0012】
米国特許第5,227,154号は、特定のカゼインホスホペプチド及び/又はその塩を含む経口組成物で歯を処置することにより歯石を制御する方法を開示している。米国特許第6,652,875号は、歯及び歯茎などの歯性表面を含む生物学的表面に生物活性構成成分を送達する製剤を開示しており、前記製剤は、少なくとも1つの単離され、精製されたカゼインタンパク質又はそれらの塩の水中懸濁液又は溶液を少なくとも1つの生物活性成分と共に含む。
【0013】
カゼイン加水分解物特にCPPを調製する種々の方法が提案されている。例えば、米国特許第4,740,462号は、結晶性トリプシンでカゼインを加水分解し、続いて限外濾過又はゲルパーミエイションクロマトグラフィー若しくはイオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフ技法により分別及び分離することによるCPPの製造を開示している。この方法は、幾つかの研究用途を有することができるが、工業規模には適当でないか又は経済的でない。他の方法は食用製品及び/又は医薬組成物には許容されない塩化バリウムなどの毒性物質の使用を伴っている。
【0014】
調製に使用された方法に関係なく、カゼイン加水分解物を含む溶液は混濁する傾向がある。混濁は、混濁した組成物中の変化を視覚的に追跡すること、特に汚染を検出することが困難又は不可能になるので、医薬組成物並びに幾つかの食用製品特に飲料において重要な欠点と見なされる。米国特許第5,405,756号は、飲料の透明性に影響しない飲料への添加物として使用に適したカゼインホスホペプチドの調製方法を開示している。しかしながら、得られたタンパク質はカルシウムを含み、その上、透明な溶液は酸性のpHでのみ得られる。
【0015】
泌乳家畜動物の管理
現代の酪農産業において家畜群中の泌乳動物は、搾乳と妊娠のサイクルを、そのような方式が乳汁生産の顕著な増加に寄与するように制御されている。酪農用家畜、例えば雌ウシ及びヤギの現在の管理においては、泌乳と妊娠との間にかなりの重複があり、その中で出産に先立つ50から70日の間、搾乳の中断により「乾乳期」が課される。この方式は、次の健常な泌乳期のために必要な過程である乳腺退縮を誘発する必要と年間を通じての高い乳汁生産に対する要求との間の折合いをつけるように設定される。
【0016】
搾乳の中断により乳腺分泌は急速に変化し、活発な乳腺退縮の過程が開始される。この過程は組織及び乳汁組成の甚だしく高度に順序立って継続する変化を含み、その変化は泌乳状態と非泌乳状態との間の移行中に起こる。その過程は、乳腺退縮の第1段階中に、アポトーシスを開始させる局所的刺激により誘発されるが、しかし乳腺退縮は搾乳を再開することにより逆行させることができる(Capuco及びAkers、1999年、J.Mammary Gland Biol.Neoplasia 4巻、137〜144頁;Wildeら、1999年、J.Mammary Gland Biol.Neoplasia 4巻、129〜136頁)。この局所的制御は、泌乳ヤギで搾乳の片側の中断に続いて(Quarrieら、1994年、Biochem.Soc.Trans.22巻、178S頁)、又は泌乳マウスで乳頭密封に続いて(Liら、1997年、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.94巻、3425〜3430頁;Martiら、1997年、Eut.J.Cell.Biol.73巻、158〜165頁)観察されるように、乳汁停滞が個々の腺で誘発されるときに、退縮を惹起することができる。
【0017】
乳腺退縮の第2段階は持続性で、搾乳は乳汁分泌の再開を惹起することができない(Capuco及びAkers、1999年、同上誌;Wildeら、1999年、同上誌)。乳腺退縮の第2段階の回復は、出産した後に続く泌乳段階でのみ起こり得る。この段階は、細胞外基質及び基底膜を分解させることにより乳腺の小葉腺胞構造を破壊するプロテアーゼの活性化並びに腺胞細胞の大量減損により特徴づけられる。
【0018】
乳腺退縮を誘発する搾乳の中断は、大抵は細菌であるが酵母、カビ又は藻類のことさえある病原菌による乳房内感染(IMI)により引き起こされる疾患である乳腺炎を発症する危険の増大を伴う。乳腺炎は、局所的な(場合によっては全身的な)臨床的徴候及び乳汁の異常を呈する臨床的なものであることもあり、産生減及び乳汁品質低下を伴う無症状のものであることもある。
【0019】
現代の酪農雌ウシは通常1日当り20から40リットルの乳汁をまだ産生している間に乾乳される。そのため、乳汁停滞が乳腺分泌の漏洩を惹起することがあり、それがIMIに罹る危険を実質的に増加させる。従来の乾乳は、乳腺退縮過程が長期になり、通常、IMIの高率と関連がある。臨床的及び無症状の乳腺炎は、不合格乳(農場生産の低下)、劣化した乳汁品質(収入減)、雌ウシの早期淘汰(遺伝的潜在能力の喪失)、薬剤コスト、獣医経費及び農家の労働コストの増加による重大な経済的損失を生じさせる。乳腺炎は、酪農家畜群における最も消耗性の疾患であって、米国において酪農産業のみで年間約20億ドルの損失をもたらしている。
【0020】
本発明の発明者の一人及び共同研究者により、純粋βカゼイン(β−CN)の1〜28分画が雌ウシ及びヤギにおいて乳汁分泌を下方制御することが先に示されている。このペプチドの活性と、乳腺上皮の頂端膜中のカリウムチャンネルを遮断するその能力との相互関係が証明された(Silanikoveら、2000年、同上誌)。
【0021】
カゼイン加水分解物(CNH)の未精製調製物をヤギ又は雌ウシの乳房に注射することは、乳腺退縮の自然現象の模倣であり、局所的炎症性応答及び接着結合(TJ)の完全性喪失を誘発し、続いて乳腺分泌の急速な枯渇が起こることも示された(米国特許第6,391,849号;Shamayら、2002年、同上;Shamayら、2003年、J.Dairy Sci.86巻、1250〜1258頁)。CNHにより誘発される過程は、自然乾乳で誘発されるものよりも急速で同期していた。これらの結果は、乳腺退縮に必要とされる時間を著しく短縮することが可能であることを示す。しかしながら、次の泌乳期の乳汁産生に影響しないで乾乳期を短縮又は省略することが可能であるかどうかは未だ不明である。Annenら(2004年、J.Dairy Science 87巻、3746〜3761頁)は、出産経験のある雌ウシをウシソマトトロピン(bST)で処置すると、乳汁産生を減少させずに乾乳期を短縮し、省略することさえ可能になることを示した。しかしながら、この処置は初産の雌ウシには同様の効果がなかった。その上、bSTでの処置は、乳腺炎、生殖障害及び他の生殖に関連する疾患を惹起すること、並びにそのような処置は足の疾患を増加させることが先に示されている。
【0022】
農業動物福祉は最近数十年における欧米社会で増大している社会的関心事である(Broom DM、1992年、Phillipsら編、農業動物及び環境(Farm Animals and the Environment)、CAB Wallingford、英国、245〜253頁)。集中的生産システム下での農業動物の収容及び管理業務における最近の進歩は、動物福祉の道徳的関心の増大を反映している(Fregonesiら、2001年、Livestock Production Sci.68巻、205〜216頁;Fregonesiら、2002年、Livestock Production Sci.78巻;245〜257頁)。苦痛の防止及び好ましい感覚又は快適さの存在を増加させることと定義される動物福祉の改善は、家畜管理の重要な要因である(Broom、1992年、同上)。傷害された生物学的機能の測定、特に低下した健康及び増加した生理的ストレス応答に関連したものの測定が、農業動物の福祉の状態を評価するために使用される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
乳汁収量に悪影響を及ぼさないで酪農家畜群の乾乳期を短縮し、乳汁収量及び衛生を向上させて、家畜動物の福祉を維持及び/又は改善するための有効で安全な処置に対する未だ満たされていない必要性がある。さらに、カゼイン由来ペプチドを含む直ぐに使用できる透明な溶液の形態の医薬組成物を手に入れることは、非常に有利なことであろう。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、全般的に、泌乳家畜動物の管理に、及びカゼイン由来ペプチドを含む医薬組成物に関する。特に、本発明は、泌乳動物に課せられた乾乳期を短縮し、それらの乳汁収量及び乳汁衛生を強化し、並びに乳腺感染及び搾乳の突然の中断に関連する苦痛を防止する方法に関する。また本発明は、カゼインミセルを実質的に含まない透明な無菌溶液の形態であり、実質的に均一な約1,000から約5,000ダルトンの低い分子量を有するペプチドを含む、カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を含む医薬組成物に関する。
【0025】
乳汁生産のために維持される家畜群においては、予期された出産前に泌乳動物による乳汁産生の中断を強制するのが一般的な方法である。「乾乳期」と定義される非泌乳期は、動物の健康及び乳汁を産生するその能力維持にとって非常に重要である。これまで、50から70日の乾乳期が産業的標準であった。予想外であるが、今や本発明により、出産後の乳汁産生に悪影響なく乾乳期を短縮することが可能であることが示された。驚異的であるが、ここで本発明は、出産前の泌乳期における乳汁収量に比較して、出産後の乳汁収量を増加させる方法を開示する。
【0026】
そういうわけで、一態様により、本発明は、カゼイン由来の少なくとも1つのペプチドの処置有効量を泌乳動物に投与することを含む、乳汁収量に悪影響なしに泌乳動物の泌乳サイクル間の乾乳期を短縮する方法を提供する。
【0027】
或る実施形態によれば、乾乳期は50日未満、好ましくは約40日未満、より好ましくは約20から約30日の間に短縮される。
【0028】
別の態様により、本発明は、カゼイン由来の少なくとも1つのペプチドの処置有効量を泌乳動物に投与することを含む、出産前の泌乳期に得られた乳汁収量に比較して出産後の泌乳動物の乳汁収量を増加させる方法を提供する。
【0029】
乳汁1ml当り高水準の細胞を含む乳汁は廃棄されなければならないので、酪農家畜群において、乳汁1ml当りの体細胞計数値(SCC)により測定される、生産された乳汁の衛生は家畜群の採算性に大なる影響を有する。
【0030】
なお別の態様により、本発明は、ペプチド投与前の体細胞計数値(SCC)に比較して乳汁中のSCCを減少させるように、カゼイン由来の少なくとも1つのペプチドの処置有効量を泌乳動物の乳腺中に投与することを含む、泌乳動物の乳汁衛生を向上させる方法を提供する。或る実施形態によれば、ペプチド投与後のSCCは、乳汁1ml当り約750,000細胞以下、好ましくは600,000細胞/ml以下、より好ましくは400,000細胞/ml以下、さらにより好ましくは300,000細胞/ml乳汁、最も好ましくは200,000細胞/ml乳汁以下である。或る実施形態によれば、SCCは、処置が適用されている泌乳サイクルの間は減少する。最近の或る好ましい実施形態によれば、SCCは、処置が適用された後に課せられる乾乳期に続く泌乳サイクルの間減少する。
【0031】
乳腺感染及び/又は搾乳の突然の中断は動物に苦痛とストレスを惹起する。そのようなストレスは苦しむ動物の生産性を低下させるということだけでなく、高度に集中的な生産システムにおける動物の一般的条件に対する意識の増大により、そのような家畜動物の福祉を改善する方法が求められている。驚異的であるが、今や本発明は、乳腺感染又は搾乳の突然の中断に伴う苦痛を減少させ又はさらに防止することさえ可能であることを開示する。
【0032】
さらなる態様により、本発明は、カゼイン由来の少なくとも1つのペプチドの処置有効量を泌乳動物の乳腺中に投与し、それにより泌乳動物の福祉を改善することを含む、家畜泌乳動物における乳腺感染又は搾乳の突然の中断に伴う苦痛を軽減する方法を提供する。
【0033】
或る実施形態によれば、泌乳動物の福祉の改善は、前記動物の1日当りの歩数の減少及び横臥時間の延長により測定される。一実施形態によれば、カゼイン由来の少なくとも1つのペプチドが、感染した乳腺中に投与される。他の実施形態によれば、1つ又は複数のペプチドが感染していない乳腺中に投与される。
【0034】
或る実施形態によれば、本発明の方法は、ホスホペプチドであるカゼイン由来のペプチドを利用する。一実施形態によれば、ホスホペプチドは、アミノ酸配列Ser(p)−Ser(p)−Ser(p)−Glu−Glu(配列番号1)及びその類似体若しくは誘導体を含む。さらなる実施形態によれば、ホスホペプチドは、βカゼイン、αS1カゼイン、又はαS2カゼインに由来するホスホペプチドからなる群から選択される。或る最近の好ましい実施形態によれば、本発明の方法により利用されるホスホペプチドは、配列番号2から配列番号5まで、及びそれらの類似体、誘導体若しくはフラグメントからなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。それに加わる最近の好ましい実施形態によれば、本発明の方法は、配列番号2から配列番号5まで、及びそれらの類似体、誘導体若しくはフラグメントから選択されるアミノ酸配列からなるホスホペプチドを利用する。単一種のペプチド並びに複数の種類のペプチドを利用することができる。
【0035】
或る実施形態によれば、本発明の方法は、カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの小管内の投与を含む。或る最近の好ましい実施形態によれば、前記の方法は泌乳動物の乳腺の乳頭管中への投与を含む。乳頭管への投与は注射又は注入によることができる。少なくとも1つのペプチドを1つ又は複数の乳腺中に投与することができ、泌乳動物の全乳腺への同時投与が含まれる。それに加わる実施形態によれば、本発明の方法は、抗生物質、殺菌剤、ステロイド及び非ステロイド抗炎症処置、免疫調整剤による処置及びワクチン接種からなる群から選択される抗菌療法の同時投与をさらに含む。
【0036】
一実施形態によれば、泌乳サイクルの間の乾乳期を短縮する方法は、搾乳中断と同時にカゼインに由来する少なくとも1つのペプチドを投与することを含む。単回投与並びに複数回の投与が考慮される。通常、ペプチドは、約6時間、約8時間、約12時間、約16時間、約20時間又は約24時間からなる群から選択される間隔で1回又は複数回、好ましくは1から3回の間で投与される。最近の最も好ましい一実施形態によれば、少なくとも1つのペプチドが1回だけ投与される。それに加わる実施形態によれば、搾乳中断は、予期される出産の約60日、好ましくは約40日前に、より好ましくは、予期される出産の前約20から約30日の間に行なわれる。
【0037】
他の実施形態によれば、出産後及びそれに続く泌乳期中の乳汁収量を増加させる方法は、搾乳中断と同時に、通常、予期される出産の前約60日、好ましくは約40日、より好ましくは出産の前約30日にカゼインに由来する少なくとも1つのペプチドを投与することを含む。少なくとも1つのペプチドを投与するステップの投薬量及び反復回数は、出産後の乳汁収量の増加が得られるように選択される。或る実施形態によれば、ペプチドは、少なくとも1つの乳腺に、1回又は複数回、通常、1から3回、約6時間、約8時間、約12時間、約16時間、約20時間又は約24時間からなる群から選択される間隔で投与される。最近の最も好ましい一実施形態によれば、少なくとも1つのペプチドが1回だけ投与される。それに加わる最近の好ましい実施形態によれば、ペプチドは、乳房の4つの乳腺全てに投与される。或る実施形態によれば、乳汁収量増加の平均は、少なくとも約3%、好ましくは少なくとも約6%、より好ましくは少なくとも約9%、最も好ましくは約10%と約25%の間である。
【0038】
なおさらなる実施形態によれば、乳汁衛生の向上は、乾乳期の初期、通常、予期される出産の約60日前にカゼインに由来する少なくとも1つのペプチドを投与することにより得られる。乳腺中への投与のステップの投薬量及び反復回数は、SCCを減少させて、前記乾乳期に続く泌乳期における乳汁衛生の向上が得られるように選択される。最近の最も好ましい一実施形態によれば、少なくとも1つのペプチドが、1回だけ投与される。
【0039】
それに加わる実施形態によれば、乳腺感染又は搾乳の突然の中断に伴う苦痛を防止する方法は、カゼイン由来の1つのペプチド又は複数のペプチドの単回投与を含む。
【0040】
本発明において開示した新規な方法の研究途上で、本発明者らは、カゼイン由来ペプチドを含む改良された組成物に対する必要性を認識した。
【0041】
典型的にはカゼインの加水分解された酵素消化物である、カゼインに由来するペプチドは、それらの栄養価のゆえに知られており、それ自体、臨床栄養で、小児食処方で、及び食料及び飲料のタンパク質強化に使用される。カゼイン加水分解物は、医薬用途を有することも提案されている。そのような製剤は、使用直前に適当な媒体、例えば無菌水で復元するための乾燥粉末として通常市販されている。得られる溶液は、その高い栄養価により汚染を受け易く、その際混濁は汚染の瞬時の認識を妨害する。その上、混濁した製剤は沈澱を有する傾向がある。
【0042】
予想外であるが、本発明の発明者らは、約0.1ミクロンから約0.5ミクロンのフィルターを通す、好ましくは0.25ミクロン未満のフィルターを通す、混濁したカゼイン製剤のさらなる濾過により、存在が混濁の主要な原因であるカゼインミセルが実質的に除去されることを発見した。さらに、濾過後、組成物は、約1,000ダルトンから約5,000ダルトンの範囲にあるペプチドを含む。このサイズ範囲は、カゼイン由来ペプチドの好ましい集団特にホスホペプチドを含み、その結果、濾過工程により、1,000から5,000ダルトンの範囲に分子量を有する実質的に均一なカゼイン由来のペプチドを含む組成物がさらに得られる。
【0043】
なお別の態様により、本発明は、実質的にミセルを含まず、6.0を超えるpHを有し、透明な直ぐに使用できる無菌溶液の形態にあって、カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を含む医薬組成物を提供する。或る実施形態によれば、前記組成物は、カゼインに由来する少なくとも1つのホスホペプチドの処置有効量を含む。それに加わる実施形態によれば、1つ又は複数のペプチドは約1,000から約5,000ダルトン、好ましくは約2,500ダルトンの分子量を有する。
【0044】
本発明の医薬組成物は、上記の濾過により得られたが、それらは、限外濾過、透析等など、約0.25μmを超える物質及び/又は約5,000ダルトンを超えるペプチドを除去する当技術分野で知られた任意の方法により得ることができることは理解されるべきである。
【0045】
一実施形態によれば、カゼインに由来するホスホペプチドは、アミノ酸配列Ser(p)−Ser(p)−Ser(p)−Glu−Glu(配列番号1)及びその類似体若しくは誘導体を含み、1,000〜5,000ダルトンの範囲の分子量を有する。さらなる実施形態によれば、医薬組成物は、βカゼインに由来するホスホペプチド、αS1カゼインに由来するホスホペプチド、αS2カゼインに由来するホスホペプチドからなる群から選択されたホスホペプチド又はそれらの組合せの処置有効量を含む。或る最近の好ましい実施形態によれば、βカゼインに由来するホスホペプチドは、配列番号2で表わされるアミノ酸配列及びその類似体、誘導体若しくはフラグメントを含む。それに加わる最近の好ましい実施形態によれば、αS1カゼインに由来するホスホペプチドは、配列番号3で表わされるアミノ酸配列及びその類似体、誘導体若しくはフラグメントを含む。なお他の最近の好ましい実施形態によれば、αS2カゼインに由来するホスホペプチドは、配列番号4で表わされるアミノ酸配列を含むペプチド及び配列番号5で表わされるアミノ酸配列を含むペプチド、及びそれらの類似体、誘導体若しくはフラグメントから選択される。さらなる実施形態によれば、医薬組成物は上に記載したカゼインに由来するペプチドの複数を含む。一実施形態によれば、医薬組成物は、約1,000から約5,000ダルトンの範囲の分子量を有する、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5の任意の1つで表わされるアミノ酸配列から本質的に構成されるペプチド又はその類似体、誘導体及びフラグメント或いはそれらの任意の組合せの処置有効量を含む。
【0046】
カゼインに由来するペプチドはカゼインの加水分解により得ることができる。又はそれは合成ペプチドであってもよい。合成ペプチドは、本明細書中に後で記載するようにして、及び当業者に知られているようにして調製することができる。
【0047】
一実施形態によれば、本発明の医薬組成物のタンパク質含有量は、約10ng/mlから約15mg/mlである。この量は処置用途において有効であり、一方溶液は透明である。一実施形態によれば、組成物の濁度は6比濁計濁度単位(6NTU)未満である。他の実施形態によれば、組成物のpHは約6.0から約8.0である。
【0048】
本発明の医薬組成物中のホスホペプチドは、広い温度範囲で高度に安定である。一実施形態によれば、ホスホペプチドは加熱に耐性があり、その結果ペプチドを含む組成物は50℃から70℃に10〜15分間加熱されたとき、活性低下が認められない。他の実施形態によれば、ホスホペプチドは凍結に対して耐性であり、その結果組成物は−20℃で少なくとも6カ月間、好ましくは少なくとも12カ月間貯蔵することができる。
【0049】
別の態様により、本発明は、カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を含む医薬組成物を、使用前に復元して、実質的にミセルを含まず、6.0を超えるpHを有する透明な溶液を形成する、凍結乾燥された粉末の形態で提供する。
【0050】
少なくとも1つのカゼイン由来ペプチド、特にカゼイン由来ホスホペプチドを含み、透明な無菌溶液の形態にある本発明の新規医薬組成物が、本明細書中に上で記載した家畜管理の新規な方法で使用するのに適当であるということは理解されるべきである。或いは、これらの医薬組成物は、上記の背景技術の項で記載した、当技術分野で知られているペプチドの任意の用途に使用することもできる。
【0051】
追加の態様により、本発明は、カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を含み、実質的にミセルを含まず、6.0を超えるpHを有する、直ぐに使用できる透明な無菌溶液の形態にある、泌乳動物の乳腺を処置するための医薬組成物を提供する。或る実施形態によれば、前記組成物はカゼインに由来するホスホペプチドの処置有効量を含む。それに加わる実施形態によれば、医薬組成物中のホスホペプチドは約1,000ダルトンから約5,000ダルトンの平均分子量を有する。或る最近の好ましい実施形態によれば、平均分子量は約2,500ダルトンである。
【0052】
本発明の新規医薬組成物は、ヒトを含む任意の泌乳動物、雌ウシ、ヤギ、ヒツジ、及びバッファローを含む肉又は乳汁産生のために育てられる家畜、ラクダ、ラマ、ウマ及びブタを含む他の家畜、並びにネコ及びイヌを含むペットにおける乳腺の処置に驚異的に有効である。
【0053】
或る実施形態によれば、処置は、乳汁産生の一時的中断を誘発すること、乳汁産生の持続的中断を誘発すること、又は乳腺退縮を誘発することからなる群から選択される。本発明の医薬組成物は、約3日以内に乳腺退縮を誘発して、次の泌乳期に向かう乳腺組織の復元に悪影響を及ぼさないことが利点である。その上、乳腺退縮は、泌乳の最高時を含む泌乳サイクルの任意の段階で誘発することができる。
【0054】
なお他の態様により、本発明の新規医薬組成物は、微生物感染の予防及び処置並びに微生物感染からの回復に有用である。
【0055】
前記組成物は、グラム陽性並びにグラム陰性細菌、カビ、マイコプラズマ及びウイルスを含むが、これらに限定されない広範囲の病原菌により惹起される感染の処置に有効である。一実施形態によれば、本発明の組成物は、乳腺炎を惹起する微生物感染の処置に有効である。従って、本発明により提供される医薬組成物は、乳腺感染を含む感染の処置に対する抗生物質への依存性を減少させ、乳腺炎における抗生物質耐性感染の問題及び乳汁中に存在する抗生物質残留物の問題の両者を軽減する。或いは、本発明の医薬組成物は、追加の抗微生物療法と組み合わせて投与することができる。一実施形態によれば、本発明の医薬組成物は、抗生物質、殺菌剤、ステロイド抗炎症剤及び非ステロイド抗炎症剤からなる群から選択される抗菌剤と組み合わせて投与される。組合せ療法は、上記の薬剤の必要とされる投与量を減少させ、且つ/又は処置効果を増強することができる。別の実施形態によれば、前記医薬組成物は、ワクチンと組み合わせて投与される。さらなる実施形態によれば、前記医薬組成物は、免疫調整剤と組み合わせて投与される。
【0056】
泌乳中の乳腺炎処置に有効であることに加えて、本発明の新規医薬組成物は、乾乳期の誘発と同時に投与されるとき、1つの泌乳サイクルから次のサイクルに乳腺炎感染が持続する問題を見事に克服する。
【0057】
本発明の新規医薬組成物は、通常、非経口投与のために製剤化される。一実施形態によれば、前記医薬組成物は、例えば注入による又は注射による小管内投与のために製剤化される。最近の好ましい一実施形態によれば、医薬組成物は、泌乳動物の乳腺の乳頭管を通して乳腺槽中に注射するために製剤化される。医薬組成物は、ゲル剤、軟膏、クリーム剤、エマルション剤又は経皮パッチを含む徐放性製剤として、胸部又は乳房に局所適用するために製剤化することもできる。或いは、本発明の医薬組成物は、経口的全身投与のために製剤化される。
【0058】
さらなる態様により、本発明は、歯科用途及び処置用途を含むがこれらに限定されない群から選択される用途のための、ミセルを実質的に含まず、6.0を超えるpHを有する、直ぐに使用できる、透明な無菌溶液の形態にある、カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を含む医薬組成物を提供する。これらの知られた用途は、例えば、米国特許第5,227,154号、第5,834,427号及び第6,652,875号、欧州特許出願第EP1375513号、国際PCT出願WO01/13739号及びWO 2005/081628号、及びとりわけ米国特許出願公開第20020147144号及び20040167073号に開示されている。
【0059】
なおさらなる態様により、本発明は、実質的にミセルを含まず、6.0を超えるpHを有する、直ぐに使用できる透明な無菌溶液の形態にある、カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を含む医薬組成物を、泌乳動物に投与するステップを含む、泌乳動物の乳腺を処置する方法を提供する。
【0060】
一実施形態によれば、前記処置は、乳汁産生の一時的中断、乳汁産生の持続的中断及び乳腺退縮を誘発することからなる群から選択される。
【0061】
いっそうさらなる態様により、本発明は、微生物感染を処置し、阻止する方法を提供する。
【0062】
或る実施形態によれば、感染は、無症状並びに臨床的乳腺炎を含む乳腺炎であり、組成物は泌乳動物の感染した乳腺中に投与される。一実施形態によれば、医薬組成物は、搾乳中の乳腺炎を処置するように、泌乳期中に投与される。他の実施形態によれば、医薬組成物は、泌乳サイクルの終わり又は乾乳期中に投与される。乾乳期の開始時及びその間での投与では、存在する乳腺炎を処置するための感染した乳腺へと同様に予防処置として感染していない乳腺への投与が考慮される。
【0063】
泌乳動物の全ての乳腺からの搾乳の同時中断は、その結果として、通常、望ましくない炎症反応を生ずる。驚くべきことに、本発明の医薬組成物を泌乳動物の全ての乳腺に同時に投与しても、いかなる副作用も伴わないことが、今や本発明により示された。従って、個々の動物の任意の所望の数の乳腺で、乳汁産生の中断及び乳腺退縮を誘発して乳腺炎を処置することが可能である。本発明による投与は、ただ1つから全ての乳腺、例えば雌ウシの4つの乳腺全てへの投与を含む。
【0064】
本発明の医薬組成物の適用計画は、所望の成果及び処置される動物に依存する。単回投与と同様に複数回投与も考慮される。或る実施形態によれば、乳腺炎を処置するために、ペプチドは、約6時間、約8時間、約12時間、約16時間、約20時間又は約24時間からなる群から選択される間隔で、1回又は複数回、好ましくは1から3回投与される。他の実施形態によれば、乳汁産生の中断及び乳腺退縮を誘発するためには、ペプチドは単回処置として投与される。単回投与の処置計画は、処置の投薬遵守を向上させるので非常に望ましい。
【0065】
追加される態様により、本発明は、実質的にミセルを含まず、6.0を超えるpHを有し、透明な直ぐに使用できる無菌溶液の形態にあって、カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を含む医薬組成物を泌乳動物に投与するステップを含む、被験者の免疫応答を調整する方法を提供する。
【0066】
一実施形態によれば、免疫応答を調整することは、生得の免疫応答を刺激して強化することを含む。
【0067】
本発明の他の目的、特徴及び利点は、次の記述及び図面から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0068】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その応用において、以下の記述により説明された又は実施例により例示された詳細に限定されないということが理解されるべきである。本発明は、他の実施形態が可能で、即ち種々の方法で実行又は実施することができる。また、本明細書で使用される言い回し及び用語法は説明のためのものであって、限定するものと見なすべきではないことも理解されるべきである。
【0069】
定義
本明細書で使用される用語「カゼイン」は、非ヒト哺乳動物及びヒトの乳汁中で最も多量を占めるタンパク質を指し、サブグループαS1、αS2、β及びκを含む。
【0070】
本明細書で使用される用語αS1、αS2及びβカゼインは、家畜哺乳動物(例えば、雌ウシ、ヒツジ、ヤギ、雌ウマ、ラクダ、シカ及びバッファロー)、ヒト及び海洋哺乳動物を含むがこれらに限定はされない哺乳動物のαS1、αS2及びβカゼインタンパク質を指す。
【0071】
用語「ペプチド」は、本明細書全体を通して、ペプチド結合により互いに接続したアミノ酸残基の線状配列の意味で使用される。本発明の基準によるペプチドは完全なタンパク質とは別のものである。
【0072】
本明細書で使用される用語「ホスホペプチド」は、非ペプチド部分がリン酸残基である複合ペプチドに形態にあるリン酸化ペプチドを意味する。特に「カゼインホスホペプチド」又は「CPP」という表現は、カゼインフラグメントを含むホスホペプチドを意味する。
【0073】
本明細書で使用する用語「乳汁産生の中断」は、乳汁産生の一時的中断並びに持続的中断を指す。乳汁産生の一時的中断とは、可逆的中断のことである。持続的中断は、妊娠に続く出産により及び性ホルモン処理によってのみ回復される泌乳の中絶を指す。本発明の教えるところによれば、機械的刺激(例えば、搾乳)も、本発明の組成物及び方法により誘発されて持続的に中断された乳汁産生を回復させることができる。
【0074】
本明細書で使用する用語「乾乳期」は、出産前の搾乳が中止される時期を指す。現在の慣行によれば、乾乳期の適用は、乳腺退縮過程を完成させるために必要であり、その後で出産に向かって乳汁分泌能力が回復される。現状では、乾乳期の長さは50から70日である。驚くべきことに、今や、乾乳期の長さを、乳汁収量に対する悪影響なしに、約50日未満、好ましくは約40日未満、より好ましくは約20日と約30日の間に短縮することができることが、本発明により示された。驚いたことに、乾乳期を課すカゼイン由来ペプチドの適用は、結果として、乾乳期に続く泌乳期における乳汁産生の顕著な増加をもたらすことが、本発明により示された。
【0075】
本明細書で使用する用語「乳腺炎」は、物理的損傷、化学物質の導入、ウイルス、カビ、寄生虫又は最も普通には細菌の侵入及びそれらの毒素により惹起された乳腺又は乳房の炎症を指す。「乳腺炎」は、無症状の及び臨床的な乳腺炎を含むそのような炎症の全ての形態を記述するために使用され、臨床的乳腺炎には、軽症、重症及び慢性の乳腺炎が含まれる。
【0076】
無症状の乳腺炎では、胸部又は乳房の腫脹は検出されず、乳汁の観察可能な異常もない。しかしながら、体細胞計数値の評価に基づくカリフォルニア乳腺炎試験(CMT)、ウィスコンシン乳腺炎試験(WMT)及びカタラーゼ試験などの特別のスクリーニング試験が乳汁組成の変化を示すであろう。このタイプの乳腺炎は通常「潜在性」と称せられる。
【0077】
臨床的乳腺炎は軽症又は急性のことがあり、乳汁中の白血球の存在により特徴づけられる。軽症の臨床的乳腺炎は、薄片若しくは凝塊の存在、水っぽい乳汁又は他の普通でない乳汁の形態を含む乳汁の外観の変化を伴う。軽症の臨床的乳腺炎は、発熱した、感じ易い又は腫脹した胸部又は乳房を含む他の症状を伴うことがある。
【0078】
重症の臨床的乳腺炎は、泌乳動物にとって非常に苦痛となる、発熱し、感じ易くなり、硬くなった胸部又は乳房という症状を伴う。重症の臨床的乳腺炎の発症は突然で、泌乳動物は病気になって、発熱、速脈、鬱、衰弱及び食欲喪失の徴候を示すことがある。動物の全泌乳系が影響されたとき、状態は急性全身性乳腺炎と称される。重症の症状は、乳汁産生中断を伴うこともある。
【0079】
慢性乳腺炎は、持続性乳房感染であり、典型的には無症状の乳腺炎の形態をとるが、時折臨床的形態に進行して無症状の形態に戻ることがあり得る。慢性乳腺炎は、細菌の定着及び結合組織形成に基づく乳腺内の硬い腫瘍により特徴づけられる。
【0080】
本明細書で使用する用語「乾乳期処置」又は「乾乳処置」は、診断されている乳腺炎炎症を泌乳期の終わりに排除、処置及び治癒させるために、泌乳期における最後の搾乳の直後に乳房内投薬をする療法を指す。
【0081】
本明細書で使用する用語「乾乳期予防療法」は、乾乳期中、及び出産後、次の泌乳期中の乳腺炎炎症を予防するために、泌乳期における最後の搾乳の直後に乳房内投薬をする療法を指す。
【0082】
本明細書で使用する用語「家畜福祉」又は「動物農場における福祉」は、苦痛を防止すること並びに、とりわけ、横臥時間の増加、反芻時間の増加、代謝要求の減少、乳房圧及び/若しくは乳頭漏洩の減少、乳腺炎及び他の疾患の発生数減少、及び高乳汁収量による跛行効果の減少の結果として生ずる、快適さ又は快感と通常言われる好い感じの存在を増加させることを指す。
【0083】
本明細書で使用する用語「透明な医薬組成物」及び/又は「透明な溶液」は、6NTU未満の濁度を有する液体溶液を指す。本明細書で使用する濁度は、水柱を通過する光が懸濁された有機又は無機粒子により散乱される程度を数量化する測定単位である。光散乱は懸濁負荷が大きくなるほど増大する。濁度は、通常、Jackson濁度単位(JTU)に置き換わる比濁計濁度単位で測定される。比濁法は試料により散乱された光と参照溶液により散乱された光を比較するものである。
【0084】
本明細書で使用する用語「ミセル」は、コロイド粒子を構成する分子集合体、特に主としてタンパク質、カルシウム及びホスフェートを含むカゼインミセルを指す。ミセルはクエン酸塩若しくはエステル、少量のイオン、リパーゼ及びプラスミン酵素、並びに捕捉された乳清も含む。カゼインミセルはどちらかといえば多孔性の構造であり、容積分率で乳汁全体の約6〜12%を占める。カゼインミセルの直径は90から150nmの範囲にある。電子顕微鏡及び他の手段による証拠から、ミセルは10から20nmの直径を有するサブミセルと呼ばれるより小さい単位から構成されていることが示唆される。
【0085】
本明細書で使用する用語「無菌の」は、当業者に知られた従来法の無菌性試験により測定される病原菌を含まず、且つ最終製品中の内毒素レベルが、リムルスアメーバ様細胞分解産物(LAL)試験により0.5EU/ml未満である、内毒素を含まない溶液を指す。
【0086】
本明細書で使用する用語「平均分子量」は、当業者に知られた方法により測定されたペプチド又はタンパク質の分子量の平均値プラス若しくはマイナス標準偏差を指す。そのような方法には、例えば、既知の分子量を有する標準に対して試料が測定されるSDSゲル電気泳動法及びHPLCなどの装置でのサイズ排除クロマトグラフィーが含まれる。
【0087】
本発明の医薬組成物中のペプチドは、好ましくは約1,000から約5,000ダルトンの平均分子量を有する。従って、本発明は、合計で10〜50アミノ酸残基を有するペプチドを特に考慮している。本発明は、組換えDNA技法又は化学合成により作製されたペプチドなどの、コアモチーフ配列、例えば、配列番号1で表わされるアミノ酸配列が人工的にポリペプチドの配列内に埋め込まれたタンパク質も考慮している。ペプチドは、ペプチドの混合物を生ずるカゼインの加水分解により得ることができる。本発明の教えるところにより、ペプチドの混合物を使用することができ、又は当技術分野で知られた任意のタンパク質精製法により混合物をさらに精製して、単離されたペプチドを得ることができる。
【0088】
本発明の医薬組成物中のペプチドは、化学合成及び組換えDNA技法を含む当技術分野で周知の方法を使用して、合成することもできる。合成は溶液中で又はMerrifieldにより記述された固相ペプチド合成(J.Am.Chem.Soc.、85巻、2149頁、1964年を参照されたい)により実施することができる。セリン残基のリン酸化は、例えば、とりわけMeggioら、1991年、FEBS Lett.283巻(2)、302〜306頁及びPerich JW、1997年、Method Enzymol.289巻、245〜246頁に記載されている、当技術分野で知られた任意の方法により実施することができる。
【0089】
一般に、ペプチド合成法は、成長するペプチド鎖に対する1つ若しくは複数のアミノ酸又は適当に保護された即ち誘導体化されたアミノ酸の逐次付加を含む。通常、最初のアミノ酸のアミノ基又はカルボキシル基のいずれかが適当な保護基により保護される。保護された即ち誘導体化されたアミノ酸は、次に、アミド結合を形成するのに適当な条件下で、適当に保護された相補(アミノ又はカルボキシル)基を有する、配列中の次のアミノ酸を付加することにより、不活性な固体支持体に結合されるか又は溶液中で使用されるかのいずれかである。それに続いて保護基がこの新たに付加されたアミノ酸残基から除去されて、次のアミノ酸(適当に保護されている)が続いて付加され、以下同様である。従来、この工程はその上に洗浄ステップが伴っている。所望のアミノ酸が全て適当な配列に結合された後、いかなる残存する保護基も(及びいかなる固体支持体も)逐次的に又は同時に除去され、最終的ペプチドが得られる。この一般的手順の簡単な改良により、成長鎖に一度に複数のアミノ酸を付加することが可能であり、例えば、保護されたトリペプチドを適当に保護されたジペプチドにカップリングさせて(キラル中心をラセミ化させない条件下に)、脱保護後ペンタペプチドを形成させ、以下同様である。
【0090】
本発明は、カゼイン由来ペプチドを利用する、家畜泌乳動物の家畜群の一般的管理方法を開示する。
【0091】
一態様により、本発明は、カゼイン由来の少なくとも1つのペプチドの処置有効量を泌乳家畜動物に投与することにより、乳汁収量に悪影響なしに泌乳サイクル間の乾乳期を短縮する方法を提供する。
【0092】
現代酪農産業において、泌乳動物は年に1回出産し、その結果搾乳は動物が妊娠している間継続する。出産前に泌乳動物に乾乳期を課すことは、次の泌乳期に向かって乳房組織の回復を可能にする目的で乳腺の退縮過程を誘発させるために取られる常套手段である。乾乳期を誘発させることは、とりわけ、出産前後に同様な乳汁産生を維持するために必要である。雌ウシにおいて、乳腺退縮の自然過程は、搾乳の中断による誘発の21から30日後に終了する。従って、40日未満の乾乳期は、結果としてその後の泌乳において乳汁収量が10%から30%減少するので、50から70日の乾乳期が産業的標準であった。最近、雌ウシにおいて乳汁産生の損失なしに30日の乾乳期も起こり得ることが示された(Annenら、同上)が、しかしながら、経産雌ウシでのみ、望ましくない副作用を有するかもしれないウシソマトトロピンを使用してのことであった。乳腺退縮過程の長さは泌乳ヤギ及び雌ウシで約3日に短縮することができることが、本発明の発明者及びその共同研究者により、先に示されている。驚いたことに、泌乳雌ウシの乳房の4つの乳腺全てにおいて3日以内の退縮を誘発することが可能であるということを、今や本発明は示す。
【0093】
カゼイン由来ペプチドの投与は、急速な乳腺退縮を誘発するだけでなく、乳汁収量に悪影響なく、乾乳期を50日未満に、好ましくは40日未満に、より好ましくは約20から約30日の間に短縮することに有効であることを、本発明は今や開示する。現代の酪農雌ウシは、まだ1日当り20から40リットルを産生していながら乾乳されるのが常である。従って、乾乳期を短縮することは、顕著な経済的価値を有する。その上、搾乳の中断によるよりも、むしろ本発明の方法により、即ち、カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドを泌乳動物に投与することにより泌乳動物における乾乳期を開始されば、結果として、乾乳期に続く搾乳期中の乳汁収量が増加することを、今や本発明は示す。特定の機構に束縛されることを望まず、この増加は、(a)SCCの減少及び乳汁収量に対するそれらの負の効果、及び/又は(b)カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの投与により誘発されたより広範なアポトーシスの結果としての乳房上皮細胞集団の新しい細胞によるより広範な置き換えに関係づけることができる。
【0094】
別の態様により、本発明は、カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を泌乳動物の乳腺中に投与することを含む、泌乳家畜動物の乳汁衛生を向上させる方法を提供する。
【0095】
本明細書で使用する用語「乳汁衛生」は、乳汁1ml当りの体細胞計数値(SCC)のことである。「乳汁衛生を向上させること」は、SCCを乳汁1ml当り750,000細胞以下、好ましくは乳汁1ml当り600,000細胞以下、より好ましくは乳汁1ml当り400,000細胞以下、なおさらより好ましくは乳汁1ml当り300,000細胞以下、最も好ましくは乳汁1ml当り200,000細胞以下に減少させることを意味する。現代酪農の代表的な現象は、たとえ乳房の無症状の感染があっても、泌乳動物、特に雌ウシから得られる高乳汁収量である。そのような雌ウシは多量の乳汁を産生するが、しかし1つ又は複数の乳腺の感染は、集乳槽中全体の計数値を増大させて、その結果その農場の乳汁の格付けを低下させるかもしれないレベルにまで、乳汁中のSCCを増加させる。泌乳中に乳房内に適用された抗生物質療法は、結果として細菌が除去されることは示されているが、しかしながら、乳区の又は雌ウシのSCCを処置前のレベルに比較して減少させなかった(Cattellら、2001年、J.Dairy Sci.84巻、2036〜2043頁)。ここで本発明は、カゼインに由来するペプチドの投与はSCCの顕著な減少を生じさせることを示す。驚くことに、SCCのそのような減少を達成するためには、少なくとも1つのカゼイン由来ペプチドの単回投与で十分であることを、今や本発明は開示する。本発明の教えるところによれば、処置を感染した乳腺のみに限定するために、カゼイン由来ペプチドは感染した乳腺の乳頭管に局所的に投与される。感染した乳腺に対するペプチドの活性が局所的であることは、他の未感染乳腺からの搾乳の継続を可能にする。その結果、通常は感染した乳腺が上昇したSCCの原因になる唯一のものであるから、乳汁衛生は、処置後直ちに顕著に改善される。カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの投与は、無症状の感染雌ウシのSCCを減少させることに有効であり、臨床的な感染雌ウシではそれよりさらに有効であることを、本発明は今や示す。処置効果は処置した乳腺に限定されるので、乳汁品質の即時改善が得られ、未感染乳腺からの乳汁を廃棄する必要はない。乳汁の廃棄は臨床的乳腺炎を有する乳牛における経済的損失の主原因の1つであるから、このことは重要である(DeGraves及びFetrow、1993年、Vet.Clin.Noth Am.Food Animal Pract.9巻、421〜434頁)。投与は、1つの乳腺だけでなく全ての乳腺に例えば泌乳雌ウシの4つの乳腺全てに行なうことができる。予想外であるが、処置した乳腺から次の泌乳サイクルで得られる乳汁は、前より低い数の体細胞を含む。或る実施形態によれば、次の泌乳期における乳汁衛生を向上させるために、カゼイン由来ペプチドが、乾乳期の間に泌乳動物の1つ又は複数の乳腺に投与される。
【0096】
本発明の方法は、カゼインに由来する1つのタイプのペプチド又はカゼインに由来する複数のタイプのペプチドで実施することができる。或る実施形態によれば、本発明の方法は、本明細書で以下に記載する、本発明の、透明な直ぐに使用できる医薬組成物を用いて実施される。
【0097】
或る追加の実施形態によれば、カゼインに由来するペプチドはホスホペプチドを含む。それに追加される実施形態によれば、ホスホペプチドは配列番号1で表わされるアミノ酸配列を含む。さらなる実施形態によれば、ホスホペプチドは、βカゼインに由来するホスホペプチド、αS1カゼインに由来するホスホペプチド、及びαS2カゼインに由来するホスホペプチドからなる群から選択される。或る最近の好ましい実施形態によれば、本発明の方法により使用されるホスホペプチドは、配列番号2から配列番号5までからなる群から選択されるアミノ酸配列、及びその類似体、誘導体及びフラグメントを含み、これらの用語は本明細書で定義した通りである。本発明の方法は、未精製カゼイン加水分解物、精製カゼイン加水分解物及びカゼイン加水分解物から精製したペプチドのようなカゼインの加水分解に由来するペプチドを用いて実施することができる。それに加えて、本発明の方法は、カゼインに由来する合成ペプチドを用いて実施することができる。カゼイン由来ペプチドは医薬組成物中に導入することができる。
【0098】
なお別の態様により、本発明は、泌乳動物の乳腺に、カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を投与し、それにより泌乳動物の福祉を改善することを含む、家畜泌乳動物における乳腺感染又は搾乳の突然の中断に関連する苦痛を防止する方法を提供する。
【0099】
或る実施形態によれば、泌乳動物福祉の改善は、前記動物の1日当りの歩数の減少及び1日当りの横臥時間の延長により測定される。一実施形態によれば、カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドが、感染した乳腺に投与される。他の実施形態によれば、カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドが感染していない乳腺中に投与される。
【0100】
本発明は、予期されないこととして、カゼイン由来ペプチドを含む混濁した組成物の、0.1μmから約0.5μmのフィルターを通す、好ましくは0.25μm未満のフィルターを通す濾過の結果、医薬用途に極めて望ましい透明な溶液が得られることを、さらに開示する。
【0101】
さらなる態様により、本発明は、カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を含み、実質的にミセルを含まず、6.0を超えるpHを有する、直ぐに使用できる透明な無菌溶液の形態にある、医薬組成物を提供する。一実施形態によれば、前記医薬組成物は薬学的に許容される希釈剤、賦形剤又は担体をさらに含む。或る実施形態によれば、前記組成物はカゼインに由来する少なくとも1つのホスホペプチドの処置有効量を含む。それに加わる実施形態によれば、医薬組成物は約1,000ダルトンから約5,000ダルトンの平均分子量を有するホスホペプチドを含む。或る最近の好ましい実施形態によれば、本発明の新規医薬組成物中のペプチドの平均分子量は約2,500ダルトンである。
【0102】
本明細書で使用する語句「カゼインに由来するペプチド」は、カゼインの分解生成物であるペプチド(本明細書では、天然カゼインに由来するペプチドと称する)、カゼイン単位のアミノ酸配列に対応して化学的に合成された合成ペプチド(本明細書では、カゼインに由来する合成ペプチドと称する)、及びカゼインと類似の(相同の)ペプチド、例えば、1つ又は複数のアミノ酸の置換、挿入又は欠失、例えば、限定はされないが、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の類似性が保持されているという条件で許容される置換などにより特徴づけられるペプチド、及びその機能的相同体を指す。本明細書で使用する用語「相同体」及び「機能的相同体」は、本明細書に記載したペプチドの生物活性に影響しない任意の挿入、欠失及び置換を有するペプチドを意味する。
【0103】
本明細書で使用する語句「その組合せ」は、1つ又は複数の添加されたα又はβカゼインに由来する同定されていないペプチドと混合して組み合わされた、α又はβカゼインに由来する上記のペプチドのいずれかと定義される。本明細書で使用する語句「混合物」は、互いに可変の比率で存在するペプチドの非共有結合の組合せと定義される。
【0104】
或る実施形態によれば、カゼインに由来するペプチドは、活性モチーフSer(p)−Ser(p)−Ser(p)−Glu−Glu(配列番号1)を含むホスホペプチドである。このモチーフを含むいかなるペプチドも、カゼインに由来してもカゼイン以外のタンパク質に由来しても合成的に合成されても、組換え技法により作製されても、本明細書に記載したペプチドの生物活性を保持するものは、本発明の範囲内に包含されるということが、理解されるべきである。本発明のホスホペプチドは、下に掲載した配列番号2〜5の任意のもので表わされるアミノ酸配列を有するペプチドにより例示される。
【表1】

【0105】
本発明は、上に掲載したペプチドの類似体、誘導体及びフラグメントを含む医薬組成物も、それらの類似体、誘導体及びフラグメントが本明細書に記載したそれらの生物活性を保持する限り包含し、医薬組成物は本明細書で定義した透明な溶液の形態にあり、ペプチドの類似体、誘導体及びフラグメントは約1,000から5,000ダルトンの分子量を有する。
【0106】
用語「類似体」には、本発明のペプチドのアミノ酸置換、付加、欠失、又は化学的改質により変更された配列を含み、前記ペプチドの生物活性を保持している任意のペプチドが含まれる。「アミノ酸置換」は、機能的に同等のアミノ酸残基が配列内の残基と置換されて、その結果変化が現れないことを意味する。例えば、配列内の1つ又は複数のアミノ酸残基が、機能的に同等の作用をする同様の極性の他のアミノ酸により置換されて、その結果変化が現れないことがあり得る。配列内のアミノ酸を置換するものは、アミノ酸が属するクラスの他の構成員から選択することができる。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸には、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン及びメチオニンが含まれる。極性中性アミノ酸には、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、及びグルタミンが含まれる。正に荷電した(塩基性)アミノ酸には、アルギニン、リシン及びヒスチジンが含まれる。負に荷電した(酸性)アミノ酸には、アスパラギン酸及びグルタミン酸が含まれる。そのような置換は保存的置換として知られている。それに加えて、ペプチドの生物活性に寄与しないアミノ酸において非保存的置換をすることができる。本発明は、本明細書に掲載したペプチドに比較して向上した安定性又はより長い半減期を有する、本発明のペプチドの活性類似体を生成させるように、少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸により置換されているペプチド類似体を包含するということは理解されるであろう。
【0107】
配列番号1から5で表わされるペプチド配列のアミノ酸残基は、全て「L」異性体形であるが、ペプチド類似体がその活性を保持する限り、「D」異性体形の残基が任意のLアミノ酸残基を置換することができる。ペプチドが開示されたのと同じアミノ酸でできているが、少なくとも1つ又は全てのアミノ酸を含む複数のアミノ酸がD−アミノ酸である、逆反転(retro−inverso)D−アミノ酸ペプチド類似体を生成させる方法は、当技術分野において周知である。ペプチド類似体中のアミノ酸の全てがD−アミノ酸であり、且つペプチド類似体のN−及びC−末端が反転しているとき、結果は該ペプチドのL−アミノ酸形におけると同じ位置にある同じ構造基を有する類似体である。しかしながら、そのペプチド類似体は、タンパク質分解に対してより安定であり、従って本明細書で挙げた応用の多くにおいて有用である。
【0108】
用語「誘導体」は、本発明のペプチドのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有し、1つ又は複数のアミノ酸残基が側鎖又は官能基の反応により化学的誘導体化にかけられ、そのような誘導体化がペプチド誘導体の活性を損なっていないペプチドを指す。アミノ酸残基の化学的誘導体化には、グリコシル化、酸化、還元、ミリスチル化、硫酸化、アシル化、アセチル化、ADP−リボシル化、アミド化、環化、ジスルフィド結合形成、ヒドロキシル化、ヨード化、及びメチル化が含まれるが、これらに限定はされない。
【0109】
本発明の原理に従うペプチド誘導体は、CH−NH、CH−S、CH−S=O、O=C−NH、CH−O、CH−CH、S=C−NH、CH=CH、及びCF=CHを含むが、これらに限定されない結合の改変並びに骨格の改変を含む。ペプチド中のペプチド結合(−CO−NH−)は、例えば、N−メチル化された結合(−N(CH)−CO−)、エステル結合(−C(R)H−C−O−O−C(R)−N)、ケトメチレン結合(−CO−CH−)、α−アザ結合(−NH−N(R)−CO−)(但し、Rは任意のアルキル基、例えばメチル基など)、カルバ結合(−CH−NH−)、ヒドロキシエチレン結合(−CH(OH)−CH−)、チオアミド結合(−C=S−NH−)、オレフィン性二重結合(−CH=CH−)、及びペプチド誘導体(−N(R)−CH−CO−)(Rは「ノルマル」側鎖で炭素原子上に元々存在する)により置換することができる。これらの改変は、ペプチド鎖に沿った任意の結合で、同時に数か所(2〜3か所)でも起こり得る。
【0110】
本発明は、遊離アミノ基が誘導体化されて、塩酸塩を含むがそれに限定されないアミン塩、p−トルエンスルホニル基、カルボベンゾキシ基、t−ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基又はホルミル基を形成しているペプチドも包含する。遊離カルボキシル基は誘導体化されて、例えば、塩、メチル及びエチルエステル若しくは他のタイプのエステル又はヒドラジドを形成することができる。遊離ヒドロキシル基は誘導体化されて、例えば、O−アシル又はO−アルキル誘導体を形成することができる。ヒスチジンのイミダゾール窒素は誘導体化されて、N−im−ベンジルヒシチジンを形成することができる。
【0111】
20種の標準的アミノ酸残基の1つ又は複数の天然に生ずるアミノ酸誘導体を含むペプチドも、これらの化学的誘導体に含まれる。例えば、4−ヒドロキシプロリンはプロリンを置換することができる;5−ヒドロキシリシンはリシンを置換することができる;3−メチルヒスチジンはヒスチジンを置換することができる;ホモセリンはセリンを置換することができる;またオルニチンはリシンを置換することができる。これらのペプチドは非天然アミノ酸を含むこともできる。非天然アミノ酸の例は、ノルロイシン、オルニチン、シトルリン、ジアミノ酪酸、ホモセリン、ホモシステイン、イソプロピルLys、3−(2’−ナフチル)−Ala、ニコチニルLys、アミノイソ酪酸、及び3−(3’−ピリジル−Ala)であるが、これらに限定はされない。ペプチドは非タンパク質側鎖を含むこともできる。上記に加えて、本発明のペプチドは、1つ又は複数の非アミノ酸モノマー又はオリゴマー(例えば、脂肪酸、複合炭水化物等)を含むこともできる。必要な活性及び好ましくは分子量が保持される限り、本明細書で上に列挙したペプチド配列に対して1つ又は複数のアミノ酸残基の付加を有する任意のペプチドも包含される。アミノ酸残基はアミノ末端及び/又はカルボキシ末端に及び/又はペプチド配列沿いに付加することができる。
【0112】
本発明によるペプチド誘導体は、環状ペプチドであってもよい。環化は、例えば、鎖中の種々の位置に、例えば、Glu、Asp、Lys、Orn、ジアミノ酪(Dab)酸、ジアミノプロピオン(Dap)酸を導入することによるアミド結合(−CO−NH又は−NH−CO結合)形成により達成することができる。骨格と骨格との環化も、式H−N((CH−COOH)−C(R)H−COOH又はHN((CH−COOH)−C(R)H−NH(n=1〜4で、さらにRはアミノ酸の任意の天然又は非天然側鎖である)の改質アミノ酸の導入により達成することができる。骨格−側鎖及び側鎖−側鎖の環化も考慮される。
【0113】
2つのCys残基の導入によるS−S結合形成による環化も可能である。さらに側鎖と側鎖との環化を、例えば、Cys又はホモCysを導入してその遊離SH基と例えばブロモアセチル化Lys、Orn、Dab若しくはDapとを反応させることにより可能になる、式−(−CH−)−S−CH−C−(n=1又は2)の相互作用結合の形成により達成することができる。
【0114】
本明細書で使用する用語「フラグメント」は、必要な活性が保持されている限り、本明細書で列挙したペプチド配列に対するアミノ酸残基の1つ又は複数の欠失を有するペプチドを指す。アミノ酸残基はアミノ末端及び/又はカルボキシ末端から及び/又はペプチド配列沿いに欠失させることができる。
【0115】
ペプチドフラグメントは、化学的合成、組換えDNA技法により又は本明細書に列挙したペプチドを少なくとも1つの分解剤にかけることにより作製することができる。分解剤は、化学的分解剤例えば臭化シアノゲンなど、又は酵素例えばエキソプロテイナーゼ若しくはエンドプロテイナーゼなどであってよい。本発明のペプチドを分解するために使用することができるエンドプロテイナーゼは、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、V8プロテアーゼ又はタンパク質分解フラグメントを生成させる、当技術分野で知られている任意の他の酵素を含む。
【0116】
本明細書で上に記載したように、本発明のペプチドは、カゼインの加水分解により得るか又は合成的に得ることができる。
【0117】
カゼインの加水分解は、通常トリプシン又は膵臓抽出物を用いる消化により実施される。次に分解されていないカゼインを、ペプチドを含む溶液から分離し、溶液を当技術分野で知られている、及び本明細書で以下に例示する適当な方法により、他の不純物からさらに精製する。本発明の或る実施形態によれば、直ぐに使用できる透明な医薬組成物の精製及び調製は、溶液の濾過を含む。或る最近の好ましい実施形態によれば、濾過は、例えば窒素又はアルゴンを含む不活性ガスを使用して低圧で、0.2〜0.5μmフィルターを通して実施される。好ましくは、濾過は0.22μmのフィルターにより実施される。驚いたことに、本発明は、0.5μm未満、好ましくは約0.2μmの孔径を有する膜によるカゼイン加水分解調製物の濾過により透明な溶液が得られることを示した。溶液の透明な外観は、主として残存未消化カゼインミセルの除去に基づく。コロイド粒子を形成するカゼインミセルは、不透明な乳白色を呈する。本発明の医薬組成物と同じ特徴を有する、即ちカゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を含み、ミセルを実質的に含まない透明な溶液の形態にあり、少なくとも1つのペプチドが1,000〜5,000ダルトンの範囲の分子量を有する、当技術分野で知られた他の方法により得られた医薬組成物もまた、本発明の範囲内と考えられるということが理解されるべきである。
【0118】
本発明の医薬組成物は非常に安定である。本明細書で使用する用語「安定な」は、或る温度でインキュベーション後、初期ペプチド活性の少なくとも85%、好ましくは90%、より好ましくは95%以上を保持するカゼイン由来ペプチドの活性を指す。
【0119】
本発明の医薬組成物中のホスホペプチドは、高温並びに低温で安定である。医薬組成物中のホスホペプチドは、活性の実質的低下なしに凍結保存することができる。それに加えて、医薬組成物は、活性の低下なしに約15分間70℃まで加熱することができる。
【0120】
本発明は、直ぐに使用できる透明な無菌溶液の形態にある、カゼインに由来するペプチドを含む医薬組成物を提供する。この組成物は、溶液の透明性がいかなる汚染も、特に微生物汚染の容易で迅速な検出を可能にするので、現在利用可能なカゼイン由来製品よりも有利である。直ぐに使用できる溶液は、粉末の形態で提供される多くのこれまでに知られている組成物と比較して、投与に先立つ復元ステップを必要としない。或る実施形態によれば、本発明の医薬組成物は、医薬組成物を多数の被験者に投与しなくてはならないような獣医学用途に予定されている。本発明の医薬組成物は、そのような条件の必要性に合致しており、汚染の簡単な検出及び直ぐに使用できる製剤を提供する。
【0121】
溶液の透明性は、当業者に知られた任意の方法により測定することができる。或る実施形態によれば、溶液の透明性は、その濁度により決定することができる。本明細書で使用する「透明な」溶液は、6NTU未満の濁度を有する溶液である。
【0122】
用語「医薬組成物」は、本明細書では、処置目的だけでなく、当技術分野で知られている試薬又は診断目的にも使用される、本発明によるタンパク質組成物を含む製剤を含む、比較的広い意味を意図している。処置用途を意図する医薬組成物は、カゼインに由来するペプチドの処置有効量、即ち、予防的又は処置的健康対策のために必要な量を含むべきである。医薬組成物が試薬又は診断薬として使用されるのであれば、その場合は、カゼインに由来するペプチドの試薬又は診断のための量を含むべきである。
【0123】
或る実施形態によれば、本発明の医薬組成物のタンパク質濃度は、約10ng/mlから約15mg/mlである。
【0124】
用語「医薬組成物」は、本明細書に記載したペプチドの1つ又は複数を、薬学的に許容される希釈剤、担体及び賦形剤などの他の化学成分と共に含む製剤をさらに指す。医薬組成物の目的は生物体への化合物の投与を容易にすることである。
【0125】
本明細書で使用する用語「薬学的に許容される担体」は、生物体に重大な刺激を惹起せず、投与された化合物の生物活性及び性質を無効にしない担体又は希釈剤を指す。担体の例は、水、プロピレングリコール、食塩水、エマルション及び有機溶媒と水との混合物であるが、これらに限定されることはない。本明細書で使用する用語「賦形剤」は、化合物の投与をさらに容易にするために医薬組成物に加えられる不活性な物質を指す。賦形剤の例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖類及び種々のタイプのデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油及びポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0126】
薬剤の製剤化及び投与の技法は、「レミントンの製薬科学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)」(Mack Publishing Co.ペンシルバニア州Easton所在)最新版に見出すことができ、その内容は参照として本明細書に組み込む。或る最近の好ましい実施形態によれば、本発明の医薬組成物は、非経口的投与のために、例えば、小管内投与、特に乳腺の乳頭管中への注射又は注入のために製剤化される。注射のためには、本発明のペプチドを、水溶液中、好ましくは、ハンク溶液、リンゲル溶液、又はプロピレングリコール及びポリエチレングリコールなどの有機溶媒を添加した又は添加しない生理的食塩緩衝溶液などの生理的に適合性の緩衝液中で製剤化することができる。乳腺の乳頭管への小管内投与は、局所又は全身投与の観点からは定義されない。本明細書で開示するように、本発明の医薬組成物の小管内投与は、例えば、処置された乳腺でのみ退縮を誘発することによる局所的効果を有し、従って、局所投与と称することができる。医薬組成物は、ゲル剤、軟膏、クリーム剤、エマルション剤又は経皮パッチを含む徐放性製剤として局所的に投与することもできる。本発明は、非経口又は経口のいずれかでの全身投与をさらに包含する。
【0127】
別の態様により、本発明は、カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を含む医薬組成物を、使用前に液体に復元して、実質的にミセルを含まず、6.0を超えるpHを有する透明な溶液を形成する、凍結乾燥された粉末の形態で提供する。
【0128】
さらなる態様により、本発明は、カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を含み、実質的にミセルを含まず、6.0を超えるpHを有する、直ぐに使用できる透明な無菌溶液の形態にある、乳汁産生の一時的中断を誘発することを含み且つ乳汁産生の持続的中断を誘発することを含む、泌乳動物の乳腺処置のための医薬組成物を提供する。
【0129】
なおさらなる態様により、本発明の新規医薬組成物は、感染の予防及び処置又は感染からの回復に有用である。追加の実施形態によれば、医薬組成物は、約1,000から約5,000ダルトンの平均分子量を有するホスホペプチドを含む。或る最近の好ましい実施形態によれば、ペプチドの平均分子量は約2,500ダルトンである。
【0130】
或る実施形態によれば、泌乳動物は、ヒト、雌ウシ、ヤギ、ヒツジ、バッファロー、ラクダ、ロバ、ラマ、ウマ、ブタ、ネコ及びイヌからなる動物群から選択される。
【0131】
或る最近の好ましい実施形態によれば、泌乳動物はヒトである。最近の20乃至30年で、母乳育児は、世界の全ての技術的に進んだ社会で、及び程度は低いが開発途上国においてさえも減少した。多くの女性は、彼女らの乳児に全く授乳しない選択をするか、又は短期間で授乳を中止する。他の女性は種々の医学的理由により授乳を阻止され、それらの女性には或る伝染性又は非伝染性の疾患を患う女性が含まれ、具体的な例はHIVを保有する女性である。保健当局のHIV保有者に対する最近の勧告は、分娩後約10週間だけ母乳授乳を維持し、その後は代替乳のみを与えるべきであるということである。未熟児又は生存しなかった満期産児を産んだ女性も、授乳を阻止される。そのような全ての事象において、乳汁は乳腺により産生されるが、授乳はされない。そのような乳汁停滞は、身体的心理的両面で顕著な苦悩を惹起する程度までの乳房の腫脹を伴う。それに加えて、乳汁停滞は、乳腺分泌の漏洩をしばしば伴い、それは結果として乳房内感染を起こす危険を増大させる。従って、本発明の医薬組成物及び方法は、上記の望ましくない状態を防止するための乳腺退縮及び乳汁産生中断の迅速且つ有効な誘発の必要性に答えるものである。
【0132】
追加の最近の好ましい実施形態によれば、動物は雌ウシ、バッファロー、ヤギ及びヒツジからなる群から選択される家畜動物である。
【0133】
本発明の新規医薬組成物は、一時的又は持続性搾乳中断を誘発することに有効である。本発明の医薬組成物の、乳頭管を通しての乳腺槽中への、典型的には直接の注射又は注入による単回適用への応答で、泌乳動物の乳腺における乳汁産生に対する一時的な効果を得ることができる。通常、単回注射又は注入は、約8時間後に乳汁産生に急激な低下を惹起する。本発明は、本発明の医薬組成物の単回投与も、持続性搾乳中断及び乳腺退縮を惹起することができることを今や開示する。乳汁産生の中断は、処置した乳腺でのみ起こり、この現象は、未処置乳腺からの搾乳を継続することができて乳汁収量の低下が限定されるので、大いに重要である。或いは、所望とあれば、泌乳動物の全ての乳腺を、乳汁産生の中断を誘発するように処置することができる。
【0134】
本発明の医薬組成物により誘発された乳腺退縮過程は、搾乳の中断により誘発された退縮に比較して、より急速で同期しており、乳汁産生は搾乳のような機械的刺激により再開させることができる。乳汁産生の再開も、乳腺退縮の自然過程におけるように、引き続く妊娠及び出産の後で起こる。本発明の組成物により誘発された急速な乳腺退縮は、乳腺組織の再建及び出産に向かう乳汁分泌能力の回復を妨げない。
【0135】
本発明の新規医薬組成物は、さらに乳腺の感染の処置に有用である。本明細書で使用する用語「処置」は、ヒト及び非ヒト哺乳動物の両者における、感染の予防並びに感染から回復させて乳腺を治癒させるための感染した乳腺の処置を意味する。
【0136】
本発明の医薬組成物は、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、カビ、マイコプラズマ及びウイルスにより惹起される感染を含む広範囲の微生物感染の処置に有用である。
【0137】
或る実施形態によれば、医薬組成物は、乳腺炎、特に雌ウシ、ヒツジ、バッファロー及びヤギを含む家畜動物における乳腺炎の処置に有用である。
【0138】
臨床的及び無症状乳腺炎は、主として細菌感染の結果生ずる乳房の炎症状態である。乳腺炎は種々の細菌学的病因を有し、年間乳汁生産において大なる損失をもたらしている。乳腺炎を最も頻繁に惹起する病原微生物は、それらの出所により2つの群に分けることができる。即ち環境性病原菌及び感染性病原菌である。主要な感染性病原菌は、スタフィロコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(Coagulase−negative staphylococcus、CNS)及び大腸菌(E.Coli)である。他の体部位で始まって全身に広がり得る幾つかのマイコプラズマ感染を例外として、これら5種の主要なタイプの微生物は乳頭管を通して乳腺内に入り込む。感染性微生物は、乳腺内における生存及び増殖によく適応して、数週間、数カ月又は数年継続する感染をしばしば惹起する。感染した乳腺は酪農家畜群におけるこれらの微生物の主要な出所であり、感染性病原菌の未感染乳区及び雌ウシへの移動は主として搾乳時中に起こる。
【0139】
臨床的乳腺炎は、乳汁組成及び外観の顕著な変化、減少した乳汁産生、体温の上昇及び感染した乳腺の腫脹、発赤、又は発熱に基づいて容易に診断される。この疾患の最も普通の形態である無症状乳腺炎は、徴候が簡単に現れないのでしばしば検出されないままになる。多くの無症状IMIは持続する傾向があり、その結果、上昇した乳汁SCCによる、及び乳汁産生の減少にもよる乳汁品質の低下が起こる。単一の乳腺に局在化したIMIは、臨床的乳腺炎の発症に、及びある種の乳腺炎病原菌の感染した乳区から未感染乳区への拡散に進行することがある。臨床的乳腺炎と対照的に、無症状乳腺炎を有する家畜動物を、泌乳中に抗生物質投与により処置することは、通常は薦められない(Gruetら、2001年、Adv.Drug Delivery Rev.50巻、245〜259頁)。それは治癒率が低く、また処置の経費及び4〜5日の搾乳中止期間が経済的に容認されないからである(Yamagataら、1987年、J.Am.Vet.Med.Assoc.191巻、1556〜1561頁)。本発明の医薬組成物は、泌乳期中に投与することができる。本明細書で記載したように、本発明の組成物は、局所的効果を有しており、その結果、未感染乳腺からの搾乳を継続しながら処置剤を感染した乳腺にのみ投与することができて、搾乳損失を最小限に減少させる。
【0140】
乳腺炎を処置するためには、感染した乳腺への本発明の医薬組成物の投与を繰り返すことが必要になり得る。通常、投与は少なくとも1回、好ましくは1〜10回、より好ましくは1から3回の間で、約6時間、約8時間、約12時間、約16時間、約20時間及び約24時間からなる群から選択される間隔で、1から10日、好ましくは1から3日の間、繰り返される。
【0141】
或る実施形態によれば、本発明の新規医薬組成物は、乾乳期中に乳房感染を処置するために投与される。処置は、感染した乳腺を処置するためか(乾乳期治療)又は予防療法(乾乳期予防療法)のいずれかのために行なうことができる。乾乳期の開始時及び最中の感染処置は、目に見える感染徴候を有する感染乳腺のみならず、乳房の全乳腺に医薬組成物を投与することが可能になるので、泌乳中の処置よりも有利である。そのような投与の結果は、存在する感染の根治であり、乾乳期中に新たな感染に罹ることを防止する。その上、本発明は、乾乳期中に本発明の医薬組成物を投与することが、その後の泌乳期に感染を起こすことを劇的に減少させることを示す。医薬組成物は、臨床的若しくは無症状の乳腺炎を有すると確認された乳腺に、予防的処置として未感染乳腺に、又は両方に投与することができる。
【0142】
追加の実施形態によれば、本発明の新規医薬組成物は、抗生物質、殺菌剤、ステロイド及び非ステロイド抗炎症処置、免疫調整剤での処置並びにワクチン接種を含むが、これらに限定されない群から選択される追加の抗菌処置と組み合わせて投与される。一実施形態によれば、本発明の医薬組成物及び追加の抗菌処置剤は、配合された単一の医薬組成物として、又は別々の組成物としてのいずれかで、共投与される。或いは、本発明の医薬組成物が前処置として投与され、それに続いて追加の抗菌処置剤が適用される。及びその逆もある。
【0143】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態をより十分に例示する目的で提示される。しかしながら、それらは、いかなる意味でも、本発明の広い範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0144】
(実施例1)医薬組成物の調製
市販ウシカゼイン(例えばSigma)をpH8の25mMトリス緩衝溶液に溶解して(100g/リットル)、トリプシン(500U/リットル)により37℃で4時間消化した。次にその溶液をHClでpH4.7に酸性化し、未消化カゼインを遠心分離によりペレット化した。上清を15分間沸騰させ、室温に冷却し、NaOH溶液でpHを7に調節した。これらの条件で溶解しなかった物質は、遠心分離により除去して廃棄した。或いは、食品規格の市販カゼイン加水分解物を出発原料に使用して、1〜40g/リットルを食塩水又は水に溶解するとpHは約7.2になった。プロセスを通じて使用した水及び食塩水は、「注射用水」について米国薬局方集成に適合するものである。次にこの溶液を40〜60℃に加熱し、冷却後窒素又はアルゴンなどの不活性ガスを使用して低圧(1〜6psi)で5ミクロンのフィルターにより濾過した。数バッチは3ミクロンのフィルターによりさらに濾過する必要があった。次に濾液を、ペプチドの溶解度を上げるために50℃から70℃に加熱した。
【0145】
そのようにして得た混濁した溶液を、次に、窒素又はアルゴンなどの不活性ガスを使用して低圧(1〜6psi)で0.2ミクロンのフィルターにより濾過した。この濾過ステップで全ての残存カゼインミセルは除去され、その結果濾過後に得られた溶液は透明であった。濾液から試料を取り、Bradford法により全ペプチド含有量をアッセイし、タンパク質濃度を5〜15mg/mlに調節した。次に溶液のpHを、濃HCl(アメリカ化学会規格試薬)又は1.0規定NaOHのいずれかで約7.3〜7.6に調節し、溶液を再度不活性ガスを使用して低圧で0.2ミクロンのフィルターにより濾過した。次に最終的に得られた濾液(約10ml)を、不活性ガス雰囲気中で20mlの無菌のガラスアンプルに充填して密封した。
【0146】
或る市販カゼイン加水分解物原料では、プロセスの最後で0.2ミクロンのフィルターの詰りを防止するために、窒素又はアルゴンなどの不活性ガスを使用する低圧(1〜6psi)での5ミクロンのフィルターによる前濾過ステップが必要になることがある。
【0147】
溶液の透明性は濁度計(Micro 100 General Purpose Turbidometer、Metex Cooperation、カナダ、Toronto所在)により測定した。得られた溶液は透明で、4.0のNTUを有していた。生成した組成物は、本明細書においてはMLTS−2と名付ける。
【0148】
(実施例2)乳腺炎の処置
実施例2.1:乳腺炎を有する雌ウシに適用した乾乳期療法
雌ウシ集団
32頭の雌ウシが研究に関与した(8症例(即ち処置を受ける雌ウシ)対24対照、研究計画に従って選択された。下記を参照されたい)。細菌学的診断に基づいて臨床的及び/又は無症状乳腺炎を有すると診断された8症例の雌ウシは、上記実施例1で記載したようにして調製された本発明の組成物(MLTS−2)による処置を受けると登録された。24頭の雌ウシが対照の役目を果たしたが、その内6頭は上記のように乳腺炎を有すると診断され、18頭は感染していなかった。臨床的乳腺炎は、乳汁中の薄片又は凝塊、SCCの急激な上昇、発熱、速脈、食欲喪失、脱水及び鬱を含む可視的徴候により特徴づけられる。感染した乳区又は乳房は腫脹することもある。無症状の乳腺炎は、乳汁産生の減少、低下した乳汁品質及び槽全体中の体細胞計数値の増大により検知される上昇したSCCにより特徴づけられる。対照及びアッセイした雌ウシは同一家畜群から標本として抽出され且つ同系統のものであった。
【0149】
全ての雌ウシに対する選択規準は、泌乳の後期段階、乾乳期の予想される初日に先立つ1〜2週前、4つの機能している乳区、妊娠中、乳頭に目立つ外傷のないこと、登録前4週間に全身的抗乳腺炎療法を受けていない雌ウシ、登録前4週間に抗生物質添加飼料を摂っていない雌ウシ、検査者の判定による処置の結果に影響する可能性のある病的状態の徴候のないことであった。乳腺炎と診断された雌ウシは、確認されたIMI及び少なくとも400,000細胞/mlのSCCを有する雌ウシであった。
【0150】
次の除外基準に従って雌ウシを研究から除外した:登録前4週間に免疫療法を受けた雌ウシ、登録前4週間に抗生物質、ホルモン、抗炎症及び/又は同化療法を全身的又は給餌いずれかにより受けた雌ウシ、登録前12カ月間にワクチン療法を受けた雌ウシ、全身的又は給餌いずれかによる免疫及びワクチン療法の同時期使用、同時期の他の別の療法、検査者の判定により活性結核又は他の感染性疾患を有する雌ウシ、全身的又は給餌いずれかによる同化性ステロイドの同時期使用、全身的又は給餌いずれかによるホルモンの同時期使用。
【0151】
研究計画
処置された雌ウシ(症例)及び対照雌ウシは、次の変動要因によるマッチスコアを定義することにより外分散を最小化するように選択した:家畜群、系統、分娩回数、分娩日、乾乳期の数、乾乳期の日付、及び雌ウシの出生日。全部合致をスコア5、合致なしをスコア0とした。家畜群及び系統については全部合致を要求した。追加の要因には、(最も重要な要因から重要度の低いものへ)出産回数(許容合致数±1)、出産日の相違(許容合致±2カ月)、乾乳期数(許容合致数±1)、乾乳期開始日の相違(許容合致±2カ月)、出生日(許容合致±3カ月)が含まれる。
【0152】
雌ウシは乾乳期に入る予定日の1又は2週前に研究に登録し、それは出産の約75日前であった。この期間内に、基準線となるデータを定めるために次のパラメーターを測定した:全般的乳房外観、SCC:細菌学的試験及び可視的徴候によるIMIの存在。出産の約60日前に搾乳を中止して処置剤を投与した。アッセイする雌ウシは、8mg/mlペプチドのMLTS−2の10mlを3日の間、1日2回与えられた。乳腺炎を有すると診断された対照雌ウシは、広範囲抗生物質(セフキノム、1適用当り75mg)の乾乳雌ウシ処置を受けた。投与は、各乳区への単回投与として、乳腺の乳頭管を通して乳腺槽中への注射によった。乳房の4乳区全てを処置した。各注射投与量に対して新しいバイアルを使用した。使用したバイアルは、研究の監視者による投薬遵守及び計量管理の検証のために保管した。最後の処置の後、出産後の次の泌乳期まで、雌ウシはそれ以上搾乳されなかった。3日間の処置の終了に続いて、約9週間の乾乳期中、乳腺炎の可視的徴候について雌ウシを追跡した。次の泌乳期中の出産後1、2及び3カ月に、細菌学的試験による乳房の各乳区中の微生物の存在、全般的乳房外観及びSCCを検査した。
【0153】
結果
下の表1は、処置前に検出された微生物で処置後に検出されたものはないことを示す(即ち存在した感染の治癒率は100%であった)。
【0154】
【表2】


注:Sはブドウ球菌を表わす。CNSはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌を表わす。
【0155】
本研究の開始時に乳腺炎を有すると診断されず、いかなる処置も受けなかった対照雌ウシが、この期間中に乳腺炎を発症した(18乳区中n=12乳区)。他の6乳区は再発性感染で、1乳区は同一微生物及び残る5乳区は異なるタイプの微生物による。
【0156】
実施例2.2 乳腺炎を有するか又は有しない家畜群レベルで雌ウシに適用される1回投与乾乳期療法
研究計画
この実験の目的は、家畜群レベルでの乾乳期治療としてMLTS−2の有効性を研究することである。少なくとも第2泌乳期にある1酪農家畜群から55頭のホルスタイン雌ウシを、2005年7月25日から2005年11月11日までの実験で使用した。
【0157】
研究は、獣医学における平準化の国際協調指針(Guidelines of the International Coordination of Harmonization in Veterinary)に従って実施した。選択及び除外基準は実施例2.1に記載した通りである。
【0158】
雌ウシは乾乳期に入る予定日の1又は2週前に研究に登録し、それは出産の約75日前であった。乳汁試料は、乾乳処置の予定時の前に少なくとも2回各乳区から、無菌的に収集し、確立された指針に従って培養した。乾乳前の乳房内感染(IMI)は、少なくとも2つの陽性培養の確認により明確にした。処置前の期間内に、基準線となるデータを定めるために次のパラメーターを測定した:全般的乳房外観、SCC:細菌学的試験及び可視的徴候によるIMIの存在。出産の約60日前に搾乳を中止して処置剤を投与した。処置剤は、55頭のアッセイ雌ウシの4乳区中に乳房内注入により無菌的に投与した。各乳区には、1ml当り8mgのペプチドを含むMLTS−2の10mlを1回注入した。各注射投与量に新しいバイアルを使用した。使用したバイアルは、研究の監視者による投薬遵守及び計量管理の検証ために保管した。最後の処置の後、出産後の次の泌乳期まで、雌ウシはそれ以上搾乳されなかった。処置の終了に続いて、約9週間の乾乳期中、乳腺炎の可視的徴候について雌ウシを追跡した。乳区レベルでの治癒率及び新感染率を評価するために、次の泌乳の最初の2カ月間、全ての乳区からの前乳試料を採取し、適当な培地で培養した。2回続いて乳汁培養が陰性であった乳区は、微生物的治癒即ち非感染乳区であると推定した。出産の1及び2ヶ月後全般的乳房外観及びSCCを検査した。全てのパラメーターを各乳区についてまとめ、χ検定を使用して前対後効果についてSAS/STATソフトウェアにより分析した。
【0159】
結果
最初の試料採取で、14頭(25.5%)が感染を有することが見出され、その中の19乳区(8.6%)が感染していた。検出された優勢な微生物は、スタフィロコッカス・バリアンツ(staphylococcus variants)(14/19)であった(表2)。
【0160】
【表3】


注:Sはブドウ球菌を意味する;CNS コアグラーゼ陰性ブドウ球菌;NOS 特定不能ブドウ球菌;Prev.は有病を意味する。処置の前後間のIMIの存在における相違は統計的に有意であった。p<0.005。
【0161】
データは、分娩後に1つの乳区だけが同一種の微生物に89日まで感染したままであったことを示す。
【0162】
実施例2.3 泌乳中における乳腺炎の処置
37頭の雌ウシがこの研究に登録された。全ての雌ウシは1乳腺に臨床的乳腺炎を有すると診断された。カゼイン加水分解物は、1日2回、午前中に1回及び午後の間に1回、乳腺の乳頭管を通して感染した乳腺槽に注射により投与された。
【0163】
研究で使用された雌ウシは、出産回数に関して、従って泌乳期数に関して異なった段階にある。微生物は標準的な実験室的技法(Leitnerら、2004年、Dairy Sci.87巻、46〜52頁)により同定され、定量された。陽性の発見は既知の乳腺炎病原菌の2回継続した同定によった。下の表3から明らかなように本発明の医薬組成物は泌乳期中の乳腺炎を処置することに高度に有効である。
【0164】
【表4】

【0165】
(実施例3)乾乳期の短縮
雌ウシ集団
雌ウシは、上の実施例2.1に記載した選択/除外基準に従って研究に登録される。処置群(n=5)と対照群(n=15)との間のマッチスコアも上記実施例の通りである。対照群内で、雌ウシの少なくとも5分の1は乳腺炎を有すると診断され、抗生物質乾乳期療法で処置されている。
【0166】
研究計画
雌ウシは、研究で使用を開始する予定の2週間前に登録される。研究での使用は出産予定の約60、40、30、20及び10日前に開始した。研究での使用開始前に、基準線となるデータを定めるために次のパラメーターを測定した:SCC:細菌学的試験及び可視的徴候によるIMIの存在及び乳汁収量。下の実施例4に記載したようにして調製したカゼイン加水分解物を、1日に1回だけ投与した。投与数を単回適用に減らすことは、単回処置が、任意の農場において、手順及び労働負荷を相当に簡単にするので極めて望ましく、その結果農家がこの手順を採用する可能性がある。
【0167】
投与は、乳腺の乳頭管を通す乳腺槽中への注射によった。各注射投与量について新しいバイアルを使用した。使用したバイアルは、研究の監視者による投薬遵守及び計量管理の検証のために保管した。処置の後、出産後の次の泌乳期まで、雌ウシはそれ以上搾乳されなかった。処置終了に続いて、雌ウシは、課せられた乾乳期の間、(乳房検査を含めて)追跡された。それに加えて、出産後次のパラメーターを検査した:SCC、細菌学的試験及び可視的徴候によるIMI並びに開放又は閉鎖小管及びプラグコンシステンシー(plug consistency)の評価を含む乳頭管の評価。乳汁収量も測定した。処置が乳汁産生の完全な中断を惹起し、出産後測定されたパラメーターにいかなる副作用も有しないとき、処置は成功であると規定する。乾乳期を45日以内に短縮すれば、大いに成功と規定する。統計分析は上記実施例2.2に記載した通りである。知られているように、乳汁収量は最初の泌乳期(初産後)から少なくとも第4泌乳期にかけて増加する。それ故、処置対非処置雌ウシの乳汁収量を規格化するために、次のように泌乳期数に従って乳汁収量データを補正した。最初の泌乳期についてリットルで表わした1日当りの乳汁量を0.795で割り、第2泌乳期についてはリットルで表わした1日当りの乳汁量を0.965で割り、第3泌乳期についてはリットルで表わした1日当りの乳汁量を1.001で割った。第4泌乳期以降については規格化をしなかった。これらの補正係数は、イスラエルにおいて雌ウシの遺伝的選択のために、イスラエル乳牛育種協会(Israeli Cow Breeding Association)(ICBA)により現在使用されているものである。
【0168】
結果
全ての症例及び対照雌ウシは研究計画に従って分娩し、流産又はいかなる他の出産後の疾患の症例も記録に残さなかった。以前の泌乳において乾乳期の長さ(日数)は症例及び対照について同じであった。他方、現在の泌乳において乾乳期の長さは、カゼイン加水分解での処置後、対照に比較して症例で有意に短かった(P<0.01)(表4)。
【0169】
【表5】

【0170】
分娩後の乳汁収量は、少なくとも下に示す表5に記載した時期の間、乾乳期を短縮された雌ウシの間で差はなかった。
【0171】
【表6】

【0172】
(実施例4)乳汁体細胞計数値の減少
実施例4.1 カゼイン加水分解物により3日間処置した泌乳雌ウシにおける体細胞計数値
雌ウシ集団
最初42頭を集めた後、37頭が研究を全うした。雌ウシは、4つの機能する乳区を有し、その内少なくとも1つが感染していて目立つ乳頭部外傷がなく、健康状態良好で、処置開始前の30日以内に抗生物質及び/又は抗炎症療法を受けていなければ、本研究に動員するのに適格であった。それに加えて、雌ウシが選択された家畜群のいずれにおいても、少なくとも前年中に乳腺炎ワクチンは使用されていなかった。これらの農場の雌ウシは、65%の濃厚飼料と17%のタンパク質を含む35%の茎葉飼料とを含む典型的なイスラエル全混合飼料を給餌されていた。
【0173】
カゼインホスホペプチドの調製
カゼインホスホペプチドを含むカゼイン加水分解物は、以前に記載されたようにして(Shamayら、2003年、同上誌)、調製した。この手順はHy Laboratories(イスラエル、Rehovot所在)で行なわれ、最終製品が無菌であり、製品を無菌バイアルに充填したことが保証されていた。最終製品中の内毒素レベルは、リムルス試験(LAL)により0.48EU/mlであった。10mlのこの溶液で注射される内毒素量、0.0001EU/kg体重(雌ウシ平均体重500kgと仮定して)は、髄腔内投与ヒト用薬剤における内毒素許容限度より2000倍低い(K=EU/kgで表わした許容限度=5EU/kg(非経口薬剤で)及び0.2EU/kg(髄腔内薬剤で))。単一乳区への単回注射用最終製品は、10mg/mlのペプチド濃度で10mlのCNHを含むものであった。
【0174】
研究計画及び結果
カゼイン加水分解物を、乳頭管を通して乳房の感染した乳腺にのみ3日間1日2回投与した。家畜群の定常的スケジュールに従って、搾乳及び乾乳期の誘発を継続した。
【0175】
乳汁試料は、イスラエル乳牛育種協会(Israeli Cow Breeding Association)(ICBA)中央研究所(イスラエル、Caesarea所在)又は国立乳腺炎リファレンスセンター(National Mastitis Reference Center)Kirmon獣医学研究所で検査された。微生物は、標準的実験室技法(Leitnerら、2004年、Dairy Sci.87巻、46〜52頁)により同定され、定量された。陽性の発見は既知の乳腺炎病原菌の2回継続した同定によった。
【0176】
処置を適用する前の乳汁中の体細胞計数値(SCC−PRE)を、分娩後に測定されたSCC(SCC−POST)と比較した。下に示した表6に提示したSCC−PREは、カゼイン加水分解物処置の適用前15日までの2つの測定値の平均である。提示したSCC−POSTは、分娩後15〜60日の間の少なくとも2つの測定値の平均である。27頭の雌ウシに対して、SCCも出産後10カ月まで毎月1回追跡した。
【0177】
統計分析
SCC−PREを、SCCについてχ検定及び連続変数について一方向ANOVAを使用することによりSAS/STATソフトウェアを用いて、SCC−POSTと比較した。全ての乳汁試料は、ICBA研究所でFossomatic 360を用いてSCCを分析され、統計分析のために対数尺度に変換された。
【0178】
結果
1つの乳区に乳腺炎の確定診断つきの、9つの家畜群からの37頭の雌ウシ(1家畜群当り2から7頭)から、データを収集した。最も多く同定された病原菌は、アルカノバクテリウム・ピオゲネス(Arcanobacterium pyogenes)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、大腸菌(Escherichia Coli)及びストレプトコッカス・ウベリス(Streptococcus uberis)であった。ブドウ球菌種、緑膿菌(P.aeruginosa)、ウシコリネバクテリウム(Corynebacterium bovis)及びミクロコッカス(Micrococcus)による感染は例外なく無症状であったが、黄色ブドウ球菌(S.aureus)、大腸菌(E.Coli)及びA.ピオゲネス(A.piogenes)による感染のおよそ60%は臨床的で、およそ40%は無症状であった。
【0179】
SCC−PRE(平均2,210,200)とSCC−POST(平均205,000)との間には、個々の病原菌について検定したとき、又は研究群全体で検定したときのいずれかで、有意の差があった(P<0.001)(表6)。
【0180】
【表7】

【0181】
臨床的感染の乳腺において、雌ウシの75%(n=9/12)のSCC−POSTは処置後に201,000細胞/ml以下であり、全ての処置された雌ウシにおいてはSCC−POSTは401,000細胞/ml以下であった(表7)。無症状感染乳腺においては、雌ウシの57%(n=12/21)のSCC−POSTが処置後に201,000細胞/ml以下、症例の81%において401,000細胞/ml以下であった。全データをまとめて考慮すると、症例の63.6%(n=21/33)のSCC−POSTは201,000細胞/ml未満で、その症例数はSCC−POSTが201,000細胞/mlを超える症例数(n=12/33)よりも有意に大である(p<0.01)。
【0182】
【表8】

【0183】
27頭の雌ウシについて、処置と乾乳期誘発の間に平均で6.1カ月が経過した。即ち分娩は乾乳期の後であった。従って、これらの雌ウシにおいては、SCC−POSTは、乾乳期後の泌乳期で観察されたSCCを表わす。雌ウシの59.3%(16/27)において、SCC−POSTは201,000細胞/ml未満で、それは、処置と乾乳期の間の期間でSCC−POSTが201,000細胞/ml未満であった症例数の21/23と有意の差はなかった。雌ウシの殆んど26%で、追跡全期間中SCC−POSTが101,000細胞/ml未満であり、85%(23/27)でSCC−POSTが401,000細胞/ml未満であったことは注目に値する。
【0184】
実施例4.2 4乳区に投与したカゼイン加水分解物の1回投与量の分娩後体細胞計数値に対する効果
処置回数を1回の減らすことは、単回処置が、任意の農場において手順及び労働負荷を相当に簡単にして、その結果農家がこの手順を採用する可能性があるので、実用的見地から非常に重要である。
【0185】
この実験の目的は、4つの乳腺に1投与量で適用したカゼイン加水分解物処置の分娩後体細胞計数値に対する効果を研究することである。1酪農家畜群からの少なくとも第2泌乳期にあるホルスタイン雌ウシ(55頭)を、2005年7月25日から11月11日までの実験で使用した。
【0186】
研究する雌ウシ、選択及び除外基準、乳汁試料採取、及び研究計画は、本質的には上記実施例2.1に記載した通りである。処置を適用する前の乳汁中の体細胞計数値(SCC−PRE)を分娩後に測定されたSCC(SCC−POST)と比較した。SCC−PREは、個々の各乳腺の処置前15日までの2回の測定値の平均であった。SCC−POSTは、分娩日後15〜60日の間の少なくとも2回の測定値(間隔15〜30日、31〜60日)の平均であった。データ及びSCCは実施例4.1と同様に分析した。
【0187】
結果
処置前に、感染乳区(13頭の雌ウシの19乳区)で測定された平均SCC−PREは、非IMI乳区における183,381細胞/mlに比較して557,278細胞/mlであった(p<0.001)。下の表8に示したように、処置はSCC−POSTを減少させることに有効であった(p<0.01)。処置前後のSCC間の差は、非IMI乳腺についての差(p<0.05)に比較して乳房内感染乳腺においてより顕著であった(p<0.001)。しかしながら、これらの結果は、カゼイン由来ペプチドが、感染乳腺だけでなく非感染乳腺中に投与されたときも、乳汁中のSCCを減少させて、その結果乳汁衛生を改善することを明確に示す。
【0188】
【表9】

【0189】
(実施例5)出産後の乳汁収量に対するカゼイン加水分解物の効果
実施例5.1 カゼイン加水分解物の複数回適用の効果
雌ウシ集団
細菌学的診断により臨床的及び/又は無症状乳腺炎を有すると診断された11頭の雌ウシ(症例)を、カゼイン加水分解物による処置を受けることに登録した。33頭の雌ウシを対照に使用して、その内6頭は上記のようにして乳腺炎を有すると診断され、27頭は感染していなかった。対照及びアッセイ雌ウシは同一家畜群から抽出され、同一系統であった。
【0190】
出産の約60日前に搾乳を停止して処置剤を投与した。アッセイする雌ウシは、8mg/mlのペプチドを含む10mlのMLTS−2を3日間毎日2回与えられた。対照の雌ウシは、単回投与で抗生物質乾乳処置を受けた。乳房の4乳区全部を処置した。雌ウシは処置の間は搾乳せず、残存する乳汁の蓄積は、カゼイン加水分解物処置前に、処置される乳腺から廃棄された。
【0191】
この試行からのデータを、群(処置雌ウシ対対照雌ウシ)、泌乳期(検定した泌乳期:1、2、3、又は4〜5)及び出産後の月次(泌乳している第1、第2、第3又は第4月)を使用する反復測定(「分割区」)法を用いて3方向ANOVAにかけた。処置前後の平均乳汁産生の比較のために、1日当りの乳汁収量を上記実施例3に記載したようにして規格化した。
【0192】
結果
図1及び図2はカゼイン加水分解物への典型的応答を図示する(それぞれ雌ウシNo.2425及びNo.2331)。両方の雌ウシは、処置時に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に感染していた。感染は第2泌乳期中の乳汁産生減少を惹起したことがわかる。しかしながら、処置後に、乳汁収量は、出産から最後の測定まで(出産後60日)、有意に増加した。表9は、乳汁収量の増加がタンパク質及び脂肪濃度により測定された乳汁品質に悪く影響しないことを示す。
【0193】
【表10】

【0194】
実施例5.2 カゼイン加水分解物の単回適用の効果
この実験の目的は、4つの乳腺に出産前の乾乳期に適用されたカゼイン加水分解物による単回処置の、分娩後乳汁収量に対する効果を研究することであった。単回適用の投薬計画の重要性は、農場における労働負荷の軽減及びスタッフの処置剤投与の遵守にある。
【0195】
1つの酪農家畜群からの、少なくとも第2泌乳期にあるホルスタイン雌ウシ(55頭)が、2005年7月25日から2005年11月11日までの実験で使用された。
【0196】
研究用の雌ウシ、選択及び除外の基準、乳汁試料採取、細菌学的試験、及び研究計画は実施例2.2及び4.2と同様である。個々の雌ウシの乳汁収量は、毎日3回自動的に記録された。分娩後の(4から103日)乳汁収量に対するカゼイン加水分解物の効果は、次に定めた期間の乳汁収量を比較することにより評価した。
【0197】
【表11】

【0198】
期間3の乳汁収量を期間1及び2の乳汁収量と比較した(期間を定める上のスキームを参照されたい)。
【0199】
研究で使用した雌ウシは、出産回数、従って泌乳期数に関して異なったステージにあった。異なった泌乳期の雌ウシ間の乳汁収量の規格化は、上記実施例3に記載したように、泌乳期数の乳汁収量によって補正した。28頭の雌ウシを第1泌乳期の終わりに、17頭を第2泌乳期の終わりに、及び10頭を第3期又は以降の泌乳期の終わりに処置した。リットルで表わした乳汁収量を、未処理データの結果として規格化後で提示する。データは、実施例5.1に記載したようにして、SAS/STATソフトウェアにより分析した。
【0200】
結果
データは55頭の雌ウシから収集した。期間3における乳汁収量は、期間1における乳汁収量に比較して11.60%増加した(p<0.01)(表10)。
【0201】
【表12】

【0202】
乳房内感染(IMI)を有する雌ウシ(n=13、乳腺=19)において、期間2における毎日の乳汁量(表11)は、IMIを有しない雌ウシから得られる乳汁量に比較して2.2リットル少なかったので、カゼイン加水分解物処置の効果はより顕著であったが(p<0.01)、期間3においてはIMIを有する雌ウシ及びIMIを有しない雌ウシの乳汁収量は同程度であった(表12)。
【0203】
【表13】

【0204】
【表14】

【0205】
(実施例6)乾乳へ誘発された雌ウシの福祉に対するカゼイン加水分解物の効果
標準的業務によれば、現代の乳牛は、乳汁生産を最大化したい農家の希望と次の泌乳における乳汁産生の減少を防止するであろう最小限の「乾乳期」に対する必要性との間の妥協として、予想される出産の前に60日乾乳される(Annenら、2004年、同上誌)。この業務は、まだ相当量の乳汁、1日当り20から40リットル及び時には1日当り50リットルにさえなる雌ウシの搾乳を突然中断することを伴う。そのような業務は、乳房中に多量の乳汁の蓄積を生じて、乳房怒張及び乳汁漏洩を伴い、それは数日間大きな泣き声を伴う雌ウシの人目を引く苦悩をしばしば惹起する。従って、現代酪農における雌ウシを乾乳させる現在の業務は、雌ウシの健康状態を相当に妨げている。
【0206】
この実験の目的は、加水分解されたカゼインによる処置の、搾乳の突然の中断により乾乳へと誘発された生産乳牛の挙動及び福祉に対する影響を試験することである。
【0207】
泌乳期の終わりに近く(約60日)、1日当り17〜35リットルの乳汁を産生する20頭のホルスタイン雌ウシを研究に導入した。雌ウシは、泌乳期数、搾乳日数、出産までの日数、乳頭端の完全性、乳汁収量、雌ウシ当り又は乳区当り乳汁1ml中のSCC及び乾乳時における感染した乳区数によって対にした(表13)。
【0208】
【表15】

【0209】
乳区の乳汁SCC及び細菌単離を、乾乳前に1週間の間隔で別々に3回試験した。次に、各対の1頭の雌ウシをランダムに(コインをはじいて)、サブグループに帰属させた。サブグループ1の雌ウシを搾乳後カゼイン加水分解物及び広範囲抗生物質セフキノム(1投与量75mg)で処置し(N+C)、一方サブグループ2の雌ウシはセフキノム単独(1投与量75mg)で処置した(C)。2つのサブグループの雌ウシは、調整のために処置前の1週間、各雌ウシについて10平方メートルの日よけ羽板付き床及び10平方メートルのコンクリート舗装ヤードを提供する拘束牛舎中に一緒に収容し、続いて処置後2週間そのままその場所に置いた。3週間後、即ち、処置の1週前から処置後第2週の終わりに、雌ウシに、コンピューター化した脚装着センサー(Afifarm Management System、S.A.E.、イスラエル、Afikim所在)を装着し、それにより、動物の他の自由な行動の妨害を最小にして、動物の活動性(足踏み)及び横臥挙動(LB)のモニター、記録及び伝送を行なえるようにした。
【0210】
乳房圧指数(UPI)は、0、1、2及び3に設定した。但し、0は圧なし、1は中程度の圧、2は高い圧、及び3は極端に高い圧である。任意のUPI値は、指を組織に押し付けて圧力に対するその抵抗を、乳頭の10cm上で2か所、乳槽及びコルプス・ウベイス(corpus ubeis)で評価することにより、乳房圧を評価することにより決定した。UPIの全ての測定は、全実験を通じて1日1回同じ時刻に訓練された同一人により実施された。
【0211】
データは、JMP(バージョン5、SAS Institute、ノースカロライナ州、Cary所在)の反復測定のための適合モデル手順を使用して統計的に分析した。処置は対象間因子であり、時間は対象内因子である。差はP<0.05で有意とされた。モデルは、
ijklm=μ+Pi+αj+C(ij)k+γ+αγil+εijklm
であった。但し、Yijklm=従属変数、μ=全体の平均、Pi=期間の固定効果(乾乳の前及び後、i=1から2)、α=固定処置効果i(I=1から2)、C(ij)k=期間i及び処置j内の雌ウシk(k=1から10)のランダム効果、γ=日l(l=1から9)の効果、αγil=処置jと日lとの相互作用効果、及びεijklm=期間iにおける雌ウシk及び日lの処置jに関連するランダム誤差である。
【0212】
期間に対する、又は処置後の特定の日に対する処置間の比較は、Tukey−Kramer HSDを使用して、t検定により行なった。
【0213】
それに加えて、2つの場合別々に各処置について1次回帰分析を実施した:(i)独立変数としての実験日対積算歩数、及び(ii)独立変数としてのUPIのΔ(但し、Δは、分娩後の任意の日に測定されたデータから分娩前の期間の同じデータの平均を差し引いた差を指す)対歩数と横臥時間との間の比のΔ。回帰の有意性は、回帰係数及びnから評価し、一方回帰勾配間の差は、回帰勾配(b)、勾配の標準誤差(S)及びnからt検定により評価した。
【0214】
雌ウシを乳腺退縮に誘導した後の最初の4日間に、UPIの任意の値(図3)は、N+C処置雌ウシにおける急激な低下に比較して、抗生物質のみ(C)で処置した雌ウシでは、処置前の約1.2から1.8乃至2.5の範囲内の値に顕著に上昇した。このように、この4日間、UPI値は群間で顕著に相違した(p<0.01)。対照雌ウシのUPIは、乾乳に誘導された後の5日目の後でのみ低下した。図4は、処置後第4日における2頭の雌ウシの乳房の写真を示す。これらの特定の2頭の雌ウシの乳汁収量は乾乳時1日当り30リットルを超えた。図3の写真は、UPI=0(パネルB)の処置された雌ウシとUPI=約2(パネルA)の処置されなかった雌ウシとの間の相違を示す。
【0215】
歩数と横臥時間との比(RSL)を「動物の快適さ」を評価する手段として使用した(図5)。この比は、N+Cで処置された雌ウシについては、処置後第2日から始まって小さくなるが、一方、Cで処置された雌ウシでは、この比は変わらなかった。結果として、群間の差は広がり、処置後第3日からその後にかけて有意になった(p<0.005)。
【0216】
全体として、カゼイン加水分解物で処置した雌ウシの乳房圧、活動性及びその他の挙動は、雌ウシが苦しんでいないこと及び従来法により乾乳に誘導された雌ウシよりも静かで快適であったという徴候と明らかに関連していた。
【0217】
本発明の或る実施形態が例示されて説明されたが、本発明が本明細書に記載された実施形態に限定されないことは明らかであろう。多くの改変、変化、変種、置換及び同等のことが、冒頭の特許請求の範囲により説明された本発明の趣旨及び範囲から離脱することなく、当業者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0218】
【図1】カゼイン加水分解物を投与後の雌ウシNo.2425の乳汁産生の増加を、それに先立つ泌乳期と比較して示す図である。
【図2】カゼイン加水分解物を投与後の雌ウシNo.2331の乳汁産生の増加を、それに先立つ泌乳期と比較して示す図である。
【図3】処置(搾乳の突然の中断+抗生物質乾乳処置+カゼイン加水分解物処置)を受けた10頭の雌ウシ及び従来法(搾乳の突然の中断+抗生物質乾乳処置)で乾乳された対照の10頭の雌ウシの、泌乳の最後の3日間(泌乳)及び乾乳された後の最初の7日間における乳房圧指数を示す図である。乾乳期後の処置間の差はP<0.01で有意であった。
【図4】30Lを超える乳汁収量のある2頭の雌ウシの処置後第4日での乳房を示す図である。図4A:C(搾乳の突然の中断+抗生物質乾乳処置)で処置された雌ウシ。図4B:C+N(搾乳の突然の中断+カゼイン加水分解物+抗生物質乾乳処置)で処置された雌ウシ。
【図5】処置(C+N:搾乳の突然の中断+抗生物質乾乳処置+カゼイン加水分解物処置)を受けた10頭の雌ウシ及び従来法(C:搾乳の突然の中断+抗生物質乾乳処置)で乾乳された対照の10頭の雌ウシの、泌乳の最後の3日間(泌乳)及び乾乳された後の最初の7日間における歩数と横臥時間の間の平均累積比を示す図である。乾乳期後の処置間の差はP<0.005で有意であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
泌乳動物にカゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を投与することを含む、乳汁収量に悪影響なしに、泌乳動物における泌乳サイクル間の乾乳期を短縮する方法。
【請求項2】
乾乳期が50日未満に短縮される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
乾乳期が約20日から約30日の間に短縮される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つのペプチドがホスホペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ホスホペプチドがアミノ酸配列Ser(p)−Ser(p)−Ser(p)−Glu−Glu(配列番号1)を含む、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
ホスホペプチドが、β−カゼイン、αS1−カゼイン及びαS2−カゼインからなる群から選択されたカゼインのサブグループに由来する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
β−カゼインに由来するホスホペプチドが、配列番号2で表わされるアミノ酸配列、その類似体、誘導体又はフラグメントを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
αS1−カゼインに由来するホスホペプチドが、配列番号3で表わされるアミノ酸配列、そのフラグメント、類似体又は誘導体を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
αS2−カゼインに由来するホスホペプチドが、配列番号4で表わされるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号5で表わされるアミノ酸配列を含むペプチド、並びにそれらの類似体、誘導体及びフラグメントからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドがカゼインの加水分解により得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドが合成ペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つのペプチドが、泌乳動物の少なくとも1つの乳腺中に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つのペプチドが、乳腺の乳頭管中に投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ペプチドが搾乳の中断と同時に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ペプチドが、約6時間から約24時間の間隔で1から5回の間投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
ペプチドが1回だけ投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
泌乳動物にカゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を投与することを含む、出産後の家畜泌乳動物の乳汁収量を、出産前の前記泌乳動物の乳汁収量に比較して増加させる方法。
【請求項18】
乳汁収量の平均増加率が、出産後の最初の100日で少なくとも約3%である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
出産が乾乳期の後に来る、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1つのペプチドがホスホペプチドである、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
ホスホペプチドがアミノ酸配列Ser(p)−Ser(p)−Ser(p)−Glu−Glu(配列番号1)を含む、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
ホスホペプチドが、β−カゼイン、αS1−カゼイン及びαS2−カゼインからなる群から選択されたカゼインのサブグループに由来する、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
β−カゼインに由来するホスホペプチドが、配列番号2で表わされるアミノ酸配列、その類似体、誘導体又はフラグメントを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
αS1−カゼインに由来するホスホペプチドが、配列番号3で表わされるアミノ酸配列、その類似体、誘導体又はフラグメントを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
αS2−カゼインに由来するホスホペプチドが、配列番号4で表わされるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号5で表わされるアミノ酸配列を含むペプチド、及びそれらの類似体、誘導体又はフラグメントからなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドが、カゼインの加水分解により得られる、請求項17に記載の方法。
【請求項27】
カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドが合成ペプチドである、請求項17に記載の方法。
【請求項28】
ペプチドが泌乳動物の少なくとも1つの乳腺中に投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項29】
少なくとも1つのペプチドが、乳腺の乳頭管中に投与される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
ペプチドが搾乳中断と同時に投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項31】
ペプチドが、約6時間から約24時間の間隔で1から5回の間投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項32】
ペプチドが1回だけ投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項33】
乳汁中の体細胞計数値をペプチド投与前のSCCに比較して減少させるために、泌乳動物の乳腺に、カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を投与することを含む、泌乳動物の乳汁衛生を向上させる方法。
【請求項34】
乳汁中の体細胞計数値が400,000細胞/ml未満である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
少なくとも1つのペプチドがホスホペプチドである、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
ホスホペプチドがアミノ酸配列Ser(p)−Ser(p)−Ser(p)−Glu−Glu(配列番号1)を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
ホスホペプチドが、β−カゼイン、αS1−カゼイン及びαS2−カゼインからなる群から選択されたカゼインのサブグループに由来する、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
β−カゼインに由来するホスホペプチドが、配列番号2で表わされるアミノ酸配列、その類似体、誘導体又はフラグメントを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
αS1−カゼインに由来するホスホペプチドが、配列番号3で表わされるアミノ酸配列、その類似体、誘導体又はフラグメントを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
αS2−カゼインに由来するホスホペプチドが、配列番号4で表わされるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号5で表わされるアミノ酸配列を含むペプチド、及びそれらの類似体、誘導体又はフラグメントからなる群から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドが、カゼインの加水分解により得られる、請求項33に記載の方法。
【請求項42】
カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドが合成ペプチドである、請求項33に記載の方法。
【請求項43】
ペプチドが泌乳動物の少なくとも1つの乳腺中に投与される、請求項33に記載の方法。
【請求項44】
少なくとも1つのペプチドが、乳腺の乳頭管中に投与される、請求項33に記載の方法。
【請求項45】
ペプチドが搾乳中断と同時に投与される、請求項33に記載の方法。
【請求項46】
ペプチドが、約6時間から約24時間の間隔で1から5回の間投与される、請求項33に記載の方法。
【請求項47】
ペプチドが1回だけ投与される、請求項33に記載の方法。
【請求項48】
泌乳動物の乳腺に、カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を投与し、それにより泌乳動物の福祉を改善することを含む、家畜泌乳動物における乳腺感染又は搾乳の突然の中断に関連する苦痛を防止する方法。
【請求項49】
泌乳動物の福祉の改善が、前記動物の1日当りの歩数の減少及び横臥時間の延長により測定される、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
少なくとも1つのペプチドがホスホペプチドである、請求項48に記載の方法。
【請求項51】
ホスホペプチドがアミノ酸配列Ser(p)−Ser(p)−Ser(p)−Glu−Glu(配列番号1)を含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
ホスホペプチドが、β−カゼイン、αS1−カゼイン及びαS2−カゼインからなる群から選択されたカゼインのサブグループに由来する、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
β−カゼインに由来するホスホペプチドが、配列番号2で表わされるアミノ酸配列、その類似体、誘導体又はフラグメントを含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
αS1−カゼインに由来するホスホペプチドが、配列番号3で表わされるアミノ酸配列、その類似体、誘導体又はフラグメントを含む、請求項52に記載の方法。
【請求項55】
αS2−カゼインに由来するホスホペプチドが、配列番号4で表わされるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号5で表わされるアミノ酸配列を含むペプチド、及びそれらの類似体、誘導体又はフラグメントからなる群から選択される、請求項52に記載の方法。
【請求項56】
カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドが、カゼインの加水分解により得られる、請求項48に記載の方法。
【請求項57】
カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドが合成ペプチドである、請求項48に記載の方法。
【請求項58】
ペプチドが泌乳動物の少なくとも1つの乳腺中に投与される、請求項48に記載の方法。
【請求項59】
ペプチドが、感染した乳腺及び感染していない乳腺からなる群から選択された乳腺に投与される、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
少なくとも1つのペプチドが、乳腺の乳頭管中に投与される、請求項58に記載の方法。
【請求項61】
ペプチドが搾乳中断と同時に投与される、請求項48に記載の方法。
【請求項62】
ペプチドが、約6時間から約24時間の間隔で1から5回の間投与される、請求項48に記載の方法。
【請求項63】
ペプチドが1回だけ投与される、請求項48に記載の方法。
【請求項64】
カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を含む医薬組成物であって、直ぐに使用できる無菌の透明な溶液の形態にあり、実質的にミセルを含まず、6.0を超えるpHを有する組成物。
【請求項65】
少なくとも1つのペプチドが約1,000ダルトンから約5,000ダルトンの分子量を有する、請求項64に記載の医薬組成物。
【請求項66】
少なくとも1つのペプチドがホスホペプチドである、請求項65に記載の医薬組成物。
【請求項67】
ホスホペプチドがアミノ酸配列Ser(p)−Ser(p)−Ser(p)−Glu−Glu(配列番号1)を含む、請求項66に記載の医薬組成物。
【請求項68】
ホスホペプチドが、β−カゼイン、αS1−カゼイン及びαS2−カゼインからなる群から選択されたカゼインのサブグループに由来する、請求項66に記載の医薬組成物。
【請求項69】
β−カゼインに由来するホスホペプチドが、配列番号2で表わされるアミノ酸配列、そのフラグメント、類似体又は誘導体を含む、請求項68に記載の医薬組成物。
【請求項70】
αS1−カゼインに由来するホスホペプチドが、配列番号3で表わされるアミノ酸配列、そのフラグメント、類似体又は誘導体を含む、請求項68に記載の医薬組成物。
【請求項71】
αS2−カゼインに由来するホスホペプチドが、配列番号4で表わされるアミノ酸配列を含むペプチド、配列番号5で表わされるアミノ酸配列を含むペプチド、及びそれらのフラグメント、類似体又は誘導体からなる群から選択される、請求項68に記載の医薬組成物。
【請求項72】
カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドが、カゼインの加水分解により得られる、請求項64に記載の医薬組成物。
【請求項73】
カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドが合成ペプチドである、請求項64に記載の医薬組成物。
【請求項74】
約1,000ダルトンから約5,000ダルトンの平均分子量を有する複数のペプチドの処置有効量を含む、請求項64に記載の医薬組成物。
【請求項75】
約1,000ダルトンから約5,000ダルトンの分子量を有する、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5のいずれか1つで表わされるアミノ酸配列、及びそれらの誘導体、フラグメント若しくは類似体から本質的に構成されるペプチド又はそれらの任意の組合せの処置有効量を含む、請求項64に記載の医薬組成物。
【請求項76】
6比濁計濁度単位(NTU)未満の濁度を有する、請求項64に記載の医薬組成物。
【請求項77】
少なくとも1つのペプチドの約10ng/mlから約15mg/mlを含む、請求項64に記載の医薬組成物。
【請求項78】
pHが約6.0から約8.0の範囲にある、請求項64に記載の医薬組成物。
【請求項79】
50℃〜70℃に加熱したときに、少なくとも1つのペプチドが安定である請求項64に記載の医薬組成物。
【請求項80】
凍結したときに、少なくとも1つのペプチドが安定である、請求項64に記載の医薬組成物。
【請求項81】
凍結乾燥された粉末の形態にある、カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を含む医薬組成物であって、該粉末が使用前に液体に復元されて、実質的にミセルを含まず、6.0を超えるpHを有する透明な溶液を形成する医薬組成物。
【請求項82】
カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を含む医薬組成物を泌乳動物に投与することを含む乳腺を処置する方法であって、前記組成物が、透明な直ぐに使用できる無菌溶液の形態にあり、実質的にミセルを含まず、6.0を超えるpHを有する方法。
【請求項83】
乳腺の処置が、乳汁産生の一時的中断の誘発、乳汁産生の持続的中断の誘発及び乳腺退縮の誘発からなる群から選択される、請求項82に記載の方法。
【請求項84】
カゼインに由来する少なくとも1つのペプチドの処置有効量を含む医薬組成物を泌乳動物に投与することを含む、微生物感染の予防、処置、及び回復のための方法であって、該組成物が透明な直ぐに使用できる無菌溶液の形態にあり、実質的にミセルを含まず、6.0を超えるpHを有する方法。
【請求項85】
感染が乳腺炎であり、組成物が泌乳動物の感染した乳腺中に投与される、請求項84に記載の方法。
【請求項86】
医薬組成物が、泌乳期、搾乳を中断して乾乳期の始まる時期、及び乾乳期からなる群から選択される時期に投与される、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
医薬組成物が、抗生物質処置、殺菌剤処置、ステロイド及び非ステロイド抗炎症処置、免疫調整剤による処置及びワクチン接種からなる群から選択される追加の抗菌療法と組み合わせて投与される、請求項85に記載の方法。
【請求項88】
医薬組成物が、泌乳動物の少なくとも1つの乳腺中に投与される、請求項85に記載の方法。
【請求項89】
医薬組成物が、泌乳動物の全ての乳腺中に投与される、請求項88に記載の方法。
【請求項90】
泌乳動物が、雌ウシ、ヤギ、ヒツジ、バッファロー、ラクダ、ロバ、ラマ、ウマ、ブタ、ネコ及びイヌからなる群から選択される、請求項88に記載の方法。
【請求項91】
泌乳動物がヒトである、請求項88に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−540399(P2008−540399A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−509574(P2008−509574)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【国際出願番号】PCT/IL2006/000524
【国際公開番号】WO2006/117784
【国際公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(507364241)ミルーティス リミテッド (1)
【出願人】(507363071)
【Fターム(参考)】