説明

カチオン性電着塗料組成物

【課題】耐食性および付き廻り性に優れ、さらに有機溶剤量を低減することができるカチオン性電着塗料組成物を提供すること。
【解決手段】変性カチオン性エポキシ樹脂およびブロックポリイソシアネート硬化剤を含有するカチオン性電着塗料組成物であって、該変性カチオン性エポキシ樹脂が、エポキシ樹脂をカチオン変性し、かつ、アルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物によって変性したものであり、該スチレン化フェノール化合物の配合量が、変性カチオン性エポキシ樹脂固形分の2〜30重量%である、カチオン性電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン性電着塗料組成物に関する。具体的には、特定の変性カチオン性エポキシ樹脂とブロックポリイソシアネート硬化剤とを含有するカチオン性電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、電着塗料組成物には、耐食性を付与するために、鉛を含む耐食性付与剤が添加されてきた。近年、鉛は環境に対して悪影響を与えることから、使用量の削減が要求されている。そのため、鉛を含む耐食性付与剤を含まない、いわゆる無鉛性カチオン電着性塗料が主として利用されつつある(例えば、特許文献1)。しかし、電着性塗料組成物に鉛を使用しないことによって、電着塗膜の耐食性付与性能が低下することが多く、特に無処理の鋼板表面を無鉛性電着塗料組成物で電着塗装した基材は、耐食性が劣る場合がある。
【0003】
また、近年自然環境保全および製造や取り扱いにおける安全性の向上のために、有機溶剤の使用量を低減させることが進められている。例えば、特許文献2には、プロピレンオキサイドの繰り返しの末端に1級の水酸基を有し、さらに1〜2個の1級水酸基および/または1級アミノ基を分子内に有する組成物を用いることにより、耐食性を低下させることなくVOCを低減させることができるカチオン性電着塗料組成物が開示されている。しかし、この組成物では、付き廻り性や耐食性の向上に十分な効果が得られない。
【0004】
さらに、特許文献3には、アルコキシル化(エトキシ化、プロポキシ化)されたスチレン化フェノールを用いることにより、外観を良好にすることができる電気コート浴組成物が開示されている。この組成物は、基体樹脂との架橋基を持たないので、塗膜中では可塑剤として存在する。そのため、塗料の外観が良好になり、VOCを低減させることができたとしても、基材との密着性が低下し、耐食性を確保することが困難である。
【特許文献1】特開2008−106134号公報
【特許文献2】特開2001−192606号公報
【特許文献3】特開平4−216878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、耐食性および付き廻り性に優れ、さらに有機溶剤量を低減することができるカチオン性電着塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のカチオン性電着塗料組成物は、変性カチオン性エポキシ樹脂およびブロックポリイソシアネート硬化剤を含有するカチオン性電着塗料組成物であって、該変性カチオン性エポキシ樹脂が、エポキシ樹脂をカチオン変性し、かつ、アルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物によって変性したものであり、該スチレン化フェノール化合物の配合量が、変性カチオン性エポキシ樹脂固形分の2〜30重量%である。
好ましい実施形態においては、上記スチレン化フェノール化合物1molに付加されたスチレンの量が1.5〜3.0molであり、付加されたプロピレンオキサイドの量が1〜20molである。
好ましい実施形態においては、上記スチレン化フェノール化合物1molに付加されたスチレンの量が1.5〜3.0molであり、付加されたエチレンオキサイドの量が1〜6molである。
好ましい実施形態においては、上記スチレン化フェノール化合物がグリシジル基またはカルボキシル基を有する。
本発明の別の局面によれば、電着塗膜が提供される。該電着塗膜は、上記カチオン性電着塗料組成物から形成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エポキシ樹脂をカチオン変性し、かつ、アルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物で変性した変性カチオン性エポキシ樹脂をカチオン性電着塗料組成物に用いることにより、耐食性および付き廻り性に優れ、有機溶剤の使用量を低減させることができるカチオン性電着塗料組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[変性カチオン性エポキシ樹脂]
本発明で用いる変性カチオン性エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂をカチオン変性し、かつ、アルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物によって変性したものである。変性カチオン性エポキシ樹脂は、水溶性樹脂であってもよく、そのほか、エマルション、懸濁液、ディスパージョン等の形態を持つ樹脂であってもよい。
【0009】
変性カチオン性エポキシ樹脂に用いるエポキシ樹脂としては、任意の適切なものを用いることができ、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂またはノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0010】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807、(同、エポキシ当量170)などがある。ノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、エポトートYDCNシリーズ(東都レジン社製)などがある。
【0011】
特開平5−306327号公報第0004段落の式、化3に記載のような、オキサゾリドン環含有エポキシ樹脂をカチオン性エポキシ樹脂に用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた電着塗膜が得られるからである。(特開平5−306327号公報の[化3]に記載のオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を下記に示す。)
【化1】

(式中、Rはジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。)
【0012】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックポリイソシアネートとポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0013】
二官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体例及び製造方法は、例えば、特開2000−128959号公報第0012〜0047段落に記載されている。
【0014】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0015】
エポキシ樹脂をカチオン性にする方法としては、任意の適切な方法を用いることができる。例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂またはノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ環の全部をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環するか、または一部のエポキシ環を他の活性水素化合物で開環し、残りのエポキシ環をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環して製造する方法が挙げられる。
【0016】
カチオン性基を導入し得る活性水素化合物としては1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩、スルフィド及び酸混合物がある。1級、2級または3級アミノ基含有エポキシ樹脂を調製するためには1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物として用いる。
【0017】
具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酢酸塩、ジエチルジスルフィド・酢酸混合物などのほか、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの1級アミンをブロックした2級アミンがある。アミン類は複数のものを併用して用いてもよい。
【0018】
エポキシ環を開環するために使用し得る他の活性水素化合物としては、フェノール、クレゾール、ノニルフェノール、ニトロフェノールなどのモノフェノール類;へキシルアルコール、2−エチルヘキサノール、ステアリルアルコール、エチレングリコールまたはプロピレングリコールのモノブチル−、またはモノヘキシルエーテルなどのモノアルコール類;ステアリン酸およびオクチル酸などの脂肪族モノカルボン酸類;グリコール酸、ジメチロールプロピオン酸、ヒドロキシピバリン酸、乳酸、クエン酸などの脂肪族ヒドロキシカルボン酸;およびメルカプトエタノールなどのメルカプトアルコールが挙げられる。
【0019】
これらのエポキシ樹脂は、開環後0.3〜4.0meq/gのアミン当量となるように、より好ましくはそのうちの5〜50%が1級アミノ基が占めるように活性水素化合物で開環するのが望ましい。
【0020】
本発明で用いるアルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物は、代表的には、式(1)で表わされる構造を有する。
【化2】

(式中、nは1以上の数である。ROはオキシアルキレン基である。mは1以上の数であり、mが2以上の場合、オキシアルキレン基は同じでも異なっていてもよい。Rはグリシジル基、カルボキシル基、活性水素である。)
【0021】
上記式(1)において、nは1以上の数であり、好ましくは1.5〜3.0、より好ましくは1.5〜2.7である。すなわち、アルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物に含まれるスチレンの量は、フェノール1molに対して、好ましくは1.5〜3.0molであり、より好ましくは1.5〜2.7molである。アルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物に含まれるスチレンの量をこの範囲にすることで、基材に対する密着性が良好となり、耐食性の向上へとつながる。スチレン量が1.5molより少ないと、十分な密着性の向上効果が得られないおそれがある。スチレン量が3.0molを超えるものは、事実上合成が困難である。
【0022】
本発明で用いるアルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物は、式(2)で表わされるものであってもよい。
【化3】

(式中、nは1以上の数である。ROはオキシアルキレン基である。mは1以上の数であり、mが2以上の場合、オキシアルキレン基は同じでも異なっていてもよい。Rはグリシジル基、カルボキシル基、活性水素である。)
【0023】
上記式(2)において、nは1以上の数であり、好ましくは1.5〜3.0、より好ましくは1.5〜2.7である。すなわち、アルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物に含まれるスチレンの量は、フェノール1molに対して、好ましくは1.5〜3.0molであり、より好ましくは1.5〜2.7molである。アルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物に含まれるスチレンの量をこの範囲にすることで、基材に対する密着性が良好となり、耐食性の向上へとつながる。スチレン量が1.5molより少ないと、十分な密着性の向上効果が得られないおそれがある。
【0024】
上記式(1)と(2)において、ROはオキシアルキレン基である。ROは、好ましくは炭素数が2〜4のオキシアルキレン基であり、より好ましくはエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドであり、さらに好ましくはプロピレンオキサイドである。ROをプロピレンオキサイドとすることにより、塗膜の疎水性が向上し、耐食性に有利に働く。アルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物が2個以上のオキシアルキレン基を有する場合には、2個以上のオキシアルキレン基は、同じであっても異なっていてもよい。
【0025】
上記式(1)と(2)において、mは1以上の数であり、好ましくは1〜20であり、より好ましくは3〜15である。すなわち、スチレン化フェノール化合物に付加されたオキシアルキレン基の量は、フェノール1molに対して、好ましくは1〜20molであり、より好ましくは3〜15molである。付加されたオキシアルキレン基がプロピレンオキサイドである場合には、プロピレンオキサイドの量は、フェノール1molに対して、好ましくは1〜20molであり、より好ましくは3〜15molである。付加されたオキシアルキレン基がエチレンオキサイドである場合には、エチレンオキサイドの量は、フェノール1molに対して、好ましくは1〜6molであり、より好ましくは3〜5molである。付加されたオキシアルキレン基の量がこの範囲にあることで、基材に対する密着性と付き廻り性の向上につながる。付加されたオキシアルキレン基の量が1molよりも少ないと、有機溶剤量の削減が困難であり、20molを超えると、十分な耐食性が得られないおそれがある。
【0026】
上記式(1)と(2)の末端基Rとしては、グリシジル基、カルボキシル基、活性水素などが挙げられる。好ましくはRはグリシジル基またはカルボキシル基である。このような基を有するスチレン化フェノール化合物によって、変性することにより、形成した電着塗膜の耐食性および付き廻り性を向上させることができ、さらに溶剤の使用量を低減することができる。
【0027】
アルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物を得る方法としては、任意の適切な方法を用いることができる。例えば、スチレン化フェノール化合物を減圧下で脱水し、アルキレンオキサイドを導入する方法が挙げられる。
【0028】
アルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物に、さらにグリシジル基またはカルボキシル基等の置換基を導入する方法としては、任意の適切な方法を用いることができる。例えば、アルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物にアルキレンオキサイドが付加されたアルコールとエピクロルヒドリンを加え、攪拌しながら固形の水酸化ナトリウムを添加する方法が挙げられる。
【0029】
上記アルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物を用いて変性カチオン性エポキシ樹脂を得る方法としては、任意の適切な方法を用いることができる。例えば、エポキシ樹脂にアルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物を加えて昇温し、次いで、アミン化合物を配合して反応させ、変性カチオン性エポキシ樹脂を得る方法が挙げられる。あるいは、エポキシ樹脂とアミン化合物を反応させ、得られたカチオン性エポキシ樹脂とアルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物を反応させ、変性カチオン性エポキシ樹脂を得る方法が挙げられる。
【0030】
本発明で用いる変性カチオン性エポキシ樹脂を得るためのアルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物の配合量は、変性カチオン性エポキシ樹脂の固形分に対して2〜30重量%であり、好ましくは5〜25重量%である。アルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物の配合量をこの範囲にすることで、電着塗膜の耐食性および付き廻り性を向上することができ、溶剤の使用量を低減することができる電着塗料用組成物が得られる。なお、本明細書において、スチレン化フェノール化合物の配合量は、変性カチオン性エポキシ樹脂の調製に用いるエポキシ樹脂、ビスフェノールA、活性水素化合物およびスチレン化フェノール化合物の総重量に対するスチレン化フェノール化合物の配合量のことをいう。
【0031】
[ブロックイソシアネート硬化剤]
ブロックイソシアネート硬化剤に用いるポリイソシアネートは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物であり、任意の適切なものを用いることができる。例えば、脂肪族系ポリイソシアネート、脂環式系ポリイソシアネート、芳香族系ポリイソシアネート、芳香族−脂肪族系ポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0032】
具体的には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、およびナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、およびリジンジイソシアネートなどの炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4−ジシクロへキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、および1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ−[2.2.1]へプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される)などの炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、およびテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート、これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボンジイミド、ウレトジオン、ウレトンイミン、ビューレットおよび/またはイソシアヌレート変性物)などが挙げられる。これらのポリイソシアネートは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
また、本発明で用いるブロックイソシアネート硬化剤には、ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比が2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーを用いることができる。
【0034】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。ブロック剤としては、通常使用されるε−カプロラクタムやブチルセロソルブ等を用いることができる。
【0035】
ブロックイソシアネート硬化剤の配合量は、変性カチオン性エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤との固形分重量比で、好ましくは90/10〜50/50であり、より好ましくは80/20〜65/35である。この範囲にすることで、硬化時に変性カチオン性エポキシ樹脂中の1級、2級アミノ基、水酸基などの活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を形成することができる。
【0036】
[顔料]
顔料としては、電着塗料に使用され得る任意の適切な顔料を用いることができる。顔料の代表例としては、無機顔料が挙げられる。無機顔料の具体例としては、チタンホワイト、カーボンブラックおよびベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、およびリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料等が挙げられる。
【0037】
顔料を電着塗料の成分として用いる場合、代表的には顔料をあらかじめ高濃度で水性溶媒に分散させてペースト状にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般に、このようなペーストを顔料分散ペーストという。顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂ワニスと共に水性溶媒中に分散させて調製する。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性またはノニオン性の低分子量界面活性剤や、4級アンモニウム基および/または3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性溶媒としては、イオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。一般に、顔料分散樹脂は、顔料100重量部に対して、固形分比20〜100重量部の量で用いる。顔料分散樹脂ワニスと顔料を混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得ることができる。
【0038】
顔料の配合量は、上記カチオン性電着塗料組成物の固形分100重量部に対して、好ましくは3〜30重量部、さらに好ましくは10〜25重量部である。
【0039】
[その他の添加剤]
本発明のカチオン性電着塗料組成物は、上記の成分以外に、必要に応じて、ジブチルスズラウレート、ジブチルスズオキシド、ジオクチルスズオキシドなどの有機スズ化合物、N−メチルモルホリンなどのアミン類、ストロンチウム、コバルト、銅などの金属塩を触媒として含むことができる。これらは、ポリイソシアネート硬化剤のブロック剤解離のための触媒として作用し得る。
【0040】
また、本発明のカチオン性電着塗料組成物は、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、ハジキ防止剤、紫外線吸収剤等の慣用の塗料用添加剤を添加してもよい。またこれら以外に、目的に応じて公知の補助錯化剤、緩衝剤、平滑剤、応力緩和剤、光沢剤、半光沢剤等を配合してもよい。
【0041】
[カチオン性電着塗料組成物の製造方法]
本発明のカチオン性電着塗料組成物は、変性カチオン性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、および必要に応じてその他の添加剤を水性溶媒中に分散させることによって調製することができる。また、通常、水性溶媒には変性カチオン性エポキシ樹脂を中和して分散性を向上させるために、中和酸を含有させる。中和酸としては、任意の適切なものを用いることができ、例えば、塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸、スルファミン酸、アセチルグリシンなどの無機酸または有機酸が挙げられる。
【0042】
水性溶媒は、代表的には水であり、イオン交換水および純水が挙げられる。水性溶媒は、必要に応じて、有機溶剤を含んでいてもよく、任意の適切なものを用いることができる。具体的には、キシレンやトルエンなどの炭化水素類、メチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、2−エチルへキシルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテル類、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセチルアセトンなどのケトン類、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。なお、本発明のカチオン性電着塗料用組成物は、変性カチオン性エポキシ樹脂を用いていることから、有機溶剤を用いる場合であっても、従来のカチオン性電着塗料組成物に比べて、配合量を減らすことができる。
【0043】
[カチオン性電着塗料組成物の電着塗膜の形成方法]
本発明のカチオン性電着塗料組成物は、被電着部材に電着塗装され、電着塗膜を形成する。被電着部材としては、導電性を有するものであれば、任意の適切な材料が用いられ得る。例えば、鉄板、銅板、鋼板、アルミニウム板、銅−亜鉛合金板、酸化インジウムスズ(ITO)ガラス基板およびこれらを表面処理したもの、ならびにこれらの成型物が挙げられる。
【0044】
カチオン性電着塗料組成物の電着塗装は、被電着部材を陰極として、陽極との間に、通常、50〜450Vの電圧を印加して行う。印加電圧が50V以上未満であると、電着が不十分となるおそれがあり、450Vを超えると、塗膜が破壊され異常外観となるおそれがある。電着塗装時のカチオン性電着塗料組成物の浴液温度は、通常10〜45℃に調節される。
【0045】
電着塗装工程としては、カチオン性電着塗料組成物に被電着部材を浸漬する工程、および、該被電着部材を陰極として陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させる工程から構成される。電圧を印加する時間は、電着条件によって任意の適切な時間を設定すればよく、例えば、2〜4分に設定することができる。
【0046】
電着塗膜の厚みは、好ましくは5〜25μmであり、より好ましくは10〜20μmである。電着塗膜の厚みが5μm未満では、耐食性が不十分となるおそれがある。電着塗膜の厚みが25μmを超えると、被電着部材に形成される塗膜の合計厚みが厚くなり、塗膜外観が不十分となるおそれがある。
【0047】
電着塗膜の膜抵抗は、塗膜の厚みが15μmにおいて、好ましくは1000〜1600kΩ/cmであり、より好ましくは1100〜1500kΩ/cmである。電着塗膜の膜抵抗が1000kΩ/cm未満では、十分な電気抵抗が得られず、付き廻り性が不十分となるおそれがあり、1600kΩ/cmを超えると塗膜外観が不十分となるおそれがある。なお、電着塗膜の塗装面積(cm)あたりの膜抵抗値は最終塗装電圧(V)における、塗膜の残余電流値(A)から、下記の式より求めることができる。
膜抵抗値(FR(kΩ・cm))=電圧(V)/電流(mA)×塗装面積(cm
【0048】
得られた電着塗膜を、電着過程の終了後、そのまま、または水洗した後、例えば、120〜260℃、好ましくは140〜220℃で、10〜30分間焼き付けることにより硬化させ、硬化電着塗膜を得ることができる。
【0049】
本発明のカチオン性電着塗料組成物は、耐食性および付き廻り性に優れるので、耐食性が要求され、かつ凹凸など複雑な形状を有する成型品に好適に用いることができる。具体的には、自動車の車体、および自動車用部品などが挙げられる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、特に明記しない限り、実施例における部および%は重量基準である。
【0051】
実施例で行った各測定の測定条件を以下に示す。
<溶解性パラメーター(SP値)の測定>
試料0.5gを100mlのビーカーに秤量し、良溶媒(テトラヒドロフラン:THF)10mlをホールピペットを用いて加え、マグネスティックスターラーにて溶解した。次いで、50mlピペットを用いて、貧溶媒(純水、n−ヘキサン)を滴下し、濁りが生じた点を滴下量として、下記式よりSP値を求めた。測定温度は20℃とした。
δ=(Vml1/2δml+Vmh1/2δmh)/(Vml1/2+Vmh1/2
(式中、δは樹脂のSP値を表す。Vは各溶媒の分子熔(ml/mol)を表す。δは各溶媒のSP値を表す。mlは低SP値貧溶媒混合系を表す。mhは高SP値貧溶媒混合系を表す。)
=V/(φ+φ
(式中、φは濁点における各溶媒の体積分率を表す。Vは上記の式と同じ。)
δ=φδ/φδ
(式中、δおよびφは上記の式と同じ。)
【0052】
<最低造膜温度(MFT)の測定>
浴温16℃にて、所定電圧で電着塗装を行った際の析出重量を測定した。さらに、浴温を2℃昇温するごとに、同様に電着塗装を行った際の析出重量を測定した。析出重量が最も少なくなる温度をMFTとした。被電着物は、リン酸亜鉛処理鋼板(JIS G 3141 SPCC−SDのサーフダインSD−5000(日本ペイント社製)処理)を用いた。
【0053】
<塗膜電気抵抗値(FR)の測定>
浴温30℃において、所定電圧にて電着膜厚が15μmとなるように塗装し、電着終了時に流れていた残余電流値から、以下の式を用いて、塗膜の電気抵抗値を算出した。被電着物は、リン酸亜鉛処理鋼板(JIS G 3141 SPCC−SDのサーフダインSD−5000(日本ペイント社製)処理)を用いた。
FR(kΩ・cm)=電圧(V)/電流(mA)×塗膜面積(cm
【0054】
<付き廻り性(Th−P)の評価>
付き廻り性は、いわゆる4枚ボックス法により評価した。すなわち、図1に示すように、4枚のリン酸亜鉛処理鋼板(JIS G 3141 SPCC−SDのサーフダインSD−5000(日本ペイント社製)処理)31〜34を、立てた状態で間隔20mmで平行に配置し、両側面下部および底面を布粘着テープ等の絶縁体で密閉したボックス30を用いる。なお、鋼板34以外の鋼板31〜33には、下部に8mmφの貫通穴35が設けられている。このボックス30を、図2に示すように各実施例または比較例の電着塗料組成物37を入れた電着塗装容器36内に浸漬し、各貫通穴35からのみ電着塗料組成物37がボックス30内に侵入するようにする。そして、各鋼板を電気的に接続し、最も近い鋼板31との距離が150mmとなるように対極38を配置した。各鋼板31〜34を陰極、対極38を陽極として電圧を印加して鋼板にカチオン電着塗装を行った。塗装は、印加開始から5秒間で鋼板31のA面に記載形成される塗膜の膜厚が20μmに達する電圧まで昇圧し、その後175秒間その電圧を維持することにより行った。このときの電着塗装設定温度は、28℃に調節した。塗装後の各鋼板は、水洗した後、160℃で20分間焼き付けし、空冷後、対極38に最も近い鋼板31のA面に形成された塗膜の膜厚と、対極38から最も遠い鋼板34のG面に形成された塗膜の膜厚とを測定し、膜厚(G面)/膜厚(A面)の比(G/A値)により、付き廻り性を評価した。この値が大きいほど付き廻り性が良いと評価できる。
【0055】
<カソード密着性の評価>
硬化後の電着塗装板をカットし、0.1mAの電流値にて72時間電解後、テープ剥離を行い、その両側剥離幅(mm)にて密着性を評価した。
【0056】
<耐食性の評価>
硬化後の電着塗装板をクロスカットし、塩水噴霧試験を1000時間行った後、テープ剥離を行い、カット部からの片側最大剥離幅(mm)にて評価した。
【0057】
[製造例1〜6]グリシジル基を有するスチレン化フェノール化合物の調製
撹拌および温度調節機能の付いたステンレス製オートクレーブに、表1に記載されたスチレン化フェノール375部、水酸化カリウム0.3部を投入し、混合系内を窒素で置換した後、減圧下(約20mmHg)、120℃にて1時間脱水を行った。次いで、表1に記載された量のアルキレンオキサイドを150℃にて、ゲージ圧が1〜3kgf/cmとなるように導入した。次いで、エピクロルヒドリン185部を仕込み、激しく撹拌しながら固形水酸化ナトリウム80部を30〜40℃にて徐々に投入し、温度を保持しながら5時間熟成し反応を終了した。反応終了後、水洗により副生塩を除去した。次いで、洗液が中性となるまで十分に洗浄し、減圧下120〜140℃で水およびエピクロルヒドリンを留去し、樹脂固形分100%のグリシジル基を有するアルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物(化合物1〜6)を得た。
【0058】
[製造例7]グリシジル基を有するスチレン化フェノール化合物の調製
表1に記載されたスチレン化フェノールの量を250部とした以外は製造例1〜6と同様にして、樹脂固形分100%のグリシジル基を有するアルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物(化合物7)を得た。
【0059】
[製造例8〜9]カルボキシル基を有するスチレン化フェノール化合物の調製
撹拌および温度調節機能の付いたステンレス製オートクレーブに、表1に記載されたスチレン化フェノール375部、水酸化カリウム0.3部を投入し、混合系内を窒素で置換した後、減圧下(約20mmHg)、120℃にて1時間脱水を行った。次いで、表1に記載された量のプロピレンオキサイドを150℃にて、ゲージ圧が1〜3kgf/cmとなるように導入した。次いで、HQ0.16部および無水フタル酸の120℃溶融液148部を添加し、反応混合物が均一になり、反応熱の発生が認められなくなるまで撹拌を行った。次いで、撹拌を120℃で75分間反応を続けた。冷却後、樹脂固形分100%のカルボキシル基を有するアルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物(化合物8〜9)を得た。
【0060】
[製造例10]グリシジル基を有する高級アルコールの調製
撹拌および温度調節機能の付いたステンレス製オートクレーブに、高級アルコール(ラウリルアルコール)186部、水酸化カリウム0.3部を投入し、混合系内を窒素で置換した後、減圧下(約20mmHg)、120℃にて1時間脱水を行った。次いで、表1に記載された量のアルキレンオキサイドを150℃にて、ゲージ圧が1〜3kgf/cmとなるように導入した。次いで、エピクロルヒドリン185部を仕込み、激しく撹拌しながら固形水酸化ナトリウム80部を30〜40℃にて徐々に投入し、その温度で5時間熟成し反応を終了した。反応終了後、水洗により副生塩を除去した。次いで、洗液が中性となるまで十分に洗浄し、減圧下120〜140℃で水およびエピクロルヒドリンを留去し、樹脂固形分100%のグリシジル基を有するアルキレンオキサイドが付加された高級アルコール(化合物10)を得た。
【0061】
[製造例11]グリシジル基を有するフェノール化合物の調製
撹拌および温度調節機能の付いたステンレス製オートクレーブに、フェノール94部、水酸化カリウム0.3部を投入し、混合系内を窒素で置換した後、減圧下(約20mmHg)、120℃にて1時間脱水を行った。次いで、表1に記載された量のアルキレンオキサイドを150℃にて、ゲージ圧が1〜3kgf/cmとなるように導入した。次いで、エピクロルヒドリン185部を仕込み、激しく撹拌しながら固形水酸化ナトリウム80部を30〜40℃にて徐々に投入し、その温度で5時間熟成し反応を終了した。反応終了後、水洗により副生塩を除去した。次いで、洗液が中性となるまで十分に洗浄し、減圧下120〜140℃で水およびエピクロルヒドリンを留去し、樹脂固形分100%のグリシジル基を有するアルキレンオキサイドが付加されたフェノール化合物(化合物11)を得た。
【0062】
上記製造例で得られた化合物のスチレン含量、下記式(3)におけるRO、R、およびR、アルキレンオキサイドの種類および含有量を調べた。結果を表1に示す。
【化4】

【0063】
【表1】

【0064】
[製造例12]ブロックポリイソシアネート硬化剤の調製
攪拌機、冷却器、窒素注入管、温度計および滴下ロートを取り付けたフラスコにヘキサメチレンジイソシアネートの3量体(日本ポリウレタン株式会社製 コロネートHX)199部とメチルイソブチルケトン32部、およびジブチルスズラウレート0.03部を秤りとり、攪拌、窒素をバブリングしながら、メチルエチルケトオキシム87.0部を滴下ロートより1時間かけて滴下した。温度は50℃から70℃まで昇温した。次いで、1時間反応を継続し、赤外線分光計によりNCO基の吸収が消失するまで反応させた。次いで、n−ブタノール0.74部、メチルイソブチルケトン39.93部を加え、不揮発分80%とした。
【0065】
[製造例13]顔料分散樹脂の製造
撹拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIという)2220部およびMIBK342.1部を仕込み、昇温して、50℃でジブチル錫ラウレート2.2部を投入し、60℃でメチルエチルケトンオキシム(以下、MEKオキシムという)878.7部を仕込んだ。その後、60℃で1時間保温し、NCO当量が348となっていることを確認し、ジメチルエタノールアミン890部を投入した。60℃で1時間保温し、IRでNCOピークが消失していることを確認後、60℃を超えないように冷却しながら、50%乳酸1872.6部と脱イオン水495部を投入し、4級化剤を得た。別の反応容器に、TDI870部およびMIBK49.5部を仕込み、50℃以上にならないように、2−エチルヘキサノール667.2部を2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、MIBK35.5部を投入し、30分保温した。その後、NCO当量が330〜370になっていることを確認し、ハーフブロックポリイソシアネートを得た。撹拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した別の反応容器中にエポキシ940.0部を仕込み、メタノール38.5部で希釈した後、ジブチル錫ラウレート0.1部を加えた。これを50℃に昇温した後、TDIを87.1部投入し、さらに昇温した。100℃でN,N−ジメチルベンジルアミン1.4部を加え、130℃で2時間保温した。このとき、分留管によりメタノールを分留した。これを115℃まで冷却し、MIBKを固形分濃度90%になるまで仕込み、その後ビスフェノールAを270.3部、2−エチルヘキサン酸を39.2部仕込み、125℃で2時間加熱撹拌した後、上記のハーフブロックポリイソシアネート516.4部を30分間かけて滴下し、その後30分間加熱撹拌した。次いで、ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル1506部を徐々に加え、溶解させた。90℃まで冷却後、上記4級化剤を加え、70〜80℃に保ち、酸価2以下であることを確認して顔料分散樹脂を得た。この顔料分散樹脂の樹脂固形分は30%であった。
【0066】
[製造例14]顔料分散ペーストの製造
サンドグラインドミルに製造例13で得られた顔料分散樹脂106.9部、カーボンブラック1.6部、カオリン40部、二酸化チタン55.4部、リンモリブデン酸アルミニウム3部、脱イオン水13部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散し、顔料分散ペーストを得た(固形分60%)。
【0067】
[実施例1〜11、比較例3〜5]
攪拌機、冷却器、窒素注入管および滴下ロートを取り付けたフラスコに、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂752.0部、ビスフェノールA291.8部、およびオクチル酸82.9部、表2または表3に記載された量のスチレン化フェノール化合物を加えて180℃まで昇温した後、ジメチルベンジルアミン1.1部を加え、エポキシ当量が1300になるまで反応させた。次いで、120℃まで冷却し、メチルイソブチルケトンにより希釈を行った。次いで、N−メチルエタノールアミン50.6部、およびアミノエチルエタノールアミンケチミン(78.8%メチルイソブチルケトン溶液)45.3部を加え、120℃で2時間反応させた。次いで、メチルイソブチルケトンを加えて希釈し、不揮発分80%に調整し、数平均分子量(GPC法)2300の変性カチオン性エポキシ樹脂を得た。次いで、別の容器にイオン交換水248部と酢酸37.4部を秤りとり、70℃まで加温した変性カチオン性エポキシ樹脂を1528.4部(固形分として70部)およびブロックポリイソシアネート硬化剤655.0部(固形分として30部)の混合物を徐々に滴下し、攪拌して均一に分散させた。次いで、イオン交換水を加え、固形分36%に調整し、変性カチオン性エポキシ樹脂エマルションを得た。得られた変性カチオン性エポキシ樹脂エマルション1730部および上記製造例14で得られた顔料分散ペースト295部と、イオン交換水1970部と、10%酢酸セリウム水溶液40部およびジブチル錫オキサイド10部とを混合して、固形分20重量%のカチオン性電着塗料組成物を得た。得られたカチオン性電着塗料組成物に被電着部材(リン酸亜鉛処理鋼板(JIS G 3141 SPCC−SDのサーフダインSD−5000(日本ペイント社製)処理))を浸漬し、焼き付け後の膜厚が15μmになるような塗装電圧で塗装して得られた未硬化の電着塗膜を160℃で10分間焼き付けし、電着塗膜を得た。得られた電着塗膜のカソード密着性および耐食性を評価した。
【0068】
[比較例1]
還流冷却器、攪拌機、窒素導入管、温度計および滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコ中に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂476部ビスフェノールA203部、ポリカプロラクトンジオール(商品名 TONE0200、UCC社製)40部を仕込み、窒素雰囲気中で150℃に加熱保持しながら、ジメチルベンジルアミン23部を2回に分けて添加し、エポキシ当量1190になるまで反応させ、その後室温まで冷却し、メチルイソブチルケトンで不揮発分80%になるまで希釈し、アミン変性エポキシ樹脂を得た。還流冷却器、攪拌機を取り付けた4つ口フラスコに得られたアミノ変性エポキシ樹脂842部を仕込み、110℃に加熱保持し、次いで、N−メチルエタノールアミン38部、およびアミノエチルエタノールアミンのケチミン化物の79重量%メチルイソブチルケトン溶液20部を加え、120℃で1時間反応させ、変性カチオン性エポキシ樹脂を得た。次いで、別の容器にイオン交換水248部と酢酸37.4部を秤りとり、70℃まで加温した変性カチオン性エポキシ樹脂を1528.4部(固形分として70部)およびブロックポリイソシアネート硬化剤655.0部(固形分として30部)の混合物を徐々に滴下し、攪拌して均一に分散させた。次いで、イオン交換水を加え、固形分36%に調整し、変性カチオン性エポキシ樹脂エマルションを得た。このエマルション1730部および上記製造例14で得られた顔料分散ペースト295部と、イオン交換水1970部と、10%酢酸セリウム水溶液40部およびジブチル錫オキサイド10部とを混合して、固形分20重量%のカチオン性電着塗料組成物を得た。得られたカチオン性電着塗料組成物に被電着部材(リン酸亜鉛処理鋼板(JIS G 3141 SPCC−SDのサーフダインSD−5000(日本ペイント社製)処理)を浸漬し、焼き付け後の膜厚が15μmになるような塗装電圧で塗装して得られた未硬化の電着塗膜を160℃で10分間焼き付けし、電着塗膜を得た。得られた電着塗膜のカソード密着性および耐食性を評価した。
【0069】
[比較例2]
比較例1において、イオン交換水の代わりに、イオン交換水とエチレングリコールモノブチルエーテルの混合溶媒を用いた以外は比較例1と同様にして、カチオン性電着塗料組成物を得た。得られたカチオン性電着塗料組成物に被電着部材(リン酸亜鉛処理鋼板(JIS G 3141 SPCC−SDのサーフダインSD−5000(日本ペイント社製)処理)を浸漬し、焼き付け後の膜厚が15μmになるような塗装電圧で塗装して得られた未硬化の電着塗膜を160℃で10分間焼き付けし、電着塗膜を得た。得られた電着塗膜のカソード密着性および耐食性を評価した。
【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
表2および3に示すように、カチオン性電着塗料組成物はアルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物によって変性された変性カチオン性エポキシ樹脂およびポリイソシアネート硬化剤を含有するので、耐食性および付き廻り性に優れた電着塗膜が得られる。さらに、有機溶剤を用いることなく最低造膜温度(MFT)を下げ、かつ付き廻り性を向上させることができる。
【0073】
しかしながら、従来のカチオン性エポキシ樹脂(アミン変性エポキシ樹脂)を用いた比較例1では、MFTが高くなり、耐食性も十分ではなかった。従来のカチオン性樹脂を用い、さらに有機溶剤を用いた比較例2ではMFTは低下したが、電着塗膜の膜抵抗値(FR)も低下して付き廻り性が不十分となり、かつ耐食性も向上しなかった。アルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノールの代わりに、アルキレンオキサイドが付加された高級アルコールまたはフェノールを用いた比較例3および5においても、比較例2と同様に、MFTは低下したが、電着塗膜の膜抵抗値(FR)も低下して付き廻り性が不十分となり、かつ耐食性も向上しなかった。アルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノールの配合量が50重量%となるように調製した比較例4では、目的とするエポキシ当量に到達せず、未反応のスチレン化フェノール化合物が多く残存したため、カチオン性電着塗料組成物を調製することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のカチオン性電着塗料組成物は、塗料分野で好適に用いられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】付き廻り性を評価する際に用いるボックスの一例を示す斜視図である。
【図2】付き廻り性の評価方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0076】
30 ボックス
31 亜鉛鋼板
32 亜鉛鋼板
33 亜鉛鋼板
34 亜鉛鋼板
35 貫通穴
36 電着塗装容器
37 電着塗料組成物
38 対極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性カチオン性エポキシ樹脂およびブロックポリイソシアネート硬化剤を含有するカチオン性電着塗料組成物であって、
該変性カチオン性エポキシ樹脂が、エポキシ樹脂をカチオン変性し、かつ、アルキレンオキサイドが付加されたスチレン化フェノール化合物によって変性したものであり、
該スチレン化フェノール化合物の配合量が、変性カチオン性エポキシ樹脂固形分の2〜30重量%である、
カチオン性電着塗料組成物。
【請求項2】
前記スチレン化フェノール化合物1molに付加されたスチレンの量が1.5〜3.0molであり、付加されたプロピレンオキサイドの量が1〜20molである、請求項1に記載のカチオン性電着塗料組成物。
【請求項3】
前記スチレン化フェノール化合物1molに付加されたスチレンの量が1.5〜3.0molであり、付加されたエチレンオキサイドの量が1〜6molである、請求項1に記載のカチオン性電着塗料組成物。
【請求項4】
前記スチレン化フェノール化合物がグリシジル基またはカルボキシル基を有する、請求項1から3のいずれかに記載のカチオン性電着塗料組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のカチオン性電着塗料組成物から形成された、電着塗膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−95668(P2010−95668A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269337(P2008−269337)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】