説明

カチオン電着塗料組成物

【課題】 鏡面光沢度が低く、かつ仕上がり外観が良好である硬化電着塗膜を得ることができるカチオン電着塗料組成物を提供すること。
【解決手段】 カチオン性エマルション(A)、およびカチオン性エマルション(B)を含有するカチオン電着塗料組成物であって、
カチオン性エマルション(A)に含まれる樹脂成分の溶解性パラメーターδと、カチオン性エマルション(B)に含まれる樹脂成分の溶解性パラメーターδとの差△δA−Bが0.5〜1.5であり、
カチオン性エマルション(A)の硬化開始温度Tと、カチオン性エマルション(B)の硬化開始温度Tとの差△TA−Bが20〜60℃である、
カチオン電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鏡面光沢度が低くかつ仕上がり外観が良好である硬化電着塗膜を得ることができる電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
鏡面光沢度が低い低光沢塗膜または艶消し塗膜などが設けられた物品は、一般に落ち着いた視覚的印象を与えることができ、またその外観の良さなどから、近年、そのような塗膜の塗装の要望が高くなっている。一方、電着塗装は、塗装工程の自動化が可能であり、また塗装効率が高い塗装方法である。このような利点を有する電着塗装による、低光沢塗膜または艶消し塗膜を設ける塗装の要望は、さらに高くなっている。
【0003】
低光沢塗装用または艶消し塗装用の電着塗料は、一般的に、電着塗料にホワイトカーボン、シリカ微粒子またはケイ酸アルミニウムなどを電着塗料に加えたり、または塗膜中の顔料体積率(PVCともいう。)を高めるなどによって製造することができる。このような電着塗料組成物は、これらの手段によりその塗膜表面に微細な凹凸が形成され、低光沢または艶消し効果を奏している。
【0004】
特開2000−309742号公報(特許文献1)は、平均粒径0.5〜70μmのポリ塩化ビニル樹脂粒子からなる艶消し塗料用添加剤について記載している。この添加剤を加えることによって塗膜表面に微細な凹凸がある艶消し塗装物が得られると記載されている。
【0005】
上記の樹脂粒子などをカチオン電着塗料組成物中に添加することにより得られる艶消し効果は、硬化時に、カチオン電着塗料樹脂から、相溶性の異なるカチオン性ゲル粒子や塩化ビニル樹脂粒子などが表面に露出することに起因すると考えられる。その結果、その塗膜表面に微細な凹凸が形成されることにより塗膜表面で光が散乱され、艶消し効果が得られると考えられる。しかしながら、これらの添加剤を加えることによって硬化時の粘度が増大し、硬化塗膜の塗膜外観が低下する恐れがある。また、樹脂粒子は塗料組成物中で沈降および凝集が生じる恐れがある。粒子凝集物が塗膜上に出現すると、視覚的に目立つ凹凸が塗膜上に出現することとなり、塗膜の仕上がり外観が劣ることとなる。
【0006】
一方、アニオン電着塗料における艶消し手法として、特開平5−171100号公報(特許文献2)に示されるようなアルコキシシリル基を用いた手法などが挙げられる。この手法は、塗料中にマイクロゲルを生成させることにより塗膜表面に微細な凹凸を形成させ、塗膜表面での光の散乱により艶消し効果が発揮されると考えられる。しかし一般に、カチオン型電着塗料組成物は、アニオン型電着塗料組成物と比較して耐食性により優れる塗膜を提供できる。そのため、カチオン型電着塗装による低光沢化または艶消しの手法が提供されれば、より有用である。
【0007】
また、特開2000−144022号公報(特許文献3)には、下記成分(A)酸価15〜80KOHmg/g及び水酸基価30〜200KOHmg/gでアルコキシシリル基を側鎖に有する溶解性パラメーター9.0〜11.6の水分散性樹脂29.9〜84重量%、(B)酸価0〜200KOHmg/g、水酸基価30〜200KOHmg/g及び溶解性パラメーターが9.1〜13.1の樹脂であって、且つ使用する樹脂(B)の溶解性パラメーターの値が使用する樹脂(A)の溶解性パラメーターの値よりも0.1〜1.5大きい樹脂0.1〜20重量%、(C)架橋剤15〜50重量%、を硬化性樹脂成分として含有してなることを特徴とする艶消しアニオン型電着塗料組成物が、記載されている。このアニオン型電着塗料組成物において、アルコキシシリル基を側鎖に有する水分散性樹脂(A)が艶消し用基体樹脂であることが、第0008段落等の記載から理解される。しかしこのようなアニオン型電着塗料組成物で用いられる艶消し用基体樹脂を、極性が逆であるカチオン電着塗料組成物にそのまま用いるのは困難である。
【0008】
【特許文献1】特開2000−309742号公報
【特許文献2】特開平5−171100号公報
【特許文献3】特開2000−144022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来技術の問題点解決することを課題とする。より特定すれば、本発明は、鏡面光沢度が低く、なおかつ仕上がり外観が良好である硬化電着塗膜を得ることができるカチオン電着塗料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
カチオン性エポキシ樹脂(a)およびブロックイソシアネート硬化剤(c)を含む、カチオン性エマルション(A)、および
上記カチオン性エポキシ樹脂(a)とは異なるカチオン性エポキシ樹脂およびカチオン変性アクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種(b)、およびブロックイソシアネート硬化剤(d)、を含むカチオン性エマルション(B)、
を含有するカチオン電着塗料組成物であって、
カチオン性エマルション(A)に含まれる樹脂成分の溶解性パラメーターδと、カチオン性エマルション(B)に含まれる樹脂成分の溶解性パラメーターδとの差△δA−Bが0.5〜1.5であり、
カチオン性エマルション(A)の硬化開始温度Tと、カチオン性エマルション(B)の硬化開始温度Tとの差△TA−Bが20〜60℃である、
カチオン電着塗料組成物、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0011】
また本発明は、カチオン電着塗料組成物中に含まれる、カチオン性エマルション(A)の樹脂固形分とカチオン性エマルション(B)との樹脂固形分の重量比率A/Bが、95/5〜60/40であるカチオン電着塗料組成物も提供する。
【0012】
さらに本発明は、低光沢である硬化電着塗膜の形成方法も提供する。このような方法として、上記カチオン電着塗料組成物を電着塗装して電着塗膜を形成する工程、および得られた電着塗膜を加熱して硬化させる工程、を包含する、鏡面光沢度50〜70%の硬化電着塗膜の形成方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、電着塗料組成物中に粒子状の艶消し添加物などを加えることなく、低光沢の硬化電着塗膜塗膜を形成することができる。本発明の電着塗料組成物を用いることによって、鏡面光沢度が低く(低光沢)、かつ仕上がり外観が良好である硬化塗膜を、カチオン電着塗装により形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、カチオン性エマルション(A)およびカチオン性エマルション(B)の2種類のエマルションを少なくとも含む。カチオン性エマルション(A)は、カチオン性エポキシ樹脂(a)およびブロックイソシアネート硬化剤(c)を含む。また、カチオン性エマルション(B)は、上記カチオン性エポキシ樹脂(a)とは異なるカチオン性エポキシ樹脂およびカチオン変性アクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種(b)、およびブロックイソシアネート硬化剤(d)、を含む。そして、カチオン性エマルション(A)に含まれる樹脂成分の溶解性パラメーターδと、カチオン性エマルション(B)に含まれる樹脂成分の溶解性パラメーターδとの差△δA−Bが0.5〜1.5である。また、カチオン性エマルション(A)の硬化開始温度Tと、カチオン性エマルション(B)の硬化開始温度Tとの差△TA−Bは20〜60℃である。以下、詳しく説明する。
【0015】
カチオン性エマルション(A)
カチオン性エマルション(A)は、カチオン性エポキシ樹脂(a)およびブロックイソシアネート硬化剤(c)を含む。カチオン性エポキシ樹脂(a)は、アミンで変性されたエポキシ樹脂が含まれる。
【0016】
カチオン性エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環の全部を、アミンで開環するか、または一部のエポキシ環を他の活性水素化合物で開環し、残りのエポキシ環をアミンで開環して製造される。
【0017】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807、(同、エポキシ当量170)などがある。
【0018】
特開平5−306327号公報に記載される、下記式
【0019】
【化1】

【0020】
[式中、Rはジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]で示されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を、カチオン性エポキシ樹脂に用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0021】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックイソシアネート硬化剤とポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0022】
特に好ましいエポキシ樹脂はオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂である。耐熱性及び耐食性に優れ、更に耐衝撃性にも優れた塗膜が得られるからである。
【0023】
二官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体例及び製造方法は、例えば、特開2000−128959号公報第0012〜0047段落に記載されており、公知である。
【0024】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような適当な樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0025】
これらのエポキシ樹脂は、開環後0.3〜4.0meq/gのアミン当量となるように、より好ましくはそのうちの5〜50%を1級アミノ基が占めるように活性水素化合物で開環するのが望ましい。
【0026】
エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応させるアミンとしては、1級アミン、2級アミンが含まれる。エポキシ樹脂と2級アミンとを反応させると、3級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂(カチオン性エポキシ樹脂)が得られる。また、エポキシ樹脂と1級アミンとを反応させると、2級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂が得られる。さらに、1級アミノ基および2級アミノ基を有する樹脂を用いることにより、1級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂を調製することができる。ここで、1級アミノ基および2級アミノ基を有するアミン変性エポキシ樹脂の調製は、エポキシ樹脂と反応させる前に、1級アミノ基をケトンでブロック化してケチミンにしておいて、これをエポキシ樹脂に導入した後に脱ブロック化することによって調製することができる。
【0027】
1級アミン、2級アミンおよびケチミンの具体例としては、例えば、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酢酸塩、ジエチルジスルフィド・酢酸混合物などがある。さらに、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの、ブロックされた1級アミンを有する2級アミン、がある。これらのアミン類等は2種以上を併用して用いてもよい。
【0028】
上記カチオン変性エポキシ樹脂(a)の数平均分子量は1500〜5000の範囲が好ましい。数平均分子量が1500未満の場合は、硬化形成塗膜の耐溶剤性および耐食性等の物性が劣ることがある。反対に5000を超える場合は、樹脂溶液の粘度制御が難しく合成が困難なばかりか、得られた樹脂の乳化分散等の操作上ハンドリングが困難となることがある。さらに高粘度であるがゆえに加熱・硬化時のフロー性が悪く塗膜外観を損ねる場合がある。
【0029】
ブロックイソシアネート硬化剤(c)は、ポリイソシアネートのイソシアネート基がブロックされた硬化剤である。本発明のブロックイソシアネート硬化剤(c)で使用するポリイソシアネートは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれであってもよい。
【0030】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトンイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0031】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーもブロックイソシアネート硬化剤に使用してよい。
【0032】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。
【0033】
ブロック剤としては、通常使用されるε−カプロラクタムやブチルセロソルブ等を用いることができる。
【0034】
カチオン性エマルション(A)の調製
カチオン性エマルション(A)は、カチオン性エポキシ樹脂(a)およびブロックイソシアネート硬化剤(c)を、水性媒体中に分散させることによって調製することができる。また、通常、水性媒体にはカチオン性であるカチオン性エポキシ樹脂(a)を中和して分散性を向上させるために中和酸を含有させる。中和酸は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸、スルファミン酸、アセチルグリシン等の無機酸または有機酸である。本明細書中における水性媒体とは、水か、水と有機溶媒との混合物である。水としてイオン交換水を用いるのが好ましい。使用しうる有機溶媒の例としては炭化水素類(例えば、キシレンまたはトルエン)、アルコール類(例えば、メチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール)、エーテル類(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ケトン類(例えば、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセチルアセトン)、エステル類(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)またはそれらの混合物が挙げられる。このような有機溶媒がエマルション中に含まれる場合、造膜時の塗膜の流動性が改良され、良好な外観を有する塗膜を得ることができるという利点がある。
【0035】
ブロックイソシアネート硬化剤の量は、硬化時にカチオン性エポキシ樹脂中の1級、2級アミノ基、水酸基、等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般にカチオン性エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤との固形分重量比(エポキシ樹脂/硬化剤)で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。中和酸の量はカチオン性エポキシ樹脂のカチオン性基の少なくとも20%、好ましくは30〜60%を中和するのに足りる量である。
【0036】
カチオン性エマルション(A)の樹脂成分は、ヒドロキシル価が50〜250の範囲となるように分子設計することが好ましい。ヒドロキシル価が50未満では塗膜の硬化不良を招き、反対に250を超えると硬化後塗膜中に過剰の水酸基が残存する結果、耐水性が低下することがある。
【0037】
カチオン性エマルション(B)
カチオン性エマルション(B)は、上記カチオン性エポキシ樹脂(a)とは異なるカチオン性エポキシ樹脂およびカチオン変性アクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種(b)(以下、単に「樹脂(b)」ということもある。)、およびブロックイソシアネート硬化剤(d)、を含む。
【0038】
カチオン性エマルション(B)含まれるブロックイソシアネート硬化剤(d)は、上記カチオン性エマルション(A)に含まれるブロックイソシアネート硬化剤(c)として記載されたブロックイソシアネート硬化剤が用いられる。
【0039】
また、樹脂(b)に含まれるカチオン性エポキシ樹脂として、カチオン性エマルション(A)に含まれるカチオン性エポキシ樹脂(a)に記載されたカチオン性エポキシ樹脂を用いることができる。但し、本発明の電着塗料組成物においては、樹脂(b)に含まれるカチオン性エポキシ樹脂は、カチオン性エマルション(A)に含まれるカチオン性エポキシ樹脂(a)とは異なるものであることを条件とする。ここで、樹脂(b)に含まれ得る「含まれるカチオン性エポキシ樹脂(a)とは異なるカチオン性エマルション」とは、それらのエポキシ樹脂の有する溶解性パラメーター、およびこれらのエポキシ樹脂が含まれるカチオン性エマルションの硬化開始温度が異なるものとなる樹脂をいう。従って本発明においては、カチオン性エマルション(B)に含まれる樹脂(b)としてカチオン性エポキシ樹脂のみが含まれる場合であっても、カチオン性エマルション(A)、(B)における、溶解性パラメーターの差△δA−B0.5〜1.5、およびカチオン性エマルション(A)、(B)の硬化開始温度の差△TA−B20〜60℃の関係は満たされることとなる。
【0040】
カチオン変性アクリル樹脂を得る方法の1つとして、分子内に複数のオキシラン環および複数の水酸基を含んでいるアクリル共重合体とアミンとの開環付加反応が挙げられる。このようなアクリル共重合体は、グリシジル(メタ)アクリレートと、ヒドロキシル基含有アクリルモノマー(例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、あるいは2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのような水酸基含有(メタ)アクリルエステルと、ε−カプロラクトンとの付加生成物)と、その他のアクリル系および/または非アクリルモノマーとを共重合することによって得ることができる。
【0041】
その他のアクリル系モノマーの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、非アクリルモノマーの例としては、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、(メタ)アクリルニトリル、(メタ)アクリルアミドおよび酢酸ビニルを挙げることができる。
【0042】
上記のアクリル共重合体のグリシジル(メタ)アクリレートに基づくオキシラン環の全部を、1級アミン、2級アミンまたは3級アミン酸塩との反応によって開環させ、カチオン変性アクリル樹脂とすることができる。
【0043】
カチオン変性アクリル樹脂を得る他の方法として、アミノ基を有するアクリルモノマーを他のモノマーと共重合しアミノ基含有アクリル樹脂を調製することによって、直接カチオン変性アクリル樹脂を合成する方法がある。この方法では、上記のグリシジル(メタ)アクリレートの代りにN,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジ−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有アクリルモノマーを使用し、これをヒドロキシル基含有アクリルモノマーおよび他のアクリル系および/または非アクリル系モノマーと共重合することによってカチオン変性アクリル樹脂を得ることができる。
【0044】
こうして得られたカチオン変性アクリル樹脂は、上記の特開平8−333528号公報に挙げられるように、必要に応じてハーフブロックジイソシアネート化合物との付加反応によってブロックイソシアネート基を導入し、自己架橋型カチオン変性アクリル樹脂とすることもできる。
【0045】
樹脂(b)の数平均分子量は1000〜20000の範囲が好適である。数平均分子が1000未満では硬化塗膜の耐溶剤性等の物性が劣る恐れがある。反対に20000を超えると、樹脂溶液の粘度が高くなり、得られた樹脂の乳化分散等の操作上ハンドリングが困難なばかりか、得られる硬化塗膜の膜外観が低下してしまう恐れがある。
【0046】
樹脂(b)として、カチオン変性アクリル樹脂を用いるのが好ましい。カチオン電着塗料組成物中に、カチオン性エポキシ樹脂およびカチオン変性アクリル樹脂の両方が含まれることによって、本発明における硬化歪により生じると考えられる塗膜の低光沢化に加えて、樹脂間における屈折率の差により生じる光の乱反射による低光沢化効果も得ることができると考えられるためである。
【0047】
カチオン性エマルション(B)の調製
カチオン性エマルション(B)は、樹脂(b)、ブロックイソシアネート硬化剤(d)を、水性媒体中に分散させることによって調製することができる。カチオン性エマルション(B)の調製は、カチオン性エマルション(A)の調製と同様に行うことができる。ブロックイソシアネート硬化剤(d)の量は、硬化時に樹脂(b)に含まれる活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般に樹脂(b)とブロックイソシアネート硬化剤(d)との固形分重量比(エポキシ樹脂および/またはアクリル樹脂と硬化剤との比率)で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。中和酸の量は樹脂(b)のカチオン性基の少なくとも20%、好ましくは30〜60%を中和するのに足りる量である。
【0048】
カチオン性エマルションBの樹脂成分は、ヒドロキシル価が50〜150の範囲となるように分子設計することが好ましい。ヒドロキシル価が50未満では塗膜の硬化不良が生じる恐れがある。また150を超えると、硬化塗膜中に過剰の水酸基が残存する結果、耐水性が低下することがある。
【0049】
顔料
本発明の方法に用いられるカチオン電着塗料組成物は、通常用いられる顔料を含んでもよい。使用できる顔料の例としては、通常使用される無機顔料、例えば、チタンホワイト、カーボンブラック及びベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料等、が挙げられる。
【0050】
顔料を電着塗料の成分として用いる場合、一般に顔料を予め高濃度で水性溶媒に分散させてペースト状(顔料分散ペースト)にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0051】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂ワニスと共に水性溶媒中に分散させて調製する。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性溶媒としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。一般に、顔料分散樹脂は、顔料100質量部に対して固形分比20〜100質量部の量で用いる。顔料分散樹脂ワニスと顔料とを混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得ることができる。
【0052】
顔料を電着塗料の成分として用いる場合は、電着塗料組成物の固形分100重量部に対して1〜30重量部の範囲で用いるのが好ましい。電着塗料組成物の固形分に対する顔料の含有量が30重量部を超える場合は、硬化時の粘度が増大することおよび塗装時の降り積もりにより、塗膜外観が低下する恐れがある。
【0053】
また、本発明の電着塗料組成物は、特開2000−309742号公報などに記載されるような粒子状の艶消し添加物などを加えることなく、低光沢の硬化塗膜を得ることができるものであるが、しかしながらこれらの添加剤を加えたものを排除するものではない。本発明の電着塗料組成物に、これらの粒子状の艶消し添加物を加えて、得られる硬化塗膜の鏡面光沢度を調整することも可能である。このような添加物を、顔料と併せて用いることも可能である。
【0054】
カチオン電着塗料組成物
本発明のカチオン電着塗料組成物は、上記カチオン性エマルション(A)、カチオン性エマルション(B)、そして必要に応じて上記顔料分散ペースト、触媒を混合することによって、調製することができる。
【0055】
本発明のカチオン電着塗料組成物において、カチオン性エマルション(A)に含まれる樹脂成分の溶解性パラメーターδと、そしてカチオン性エマルション(B)に含まれる樹脂成分の溶解性パラメーターδとの差、△δA−Bは、0.5〜1.5の関係にある。△δA−Bは0.5〜1.0であるのがより好ましい。本明細書において「△δA−B」は、計算式:δ−δから得られる値である。またカチオン性エマルション(A)、カチオン性エマルション(B)が2種以上の樹脂成分から構成される場合は、これらの2種以上の樹脂成分を予め混合し、そしてこの混合物について溶解性パラメーターδ、δを測定する。一般に、2種類の樹脂成分間の溶解性パラメーターδの差(△δ)が0.2を超えると幾分相溶性を失い始めると考えられる。そして△δが0.5を超えると、塗膜の分離構造が明らかに呈し始めると考えられる。一方、△δが1.5を超える場合は、塗膜の過剰な分離が生じ、これにより塗膜外観が悪化する恐れがある。
【0056】
なお、カチオン性エマルション(A)に含まれる樹脂成分は、カチオン性エポキシ樹脂(a)およびブロックイソシアネート硬化剤(c)からなる樹脂成分である。また、カチオン性エマルション(B)に含まれる樹脂成分は、上記カチオン性エポキシ樹脂(a)とは異なるカチオン性エポキシ樹脂およびカチオン変性アクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種(b)、およびブロックイソシアネート硬化剤(d)からなる樹脂成分である。
【0057】
溶解性パラメーターδは樹脂の親水・疎水性の度合いを示す尺度である。そして、δの数値がカチオン性エマルション(B)のδの数値より高いカチオン性エマルション(A)は、空気層側よりもむしろ金属等の表面極性の高い導電性基材表面に対する親和性が高い。そして、カチオン性エマルション(A)の樹脂成分は、電着塗装後、加熱・硬化時に、金属材料等の導電性基材に接する側に樹脂層を形成する傾向を有する。一方、カチオン性エマルション(B)は、空気層側に移動して樹脂層を形成することになる。このように、各エマルションに含まれる樹脂成分の溶解性パラメーターの差異が樹脂層の分離を引き起こす推進力になると考えられる。
【0058】
△δA−Bを上記範囲内にするためには、エマルションに含まれる樹脂成分それぞれの溶解性パラメーターを測定し、そして上記式が成立する範囲内の樹脂をそれぞれ選択する。
【0059】
なお、溶解性パラメーターδとは、当該業者等の間で一般にSP(ソルビリティ・パラメーター)とも呼ばれるものであって、樹脂の親水性または疎水性の度合いを示す尺度であり、また樹脂間の相溶性を判断する上でも重要な尺度である。δは数値が大きいほど極性が高く、逆に数値が小さいほど極性が低いことを示す。
【0060】
溶解性パラメーターは、当業社に公知の濁度測定法をもとに数値定量化されるものである。溶解性パラメーターの測定は、例えば次の方法によって実測することができる[参考文献:SUH、CLARKE、J.P.S.A−1、5、1671〜1681(1967)]。なお、カチオン性エマルション(A)、カチオン性エマルション(B)が2種以上の樹脂成分から構成される場合は、これらの2種以上の樹脂成分を予め混合しておき、そしてこの混合物について、同様に溶解性パラメーターδ、δを測定する。
【0061】
測定温度:20℃
サンプル:樹脂0.5gを100mlビーカーに秤量し、良溶媒10mlをホールピペットを用いて加え、マグネティックスターラーにより溶解する。
溶媒:
良溶媒…ジオキサン、アセトンなど
貧溶媒…n−ヘキサン、イオン交換水など
濁点測定:50mlビュレットを用いて貧溶媒を滴下し、濁りが生じた点を滴下量とする。
【0062】
樹脂のδ(SP値)は次式によって与えられる。
【0063】
【数1】

【数2】

【数3】

【0064】
i:溶媒の分子容(ml/mol)
φi:濁点における各溶媒の体積分率
δi:溶媒のSP値
ml:低SP貧溶媒混合系
mh:高SP貧溶媒混合系
【0065】
さらに本発明のカチオン電着塗料組成物においては、カチオン性エマルション(A)の硬化開始温度Tと、カチオン性エマルション(B)の硬化開始温度Tとの差△TA−Bは20〜60℃の関係にある。△TA−Bは20〜50℃であるのが好ましい。本明細書において「△TA−B」は、計算式:T−Tから得られる値である。硬化開始温度T、Tを調節するには、ブロックイソシアネート硬化剤を構成するイソシアネート骨格およびブロック剤を適宜選択すればよい。例えば、硬化開始温度を低く設定する方法として、反応性のより高いイソシアネート骨格を選択し、そして解離性の高いブロック剤を選択する方法が挙げられる。
【0066】
本発明の塗料組成物により得られる塗膜の鏡面光沢度が低い理由として、理論に拘束されるものではないが以下のように考えられる。本発明の電着塗料組成物による電着塗膜においては、上記したようにより高い溶解性パラメーター(δ)を有するカチオン性エマルション(A)は、導電性基材表面に移動して樹脂層を形成し、そしてカチオン性エマルション(B)は空気側に移動して樹脂層を形成する。そして、カチオン性エマルション(A)の硬化開始温度Tは、カチオン性エマルション(B)の硬化開始温度Tより20℃以上高い。このような層分離構造を有する電着塗膜を加熱硬化させる場合、空気側の樹脂層を構成するカチオン性エマルション(B)から硬化することとなる。そして基材表面側の樹脂層を構成するカチオン性エマルション(A)が硬化する時点においては、空気側の樹脂層はほぼ硬化した状態にあることとなる。このような状態で基材表面側の樹脂層(カチオン性エマルション(A))が硬化することによって、既にほぼ硬化した状態である空気側の樹脂層が硬化歪を生じると考えられる。こうして硬化歪を引き起こすことによって、硬化塗膜の鏡面光沢度が低くなると考えられる。
【0067】
この硬化歪の度合いは、カチオン性エマルション(A)および(B)の硬化開始温度を調整することによって制御することができる。そして△TA−Bが上記範囲であるカチオン性エマルション(A)および(B)を用いることによって、仕上がり外観に優れ、かつ低光沢である硬化電着塗膜を得ることができる。
【0068】
なお、本明細書において、電着塗装により得られた未硬化の塗膜を「電着塗膜」といい、この電着塗膜を加熱硬化させることにより得られた塗膜を「硬化電着塗膜」または「硬化塗膜」という。
【0069】
エマルションの硬化開始温度Tは、動的粘弾性を測定することにより求めることができる。硬化開始温度の測定方法を、図1を用いて説明する。ある熱硬化性組成物について、一定周波数下における動的粘弾性を測定する。図1は、ある熱硬化性組成物の試料温度−試料粘度の関係を示すグラフである。図1中、A−B間は熱硬化前の溶融状態であり、B−C間は硬化開始の状態であり、C−D間は硬化途中の状態であり、そしてEは熱硬化がほぼ終了した状態である。硬化開始温度Tは、溶融状態A−Bの回帰直線1(図1中、破線で示す)、および硬化途中の状態であるC−D間の回帰直線2(図1中、破線で示す)を算出し、そして回帰直線1と回帰直線2とが交わる点の温度Tを求めることによって、動的粘弾性測定結果から硬化開始温度Tを求めることができる。硬化開始温度Tは、例えばユービーム社製Reosol−G3000などの粘弾性測定装置を用いて測定することができる。
【0070】
本発明のカチオン電着塗料組成物における、カチオン性エマルション(A)およびカチオン性エマルション(B)の含有量は、樹脂固形分重量比A/Bで表して、95/5〜60/40の範囲であるのが好ましく、90/10〜70/30であるのがさらに好ましい。配合比率が上記範囲を外れる場合として、カチオン性エマルション(B)の含有量が上記範囲に満たない場合は、目的とする低光沢塗膜を得ることが困難となる恐れがある。また、カチオン性エマルション(B)の含有量が上記範囲を超える場合は、塗膜の硬化速度が速くなりすぎ、得られる塗膜の仕上がり外観が悪化する恐れがある。
【0071】
本発明の電着塗料組成物は触媒を含んでもよい。触媒として、上記ブロックイソシアネート硬化剤のブロック剤解離の解離触媒などを使用することができる。例えば、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシドなどの有機錫化合物や、N−メチルモルホリンなどのアミン類、酢酸鉛や、ストロンチウム、コバルト、銅などの金属塩などが使用できる。解離触媒の濃度は、カチオン電着塗料組成物中のカチオン性エマルション(A)およびカチオン性エマルション(B)の合計固形分重量100質量部に対して0.1〜6質量部で用いるのが好ましい。
【0072】
本発明の電着塗料組成物は、上記のほかに、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤などの常用の塗料用添加剤を含んでもよい。
【0073】
本発明の電着塗料組成物は被塗物に電着塗装され、電着塗膜を形成する。被塗物としては導電性のあるものであれば特に限定されず、例えば、鉄板、鋼板、アルミニウム板及びこれらを表面処理したもの、これらの成型物等を挙げることができる。
【0074】
カチオン電着塗料組成物の電着は、被塗物である導電性基材に陰極(カソード極)端子を接続し、上記水性塗料組成物の浴温15〜45℃、負荷電圧100〜400Vの条件で、乾燥膜厚10〜50μm、好ましくは20〜40μmとなる量の塗膜を電着塗装することにより行われる。電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜4分とすることができる。
【0075】
上述のようにして得られる電着塗膜を、電着過程の終了後、そのまま又は水洗した後、焼き付け硬化させることによって、硬化電着塗膜が得られる。本発明の電着塗料組成物により得られた電着塗膜は、120〜260℃で10〜30分間焼き付けるのが好ましく、140〜220℃で10〜30分間焼き付けるのがより好ましい。ここでの加熱によって、電着塗膜中に含まれるカチオン性エマルション(A)およびカチオン性エマルション(B)は溶解性パラメーターに応じて配向し、カチオン性エマルション(B)が空気に直接接する側に、そしてカチオン性エマルション(A)が導電性基材に直接接する側に配向する。このように配向した塗膜において、より低い硬化開始温度を有するカチオン性エマルション(B)が、カチオン性エマルション(A)の硬化より前に硬化する。次いでカチオン性エマルション(A)が硬化することによって硬化歪が生じる。焼き付けの加熱方法は、当初から目的温度に調節した加熱設備に塗装物を入れる方法であってもよく、また塗装物を入れた後に昇温する方法であってもよい。
【0076】
ところで、硬化塗膜の外観は、表面形状、光学特性および色彩が複雑に関わりあって視覚的影響を及ぼすものである。そして塗膜外観評価の1例である、波長を用いる評価においては、短波長を用いることによって光沢や鮮映性に関する粗さを評価することができる。一方、波長を用いた粗さの評価に対して、人が視認できる波長範囲には限界がある。例えば320nm以下の短波長による評価においては粗さがあると評価できる程度の、ごく短波長領域において粗さを有する硬化塗膜については、人による視認評価では凹凸がなく平滑であると判断される。このような塗膜は、低光沢であって、かつ表面平滑性に優れた塗膜と判断される。
【0077】
本発明の電着塗料組成物を用いることによって、上記のような硬化電着塗膜を得ることができる。本発明の電着塗料組成物は、加熱時の硬化歪によって低光沢化が達成され、これにより、鏡面光沢度が70%以下の低光沢塗膜であって、かつ視認評価においては表面平滑性に優れると判断される硬化塗膜を形成することができる。なお、本明細書の鏡面光沢度は、JIS K5600−4−7に準拠して測定される、入射光軸60°の幾何条件における値である。これは60°グロスともいわれている。
【実施例】
【0078】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、特に断らない限り、「部」は重量部を表わす。
【0079】
製造例1 カチオン性エポキシ樹脂(1)の製造
撹拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(重量比=8/2)92部、メチルイソブチルケトン (以下、MIBKと略す)95部およびジブチル錫ジラウレート0.5部を仕込んだ。反応混合物を撹拌下、メタノール21部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。その後、30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノー2−エチルヘキシルエーテル50部を滴下漏斗より滴下した。更に、反応混合物に、ビスフェノールA−プロピレンオキシド5モル付加体53部を添加した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0080】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂365部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量410になるまで130℃で反応させた。
【0081】
続いて、ビスフェノールA61部およびオクチル酸33部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1190となった。その後、反応混合物を冷却し、ジエタノールアミン11部、N−エチルエタノールアミン24部およびアミノエチルエタノールアミンのケチミン化物の79重量%MIBK溶液25部を加え、110℃で2時間反応させた。その後、MIBKで不揮発分80%となるまで希釈し、カチオン性エポキシ樹脂(1)(樹脂固形分80%)を得た。
【0082】
製造例2 カチオン性エポキシ樹脂(2)の製造
撹拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(重量比 8/2)92部、メチルイソブチルケトン (以下、MIBKと略す)95部およびジブチル錫ジラウレート0.5部を仕込んだ。反応混合物を撹拌下、メタノール21部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。その後、30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノー2−エチルヘキシルエーテル50部を滴下漏斗より滴下した。更に、反応混合物に、ビスフェノールA−プロピレンオキシド5モル付加体53部を添加した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0083】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂365部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量410になるまで130℃で反応させた。
【0084】
続いて、ビスフェノールA61部およびオクチル酸10.0部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1190となった。その後、反応混合物を冷却し、ジエタノールアミン11部、N−エチルエタノールアミン24部およびアミノエチルエタノールアミンのケチミン化物の79重量%MIBK溶液25部を加え、110℃で2時間反応させた。その後、MIBKで不揮発分80%となるまで希釈し、カチオン性エポキシ樹脂(2)(樹脂固形分80%)を得た。
【0085】
製造例3 カチオン変性アクリル樹脂の製造
撹拌機、温度計、デカンター、還流冷却管、窒素導入管および滴下漏斗を装備した反応容器に、ブチルセロソルブ1000重量部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ120℃に昇温し、アクリル酸−4−ヒドロキシブチル250重量部、メタクリル酸−2−エチルヘキシル70重量部、メタクリル酸−n−ブチル480重量部、メタクリル酸ジメチルアミノエチル100重量部およびアクリル酸−2−メトキシエチル90重量部の混合物と、アゾビスシアノ吉草酸13重量部を含む水溶液を、2系列とし、それらを3時間かけて等速で滴下した。滴下終了後、更に115℃で3時間反応させた。その後冷却することにより、アミノ基を有するアクリル樹脂を得た。
【0086】
製造例4 ブロックイソシアネート硬化剤(1)の製造
イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略す)222.0重量部を入れ、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略す)39.1重量部を反応容器に仕込み、これを50℃まで加熱した後、ジブチル錫ラウレート0.2重量部を加えた。ここに、2−エチルヘキサノール(以下、2EHと略す)131.5重量部を撹拌下、乾燥窒素雰囲気中50℃で2時間かけて滴下した。適宜、冷却することにより、反応温度を50℃に維持し、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、樹脂固形分90%のブロックポリイソシアネート硬化剤(1)を得た。
【0087】
製造例5 ブロックイソシアネート硬化剤(2)の製造
ジフェニルメタンジイソシアナート1250部およびMIBK 266.4部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ジブチル錫ジラウレート2.5部を加えた。ここに、ε−カプロラクタム226部をブチルセロソルブ944部に溶解させたものを撹拌下、乾燥窒素雰囲気中80℃で2時間かけて滴下した。さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK336.1部を加えて固形分80%のブロックポリイソシアネート硬化剤(2)を得た。
【0088】
製造例6 ブロックイソシアネート硬化剤(3)の製造
ジフェニルメタンジイソシアナート1250部およびMIBK 266.4部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ジブチル錫ジラウレート2.0部を加えた。ここに、ブチルジグリコール1533部に溶解させたものを撹拌下、乾燥窒素雰囲気中80℃で2時間かけて滴下した。さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK211.0部を加えて固形分87%のブロックポリイソシアネート硬化剤(3)を得た。
【0089】
製造例7 ブロックイソシアネート硬化剤(4)の製造
ヘキサメチレンジイソシアネート222.0重量部を入れ、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略す)97.0重量部を反応容器に仕込み、これを50℃まで加熱した後、ジブチル錫ラウレート0.2重量部を加えた。ここに、メチルエチルケトンオキシム186.0重量部を撹拌下、乾燥窒素雰囲気中50℃で2時間かけて滴下した。適宜、冷却することにより、反応温度を50℃に維持し、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、樹脂固形分90%のブロックポリイソシアネート硬化剤(4)を得た。
【0090】
製造例8 ブロックイソシアネート硬化剤(5)の製造
ノルボルナンジイソシアネートメチル(2,5−および2,6−ビス(イソシアナートメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタンの混合物)480.2部とMIBK 78.2部を反応容器に仕込み、これを70℃まで加熱した後、ジブチル錫ラウレート0.1重量部を加えた。ここに、滴下ロートからフルフリルアルコール319.8部を滴下した。反応混合物は発熱し、75〜85℃で30分間加熱撹拌した。混合物を65℃まで冷却後、滴下ロートよりメチルエチルケトンオキシム121.7部を滴下した。反応混合物は発熱し、65〜75℃で30分加熱撹拌した。IRスペクトルにより、NCO基の消失を確認し、放冷後、固形分濃度80%のブロックポリイソシアネート硬化剤(5)を得た。
【0091】
製造側9 顔料分散樹脂の製造
まず、撹拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略す)222.0部を入れ、MIBK 39.1部で希釈した後、ここヘジブチル錫ジラウレート0.2部を加えた。その後、これを50℃に昇温した後、2−エチルヘキサノール131.5部を撹拌下、乾燥窒素雰囲気中で2時間かけて滴下した。適宜、冷却することにより、反応温度を50℃に維持した。その結果、2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(樹脂固形分90.0%)が得られた。
次いで、適当な反応容器に、ジメチルエタノールアミン87.2部、75%乳酸水溶液117.6部およびエチレングリコールモノブチルエーテル39.2部を順に加え、65℃で約半時間撹拌して、4級化剤を調製した。
【0092】
次に、エポン(EPON)829(シェル・ケミカル・カンパニー社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量193〜203)710.0部とビスフェノールA 289.6部とを適当な反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、150〜160℃に加熱したところ、初期発熱反応が生じた。反応混合物を150〜160℃で約1時間反応させ、次いで、120℃に冷却した後、先に調製した2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(MIBK溶液)498.8部を加えた。
【0093】
反応混合物を110〜120℃に約1時間保ち、次いで、エチレングリコールモノブチルエーテル463.4部を加え、混合物を85〜95℃に冷却し、均一化した後、先に調製した4級化剤196.7部を添加した。酸価が1となるまで反応混合物を85〜95℃に保持した後、脱イオン水964部を加えて、エポキシービスフェノールA樹脂において4級化を終了させ、4級アンモニウム塩部分を有する顔料分徴用樹脂を得た(樹脂固形分50%)。
【0094】
製造例10 顔料分散ペーストの製造
サンドグラインドミルに製造例4で得た顔料分散用樹脂を120部、カーボンブラック2.0部、カオリン100.0部、二酸化チタン80.0部、リンモリブデン酸アルミニウム18.0部およびイオン交換水221.7部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分48%)。
【0095】
実施例1
製造例1で得られたカチオン性エポキシ樹脂(1)と製造例4で得られたブロックイソシアネート硬化剤1とを固形分比で70/30で均一になるよう混合した。これに樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるよう氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のエマルション(A−1)を得た。δ=11.2であった。
【0096】
さらに製造例3で得られたカチオン変性アクリル樹脂と製造例7で得られたブロックイソシアネート硬化剤(4)とを固形分比で70/30で均一になるよう混合した。これに樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるよう氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のエマルション(B−1)を得た。δ=10.6であった。
【0097】
前記エマルション(A−1)を1050部と、前記エマルション(B−1)を450部および製造例10で得られた顔料分散ペースト540部と、イオン交換水1960部およびジブチル錫オキサイド10部とを混合して、固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。得られたカチオン電着塗料組成物の溶剤量(VOC)は0.5%、樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量は24.2であった。
【0098】
実施例2
製造例1で得られたカチオン性エポキシ樹脂(1)と製造例5で得られたブロックイソシアネート硬化剤(2)とを固形分比で70/30で均一になるよう混合した。これに樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるよう氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のエマルション(A−2)を得た。δ=11.1であった。
【0099】
前記エマルション(A−2)を1050部と、実施例1で得られたエマルション(B−1)(δ=10.6)を450部および製造例10で得られた顔料分散ペースト540部と、イオン交換水1960部およびジブチル錫オキサイド10部とを混合して、固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。得られたカチオン電着塗料組成物の溶剤量(VOC)は0.5%、樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量は24.2であった。
【0100】
実施例3
製造例1で得られたカチオン性エポキシ樹脂(1)と製造例6で得られたブロックイソシアネート硬化剤(3)とを固形分比で70/30で均一になるよう混合した。これに樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるよう氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のエマルション(A−3)を得た。δ=11.6であった。
【0101】
前記エマルション(A−3)を1050部と、実施例1で得られたエマルション(B−1)(δ=10.6)を450部および製造例10で得られた顔料分散ペースト540部と、イオン交換水1960部およびジブチル錫オキサイド10部とを混合して、固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。得られたカチオン電着塗料組成物の溶剤量(VOC)は0.5%、樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量は24.2であった。
【0102】
実施例4
製造例1で得られたカチオン性エポキシ樹脂(1)と製造例7で得られたブロックイソシアネート硬化剤(4)とを固形分比で70/30で均一になるよう混合した。これに樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるよう氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のエマルション(A−4)を得た。δ=11.4であった。
【0103】
さらに製造例3で得られたカチオン変性アクリル樹脂と製造例8で得られたブロックイソシアネート硬化剤(5)とを固形分比で70/30で均一になるよう混合した。これに樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるよう氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のエマルション(B−2)を得た。δ=10.4であった。
【0104】
前記エマルション(A−4)を1200部と、前記エマルション(B−2)を300部および製造例10で得られた顔料分散ペースト540部と、イオン交換水1960部およびジブチル錫オキサイド10部とを混合して、固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。得られたカチオン電着塗料組成物の溶剤量(VOC)は0.5%、樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量は24.2であった。
【0105】
比較例1
製造例1で得られたカチオン性エポキシ樹脂(1)と製造例7で得られたブロックイソシアネート硬化剤(4)とを固形分比で70/30で均一になるよう混合した。これに樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるよう氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のエマルション(A−4)を得た。δ=11.4であった。
【0106】
前記エマルション(A−4)を1050部と、前記エマルション(B−1)(δ=10.6)を450部および製造例10で得られた顔料分散ペースト540部と、イオン交換水1960部およびジブチル錫オキサイド10部とを混合して、固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。得られたカチオン電着塗料組成物の溶剤量(VOC)は0.5%、樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量は24.2であった。
【0107】
比較例2
製造側2で得られたカチオン性エポキシ樹脂(2)と製造例5で得られたブロックイソシアネート硬化剤(2)とを固形分比で70/30で均一になるよう混合した。これに樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるよう氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のエマルション(A−4)を得た。δ=10.8であった。
【0108】
前記エマルション(A−4)を1050部と、前記エマルション(B−1)(δ=10.6)を450部および製造例10で得られた顔料分散ペースト540部と、イオン交換水1960部およびジブチル錫オキサイド10部とを混合して、固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。得られたカチオン電着塗料組成物の溶剤量(VOC)は0.5%、樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量は24.2であった。
【0109】
実施例および比較例により得られたカチオン電着塗料組成物について、以下の評価を行った。
【0110】
硬化開始温度の測定
各カチオン電着塗料組成物の調製に用いたカチオン性エマルション(A)およびカチオン性エマルション(B)について、Rheoso1−G3000(ユービーエム社製)を用いて、基本周波数1Hzの温度依存性条件で動的粘弾性測定を行った。得られた温度−粘度測定結果から、熱硬化前の溶融状態における温度−粘度回帰直線1と、硬化途中の状態における温度−粘度回帰直線2とを求めた。これらの回帰直線が交わる点の温度を求め、これをカチオン性エマルション(A)、(B)の硬化開始温度T、Tとした。
【0111】
60°グロスの測定
micro−gloss60°(BYK Gardner 社製)を用いて、硬化電着塗膜表面のグロスを、JIS K5600−4−7に準拠して3回測定し、これらの測定値から平均値を算出した。
【0112】
硬化電着塗膜の粗さ曲線の中心線平均粗さ(Ra)の測定
上記電着塗料組成物より得られた硬化電着塗膜のRa値を、JIS−B0601に準拠し、評価型表面粗さ測定機(Mitsutoyo社製、SURFTEST SJ−201P)を用いて測定した。2.5mm幅カットオフ(区画数5)を入れたサンプルを用いて7回測定し、上下消去平均によりRa値を得た。結果を表1に示す。なお、粗さ曲線の中心線平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601において規定されるパラメーターであり、Ra値が小さいほど表面状態が良好である。
【0113】
上記評価により得られた結果を表1に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
上記実施例および比較例からわかるとおり、本発明の電着塗料組成物を用いることによって、60°グロスが70%以下という低い鏡面光沢度を有する硬化電着塗膜をカチオン電着塗装により形成することができた。そしてこれらの塗膜は、Ra値が0.3μm以下であり、表面状態が良好なものであった。一方、比較例の電着塗料組成物からは、低い鏡面光沢度を有する硬化電着塗膜を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の電着塗料組成物を用いることによって、低い鏡面光沢度(低光沢)であり、かつ仕上がり外観が良好である硬化塗膜を、カチオン電着塗装により形成することができる。また、本発明の電着塗料組成物は、粒子状の艶消し添加物などを加えなくても、低光沢の硬化電着塗膜塗膜を形成することができる。このような電着塗料組成物は、例えば、自動車塗装分野などの、より大きな被塗物を塗装し、かつ高い意匠性が求められる産業において、高い利用価値を有する。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】硬化開始温度Tの算出方法の説明を目的とする、試料温度−試料粘度の関係を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性エポキシ樹脂(a)およびブロックイソシアネート硬化剤(c)を含む、カチオン性エマルション(A)、および
該カチオン性エポキシ樹脂(a)とは異なるカチオン性エポキシ樹脂およびカチオン変性アクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種(b)、およびブロックイソシアネート硬化剤(d)、を含むカチオン性エマルション(B)、
を含有するカチオン電着塗料組成物であって、
カチオン性エマルション(A)に含まれる樹脂成分の溶解性パラメーターδと、カチオン性エマルション(B)に含まれる樹脂成分の溶解性パラメーターδとの差△δA−Bが0.5〜1.5であり、
カチオン性エマルション(A)の硬化開始温度Tと、カチオン性エマルション(B)の硬化開始温度Tとの差△TA−Bが20〜60℃である、
カチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
カチオン電着塗料組成物中に含まれる、カチオン性エマルション(A)の樹脂固形分とカチオン性エマルション(B)の樹脂固形分との重量比率A/Bが、95/5〜60/40である、請求項1記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載のカチオン電着塗料組成物を電着塗装して電着塗膜を形成する工程、および得られた電着塗膜を加熱して硬化させる工程、を包含する、鏡面光沢度50〜70%の硬化電着塗膜の形成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−2001(P2006−2001A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178277(P2004−178277)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】