説明

カチューシャ式スペーサー

【課題】 配管と保温材とを非接触状態で支持するための支持構造を極めて簡易且つ確実に実現できるカチューシャ式スペーサーを提供することにある。
【解決手段】 カチューシャ式スペーサー10は、開口部20と本体部30とを備えて配管80に取り付けられるものである。開口部20は、配管80の直径よりも幅狭に形成されている。また、本体部30は、配管80の外周面81に沿って湾曲されており、略C字形をしている。そして、支持部材10は、この開口部20を配管80の幅方向に対向させながら配管80の長手方向に対して垂直に挿入され、支持部材10が本体部30で配管80を握持する状態で配管80に取り付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、配管と配管を保温するために配管を被覆する保温材との間に空隙(空間)を形成し、保温材を配管と非接触状態で支持する配管保温技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、配管を被覆する保温材は、配管の外周面に直接取り付けられていた。このため、保温材(保温材内側・内部・外側)に溜まる水分が、配管を腐食させる原因となっており、これを防止するために配管と保温材の間に空隙(空間)を設けることが好ましい。空隙(空間)を設けることで、配管表面(外周面)に付着した水分を乾燥させることができるからである。
【0003】
上記方法は、オランダの石油化学関連規格(Cini:CommissieIsolatie Nederlandse Industrie)にも記載されている。例えば、非特許文献1には、スペーサーをネジ止めした帯鋼(鉄製)を配管に巻き、その後線径3mm、目開き50mmの金網をセットし、最後に再度帯鋼で金網を固定する方法が開示されている。図11に、その概要を示す。しかしながら、非特許文献1に開示された技術は、工程が複雑で作業効率が悪かった。保温材を施工する配管は長尺なものも多く、作業効率が悪いと多大な時間とコストが掛かることになる。
【0004】
そこで、本願出願人(ニチアス株式会社)は、配管と保温材の間を非接触状態で支持し、簡単な施工にて空隙を形成することのできるスペーサー(支持部材)を発明した。詳しくは、特許文献1に開示されているように、配管90の外周面に対して放射状に立設させる複数の接触棒11と、その接触棒11を固定するとともに接触棒11の反配管90側において配管90の外周面から離れた周囲を周回して前記の断熱材40における配管90側の面を支持する帯板19と、前記接触棒11における反配管90側の端部において前記帯板19を固定する帯板固定部15とを備え、接触棒11は、非金属製(たとえばセラミック製)とし、パイプ形状に形成するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Cini4.1.34 (2006年10月1日)
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−31948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これに対して、本願発明は、上記する本願出願人による特許文献1に記載の発明を更に発展させて、配管と保温材とを非接触状態で支持するための支持構造を極めて簡易且つ確実に実現できるカチューシャ式スペーサーの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本願発明の第1の発明は、配管を被覆する保温材を配管と非接触状態で支持するために配管に取り付けられるスペーサーであって、配管の直径よりも幅狭な開口部と、開口部の両端から配管の外周面に沿って湾曲又は折曲された本体部とを備えたことを特徴とするカチューシャ式スペーサーである。
第2の発明は、開口部を配管の幅方向に対向させながら配管の長手方向に対して垂直に挿入することで、配管の外周面に沿って湾曲又は折曲された本体部を備えたことを特徴とする同カチューシャ式スペーサーである。
第3の発明は、開口部を配管の幅方向に対向させながら配管の長手方向に対して垂直に挿入するとともに、挿入後配管の長手方向に対して90度回転させることで、配管の外周面に沿って湾曲又は折曲された本体部を備えたことを特徴とする同カチューシャ式スペーサーである。
第4の発明は、本体部の両端の端面を反配管側が鋭角となるようにテーパー状に形成したことを特徴とする同カチューシャ式スペーサーである。
第5の発明は、本体部が丸棒又は丸パイプであることを特徴とする同カチューシャ式スペーサーである。
【発明の効果】
【0009】
本願発明によれば、以下のような効果を有する。
(1)配管を被覆する保温材を配管と非接触状態で支持するために配管に取り付けられるスペーサーにあって、配管の直径よりも幅狭な開口部と、開口部の両端から配管の外周面に沿って湾曲又は折曲された本体部とを備えることによって、配管の直径よりも幅狭な開口部から配管へ挿入するだけでスペーサーの本体部が配管の外周面に沿って湾曲又は折曲して配管を握持する状態となり、極めて簡易且つ確実にワンタッチでスペーサーを配管に取り付けることができる。その結果、保温材を配管へ非接触状態で被覆する施工作業を効率良く実施できて、作業時間の短縮とコストの削減につながる。
(2)開口部を配管の幅方向に対向させながら配管の長手方向に対して垂直に挿入することで、配管の外周面に沿って湾曲又は折曲された本体部を備えることによって、配管の直径よりも幅狭な開口部から配管の長手方向へ垂直に挿入するだけでスペーサーの本体部が配管の外周面に沿って湾曲又は折曲して配管を握持する状態となり、極めて簡易且つ確実にワンタッチでスペーサーを配管に取り付けることができる。
(3)開口部を配管の幅方向に対向させながら配管の長手方向に対して垂直に挿入するとともに、挿入後配管の長手方向に対して90度回転させることで、配管の外周面に沿って湾曲又は折曲された本体部を備えることによって、開口部を配管の幅方向に対向させながら配管の長手方向に対して垂直に挿入するとともに、挿入後配管の長手方向に対して90度回転させるだけでスペーサーの本体部が配管の外周面に沿って湾曲又は折曲して配管を握持する状態となり、極めて簡易且つ確実にワンタッチでスペーサーを配管に取り付けることができる。
(4)本体部の両端の端面を反配管側が鋭角となるようにテーパー状に形成することによって、開口部から配管へ挿入する際に、本体部の両端(特に配管側)が配管を傷つけることなく、スムーズに挿入できる。
(5)本体部が丸棒又は丸パイプであることによって、配管とスペーサーの接触を極力減らした線接触又は点接触にできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本願発明の第1実施形態を示す説明図(1)。
【図2】本願発明の第1実施形態を示す説明図(2)。
【図3】本願発明の第1実施形態を示す説明図(3)。
【図4】本願発明の第1実施形態を示す説明図(4)。
【図5】本願発明の第1実施形態を示す説明図(5)。
【図6】本願発明の第2実施形態を示す説明図(1)。
【図7】本願発明の第2実施形態を示す説明図(2)。
【図8】本願発明の第2実施形態を示す説明図(3)。
【図9】本願発明の第2実施形態を示す説明図(4)。
【図10】本願発明の第3実施形態を示す説明図。
【図11】従来技術を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1から図5は、本願発明に係る第1の実施形態(第1実施形態)を図示したものであり、図6から図9は、本願発明に係る第2の実施形態(第2実施形態)を図示したものであり、図10は、本願発明に係る第3の実施形態(第3実施形態)を図示したものである。
【0012】
まず、第1実施形態について説明する。図1に示すように、第1実施形態に係るカチューシャ式スペーサー10は、開口部20と本体部30とを備えて配管80にワンタッチで取り付けられるものである。
開口部20は、配管80の直径よりも幅狭に形成されている。また、本体部30は、配管80の外周面81に沿って湾曲されており、略C字形をしている。そして、カチューシャ式スペーサー10は、この開口部20を配管80の幅方向に対向させながら配管80の長手方向に対して垂直に挿入される(図1(a))。すると、カチューシャ式スペーサー10が本体部30で配管80を握持する状態となり(図1(b))、極めて簡易且つ確実にカチューシャ式スペーサー10を配管80に取り付けることができるようになる。なお、図示する本体部30は湾曲したものであるが、折曲したものであってもよい(第2実施形態において同じ)。また、本体部30は図示する丸パイプであっても良いし、丸棒であってもよい(第2実施形態において同じ)。
【0013】
図2に示すように、カチューシャ式スペーサー10は配管80に取り付けられて、その上から保温材90を被覆することによって、配管80と保温材90とを非接触状態で支持することが可能になる。
ここで、図3(a)に示すように、本体部30は、開口部20を備えているので全円ではないが、本体部30で配管80を握持可能とするために半円(180度)以上の円弧(例えば、210度)を有している。そして、カチューシャ式スペーサー10の開口部20は、配管80の直径よりも幅狭に形成されることになり、カチューシャ式スペーサー10を配管80へ確実に取り付けるとともに、カチューシャ式スペーサー10を配管80から簡単に脱落できない構造にしている。なお、本体部30は必ずしも半円(180度)以上の円弧を有する必要はなく、本体部30が配管80へ有する応力及び摩擦力等があれば、半円(180度)未満の円弧であっても、本体部30で配管80を握持可能とできる。
また、図3(b)に示すように(図2A−A断面図)、本体部30の厚み分だけ配管80と保温材90を非接触状態で支持している。
【0014】
図4に示すように、本体部30の両端31の端面32を反配管側が鋭角となるようにテーパー状に形成することが好ましい。カチューシャ式スペーサー10を開口部20から配管80へ挿入する際に、本体部30の両端31(特に配管側)が配管80を傷つけることなく、スムーズに挿入できるからである。なお、図4(a)は支持部材10の正面図、図4(b)は同斜視図である。
【0015】
図5に示すように、カチューシャ式スペーサー10は、直管形状の配管80(図1、図2等)のみならず、曲管形状の配管85にも同じように取り付けられるので、適用範囲が極めて広い。例えば、図5に示す曲管形状の配管85だけでなく、バルブ・フランジ・T字管等のいわゆるフィッティング類の周囲にも容易に取り付けられる。
【0016】
ここで、配管80とカチューシャ式スペーサー10は、腐食との関係で同材質のものが好ましいが、異材質であれば電位差の少ないものが好ましい(イオン化傾向の高い材質)。
なお、以上のことは、以下に記載する第2実施形態及び第3実施形態についても同様である。
【0017】
次に、第2実施形態について説明する。図6に示すように、第2実施形態に係るカチューシャ式スペーサー40は、開口部50と本体部60とを備えて配管80にワンタッチで取り付けられるものである。
開口部40は、配管80の直径よりも幅狭に形成されている。また、本体部50は、配管80の外周面81に沿って湾曲されており、略螺旋形状をしている。そして、カチューシャ式スペーサー40は、この開口部50を配管80の幅方向に対向させながら配管80の長手方向に対して垂直に挿入される(図4(a)から(b))。それから、挿入後に配管80の長手方向に対して90度回転させることで、カチューシャ式スペーサー40が本体部60で配管80を握持する状態となり(図4(c))、極めて簡易且つ確実にカチューシャ式スペーサー10を配管80に取り付けることができるようになる。
【0018】
図7に示すように、カチューシャ式スペーサー40は配管80に取り付けられて、その上から保温材90を被覆することによって、配管80と保温材90とを非接触状態で支持することが可能になる。
ここで、図8(a)に示すように、本体部60は、略螺旋形状で配管80を握持可能とするために1回転強の円弧を有している。これにより、1個のカチューシャ式スペーサー40で配管80の外周面81全周をカバーできる。これに対して、第1実施形態のカチューシャ式スペーサー10は上下2個又は左右2個の組合せで配管80の外周面81全周をカバーすることになる。
また、図8(b)に示すように(図7A−A断面図)、本体部60の厚み分だけ配管80と保温材90を非接触状態で支持している。
【0019】
図9に示すように、本体部60の両端61の端面62を反配管側が鋭角となるようにテーパー状に形成することが好ましい。カチューシャ式スペーサー40を開口部50から配管80へ挿入するとともに90度回転する際に、本体部60の両端61(特に配管側)が配管80を傷つけることなく、スムーズに挿入・回転できるからである。なお、図9(a)はカチューシャ式スペーサー40の正面図、図9(b)は同斜視図である。
【0020】
次に、第3実施形態について説明する。図10に示すように、第3実施形態に係るカチューシャ式スペーサー70は、コイル部材71と取付部材75とを備えて配管80に取り付けられるものである。そして、その上から保温材を被覆することによって、配管80と保温材とを非接触状態で支持することが可能になる。
ここで、コイル部材71は、コイル状に形成された伸縮自在の部材であり、その両端を取付部材75で結ぶことで配管80へ簡単に取り付けることができる。また、コイル部材71は、伸縮自在であるために、配管80のサイズに柔軟に対応できる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本願発明に係るカチューシャ式スペーサーは、プラントその他各種配管、特に温度の上下動の大きい枝管の腐食防止に広く利用できるものである。また、新設又は既設いずれの配管にも利用できるものである。
【符号の説明】
【0022】
10 カチューシャ式スペーサー(第1実施形態)
20 開口部
30 本体部
31 端部
32 端面
40 カチューシャ式スペーサー(第2実施形態)
50 開口部
60 本体部
61 端部
62 端面
70 カチューシャ式スペーサー(第3実施形態)
71 コイル部材
75 取付部材
80 配管(直管)
81 外周面
85 配管(曲管)
90 保温材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管を被覆する保温材を配管と非接触状態で支持するために配管に取り付けられるスペーサーであって、
配管の直径よりも幅狭な開口部と、開口部の両端から配管の外周面に沿って湾曲又は折曲された本体部とを備えたことを特徴とするカチューシャ式スペーサー。
【請求項2】
開口部を配管の幅方向に対向させながら配管の長手方向に対して垂直に挿入することで、配管の外周面に沿って湾曲又は折曲された本体部を備えたことを特徴とする請求項1記載のカチューシャ式スペーサー。
【請求項3】
開口部を配管の幅方向に対向させながら配管の長手方向に対して垂直に挿入するとともに、挿入後配管の長手方向に対して90度回転させることで、配管の外周面に沿って湾曲又は折曲された本体部を備えたことを特徴とする請求項1記載のカチューシャ式スペーサー。
【請求項4】
本体部の両端の端面を反配管側が鋭角となるようにテーパー状に形成したことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のカチューシャ式スペーサー。
【請求項5】
本体部が丸棒又は丸パイプであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のカチューシャ式スペーサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−7428(P2013−7428A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140067(P2011−140067)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】