説明

カッター機構及びプリンタ

【課題】パーシャルカット時に切り残し部が破断する不具合を抑制することができ、且つ、可動刃を容易に製作することができ、さらに可動刃の刃こぼれを防止することができるカッター機構及びプリンタを提供することを目的とする。
【解決手段】刃部11a,30a同士を互いに対向させて配置された固定刃11及び可動刃30を備え、固定刃の刃部と可動刃の刃部との間に記録紙Pを通した状態で可動刃を固定刃側に移動させることで、可動刃と固定刃とを摺り合せながら記録紙を切断するカッター機構であって、可動刃の刃部が固定刃の刃部に対して斜めに延在しており、可動刃の刃部に、記録紙の切断箇所に切り残し部を形成するための切り欠き部32が形成されており、切り欠き部の両側の角部のうち、少なくとも固定刃の刃部との間隔が狭い方の角部32aが、平面視において斜辺状或いは円弧状に面取りされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定刃及び可動刃を有する押し切り式(ギロチン式)のカッター機構、及びそのカッター機構を備えたプリンタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばキャッシュレジスターや携帯端末装置等に組み込まれ、各種ラベルやレシート、チケット等を発行する装置として、ロール紙から記録紙を繰り出しながらその記録紙に印刷を行うと共に、記録紙を所望の長さにカットして発行するカッター付きプリンタが数多く提供されている。このプリンタには、様々な印刷方式のものがあるが、記録紙として例えば熱を加えると発色する感熱紙を使用し、この感熱紙にサーマルヘッドを押し付けて印刷を行うサーマルプリント方式が一般的に適用されている。このサーマルプリント方式では、トナーやインク等を使用せずに、滑らかな文字の印刷や多彩なグラフィック印字ができるため、各種ラベルやレシート、チケット等の印刷に好適である。
【0003】
また、前記したプリンタには、記録紙をカットするカッター機構が備えられている。このカッター機構としては、従来、例えば下記特許文献1に示すような、固定刃及び可動刃を備えた押し切り式のカッター機構が知られている。前記した固定刃及び可動刃は各々の刃部同士を互いに対向させた向きで配設されており、これら固定刃の刃部と可動刃の刃部との間を通って記録紙が搬送される。そして、記録紙におけるカット位置が固定刃の刃部の位置まで移動したところで可動刃が固定刃側に移動する。これにより、固定刃及び可動刃で記録紙を挟み込み、鋏の如く、可動刃を固定刃に摺り合せながら記録紙を切断することができる。
【0004】
また、上記した固定刃は、可動刃を固定刃に摺り合せながら記録紙を切断する際に固定刃の刃部が可動刃に対して押し付けられるようにコイルバネ等の付勢部材によって付勢されている。そのため、両刃は適度な接触圧で接するようになり、記録紙を綺麗に切断することができる。
【0005】
また、上記した可動刃は、平面視略V字型に形成されており、可動刃を固定刃に摺り合せながら記録紙を切断する際に左右2点で固定刃に接するように設計されている。そのため、可動刃の移動に伴って、この左右2点の接触ポイントが記録紙の幅方向両側から中央に向かって紙幅方向に沿って移動する。これにより、記録紙を両側から偏りなく良好に切断することが可能である。また、平面視V字状の可動刃の刃部のうち、谷底部分(中央部)及び両側の斜辺部分には、平面視において開口端側から奥側に向かって漸次拡幅された略扁平C字形状の切り欠き部がそれぞれ形成されている。これにより、固定刃に対する可動刃の移動位置を調整することで、記録紙をパーシャルカット(一点又は複数点残し切断)したりフルカット(全幅切断)したりすることができる。
【0006】
また、従来、例えば下記特許文献2に示すような、可動刃の表面(固定刃と対向しない側の面)、可動刃の刃部の端面及び切り欠き部の内面の各面の交点である角(三面角)に、斜面又は湾曲面を形成(角取り)する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−74598号公報
【特許文献2】特開2007−203390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した前者の従来技術(特許文献1)では、可動刃を固定刃側に移動させて記録紙をパーシャルカットする際、切り欠き部の両側の角部のうちの刃渡り方向外側の角部(固定刃の刃部との間隔が狭い方の角部)が固定刃の刃部と重なる位置まで可動刃が移動した後、更に可動刃が移動する。このとき、前記した刃渡り方向外側の角部によって記録紙が面外方向(可動刃の移動方向)に押し出され、そのときの剪断力によって記録紙が切り残し部の端部から引きちぎられる場合があり、その結果、前記した切り残し部が破断するという不具合が生じるおそれがある。
【0009】
また、上記した後者の従来技術(特許文献2)では、可動刃の表面、可動刃の刃部端面及び切り欠き部の内周面の各面の交点である角に斜面又は湾曲面を形成するため、角度をつけた立体的な加工(角取り加工)を施す必要があり、可動刃の製作が煩雑であるという問題がある。また、前記した斜面又は湾曲面によって切り欠き部の両側の角部が薄肉となって強度が低下するので、刃こぼれが生じやすくなるという問題がある。
【0010】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、パーシャルカット時に切り残し部が破断する不具合を抑制することができ、且つ、可動刃を容易に製作することができ、さらに可動刃の刃こぼれを防止することができるカッター機構及びプリンタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るカッター機構は、刃部同士を互いに対向させて配置された固定刃及び可動刃を備えており、前記固定刃の刃部と前記可動刃の刃部との間に記録紙を通した状態で前記可動刃を前記固定刃側に移動させることで、前記可動刃と前記固定刃とを摺り合せながら前記記録紙を切断するカッター機構であって、前記可動刃の刃部が前記固定刃の刃部に対して斜めに延在しており、該可動刃の刃部に、前記記録紙の切断箇所に切り残し部を形成するための切り欠き部が形成されており、該切り欠き部の両側の角部のうち、少なくとも前記固定刃の刃部との間隔が狭い方の角部が、平面視において斜辺状或いは円弧状に面取りされていることを特徴としている。
【0012】
このような特徴により、可動刃を固定刃側に移動させて記録紙をパーシャルカットする際、記録紙は、可動刃の刃部と固定刃の刃部との間隔が狭い方から漸次切断されていく。このとき、切り欠き部の両側の角部のうちの固定刃の刃部との間隔が狭い方の角部が固定刃の刃部と重なる位置まで可動刃が移動した後、更に可動刃が移動することで、前記した角部(固定刃の刃部との間隔が狭い方の角部)によって記録紙が押圧されるが、前記した角部は平面視斜辺状或いは円弧状に面取りされているため、記録紙は剪断されずに面取り面にガイドされて折り曲げられる。これにより、パーシャルカット時に記録紙が切り残し部の端部から引きちぎられることが抑制される。
【0013】
また、切り欠き部の角部が平面視斜辺状或いは円弧状に面取りされているが、この「面取り」とは、切り欠き部の内面と可動刃の刃部の端面とからなる稜部に面(平面又はR曲面)を付けることである。したがって、角取り加工のような立体的な加工を行う必要がないため、可動刃の製作が容易であり、また、切り欠き部の角部が薄肉にならないため、刃こぼれしやすくなることもない。
【0014】
また、本発明に係るプリンタは、上記したカッター機構と、前記記録紙に印刷を行う印刷機構と、を備えていることを特徴としている。
このような特徴を有するプリンタにおいては、印刷機構で記録紙の各種の文字や図形等を印刷した後、カッター機構により印刷後の記録紙を所望の長さのシート(ラベルやレシート、チケット等)にパーシャルカットする。これにより、シートが切り残し部を介して記録紙に連結された状態で発行される。
特に、カッター機構により、切り残し部が破断する不具合を抑制することができるので、信頼性の高いプリンタを提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るカッター機構及びプリンタによれば、パーシャルカット時における切り残し部の端部からのちぎれが発生しにくくなり、パーシャルカット時に切り残し部が破断する不具合を抑制することができる。
また、可動刃を容易に製作することができ、さらに可動刃の刃こぼれを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るプリンタの実施形態を示すプリンタの断面図である。
【図2】本発明に係るプリンタの実施形態を示すプリンタの外観斜視図であって、開閉扉が開いている状態を示す図である。
【図3】図2に示すプリンタの断面図であり、開閉扉を開けたときの状態を示す図である。
【図4】固定刃に対して移動する可動刃の動作を示す断面図である。
【図5】本発明に係るカッター機構の実施形態を示す平面図であり、可動刃が移動する前の状態を示す図である。
【図6】記録紙を切断する前の固定刃と可動刃を示す斜視図であり、可動刃が移動する前の状態を示す図である。
【図7】本発明に係るカッター機構の実施形態を示す平面図であり、可動刃が固定刃側に移動した状態を示す図である。
【図8】記録紙を切断する前の固定刃と可動刃を示す斜視図であり、可動刃が固定刃側に移動した状態を示す図である。
【図9】本発明に係るカッター機構の効果を検証する試験を説明するための図であり、(a)は試験に用いた可動刃の平面図であり、(b)は(a)に示すA部分の拡大図であり、(c)は、試験結果の表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るカッター機構及びプリンタの実施の形態について、図面に基づいて説明する。
なお、本実施形態では、プリンタの一例として、サーマルプリンタ1を例に挙げて説明する。
【0018】
図1に示すサーマルプリンタ1は、ロール紙Rから引き出された記録紙Pに印刷を行った後、該記録紙Pを適宜切断して、ラベルやチケット、レシート等として利用することができるプリンタであって、ケーシング2と、カッター機構3と、印刷機構9と、を備えている。
【0019】
図2及び図3に示すように、ケーシング2は、プラスチック或いは金属材料で成形されたケーシング2であり、上面に投入口2aが空いた箱型に形成されている。ケーシング2の内部には、投入口2aから投入されたロール紙Rを載置するための載置台2bが設けられている。この載置台2bは、円弧状に湾曲するように形成されており、円筒状のロール紙Rを安定に載置することができるようになっている。
【0020】
ケーシング2の上面には、ヒンジ部5を介して開閉可能に固定された開閉扉6が取り付けられている。この開閉扉6は、図3に示す開状態から図1に示す閉状態に亘って一定角度の範囲内で開閉するようになっている。そして、図2、図3に示すように、開閉扉6を開けたときに投入口2aが現れ、ロール紙Rをケーシング2の内部に投入したり、内部から取り出したりすることができるようになっている。また、図1に示すように、開閉扉6を閉めたときに、開閉扉6の先端とケーシング2との間に若干の隙間が空くように設計されている。そして、この隙間を利用して、ケーシング2の内部から記録紙Pが引き出されるようになっている。つまり、この隙間は、記録紙Pの排出口2cとして機能する。
【0021】
なお、開閉扉6は、閉じたときに図示しないロック機構によって自動的にケーシング2に対してロックがかかるようになっている。また、このロック機構はケーシング2の外側からワンタッチで解除できるようになっており、開閉扉6を速やかに開けることができるようになっている。
【0022】
上記したカッター機構3は、図1に示すように、刃部11a,30a同士を互いに対向させて配置された固定刃11及び可動刃30と、可動刃30を駆動させる可動刃駆動系31と、を備えており、図4に示すように、固定刃11の刃部11aと可動刃30の刃部30aとの間に記録紙Pを通した状態で可動刃30を固定刃11側に移動させることで、可動刃30と固定刃11とを摺り合せながら記録紙Pを所望長さのシートSにカットする切断機構である。
【0023】
このカッター機構3のうち、固定刃11は、図1に示すように、開閉扉6の先端側の内面に設けられたプラテンユニット7に組み込まれており、可動刃30及び可動刃駆動系31は、ケーシング2の内部プレート2d上に設けられた本体ユニット8に組み込まれている。前記したプラテンユニット7は、図1、図3に示すように、開閉扉6の開閉動作に伴って移動し、本体ユニット8に組み合わされたり、本体ユニット8から分離したりするようになっている。
【0024】
また、固定刃11は、図5、図6に示すように、記録紙Pの幅方向に延びた板状の刃であり、平行する長辺のうちの一方に刃部11aが形成され、刃部11aの反対側の根元部11bが固定刃ホルダ12で保持されている。この固定刃11は、図1に示すように開閉扉6が閉じたときに、刃部11aが送り出された記録紙Pに対向するように固定刃ホルダ12に保持されている。この際、固定刃11は、根元部11b寄りに位置すると共に刃渡り方向に延在する図示せぬ回転軸線を中心として刃部11aが上下(可動刃30の移動方向に略直交する方向)に揺動可能に保持されている。
なお、前記した「刃渡り方向」とは、固定刃11の長辺方向、つまり、記録紙Pの幅方向に沿って延びる長手方向である。
【0025】
可動刃30は、記録紙Pの幅方向に延びた板状の刃であり、固定刃11と協働してカッターとして機能するものである。この可動刃30は、図1に示すように開閉扉6が閉じて本体ユニット8とプラテンユニット7とが組み合わさったときに、記録紙Pを挟んで固定刃11に対して向き合う位置に配設されている。そして、この可動刃30は、図7に示すように固定刃11側に向かってスライド移動したときに、図4、図8に示すように、固定刃11の上面に乗り上がるように固定刃11に摺り合わせられる。
【0026】
上記した可動刃30の刃部30aは、図5、図6に示すように、固定刃11の刃部11aに対して斜めに延在している。詳しく説明すると、可動刃30の刃部30aは、固定刃11の刃部11aとの間隔が、刃渡り方向の両端から中央に向かって漸次拡がるように平面視略V字状に形成されている。
なお、前記した「刃渡り方向」とは、固定刃11の場合と同様に可動刃30の長辺方向、つまり、記録紙Pの幅方向に沿って延びる長手方向である。
【0027】
また、可動刃30の刃部30aには、記録紙Pの切断箇所に切り残し部を形成するための切り欠き部32が形成されている。この切り欠き部32は、可動刃30のスライド移動方向に延在する平面視略長方円形状のスリット(溝)であり、少なくとも平面視V字状の刃部30aの谷底部分(刃渡り方向の中央部分)よりも可動刃30の根元側(刃部30aの反対側の長辺部側)の位置まで延在している。この切り欠き部32は、平面視V字状の刃部30aの谷底部分(刃渡り方向の中央部分)を挟んで左右対称にそれぞれ形成されている。
【0028】
また、上記した切り欠き部32の両側の角部のうち、固定刃11の刃部11aとの間隔が狭い方の角部32aが平面視において斜辺状に面取りされており、切り欠き部32の内面と可動刃30の刃部30aの端面との間に、平面視において可動刃30のスライド移動方向に対して傾斜した斜面33(面取り面)が形成されている。この斜面33は、可動刃30の表面に対して略垂直に形成された板端面であり、平面状に形成されている。
【0029】
可動刃駆動系31は、図5、図7に示すように、可動刃30を支持する支持プレート46に取り付けられたラック40と、該ラック40に噛合された図示せぬピニオンと、該ピニオンに図示せぬ歯車を介して動力(回転力)を伝達して前記ピニオンを駆動(回転)させる正逆回転可能な図示せぬモータと、を備えている。
【0030】
上記した印刷機構9は、図1に示すように、ロール紙Rから繰り出された記録紙P(感熱紙)を感熱発色面側から加熱して感熱発色面に印字を行う感熱式のサーマルプリント機構であり、プラテンローラ10及びサーマルヘッド4を備えている。この印刷機構9のうち、プラテンローラ10は前記したプラテンユニット7に組み込まれており、サーマルヘッド4は前記した本体ユニット8に組み込まれている。
【0031】
プラテンローラ10は、図1に示すように、開閉扉6が閉じられてプラテンユニット7と本体ユニット8とが組み合わされたときに、記録紙Pを間に挟んだ状態で本体ユニット8側のサーマルヘッド4に対して外周面が接触するように配置されている。また、プラテンローラ10は、開閉扉6を閉じた後、本体ユニット8側から伝達された回転力によって回転し、ロール紙Rから引き出された記録紙Pを排出口2cからケーシング2の外部に送り出すことができるようになっている。
【0032】
サーマルヘッド4は、図2に示すように記録紙Pの幅方向に延びるように形成されていると共に、図1に示すように開閉扉6が閉じたときにプラテンローラ10に対向する位置に配置されている。また、このサーマルヘッド4は、多数の図示しない発熱素子を有していると共に、図示しないコイルバネ等によってプラテンローラ10側に付勢された状態となっている。これにより、プラテンローラ10によって送り出される記録紙Pに対してサーマルヘッド4を確実に押し付けることができ、良好な印刷が可能とされている。
【0033】
次に、上述した構成からなるサーマルプリンタ1の動作について説明する。
【0034】
まず、図2及び図3に示すように、開閉扉6を開けた状態でロール紙Rを投入口2aからケーシング2内に投入する。この際、予め記録紙Pをケーシング2の外側に、ある程度の長さだけ引き出しておく。そして、引き出した記録紙Pをケーシング2の外側に引き出した状態のまま、図1に示すように開閉扉6を閉めロック機構により開閉扉6をロックする。これにより、本体ユニット8とプラテンユニット7とが、互いに組み合わさった状態となり、固定刃11が可動刃30に対向して配置されると共にプラテンローラ10がサーマルヘッド4に対向して配置される。また、記録紙Pは、プラテンローラ10とサーマルヘッド4との間に挟まれた状態になると共に、排出口2cからケーシング2の外側に引き出された状態となる。
【0035】
上述したロール紙Rのセットが終了した後、記録紙Pに対して各種情報の印刷を行う。
まず、図示せぬプラテン用モータを駆動してプラテンローラ10を回転させる。これにより、プラテンローラ10の外周面とサーマルヘッド4との間に挟まれた記録紙Pがケーシング2の上方に送り出されると共に、載置台2b上に載置されたロール紙Rが回転して記録紙Pが順次繰り出される。
また、これと同時にサーマルヘッド4を作動させる。これにより、多数の発熱素子が適宜熱を発する。これにより、送り出された記録紙Pに対して、各種の文字や図形等を明瞭に印刷することができる。
【0036】
その後、プラテンローラ10によってさらに送り出された記録紙Pは、カッター機構3に送り込まれて固定刃11と可動刃30との間を通過し、このカッター機構3によって所望長さのシートSにカットされる。
【0037】
詳しく説明すると、記録紙Pの切断箇所(シートSの後端部)が固定刃11の刃部11aの位置に到達したところで、上記したプラテンローラ10の回転を停止して記録紙Pの搬送を一時停止する。そして、可動刃駆動系31の図示せぬカッター用モータを正方向に駆動させる。これにより、カッター用モータの動力が図示せぬ歯車を介して図示せぬピニオンに伝達されて当該ピニオンが回転し、このピニオンの回転に伴ってラック40が図5に示す位置から図7に示す位置に向かって移動し、このラック40と共に可動刃30及び支持プレート46が固定刃11側にスライド移動する。
【0038】
スライド移動した可動刃30は、図4に示すように、固定刃11の上面に乗り上がるように固定刃11に摺り合せられるので、互いの刃部11a、30aが重なる。これにより、記録紙Pを固定刃11と可動刃30との間で挟み込んで切断することができる。
この際、可動刃30は、平面視略V字型に形成されているので、左右の2点で固定刃11に接する。よって、記録紙Pは、可動刃30の刃部30aと固定刃11の刃部11aとの間隔が狭い方から漸次切断されていく。すなわち、可動刃30のスライド移動に伴って、記録紙Pは幅方向の両側から中央に向かって切断される。これにより、記録紙Pを偏りなく良好に切断することができる。
なお、可動刃30がスライドしてきた際、固定刃11は可動刃30によってプラテンローラ10側に押し下げられた状態となる。しかしながら、固定刃11は、図示せぬコイルバネによって上方に付勢させられているので、適度な接触圧で可動刃30に接するようになっている。
【0039】
また、図7、図8に示すように、可動刃30の刃部30aの谷底部分(刃渡り方向の中央部分)が固定刃11の刃部11aに到達し、固定刃11の刃部11aが切り欠き部32を越えない位置まで可動刃30を移動させることで、記録紙Pをパーシャルカットすることができる。すなわち、可動刃30の刃部30aの谷底部分が固定刃11の刃部11aに到達した時点で可動刃30のスライド移動を停止することで、切り欠き部32の箇所で記録紙Pに破断容易な切り残し部(2箇所)が形成され、その切り残し部を介してシートSが記録紙Pに連結された状態となる。
【0040】
このとき、切り欠き部32の両側の角部のうちの固定刃11の刃部11aとの間隔が狭い方の角部32a(斜面33)が固定刃11の刃部11aと重なる位置まで可動刃30がスライド移動した後、更に可動刃30がスライド移動することで、前記した角部32aによって記録紙Pが押圧されるが、角部32aは平面視斜辺状に面取りされているため、図8に示すように記録紙Pの幅方向両側部分は剪断されずに角部32aに形成された斜面33にガイドされてそれぞれ折り曲げられる。これにより、記録紙Pがパーシャルカット時の切り残し部の端部から引きちぎられることが抑制される。
【0041】
なお、固定刃11の刃部11aが切り欠き部32を越える位置まで可動刃30を移動させることで、上記した切り残し部を形成することなく、記録紙Pを幅方向全体に亘って切断(フルカット)することができる。
【0042】
ここで、上記したカッター機構3によるちぎれ抑制効果について検証した試験について説明する。
本試験は、記録紙Pの2点残しのパーシャルカットを行い、そのときの切り残し部の端部におけるちぎれの発生回数をカウントするものである。詳しく説明すると、まず、試験体として3種類の可動刃を用意した。第一試験体は、切り欠き部の角部が面取りされていない従来型の可動刃であり、第二及び第三試験体は、図9(a)に示すように切り欠き部32の角部32aが面取りされた可動刃30であり、その面取り角度θ(図9(b)に示す)はそれぞれ15度、30度であり、面取りされた刃部幅d(図9(b)に示す)はいずれも0.3mm(±0.05mm)である。また、切り欠き部32の幅寸法(溝幅w)はそれぞれ0.8mmである。そして、上記した第一から第三試験体を用いて、それぞれ100回ずつパーシャルカットを行った。
上記した試験の結果は、図9(c)に示すように、切り残し部の端部におけるちぎれの発生回数は、面取り無しの第一試験体で21回であり、面取り有りの第二、第三試験体でそれぞれ8回、9回であり、面取り有りの第二、第三試験体の方が面取り無しの第一試験体よりもパーシャルカット成功率が高いことが確認できた。
【0043】
上記した試験結果からも分かるとおり、上記したカッター機構3及びサーマルプリンタ1によれば、パーシャルカット時における切り残し部の端部からのちぎれが発生しにくくなり、パーシャルカット時に切り残し部が破断する不具合を抑制することができる。信頼性の高いサーマルプリンタ1を提供することができる。
【0044】
また、切り欠き部32の角部32aが平面視斜辺状に面取りされた構成であるので、角取り加工のような立体的な加工を行う必要がないため、可動刃30を容易に製作することができる。しかも、切り欠き部32の角部32aが薄肉にならないため、刃こぼれしやすくなることもない。
【0045】
以上、本発明に係るカッター機構及びプリンタの実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記した実施形態では、切り欠き部32の角部32aが平面視斜辺状に面取りされているが、本発明は、切り欠き部32の角部32aが平面視円弧状に面取りされ、切り欠き部32の内面と可動刃30の刃部30aの端面との間にR曲面が形成された構成であってもよい。
【0046】
また、上記した実施形態では、切り欠き部32の両側の角部のうち、固定刃11の刃部11aとの間隔が狭い方の角部32aが面取りされ、間隔が大きい方の角部が面取りされていないが、本発明は、切り欠き部32の両側の角部をそれぞれ面取りしても構わない。
【0047】
また、上記した実施形態では、可動刃30の刃部30aに平面視略長方円形状の2つの切り欠き部32が形成されており、2点残しのパーシャルカットを行うカッター機構3について説明しているが、本発明は、切り欠き部32の数や位置、形状は適宜変更可能である。例えば、可動刃30の刃部30aの谷底部分(刃渡り方向の中央部分)に切り欠き部32を形成して1点残しのパーシャルカットを行うことができるカッター機構としてもよい。また、可動刃30の刃部30aに平面視矩形状や半円状、扁平C字形状等の切り欠き部を形成することも可能である。
【0048】
また、上記した実施形態では、可動刃30の刃部30aが平面視V字状に形成されているが、本発明は、可動刃30の刃部30aが固定刃11の刃部11aに対して傾斜していれば他の形状であってもよい。例えば、可動刃30の刃部30aが刃渡り方向の一端から他端に亘って斜めに延在した形状であってもよい。
【0049】
また、上記した実施形態では、プリンタの一例としてサーマルプリンタ1を例に挙げて説明したが、本発明はサーマルプリンタ1に限定されるものではない。例えば、印刷機構をインクジェットヘッドとし、インク滴を利用して記録紙に印刷するインクジェットプリンタであっても構わない。
【0050】
また、上記した実施形態では、ケーシング2の上面に開閉扉6が設けられたサーマルプリンタ1について説明しているが、ケーシング2の前面に開閉扉6を設け、印刷された記録紙Pが前面側から排出されるように設計しても構わない。また、ロール紙Rを投入して単に載置台2b上に置くドロップイン方式のサーマルプリンタ1について説明しているが、この方式ではなく、ケーシング2の内部にロール紙Rを軸支(回転可能に支持)する軸支機構を設けた軸支式のサーマルプリンタとしても構わない。
【0051】
また、上記した実施形態では、固定刃11が組み込まれたプラテンユニット7を開閉扉6側に設け、可動刃30が組み込まれた本体ユニット8をケーシング2側に設けた構成としたが、これとは逆にプラテンユニット7をケーシング2側に設け、本体ユニット8を開閉扉6側に設けても構わない。
更に、固定刃11を本体ユニット8側に設け、可動刃30をプラテンユニット7側に設けても構わない。つまり、固定刃11及び可動刃30は、本体ユニット8又はプラテンユニット7のいずれのユニットに設けても良く、プリンタの設計に応じて適宜選択して構わない。
【0052】
また、上記した実施形態では、本体ユニット8とプラテンユニット7とが開閉扉6の開閉に伴って分離するタイプのサーマルプリンタ1を例に挙げ、これに合わせて固定刃11と可動刃30とが分離する分離型タイプのカッター機構3について説明したが、本体ユニット8とプラテンユニット7とが分離しないタイプのサーマルプリンタにカッター機構3を採用しても構わない。この場合には、固定刃11と可動刃30とが分離しない一体型のカッター機構にすれば良い。
【0053】
また、上記した実施形態では、カッター機構3が一体的に組み込まれたサーマルプリンタ1を例に挙げたが、カッター機構3だけを分離できるような構成としても構わない。
【0054】
また、上記した実施形態では、可動刃30を固定刃11の下流側に配置させ、可動刃30が固定刃11の上面に乗り上がるように構成したが、カッター機構3を分離型或いは一体型のいずれに場合に構成する場合であっても、可動刃30を固定刃11の上流側に配置させても構わない。いずれにしても、固定刃11と可動刃30との位置関係は、どちらが上流側或いは下流側に配設されていても構わない。
【0055】
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0056】
P…記録紙
1…サーマルプリンタ(プリンタ)
3…カッター機構
9…印刷機構
11…固定刃
11a…固定刃の刃部
30…可動刃
30a…可動刃の刃部
32…切り欠き部
32a…切り欠き部の角部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃部同士を互いに対向させて配置された固定刃及び可動刃を備えており、
前記固定刃の刃部と前記可動刃の刃部との間に記録紙を通した状態で前記可動刃を前記固定刃側に移動させることで、前記可動刃と前記固定刃とを摺り合せながら前記記録紙を切断するカッター機構であって、
前記可動刃の刃部が前記固定刃の刃部に対して斜めに延在しており、
該可動刃の刃部に、前記記録紙の切断箇所に切り残し部を形成するための切り欠き部が形成されており、
該切り欠き部の両側の角部のうち、少なくとも前記固定刃の刃部との間隔が狭い方の角部が、平面視において斜辺状或いは円弧状に面取りされていることを特徴とするカッター機構。
【請求項2】
請求項1に記載のカッター機構と、前記記録紙に印刷を行う印刷機構と、を備えていることを特徴とするプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−200852(P2012−200852A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70539(P2011−70539)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】