説明

カップ粘度計

【課題】粘性の高い液状体の粘度を測定する場合に、液状体がカップ内面に付着して残留し、液が途切れるタイミングがばらつくことを防止でき、簡便にしかも精度よく液状体の粘度を測定することができるカップ粘度計を提供すること。
【解決手段】底部に流出孔が設けられ上部が開放されてなるカップ状容器を備えたカップ粘度計において、カップ状容器の内面が、フッ素樹脂系コート剤またはシリコーン系コート剤から選ばれるコート剤によってコーティングされていることを特徴とするカップ粘度計。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性の高い液状体の粘度を簡易に測定できるカップ粘度計、および該カップ粘度計を用いた、粘性の高い液状体の粘度を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スラリー、塗料、バッター液等の液状体の粘度を測定するにあたり、粘度を簡便に測定できることから、カップ粘度計が汎用されている(特許文献1を参照)。
粘度カップとしては、ザーンカップ、フォードカップ、イワタカップ等、各種のものが知られている。その原理はほぼ同様であり、前述のカップの底には所定の径の流出孔が開けてあり、このカップに一定量の液状体を入れると、流出孔から垂れる液状体は、初めのうちは糸状に連続して流れ落ちるが、終わりの頃には液が途切れて間欠的に流下するようになる。液状体の垂れ初めから液が途切れ始めるまでの時間をストップウォッチで計測し、その秒数を液状体の粘度とするものである。したがって、液状体の粘度が高いほど秒数は大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−229335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のカップ粘度計を用いて、油性塗料のような表面張力および粘度が比較的低い液状体の粘度を測定する場合には、あまり問題にならないが、粘性の高い液状体、特にバッター液のような水系で粘性の高い液状体の粘度を測定する場合、次のような問題が生じていることを本発明者は知覚した。
カップの内面に付着した液状体の一部が液切れしてカップ中に残留したり、カップ内面を時間をかけて流れるために、液状体の垂れが途切れるタイミングがばらつくことがあった。そのような場合、熟練者であっても、液が途切れるタイミングの判断が付きがたく、その結果、液状体の粘度の判定がばらつくという問題が生じている。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、カップ粘度計を用いて粘性の高い液状体の粘度を測定する場合に、液状体がカップ内面に付着して残留し、液が途切れるタイミングがばらつくことを防止でき、簡便にしかも精度よく液状体の粘度を測定することができるカップ粘度計、および該カップ粘度計を用いた、粘性の高い液状体の粘度を測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、種々検討した結果、カップ粘度計のカップ状容器の内面に特定のコート剤によってコーティングを施すことにより、上記目的を達成しうるカップ粘度計が得られることを知見した。
【0007】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、底部に流出孔が設けられ上部が開放されてなるカップ状容器を備えたカップ粘度計において、カップ状容器の内面がフッ素樹脂系コート剤又はシリコーン系コート剤によってコーティングされていることを特徴とするカップ粘度計を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のカップ粘度計および該カップ粘度計を用いた測定方法によれば、粘性の高い液状体の粘度を測定する場合においても、液状体がカップ内面に付着して残留し、液が途切れるタイミングがばらつくことを防止できるため、粘性の高い液状体の粘度、特にバッター液のような水系で粘性の高い液状体の粘度を、簡便にしかも精度よく測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明においてコーティングを施すカップ状容器(粘度カップ)は、底部に流出孔が設けられ上部が開放されてなるカップ状容器であり、ザーンカップ、フォードカップ、イワタカップ等、市販のものを使用することができる。
【0010】
上記カップ状容器の内面にコーティングするコート剤は、フッ素樹脂系コート剤またはシリコーン系コート剤であり、測定対象の液状体のカップへの付着性を減少するものである。該コート剤としては、カップ状容器の内面の表面摩擦を低下させる性質を有するものが好ましい。このようなコート剤としては、カップ内表面の水の接触角が90度以上となるシリコーン系コート剤やフッ素樹脂系コート剤が好ましく、シリコーンとしては、メチル基、フェニル基、エポキシ基、アクリル基、アルコキシ基等を有するシリコーンが例示でき、フッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ECTFE(クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体)等を例示できる。
上記コート剤としては、フッ素樹脂系コート剤が好ましく、特に四フッ化樹脂(PTFE)等のフッ素樹脂を使用するのが好ましい。
【0011】
コーティングする範囲は、測定対象の液状体が接触するカップ状容器の内面であり、カップ状容器の内面全体をコーティングするのが好ましい。
また、コーティング厚は、特に制限されるものではなく、通常、30〜300μm程度とすればよい。
【0012】
本発明で測定対象とする液状体としては、水系液状体及び非水系液状液体のいずれであってもよいが、本発明の特徴は、表面張力が大きく粘性の高い水系液状体であっても、安定して精度よく粘度測定ができることにある。したがって、本発明のカップ粘度計は、表面張力が大きく粘性の高い水系液状体の粘度測定に適用した場合に特に好ましいものである。
上記液状体の粘度は、カップ状容器の底部の流出孔から流れ出る粘度であれば、測定することができるが、本発明のカップ粘度計は、特に、高粘度の液状体の粘度測定に安定して精度よく用いることができる。好ましい液状体の粘度は、300mPa・s以上、更に好ましくは1000mPa・s以上である。従来の通常のカップ粘度計では、粘度が300mPa・s以上の液状体の粘度は精度の高い測定が困難であり、粘度が1000mPa・s以上の液状体の粘度は測定することができない。
【0013】
本発明のカップ粘度計を用いた本発明の粘度測定方法は、粘度が1000mPa・s以上の水系液状体、特に粘度が1000mPa・s以上のバッター液の粘度測定に適用して好ましいものである。
【実施例】
【0014】
本発明を具体的に説明するために、実施例および試験例を挙げるが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0015】
実施例1
20ml円筒形のレードルの底部の中心に5mmの直径の流出孔が設けられた市販のカップ状容器の内面に、フッ素樹脂系コート剤(PTFE)をコーティングし、本発明のカップ粘度計を作製した。コーティング面における水の表面接触角は100度であった。
【0016】
試験例1
表1に示す配合でバッター液を調製した。このバッター液は、回転粘度計(BM型粘度計、(株)トキメック製)を用いて測定した粘度が5050mPa・sであった。
このバッター液の粘度を、実施例1で作製したカップ粘度計を用いて常法により測定した。1つのサンプルについて、ストップウォッチ計測を10回繰り返した。各回の測定結果と、平均値および標準偏差を表2に示す(測定結果1)。なお、測定はバッター液調製後10分後以降20分以内に行い、測定温度は20℃とした。
また、比較のため、カップ状容器の内面にコーティングを施していない以外は、実施例1で作製したカップ粘度計と同様のカップ粘度計(比較例1)を用いて、上記バッター液の粘度を同様にして測定した。その結果も表2に合わせて示す(測定結果2)。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
試験例1の結果から明らかなように、比較例1のカップ粘度計を用いた場合、粘度が5050mPa・sのバッター液では、バッター液が連続して流出しなくなり、測定結果は、24.99秒から36.37秒まで広くばらつき、最大と最小の差は11.38秒であり、測定不可能であった。これに対して、実施例1の本発明のカップ粘度計を用いた場合では、粘度が5050mPa・sの高粘度のバッター液でも、最大と最小の差は4.17秒であり、精度よく測定することができた。
【0020】
試験例2
表3および表4に示す配合でそれぞれバッター液を調製した。これらのバッター液は、回転粘度計(BM型粘度計、(株)トキメック製)を用いて測定した粘度が、表3に示す配合のバッター液が912mPa・sで、表4に示す配合のバッター液が315mPa・sであった。
これらのバッター液の粘度を、試験例1と同様にして、実施例1のカップ粘度計または比較例1のカップ粘度計を用いて測定した。その測定結果を表5に示す。
【0021】
【表3】

【0022】
【表4】

【0023】
【表5】

【0024】
試験例3
水(粘度は1mPa・s)の粘度を、試験例1と同様にして、実施例1のカップ粘度計または比較例1のカップ粘度計を用いて測定した。その測定結果を表6に示す。
【0025】
【表6】

【0026】
試験例2および3の結果から明らかなように、粘度が912mPa・s、315mPa・s、1mPa・sの水系液状体でも、本発明のカップ粘度計によれば精度よく粘度を測定することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に流出孔が設けられ上部が開放されてなるカップ状容器を備えたカップ粘度計において、カップ状容器の内面が、フッ素樹脂系コート剤またはシリコーン系コート剤から選ばれるコート剤によってコーティングされていることを特徴とするカップ粘度計。
【請求項2】
コート剤がフッ素樹脂系コート剤である請求項1記載のカップ粘度計。
【請求項3】
請求項1または2記載のカップ粘度計を用いて、粘度が1000mPa・s以上である水系液状体の粘度を測定する方法。
【請求項4】
粘度が1000mPa・s以上である水系液状体がバッター液である請求項3記載の方法。

【公開番号】特開2013−88166(P2013−88166A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226674(P2011−226674)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(398012306)日清フーズ株式会社 (139)