説明

カテーテル、カテーテルの製造方法およびカテーテル製造装置

【課題】近年のきわめて小径化されたカテーテルにおいて、高い生産性と品質を実現することのできる技術を提供する。
【解決手段】カテーテル10は、管状本体(シース16)と、溝部28と、中空管32と、操作線40と、を有している。シース16は樹脂材料12からなり、メインルーメン20が長手方向に伸びて形成されている。溝部28は、シース16の周面(外周面)に長手方向に伸びて形成されている。中空管32は、メインルーメン20よりも小径のサブルーメン30を備えるとともに溝部28に装着されている。そして、操作線40は、サブルーメン30に摺動可能に挿通され、シース16の遠位端部15に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテル、カテーテルの製造方法およびカテーテル製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遠位端部を屈曲させることにより体腔への進入方向が操作可能なカテーテルが提供されている。カテーテルの遠位端を屈曲させる態様の一つとして、遠位端に固定された押し/引きワイヤを近位端側で操作するものが知られている(下記特許文献1を参照)。
押し/引きワイヤは、ガイドワイヤを挿通する主管腔よりも小径のワイヤ管腔に貫通されており、これを押し込んだ場合にカテーテルの遠位端を屈曲させることができるよう、所定の剛性を有している。
【0003】
また、下記特許文献2には、中央内腔(メインルーメン)の周囲に、これよりも細径の2つのワイヤ内腔(サブルーメン)を180度対向して設け、サブルーメンの内部に変向ワイヤを挿通してなるカテーテルの製造方法が記載されている。
サブルーメンを形成する方法の第一の例として、マンドレルに装着された内層の外面に沿って、ワイヤ内腔(サブルーメン)を有するスパゲッティチューブ(中空管)を軸方向に敷設し、これを外層で被覆して一体化することが記載されている(同文献の図2を参照)。
また、第二の例としては、内層の押出成形時にサブルーメンを貫通して形成し、その周囲に外層を被覆することが記載されている(同文献の図3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−507305号公報
【特許文献2】特開2006−192269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、血管内への挿通性などの観点から細径化が進められ、外直径が1mm以下のもの(以下、マイクロカテーテルという場合がある。)が提供されている。この場合、薬剤等の供給や光学系の挿通などに供されるメインルーメンの内径を所定に確保する観点から、サブルーメンの内径は10〜数十μm以下ときわめて小径に抑えることが望まれている。
【0006】
かかるマイクロカテーテルの場合、上記特許文献2の第一の例のように、内層と中空管とを外層で被覆する作業は容易ではなく、メインルーメンとサブルーメンとの位置関係を安定して再現することは困難であった。外径が数十μm程度と極細の中空管を外層で被覆する際に、中空管を内層の外面に対して軸方向にまっすぐ接触させた状態を保つことがきわめて困難なためである。
また、上記特許文献2の第二の例のように、内層の押出成形時にサブルーメンを貫通形成した場合には、かかるサブルーメンに対して操作線を挿通する作業がきわめて困難となる。これは、サブルーメンの小径化に伴って、内層の押出成形時にその壁面の内部にサブルーメンを均一かつ滑らかに貫通形成することが困難となり、操作線をサブルーメンに押し込む際にその内壁面に引っ掛かりやすくなるためである。
【0007】
そして、サブルーメンの成形性や、サブルーメンに対する操作線の挿通性が低下すると、作業工数の増大のみならず、サブルーメンや操作線を損耗することによるカテーテルの品質や歩留まりの低下が問題となる。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、近年のきわめて小径化されたカテーテルにおいて、高い生産性と品質を実現することのできる技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のカテーテルは、メインルーメンが長手方向に伸びて形成された、樹脂材料からなる管状本体と、
前記管状本体の周面に前記長手方向に伸びて形成された溝部と、
前記メインルーメンよりも小径のサブルーメンを備えるとともに前記溝部に装着された中空管と、
前記サブルーメンに摺動可能に挿通され、前記管状本体の遠位端部に固定された操作線と、を有する。
【0010】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、前記中空管が、前記樹脂材料とは異なる材料によって前記溝部に埋め込まれていてもよい。
【0011】
また本発明のカテーテルにおいては、より具体的な実施の態様として、前記樹脂材料が熱可塑性であって、
前記中空管が、前記樹脂材料によって前記溝部に埋め込まれていてもよい。
【0012】
本発明のカテーテルの製造方法は、メインルーメンが長手方向に伸びて形成された、樹脂材料からなる管状本体を成形する本体成形工程と、
前記管状本体の周面に対して前記長手方向に溝部を形成する溝部形成工程と、
前記メインルーメンよりも小径のサブルーメンを備える中空管を成形する中空管成形工程と、
前記サブルーメンに操作線を挿通する挿通工程と、
前記中空管を前記溝部に装着する装着工程と、
前記操作線の先端を前記管状本体の遠位端部に固定する操作線固定工程と、
を含む。
【0013】
また本発明のカテーテルの製造方法においては、より具体的な実施の態様として、前記溝部に装着された前記中空管を前記管状本体に対して固定する中空管固定工程をさらに含んでもよい。
【0014】
また本発明のカテーテルの製造方法においては、より具体的な実施の態様として、前記中空管固定工程において、前記樹脂材料とは異なる材料によって前記中空管を前記管状本体に接合固定してもよい。
【0015】
また本発明のカテーテルの製造方法においては、より具体的な実施の態様として、前記樹脂材料が熱可塑性であるとともに、
前記中空管固定工程において、前記管状本体を加熱溶融して前記中空管を前記管状本体に接合固定してもよい。
【0016】
本発明のカテーテルの製造装置は、メインルーメンが長手方向に伸びて形成された、樹脂材料からなる管状本体を保持する保持部と、
保持された前記管状本体に対して前記長手方向に相対的に移動して、前記管状本体の周面に対して溝部を削成する切削刃と、
前記メインルーメンよりも小径のサブルーメンを備える中空管を前記溝部に押し込む押込治具と、を有する。
【0017】
また本発明のカテーテル製造装置においては、より具体的な実施の態様として、前記管状本体を加熱溶融して、前記溝部に装着された前記中空管を前記管状本体に接合固定させる加熱手段をさらに有してもよい。
【0018】
なお、本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等でもよい。
【0019】
また、本発明の製造方法は、複数の工程を順番に記載してあるが、その記載の順番は複数の工程を実行する順番を限定するものではない。このため、本発明の製造方法を実施するときには、その複数の工程の順番は内容的に支障しない範囲で変更することができる。
さらに、本発明の製造方法は、複数の工程が個々に相違するタイミングで実行されることに限定されない。このため、ある工程の実行中に他の工程が発生すること、ある工程の実行タイミングと他の工程の実行タイミングとの一部ないし全部が重複していること、等でもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、管状本体の周面に長手方向に伸びて形成された溝部に中空管を装着することによりサブルーメンが作成される。このため、メインルーメンとサブルーメンとの所望の位置関係を再現性よく安定して実現することができる。また、内層の押出成形時に壁面の内部にサブルーメンを貫通形成する従来の方法と異なり、本発明によれば、中空管の内部に均一かつ滑らかな内壁面のサブルーメンを作成することができる。
このため、本発明のカテーテル、その製造方法およびカテーテル製造装置によれば、きわめて小径化されたカテーテルにおいても、高い生産性と品質を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係るカテーテルを示す縦断面図である。
【図2】図1のII-II断面(横断面)図である。
【図3】図2の拡大図である。
【図4】カテーテルの動作を説明する側面図であり、(a)は自然状態のカテーテルを示す縦断面模式図であり、(b)は操作線を牽引した状態のカテーテルを示す縦断面模式図である。
【図5】カテーテル製造装置を示す側面模式図である。
【図6】本実施形態の変形例に係るカテーテルの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0023】
<カテーテル>
図1は、本発明の実施形態に係るカテーテル10を示す縦断面図である。同図は、カテーテル10を長手方向に切った断面を示している。同図の左方がカテーテル10の遠位端(先端)側にあたり、右方が近位端(基端)側にあたる。ただし、同図においては、カテーテル10の近位端側は図示を省略している。
図2は図1のII-II断面(横断面)図であり、図3は図2に破線で示した円III領域の拡大図である。
【0024】
はじめに、本実施形態のカテーテル10の概要について説明する。
本実施形態のカテーテル10は、管状本体(シース16)と、溝部28と、中空管32と、操作線40と、を有している。
シース16は樹脂材料12からなり、メインルーメン20が長手方向に伸びて形成されている。溝部28は、シース16の周面(外周面18)に長手方向に伸びて形成されている。中空管32は、メインルーメン20よりも小径のサブルーメン30を備えるとともに溝部28に装着されている。そして、操作線40は、サブルーメン30に摺動可能に挿通され、シース16の遠位端部15に固定されている。
【0025】
次に、本実施形態のカテーテル10について詳細に説明する。
カテーテル10は、造影剤や薬液などの薬剤を患部に供給するメインルーメン20が長手方向(図1における左右方向)に設けられている。そして、メインルーメン20と隔離して設けられたサブルーメン30に操作線40が挿通されて、カテーテル10の遠位端部15を屈曲操作することができる。
【0026】
シース16は管状をなし、カテーテル10の本体をなす。シース16は、メインルーメン20が内部に形成された管状の内層21と、内層21と同種または異種の樹脂材料12からなり内層21の周囲に形成された外層60と、を積層してなる。
【0027】
内層21には、一例として、フッ素系の熱可塑性ポリマー材料を用いることができる。より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)などを用いることができる。
内層21にフッ素系樹脂を用いることにより、カテーテル10のメインルーメン20を通じて造影剤や薬液などを患部に供給する際のデリバリー性が良好となる。
【0028】
シース16の主たる肉厚を構成する外層60は、樹脂材料12からなる。
樹脂材料12には熱可塑性ポリマーが広く用いられる。一例として、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)のほか、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ナイロンエラストマー、ポリウレタン(PU)、エチレン−酢酸ビニル樹脂(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)またはポリプロピレン(PP)などの材料を用いることができる。
【0029】
メインルーメン20の先端側の開口は、シース16の遠位端DEに形成されている。一方、メインルーメン20の基端側の開口は近位端部17(図4を参照)の端面または周面に形成されている。
【0030】
シース16(外層60)の内部には、一つまたは複数のサブルーメン30が遠位端部15から近位端部17に亘って設けられている。
図2に示すように、本実施形態のカテーテル10は、複数個のサブルーメン30がメインルーメン20の周方向に分散して配置されている。また、メインルーメン20とサブルーメン30とは互いに離間して個別に設けられている。具体的には、本実施形態のカテーテル10の場合、3個のサブルーメン30がメインルーメン20の周囲に120度間隔で配置されている。そして、カテーテル10の遠位端部15に固定された操作線40が、3個のサブルーメン30にそれぞれ摺動可能に1本ずつ挿通されている。
ここで、カテーテル10の遠位端部15とは、カテーテル10の遠位端DEを含む所定の長さ領域をいう。同様に、カテーテル10の近位端部17(図4を参照)とは、カテーテル10の近位端PEを含む所定の長さ領域をいう。
【0031】
溝部28は、シース16の周面に長手方向に伸びて形成されている。溝部28が形成されるシース16の周面は、外周面18でも、内周面19でもよい。ただし、溝部28の内部に中空管32を固定する際の作業性の観点から、本実施形態では、溝部28をシース16の外周面18、すなわち外層60の側面に形成している。
【0032】
溝部28は、シース16の軸方向に対して平行に形成されてもよく、シース16の周りに螺旋状に形成されてもよい。
また、溝部28は、カテーテル10の遠位端部15から近位端部17まで全長さに亘って形成されてもよく、または一部長さにのみ形成されてもよい。
【0033】
溝部28の断面形状は、中空管32が内部に装着可能であるかぎり特に限定されず、たとえばV字溝またはU字溝とすることができる。
【0034】
中空管32は、内部にサブルーメン30が貫通して形成された管状の部材である。
中空管32は、外層60を構成する樹脂材料12よりも、耐熱性、柔軟性および摺動性の高い熱可塑性のポリマー材料が好適に用いられる。一例としては、PTFE、PFAもしくは四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系ポリマー材料のほか、PI、PAI、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)もしくは液晶ポリマー(LCP)などの非フッ素系ポリマー材料が用いられる。
【0035】
中空管32を成形するポリマー材料には、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、二酸化チタンなどの無機フィラーを混合してもよい。無機フィラーをポリマー材料に混合して中空管32の内壁面の平滑性を向上することにより、中空管32に対して操作線40を挿通する際の作業性の向上と、操作線40の牽引操作時の摩擦低減が図られる。
【0036】
中空管32は、カテーテル10の遠位端部15から近位端部17まで全長さに亘って溝部28に装着されてもよく、または一部長さのみが溝部28に装着されてもよい。
ここで、中空管32が溝部28に装着されているとは、中空管32の横断面の一部が溝部28に嵌合しているか、または中空管32の横断面の全体が溝部28に収容されている状態をいう。
このうち、本実施形態の場合は、溝部28の深さは中空管32の外径よりも大きく、中空管32はシース16に対して外周面18よりも内側に装着されている。
【0037】
本実施形態の中空管32は、樹脂材料12とは異なる材料(接着剤62)によって溝部28に埋め込まれている。接着剤62には、樹脂材料12とは異種の樹脂系接着剤を用いることができる。
樹脂系接着剤の例としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体のほか、アクリル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジウムハライドもしくはポリエチレンイミンなどの合成樹脂材料を用いることができる。
【0038】
サブルーメン30には、操作線40が摺動可能に挿通されている。
操作線40は円形断面の線材であり、外径は30〜60μm程度である。
操作線40の材料としては、たとえば、PEEK、PPS、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、PIもしくはPTFEなどの高分子ファイバー、または、ステンレス鋼(SUS)、耐腐食性被覆した鋼鉄線、チタンもしくはチタン合金などの可撓性の金属線を用いることができる。
【0039】
図3に示すように、本実施形態のカテーテル10においては、シース16(外層60)の外周面18に彫り込み形成された溝部28に中空管32が装填され、溝部28の壁面とサブルーメン30との間に接着剤62が充填されている。
本実施形態の接着剤62は、外周面18のほぼ面一の高さまで溝部28に充填されている。ただし、接着剤62は、溝部28よりも盛り上がって、外周面18よりも突出して充填されてもよい。
【0040】
外層60の周囲には、カテーテル10の最外層として形成された親水性のコート層64が積層形成されている。コート層64は、シース16のうち遠位端DE側の一部長さ領域に設けられて溝部28の一部長さを覆っている。
コート層64は、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドンなどの親水性の樹脂材料で成形するか、または外表面に潤滑処理を施すことにより、少なくとも外表面が親水性である。
【0041】
コート層64と溝部28との間には、図3に示すように空隙Vが存在してもよく、またはコート層64と溝部28とは気密に密着してもよい。
【0042】
本実施形態のカテーテル10は、内層21の周囲にワイヤ52を編成してなるブレード層50を備えている。ブレード層50は、外層60に内包されている。
本実施形態のカテーテル10においては、図1、3に示すように、操作線40がそれぞれ挿通されたサブルーメン30は、外層60の内部であって、ブレード層50の外側に形成されている。
【0043】
また、カテーテル10の遠位端部15には、X線等の放射線が不透過な材料からなるリング状のマーカー66が設けられている。具体的には、マーカー66には白金などの金属材料を用いることができる。本実施形態のマーカー66は、メインルーメン20の周囲であって、外層60の内部に設けられている。
【0044】
操作線40の先端(遠位端)は、カテーテル10の遠位端部15に固定されている。操作線40の先端を遠位端部15に固定する態様は特に限定されない。たとえば、操作線40の先端をマーカー66に締結してもよく、シース16の遠位端部15に溶着してもよく、または接着剤によりマーカー66またはシース16の遠位端部15に接着固定してもよい。
【0045】
ここで、本実施形態のカテーテル10の代表的な寸法について説明する。
メインルーメン20の半径は200〜300μm程度、内層21の厚さは10〜30μm程度、外層60の厚さは100〜150μm程度、ブレード層50の厚さは20〜30μmとすることができる。そして、カテーテル10の軸心からサブルーメン30の中心までの半径は300〜350μm程度、サブルーメン30の内径(直径)は40〜100μmとし、操作線40の太さを30〜60μmとすることができる。また、中空管32の肉厚を10〜30μmとし、溝部28の深さを20〜100μmとすることができる。
そして、カテーテル10の最外径(半径)を350〜450μm程度とすることができる。
すなわち、本実施形態のカテーテル10の外径は直径1mm未満であり、腹腔動脈などの血管に挿通可能である。
【0046】
図4を用いて、本実施形態のカテーテル10の動作を説明する。図4各図では、3本の操作線40のうち1本のみを図示している。
【0047】
操作線40の近位端41は、サブルーメン30から近位側に突出している。また、操作線40の近位側には、複数の操作線40を個別に牽引してカテーテル10の遠位端部15を屈曲させる操作部70が設けられている。操作部70の構造に関する詳細な図示および説明は省略する。
【0048】
本実施形態のカテーテル10において、操作線40の近位端41を基端側(同図における右方)に牽引すると、カテーテル10の遠位端部15には引張力が与えられる。かかる引張力が所定以上であると、カテーテル10の軸心から当該操作線40が挿通されているサブルーメン30の側に向かって、遠位端部15が屈曲する。
そして、3本の操作線40の牽引長さを個別に制御することにより、カテーテル10の遠位端部15を360度に亘り任意の向きに屈曲させることができる。これにより、カテーテル10の全体を軸回転させるトルク操作をおこなうことなく、操作部70による操作線40の牽引操作のみによって、カテーテル10の進入方向を自在に操作することが可能となる。このため、本実施形態のカテーテル10は、たとえば分岐する血管等の体腔に対して、所望の方向に進入させることが可能である。
【0049】
操作線40は、きわめて微細径の線材からなるため、その近位端41をシース16に対して押し込んだ場合には、当該操作線40は座屈し、カテーテル10の遠位端部15には押込力が実質的に与えられることはない。
このため、操作者が操作線40をカテーテル10に対して押し込んだとしても、操作線40がカテーテル10の遠位端部15から外れて遠位端DEより突出することがない。このため、体腔内に挿入されたカテーテル10を操作するに際して、被験者の安全が図られている。
【0050】
<カテーテルの製造方法>
以下、本実施形態にかかるカテーテルの製造方法(本方法)について詳細に説明する。
本方法は、本体成形工程と、溝部形成工程と、中空管成形工程と、挿通工程と、装着工程と、操作線固定工程とを含む。
本体成形工程では、メインルーメン20が長手方向に伸びて形成された、樹脂材料12からなるシース16を成形する。溝部形成工程では、シース16の周面(外周面18)に対して長手方向に溝部28を形成する。中空管成形工程では、メインルーメン20よりも小径のサブルーメン30を備える中空管32を成形する。挿通工程では、サブルーメン30に操作線40を挿通する。装着工程では、中空管32を溝部28に装着する。そして、操作線固定工程では、操作線40の先端をシース16の遠位端部15に固定する。
【0051】
本発明においては、挿通工程をおこなうタイミングは特に限定されず、これを中空管成形工程と同時におこなってもよく、または中空管成形工程の後かつ装着工程の前におこなってもよく、さらには装着工程の後におこなってもよい。
また、本体成形工程と中空管成形工程の先後に関しても、本発明は特に限定されない。
【0052】
以下、本方法の各工程についてさらに詳細に説明する。
【0053】
(本体成形工程)
本体成形工程では、シース16を作成する。具体的な製造方法の一例を以下に示す。
まず、メインルーメン20の内径に相当する外径を有する円柱状の芯線22(図5を参照)の周囲に、内層21を押出成形する。芯線22には、銅または銅合金、炭素鋼やステンレス鋼(SUS)などの合金鋼、ニッケルまたはニッケル合金などの金属材料を用いることができる。芯線22の周面には、離型処理を施しておくとよい。
【0054】
つぎに、内層21の外周面に対し、ワイヤ52(図1を参照)を編組してなるブレード層50を網状に被着形成する。
ワイヤ52には、ステンレス鋼やニッケルチタン合金など金属細線のほか、PI、PAIまたはPETなどの高分子ファイバーの細線を用いることができる。
ワイヤ52の断面形状は特に限定されず、丸線でも平線でもよい。
【0055】
さらに、ブレード層50が形成された内層21の外周面に対して、樹脂材料12の押出成形により外層60を成形する。ブレード層50は外層60に内包される。
以上により、内層21および外層60からなる本実施形態のシース16が成形される。
【0056】
(中空管成形工程)
中空管成形工程では、サブルーメン30が軸心に貫通形成された中空管32を成形する。中空管32は、たとえば押出成形により作成することができる。中空管32は、熱収縮性材料で作成してもよい。この場合、サブルーメン30よりも大径の中空部を有する管状部材を一旦作成した後に、これを熱収縮させて所望の径のサブルーメン30を調製してもよい。
【0057】
(挿通工程)
挿通工程では、中空管32のサブルーメン30に対して操作線40を挿通する。
挿通工程は、大別して、中空管32の成形時に操作線40を共押出する方法と、予め成形された中空管32に対して後から操作線40を挿通する方法のいずれかを採用することができる。したがって、前者の共押出の場合、挿通工程は中空管成形工程と同時におこなわれることとなる。
【0058】
中空管32と操作線40を共押出する場合は、中空管32のポリマー材料とともに、ダイより操作線40を押し出して中空管32を成形する。
また、中空管成形工程の後に挿通工程をおこなう場合は、後述の装着工程によって中空管32が溝部28に装着される前におこなってもよく、または中空管32が溝部28に装着されてシース16に固定されたのちに挿通工程をおこなってもよい。
【0059】
(溝部形成工程)
溝部形成工程では、シース16の外周面18に対し、シース16の軸方向に平行に、または螺旋状に、溝部28を形成する。
【0060】
ここで、溝部形成工程、および後述の装着工程と中空管固定工程に用いられる、本実施形態のカテーテル製造装置80について説明する。
図5は、本実施形態のカテーテル製造装置80を用いて、溝部形成工程と装着固定と中空管固定工程をシース16に施している状態を示す側面模式図である。保持部82は、一部を切り欠いてシース16および芯線22の断面を図示している。なお、同図では、ブレード層50は図示を省略している。
【0061】
<カテーテル製造装置>
本実施形態のカテーテル製造装置80は、メインルーメン20が長手方向に伸びて形成された、樹脂材料12からなるシース16を保持する保持部82と、保持されたシース16に対して長手方向に相対的に移動して、シース16の周面(外周面18)に対して溝部28を削成する切削刃84と、メインルーメン20よりも小径のサブルーメン30を備える中空管32を溝部28に押し込む押込治具85と、を有している。
【0062】
溝部形成工程、装着固定および中空管固定工程では、内層21および外層60からなるシース16は芯線22に被着されている。
保持部82は、シース16を直接的にまたは間接的に保持して切削刃84とシース16とを長手方向に相対的に移動させる装置である。本実施形態では、保持部82の一例として、芯線22を長手方向に搬送する送り装置を例示する。
図5に示す保持部82は、白抜矢印で示すように、芯線22を介してシース16を保持するとともに、シース16を図中左方に搬送する。
【0063】
切削刃84は、保持部82により搬送されるシース16に対して径方向に昇降可能である。切削刃84は、断面V字状またはU字状である。
そして、切削刃84をシース16に突き立てた状態で保持部82を軸方向に送ることにより、シース16の外周面18に所定深さの溝部28が形成される。切削刃84は、内層21の外周に被覆形成されたブレード層50に干渉しないよう、外層60の中間深さまで突き立てられる。
【0064】
切削刃84は、電熱線などの加熱手段を備えており、溝部28を切削する際に外層60を加熱して軟化させる。これにより、装着工程にて溝部28に装着された中空管32が溝部28の壁面に被着して、シース16と中空管32との位置ズレが防止される。
【0065】
(装着工程)
装着工程では、押込治具85を用いて中空管32を溝部28に装着する。
本実施形態のカテーテル製造装置80は、切削刃84の下流側に押込治具85が設けられている。
押込治具85は、上部ガイド86と下部ガイド87とを組み合わせてなる。上部ガイド86と下部ガイド87との間には、保持部82の送り方向の上流側(図5における右方)に、中空管32を押込治具85に導入するための導入溝88が設けられている。
【0066】
導入溝88は、保持部82の送り方向に対してシース16の径方向に傾斜している。
上部ガイド86の延在方向は、導入溝88の伸びる傾斜方向から、シース16の軸方向に向かって、連続的に変化している。これにより、導入溝88に導入された中空管32を溝部28に沿って軸方向に向けることができる。
【0067】
上部ガイド86の下流側には、シース16の径方向内側に突出する押さえ部89が形成されている。押さえ部89は、溝部28の上部に係合して、中空管32を溝部28に押し込むとともに、シース16に対して中空管32を押圧する。
【0068】
(中空管固定工程)
本方法では、溝部28に装着された中空管32をシース16に対して固定する中空管固定工程をさらにおこなう。
【0069】
本方法の中空管固定工程では、樹脂材料12とは異なる材料(接着剤62)によって中空管32をシース16に接合固定する。
【0070】
本実施形態のカテーテル製造装置80は、押込治具85の下流側に、中空管32をシース16に固定するための固定手段が設けられている。本実施形態では、固定手段90として、溝部28内に接着剤62を供給する供給ノズルが設けられている。
供給ノズルは、溝部28の上部に架設されている。そして、供給ノズルは、溝部28に装着された中空管32の周囲に接着剤62を充填して、中空管32を溝部28の内部に固定する。
【0071】
本方法のように、接着剤62によって溝部28を充填することにより、コート層64と溝部28との間に空隙V(図3を参照)を残置することなく、溝部28を完全に埋めることが可能である。これにより、シース16に対するコート層64の密着性が向上する。
【0072】
以上により、保持部82にて軸方向に搬送されるシース16の内部に、中空管32が長手方向に伸びて埋設される。
【0073】
なお、図2に示すようにシース16の内部に120度間隔で3本の中空管32を埋設する場合には、保持部82に対するシース16の保持角度を変えて上述の溝部形成工程と装着工程を三回繰り返してもよい。
または、切削刃84、押込治具85および供給ノズル(固定手段90)からなるカテーテル製造装置80を、シース16の周囲に120度間隔で三式配設してもよい。
【0074】
(操作線固定工程)
操作線固定工程では、中空管32のサブルーメン30に挿通された操作線40を、シース16の遠位端部15に固定する。操作線40をシース16に固定する具体的な方法としては、中空管32より引き出した操作線40の先端を、シース16の遠位端部15に溶着してもよく、またはシース16の先端部外周に圧締されるマーカー66に固定してもよい。
操作線40をマーカー66に固定する場合、操作線40の先端をシース16の外周面18とマーカー66との間に挟んで固定してもよく、またはマーカー66自体に操作線40を接合して固定してもよい。
【0075】
(親水化工程)
マーカー66が装着されて操作線40が遠位端部15に固定されたシース16の先端部外周には、親水性のコート層64を形成して親水化工程をおこなう。コート層64はシース16のうち、遠位端部15を含む一部長さに対して被着形成する。
【0076】
以上の工程をおこなった後、芯線22をシース16から抜脱し、操作部70(図4を参照)をシース16に装着することにより、本実施形態のカテーテル10は作成される。
シース16から芯線22を抜脱する際には、芯線22の長手方向の両端を牽引して芯線22を細径化した状態でシース16を取り外すとよい。
【0077】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
【0078】
上記実施形態では、溝部28に装着した中空管32を接着剤62によってシース16に固定しているが、本発明はこれに限られない。
たとえば、樹脂材料12が熱可塑性であって、中空管32が、樹脂材料12によって溝部28に埋め込まれていてもよい。
【0079】
図6は、本実施形態の変形例に係るカテーテル10の横断面図である。
本変形例のカテーテル10は、削成された溝部28の周壁を溶融させ、中空管32を内包して再凝固させたものである。
【0080】
具体的には、上記の中空管固定工程において、シース16を加熱溶融して中空管32をシース16に接合固定する。
【0081】
この場合、カテーテル製造装置80には、固定手段90として、供給ノズルに代えて、加熱手段を設ける。
加熱手段は、シース16を加熱溶融して、溝部28に装着された中空管32をシース16に接合固定させる手段である。
【0082】
加熱手段は、中空管32が装着された溝部28の周囲の樹脂材料12を、樹脂材料12の溶融温度以上、中空管32の溶融温度以下まで加熱する。
すなわち、本変形例の場合、中空管32のポリマー材料には、外層60の樹脂材料12よりも融点の高い材料を用いる。
【0083】
加熱手段は、図5に示すカテーテル製造装置80において、押込治具85の下流側に配置してもよく、押込治具85と切削刃84との間に設けてもよく、または切削刃84の上流側に配置してもよい。そして、加熱手段は、外層60の外周面18を局所的に加熱して、中空管32が装着された溝部28の壁面を溶融させて中空管32を溝部28の内部に埋設固定する。
なお、加熱手段の加熱原理は特に限定されず、たとえば超音波加熱装置やヒータ加熱装置を用いることができる。
【0084】
溝部28の近傍を加熱手段で溶融させた樹脂材料12によって中空管32を溝部28に埋設することで、溶融した樹脂材料12と外層60との高い親和性により、中空管32をシース16に対して強固に固定することができる。このとき、切削刃84で削成された溝部28の内壁面と、再凝固した樹脂材料12との界面は消失する場合がある。
【0085】
また、上記実施形態においては、中空管32をブレード層50の外側に装着する態様を例示したが、本発明はこれに限られない。すなわち、溝部28をシース16(内層21)の内周面19に削成して、中空管32をブレード層50の内側に形成してもよい。
この場合、サブルーメン30の外周をブレード層50で保護することとなるため、ユーザによる操作時に操作線40に過剰な引張力が付与されたとしても、操作線40がシース16を突き破って外部に露出してしまうことがない。
【0086】
また、本体成形工程においては、シース16の可撓性を、近位端PE側から遠位端DE側に向かって複数段階に、または連続的に、増大させてもよい。
これにより、カテーテル10の遠位端部15における屈曲性を十分に確保しつつ、操作時に曲げモーメントがもっとも負荷される近位端部17におけるカテーテル10の曲げ強度を十分に得ることができる。
【0087】
また、本実施形態のカテーテル10は3本の操作線40がそれぞれサブルーメン30に対して摺動可能に挿通されているが、本発明はこれに限られない。操作線40は1本、2本または4本以上でもよい。また、サブルーメン30は、操作線40と同数であってもよく、または異数であってもよい。すなわち、サブルーメン30の内部には複数本の操作線40を挿通してもよく、または操作線40が挿通されていないサブルーメン30をシース16に設けてもよい。
【符号の説明】
【0088】
10 カテーテル
12 樹脂材料
15 遠位端部
16 シース
17 近位端部
18 外周面
19 内周面
20 メインルーメン
21 内層
28 溝部
30 サブルーメン
32 中空管
40 操作線
50 ブレード層
60 外層
62 接着剤
64 コート層
66 マーカー
70 操作部
80 カテーテル製造装置
82 保持部
84 切削刃
85 押込治具
89 押さえ部
90 固定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインルーメンが長手方向に伸びて形成された、樹脂材料からなる管状本体と、
前記管状本体の周面に前記長手方向に伸びて形成された溝部と、
前記メインルーメンよりも小径のサブルーメンを備えるとともに前記溝部に装着された中空管と、
前記サブルーメンに摺動可能に挿通され、前記管状本体の遠位端部に固定された操作線と、を有するカテーテル。
【請求項2】
前記中空管が、前記樹脂材料とは異なる材料によって前記溝部に埋め込まれていることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記樹脂材料が熱可塑性であって、
前記中空管が、前記樹脂材料によって前記溝部に埋め込まれていることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項4】
メインルーメンが長手方向に伸びて形成された、樹脂材料からなる管状本体を成形する本体成形工程と、
前記管状本体の周面に対して前記長手方向に溝部を形成する溝部形成工程と、
前記メインルーメンよりも小径のサブルーメンを備える中空管を成形する中空管成形工程と、
前記サブルーメンに操作線を挿通する挿通工程と、
前記中空管を前記溝部に装着する装着工程と、
前記操作線の先端を前記管状本体の遠位端部に固定する操作線固定工程と、
を含む、カテーテルの製造方法。
【請求項5】
前記溝部に装着された前記中空管を前記管状本体に対して固定する中空管固定工程をさらに含む請求項4に記載のカテーテルの製造方法。
【請求項6】
前記中空管固定工程において、前記樹脂材料とは異なる材料によって前記中空管を前記管状本体に接合固定することを特徴とする請求項5に記載のカテーテルの製造方法。
【請求項7】
前記樹脂材料が熱可塑性であるとともに、
前記中空管固定工程において、前記管状本体を加熱溶融して前記中空管を前記管状本体に接合固定することを特徴とする請求項5に記載のカテーテルの製造方法。
【請求項8】
メインルーメンが長手方向に伸びて形成された、樹脂材料からなる管状本体を保持する保持部と、
保持された前記管状本体に対して前記長手方向に相対的に移動して、前記管状本体の周面に対して溝部を削成する切削刃と、
前記メインルーメンよりも小径のサブルーメンを備える中空管を前記溝部に押し込む押込治具と、を有するカテーテル製造装置。
【請求項9】
前記管状本体を加熱溶融して、前記溝部に装着された前記中空管を前記管状本体に接合固定させる加熱手段をさらに有する請求項8に記載のカテーテル製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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