説明

カテーテルの動き制御および位置特定のための装置および方法

本発明は、先端または先端付近に磁性要素を有するカテーテル(190)の、オブジェクト(180)を通じての動きを制御し、前記オブジェクト(180)内で前記カテーテル(190)を位置特定する装置(100)に関する。本発明は、カテーテル位置特定およびカテーテル移動の両方のために磁性粒子撮像(MPI)の原理およびハードウェアを適用し、前記カテーテルをオブジェクトを通じて、移動コマンドによって指示される方向に動かすためおよび前記オブジェクト内で前記カテーテルを位置特定するための適切な磁場を生成するために、それぞれの場コイルへの制御電流を生成および提供するよう諸信号発生器ユニットを制御する適切な制御手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オブジェクトを通じてカテーテルの動きを制御するためおよびオブジェクト内のカテーテルを位置特定するための装置および方法に関する。カテーテルは、その先端または先端付近に磁性要素を有する。さらに、本発明は、コンピュータ上で前記方法を実装するためおよびそのような装置を制御するためのコンピュータ・プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
磁性粒子撮像(MPI: Magnetic Particle Imaging)は台頭しつつある医療撮像モダリティである。MPIの最初の諸バージョンは、二次元画像を生成するという意味で二次元的であった。将来の諸バージョンは三次元的(3D)となるであろう。非静的なオブジェクトの時間依存の、すなわち4Dの画像が、3D画像の時間的なシーケンスを動画に組み合わせることによって生成できる。これは、単一の3D画像のデータ収集の間にオブジェクトが有意に変化しなければである。
【0003】
MPIは、計算機断層撮影(CT: Computed Tomography)または磁気共鳴撮像(MRI: Magnetic Resonance Imaging)のような再構成撮像方法である。したがって、オブジェクトの関心体積のMP画像は二段階で生成される。データ収集と称される第一段階はMPIスキャナを使って実行される。MPIスキャナは、スキャナの照射中心〔アイソセンター〕において単一の、場がない点(FFP: field free point)を有する、「選択場」と呼ばれる静的な傾斜磁場を生成する手段を有する。さらに、スキャナは、時間依存の、空間的にほぼ均一な磁場を生成する手段を有する。実際には、この磁場は、「駆動場(drive field)」と呼ばれる小さな振幅をもつ高速で変化する場と「フォーカス場(focus field)」と呼ばれる大きな振幅をもつゆっくり変化する場を重畳することによって得られる。静的な選択場に時間依存的な駆動場とフォーカス場を加えることによって、FFPは、照射中心を囲むスキャン体積を通じて、所定のFFP軌跡に沿って動かされることができる。スキャナはまた、一つまたは複数の、たとえば三つの受信コイルの配列を有し、これらのコイルに誘導される電圧があればそれを記録できる。データ収集については、撮像されるべきオブジェクトは、オブジェクトの関心体積が、スキャン体積のサブセットであるスキャナの視野によって囲まれるよう、スキャナ内に配置される。
【0004】
オブジェクトは磁性ナノ粒子を含む必要がある。オブジェクトが動物または患者である場合、スキャンに先立って、そのような粒子を含む造影剤が動物または患者に投与される。データ収集の間、MPIスキャナは、FFPを、スキャン体積を、または少なくとも視野をトレース・アウトする(trace out)入念に選ばれた軌跡に沿って操縦する。オブジェクト内の磁性ナノ粒子は変化する磁場を感じ、磁化を変えることによって応答する。ナノ粒子の変化する磁化は、各受信コイルにおける時間依存する電圧を誘導する。この電圧は、受信コイルに関連付けられた受信器においてサンプリングされる。受信器によって出力されるサンプルは、記録され、収集されたデータをなす。データ収集の詳細を制御するパラメータがスキャン・プロトコルをなす。
【0005】
画像再構成と称される画像生成の第二段階では、第一段階で収集されたデータから画像が計算または再構成される。画像は、視野内の磁性ナノ粒子の位置依存の濃度のサンプリングされた近似を表す、データの離散的な3Dアレイである。再構成は一般に、好適なコンピュータ・プログラムを実行するコンピュータによって実行される。コンピュータおよびコンピュータ・プログラムが再構成アルゴリズムを実現する。再構成アルゴリズムは、データ収集の数学的モデルに基づく。あらゆる再構成撮像方法と同様、このモデルは、収集されたデータに対して作用する積分演算子である。再構成アルゴリズムは、可能な限り、モデルの作用を取り消そうとする。
【0006】
そのようなMPI装置および方法は、非破壊的な仕方で、いかなる損傷も引き起こすことなく、検査オブジェクトの表面近くと表面から遠方の両方での高空間解像度で、任意の検査オブジェクト――たとえば人体――を検査するために使用できるという利点がある。そのような装置および方法は一般に、特許文献1および非特許文献1から知られている。該刊行物において記載される磁性粒子撮像(MPI)のための装置および方法は、小さな磁性粒子の非線形な磁化曲線を活用する。
【0007】
患者の身体内のカテーテルの動きのために、多くのロボット・カテーテル・システムがある。ロボット・カテーテル操縦には二つの利点がある。あまり熟練していない操作者にとって、カテーテル手順のスピードおよび正確さを大幅に改善しうる。電気生理学手順(EP: electrophysiology procedures)のような長い手順については、患者にとってのX線線量を軽減する。システムは、機械的に、または均一な磁場がカテーテルを曲げる定位固定(stereotaxis)システムの場合のように磁場によって機能する。
【0008】
そのようなシステムはたとえば特許文献2から知られている。人間の脳のような生きた組織であってもよい媒体を通じたカテーテルの動きは、磁性先端を有する柔軟なカテーテルを該媒体を通じて機械的に押し、機械的に押されるカテーテル先端を段階的に所望される経路に沿って案内する大きさおよび方向をもつ磁場を印加することによって制御される。磁場は、磁気定位固定システムにおいて、PID(proportional, integral, and derivative[比例、積分および微分])フィードバック方法の適応版を使ってプロセッサによって制御される。磁場は超伝導コイルによって印加され、それらのコイルを通じて加えられる電流は電流メトリック(current metric)を最小にするよう選択される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】DE10151778A1
【特許文献2】US2003/0125752A1
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Gleich, B. and Weizenecker, J. "Tomographic imaging using the nonlinear response of magnetic particles", Nature, vol.435, pp.1214-1217, 2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
オブジェクトを通じたカテーテルの動きを制御するための改善された装置および方法であって、オブジェクト内でカテーテルを位置特定することもできるものを提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一の側面では:
・低い磁場強度をもつ第一のサブゾーンおよびより高い磁場強度をもつ第二のサブゾーンが視野内に形成されるよう磁場強度の空間におけるパターンをもつ選択磁場を生成するための、選択場信号発生器ユニットおよび選択場要素、特に選択場磁石もしくはコイルを有する選択手段と、
・磁性物質の磁化がローカルに変化するよう、磁気駆動場によって視野内の前記二つのサブゾーンの空間内の位置を変えるための、駆動場信号発生器ユニットおよび駆動場コイルを有する駆動手段と、
・フォーカス磁場によって視野の空間内の位置を変えるための、フォーカス場信号発生器ユニットおよびフォーカス場コイルを有するフォーカス手段と、
・検出信号を収集するための、少なくとも一つの信号受信ユニットおよび少なくとも一つの受信コイルを有する受信手段であって、前記検出信号は視野内の磁化に依存し、前記磁化は前記第一および第二のサブゾーンの空間内での位置の変化によって影響される、受信手段と、
・カテーテルをオブジェクトを通じて、移動コマンドによって指示される方向に動かすためおよびオブジェクト内でカテーテルを位置特定するための適切な磁場を生成するために、それぞれの場のコイルへの制御電流を生成および提供するよう前記信号発生器ユニットを制御する制御手段と、
・オブジェクト内でカテーテルを位置特定するために適切な磁場が印加されているときに収集された前記検出信号を処理し、処理された検出信号からオブジェクト内のカテーテルの磁性要素の位置を決定する処理手段とを有する、
装置が提起される。
【0013】
本発明のあるさらなる側面では、対応する方法が提起される。
【0014】
本発明のあるさらなる側面では、コンピュータ上で実行されたときに、該コンピュータに、本発明に基づく方法の段階を実行するよう本発明に基づく装置を制御させるプログラム・コード手段を有するコンピュータ・プログラムが提起される。
【0015】
本発明の好ましい実施形態は従属請求項において定義される。請求項記載の方法および請求項記載のコンピュータ・プログラムは、請求項記載の装置および従属請求項の記載と同様および/または同一の好ましい実施形態をもつ。
【0016】
発明者によって、既知の磁性定位固定システムの主要な限界が、磁場の低い磁場強度(たとえば100mT)であることが認識された。心筋に対する接触力(contact forces)は最適よりずっと低いと考えられるからである。そのような定位固定システムおよび本発明の一つの主要な応用は、心臓における電気生理学測定およびアブレーション(ablation)である。そうした応用については、特にアブレーションのためには、カテーテル(電極を含む)が心筋に対して押しつけられる必要がある。磁場が強いほど、トルクは大きくなり、よってかけられる力が大きくなる。さらに、定位固定システムの第二の欠点として、磁場変化の遅いスピードがあることが認識された。
【0017】
よって、既知のMPI装置および方法の諸部分を、カテーテル操縦のための必要とされる磁場の生成のために使い、よって磁気定位固定システムをしかるべく適応されたMPIシステムで置き換えるということが、本発明の一つの発想である。特に、既知のMPI装置の場コイルのいくつかが適切な磁場を生成するために使用され、MPI装置の制御ユニットは、カテーテルをオブジェクトを通じて動かす適切な磁場を生成するようそれぞれの場コイルへの制御電流を生成および提供するようそれぞれの信号発生器ユニットを制御するよう適応される。制御ユニットは、カテーテルの動きの方向を示す移動コマンドをも与えられ、該移動コマンドから、制御ユニットは、信号発生器ユニットのための制御コマンドを生成する。
【0018】
MPIハードウェア、特にさまざまな場コイルは一般に(必ずではないが)オブジェクト(患者)を取り囲むので、MPIシステムのコイルによって生成される磁場は、現行の定位固定システムによって生成される磁場(たとえば100mT)より実質的に大きくなれる(たとえば400mT)。よって、カテーテルはずっと迅速に、より少ない動き誤差をもって、より高い精度で、動かすことができる。さらに、MPIシステムはずっと高速である。特に、磁場は定位固定システムよりずっと、たとえば二桁も高速に修正されることができる。さらに、より大きなトルクをかけることができ、よって、摩擦に対するより大きなスピードが達成できる。より大きな磁場変化率が実現できるのは、特に場発生器が患者のより近くに持ち込まれることができるためであり(たとえば、かさばるX線システムのためのスペースが必要とされないので)、また、MPIシステムが(たとえば位置特定および撮像のために)MPIデータ収集における必要とされる電流を提供するための大電流源を必要とし、よってそのような大電流源がシステムにおいていずれにせよ利用可能であり、それが所望されるカテーテル動きのために有利に活用できるためである。
【0019】
さらに、MPIシステムの原理およびハードウェアを使うことは、さらにオブジェクト内でカテーテルを位置特定することを許容する。このように、カテーテルの移動と位置特定は、本発明に基づく装置では、従来使用されるようなカテーテルに加えられるマーカーを検出するためのカメラ・システムやX線システムなどの、位置特定のための追加的なハードウェアといった追加的な設備なしに、交互に、ほぼ同時に行うことができる。位置特定のために、オブジェクト磁性粒子を撮像する既知のMPIの原理、たとえば上述した文献に記載される原理が適用される。すなわち、その場合、制御ユニットが、カテーテル、特にその先端または先端付近にある磁性要素を撮像するために適切な磁場を生成するようそれぞれの場コイルへの制御電流を生成および提供するよう信号発生器ユニットのための制御コマンドを生成する。この目的のため、磁性要素は、この目的のために適切な磁性物質、たとえばレソビスト(Resovist)のような強磁性物質でできている、またはそのような磁性物質を含む。印加される選択場は、磁性粒子の磁化が飽和されない低い磁場強度をもつ第一のサブゾーン、すなわちいわゆる場のない点(FFP: field-free-point)および磁性粒子の磁化が飽和されるより高い磁場強度をもつ第二のサブゾーンのような、磁場強度の空間におけるパターンをもち、その際、場のない点は、適切な駆動磁場および/またはフォーカス磁場の印加によって所定の軌跡に沿って動かされる。
【0020】
これは、本発明に基づく装置および方法が、X線またはCTのような他の撮像モダリティを使うことなく、介入の間にカテーテルの正しい動きおよび位置を簡単に検査できるようにし、よって、患者にとっての線量を軽減する。さらに、既知の定位固定システムで必要とされるようなこの機能のための追加的なハードウェアは必要とされない。
【0021】
ある好ましい実施形態によれば、前記制御手段は、移動コマンドによって指示される方向にオブジェクトを通じてカテーテルを動かすためおよびオブジェクト内でカテーテルを位置特定するための適切な磁場を交互に生成するよう、それぞれの場コイルへの制御電流を生成し、提供するよう前記信号発生器ユニットを制御するよう適応される。よって、カテーテルの移動の間に、所望される時間間隔で、実際のカテーテル位置が決定でき、検査されることができる。このようにして、位置が所望される位置から外れると、装置によって自動的に、あるいはユーザーによって手動で、すぐに訂正ができる。
【0022】
もう一つの実施形態によれば、前記制御手段は、手動またはあらかじめ決定された移動コマンドを、前記信号発生器ユニットを制御するための制御信号に変換するよう適応される。好ましくは、そのような移動コマンドを前記制御ユニットに入力するためのインターフェースが設けられる。そのようなインターフェースは、キーボード、ポインタ、コンピュータ・マウスまたはジョイスティックのようなユーザー・インターフェースあるいは、たとえばMRまたはCTのような別の撮像モダリティの使用によって得られた患者の撮像データの使用などによってカテーテルの動きが計画されたコンピュータ上のナビゲーション・ユニットまたはナビゲーション・ツールのような別の装置へのインターフェースであることができる。その際、制御ユニットは、移動コマンドを与えられ、適切な磁場が生成されるよう、それをそれぞれの信号発生器ユニットのための制御信号に「翻訳」する。
【0023】
カテーテルは一般に磁場によって加えられる力によってのみオブジェクト内で動かされることができるが、ある実施形態では、磁場による動きに加えて、カテーテル移動手段を使うことによってカテーテルの前後方向の動きを提供することが好ましい。これは、カテーテルをオブジェクトに出し入れする動きをサポートし、さらには単独で前後の動きのための力を提供し、そのため磁場の役目は主としてまたは単に、オブジェクト内での動きの方向を制御することとなる。
【0024】
媒質を通じて柔軟なカテーテルを押し進めるそのようなカテーテル移動手段は一般に知られており、記載された定位固定システムにおいても使われる。そのようなカテーテル移動手段はたとえばUS2003/0125752A1に記載されている。だがここでは一般に、いかなる種類のそのようなカテーテル移動手段が使われてもよく、本発明はこの文書に記載される実施形態に限定されるものではない。
【0025】
前記制御手段は好ましくは前記カテーテル移動手段を制御するよう適応される。これは、オブジェクト内でのカテーテルの動き、位置決めおよび位置特定の制御された調整を可能にする。
【0026】
あるいはまた、カテーテルの前後運動は、ユーザーによって手動で与えられることもできる。磁場はオブジェクト内でのカテーテル、特にカテーテル先端の動きの方向を制御するために与えられるのみである。
【0027】
前記制御手段はさらに、好ましくは、前記カテーテルの位置特定の際に前記カテーテルに対して前方または後方への動きが加えられないよう、特に前記カテーテルがその位置に保持されるよう、前記カテーテル移動手段を制御するよう適応される。そのようなカテーテル移動手段が設けられない場合、前記制御手段は、位置特定の際にカテーテルが動かされないよう、すなわち、カテーテル操縦場がオフにされるまたは勾配場に切り換えられ、位置特定のためのMPIシーケンスが印加されるよう、信号発生器ユニットを制御する。カテーテルの動きが手動で実行される場合、ユーザーは位置特定の際にカテーテルの前方(または後方)への動きを止める。これは、位置特定のより高い精度を保証する。
【0028】
好ましくは、装置のフォーカス磁場コイル(および/または最終的には駆動磁場コイル)が、オブジェクトを通じたカテーテルの動きのために使われる。これらのコイルは、十分高速に、カテーテル動きのために必要とされる十分大きな場の強度をもって、さまざまな方向に十分均一な場を生成することができる。よって、これらのコイルの使用は、既知の定位固定システムよりずっと大きな柔軟性を提供する。一般に、磁場は任意の所望される方向に生成できるからである。
【0029】
均一な磁場を使うことによって、好適な磁性オブジェクト、たとえばカテーテル先端または先端付近にある磁性要素に対してトルクが加えられることができる。トルクは、少なくとも磁性要素に、よってカテーテル先端に、横向きの圧を加える、たとえばカテーテルがある方向に従うまたはいくつかの利用可能な経路のうちの一つに従うことを強制する、あるいはカテーテルを何か、たとえば心筋に対して押しつけるのに十分である。好ましくは、上述したように前方/後方への動きのために外部からの追加的な力が必要とされるが、カテーテルの前方または後方への動きのために一方向への(比較的小さな)力をはたらかせる強い傾斜場を印加することも可能である。
【0030】
さらに、ある実施形態では、前記制御手段は、動きコマンドによって指示される方向にオブジェクトを通じてカテーテルを動かすための磁場が前記フォーカス場コイルおよび/または前記駆動場コイルによって生成されている間は、前記選択場コイルへの制御電流を生成および提供しないよう前記選択場信号発生器を制御するよう適応される。これは、フォーカス場コイルおよび/または駆動場コイルによる移動の際の、カテーテル位置決めの擾乱(特に選択場コイルによって生成される磁場によって引き起こされる乱れ)を回避する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本発明のこれらおよびその他の側面は、以下に記載される実施形態を参照することから明白であり、明快にされるであろう。
【図1】MPI装置の第一の実施形態を示す図である。
【図2】図1に示される装置によって生成される選択場パターンの例を示す図である。
【図3】MPI装置の第二の実施形態を示す図である。
【図4】本発明に基づくMPI装置のブロック図である。
【図5】本発明に基づく方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の詳細を説明する前に、磁性粒子撮像の基礎を、図1ないし図4を参照して詳しく説明しておく。特に、医療診断用のMPIスキャナの二つの実施形態について述べる。データ収集の略式の記述も与える。二つの実施形態の間の類似性および相違点を指摘する。
【0033】
図1に示されているMPIスキャナの第一の実施形態は、同軸の平行円形コイルの三つの顕著な対12、14、16をもつ。各対は図1に示すように配列される。これらのコイル対12、14、16は、選択場ならびに駆動場およびフォーカス場を生成するはたらきをする。三つのコイル対12、14、16の軸18、20、22は互いに直交であり、単一点で交わる。その単一点はMPIスキャナ10の照射中心24として表されている。さらに、これらの軸18、20、22は、照射中心24に取り付けられた3Dデカルトxyz座標系の軸のはたらきをする。垂直軸20はy軸と名付けられ、よってx軸とz軸は水平方向である。コイル対12、14、16もその軸にならって名付けられる。たとえば、yコイル対14はスキャナの上下にあるコイルによって形成される。さらに、正(負)のy座標をもつコイルはy+コイル(y-コイル)と呼ばれ、残りのコイルについても同様である。
【0034】
スキャナ10は、所定の時間依存の電流を、各コイル12、14、16に、いずれかの方向に流すよう設定されることができる。電流が、コイルの軸に沿って見たときにコイルのまわりを時計回りに流れる場合、電流は正とされ、逆の場合に負とされる。静的な選択場を生成するために、一定の正の電流ISがz+コイルを通じて流され、電流−ISがz-コイルを通じて流される。その際、zコイル対16は反平行な円形のコイル対として作用する。
【0035】
一般に傾斜磁場である選択磁場は、図2において場の線50によって表されている。これは、選択場を生成するzコイル対16の(たとえば水平方向の)z軸22の方向に実質的に一定の勾配をもち、軸22上の照射中心24において値0に達する。この場がない点(図2では個別的に示さず)から出発して、選択磁場50の場の強さは、場がない点からの距離が増すにつれて、三つの空間的方向のすべてにおいて増大する。照射中心24のまわりの破線で表される第一のサブゾーンまたは領域52では、場の強度は、該第一のサブゾーン52に存在する粒子の磁化が飽和しないよう十分小さい。一方、第二のサブゾーン54(領域52の外部)に存在する粒子の磁化は飽和状態にある。スキャナの視野28の場のない点または第一のサブゾーン52は、好ましくは、空間的にコヒーレントな領域である;これはまた、点状領域、線または平坦な領域であってもよい。第二のサブゾーン54では(すなわち、スキャナの視野28の、第一のサブゾーン52の外部の残りの部分では)、選択場の磁場強度は、磁性粒子を飽和状態に保持するのに十分強い。
【0036】
視野28内で二つのサブゾーン52、54の位置を変えることにより、視野28内の(全体的な)磁化が変化する。視野28内の磁化または該磁化によって影響される物理パラメータを測定することにより、視野28内の磁性粒子の空間分布についての情報が得られる。視野28内の二つのサブゾーン52、54の相対的な空間位置を変えるためには、さらなる磁場、すなわち駆動磁場および該当するならフォーカス磁場が、視野28内のまたは少なくとも視野28の一部の中の選択場50に重畳される。
【0037】
駆動場を生成するために、時間依存の電流ID1が両方のxコイル12を通じて流され、時間依存の電流ID2が両方のyコイル14を通じて流され、時間依存の電流ID3が両方のzコイル16を通じて流される。こうして、三つのコイル対のそれぞれは、平行な円形コイル対として作用する。同様に、フォーカス場を生成するために、時間依存の電流IF1が両方のxコイル12を通じて流され、電流IF2が両方のyコイル14を通じて流され、電流IF3が両方のzコイル16を通じて流される。
【0038】
zコイル対16が特別であることを注意しておくべきである:これは、駆動場およびフォーカス場の分担分を生成するのみならず、選択場をも生成する。z±コイルを流れる電流はID3+IF3+ISである。残りの二つのコイル対12、14を流れる電流はIDk+IFk、k=1,2である。幾何学的構成および対称性により、三つのコイル対12、14、16はよく分離される。これは望ましい。
【0039】
反平行な円形コイル対によって生成される選択場は、z軸のまわりに回転対称であり、そのz成分はzにおいてほぼ線形であり、照射中心24のまわりのかなりの体積において、xおよびyとは独立である。特に、選択場は照射中心において単一の場がない点(FFP)をもつ。対照的に、平行な円形コイル対によって生成される駆動場およびフォーカス場への寄与は、照射中心24のまわりのかなりの体積において空間的にほぼ均一であり、それぞれのコイル対の軸に平行である。三つすべての平行な円形コイル対によって統合して生成される駆動場およびフォーカス場は空間的にほぼ均一であり、任意の方向および何らかの最大強度までの任意の強さを与えられることができる。駆動場およびフォーカス場も時間依存である。フォーカス場と駆動場の間の違いは、フォーカス場は時間的にゆっくり変化し、大きな振幅をもつのに対し、駆動場は急速に変化し、小さな振幅をもつということである。これらの場を別個に扱う物理的および生物医学的な理由がある。大きな振幅をもつ急速に変化する場は生成するのが難しく、患者にとって危険である。
【0040】
MPIスキャナの実施形態10は、平行円形コイルの少なくとも一つのさらなる対、好ましくは三つのさらなる対を有する。それらはやはりx,y,z軸に沿って配向される。これらのコイル対は、図1には示されていないが、受信コイルとしてはたらく。駆動場およびフォ−カス場のためのコイル対12、14、16と同様に、これらの受信コイル対の一つを通じて流れる一定の電流によって生成される磁場は、視野内で空間的にほぼ均一であり、それぞれのコイル対の軸に平行である。これらの受信コイルはよく分離されていると想定される。受信コイルにおいて誘起される時間依存の電圧は、このコイルに取り付けられた受信器によって増幅され、サンプリングされる。より精密には、この信号の膨大なダイナミックレンジに対処するために、受信器は、受信信号とある参照信号との間の差をサンプリングする。受信器の伝達関数は、DCから,期待される信号レベルがノイズ・レベルを下回る点まで、非0である。
【0041】
図1に示されるMPIスキャナの実施形態10は、z軸22に沿った、すなわち選択場の軸に沿った円筒形のボア26をもつ。すべてのコイルはこのボア26の外側に配置される。データ収集のためには、撮像(または治療)されるべき患者(またはオブジェクト)は、患者の関心体積――撮像(または治療)される必要のある患者(またはオブジェクト)の体積――がスキャナの視野28――スキャナが内容を撮像できる、該スキャナの体積――によって囲まれるよう、ボア26内に置かれる。患者(またはオブジェクト)はたとえば患者テーブル上に置かれる。視野28は幾何学的に単純であり、ボア26の内部において中心をもつ体積であり、立方体、球体または円柱などである。立方体の視野28が図1には示されている。
【0042】
サブゾーン52の大きさは、一方では選択磁場の勾配の強さに依存し、他方では飽和のために必要とされる磁場の強さに依存する。磁場強度80A/mおよび50×103A/m2に上る選択磁場の場の強さの(所与の空間方向での)勾配での磁性粒子の十分な飽和のためには、粒子の磁化が飽和しない第一のサブゾーン52は(前記所与の空間方向において)約1mmの寸法をもつ。
【0043】
患者の関心体積は、磁性ナノ粒子を含むと想定される。特に、たとえば腫瘍の治療処置および/または診断処置に先立って、磁性粒子が関心体積内に位置される。これは、たとえば磁性粒子を含む液体が患者(オブジェクト)の体内に注入されるまたは他の仕方で、たとえば経口的に患者に投与されることによる。
【0044】
磁性粒子の実施形態は、たとえば、ガラスの球状の基質などに、5nmなどの厚さをもち鉄ニッケル合金(たとえばパーマロイ)などからなる軟磁性層を与えたものである。この層は、たとえば、化学的および/または物理的に攻撃的な環境、たとえば酸に対して粒子を保護する被覆層によって覆われてもよい。そのような粒子の磁化の飽和のために必要とされる選択磁場50の磁場強度は、さまざまなパラメータ、たとえば粒子の直径、磁性層のための使用される磁性材料およびその他のパラメータに依存する。
【0045】
たとえば10μmの直径の場合、約800A/mの磁場(ほぼ1mTの磁束密度に対応)が必要とされる。一方、100μmの直径の場合は、80A/mの磁場で十分である。より低い飽和磁化をもつ材料の被覆が選ばれる場合、あるいは層の厚さが薄くされる場合には、より小さな値さえ得られる。一般に使用できる磁性粒子は、商標レソビスト(Resovist)のもとで市販されている。
【0046】
一般的に使用できる磁性粒子および粒子組成のさらなる詳細については、EP1304542、WO2004/091386、WO2004/091390、WO2004/091394、WO2004/091395、WO2004/091396、WO2004/091397、WO2004/091398、WO2004/091408の対応する箇所がここに参照される。これらはここに参照によって組み込まれる。これらの文書には、MPI法一般についてのさらなる詳細も見出せる。
【0047】
データ収集は時刻tsに始まって時刻teに終わる。データ収集の間、x,y,zコイル対12、14、16は位置および時間に依存する磁場、印加される場を生成する。これは、好適な電流をコイルに流すことによって達成される。実際、駆動場およびフォーカス場は、FFPがスキャン体積――視野のスーパーセット――をトレースし尽くすあらかじめ選択されたFFP軌跡に沿って動くよう、選択場を押しやる。印加される場は、患者内で磁性ナノ粒子を配向させる。印加される場が変わるにつれて、結果として得られる磁化も変化する。ただし、その応答は印加される場に対して非線形である。変化する印加された場と変化する磁化の和が、xk軸に沿った受信コイル対の端子間の時間依存電圧Vkを誘起する。付随する受信器がこの電圧を信号Sk(t)に変換し、サンプリングし、出力する。
【0048】
第一のサブゾーン52内に位置される磁性粒子からの信号を、駆動磁場の変動の周波数帯域とは別の(より高い周波数にシフトされた)周波数帯域で受信または検出することが有利である。これが可能なのは、磁化特性の非線形性の結果として、スキャナの視野28内の磁性粒子の磁化の変化に起因して、駆動磁場周波数の、より高い高調波の周波数成分が現れるからである。
【0049】
図1に示した第一の実施形態10のように、図3に示したMPIスキャナの第二の実施形態30も、三つの円形の、互いに直交なコイル対32、34、36をもつが、これらのコイル対32、34、36は選択場およびフォーカス場のみを生成する。やはり選択場を生成するzコイル36は強磁性材料37で充填される。この実施形態30のz軸42は垂直方向に配向され、一方、x軸およびy軸38、40は水平方向に配向される。スキャナのボア46はx軸38に平行であり、よって選択場の軸42に垂直である。駆動場はx軸38に沿ったソレノイド(図示せず)によって、および残りの二つの軸40、42に沿った鞍形コイル(図示せず)の対によって生成される。これらのコイルは、ボアをなす管のまわりに巻かれる。駆動場コイルは受信コイルのはたらきもする。受信コイルによってピックアップされた信号は、印加された場によって引き起こされる寄与を抑制する高域通過フィルタを通じて送られる。
【0050】
そのような実施形態の典型的なパラメータを若干挙げておくと、選択場のz勾配GがG/μ0=2.5T/mの強さをもつ。μ0は真空の透磁率である。生成される選択場は時間的に全く変動しないか、変動は比較的ゆっくりであり、好ましくは約1Hzから約100Hzの間である。駆動場の時間的周波数スペクトル(temporal frequency spectrum)は、25kHzのまわりの狭い帯域(約100kHzまで)に集中している。受信信号の有用な周波数スペクトルは50kHzから1MHzまでの間にある(最終的には約10MHzまで)。ボアは120mmの直径をもつ。ボア46にフィットする最大の立方体28は、120mm/√2≒84mmの辺長をもつ。
【0051】
上記の諸実施形態に示されるように、上記のさまざまな磁場は、同じコイル対のコイルによって、該コイルに適切に生成された電流を与えることによって、生成される。しかしながら、特により高い信号対雑音比をもつ信号解釈の目的のためには、時間的に一定な(または準一定な)選択場および時間的に可変の駆動場およびフォーカス場が別個のコイル対によって生成される場合が有利でありうる。一般に、ヘルムホルツ型のコイル対がこれらのコイルについて使用できる。これはたとえば、高周波(RF: radio frequency)コイル対が関心領域の上下に位置され、前記RFコイル対が時間的に可変な磁場を生成できる、開放型磁石をもつ磁気共鳴装置(オープンMRI)の場から一般に知られている。したがって、そのようなコイルの構成はここでこれ以上詳述する必要はない。
【0052】
選択場の生成についてのある代替的な実施形態では、永久磁石(図示せず)が使用できる。そのような(向かい合う)永久磁石(図示せず)の二つの極の間の空間において、図2に示したのと同様の磁場が形成される。すなわち、これは向かい合う磁極が同じ極性の場合である。もう一つの代替的な実施形態では、選択場は、少なくとも一つの永久磁石と少なくとも一つのコイルの混合によって生成できる。
【0053】
図4は、本発明に基づくMPI装置10の一般的なブロック図である。上記で説明した磁性粒子撮像および磁気共鳴撮像の一般原理は、有効であり、特に断りのない限り、この実施形態にも適用可能である。
【0054】
図4に示した装置100の実施形態は、所望される磁場を生成するためのさまざまなコイルのセットを有する。まず、これらのコイルおよびMPIモードでのその機能について説明する。
【0055】
上で説明した(傾斜)選択磁場を生成するために、選択場(SF: selection field)コイルのセット116を有する、好ましくは少なくとも一対のコイル要素を有する、選択手段が設けられる。選択手段はさらに、選択場信号発生器ユニット110を有する。好ましくは、選択場コイルの前記セット116の各コイル要素について(またはコイル要素の各対について)別個の発生器サブユニットが設けられる。前記選択場信号発生器ユニット110は、制御可能な選択場電流源112(一般には増幅器を含む)と、フィルタ・ユニット114とを有する。フィルタ・ユニット114は、所望の方向の選択場の勾配の強さを個々に設定するよう、場のコイル要素のそれぞれのセクションに選択場電流を与える。好ましくは、DC電流が与えられる。選択場コイル要素が対向コイルとして、たとえば視野の反対側に配置される場合、対向コイルの選択場電流は好ましくは反対向きである。
【0056】
選択場信号発生器ユニット110は制御ユニット150によって制御され、該制御ユニット150は好ましくは、選択場のすべての空間部分の場の強さの和および勾配強さの和があらかじめ定義されたレベルに維持されるよう、選択場電流発生110を制御する。
【0057】
フォーカス磁場の生成のために、装置100はさらにフォーカス手段を有する。フォーカス手段はフォーカス場(FF: focus field)コイルのセット、好ましくは向かい合って配置されたフォーカス場コイル要素の三つの対126a、126b、126cを有する。前記フォーカス磁場は一般に、作用領域の、空間における位置を変えるために使用される。フォーカス場コイルはフォーカス場信号発生器ユニット120によって制御される。フォーカス場信号発生器ユニット120は好ましくは、フォーカス場コイルの前記セットの各コイル要素(または少なくともコイル要素の各対)について別個のフォーカス場信号生成サブユニットを有する。前記フォーカス場信号発生器ユニット120は、フォーカス磁場を生成するために使われるコイル126a、126b、126cの前記サブセットのそれぞれのコイルへのフォーカス場電流を提供するために、フォーカス場電流源122(好ましくは電流増幅器を有する)およびフィルタ・ユニット124を有する。フォーカス場電流ユニット120も、制御ユニット150によって制御される。
【0058】
駆動磁場の生成のために、装置100はさらに駆動手段を有する。駆動手段は、駆動場(DF: drive field)コイルのサブセット、好ましくは向かい合って配列された駆動場コイル要素の三つの対136a、136b、136cを有する。これらの駆動場コイルは駆動場信号発生器ユニット130によって制御される。駆動場信号発生器ユニット130は好ましくは、駆動場コイルの前記セットの各コイル要素(または少なくともコイル要素の各対)について、別個の磁場信号発生サブユニットを有する。前記駆動場信号発生器ユニット130は、それぞれの駆動場コイルに駆動場電流を提供するために、駆動場電流源41(好ましくは電流増幅器を含む)およびフィルタ・ユニット42を有する。駆動場電流源41は、AC電流を生成するよう適応され、やはり制御ユニット150によって制御される。
【0059】
信号検出のために、受信手段148、特に受信コイル、および前記受信手段148によって検出された信号を受信する信号受信ユニット140が設けられる。前記信号受信ユニット140は受信された検出信号をフィルタ処理するフィルタ・ユニット142を有する。このフィルタ処理のねらいは、二つの部分領域(52、54)の位置の変化によって影響される検査領域内の磁化によって引き起こされる測定された値を、他の、干渉する信号から分離することである。この目的に向け、フィルタ・ユニット142は、たとえば、受信手段148が動作させられる時間的周波数(temporal frequencies)より小さな、あるいはこれらの時間的周波数の2倍より小さな時間的周波数をもつ信号がフィルタ・ユニット142を通過しないよう設計されうる。これらの信号は次いで、増幅器ユニット144を介してアナログ/デジタル変換器146(ADC)に伝送される。アナログ/デジタル変換器146によって生成されるデジタル化された信号は画像処理ユニット(再構成手段とも呼ばれる)152に入力され、画像処理ユニット152は、これらの信号と、それぞれの信号の受信の際に検査領域内の第一の磁場の第一の部分領域52が帯びていたそれぞれの位置とから、磁性粒子の空間分布を再構成する。画像処理ユニット152は前記位置を制御ユニット150から得る。磁性粒子の再構成された空間分布は最終的に制御手段150によってコンピュータ154に伝送され、コンピュータ154によってモニタ156に表示される。よって、検査領域の視野において磁性粒子の分布を示す画像が表示されることができる。
【0060】
さらに、入力手段158、たとえばキーボードが設けられる。したがって、ユーザーは、最高解像度の所望される方向を設定することができ、それに対して、モニタ156上に作用領域の個別の画像を受け取る。最高の解像度が必要とされる決定的な方向がユーザーによって最初に設定された方向から逸脱する場合、ユーザーはそれでも、改善された撮像解像度をもってさらなる画像を生成するために、手動で方向を変えることができる。解像度改善プロセスは制御ユニット150およびコンピュータ154によって自動的に機能させられることもできる。制御ユニット150はこの実施形態では、傾斜場を、自動的に推定されるまたはユーザーによって出発地として設定される第一の方向に設定する。傾斜場の方向は次いで、それにより受け取られるコンピュータ154によって比較される画像の解像度が最大になるかそれ以上改善されなくなるまで、段階的に変えられる。したがって、最も決定的な方向は、可能な最高の解像度を受けるために自動的に見出されるか適応されることができる。
【0061】
本発明によれば、制御ユニット150は、移動コマンドによって指示される方向にオブジェクト、特に患者を通じてカテーテルを動かすための適切な磁場を生成するようそれぞれの場コイル、特にフォーカス場コイル126a、126b、126cおよび/または駆動場コイル136a、136b、136cへの制御電流を生成し、提供するよう、信号発生器ユニット110、120、130、特にフォーカス場信号発生器ユニット120および/または駆動場信号発生器ユニット130を制御するよう適応される。好ましくは、フォーカス場コイル126a、126b、126cがこの目的のために使われる。
【0062】
好ましくは、たとえばフォーカス場コイル126a、126b、126cによって生成された均一な磁場を使うことにより、好適な磁性オブジェクト、たとえばカテーテル先端または先端近くにある磁性要素に対して、トルクをはたらかせることができる。トルクは、少なくとも、磁性要素に、よってカテーテル先端に、横向きの圧を加える、たとえばカテーテルがある方向に従うまたはいくつかの利用可能な経路のうちの一つに従うことを強制する、あるいはカテーテルを何か、たとえば心筋に対して押しつけるのに十分である。好ましくは、上述したように前方/後方への動きのために外部からの追加的な力が必要とされるが、カテーテルの前方または後方への動きのために一方向に(比較的小さな)力をはたらかせる強い傾斜場を印加することも可能である。これについてはのちに説明する。
【0063】
移動コマンドを入力するために、インターフェース162が設けられる。前記インターフェース162はさまざまな仕方で実装されることができる。たとえば、前記インターフェース162は、キーボード、コンソール、ジョイスティックまたはたとえば別個のコンピュータ(図示せず)にインストールされたナビゲーション・ツールを介するなどして、ユーザーが手動でユーザー・コマンドを入力するユーザー・インターフェースであることができる。別の実装では、前記インターフェース162は、MR(磁気共鳴)またはCT(計算機断層撮影)のような別の撮像モダリティによってもしくは同じMPI装置の使用によって取得された画像データの使用によって前もって取得されたオブジェクトの画像データなどに基づいて本発明についてのカテーテルの移動が前もって計画されたときに使われた、ナビゲーション・ユニットのような移動制御のための外部装置への接続のためのインターフェースである。その場合、インターフェース162は、カテーテルのオブジェクト内での所望される動きについての情報を受信し、インターフェース162または制御ユニット150は前記コマンドを、それぞれの信号発生器ユニットのための移動コマンドに「翻訳」できる。
【0064】
よって、実際上、本発明に基づく装置は、オブジェクトを通じてカテーテルを動かす。特に、移動コマンドがどんな形で、誰もしくは何によって与えられたかに関わりなく、移動コマンドに基づいてカテーテルの動きの方向を制御することができる。
【0065】
さらに、本発明に基づく装置の使用により、介入の際にオブジェクト180内でカテーテル190を位置特定することが簡単にできる(本発明の方法を簡単な図で示す図5を参照)。カテーテル190は、MPI方法および装置の既知の原理を使ってその先端192または先端近くに磁性要素194を設けられるので、磁性要素194の、よってカテーテル190のオブジェクト180(ここでは患者の頭部)内での位置が決定できる。
【0066】
たとえば、磁性要素の位置決定のために、既知のMPI方法を使って、MPI方式に従って磁場を印加したのちの収集された検出信号から、位置が取得できる。位置情報が生成されることができる、または磁性要素の現在位置がオブジェクト180の所定の画像において指示されることができる。該画像は、別の撮像モダリティまたは同じMPI装置を使って収集されたデータに基づいて前に再構成されたものであってもよい。もちろん、別の撮像モダリティによって得られる画像データがこの目的のために使われる場合、これらの画像データを現在の検出信号(またはそれから再構成された画像データ)と位置合わせするために、一般には位置合わせステップが必要になる。この目的のためには、既知の位置合わせアルゴリズムを使うことができる。
【0067】
たとえば、オブジェクトを通じてカテーテルを動かすために、フォーカス場コイルが好ましくは使用される。フォーカス場コイルによって、カテーテルの所望される動きを実施するために所望される方向において均一な磁場が生成される。しかしながら、位置特定のためには、均一な操縦場(すなわちフォーカス場)はもはや同じようには印加されず、一般に傾斜場(選択場コイル116(これは選択場磁石またはいくつかの選択場コイルであることもできる)によって印加される)に切り換えられ、これらの磁場は、視野を通じてある軌跡に沿って場のない点を動かすために印加される。このようにして、カテーテルに取り付けられた磁性要素が検出できる。位置特定のために適用されるこのMPIシーケンスの間、カテーテルに対する力は0になる。モード間でのより高速の切り換えのために、カテーテル操縦の間、何らかの勾配成分が持続することができる。
【0068】
カテーテルの前方および後方への動きは、手動で実行されることができる。それにより、磁場は単に(または主として)カテーテル先端の動きの方向を制御することを受け持つ。しかしながら、磁場が、カテーテルの前方への(そして必要であれば後方への)動きの力をも(単独で)加える、または少なくとも前方(または後方)への動きを支援するのに十分強いことも可能である。さらなる実施形態では、前記前方および後方への動きを実施する、US2003/0125752A1に示されるようなモーター(motor)を有する送り機構のようなカテーテル動きユニット160が設けられることができる。この場合、カテーテル190は好ましくは、押しワイヤ(push wire)196によってカテーテル動きユニット160に接続される。一般に、ここでは、この目的のために、カテーテルの前方への(および最終的には後方への)動きを提供できる任意の種類のデバイスを使用できる。
【0069】
カテーテル動きデバイス160はユーザーによって直接制御されることができる。しかしながら、好ましくは、カテーテル動きデバイス160は制御ユニット150によって制御される。制御ユニット150は、カテーテルの位置特定がなされるときにカテーテルの動きを簡単に止めることも可能にする。
【0070】
図5は、本発明に基づく方法を簡単な例で図解している。本発明に基づく装置100の若干の要素のみが示されている。
【0071】
図5から見て取れるように、カテーテル190は患者の頭部180中に導入される。特に、カテーテル190の先端192は挿入され、この先端192に簡単に磁化できる材料を含む(または該材料からなる)磁性要素194、たとえば軟磁性箔が挿入される。特に、磁場の印加による動きおよび既知のMPI原理およびハードウェアによる位置特定(撮像)を可能にする磁性材料が使用される。
【0072】
カテーテル190の押しワイヤは、制御ユニット150の制御のもとでのカテーテルの前方および後方への動きのために、カテーテル動きデバイス160に接続される。インターフェース162を介して、移動コマンドが外部動き制御ユニット170から受領される。外部の動き制御ユニット170は、患者の頭部の事前に取得された画像データを表示するなどするためのディスプレイ172と、カテーテルの動きを計画するための制御コマンドを挿入するためのオペレーター・コントロール174とを有する。
【0073】
実際的な介入では、外科医は、動き制御ユニット170を使って介入を計画することになる。ナビゲーション・プラン、特に移動制御コマンドが、インターフェース162を介してMPI装置100の制御ユニット150に与えられる。次いで、制御ユニット150は、患者の頭部の中でのカテーテル190の動きを与えるよう、カテーテル動きデバイス160およびコイル(図示せず)を制御する。所望される(たとえば規則的な)間隔で、カテーテル190の動きは停止され、その現在位置が取得される。これは、好ましくは磁性要素194が現在位置している可能性のある領域を通じてある軌跡に沿ってFFPを動かすことによりMPIシーケンスを適用し、検出信号を収集し、該検出信号を次いで処理して磁性要素194の現在位置を得ることによって行われる。
【0074】
このように、カテーテル先端192の実際の位置が所望される位置に対応しているかどうかの直接的なフィードバックを得ることができる。それにより、手動でまたは制御ユニット150によって、すぐに訂正を行うことができる。この目的のために、好ましくは、位置特定からの得られた位置データが制御ユニット150にフィードバックされる。および/または、たとえば装置100のディスプレイ156および/またはカテーテル動きユニット170のディスプレイ172を介して警告を発することにより、フィードバックがユーザーに与えられて、ユーザーが現在位置を訂正するための行動をすぐ取れるようにする。
【0075】
本発明は図面および以上の説明において詳細に図示し、記述してきたが、そのような図示および記述は、制約するものではなく、例解または例示するものと考えられるべきである。本発明は開示される実施形態に限定されるものではない。特許請求される発明を実施する当業者によって、図面、本開示および付属の請求項を吟味することから、開示される実施形態に対する他の変形が理解され、実施されることができる。
【0076】
請求項において、「有する」「含む」の語は他の要素やステップを排除するものではなく、単数形の表現は複数を排除するものではない。単一の要素または他のユニットが請求項に記載されるいくつかの項目の機能を充足してもよい。ある種の施策が互いに異なる従属請求項に記載されるというだけの事実がこれらの施策の組み合わせが有利に使用できないことを示すものではない。
【0077】
請求項に参照符号があったとしても、その範囲を限定するものと解釈すべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オブジェクトを通じるカテーテルの動きを制御し、前記オブジェクト内で前記カテーテルを位置特定する装置であって、前記カテーテルはその先端または先端付近に磁性要素を有しており、当該装置は:
・低い磁場強度をもつ第一のサブゾーンおよびより高い磁場強度をもつ第二のサブゾーンが視野内に形成されるよう磁場強度の空間におけるパターンをもつ選択磁場を生成するための、選択場信号発生器ユニットおよび選択場要素、特に選択場磁石もしくはコイルを有する選択手段と、
・磁性物質の磁化がローカルに変化するよう、磁気駆動場によって視野内の前記二つのサブゾーンの空間内の位置を変えるための、駆動場信号発生器ユニットおよび駆動場コイルを有する駆動手段と、
・フォーカス磁場によって視野の空間内の位置を変えるための、フォーカス場信号発生器ユニットおよびフォーカス場コイルを有するフォーカス手段と、
・検出信号を収集するための、少なくとも一つの信号受信ユニットおよび少なくとも一つの受信コイルを有する受信手段であって、前記検出信号は視野内の磁化に依存し、前記磁化は前記第一および第二のサブゾーンの空間内での位置の変化によって影響される、受信手段と、
・前記カテーテルをオブジェクトを通じて、移動コマンドによって指示される方向に動かすためおよび前記オブジェクト内で前記カテーテルを位置特定するための適切な磁場を生成するために、それぞれの場コイルへの制御電流を生成および提供するよう前記諸信号発生器ユニット(110、120、130)を制御する制御手段と、
・前記オブジェクト内で前記カテーテルを位置特定するために適切な磁場が印加されているときに収集された前記検出信号を処理し、処理された検出信号から前記オブジェクト内の前記カテーテルの前記磁性要素の位置を決定する処理手段とを有する、
装置。
【請求項2】
前記制御手段が、移動コマンドによって指示される方向に前記オブジェクトを通じて前記カテーテルを動かすためおよび前記オブジェクト内で前記カテーテルを位置特定するための適切な磁場を交互に生成するよう、それぞれの場コイルへの制御電流を生成し、提供するよう前記諸信号発生器ユニット(110、120、130)を制御するよう適応されている、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記制御手段が、手動またはあらかじめ決定された移動コマンドを、前記諸信号発生器ユニット(110、120、130)を制御するための制御信号に変換するよう適応されている、請求項1記載の装置。
【請求項4】
前記カテーテルの前方向および後ろ方向の動きを与えるカテーテル移動手段をさらに有する、請求項1記載の装置。
【請求項5】
前記制御手段が前記カテーテル移動手段を制御するよう適応されている、請求項4記載の装置。
【請求項6】
前記制御手段が、前記カテーテルの位置特定の際に前記カテーテルに対して前方または後方への動きが加えられないよう、特に前記カテーテルがその位置に保持されるよう、前記カテーテル移動手段を制御するよう適応されている、請求項5記載の装置。
【請求項7】
前記制御手段が、前記カテーテルを前記オブジェクトを通じて移動コマンドによって指示される方向に動かすために実質的に均一な磁場を生成するよう前記フォーカス場コイルおよび/または前記駆動場コイルへの制御電流を生成および与えるよう、前記フォーカス磁場コイル信号発生器ユニットおよび/または前記駆動場発生器ユニットを制御するよう適応されている、請求項1記載の装置。
【請求項8】
前記制御手段が、動きコマンドによって指示される方向に前記オブジェクトを通じて前記カテーテルを動かすための磁場が前記フォーカス場コイルおよび/または前記駆動場コイルによって生成されている間は、前記選択場コイルへの制御電流を生成および提供しないよう前記選択場信号発生器ユニットを制御するよう適応されている、請求項7記載の装置。
【請求項9】
オブジェクトを通じるカテーテルの動きを制御し、前記オブジェクト内で前記カテーテルを位置特定する方法であって、前記カテーテルはその先端または先端付近に磁性要素を有しており、当該方法は:
・低い磁場強度をもつ第一のサブゾーンおよびより高い磁場強度をもつ第二のサブゾーンが視野内に形成されるよう磁場強度の空間におけるパターンをもつ選択磁場を生成する段階と、
・磁性物質の磁化がローカルに変化するよう、磁気駆動場によって視野内での前記二つのサブゾーンの空間内の位置を変える段階と、
・フォーカス磁場によって視野の、空間内での位置を変える段階と、
・検出信号を収集する段階であって、前記検出信号は視野内の磁化に依存し、前記磁化は前記第一および第二のサブゾーンの空間内での位置の変化によって影響される、段階と、
・前記カテーテルを前記オブジェクトを通じて、移動コマンドによって指示される方向に動かすためおよび前記オブジェクト内で前記カテーテルを位置特定するための適切な磁場の生成を制御する段階と、
・前記オブジェクト内で前記カテーテルを位置特定するために適切な磁場が印加されているときに収集された前記検出信号を処理し、処理された検出信号から前記オブジェクト内の前記カテーテルの前記磁性要素の位置を決定する段階とを含む、
方法。
【請求項10】
コンピュータ上で実行されたときに、該コンピュータに、請求項9記載の方法の段階を実行するよう請求項1記載の装置を制御させるプログラム・コード手段を有するコンピュータ・プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−504362(P2013−504362A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528483(P2012−528483)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【国際出願番号】PCT/IB2010/053996
【国際公開番号】WO2011/030276
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】