説明

カテーテル

【課題】薬剤投与対象の腫瘍以外の他の組織に影響を及ぼさずに腫瘍に含まれる繊維性間質を減らして、腫瘍に対する薬剤投与を円滑化できるカテーテルを提供すること。
【解決手段】本発明にかかるカテーテル1は、内部にルーメンを有する細長い形状をなす躯体2と、生体組織を切開する切開部を有し、弾性を持って屈曲可能であり、躯体2に屈曲状態で装着される切開部材4と、躯体2のルーメンに前後に移動可能に挿通され、切開部材4に作用して切開部材4を躯体2から離脱させて切開部材を屈曲状態から回復させる離脱部材3と、を備え、切開部材4は、屈曲状態からの回復動作によって切開部が生体組織を切開する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体組織内に導入されるカテーテルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
膵癌をはじめとする繊維性間質が豊富な固形腫瘍では、この豊富な繊維性間質のために腫瘍内部に血管が十分に発達することができない。このため、静脈から全身の血管を経由して薬剤を送り届ける場合、血管の少ない腫瘍内部には薬剤が行き渡りにくく、抗がん剤の効果を上げることができなかった。
【0003】
ところで最近、この繊維性間質の発達(間質の繊維化)を抑える薬剤を投与して、間質を減らすことによって、減少した繊維性間質部分に血管を新たに発達させて、静脈を介して薬剤を腫瘍内部に行き渡らせ、抗がん剤を効果的に作用させる方法が提案されている(非特許文献1参照)。また、繊維性間質を減少させた部分は生体組織自体の密度も低いため、この繊維性間質を減少させた部分に薬剤を直接投与した場合には、繊維性間質を減少させていない場合と比較して、薬剤の組織内への浸透度合いも高くなることが期待できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Kenneth P. Olive, et al. “Inhibition of Hedgehog Signaling Enhances Delivery of Chemotherapy in a Mouse Model of Pancreatic Cancer”, Science vol.324, 12 June 2009, p1457-1461
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1の方法においては、繊維性間質を減らすために薬剤を全身に投与しているため、薬剤投与対象の腫瘍以外の他の組織に影響を及ぼす場合がある。
【0006】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、薬剤投与対象の腫瘍以外の他の組織に影響を及ぼさずに腫瘍に含まれる繊維性間質を減らして、腫瘍に対する薬剤投与を円滑化できるカテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかるカテーテルは、生体組織内に導入されるカテーテルであって、内部にルーメンを有する細長い形状をなす躯体と、前記生体組織を切開する切開部を有し、弾性を持って屈曲可能であって前記躯体に屈曲状態で装着される切開部材と、前記ルーメンに前後に移動可能に挿通された細長い形状をなす部材で形成され、前記切開部材に作用して前記切開部材を前記躯体から離脱させて前記切開部材を屈曲状態から回復させる離脱部材と、を備え、前記切開部材は、屈曲状態からの回復動作によって前記切開部が前記生体組織を切開することを特徴とする。
【0008】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記発明において、前記切開部材は、線状バネであることを特徴とする。
【0009】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記発明において、前記ルーメンは、先端に開口を有し、前記切開部材は、前記躯体の先端側のルーメンに収容されており、前記離脱部材は、先端を前記開口から突出させて前記切開部材を前記開口から押し出すことにより、前記切開部材を前記躯体から離脱させる押出部材と、前記屈曲状態にある切開部材に係合しており、係合を解除することにより前記切開部材を屈曲状態から回復させる係合部材と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記発明において、前記ルーメンは、先端に開口を有するとともに、前記離脱部材の形状に対応した形状に形成され、前記切開部材は、前記躯体の先端側のルーメンにおいて、回動を規制された屈曲状態で収容され、前記離脱部材は、先端を前記開口から突出させて前記切開部材を前記開口から押し出すことにより、前記切開部材を前記躯体から離脱させることを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記発明において、前記切開部材は、鉗子で把持可能な把持部を有することを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記発明において、前記切開部材は、両端が前記躯体に取り付けられた状態で前記躯体の外側面に装着され、前記離脱部材は、先端面が面取りされた棒状部材であり、前記ルーメンを前進したときに、面取りされた面で前記切開部材の両端を前記躯体外部に押し出すことにより、前記切開部材を前記躯体から離脱させることを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記発明において、前記切開部材は、前記躯体の外部側面に巻回されたコイルバネであることを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかるカテーテルは、生体組織内に導入されて薬剤を吐出するカテーテルであって、内部にルーメンを有する細長い形状をなす躯体と、前記生体組織を切開する切開部を有し、弾性を持って屈曲可能であり、前記躯体に屈曲状態で装着される切開部材と、前記ルーメンに前後に移動可能に挿通された細長い形状をなす部材で形成され、前記切開部材に作用して前記切開部材を前記躯体から離脱させて前記切開部材を屈曲状態から回復させる離脱部材と、を備え、前記切開部材は、屈曲状態からの回復動作によって前記切開部が前記生体組織を切開し、前記切開部材の屈曲状態からの回復動作によって前記切開部により切開される生体組織の部位に薬剤を投与できる位置に薬剤吐出口が形成されていることを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記発明において、前記切開部材は、線状バネであることを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記発明において、前記ルーメンは、先端に開口を有し、前記切開部材は、前記躯体の先端側のルーメンに収容されており、前記離脱部材は、先端を前記開口から突出させて前記切開部材を前記開口から押し出すことにより、前記切開部材を前記躯体から離脱させる押出部材と、前記屈曲状態にある切開部材に係合しており、係合を解除することにより前記切開部材を屈曲状態から回復させる係合部材と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記発明において、前記押出部材は、先端に開口を有するとともに前記係合部材が挿通されるルーメンを有し、前記押出部材のルーメンは、前記係合部材が抜き出された後に薬剤が導入され、前記押出部材のルーメンの先端開口は、前記薬剤吐出口として使用されることを特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記発明において、前記ルーメンは、先端に開口を有し、前記躯体は、前記離脱部材を抜出した後に前記ルーメンに薬剤が導入され、
前記躯体のルーメンの先端開口は、前記薬剤吐出口として使用されることを特徴とする。
【0019】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記発明において、前記ルーメンは、先端に開口を有するとともに、前記離脱部材の形状に対応した形状に形成され、前記切開部材は、前記躯体の先端側のルーメンにおいて、回動を規制された屈曲状態で収容され、前記離脱部材は、先端を前記開口から突出させて前記切開部材を前記開口から押し出すことにより、前記切開部材を前記躯体から離脱させ、前記躯体は、前記離脱部材を抜出した後に前記ルーメンに薬剤が導入され、前記ルーメン先端の開口は、前記薬剤吐出口として使用されることを特徴とする。
【0020】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記発明において、前記切開部材は、鉗子で把持可能な把持部を有することを特徴とする。
【0021】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記発明において、前記薬剤吐出口は、前記躯体の側面に設けられた貫通孔であり、前記切開部材は、両端が前記躯体に取り付けられた状態で、前記薬剤吐出口の設けられた前記躯体の外側面に装着され、前記離脱部材は、先端面が面取りされた棒状部材であり、前記ルーメンを前進したときに、面取りされた面で前記切開部材の両端を前記躯体外部に押出すことにより、前記切開部材を前記躯体から離脱させることを特徴とする。
【0022】
また、この発明にかかるカテーテルは、上記発明において、前記切開部材は、前記薬剤吐出口の設けられた前記躯体の外部側面に巻回されたコイルバネであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
この発明にかかるカテーテルは、躯体内部に屈曲されて装着された切開部材を離脱部材を用いて躯体から離脱させることによって、切開部材を屈曲状態から回復させることで生体組織を切開するため、この切開によって他の組織に影響を及ぼすことなく、薬剤投与対象の腫瘍に含まれる繊維性間質を減らして、腫瘍に対する薬剤投与を円滑化できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、実施の形態1にかかるカテーテルの斜視図である。
【図2】図2は、図1に示すカテーテルを生体組織に導入した状態で該カテーテルの軸に沿って切断した先端部分の横断面図である。
【図3】図3は、図1に示す係合部材の先端形状を説明する図である。
【図4】図4は、図1に示す離脱部材の先端形状を説明する図である。
【図5】図5は、図1に示す切開部材および係合部材の動作を説明する図である。
【図6】図6は、図1に示すカテーテルによる薬剤投与を説明するための横断面図である。
【図7】図7は、実施の形態2にかかるカテーテルの斜視図である。
【図8】図8は、図7に示すカテーテルを生体組織に導入した状態で該カテーテルの軸に沿って切断した先端部分の横断面図である。
【図9】図9は、図7に示すカテーテルを生体組織に導入した状態で該カテーテルの軸に沿って切断した先端部分の縦断面図である。
【図10】図10は、図7に示す埋め込み部材を削除した構成を有するカテーテルを説明する横断面図である。
【図11】図11は、実施の形態2にかかるカテーテルの他の構成を示す横断面図である。
【図12】図12は、図1に示す切開部材の他の例を示す斜視図である。
【図13】図13は、図1に示す切開部材の他の例を示す斜視図である。
【図14】図14は、図1に示す切開部材の他の例を説明するための斜視図である。
【図15】図15は、実施の形態3にかかるカテーテルの斜視図である。
【図16】図16は、図15に示すカテーテルを生体組織に導入した状態で該カテーテルの軸に沿って切断した先端部分の縦断面図である。
【図17】図17は、図15に示すカテーテルによる薬剤投与を説明するための横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、この発明を実施するための形態として、人間を含む哺乳動物の生体組織内に導入されるカテーテルについて説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付している。
【0026】
(実施の形態1)
まず、実施の形態1について説明する。図1は、本実施の形態1にかかるカテーテルの斜視図である。図2は、図1に示すカテーテルを生体組織に導入した状態で該カテーテルの軸に沿って切断した先端部分の断面図である。
【0027】
図1(1)および図1(2)に示すように、本実施の形態1にかかるカテーテル1は、内部にルーメン5を有する細長い管形状をなす躯体2と、躯体2と別体に構成され、躯体2に装着され、生体組織を切開する切開部材4と、躯体2のルーメン5を躯体2の先端2a側(前方)または躯体2の基端2b側(後方)に移動可能に挿通された細長い形状をなす部材であって躯体2に装着された切開部材4を躯体2から離脱させる離脱部材3とを備える。
【0028】
図1(1)および図2(1)に示すように、躯体2のルーメン5は、先端2aに開口を有するとともに、基端2bにも開口を有する。躯体2は、たとえば弾性シリコーン、ポリウレタン、ポリエチレンなどによって形成される。
【0029】
切開部材4は、躯体2の先端2a側のルーメン5に収容される。この状態で、カテーテル1は、生体組織内に導入される。切開部材4は、弾性をもって屈曲可能であり、たとえばチタンなどの弾性のある金属やアセタル樹脂などの高弾性樹脂、シリコンゴム等で形成された線状バネによって形成される。切開部材4は、図2(3)に示すように、たとえば、端部がカールされたカール部9を有する半円の線状バネであって、図2(1)のようにカール部9が交差するまで屈曲された状態で拘束される。切開部材4を構成する線状バネは、径が細く、躯体2内部に収容された状態であるときに、屈曲後の回復動作によって生体組織を切開可能である弾性力を蓄積する。
【0030】
離脱部材3は、押出部材6と、切開部材4と係合する係合部材7とを有し、押出部材6と係合部材7との長さは、躯体2の長さよりも長く、押出部材6と係合部材7とを躯体2のルーメン5内に挿通した場合、押出部材6と係合部材7との基端側端部は、躯体2の基端2b開口から十分な長さを持って突出する。押出部材6と係合部材7とは、たとえば弾性シリコーン、ポリウレタン、ポリエチレンなどによって形成される。
【0031】
図3は、図1に示す係合部材7の先端形状を説明する図である。図3(1)は、図1に示す係合部材7の平面図であり、図3(2)は、図1に示す係合部材7の側面図である。図3に示すように、係合部材7は、鉤状をなす先端を有し、先端の鉤部8に、バネなどの細い径の部材を引っ掛けることができる。
【0032】
図4は、図1に示す離脱部材3の先端形状を説明する図である。図4に示すように、押出部材6は、係合部材7が挿通可能であるルーメン10を有する。そして、押出部材6の先端6aは、上部が半円状に切り欠かれた形状を有する。係合部材7は、押出部材6の切り欠き面6d上を軸方向に沿ってスライド移動できる。
【0033】
係合部材7は、先端が、ルーメン10から突出するまでルーメン10に挿通される。続いて、切開部材4が矢印のように屈曲され、係合部材7の鉤部8に切開部材4の交差したカール部9が引っ掛けられることによって、係合部材7の鉤部8と切開部材4の二つのカール部9とが係合する。
【0034】
次に、図2および図5を参照して、カテーテル1の使用方法を説明する。図5は、図1に示す切開部材4および係合部材7の動作を説明する図である。図5は、カテーテル1を構成する躯体2および押出部材6の図示を省略している。
【0035】
図2(1)および図5(1)に示すように、切開部材4は、屈曲された状態で躯体2の先端2a側のルーメン5に収容されている。切開部材4は、屈曲したままの状態でルーメン5の内壁により拘束されており、自身の弾性力に抗して屈曲した状態が維持される。この状態で、カテーテル1は体内に導入され、カテーテル1先端が薬剤投与目標部位に位置合わせされる。
【0036】
続いて、図2(2)に示すように、操作者が離脱部材3を躯体2に対して相対的に躯体2の先端2a方向に前進させる。離脱部材3の押出部材6と係合部材7とは、このタイミングにおいては、一体となって前進する(矢印Y1)。押出部材6は、前進移動の結果、その先端6aが躯体2の先端開口から突出し(矢印Y2)、ルーメン5に収容されていた切開部材4を躯体2の先端2aの開口から押し出す。
【0037】
押出部材6は、切開部材4を躯体2の先端2aの開口から外部に押し出し、切開部材4を躯体2から離脱させる。このとき、係合部材7と切開部材4とは係合したままであるため、この係合によって、切開部材4の屈曲状態は、躯体2から離脱しても維持されている。
【0038】
図2(3)および図5(2)に示すように、押出部材6はそのままの状態で、係合部材7を押出部材6に対して僅かに前進させる(矢印Y3,Y3a)。この結果、係合部材7が切開部材4に対して前進するため、切開部材4の鉤部8から、交差したカール部9が外れるため、係合部材7と切開部材4との係合が解除される。なお、切開部材4が係合部材7の前進にしたがって前方向にずれないように、押出部材6の切り欠き面6dに切開部材4と係合可能なストッパを設けてもよい。
【0039】
この係合部材7と切開部材4との係合が解除されることによって、切開部材4は、自身の弾性力による復元で、屈曲していた屈曲部13が広がり(矢印Y4)、元の形状に回復する。このとき、切開部材4によって、切開部材4の屈曲部13の回復軌跡上にある生体組織Bが切開され、空間S1ができる。このため、切開部材4の屈曲部13は、生体組織を切開する切開部として機能する。なお、切開部材13の回復動作は、完全に自然な形状に戻る場合を含め、その途中の形状をなす場合も含む。
【0040】
続いて、図2(3)および図5(3)に示すように、係合部材7を押出部材6のルーメン10内に戻すと(矢印Y3,Y3a)、両端が広がった切開部材4と、切開部材4によって切開された生体組織Bが残される。
【0041】
このように、実施の形態1にかかるカテーテル1は、躯体内部に屈曲された切開部材を離脱部材を用いて躯体から離脱させることによって、切開部材を屈曲状態から回復させることで薬剤投与対象の腫瘍の繊維性間質などの生体組織を物理的に切開している。したがって、実施の形態1においては、腫瘍に含まれる繊維性間質を減らすために薬剤を全身に投与せずとも、切開によって薬剤投与対象の腫瘍に含まれる繊維性間質を減らせるため、他の組織に影響を及ぼすことがなく、減少した繊維性間質部分に血管を新たに発達させることができる。
【0042】
さらに、図6(1)に示すように、係合部材7を抜き出した押出部材6のルーメン10に押出部材6の基端6bから薬剤を矢印Y5のように導入して薬剤導路とし、ルーメン10先端の開口11から薬剤Mを矢印Y6のように、切開された生体組織Bの空間S1との境界付近の領域に吐出してもよい。
【0043】
切開部材4の回復動作による切開によって繊維性間質を減少させた部分は、生体組織自体の密度も低いため、この繊維性間質を減少させた部分に薬剤を直接投与した場合には、繊維性間質を減少させていない場合と比較して、薬剤の組織内への浸透度合いも高くなる。このため、図6(1)のように、元の形状に広がった切開部材4によって切開された空間S1付近の生体組織には、薬剤Mが組織内に十分に浸透でき、薬剤投与対象の腫瘍に対して円滑に薬剤を投与できる。
【0044】
あるいは、図6(2)に示すように、押出部材6も躯体2のルーメン5から抜出して、躯体2のルーメン5に矢印Y7のように薬剤Mを導入して、ルーメン5を薬剤導路として使用してもよい。この場合、切開部剤4により切開された空間と、押出部材6の占有していた空間が、生体組織の空間S2として確保される。先端2aのルーメン5の開口12から矢印Y8のように薬剤Mが空間S2付近の領域の生体組織Bに吐出される。この図6(2)に示す場合は、図6(1)に示す場合と比較して、広く薬剤導路が得られる。このように、実施の形態1では、切開部材4の屈曲状態からの回復動作によって屈曲部13により生体組織Bが切開される。この切開された生体組織Bの部位に薬剤Mを投与できる位置に位置する押出部材6の開口11または躯体2の開口12を薬剤吐出口として用いればよい。
【0045】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態2は、カテーテル先端を長手方向に対して斜めに切断して生体組織への穿刺を容易化した構成について説明する。
【0046】
図7は、本実施の形態2にかかるカテーテルの斜視図である。図8は、図7に示すカテーテルを生体組織に導入した状態で該カテーテルの軸に沿って切断した先端部分の横断面図である。図8は、x−y平面に平行な面で図7に示すカテーテルを切断した図である。図9は、図7に示すカテーテルを生体組織に導入した状態で該カテーテルの軸に沿って切断した先端部分の縦断面図である。図9は、y−z平面に平行な面で図7に示すカテーテルを切断した図である。
【0047】
図7〜図9に示すように、実施の形態2にかかるカテーテル21は、内部にルーメン25を有するとともに先端22aが長手方向に対して斜めに切断された躯体22と、躯体22と別体に構成された切開部材4と、躯体22のルーメン25に前後に移動可能に挿通された板状部材であって躯体22に装着された切開部材4を躯体22から離脱させる離脱部材26とを備える。
【0048】
躯体22のルーメン25は、躯体22の先端22aに開口25を有するとともに、離脱部材26の形状に対応した形状に形成されるように内部に埋め込み部材24が設けられる。躯体22の先端22aから見た場合、この開口25は、四角形状をなす。カテーテル21を軸に対する鉛直面で切断した場合、ルーメン25の断面形状は、離脱部材26の形状に対応して、縦の辺よりも横の辺の方が長い横長の四角形となる。このルーメン25の四角形状は、カテーテル21の軸を中心とした回動が規制された状態で切開部材4が挿入できるように設定される。
【0049】
離脱部材26の長さは、躯体22の長さよりも長く、離脱部材26を躯体22のルーメン25内に挿通した場合、離脱部材26の基端側端部26bは、躯体22の基端22b開口から十分な長さを持って突出する。
【0050】
次に、カテーテル21の使用方法を説明する。図7(1)、図8(1)および図9(1)に示すように、切開部材4は、躯体22のルーメン25内の埋め込み部材24の内壁によって、カテーテル21の軸を中心とした回動が規制された状態で、躯体22の先端22a側のルーメン25に収容される。この状態で、カテーテル21は体内に導入され、カテーテル21先端が薬剤投与目標部位に位置合わせされる。
【0051】
続いて、図7(2)、図8(2)および図9(2)に示すように、操作者が離脱部材26を躯体22に対して矢印Y21のように相対的に前進させる。離脱部材26は、前進移動の結果、その先端26aが矢印Y21aのように躯体22の先端22aの開口から突出し、ルーメン25に収容されていた切開部材4を先端22aの開口から矢印Y22のように押し出す。
【0052】
この結果、切開部材4は、躯体22の拘束から開放されて、自身の弾性力により、屈曲していた屈曲部分が広がり矢印Y24のように元の形状に回復する。このとき、切開部材4によって、切開部材4の回復軌跡上にある生体組織Bが切開され、空間S21ができるため、腫瘍に含まれる繊維性間質を減少させることができる。
【0053】
ここで、図10(1)に示すように、埋め込み部材24を設けずに単に躯体122から切開部材4を先端122aから板状の押出部材126でルーメン125から押し出す構成とした場合、躯体122の先端122aの斜面の上辺と下辺の長さの差によって、切開部材4の屈曲部分が開くタイミングが両端で異なってしまう場合がある。この場合には、図10(2)の矢印Y124のように、切開部材4が傾いた状態で躯体122から離脱したり、切開部材4が躯体122前方への進路から反れて切開目的となる生体組織とは異なる方向に移動したりするおそれがある。
【0054】
これに対し、実施の形態2にかかるカテーテル21においては、躯体22のルーメン25は、断面形状が離脱部材26の形状に対応した四角形状として、カテーテル21の軸を中心とした回動を規制した状態で切開部材4を収容および離脱している。このため、実施の形態2によれば、四角形状を有するルーメン25の長辺方向に向かって安定して切開部材4両端を元の形状に回復させることができる。したがって、実施の形態2によれば、切開部材4が傾いた状態で生体組織Bを切開することや、前方とは異なる方向に移動して切開目的とは異なる領域の生体組織を切開することを防止でき、切開目的の生体組織を正確に切開できる。
【0055】
また、実施の形態2にかかるカテーテル21においても、実施の形態1と同様に、離脱部材26を躯体22のルーメン25から抜出した後に、躯体22の基端22bからルーメン25に薬剤Mを導入して、ルーメン25を薬剤導路として使用してもよい。この場合、躯体22の先端22aの開口から薬剤Mが図8(2)に示す空間S21付近の領域の生体組織Bに吐出される。この場合も、実施の形態1と同様に、切開部材4の屈曲状態からの回復動作によって生体組織Bが切開される。この切開された生体組織Bの部位に薬剤Mを投与できる位置に位置する躯体22のルーメン25の開口を薬剤吐出口として用いればよい。
【0056】
なお、実施の形態2においては、単数の切開部材4を躯体22のルーメン25に収容した場合を例に説明したが、これに限らず、図11のカテーテル21Aのように複数の切開部材4を躯体22のルーメンに収容してもよい。この場合には、離脱部材26を前方に押し入れることによって、複数の切開部材4を順次躯体22から離脱させることができるため、複数の切開部材4を用いて生体組織を切開することができる。
【0057】
また、実施の形態1,2における切開部材は、上述した線バネで形成されるものに限らない。たとえば、図12に示すように、複数のブレード35をヒンジ37で結合した切開部材34を使用してもよい。ブレード35は、図12(2)の矢印Y31の方向に広がるように弾性力を有する板バネ36によって、矢印Y32のように互いに外側に開くように付勢されている。ブレード35の外辺35aは、生体組織を切開できるように、鋭利な形状となっている。もちろん、図13の切開部材34Aに示すように、3以上のブレード35を有する構成であってもよい。
【0058】
また、図14(1)の切開部材44のように、鉗子等で把持可能な把持部45を設けてもよい。図6(2)のように、切開部材44を躯体2の先端の開口から押出した後に薬剤を投与するときに、さらに前進した位置に薬剤を投与したいときには、図14(2)に示すように、躯体2のルーメン5に鉗子46を挿入し、開口12から突出させてから、鉗子46で切開部材44の把持部45を把持し、矢印のように鉗子46を前進させることによって、図14(3)のように切開部材44の位置を前方に移動させることができる。この切開部材44を用いた場合には、切開部材44の留置後にも切開部材44の位置を変更でき、たとえば、薬剤投与対象として腫瘍を選択した場合、薬剤により腫瘍におきるネフローゼの進行にしたがって、薬剤投与範囲を事後的に変更することができる。
【0059】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3について説明する。実施の形態3では、切開部材を躯体外部に設けた場合について説明する。
【0060】
図15は、本実施の形態3にかかるカテーテルの斜視図である。図16は、図15に示すカテーテルを生体組織に導入した状態で該カテーテルの軸に沿って切断した先端部分の断面図である。
【0061】
図16(1)に示すように、実施の形態3にかかるカテーテル51は、内部にルーメン55を有するとともに先端52aが長手方向に対して斜めに切断された躯体52と、躯体52と別体に構成されたコイルバネ54と、躯体52のルーメン55に前後に移動可能に挿通され、躯体52に装着されたコイルバネ54を躯体52から離脱させるロッド56とを備える。
【0062】
躯体52は、先端が閉じており、側面に貫通孔53が設けられる。この貫通孔53は、後述するように薬剤吐出口として機能する。また、躯体52は、貫通孔53よりも先端側と基端側にコイルバネ54の両端が取り付けられるコイルバネ用貫通孔58が形成される。
【0063】
コイルバネ54は、切開部材として機能し、躯体52外側面に巻回されて装着されている。コイルバネ54の両方の端部54a,54bは、伸びた状態で、躯体52のコイルバネ用貫通孔58にそれぞれ挿通され、端部54a,54bの各先端は、躯体52のルーメン55に突出している。このときに、コイルバネ54は、縮む動作によって生体組織を切開可能である弾性力を蓄積する。
【0064】
ロッド56の長さは、躯体52の長さよりも長く、ロッド56を躯体52のルーメン55内に基端52bから挿通した場合、ロッド56の基端側端部56bは、躯体52の基端52b開口から十分な長さを持って突出する。ロッド56先端面は、面取りされている。
【0065】
次に、カテーテル51の使用方法を説明する。カテーテル51は、図15(1)および図16(1)のように、伸びた状態のコイルバネ54が躯体52外側面に巻回されて装着されている状態で、体内に導入され、カテーテル51先端が薬剤投与目標部位に位置合わせされる。
【0066】
続いて、図16(1)の矢印Y51のように、操作者がロッド56を躯体52に対して前進させる。ロッド56が躯体52のルーメン55を前進したときに、ロッド56先端の斜面56cも前進し、この斜面56cでコイルバネ54の両方端部54a,54bを矢印Y52(図16(2)参照)のように躯体52外部に押出すことにより、コイルバネ54を躯体52から離脱させる。
【0067】
この結果、コイルバネ54は、図15(2)および図16(2)に示すように、躯体52の巻回から開放されて、自身の弾性力による回復で縮んで径方向に広がり、切開部材4の回復軌跡上にある躯体52の径方向の生体組織Bが切開され、空間S51ができるため、繊維性間質を減少させることができる。
【0068】
このように、実施の形態3にかかるカテーテル51は、カテーテル51階側面に巻回されたコイルバネ54をロッド56によって離脱させることによって、カテーテル51側方の生体組織を物理的に切開することができ、実施の形態1と同様の効果を奏することが可能である。
【0069】
なお、実施の形態3にかかるカテーテル51においても、ロッド56を躯体52のルーメン55から矢印Y53(図16(2)参照)のように抜出して、図17に示すように、躯体52の基52bから矢印Y57のように薬剤Mを導入してルーメン55を薬剤導路として使用してもよい。この場合、躯体52の側面の貫通孔53から矢印Y58のように薬剤Mが空間S51付近の領域の生体組織Bに吐出される。
【符号の説明】
【0070】
1,21,21A,51 カテーテル
2,22,52,122 躯体
3,26 離脱部材
4,34,34A,44 切開部材
5,10,25,55,125 ルーメン
6,126 押出部材
7 係合部材
24 埋め込み部材
35 ブレード
36 板バネ
37 ヒンジ
46 鉗子
54 コイルバネ
53 貫通孔
56 ロッド
58 コイルバネ用貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織内に導入されるカテーテルであって、
内部にルーメンを有する細長い形状をなす躯体と、
前記生体組織を切開する切開部を有し、弾性を持って屈曲可能であって前記躯体に屈曲状態で装着される切開部材と、
前記ルーメンに前後に移動可能に挿通された細長い形状をなす部材で形成され、前記切開部材に作用して前記切開部材を前記躯体から離脱させて前記切開部材を屈曲状態から回復させる離脱部材と、
を備え、
前記切開部材は、屈曲状態からの回復動作によって前記切開部が前記生体組織を切開することを特徴とするカテーテル。
【請求項2】
前記切開部材は、線状バネであることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記ルーメンは、先端に開口を有し、
前記切開部材は、前記躯体の先端側のルーメンに収容されており、
前記離脱部材は、
先端を前記開口から突出させて前記切開部材を前記開口から押し出すことにより、前記切開部材を前記躯体から離脱させる押出部材と、
前記屈曲状態にある切開部材に係合しており、係合を解除することにより前記切開部材を屈曲状態から回復させる係合部材と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項4】
前記ルーメンは、先端に開口を有するとともに、前記離脱部材の形状に対応した形状に形成され、
前記切開部材は、前記躯体の先端側のルーメンにおいて、回動を規制された屈曲状態で収容され、
前記離脱部材は、先端を前記開口から突出させて前記切開部材を前記開口から押し出すことにより、前記切開部材を前記躯体から離脱させることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項5】
前記切開部材は、鉗子で把持可能な把持部を有することを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項6】
前記切開部材は、両端が前記躯体に取り付けられた状態で前記躯体の外側面に装着され、
前記離脱部材は、先端面が面取りされた棒状部材であり、前記ルーメンを前進したときに、面取りされた面で前記切開部材の両端を前記躯体外部に押し出すことにより、前記切開部材を前記躯体から離脱させることを特徴とする請求項1に記載のカテーテル。
【請求項7】
前記切開部材は、前記躯体の外部側面に巻回されたコイルバネであることを特徴とする請求項6に記載のカテーテル。
【請求項8】
生体組織内に導入されて薬剤を吐出するカテーテルであって、
内部にルーメンを有する細長い形状をなす躯体と、
前記生体組織を切開する切開部を有し、弾性を持って屈曲可能であり、前記躯体に屈曲状態で装着される切開部材と、
前記ルーメンに前後に移動可能に挿通された細長い形状をなす部材で形成され、前記切開部材に作用して前記切開部材を前記躯体から離脱させて前記切開部材を屈曲状態から回復させる離脱部材と、
を備え、
前記切開部材は、屈曲状態からの回復動作によって前記切開部が前記生体組織を切開し、
前記切開部材の屈曲状態からの回復動作によって前記切開部により切開される生体組織の部位に薬剤を投与できる位置に薬剤吐出口が形成されていることを特徴とするカテーテル。
【請求項9】
前記切開部材は、線状バネであることを特徴とする請求項8に記載のカテーテル。
【請求項10】
前記ルーメンは、先端に開口を有し、
前記切開部材は、前記躯体の先端側のルーメンに収容されており、
前記離脱部材は、
先端を前記開口から突出させて前記切開部材を前記開口から押し出すことにより、前記切開部材を前記躯体から離脱させる押出部材と、
前記屈曲状態にある切開部材に係合しており、係合を解除することにより前記切開部材を屈曲状態から回復させる係合部材と、
を備えたことを特徴とする請求項8に記載のカテーテル。
【請求項11】
前記押出部材は、先端に開口を有するとともに前記係合部材が挿通されるルーメンを有し、
前記押出部材のルーメンは、前記係合部材が抜き出された後に薬剤が導入され、
前記押出部材のルーメンの先端開口は、前記薬剤吐出口として使用されることを特徴とする請求項10に記載のカテーテル。
【請求項12】
前記ルーメンは、先端に開口を有し、
前記躯体は、前記離脱部材を抜出した後に前記ルーメンに薬剤が導入され、
前記躯体のルーメンの先端開口は、前記薬剤吐出口として使用されることを特徴とする請求項10に記載のカテーテル。
【請求項13】
前記ルーメンは、先端に開口を有するとともに、前記離脱部材の形状に対応した形状に形成され、
前記切開部材は、前記躯体の先端側のルーメンにおいて、回動を規制された屈曲状態で収容され、
前記離脱部材は、先端を前記開口から突出させて前記切開部材を前記開口から押し出すことにより、前記切開部材を前記躯体から離脱させ、
前記躯体は、前記離脱部材を抜出した後に前記ルーメンに薬剤が導入され、
前記ルーメン先端の開口は、前記薬剤吐出口として使用されることを特徴とする請求項8に記載のカテーテル。
【請求項14】
前記切開部材は、鉗子で把持可能な把持部を有することを特徴とする請求項8に記載のカテーテル。
【請求項15】
前記薬剤吐出口は、前記躯体の側面に設けられた貫通孔であり、
前記切開部材は、両端が前記躯体に取り付けられた状態で、前記薬剤吐出口の設けられた前記躯体の外側面に装着され、
前記離脱部材は、先端面が面取りされた棒状部材であり、前記ルーメンを前進したときに、面取りされた面で前記切開部材の両端を前記躯体外部に押出すことにより、前記切開部材を前記躯体から離脱させることを特徴とする請求項8に記載のカテーテル。
【請求項16】
前記切開部材は、前記薬剤吐出口の設けられた前記躯体の外部側面に巻回されたコイルバネであることを特徴とする請求項15に記載のカテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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