説明

カテーテル

【課題】先端部が十分に柔軟でありながら、送液による内圧の上昇によって破損することなく、スリットが押し開かれることにより薬液を投与することができるカテーテルを提供する。
【解決手段】本発明のカテーテルは、外径が長手方向に沿って一定の外径一定部と、外径一定部の先端側に内径及び外径が先端に向かって漸減するテーパー部とを有するカテーテル本体を備える。テーパー部には、その先端まで延在する複数のスリットが設けられ、スリットの基端は、テーパー部における内径の漸減が開始する位置よりもカテーテル本体の先端側に位置する。これにより、カテーテルの先端部の柔軟性を確保することができるとともに、送液によりカテーテルの内圧が上昇しても良好に送液をすることができる。また、スリットの位置を適正化することにより、薬液の拡散を防止し、目的の方向および位置に薬液を投与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来の大きな切開を伴う外科手術に代わり、小さな切開部から経皮的に血管内に挿入したカテーテル等の治療用処置具を用いて病変部を治療する血管内手術が盛んに行われてきている。このような血管内手術においては、カテーテル等のデバイスを複雑に屈曲蛇行・分岐した細い血管内の病変部まで導き、カテーテル等を通じて造影剤、塞栓剤等の薬剤又は塞栓コイル等を患部に導入する。
【0003】
特に、近年のカテーテルは血管内への挿通性などの観点から細径化が進められ、外直径が1mm以下のものが提供されるに至っている。さらに毛細血管への到達性を高めるため、先端部を縮径したカテーテルが開示されている(特許文献1)。
【0004】
しかし、特許文献1のカテーテルには以下の問題点がある。すなわち、先端部の内径を小さくすると送液時にカテーテル内の内圧が上昇するため、先端部は十分な耐圧性を有している必要がある。このため、特許文献1の発明ではカテーテルに金属の補強層を埋設して耐圧性を上げている。一方、カテーテルの先端部は血管壁の損傷を防止するために柔軟であることが求められる。先端部の耐圧性と柔軟性は両立が困難であり、特許文献1の方法では先端部の柔軟性を十分に確保することができない。
【0005】
また、先端部に補強層を埋設すると、先端部の細径化が困難である。このため、毛細血管への到達性には限界がある。このようなカテーテルでは、病変部の位置によっては血管が細く、病変部近傍までカテーテルを導くことができない。
【0006】
このような問題は特許文献2に開示されるカテーテルにより解決される。すなわち、特許文献2の発明は、先端部に補強層を埋設していないため柔軟性に富む。また、スリットを設けることで、内圧の上昇により先端部が押し開かれるため十分な耐圧性を有さずとも破損を免れることができる。さらに、先端部に補強層を埋設していないことから、先端部の細径化も可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−229160号公報
【特許文献2】特開2007−175297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2のカテーテルでは、先端部が開かれるため薬液がカテーテルの側方にも拡散し、目的の方向および位置に薬液を投与することが難しい。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、先端部が十分に柔軟でありながら、送液による内圧の上昇によって破損することなく、スリットが押し開かれることにより薬液を投与することができるカテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、以下の(1)〜(6)の本発明により達成される。
(1)少なくとも1つのルーメンが形成された可撓性を有するカテーテル本体を備えるカテーテルであって、前記カテーテル本体は、外径が長手方向に沿って一定の外径一定部と、前記外径一定部の先端側に設けられ、内径及び外径が先端に向かって漸減するテーパー部とを有し、前記テーパー部には、その先端まで延在する複数のスリットが設けられ、前記スリットの基端は、前記テーパー部における内径の漸減が開始する位置よりも前記カテーテル本体の先端側に位置することを特徴とするカテーテル。
(2)前記複数のスリットは、前記テーパー部の周方向に沿って等角度間隔に配置されている(1)に記載のカテーテル。
(3)前記カテーテル本体は、基端方向に牽引して前記カテーテルの先端部を湾曲させるための操作線であって、その先端が前記外径一定部の先端に固定された操作線を備え、前記操作線の延長線方向に沿った位置に前記複数のスリットのうちの少なくとも1つが配置されている(1)または(2)に記載のカテーテル。
(4)前記複数のスリットは、前記操作線の延長線方向に沿った位置に配置されている第1のスリットと前記操作線の延長線方向と異なる位置に配置されている第2のスリットとを含む(3)に記載のカテーテル。
(5)前記第1のスリットは、前記カテーテル本体の長手方向の長さが前記第2のスリットよりも長い(4)に記載のカテーテル。
(6)前記カテーテル本体は、基端方向に牽引して前記カテーテルの先端部を湾曲させるための操作線であって、その先端が前記外径一定部の先端に固定された操作線を備え、前記操作線の延長線方向に沿った位置に前記複数のスリットのそれぞれが配置されている(1)または(2)に記載のカテーテル。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カテーテルの先端部の外径を先端に向かってテーパー状とし、さらに、スリットを設けることにより、カテーテルの先端部の柔軟性を確保することができるとともに、送液によりカテーテルの内圧が上昇しても良好に送液をすることができる。また、スリットの位置を適正化することにより、薬液の拡散を防止し、目的の方向および位置に薬液を投与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第一実施形態のカテーテルを示す全体図である。
【図2】本発明の第一実施形態のカテーテルの先端部の縦断面図である。
【図3】本発明の第一実施形態のカテーテルのIII−III横断面図である。
【図4】本発明の第二実施形態のカテーテルの先端部の縦断面図である。
【図5】本発明の第三実施形態のカテーテルの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のカテーテルの好適な実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に係るカテーテル1の全体図である。図2は、本発明の第一実施形態のカテーテルの先端部の縦断面図である。図3は、本発明の第一実施形態のカテーテルのIII−III横断面図である。
【0014】
本実施形態のカテーテルは、末梢血管への薬剤の供給に用いられる。特に肝動脈(化学)塞栓療法(TAE、TACE)において、肝動脈への塞栓剤等の薬剤の供給に用いられる。
【0015】
図1に示すように、本実施形態のカテーテル1は、少なくとも1つのルーメンが形成された可撓性を有するカテーテル本体2と、カテーテル本体2の基端側に設けられた操作部3とを備えている。
【0016】
図2はカテーテル本体2の先端部の縦断面図である。カテーテル本体2は、内部にメインルーメン25を有する内層23と、内層23の外側に被覆される外層24を有する。そして、カテーテル本体2は、外径が長手方向に沿って一定の外径一定部21と、外径一定部21の先端側に設けられ、内径及び外径が先端に向かって漸減するテーパー部22とを備える。
【0017】
内層23としては、可撓性を有するものであればいかなる材料を用いることもできる。本実施形態では、内層23は熱可塑性樹脂により構成されている。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、シリコーン、ポリウレタン(PU)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)などのフッ素系樹脂、熱可塑性エラストマー、などが挙げられる。
【0018】
特に内層23として、フッ素系樹脂を用いることにより、カテーテル1のメインルーメン25にガイドワイヤを挿通する際の摺動性が良好となるため好ましい。
【0019】
外層24としては、可撓性を有するものであればいかなる材料を用いることもできる。本実施形態では、外層24は熱可塑性樹脂により構成されている。熱可塑性樹脂の具体例としては、前述した内層23と同様の材料が挙げられる。特に外層24として、ポリアミドやポリイミドを用いることにより、カテーテル1の柔軟性が向上するため好ましい。
【0020】
さらに、外層24の外表面は、親水性材料によりコーティングされていてもよい(図示せず)。親水性材料としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0021】
カテーテル本体2の代表的な寸法について説明する。カテーテル本体2は、全長120〜150cm程度、最外径を750〜1000μm程度とすることが好ましい。また、メインルーメン25の半径は250〜300μm程度、内層23の厚さは10〜20μm程度、外層24の厚さは100〜150μm程度とすることが好ましい。
すなわち、本実施形態のカテーテル1の外径は直径1mm未満とするのが好ましく、腹腔動脈などの血管に挿通可能である。
【0022】
外径一定部21は、長手方向の全長にわたり外径がほぼ一定の領域である。ここで、ほぼ一定とは、外径の平均寸法に対する上下限値がそれぞれ5%以内の寸法にあることをいう。このようにすることで、カテーテル1を血管内に挿入する際の挿入性が特に良好となる。
【0023】
図2および図3に示すように、外径一定部21は、内部にメインルーメン25を有する内層23と、内層23の外側に被覆される外層24を有する。外層24には、その外径一定部21の先端部から基端部にわたって一対のサブルーメン7a、7bが形成されている。サブルーメン7aと7bは、カテーテル本体2の軸100を挟んで平行に形成されている。すなわち、一対のサブルーメン7aと7bは180度間隔で配置されている。そして、サブルーメン7a、7bの内部にはそれぞれカテーテル本体2のテーパー部22の向きを変える操作をするための操作線6a、6bが挿通されている。また、外層24の先端部には後に説明するリング状のマーカー4が埋設されており、操作線6a、6bの先端がマーカー4に固定されている。
【0024】
なお、操作線の配置はこれに限られず、例えば、3個以上のサブルーメンを形成してもよい。3個以上のサブルーメンを設け、それぞれに操作線を挿通した場合、3本以上の操作線を操作することにより、目的方向に微細な角度で先端部を屈曲させることが可能となる。任意の1本または2本以上の操作線を選択して牽引することにより、当該操作線の方向、または当該2本以上の操作線の中間方向にカテーテルを屈曲させることができる。
【0025】
また、サブルーメンを周方向に均等配置すると、カテーテル本体2の周方向の強度が均一となる。これにより、カテーテル1のねじれや跳ねが抑制され、トルク伝達性に優れるため好ましい。
【0026】
また、サブルーメンは外層に直接形成する場合に限られず、例えば、外層にチューブ(図示せず)を埋設し、そのチューブの内腔に操作線を挿通してもよい。この場合、チューブの内腔がサブルーメンとなる。このようなチューブの構成材料の具体例としては、前述した内層と同様の材料が挙げられる。特に、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)などのフッ素系樹脂など用いた場合には、操作線の摺動性が良好となるため好ましい。
【0027】
操作線6a、6bは、図2、図3に示すようにサブルーメン7a、7bの内部に挿通されている。操作線6a、6bの先端は、それぞれ外径一定部21の先端部に固定されている。これにより、後に説明する操作部3の操作により操作線6a、6bの基端部を牽引することで、カテーテル1の先端部を屈曲させることができる。これによりカテーテル1の進行方向を自在に選択することができ、血管の分岐点においても所望の方向にカテーテル1を進入させることが可能である。
【0028】
本実施形態では、操作線6a、6bの先端はマーカー4に固定されている。なお、操作線はマーカーに固定する場合に限られず、例えば、外層の樹脂内に固定してもよい。
【0029】
操作線6a、6bの構成材料としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、PIもしくはPTFE、PVDF、高密度ポリエチレン(HDPE)またはポリエステルなどの高分子材料、または、SUS、耐腐食性被覆した鋼鉄線、チタンもしくはチタン合金などの金属線などが挙げられる。
【0030】
ここで、外径一定部21の寸法としては、例えば、全長が115〜145cm程度、軸100からサブルーメン7a、7bの中心までの長さは350〜450μm程度、サブルーメン7a、7bの内径は50〜100μm程度とし、操作線6a、6bの太さを20〜60μm程度とすることが好ましい。
【0031】
マーカー4は、例えば、X線等の放射線が透過不能な材料により構成されている。具体的には、マーカー4には白金などの金属材料を用いることができる。
【0032】
前述する操作線6a、6bは操作部3により操作される。操作部3は、カテーテル1の長手方向に延びる軸部31と、軸部31に対してカテーテル1の長手方向にそれぞれ進退するスライダ32a、32bと、軸部31を軸回転するハンドル部33と、カテーテル本体2が回転可能に挿通された把持部34とを備えている。また、カテーテル本体2の基端部は軸部31に固定されている。また、ハンドル部33と軸部31とは一体に構成されている。
【0033】
操作線6aの基端は、カテーテル本体2の基端部から突出し、操作部3のスライダ32aに接続されている。同様に、操作線6bの基端は、カテーテル本体2の基端部から突出し、操作部3のスライダ32bに接続されている。また、スライダ32aと32bはそれぞれ独立して動作する。スライダ32aを基端方向に移動すると、操作線6aが基端方向に牽引され、カテーテル1の先端部が図1および図2の上方向に屈曲する。また、スライダ32bを基端方向に移動すると、操作線6bが牽引され、カテーテル1の先端部が図1および図2の下方向に屈曲する。
【0034】
また、把持部34を持ってハンドル部33を軸回転させることで、操作線6a、6bを含むカテーテル本体2全体が軸部31とともに回転する。
【0035】
図2に示すように、テーパー部22は、カテーテル本体2の先端部に設けられている。そして、テーパー部22は、内層23と、内層23の外側に被覆される外層24を有する。テーパー部22の外層24および内層23はそれぞれ外径一定部21の外層24および内層23と連続して形成される。
【0036】
テーパー部22は内部にテーパー部内ルーメン221を有する。テーパー部内ルーメン221は、外径一定部21内に形成されているメインルーメン25と連続している。そして、テーパー部内ルーメン221の基端の直径はメインルーメン25の先端の直径と等しい。また、テーパー部内ルーメン221の直径は先端に向かって漸減している。したがって、テーパー部内ルーメン221の軸方向断面は、円錐台形状をなしている。なお、テーパー部内ルーメン221の先端は図2では開放しているが、閉塞していてもよい。
【0037】
さらに、テーパー部22は、外径が先端に向かって漸減している。ここで、カテーテル本体2の軸100とテーパー部22の内面とのなす角をα、カテーテル本体2の軸100とテーパー部22の外面とのなす角をβとする(ただし、αおよびβはそれぞれ90度未満とする。)。このとき、αとβの大小関係はいかなるものでもよいが、好ましくはα≦β、さらに好ましくはα<βであるとよい。α<βの場合には、テーパー部22の肉厚が先端部に向かって漸減するため、テーパー部22は先端に向かって徐々に柔軟になる。したがって、後に説明するように、供給した薬剤等の圧力によって、カテーテル1の先端部がより押し開かれやすくなる。
なお、αおよびβはテーパー部22の全長にわたってそれぞれ一定でもよいし、その角度が途中で変化するものであってもよい。
【0038】
図3に示すように、テーパー部22には、4つのスリット5a〜5dが形成されている。スリット5a〜5dは、テーパー部22の周方向に沿って等角度間隔に配置されている。また、スリット5a〜5dは、その先端がテーパー部22の先端まで到達している。これにより、テーパー部22の先端部は4片に分割可能であり、テーパー部内ルーメン221内の液体の圧力が増したときに、カテーテル1の先端が開くことができる。
【0039】
また、スリット5a〜5dの基端はテーパー部22の全長にわたっては形成されておらず、テーパー部22の途中まで形成されている。すなわち、スリット5a〜5dは、その基端がテーパー部22において内径の漸減が開始する位置よりも、テーパー部22の先端側に位置している。このようにすることで、カテーテル1に薬剤等の液体を供給したときに、先端部において液体の内圧によりスリット5a〜5dが押し開かれるが、その開き具合が過度になることはない。したがって、液体がスリット5a〜5dから漏れすぎることがなく、ある程度の広がりを許容しつつ指向性良く液体を供給することができる。
【0040】
カテーテルに薬剤等の液体を供給すると、先端部では液体の内圧によりスリットが押し開かれる。カテーテルの先端は送液によってのみ押し開かれ、屈曲操作等によってはほとんど開かれないことが好ましい。屈曲操作によりカテーテルの先端が開くと、血管の分岐点等においてカテーテル先端を屈曲させた状態でカテーテルを挿入したときに、カテーテルの先端が血管壁にひっかかるおそれがあるが、本発明においてはこのようなことが回避できる。また、カテーテルの先端が送液前から開いていると、液体がスリットから漏れてしまい、カテーテル先端を十分に開くことができないおそれがあるが、本発明においてはこのようなことが回避できる。
このような効果を発揮するための構成として以下、具体的に説明する。
【0041】
スリット5a〜5dは、図3に示すように、操作線の延長線方向に沿った位置に配置されている2本の第一のスリット5a、5bと、操作線の延長線方向とは異なる位置に配置されている2本の第二のスリット5c、5dからなる。
なお、スリットの本数は4本に限られないが、少ないとカテーテルの先端が開きにくく、多いとカテーテルの先端部の強度が不足する。したがって、好ましくは3〜6本程度であるとよい。
【0042】
さらに、図2に示すように、第1のスリット5a、5bは、第2のスリット5c、5dよりも長く形成されている。このような構成とすることで、操作線6a、6bの先端の固定部と第2のスリット5c、5dの基端が十分に離間することとなる。この結果、操作線6a、6bを牽引したときにカテーテル1が屈曲する部位と、第2のスリット5c、5dが十分に離間するため、操作線6a、6bの牽引による第2のスリット5c、5dの開きを小さくすることができる。
【0043】
操作線6a、6bを牽引したときに、第一のスリット5a、5bにはその長手方向とほぼ同方向に牽引力が働く。したがって、第一のスリット5a、5bを開かせる力はほとんど働かず、第一のスリット5a、5bは開きにくい。
【0044】
一方、第二のスリット5c、5dは、操作線6a、6bの牽引により、その長手方向と異なる方向に牽引力が働く。したがって、第二のスリット5c、5dを開かせる力が働くため、第二のスリット5c、5dは第一のスリット5a、5bと比べて開きやすい。しかしながら前述した構成とすることで第二のスリット5c、5dが開きにくくなる。すなわち、第二のスリット5c、5dの基端を操作線6a、6bの固定部から離間しているので、第二のスリット5c、5dにかかる力の伝達を低減でき、また、第二のスリット5c、5dは第一のスリット5a、5dよりも短く形成されているため、開きにくい。したがって、第二のスリット5c、5dは操作線6a、6bの牽引による開きを最小限に抑えることができる。このため、操作線6a、6bを牽引しカテーテル1の先端部に引張力を加えたとしても、スリット5a〜5dの開きが小さい状態で先端部を屈曲させることができる。
【0045】
上記の構成についてより具体的に説明する。テーパー部22の長さをL、第一のスリット5a、5bの基端からテーパー部22の基端までの長さをL1、第二のスリット5c、5dの基端からテーパー部22の基端までの長さをL2とする。このとき、Lの長さは、例えば、4〜8mm程度であることが好ましい。また、L1の長さは、例えば、1〜3mm程度であることが好ましい。さらに、L2の長さは、例えば、2〜4mm程度であることが好ましい。各長さが上記の範囲であれば、操作線6a、6bの牽引によってテーパー部22を目的の方向に容易に向けることができる。また、操作線6a、6bの牽引によりテーパー部22の方向を変えたときのスリット5a〜5dの開きをより小さくすることができる。
【0046】
次に、カテーテル1の使用例について説明する。術者はカテーテル1を、例えば、大腿部から大腿動脈内に導入する。その後、X線造影下で、複雑に屈曲・分岐した血管内を適宜選択して、例えば肝臓の目的部位へと到達する。この際、術者はカテーテル1の先端のテーパー部22の向きを手元の操作部3で操作し、血管の分岐部を選択して、カテーテル1の先端を容易に目的部位へと到達させる。
【0047】
スライダ32aを基端方向に牽引すると、操作線6aが基端方向に移動する。そして、操作線6aが基端方向に移動することで操作線6aを固定したマーカー4を介してカテーテル1の先端が牽引される。これによりカテーテル1の先端部は図1の上方向に屈曲する。また、スライダ32bを基端方向に牽引すると、操作線6bが基端方向に移動する。そして、操作線6bが基端方向に移動することで操作線6bを固定したマーカー4を介してカテーテル1の先端が牽引される。これによりカテーテル1の先端部は図1の下方向に屈曲する。さらに、把持部34を持ってハンドル部22を回転させることで、カテーテル1が回転する。術者はこれらの屈曲と回転との組み合わせによりカテーテル1の先端を目的部位へと導く。
【0048】
また、上述したようにカテーテル1では、スリット5a〜5dの長さを最適化しているので、操作線6a、6bを牽引したときのスリット5a〜5dの開きが小さい。このため、カテーテル1の先端部がめくれて血管壁に当たるといったことが防止され、容易かつ安全に血管内に挿入できる。
【0049】
カテーテル1の先端部が目的部位に到達した後、カテーテル1のメインルーメン25を介して目的部位に薬液を供給する。薬液の供給によりテーパー部内ルーメン221内の内圧が上昇し、スリット5a〜5dが押し開かれて薬液が放出される。このとき、テーパー部22は内径が漸減しているため、薬液等の液流は、テーパー部22においてカテーテル1の軸100方向に収束するように流れる。そして液流の収束によるテーパー部内ルーメン221内の内圧とカテーテル1の先端のスリット5a〜5dが閉じた状態との均衡が破れると、スリット5a〜5dが押し開かれる。
【0050】
カテーテル1の先端部が真っ直ぐの状態、すなわち操作線6a、6bを牽引していない状態で薬液を供給する場合、液流が収束しその直径が絞られているため、スリット5a〜5dの開きによっても薬液がスリット5a〜5dからはあまり漏れず、指向性の良い液流が保たれる。
【0051】
また、カテーテル1の先端部が屈曲した状態、すなわち操作線6a、6bを牽引した状態で薬液を供給する場合、前述のように第二スリット5c、5dの長さを第一スリット5a、5bよりも短くしたことにより屈曲させたのみではスリット5a〜5dはほとんど開かない。したがって、カテーテル1の先端部が真っ直ぐの状態と同様に薬液の液流を収束させた上でスリット5a〜5dを開くことができ、指向性の良い液流が保たれる。
【0052】
次に、本発明の第二実施形態について説明する。
以下では、第二実施形態について説明するが、第一実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
【0053】
図4は、第二実施形態に係るカテーテル本体2の先端部の縦断面図である。
第二実施形態では、テーパー部22が内層23を有しない以外は第一実施形態と同様である。
【0054】
このような構造とすることで、外径一定部21は柔軟な外層24とガイドワイヤとの摺動性が良好な内層23を組み合わせることができる一方、特に柔軟性が要求されるテーパー部22は柔軟な外層24のみで構成することができる。これによりカテーテル1の挿入時にカテーテル1の先端が血管壁に当たるときでも血管壁に対してより安全に挿入することができる。
【0055】
次に、本発明の第三実施形態について説明する。
以下では、第三実施形態について説明するが、第一実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
【0056】
図5は、第三実施形態に係るカテーテル本体2の横断面図であり、第一実施形態の図3に相当する部分である。第三実施形態では、外層24に4つのサブルーメン7a〜7dが形成され、それぞれに操作線6a〜6dが挿通されている以外は第一実施形態と同様である。
【0057】
図5に示すように、4つのサブルーメン7a〜7dはカテーテル本体2の円周方向に沿って等角度間隔(90度間隔)に配置されている。そして、4つのサブルーメン7a〜7dのそれぞれに操作線6a〜6dが挿通されている。操作線6a〜6dのいずれか1本を基端方向に牽引することでテーパー部22を4方向に屈曲することができる。
【0058】
テーパー部22には、4つのスリット5a〜5dが設けられている。これらのスリット5a〜5dはそれぞれ操作線6a〜6dの延長線方向に沿った位置に設けられている。したがって、スリット5a〜5dもテーパー部22の周方向に等角度間隔(90度間隔)で配置されている。
【0059】
スリット5a〜5dは、前記第一実施形態、第二実施形態と同様に、その基端がテーパー部22の途中まで形成されている。そして、4つのスリット5a〜5dはそれぞれの長さがほぼ等しくなっている。
【0060】
このような構成とすることで、4本の操作線6a〜6dの選択によりカテーテル1の先端をより目的の方向に屈曲させやすくなる。また、スリット5a〜5dはすべて操作線6a〜6dの延長線方向にあるため、第一実施形態における第一スリットと同様に操作線6a〜6dの牽引によってはスリット5a〜5dはほとんど開かず、指向性の良い薬液供給ができる。
【0061】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
【符号の説明】
【0062】
1 カテーテル
2 カテーテル本体
21 外径一定部
22 テーパー部
221 テーパー部内ルーメン
23 内層
24 外層
25 メインルーメン
3 操作部
31 軸部
32a、32b スライダ
33 ハンドル部
34 把持部
4 マーカー
5a、5b 第1のスリット
5c、5d 第2のスリット
6a、6b、6c、6d 操作線
7a、7b、7c、7d サブルーメン
100 軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのルーメンが形成された可撓性を有するカテーテル本体を備えるカテーテルであって、
前記カテーテル本体は、外径が長手方向に沿って一定の外径一定部と、前記外径一定部の先端側に設けられ、内径及び外径が先端に向かって漸減するテーパー部とを有し、
前記テーパー部には、その先端まで延在する複数のスリットが設けられ、
前記スリットの基端は、前記テーパー部における内径の漸減が開始する位置よりも前記カテーテル本体の先端側に位置することを特徴とするカテーテル。
【請求項2】
前記複数のスリットは、前記テーパー部の周方向に沿って等角度間隔に配置されている請求項1に記載のカテーテル。
【請求項3】
前記カテーテル本体は、基端方向に牽引して前記カテーテルの先端部を湾曲させるための操作線であって、その先端が前記外径一定部の先端に固定された操作線を備え、
前記操作線の延長線方向に沿った位置に前記複数のスリットのうちの少なくとも1つが配置されている請求項1または2に記載のカテーテル。
【請求項4】
前記複数のスリットは、前記操作線の延長線方向に沿った位置に配置されている第1のスリットと前記操作線の延長線方向と異なる位置に配置されている第2のスリットとを含む請求項3に記載のカテーテル。
【請求項5】
前記第1のスリットは、前記カテーテル本体の長手方向の長さが前記第2のスリットよりも長い請求項4に記載のカテーテル。
【請求項6】
前記カテーテル本体は、基端方向に牽引して前記カテーテルの先端部を湾曲させるための操作線であって、その先端が前記外径一定部の先端に固定された操作線を備え、
前記操作線の延長線方向に沿った位置に前記複数のスリットのそれぞれが配置されている請求項1または2に記載のカテーテル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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