説明

カニューレスタビライザ

カニューレ(68)を脈管構造に安定させるための器具及び方法に関する。スタビライザ(66)は、カニューレ(68)の周囲を包囲するリング(78)を含む。3つ以上の支柱(80)は、リング(78)から遠位に延在するとともに、カニューレ(68)の長手方向の中心軸に平行な第一の軸に対して第一の角度だけ外側に撓められている。支柱(80)それぞれは接触パッド(82)を含み、この接触パッド(82)は支柱(80)から半径方向に延在するとともに、第一の軸に直角な第二の軸に対して第二の角度だけ遠位に撓められている。3つ以上のアーム(84)がリング(78)から近位に延在し、アーム(84)それぞれは支柱(80)のうちの1つに対向している。アーム(84)は第一の軸に対して第三の角度だけ内側に撓められている。スタビライザ(66)は、接触パッド(82)が脈管構造(67)に係合して、アーム(84)を係合させてカニューレ(68)に対するスタビライザ(66)のさらなる移動に抵抗させるまで、カニューレ(68)に対して移動するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2009年11月13日に出願された(係属中)米国特許仮出願第61/261029号の優先権を主張し、その開示が参照により本明細書に組み入れられている。
【0002】
本発明は一般に、脈管網への流体接続を保持する装置及び方法に関する。より具体的には、本発明は、カニューレを患者の脈管構造に安定させる装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
人間の心臓は、脈管網全体を通じて血液を圧送することに関与する筋肉である。静脈は、心臓に向かって血液を運ぶ脈管であり、一方、動脈は心臓から血液を運び出す。人間の心臓は、2つの心房チャンバと2つの心室チャンバとからなる。心房チャンバは血液を身体から収容し、より大きな筋肉壁を含む心室チャンバは血液を心臓から圧送する。隔壁は、心臓の左側と右側とを離隔している。血液の移動は以下の通りである。血液は上大静脈又は下大静脈のいずれかから右心房に入り、右心室内に移動する。右心室から、血液は肺動脈を介して肺に圧送され、酸素を付加された状態になる。血液は、酸素を付加されるとすぐに、肺静脈を介して左心房に入ることにより心臓に、そして左心室内に戻る。最終的に、血液は左心室から大動脈及び脈管網内に圧送される。
【0004】
様々な装置及び方法が、心臓の血液循環を支援するために、とりわけ鬱血性心不全(通常は心臓疾患と称される)を有する患者用に利用されてきており、鬱血性心不全は、身体全体にわたって血液を満たすか又は身体全体を通じて血液を圧送する心臓の能力を損なう任意の構造的又は機能的な心疾患を結果的にもたらす病気である。これら装置は、通常、皮下のポンプポケット内に存在することができるポンプと、このポンプを脈管網に流体連結するカニューレとを含んでいる。あるカニューレは、酸素を付加された血液を心臓のチャンバからポンプに運ぶために用いることができ、別のカニューレは、その血液をポンプから動脈網に導くために用いることができる。
【0005】
カニューレの遠位端が脈管構造に対して安定していることは必須であり、即ち、遠位端の先端は、脈管構造の壁部に対して略直角である姿勢から外れて傾くべきではない。カニューレの遠位端の傾きは、脈管構造の組織に局所的な応力をもたらし、場合によっては先端における流れの閉塞をもたらす場合がある。カニューレを包囲する組織を同調(synch)させるために用いられる縫合は、カニューレの挿入位置における止血を作り出し、且つカニューレの先端の移動を防ぐために幾分効果的であるが、縫合は単独では、直角な姿勢からの先端の移動を防止することはない。脈管構造に対するカニューレ、とりわけ先端のより良好な安定を、カニューレをより垂直な姿勢に保持することによって提供する必要性が、引き続き存在している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の例示的な一実施形態においては、カニューレを脈管構造に安定させるための器具、即ちスタビライザが記載されている。スタビライザは、カニューレの周囲を包囲するリングを含んでいる。3つ以上の支柱がリングから遠位に延在しており、これら3つ以上の支柱それぞれは、カニューレの長手方向の中心軸に平行な第一の軸に対して第一の角度だけ外側に撓められている。支柱それぞれは接触パッドを含み、この接触パッドは、支柱から半径方向に延在するとともに、第一の軸に直角な第二の軸に対して第二の角度だけ遠位に撓められている。3つ以上のアームが、リングから近位に延在し、これらアームそれぞれは支柱のうちの一つに対向している。アームは、第一の軸に対して第三の角度だけ内側に撓められている。スタビライザは、接触パッドが脈管構造の壁部に係合するまでカニューレに対して移動し、アームを係合させてカニューレに対するスタビライザのさらなる移動に抵抗するように構成されている。
【0007】
別の例示的な実施形態においては、スタビライザによってカニューレを脈管構造に固定する方法が記載されている。スタビライザは、カニューレの長さに亘って、脈管構造の壁部へ前進する。この前進は、接触パッドが壁部に係合するまで継続し、その結果、3つ以上のアームをカニューレに係合させてスタビライザのさらなる移動に抵抗する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ポンプから動脈へ導かれるとともにスタビライザによって固定されている流出カニューレを有する循環補助システムの、部分断面図として図示されている線図である。
【図1A】ポンプから左心房に導かれているとともにスタビライザによって左心房の壁部に固定されている流入カニューレを有する心臓の拡大図である。
【図2】遠位先端とスタビライザとを有するカニューレの分解図である。
【図3】スタビライザの斜視図である。
【図4A】破線で示されている静止姿勢、及び実線で示されている撓められた姿勢にあるスタビライザを示す側面図である。
【図4B】破線で示されている静止姿勢、及び実線で示されている撓められた姿勢にあるスタビライザを示す側面図である。
【図5A】カニューレを脈管構造の壁部内に導き、カニューレを巾着縫合によって固定し、及びカニューレの姿勢をスタビライザによって安定させるための、例示的な手順の連続したステップを図示している断面側面図である。
【図5B】カニューレを脈管構造の壁部内に導き、カニューレを巾着縫合によって固定し、及びカニューレの姿勢をスタビライザによって安定させるための、例示的な手順の連続したステップを図示している断面側面図である。
【図5C】カニューレを脈管構造の壁部内に導き、カニューレを巾着縫合によって固定し、及びカニューレの姿勢をスタビライザによって安定させるための、例示的な手順の連続したステップを図示している断面側面図である。
【図6】カニューレの姿勢を、曲がった外壁表面を有する脈管構造に固定するためのスタビライザの別の実施形態を図示する断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、埋め込まれた循環補助システム10を図示している。例示を目的として、所定の生体構造が、右心房16、左心房18、右心室20、及び左心室22を有する、患者14の心臓12を含んで図示されている。左鎖骨下静脈24及び右鎖骨下静脈26、並びに左頸静脈28及び右頸静脈30からの血液は、右心房16に上大静脈32を通じて入り、一方で身体の下部部位からの血液は、右心房16に下大静脈34を通じて入る。血液は、右心房16から右心室20へ、そして肺(図示されていない)へ圧送されて、酸素を付加される。肺から戻った血液は肺静脈35から心臓12の左心房18に入り、次いで左心室22内に圧送される。左心室22を出た血液は大動脈36に入り、左鎖骨下動脈38と、左総頸動脈40と、右鎖骨下動脈44及び右総頸動脈46への腕頭動脈42とに流入する。
【0010】
埋め込まれた循環補助システム10に関しては、可撓性を有するカニューレ本体48の遠位端47は、左心房18内に外科的に埋め込まれているとともに、埋め込み可能なポンプ52の流入口50に延出している。流出カニューレ56が、埋め込み可能なポンプ52の排出口58を、ここでは大動脈36として示されている適切な動脈に接続する。医師は埋め込み可能なポンプ52を、外科アクセスサイトの近くに位置付けられたポンプポケット60内に、皮下に、任意には筋肉下に配置することができるか、又はポンプ52を外部に保持することができる。
【0011】
ケーブル62は、ポンプ52から腹部の所定の位置に経皮的に延出することが可能であり、この位置でケーブル62は患者14から出て、電源64に接続している。電源64は、任意の普遍的なタイプの電源とすることができ、普遍的なタイプの電源は動力をポンプ52にケーブル62を介して送る。例えば、電源64は再充電可能なバッテリを含むことができる。
【0012】
図1は、流出カニューレ56を大動脈36に固定するために用いられているスタビライザ66を図示している。図1Aは、左心房18の外壁67に流入カニューレ48を有するスタビライザ66の使用を図示している。スタビライザ66の、ただ2つの例示的な使用が具体的に図示されているが、このスタビライザ66は、十分な外表面面積を有するほとんどすべての脈管構造にカニューレを安定させるために使用可能であることが理解される。
【0013】
図2は、汎用のカニューレ68に対してスタビライザ66の詳細を図示している。カニューレ68は、押出成形された脂肪族ポリカーボネートベースポリウレタン、脂肪族ポリエーテルポリウレタン、芳香族ポリエーテルポリウレタン、芳香族ポリカーボネートベースポリウレタン、シリコーン修飾されたポリウレタン又はシリコーンから構成されたカニューレ装置のような、任意の適切なカニューレ装置とすることができる。抗菌性因子を、成形プロセスの前にカニューレ材料内に埋め込み、これによりバイオフィルムの存在を効果的に減少させるか又は取り除き、感染症の可能性を減少させることができる。あるいは、抗菌性因子は、モールド成型プロセスが完了した後にカニューレ材料の表面に適用することができる。
【0014】
カニューレ68の近位端(図示されていない)はハブ(図示されていない)を含むことができ、このハブは、カニューレ68を埋め込み可能なポンプ52(図1)又は別の補助装置に連結することに役立つ。カニューレ68の遠位端47は、先端70を含むことができる。一実施形態においては、先端70の本体72を、外科グレードのシリコーン又は任意の別の適切な生体適合性材料のような、柔軟及び/又は弾力性を有する材料から構成することができる。本体72の遠位端74は、流体抵抗を減少させるように形成することができる。先端70は、接着剤、エポキシ又は溶着によってカニューレ68に貼り付けることができる。
【0015】
先端70はアンカー76をさらに含み、このアンカー76は脈管構造の内壁表面に接触するように動作可能である。図示された実施形態においては、アンカー76は、米国特許出願第60/982322号明細書に教示されたアンカーのように、円盤状の構成を有するとともに、本体72との一体構造を有し、米国特許出願第60/982322号明細書の開示は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれている。アンカー76のための別の構成は既知であるとともに、米国特許出願第60/823971号において説明されている構成のように、本体72に貼り付けることができ、米国特許出願第60/823971号の開示は、その全体が参照によって本明細書に同様に組み込まれている。
【0016】
通常、スタビライザ66は、リング78と、このリング78から近位に延在する3つ以上の支柱80であって、これら支柱80それぞれが、これら支柱80から放射状に延在している遠位方向に配置された1つの接触パッド82を有している支柱80と、リング78から近位方向に延在する3つ以上のアーム84であって、それぞれが3つ以上の支柱80のうちの1つに直接的に対向しているアーム84とを含んでいる。スタビライザ66は、約0.10mm(0.004インチ)〜約0.36mm(0.014インチ)の厚さを有する、ニッケルチタンのような超弾性材料のシートから構成することができる。構造パターンはまず、レーザー又はケミカル/フォトエッチングプロセスを用いて、シートから切り取られる。このパターンは次いで二次的な曲げプロセスにかけられて、スタビライザ66の形状を形成する。いったん適切に形作られると、スタビライザ66は次いで電解研磨されてあらゆる鋭利なエッジを取り除かれ、鏡面仕上げとすることができる望ましい仕上がりに研磨される。
【0017】
本明細書に示されている特定の例示的な複数の実施形態は、その全てが6つの支柱80と6つのアーム84とを含んでいるが、支柱80及びアーム84の数は変更することができ、製造方法と入手可能な材料の量とによってのみ限定されることが理解される。リング78は、カニューレ68の外径を収容し、且つカニューレ68に対して自由に動くために十分な内径を有するような寸法とされる。
【0018】
図3は、スタビライザ66をより詳細に図示している。支柱80のそれぞれは、結果的にスタビライザ66の望ましい強度及び剛性をもたらす断面積を有することができる。通常、長さは、カニューレ68を脈管構造の壁部における長手方向の中心軸に対して直交する姿勢に支持するために望ましい距離によって決定される。長さは約1mm(0.04インチ)〜約5cm(1.97インチ)とすることができるが、これに限定されるべきではない。次いで支柱80の幅を、幅と厚さとの比率に基づいた望ましい強度を提供するように選択することができる。通常、この比率は2:1より大きくするべきである。
【0019】
接触パッド82は、脈管構造の壁部に対する外傷及び穿孔を最小化するように外形を形成することができる。適切な外形は、接触パッド82の表面積を増加させ且つ鋭利なエッジが取り除かれている任意の形状、例えば円形状、楕円形状、又は長方形状を含むことができる。図示されているように、接触パッド82それぞれは、各接触パッドの支柱80それぞれの幅より広い幅を有する。幾つかの実施形態においては、接触パッド82は多孔質高分子材料をさらに含み、これにより組織の内部成長(tissue in−growth)を促進し、スタビライザ66を組織にさらに固定することができる。支柱80及び接触パッド82は、形状又はサイズが均一である必要がないことが理解される。すなわち、様々な断面積又は長さの支柱80を含むことができ、これにより、以下に詳細に説明されるように、とりわけ局所的な生体構造に適合することが可能である。
【0020】
アーム84は、リング78から遠位に延在するとともに、支柱80のそれぞれに対向している。単一の構造として構成されている場合、アーム84の寸法はリング78の内径の1/2の長さに限定され、幅は望ましい強度に従って調節される。アーム84の数が増えると、アーム84それぞれの長さは、リング78の内径の最大円周の故に減少することが理解される。アーム84の長さは、追加の材料をアーム84それぞれの端部に溶接することにより延長することができ、これにより、以下に詳述されるように、アーム84とカニューレ68との間の締め代を増加させることができる。
【0021】
幾つかの実施形態においては、図3に示されているように、操作タブ86が、リング78から放射状に延在して、医師がスタビライザ66をカニューレ68に対して動かすのに用いる表面を提供することができる。通常、操作タブ86の数は支柱80の数に等しく、従って、操作タブ86のそれぞれは、2つの連続する支柱80の間に間隔をおいて配置される。操作タブの幅は、約0.5mm(0.02インチ)〜約10mm(0.4インチ)まで変化させることができ、スタビライザ66の動きを容易化するために必要とされる材料の量と、支柱80の数と、連続する支柱80間の間隔とに依存する。
【0022】
支柱80がリング78から延在している領域は、顕著な応力を、支柱80の撓みの間に受ける。この領域における破損を防ぐために、ひずみ緩和溝88を含むことができ、これにより支柱80の撓みを可能とし、脈管構造の追加的な動きを補償することを可能とする。
【0023】
次に図4Aに目を向けると、ここではスタビライザ66のさらなる詳細を理解することができる。具体的には、スタビライザ66の適切な機能のための、少なくとも3つの角度がある。例示のみを目的として、第一の軸90が、カニューレ68(図2)の長手方向の中心軸に平行に規定され、第二の軸92が、第一の軸90に直交して規定されている。また、別の基準系または座標系を、相対角度を規定する際に使用できることが理解される。
【0024】
図4Aにおいてαとして表示されている、パッドの予めかけられた角度である第一の角度は、接触パッド82のそれぞれの、第二の軸92に対して遠位への撓み角度である。パッドに予めかけられた角度は、約1度〜約15度とすることができ、且つ接触パッド82と対応する支柱80との間の半径における第一のモーメントアーム(moment arm)を提供し、このモーメントアームは支柱80をカニューレ68(図2)に向けて押し進めている。
【0025】
図4Aにおいてβとして表示されている、支柱角度である第二の角度は、第一の軸90に対する、支柱80のそれぞれの外側への撓み角度である。支柱角度は約1度〜約15度とすることができ、且つ支柱80とリング78との間の半径の範囲における第二のモーメントアームを提供し、このモーメントアームは、リング78をカニューレ68(図2)に向けて、且つアーム84の方向に局所的に「捻る」ように押し進めている。
【0026】
図4Aにおいてγとして表示されている、アーム係合角度である第三の角度は、第一の軸90に対する、アーム84のそれぞれの内側への撓み角度である。アーム係合角度は約1度〜約25度の間で変化させることができ、ここで、より大きな角度はカニューレ68(図2)の外表面とのより大きな締め代をもたらす。
【0027】
図4Bは、矢印94によって表示されている、接触パッド82に加えられた力の、スタビライザ66をカニューレ68(図2)に固定するためのアーム84への伝達を図示している。静止姿勢にあるスタビライザ66は破線で図示されている。力を加えることによって、接触パッド82は静止姿勢から、通常はαを減少させる姿勢に撓められる。幾つかの実施形態においては、ここでαを0度以下とすることができる。力は、矢印96によって示されているように、通常は角度βを増加させ、リング78のモーメントアーム矢印97によって示される局所的な捻りを生じさせるように伝達される。最終的にアーム84は、矢印98によって示される力によって、γを増加させるように撓められる。アーム84をカニューレ68(図2)に係合させ、スタビライザ66の位置を固定し、及びスタビライザ66のカニューレ68に対する移動を妨げるのは、このγの増加である。このアーム84の撓みより前には、スタビライザ66は、カニューレ68に対して近位又は遠位いずれかに自由に移動することができる。
【0028】
図5A〜図5Cは、カニューレ68を、ここでは左心房18の壁部67として図示されている脈管構造の壁部に固定する際に、スタビライザ66を用いる一方法を図示しているが、この例示的な方法はスタビライザ66を動脈及び静脈を含む様々な脈管構造の壁部に固定するために使用できることが理解される。
【0029】
図5Aは、カニューレ68の、アンカー76を有する先端70を左心房18の容積内に導くことができるような、壁部67における切開部100を図示している。スタビライザ66は、カニューレ68の近位端(図示されていない)を越えて後方に装着され、カニューレ68の長さに亘って進められる。あるいは、スタビライザ66は、とりわけカニューレ68が、スタビライザ66のリング78の内径よりも大きい外径を有する近位のハブ(図示されていない)を含んでいる場合に、カニューレ68に前もって予備装着することができる。
【0030】
図5Bは、アンカー76の近位の表面が、左心房18のボリューム内の壁部67の内表面に係合するような、カニューレ68の引き戻しを図示している。巾着糸(purse strings)101をこの際に用いて、当業者に通常知られているように、カニューレ68を壁部67に固定する。次いで、スタビライザ66は、接触パッド82が壁部67の外表面にわずかに接触するまで、カニューレ68に沿ってさらに進められる。
【0031】
図5Cは、接触パッド82が壁部67の外表面に完全に係合するまでさらに継続されたスタビライザ66の前進を図示している。矢印102によって示される、壁部67によって提供された抵抗力は、図4Bを参照して記載された、パッドに予めかけられた角度αを減少させる。この力は伝達されてリング78の捻りを作り出し、これによってアーム84はカニューレ68の軟質高分子材料内に撓められ、このことは矢印104によって示されている。その結果、スタビライザ66はカニューレ68に固定される。しかしながら、スタビライザ66が壁部67に接触するまで、スタビライザ66はカニューレ68に対して自由に移動できることが理解される。
【0032】
図6はスタビライザ108の代替的な実施形態を図示しており、このスタビライザ108は、曲がった外壁表面を有する脈管構造に係合するように構成されており、このことは大動脈36の壁部として図示されている。大動脈36の壁部の曲率半径によって、外表面は、カニューレ68を挿入するために作られた切開部100の少なくとも片側から離れて曲がっている。結果的に、スタビライザ108は、様々な長さを有する支柱110a〜110dを含んで構成することができる。このようにして、スタビライザ108は、支柱の中でより長い支柱110c、110dが、切開部100から離れるように向けられている、より大きな湾曲部を有する大動脈36の外表面に接触するように配置される。結果的に、カニューレ68の先端70は、大動脈36の壁部に略直交する姿勢に安定化することができる。
【0033】
スタビライザ66の移動は手動で遂行することができるが、誘導装置(図示されていない)が、スタビライザ66を進めるための操作タブ86に係合できることが理解される。誘導装置は、カニューレ68とスタビライザ66のアーム84とを収容するために十分大きい内径を有するチューブとすることができる。チューブの遠位表面は操作タブ86に係合することができ、これにより、チューブに加えられた遠位方向への力は、操作タブ86を介して伝達されて、カニューレ68に亘ってスタビライザ66を移動させる。
【0034】
カニューレ68が、脈管構造の壁部内に配置され且つスタビライザ66によって固定されている状態で、次いでカニューレ68の近位端を、循環補助装置の位置に、又は必要に応じて特定の外科処置に従った位置に操作することができる。
【0035】
本発明は様々な好ましい実施形態の記載によって説明され、且つこれら実施形態は幾分細部に亘って記載されたが、添付の特許請求の範囲の技術的範囲をこのような細部に制限する、又は何らかの形で限定することは、出願人の意図ではない。さらなる利点及び修正が、当業者には容易に明らかとなる。本発明の様々な特徴は、使用者の必要及び選択に応じて、単独又は任意の組み合わせの形で用いることができる。本明細書に、本発明が、現在知られているような本発明を実施する好ましい方法とともに詳細に説明された。しかしながら、本発明それ自体は、添付の特許請求の範囲によってのみ規定されるべきである。
【符号の説明】
【0036】
10 循環補助システム
12 心臓
14 患者
16 右心房
18 左心房
20 右心室
22 左心室
24 左鎖骨下静脈
26 右鎖骨下静脈
28 左頸静脈
30 右頸静脈
32 上大静脈
34 下大静脈
35 肺静脈
36 大動脈
38 左鎖骨下動脈
40 左総頸動脈
42 腕頭動脈
44 右鎖骨下動脈
46 右総頸動脈
47 遠位端
48 可撓性を有するカニューレ本体
50 流入口
52 埋め込み可能なポンプ
56 流出カニューレ
58 排出口
60 ポンプポケット
62 ケーブル
64 電源
66、108 スタビライザ
67 外壁
68 カニューレ
70 先端
72 本体
74 近位端
76 アンカー
78 リング
80 支柱
82 接触パッド
84 アーム
86 操作タブ
88 ひずみ緩和溝
90 第一の軸
92 第二の軸
100 切開部
101 巾着糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カニューレを脈管構造に安定させるための器具であって、
(i)前記カニューレの周辺を包囲しているリングと、
(ii)前記リングから遠位に延在しており、前記リングの周囲に配置されている3つ以上の支柱であって、前記3つ以上の支柱のそれぞれは、前記カニューレの長手方向の中心軸に平行な第一の軸に対して第一の角度だけ外側に撓められている3つ以上の支柱と、
(iii)前記3つ以上の支柱のそれぞれから放射状に延在している接触パッドであって、前記接触パッドそれぞれは、前記第一の軸に直角な第二の軸に対して第二の角度だけ遠位に撓められている接触パッドと、
(iv)前記リングから近位に延在している3つ以上のアームであって、前記3つ以上のアームのそれぞれは、前記3つ以上の支柱のうちの1つに直接的に対向し、且つ前記3つ以上のアームのそれぞれは、前記第一の軸に対して第三の角度だけ内側に撓められている3つ以上のアームと、
を備え、
前記器具は、前記カニューレに対して移動するように構成され、且つ、前記接触パッドが前記脈管構造の壁部に係合することの結果として、前記3つ以上のアームによって前記カニューレに固定されることを特徴とする器具。
【請求項2】
前記第一の角度は約1度〜約15度であり、前記第二の角度は約1度〜約15度であり、前記第三の角度は約1度〜約25度であることを特徴とする請求項1に記載の器具。
【請求項3】
前記リングから放射状に延在する3つ以上の操作タブであって、前記3つ以上の操作タブのそれぞれは、前記3つ以上の支柱のうちの連続する支柱間に存在している操作タブをさらに備えている請求項1に記載の器具。
【請求項4】
前記操作タブのそれぞれの幅は、約0.5mm(0.02インチ)〜約10mm(0.4インチ)であることを特徴とする請求項3に記載の器具。
【請求項5】
前記操作タブそれぞれと、前記3つ以上の支柱のうちの前記隣接した支柱との間にあるひずみ緩和溝
をさらに備えている請求項3に記載の器具。
【請求項6】
前記器具は単一の構造として構成されていることを特徴とする請求項1に記載に器具。
【請求項7】
前記単一の構造は超弾性材料から構成されていることを特徴とする請求項6に記載の器具。
【請求項8】
前記単一の構造は、厚さが約0.10mm(0.004インチ)〜約0.36mm(0.014インチ)であることを特徴とする請求項6に記載の器具。
【請求項9】
前記3つ以上の支柱それぞれの長さは、約1mm(0.4インチ)〜約5cm(1.97インチ)であることを特徴とする請求項1に記載の器具。
【請求項10】
前記3つ以上の支柱それぞれの幅は、幅と厚さとの比が2:1より大きくなるように選択されることを特徴とする請求項1に記載の器具。
【請求項11】
前記接触パッドそれぞれの外形は、円形状、楕円形状又は四角形状であることを特徴とする請求項1に記載の器具。
【請求項12】
前記接触パッドそれぞれの外周は、前記3つ以上の支柱のそれぞれの幅と少なくとも等しいことを特徴とする請求項11に記載の器具。
【請求項13】
1つ以上の前記接触パッドは多孔質の高分子被覆を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の器具。
【請求項14】
前記3つのアームそれぞれの長さは、前記リングの直径の約1/2より短いことを特徴とする請求項1に記載の器具。
【請求項15】
カニューレを脈管構造に安定させる方法であって、
(i)前記カニューレの遠位端を前記脈管構造の壁部を通じて挿入するステップと、
(ii)スタビライザを、前記カニューレの長さに亘って前記脈管構造の前記壁部に前進させるステップであって、前記スタビライザは
(a)前記カニューレの周囲を包囲しているリングと、
(b)前記リングから遠位に延在し、前記リングの周囲に配置されている3つ以上の支柱であって、前記3つ以上の支柱のそれぞれは、前記カニューレの長手方向の中心軸に平行な第一の軸に対して第一の角度だけ外側に撓められている3つ以上の支柱と、
(c)前記3つ以上の支柱のそれぞれから放射状に延在している接触パッドであって、前記接触パッドそれぞれは、前記第一の軸に直角な第二の軸に対して第二の角度だけ遠位に撓められている接触パッドと、
(d)前記リングから近位に延在している3つ以上のアームであって、前記3つ以上のアームのそれぞれは、前記3つ以上の支柱のうちの1つに直接的に対向し、且つ前記3つ以上のアームのそれぞれは、前記第一の軸に対して第三の角度だけ内側に撓められている3つ以上のアームと、
を備えているステップと、
(iii)前記前進させるステップを、前記接触パッドが前記脈管構造の前記壁部に係合するまで継続するステップであって、これによって、前記3つ以上のアームを前記カニューレに係合させ、前記カニューレに対する前記スタビライザのさらなる移動に抵抗するステップと、
を備えている方法。
【請求項16】
前記スタビライザを前進させるステップの前に、巾着縫合によって前記カニューレを固定するステップ、
をさらに備えている請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図1A】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−510655(P2013−510655A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538869(P2012−538869)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/055800
【国際公開番号】WO2011/059908
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(508226322)サーキュライト・インコーポレーテッド (17)
【Fターム(参考)】