説明

カバーガラス

【課題】積層カバーガラスの分離性を向上させる。
【解決手段】カバーガラス1は、カバーガラス本体10と、該カバーガラス本体10の外周部に接着状態に設けられた微細厚みのスペーサ部2とからなり、スペーサ部2の屈折率は、カバーガラス本体10を透してスペーサ部2の存在が判別できない程度にカバーガラス本体10の屈折率に近似している。夫々スペーサ部2側を下向きにして複数枚のカバーガラス1を積層した際、隣り合うカバーガラス1、1どうしには、スペーサ部2の厚み対応して隙間が生じ、該隙間に空気層が介在する。このために、取出し用の吸着手段によって、最上位のカバーガラス1を持ち上げたとき、該最上位のカバーガラスのみを持ち上げることができる。持ち上がったカバーガラスに、その下側のカバーガラスが付いて一緒に持ち上がることを確実に防止できるのである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病理細胞等の検体を顕微鏡観察するプレパラート及びそのカバーガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プレパラートは、スライドガラスに検体を付着させ、封入剤を介してカバーガラスを被せて製作される。病院、検体検査センター等で多数の検体の処理は、プレパラートの製作も自動機によって行なわれている。その際、前記カバーガラスは積層状態でストッカーに収容され、最上部のカバーガラスから1枚ずつ吸着して持ち上げ、或いは側方に滑らせて、自動的に供給される。
【0003】
各カバーガラスは、その製造工程で洗浄され表面の異物は除去されているため、そのままストッカーに積層すれば、隣合うカバーガラスは空気層を介することなく密着し、1枚ずつ取り出すことは困難となるから、何らかの対策が必要とされる。
【0004】
そこで、出願人は、カバーガラスを積層した際の分離性を向上させるために、カバーガラス表面に、合成樹脂のコーティングを行なうことを提案した(特許文献1)。コーティングは、カバーガラスの全面に、又は外周部へ枠状に、又は外周部へ複数のドット状に塗布している。
又、出願人は、カバーガラスの表面に微細なガラスビーズを付着させて、積層カバーガラスの分離性を良好ならしめることも提案した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平1−75214
【特許文献2】特公平7−69253
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のカバーガラスは、スライドガラス上に載置した細胞液状検体が流れてスライドガラス周縁部まで拡がってしまった場合、或いはスライドガラス周縁部まで被さる大きさの病理組織切片を検鏡する場合、カバーガラスのコーティング層が検体に被さってしまうので、カバーガラスの屈折率とコーティング層の屈折率の違いが、顕微鏡観察に支障を来す。
【0007】
特許文献2のカバーガラスは、ガラスビーズはスライドガラス表面に振るい掛けて付着しているから、スライドガラス上の検体に被せる際に、ガラスビーズが検体上に落下飛散し、又は封入前に混じり込みその上からカバーガラスが被さることにより、検体を傷つけてしまい、検体観察に支障を来すことがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のカバーガラス(1)は、カバーガラス本体(10)と、該カバーガラス本体(10)の外周部に接着して配備した微小厚みのスペーサ部(2)とからなり、スペーサ部(2)の屈折率は、カバーガラス本体(10)を透してスペーサ部(2)の存在が判別できない程度にカバーガラス本体(10)の屈折率に近似している。
【0009】
本発明のカバーガラス(1)の集合体は、上記スペーサ部(2)を具えたカバーガラス(1)が積層され、隣り合うカバーガラス(1)(1)の間には、スペーサ部の高さに対応する隙間が生じている。
【発明の効果】
【0010】
夫々スペーサ部(2)側を下向きにして複数枚のカバーガラス(1)を積層した際、隣り合うカバーガラス(1)(1)どうしには、スペーサ部(2)の厚みに対応して隙間が生じ、該隙間に空気層が介在する。このために、取出し用の吸着手段(7)によって、最上位のカバーガラス(1a)を持ち上げたとき、該最上位のカバーガラスのみを持ち上げることができる。持ち上がったカバーガラス(1a)に、その下側のカバーガラス(1)が引っ付いて一緒に持ち上がることを確実に防止できるのである。
【0011】
スペーサ部(2)の屈折率は、カバーガラス本体(10)を透してスペーサ部(2)の存在が判別できない程度にカバーガラス本体(10)の屈折率に近似しているから、観察すべき流動性の検体(4)がスライドガラス(3)上に拡がって、カバーガラス本体(10)のスペーサ部(2)が検体(4)に被さることがあっても、その部分の検体観察に、スペーサ部(2)の存在が支障となることを防止できる。
【0012】
スペーサ部(2)は、カバーガラス本体(10)に接着状態に形成されているから、スペーサ部(2)にガラスビーズを用いても、従来の様にガラスビーズが検体上に落下して、該落下したガラスビーズの上にカバーガラス(1)が被さって検体を傷つける不都合は生じない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施例のカバーガラスの正面図である。
【図2】同上のA−A断面図である。
【図3】第1実施例のカバーガラスの積層体から最上位のカバーガラスを取り出す途上の説明図である。
【図4】第1実施例のカバーガラスを用いたプレパラートの正面図である。
【図5】同上のA−A線断面図である。
【図6】第2実施例のカバーガラスの正面図である。
【図7】同上のA−A断面図である。
【図8】第2実施例のカバーガラスの積層体から最上位のカバーガラスを取り出す途上の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のカバーガラス(1)において、長方形のカバーガラス本体(10)は、従来から用いられている前両面平坦面の長方形のカバーガラスと同様の厚み、幅、長さを有す。
カバーガラス本体(10)の屈折率は、従前のカバーガラスと同様にして1.52付近である。
【0015】
カバーガラス本体(10)の外周部に設けられるスペーサ部(2)の厚みは、1〜70μmである。
スペーサ部(2)の厚みは、望ましくは20〜40μmである。
スペーサ部(2)の厚みが1μm以下であると、積層カバーガラスのくっ付き防止効果は期待出来ない。1〜20μmではくっ付き防止効果は認められるが、カバーガラス(1)を高温、高湿度の環境下で保管した場合、くっ付き防止効果が低下する。40〜70μmでは優れたくっ付き防止効果を発揮するが、積層カバーガラス全体が嵩高となる。70μm以上では厚みが増えたことに対してくっ付き防止効果に差を認めることができず、嵩高となるばかりである。
【0016】
スペーサ部(2)の屈折率は、1.3〜2.2が許容範囲である。屈折率が1.3以下でも、2.2以上でも、スペーサ部(2)が検体(4)に被さった場合、その部分の検体を顕微鏡観察する場合、スペーサ部(2)に重なった箇所では視野は透明感が損なわれて、その存在が目障りで検体観察の邪魔となる。
スペーサ部(2)の屈折率が、カバーガラス本体(10)の屈折率に近似するほど、望ましいのは勿論である。
【0017】
上記スペーサ部(2)の形成方法は特に問わないが、以下の各種方法で実施可能である。
夫々テープ状に形成された樹脂材、有機シール材、無機シール材をカバーガラス本体(10)へ貼着して形成する方法、夫々流動性の樹脂材、有機物、無機物をカバーガラス本体(10)に塗布し、後工程で固化させる方法、微細ビーズやパウダーをカバーガラス本体(10)へ接着固定する方法等を採用できる。
以下、第1乃至第4実施例について詳述する。
【0018】
[第1実施例]
図1、図2に示す如く、長さ50mm、幅長さ24mm、厚み0.145mm、屈折率1.52のカバーガラス本体(10)の片面に、長手方向に沿う両側縁から4mmの領域に、7mm間隔に複数のドット状の盛上り部(21)(21)を設けてスペーサ部(2)を形成している。
ドット状の盛上り部(21)(21)は、屈折率1.54のポリスチレン樹脂をキシレンにて粘度調整した流動性樹脂を、カバーガラス本体(10)上に直径2mm、厚み約20μmに滴下塗布し、固化させて形成される。
流動樹脂の滴下塗布は、公知の電気制御ディスペンサーノズルを使用して、所望の大きさ、所望の厚みに実施できる。
カバーガラス本体(10)を、乾燥装置にて、80℃の雰囲気中に10時間置くことによって、滴下塗布したポリスチレン樹脂の溶剤揮発と熱硬化作用によりカバーガラス本体(10)に接着状態に固着できる。
【0019】
図3は、ドット状盛り部(21)からなるスペーサ部(2)を具えたカバーガラス(1)を200枚積層して、プレパラート製造装置(サクラファインテック社製)にセットし、吸着手段(7)によって、最上位のカバーガラス(1a)を持ち上げる途上の要部説明図である。
隣り合うカバーガラス(1a)(1)間には、スペーサ部(2)の厚みに対応して隙間が生じ、空気層Sが生じているから、最上位のカバーガラス(1)のみが吸着され、複数枚のカバーガラス(1)が持ち上がることはない。
従って、一度に複数枚のカバーガラス(1)が供給されてしまって、プレパラート製造装置にトラブルを招来することを防止でき、稼動率を高めることができる。
【0020】
積層カバーガラス(1)を60℃、湿度90%の高温高湿度環境に1時間置き、その後に室温環境に1時間放置した後、上記と同様にして、該カバーガラス(1)を200枚積層して、プレパラート製造装置(サクラファインテック社製)にセットし、吸着手段(7)によって、最上位のカバーガラス(1a)を順に吸着して取り出した。カバーガラス(1)を確実に1枚づつ取り出すことができた。
カバーガラス(1)を高温高湿度環境で保管した後でも、カバーガラス(1)の分離性に問題のないことを確認できた。
【0021】
図4、図5は、スライドガラス(3)上に検体(4)を載せ、封入剤(5)として屈折率1.54のポリスチレンを介して、前記ドット状盛り部(21)からなるスペーサ部(2)を具えたカバーガラス(1)を被せて製作したプレパラート(6)を示している。
封入剤(5)の存在は、顕微鏡観察の支障にはならないことを確認した。
流動性の細胞液状検体(4)が流れてスライドガラス(3)の周辺部まで拡ってしまった場合、或いはスライドガラス周縁部までの大きさの病理組織切片を検鏡する場合、スライドガラス(3)のスペーサ部(2)の真下に検体が掛かってしまうが、スペーサ部(2)はカバーガラス(1)と同じ屈折率であるから相対的に透明となり、その存在は顕微鏡観察者には判らず、観察に支障のないことも確認できた。
【0022】
[第2実施例]
第1実施例と同じ大きさ、同じ屈折率のカバーガラス本体(10)の片面に、図6、図7に示す如く、長手方向の両側縁に沿い、側縁から2mmの領域内で略全長に亘って平行なライン状の盛り上がり部(22)(22)を形成して、平行なスペーサ部(2)(2)となしている。
ライン状の盛り上がり部(22)の幅は1mm、厚みは20μmである。
ライン状の盛り上がり部(22)(22)はスクリーン印刷により、硬化した際の屈折率が1.5程度の紫外線硬化性樹脂、例えば変性メタクリレート接着剤(アーデル社製、光学用接着剤オプトクレーブシリーズUT20)をスクリーン印刷によってライン状に施してから、紫外線を照射して固化させる。紫外線硬化性樹脂によるライン状の盛り上がり部(22)(22)は、カバーガラス本体(10)に接着状態に固化する。
【0023】
第2実施例のライン状の盛り上がり部(22)(22)をスペーサ部(2)となしたカバーガラス(1)の積層体について、前記第1実施例と同様の各種効果の確認作業を行ったところ、前記第1実施例と同様の良好な分離性を有し、又、顕微鏡観察にスペーサ部(2)が支障と成らないことを確認できた。
【0024】
[第3実施例]
第1実施例と同じ大きさ、同じ屈折率のカバーガラス本体(10)の片面に、図6、図7に示す第2実施例と同様に、長手方向の両側縁に沿い側縁から2mmの領域内に、ライン状のスペーサ部(2)を形成した。
但し、本第3実施例では、ライン状のスペーサ部(2)は、図8に示す如く、ガラスビーズ(23)と接着剤(24)の混合物からなる。
ライン状のスペーサ部(2)は、幅1mm、厚み50μmである。
【0025】
ライン状のスペーサ部(2)は、屈折率1.52、平均直径50μmのガラスビーズ(23)と、屈折率1.5付近の紫外線硬化性樹脂(24)を混合したものを、スクリーン印刷の手法でカバーガラス本体(10)に塗布し、紫外線照射により硬化させて形成される。ガラスビーズ(23)の1粒1粒は、紫外線硬化性樹脂に接着されて繋がっており、剥がれ落ちることはない。
尚、ガラスビーズの平均粒径は、堀場製作所製、レーザ解析/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用いて測定した。
【0026】
第3実施例のライン状のスペーサ部(2)を有するカバーガラス(1)の積層体について、前記第1実施例と同様の各種硬化の確認作業を行ったところ、前記第1実施例と同様の良好な分離性を有し、又、顕微鏡観察にスペーサ部(2)が支障とならないことを確認できた。
又、第3実施例の場合、ガラスビーズ(23)と紫外線硬化性樹脂の混合量、さらにはガラスビーズ粒径を変えることにより、スペーサ部(2)の厚み精度をコントロールし易くなる。特にスペーサ部(2)の厚みを大きくする場合に、その特徴を発揮できる。
【0027】
[第4実施例]
カバーガラス本体(10)の全面に、疎水性及び/或いは滑り性向上のためのコーティング処理を行ってから、前記第1実施例の手法によって、スペーサ部(2)を形成した。
積層カバーガラス(1)の分離性に更なる効果が認められた。
【0028】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0029】
1 カバーガラス
2 スペーサ部
3 スライドガラス
4 検体
5 封入剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドガラスとカバーガラスとの間に検体を挟んで構成されるプレパラート用のカバーガラスにおいて、カバーガラス(1)は、カバーガラス本体(10)と、該カバーガラス本体(10)の外周部に固着して配備された微小厚みのスペーサ部(2)とからなり、スペーサ部(2)の屈折率は、カバーガラス本体(10)の屈折率と同等である、カバーガラス。
【請求項2】
カバーガラス本体(10)及びスペーサ部(2)の屈折率は1.3〜2.2である、請求項1に記載のカバーガラス。
【請求項3】
スペーサ部(2)の厚みは1〜70μmである、請求項1又は2に記載のカバーガラス。
【請求項4】
スペーサ部(2)は、ライン状、又はドットを並べた形状に形成されている、請求項1乃至3の何れかに記載のカバーガラス。
【請求項5】
スペーサ部(2)は、ガラスビーズと合成樹脂の混合物からなる、請求項1乃至4の何れかに記載のカバーガラス。
【請求項6】
カバーガラス本体(10)のスペーサ形成側の表面の全面に、疎水性及び/又は滑り性の良好なコーティング層(7)が施され、該コーティング層の上へスペーサ部(2)が形成されている、請求項1乃至5の何れかに記載のカバーガラス。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載のカバーガラス(1)が積層され、隣り合うカバーガラス(1)(1)の間には、スペーサ部(2)の高さに対応する隙間が生じている、カバーガラスの集合体。
【請求項8】
スライドガラス(3)上に検体(4)を載せ、封入剤(5)を介して、請求項1乃至6の何れかに記載のカバーガラス(1)を被せて製作してプレパラート(6)であって、封入剤(5)の屈折率はカバーガラス本体(10)の屈折率と同等である、プレパラート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−197425(P2010−197425A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38799(P2009−38799)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000189017)松浪硝子工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】