説明

カフ圧力の振動波形の解析技術を利用した遠位動脈血圧の計算の改良

【課題】 中心動脈の収縮期血圧を計算する装置と方法を提供することを課題とする
【解決手段】 本発明は、一種の遠位動脈を測定することによって、中心動脈血圧を計算する測定装置であって、カフ加圧の制御と、一定時間の圧力と減圧過程の維持に用いるカフ圧力の変化調整装置と、カフ圧力振動信号の記録と記憶装置と、及び、リアルタイムで圧力振動の信号を演算して中心動脈圧を計算するカフ圧力振動信号の解析装置とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一種の解析方法に関り、特に、電子式血圧計で血圧を測定する過程で記録したカフ内圧の脈波振動波形を利用して更に一歩進んで動態解析を行うことで、中心動脈の収縮期血圧を正確に計算することにある。本技術を用いた電子式血圧計は、同時に従来の周辺動脈(上腕動脈)及び中心動脈の血圧数値を提供できることで、高血圧患者の降圧薬の選択と投薬量調整の正確性を大幅に改善できる。
【背景技術】
【0002】
高血圧の患者は、常に反射波の増大、脈波伝搬速度の増加及び動脈コンプライアンスの低下を含んだ中心動脈血流動態の異常が現れる。中心動脈の圧力は、高血圧患者の臨床の重要な予後決定因子であることがすでに証明されている。従来の血圧計或いは電子式血圧計で測定した上腕動脈の血圧数値は、周辺動脈血圧で、通常でも中心動脈より顕著に高く、例えば上行大動脈或いは頚動脈で測定した圧力数値である。異なる降圧薬は、中心動脈血圧及び周辺動脈血圧へ異なる影響を及ぼす可能性があるため、従来の血圧計或いは電子式血圧計で測定した上腕動脈の収縮期血圧と拡張期血圧の数値のみを利用して中心動脈血圧を予測する場合、降圧薬の中心動脈圧力への影響を過大評価または過小評価する可能性がある。これにより患者の血圧制御が適切であるかどうかを評価する場合、患者の上腕動脈圧力のみで測定することは不十分である。現在市場においてすでに橈骨動脈圧波形、上腕動脈的血圧数値の記録及び既知の数学変換方程式を利用して上行大動脈の圧波形及び数値を計算しているものが開発され、このすでに商品化された製品(SphygmoCor、AtCor Medical Pty Limited)が、かつて大型の臨床薬物試験に使用され、すでに測定した上行大動脈の収縮期血圧数値は異なる降圧薬の中心動脈血圧への異なる降圧効果を示すことができ、並びに高血圧患者の異なる降圧薬治療を受けた後の心血管疾病リスクを予測できることを十分実証されている。これにより、中心動脈血圧の測定が高血圧の制御において重要な役割を担うと予測される。SphygmoCorは、上行大動脈の収縮期血圧を正確に計算できるが、この技術は非常に高価で複雑な付属品及び特殊訓練による操作技術を必要とするため、各レベル医療機関で大量に使用できず、また患者自身が購入して使用することに適していない。
【0003】
特許文献1に開示されている技術内容は、主に観念の革新で、2つの分離した測定側(上腕及び腕部)を用い、各々上腕動脈の血圧数値(一般的な電子式血圧計技術を利用)及び橈骨動脈圧波形(ペン型トノメーターarterial tonometerを利用)を測定し、その後既知の数学変換方程式を用い、橈骨動脈圧波形を上行大動脈圧波形に変換し、最終的に測定で得られた上腕動脈の血圧数値を変換して得られた上行大動脈圧波形に校正し、校正された上行大動脈波形が上行大動脈の収縮期血圧数値を直接取得でき、これはつまり現在すでに商品化された非侵襲的中心動脈の圧波形と数値を計算する時に用いる技術特許である。オーストラリア学者であるDr Michael F O’Rourkeの当該特許で生産した製品は、非常に高価なペンタイプのトノメーター(tonometer)、ノートブックタイプコンピュータ及び専用の解析プログラムを配する必要があり、ペン型トノメーターの操作は一定の技術条件を有するため、計算値の正確性に顕著に影響を及ぼし、これにより、当該高価な診断ツールは現在研究目的の用途にのみ限られているため、幅広く使用されておらず、また患者が購入して家庭で使用できない。
【0004】
【特許文献1】国際公開公報 WO/1996/0390
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、測定血圧の経過を適切に変わると共に記録したカフ内圧の脈波振動波を運用して動態解析を行うことで、中心動脈の収縮期血圧を正確に計算できる。当該操作・制御と解析技術を一般的な電子式血圧計内にも設計できるため、その他の高価な付属品を必要としない。非常に普及している電子式血圧計に中心動脈の収縮期血圧を測定する機能を配することで、高血圧の診療について巨大な影響を及ぼすことができると予測される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、カフ内圧の脈波振動波形の解析技術に関する。本発明は、測定側(上腕)の圧力測定数値を利用して遠位(上行大動脈或いは頚動脈)の圧力数値を直接計算する。詳細に述べると、本発明の特徴は電子式血圧計のカフ内圧の脈波振動波形を用いた解析技術で、圧脈波振動波形の解析技術は動態振動波形の解析(カフ圧力の下降過程で記録した振動波形)及び静態振動波形解析(カフ圧力が某固定圧力まで下降した時に記録した振動波形であり、つまり一般的に呼ばれる容積脈波記録pulse volume recording)である。本発明の解析方法は、時間領域及び周波数領域の技術を含むことができ、リアルタイムによる圧脈波振動波形の解析結果を通じて、遠位動脈(上行大動脈或いは頚動脈)の圧力数値を計算する。
【0007】
本発明は、一般的な電子式血圧計と全く同じ測定側(カフ)及び特定測定配備を運用して同時に上腕動脈の血圧数値(一般的な脈波振動の電子式血圧計技術を利用)の測定及び異なる制御圧力下のカフ内圧の振動波形(ダイナミックメモリチップに一時保存)を記録し、その後制御チップでリアルタイムに圧力の振動波形を解析すると共に中心動脈(上行大動脈或いは頚動脈)の収縮期血圧数値を計算し、その概念を図1Aに示す。本技術を運用して開発された新型電子式血圧計は、制御チップ及びダイナミックメモリチップを取り付けることを除き、追加のトノメーター或いはノートブックタイプコンピュータを配する必要が無く、且つ新型電子式血圧計の操作は一般的な電子式血圧計と非常に類似し、特別な技術条件が無く、これにより、一般的な病院や診療所でも使用できる以外に、一般患者も自身で購入して使用できる。
【0008】
本発明内の”中心動脈”とは、頚動脈或いは上行大動脈をいう。
そのため、図1Bに示すように、本発明では一種の遠位動脈の測定を通じて中心動脈血圧を計算する測定装置10を提供し、これには、
カフ加圧の制御、一定時間の圧力と減圧過程の維持に用いるカフ圧力の変化調整装置20と、カフ圧力振動信号の記録と記憶装置30、及び、
リアルタイムで圧力振動の信号を演算して中心動脈圧を計算するカフ圧力振動信号の解析装置40を含む。
【0009】
本発明の測定装置10内において、カフ圧力振動信号の解析装置40は上腕動脈の収縮期血圧、平均圧、拡張期血圧及び心拍速度を含んだ血圧数値を算出することができる。具体的な実施例において、カフ圧力振動信号の記録及び記憶装置30は、カフ内圧の振動波形を記録及び保存でき、これには動態振動波形の信号(カフ圧力の下降過程で記録した振動波形)及び静態振動波形の信号(カフ圧力が某固定圧力まで下降した時に記録した振動波形)を含み、静態振動波形の信号も一般的に呼ばれる容積脈波記録である。
【0010】
本発明は、更にカフにより上腕動脈を測定して中心動脈の血圧を計算する方法を提供する。これには、(1)カフ内圧の振動波形を検出することと、(2)カフで測定した平均血圧及び拡張期血圧を利用してこの圧力振動波形を校正することで、(I)容積脈波記録の収縮期血圧、(II)容積脈波記録の収縮終期圧、(III)収縮期波形下の面積と拡張期波形下の面積の総計を拡張期波形下の面積を割った値及びIVこの圧力振動波形に隠す反射波圧力を算出すること、及び(3)(I)-(IV)を中心動脈血圧の計算式に当てはめることを含む。この計算式は回帰式で、測定された中心動脈血圧を従属変数とし、且つ(2)の(I)-(IV)を独立変数として、当該方程式を計算する。
【0011】
図2に示すように、本発明の方法は、既知のパラメータの線形回帰方程式を利用して容積脈波記録の収縮期血圧、容積脈波記録の収縮終期圧(切痕)、収縮期波形下の面積と拡張期波形下の面積の総計を拡張期波形下の面積を割った値及び心拍と反射波圧力を当てはめて中心動脈の収縮期血圧を算出する。
【0012】
本発明の方法の具体的な実施例において、測定されたカフ内圧の振動波形にはカフ圧力の下降過程、カフ圧力が某固定圧力(例60水銀柱ミリメートル)のある程度時間(例えば10秒)まで下降及びカフ圧力が再度上昇過程記録の振動信号を含む。
【0013】
実施例1
侵襲的プロセス計50名の心臓カテーテル手術を受けた被験者を招き、同時に上腕動脈の容積脈波記録及び上行大動脈圧波形を記録した。一般の定例的な心臓カテーテル検査前において、1本の先端に高精度圧力トランスデューサを付けた特殊カテーテル(SPC−320、Millar Instrument Inc)を右手の橈骨動脈から上行大動脈に送り正確な上行大動脈圧波形を測定した。上行大動脈圧波形は、非侵襲的容積脈波記録と同時に記録した。基礎状態の記録が完了した後、個別的にニトログリセリン舌下錠を服用させ、3分間後に再度上行大動脈圧波形と上腕動脈の容積脈波記録を同時に記録した。これらの信号の記録が完成した後、高精度圧力トランスデューサ付き特殊カテーテルを右手の上腕動脈に移して正確な上腕動脈圧波形を測定した。右手上腕部の侵襲的上腕動脈圧波形と左手上腕部の非侵襲的上腕動脈の容積脈波記録を同時に記録した。全ての信号は均しくリアルタイムでIBM互換パソコン上でデジタル化し、またファイル保管して解析を行った。侵襲的プロセスで得られた上行大動脈圧波形、上腕動脈圧波形、及び左手上腕部の上腕動脈の容積脈波記録の波形を図3に示す。
【0014】
データ解析各被験者は、まず同時に測定した上行大動脈圧波形及び上腕動脈の容積脈波記録波形の各々信号平均を行った。こられの信号で平均された波形を更に侵襲的プロセスで測定された上腕動脈の平均血圧と拡張期血圧により校正させた。圧力波の峰と谷、及び上腕動脈の容積脈波記録は各々収縮期血圧と拡張期血圧とした。まずこれら波形を位相とおり整列させ、次に点対点の間の差異と回帰により、時間領域においてこれら波形間の差異を比較し、図3に示す。
【0015】
校正した後の上腕動脈の容積脈波記録で計測して得られた収縮期血圧の回帰方程式を利用して中心動脈の収縮期血圧を予測した。
【0016】
多重線形回帰曲線は、中心大動脈の収縮期血圧を予測するモデル作りに用いられる。このモデルは校正した後の上腕動脈容積脈波の波形で取得した各種変数に基づいて中心動脈の収縮期血圧を計測できる。中心動脈の収縮期血圧が従属変数とする。本発明ではまず一変数の関連解析(univariate correlation analysis)により中心動脈の収縮期血圧の独立変数を選定した。本発明で用いる独立変数には容積脈波記録の収縮期血圧、容積脈波記録の収縮終期圧、収縮期波形下の面積と拡張期波形下の面積の総計を拡張期波形下の面積で割った値、及びこの圧力振動波形に隠す反射波の圧力を含み、図2に示した。最終線形回帰方程式及び関連係数は本実施例の実験データで求められた。図4に示すように、本線形回帰方程式を利用して上行大動脈の収縮期血圧と実質的な測定データの比較結果を計算する。患者がニトログリセリン舌下錠を服用する前(基礎状態)、回帰方程式で計算得られた上行大動脈収縮期血圧の予測値と実質な上行大動脈の収縮期血圧と非常に近似(図4A)し、ニトログリセリン舌下錠を服用してから3分間後、同じ線形回帰方程式で得られた予測結果も非常に正確(図4B)であった。
【0017】
実施例2
本発明の装置で262名の被験者の中心動脈圧力を測定した結果を図5に示した。これら被験者は同時に頚動脈の圧力測定を受けた。頚動脈圧力は中心動脈圧力を示すことができる。頚動脈の収縮期血圧は非侵襲的トノメーターで記録した頚動脈圧波形を電子式血圧計で得られた上腕動脈の平均圧と上腕動脈の拡張期血圧により校正して得られたものである。262名の被験者が基礎状態下の比較結果を図5Aに示した。262名の被験者内の85名がニトログリセリン舌下錠を服用してから3分間後、再度測定し、その結果を図5Bに示した。結果をまとめると、基礎状態或いはニトログリセリン舌下錠を服用した後を問わず、本発明の装置と方法はいずれも中心動脈の収縮期血圧を正確に計算できることを示した。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】本発明の方法概念図であり、1が上腕動脈の脈波振動波形、2が中心動脈圧波形、黒点が中心動脈の収縮期血圧である。
【図1B】本発明の装置見取図であり、10が本発明の装置、20がカフ圧力の変化調整装置、30がカフ圧力振動信号記録及び保存装置、40がカフ圧力振動信号解析装置である。
【図2】本発明の方法において上腕動脈の容積脈波記録波形のパラメータ見取図である。図内のPVR SBPは容積脈波記録の収縮期血圧、PVR DBPが容積脈波記録の拡張期血圧、切痕(incisura)が容積脈波記録の収縮終期圧、Asが収縮期波形下の面積、Adが拡張期波形下の面積、PVR SBP2容積脈波記録内に記録された反射波の脈波圧力である。
【図3】実施例1で記録した異なる波形である。図内の破線が上腕動脈収縮期血圧の波形、黒色の実線が上行大動脈収縮期血圧の波形、灰色の実線が容積脈波記録の波形、短い鉛直破線で示すのは反射波圧力の時間点である。
【図4】実施例1の心臓カテーテルの測定結果である。
【図5】実施例2の測定結果である。
【符号の説明】
【0019】
1 上腕動脈の脈波振動波形
2 中心動脈圧波形
10 装置
20 カフ圧力の変化調整装置
30 カフ圧力振動信号の記録と記憶装置
40 カフ圧力振動信号の解析装置
PVR SBP 容積脈波記録の収縮期血圧
PVR DBP 容積脈波記録の拡張期血圧
incisura容積脈波記録の収縮終期圧
As 収縮期波形下の面積
Ad 拡張期波形下の面積
PVR SBP2容積脈波記録内に記録された反射波の脈波圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一種の遠位動脈を測定することで中心動脈血圧を計算する測定装置であって、
カフ加圧の制御、一定時間の圧力と減圧過程の維持に用いるカフ圧力の変化調整装置と、
カフ圧力振動信号の記録と記憶装置、及び、
リアルタイムで圧力振動の信号を演算して中心動脈圧を計算するカフ圧力振動信号の解析装置を含むことを特徴とする、測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の測定装置において、前記解析装置は上腕動脈の血圧数値を算出できることを特徴とする、測定装置。
【請求項3】
請求項2記載の測定装置において、前記上腕動脈の血圧数値には収縮期血圧、平均血圧、拡張期血圧、及び、心拍速度を含むことを特徴とする、測定装置。
【請求項4】
請求項1記載の測定装置において、前記中心動脈とは頚動脈、或いは、上行大動脈をいうことを特徴とする、測定装置。
【請求項5】
請求項1記載の測定装置において、解析できる圧力振動信号には動態振動信号の解析(カフ圧力の下降過程で記録した振動波形)、及び、静態振動信号の解析(カフ圧力が某固定圧力まで下降した時に記録した振動波形)を含むことを特徴とする、測定装置。
【請求項6】
請求項5記載の測定装置において、静態振動信号の解析は容積脈波記録であることを特徴とする、測定装置。
【請求項7】
一種のカフにより上腕動脈の脈波振動信号を測定することで中心動脈血圧を計算する方法であって、
(1)カフ内圧の振動波形を検出することと、
(2)カフで測定した平均血圧と拡張期血圧を利用してこの圧力振動波形を校正することで、(I)容積脈波記録の収縮期血圧、(II)容積脈波記録の収縮終期圧、(III)収縮期波形下の面積と拡張期波形下の面積の総計を拡張期波形下の面積を割った値、及び、(IV)この圧力振動波形に隠す反射波圧力を算出すること、及び、
(3)(I)-(IV)を中心動脈血圧の計算式に当てはめることを含み、この計算式は回帰式で、測定された中心動脈血圧を従属変数とし、且つ(2)の(I)-(IV)を独立変数として、当該方程式を計算することを特徴とする、方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法において、前記測定された中心動脈血圧は侵襲的プロセスで取得することを特徴とする、方法。
【請求項9】
請求項7記載の方法において、前記中心動脈は頚動脈、或いは、上行大動脈をいうことを特徴とする、方法。
【請求項10】
請求項7記載の方法において、前記検出したカフ内圧の振動波形にはカフ圧力の下降過程、カフが某固定圧力まで下降した時、及び、カフ圧力の上昇過程において記録された脈動信号を含むことを特徴とする、方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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