説明

カプセル型粒子の製造方法およびカプセル型粒子

【課題】不純物の含有量が少ない単分散なカプセル型粒子の製造方法および前記製造方法により得られるカプセル型粒子を提供することを課題とする。
【解決手段】コアとなる微粒子とシェルとなる樹脂成分とを含む分散液を静電噴霧することによって、1以上のコアを有する単分散なカプセル型粒子を得ることを特徴とするカプセル型粒子の製造方法により課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カプセル型粒子の製造方法およびカプセル型粒子に関する。さらに詳しくは、本発明は、不純物の含有量が少ない、単分散なカプセル型粒子の製造方法および前記製造方法により得られるカプセル型粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
コアとなる芯材や核材をシェルとなる樹脂等によって被覆するマイクロカプセル化プロセスやナノカプセル化プロセスは、Food Scienceにおける添加剤、農業分野における除草剤、医薬分野におけるDrug Delivery System (DDS)、化粧品、電子材料、生物医薬等の製造方法として、その応用が多くの分野で期待されている。
【0003】
また、これらのカプセル化を行うための技術として、ゾル−ゲル法、流動層を用いたコーティング法、乳化重合、乳化凝集などの液相法等が一般に用いられている。特に、生産効率、品質維持の観点から、スプレードライ法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−134652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記技術においては、樹脂同士が融着することによって、得られたカプセル型粒子同士が凝集し、その結果、カプセル型粒子が多分散になりやすいという問題点がある。この場合、所望の物性を安定に得ることはできず、品質面で問題となることがある。また、前記問題を回避するためには、生産工程を高度に制御することが必要となり、これらの制御は生産性、コスト等の面で好ましいものではない。
【0006】
さらに、コーティング法においては、設備や運用にさらに多大なコストを要するという問題点がある。他方、液相法においては、分散剤等の使用により合成した粒子の純度が低くなり易いという品質面での問題点もある。
【0007】
また、スプレードライ法についても、カプセル型粒子同士の凝集を十分には抑制することができず、得られたカプセル型粒子の分散性は満足のいくものではない。同様に、樹脂成分を分散媒中に十分に分散させるために、界面活性剤等を併用しなければならない場合もあり、この場合も同様に、界面活性剤等に起因する不純物の含有が問題となることがある。
【0008】
従って、本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、不純物の含有量が少ない、1以上のコアを有する単分散なカプセル型粒子の製造方法および前記製造方法により得られるカプセル型粒子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かくして本発明によれば、コアとなる微粒子とシェルとなる樹脂成分とを含む分散液を静電噴霧することによって、1以上のコアを有する単分散なカプセル型粒子を得ることを特徴とするカプセル型粒子の製造方法が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、不純物の含有量が少ない単分散なカプセル型粒子も提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、不純物の含有量が少ない単分散なカプセル型粒子を容易に製造することができる。
【0012】
また、本発明によれば、不純物の含有量が少ない、1つのコアを有する単分散なコア−シェル粒子を製造することもできる。
【0013】
また、本発明によれば、不純物の含有量が少ない、2以上のコアを有する単分散なコンポジット粒子を製造することもできる。
【0014】
また、本発明によれば、
分散液が、樹脂成分2〜20重量部と微粒子0.5〜40重量部とを分散媒100重量部中に分散させることによって形成され、
静電噴霧が、静電噴霧装置を用いて、分散液を0.5〜10μL/分の供給速度で供給し、20〜60℃で行われる場合、不純物の含有量が少ない単分散なカプセル型粒子をより容易に製造することができる。
【0015】
また、本発明によれば、
分散液が、樹脂成分2〜12重量部と微粒子4〜6重量部とを分散媒100重量部中に分散させることによって形成され、
静電噴霧が、静電噴霧装置を用いて、分散液を0.5〜1.5μL/分の供給速度で供給し、20〜60℃で行われる場合、不純物の含有量が少ない単分散なコア−シェル粒子をより容易に製造することができる。
【0016】
また、本発明によれば、分散液が、微粒子としてシリカを含み、樹脂成分としてポリメチルメタクリレート樹脂を含み、分散媒としてジメチルホルムアミドを含む場合、より単分散なカプセル型粒子を得ることができる。
【0017】
また、本発明によれば、20%以下のCV値を有する単分散なカプセル型粒子を得ることもできる。
【0018】
また、本発明によれば、微粒子が0.3〜2μmの平均粒子径を有する場合、より単分散なカプセル型粒子を得ることができる。
【0019】
また、本発明によれば、静電噴霧が二酸化炭素気流下に行われる場合、より捕集効率を上げつつ、単分散なカプセル型粒子を得ることができる。
【0020】
また、本発明によれば、微粒子が単分散粒子である場合、より単分散なカプセル型粒子を得ることができる。
【0021】
また、本発明によれば、カプセル型粒子が樹脂成分と微粒子とからなる場合、より不純物の含有量の少ないカプセル型粒子を得ることができる。
【0022】
また、本発明によれば、カプセル型粒子が、微粒子の平均粒子径の1.1〜4倍の平均粒子径を有する場合、より大粒径で、不純物の含有量が少ない単分散なカプセル型粒子を得ることができる。
【0023】
また、本発明によれば、カプセル型粒子が、カプセル型粒子の表面に凹部および凸部を有する場合、より多孔質な構造を有し、不純物の含有量が少ない単分散なカプセル型粒子を得ることができる。
【0024】
本発明によれば、不純物の含有量が少ない単分散なカプセル型粒子を得ることができる。
【0025】
また、本発明によれば、不純物の含有量が少ない、1つのコアを有する単分散なコアシェル粒子を得ることもできる。
【0026】
また、本発明によれば、不純物の含有量が少ない、2以上のコアを有する単分散なコンポジット粒子を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1において得られたカプセル型粒子の電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明において使用し得る静電噴霧装置の模式図である。
【図3】比較例1〜2および実施例1〜4において使用した微粒子の電子顕微鏡写真である。
【図4】比較例1において得られた多分散なカプセル型粒子の電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明において使用し得る静電噴霧装置の模式図である。
【図6】実施例2において得られたカプセル型粒子の電子顕微鏡写真である。
【図7】比較例2において得られた多分散なカプセル型粒子の電子顕微鏡写真である。
【図8】比較例2において得られた多分散なカプセル型粒子の粒度分布である。
【図9】実施例3において得られたカプセル型粒子の電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例4において得られたカプセル型粒子の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の特徴は、コアとなる微粒子とシェルとなる樹脂成分とを含む分散液を静電噴霧することによって、1以上のコアを有する単分散なカプセル型粒子を得るカプセル型粒子の製造方法である。
【0029】
具体的には、本発明の特徴は、前記分散液を静電噴霧することによって、1以上のコアを有し、不純物の含有量が少なく、粒子径分布が極めて狭く、樹脂成分によって微粒子が均一に被覆されたカプセル型粒子を得ることができるカプセル型粒子の製造方法である。
【0030】
本発明において、静電噴霧とは、分散液を静電的に帯電させることによって、帯電した状態の液滴を生成し、次いで得られた液滴を噴射する噴霧方法を意味する。
【0031】
また、カプセル型粒子とは、1以上のコアとなる微粒子がシェルとなる樹脂成分によって被覆された微粒子を意味する。本発明のカプセル型粒子は、コアとなる微粒子が樹脂成分によって全ての部分が被覆されていることが好ましいが、所望の物性に影響を与えない限り、微粒子の一部が樹脂成分によって被覆されていなくてもよい。
【0032】
さらに、コア−シェル粒子とは、1つのコアとなる微粒子がシェルとなる樹脂成分によって被覆された微粒子を意味し、コンポジット粒子とは、2以上のコアとなる微粒子がシェルとなる樹脂成分によって被覆された微粒子を意味する。
【0033】
他方、単分散なカプセル型粒子とは、極めて狭い粒度分布を有するカプセル型粒子を意味する。本発明においては、好ましくは20%以下のCV値、より好ましくは10%以下のCV値を有するカプセル型粒子を得ることができる。
【0034】
前記CV値は、本発明のカプセル型粒子が極めて高い単分散性を有していることを示している。また、前記CV値は、本発明のカプセル型粒子が2以上のコアを有するコンポジット粒子である場合であっても、本発明のコンポジット粒子は従来の多分散な凝集粒子とは異なって、極めて狭い単分散性を有することを示している。
以下、本発明の製造方法を詳説する。
【0035】
(分散液)
本発明で用い得る樹脂成分としては、分散媒に溶解、膨潤、分散等することができ、単分散性等の所望の物性に影響を与えない限り、いかなる樹脂成分も使用することができる。
【0036】
具体的には、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、アクリルシリコン系樹脂、アクリル変性ポリオレフィン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエーテル系樹脂等を挙げることができる。
【0037】
本発明においては、静電噴霧工程における樹脂同士の融着防止の観点から、ポリエチレングリコール樹脂等のポリエーテル系樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂等のアクリル系樹脂が好ましく、ポリメチルメタクリレート樹脂がより好ましい。
【0038】
また、本発明において使用する樹脂成分は、同様に静電噴霧工程や所望の物性等に影響を与えない限り、アルキル基、ビニル基、芳香族基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基、アミノ基、ニトリル基、ニトロ基等のその他の官能基を含んでいてもよい。また、本発明の樹脂成分は樹脂成分を単独で使用してもよく、樹脂成分を2種以上で併用してもよい。さらに、本発明の樹脂成分は架橋剤で架橋されていてもよく、その他の単量体成分を樹脂成分中に含んでいてもよい。
【0039】
本発明において、樹脂成分としては、コアとなる微粒子を全体に亘ってより均一に被覆することができるため、分散媒に溶解し得る樹脂成分が好ましい。
【0040】
本発明で用い得る微粒子として、静電噴霧工程後、カプセル型粒子内に1以上のコア部分を確認することができる限り、いかなる有機微粒子、無機微粒子、金属微粒子等も使用することができる。
【0041】
具体的には、被覆容易性等の観点から、微粒子としてSiO2(シリカ)、TiO2(酸化チタン)等の酸化物系無機微粒子が好ましく、SiO2がより好ましい。また、所望の物性に影響を与えない限り、微粒子を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。さらに、カプセル型粒子の使用用途によって微粒子を選択することにより、カプセル型粒子に所望の物性を付与することもできる。
【0042】
また、微粒子の被覆容易性、カプセル型粒子の製造容易性の観点から、微粒子は0.3〜2μmの、好ましくは0.3〜1.3μmの平均粒子径を有する。
本発明においては、前記平均粒子径を有する比較的大粒径の微粒子を被覆することができる。
【0043】
同様に、コア−シェル粒子の場合、微粒子は、好ましくは0.3〜2μmの、より好ましくは0.9〜1.3μmの平均粒子径を有する。また、コンポジット粒子の場合も、微粒子は、好ましくは0.3〜2μmの平均粒子径を有する。
【0044】
さらに、より単分散なカプセル型粒子を得ることができるため、微粒子は単分散粒子であることが好ましい。ここで、単分散粒子とは、図3に示すような粒度分布が比較的均一な単分散性の高い粒子を意味する。
【0045】
本発明で用い得る分散媒としては、静電噴霧において、分散媒が除去され、所望のカプセル型粒子を得ることができる限り、いかなる分散媒も使用することができる。
【0046】
具体的には、水のみならず、
アルコール系、エーテル系、カルボン酸系、エステル系、アルデヒド系、ケトン系、芳香族系等の有機溶剤;
ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、スルホラン等の非プロトン性溶剤
等が挙げられる。
本発明においては、樹脂成分、微粒子をより容易に分散させることができるため、分散媒として非プロトン性溶媒が好ましく、ジメチルホルムアミドがより好ましい。また、所望の物性に影響を与えない限り、分散媒を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
また、樹脂同士の融着を引き起こすことなく、より容易に単分散なカプセル型粒子を得ることができるため、分散液は、微粒子としてシリカを含み、樹脂成分としてポリメチルメタクリレート樹脂を含み、分散媒としてジメチルホルムアミドを含むことが好ましい。
【0048】
カプセル型粒子とするためには、分散液は、それを構成する分散媒100重量部に対して、2〜20重量部の樹脂成分と0.5〜40重量部の微粒子を含むことが好ましい。
コア−シェル粒子とするためには、分散液は、それを構成する分散媒100重量部に対して、2〜12重量部の樹脂成分と4〜6重量部の微粒子を含むことが好ましい。他方、コンポジット粒子とするためには、分散液は、それを構成する分散媒100重量部に対して、2〜12重量部の樹脂成分と0.5〜32重量部の微粒子を含むことが好ましい。
【0049】
さらに、コアーシェル型粒子を製造するためには、静電噴霧により発生した液滴の分裂を抑制しないために、分散液は好ましくは10cp以下、より好ましくは8cp以下の粘度を有する。同様に、コアーシェル型粒子を合成するためには、分散液は好ましくは10cp以下、より好ましくは8cp以下の粘度を有する。
【0050】
本発明のカプセル型粒子は、所望の物性や静電噴霧工程等に影響を与えない限り、その他の樹脂成分、気泡調整剤、難燃剤、着色剤、界面活性剤等を適宜含んでいてもよい。ただし、均一な品質の維持、異物混入防止等の観点から、カプセル型粒子は前記成分、特に界面活性剤を含まないことが好ましい。
【0051】
(製造方法)
以下に本発明で用い得る静電噴霧法の一例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
本発明のカプセル型粒子は、微粒子、樹脂成分および分散媒を含む分散液を得、次いで、得られた分散液を静電噴霧することによって得られる。
【0053】
具体的には、樹脂成分、微粒子および分散媒を混合することによってそれらを含む分散液を得、得られた分散液を静電噴霧装置のノズル細管から噴霧することによって、分散液の微細な液滴を形成する。次いで、静電噴霧装置内で液滴に含まれる分散媒を蒸発させながら対極電極上にカプセル型粒子を沈着させ、得られたカプセル型粒子を回収する。本発明においては、前記工程を行うことができる限り、図2および図5に示すような公知の静電噴霧法、静電噴霧装置をいずれも使用することができる。
【0054】
本発明においては、カプセル型粒子を製造する場合、好ましくは0.5〜10μL/分の、より好ましくは0.5〜6μL/分以下の供給速度で分散液を供給する。また、コアーシェル型粒子を製造する場合、好ましくは0.5〜2.5μL/分の、より好ましくは0.5〜1.5μL/分の供給速度で分散液を供給する。一方、コンポジット型粒子を製造する場合、噴霧状態の安定性のため、好ましくは0.5μL/分以上の、より好ましくは0.5〜6μL/分以下の供給速度で分散液を供給する。
【0055】
また、分散媒の蒸発が不完全なために起こるカプセル型粒子同士の融着防止の観点から、カプセル型粒子を製造する場合、好ましくは20〜60℃、より好ましくは25〜50℃の系内温度で静電噴霧を行う。
【0056】
本発明によれば、好ましくは、
分散液が、樹脂成分2〜20重量部と微粒子0.5〜40重量部とを分散媒100重量部中に分散させることによって形成され、
静電噴霧が、静電噴霧装置を用いて、分散液を0.5〜10μL/分の供給速度で供給し、20〜60℃で行われる場合、不純物の含有量が少ない単分散なカプセル型粒子をより容易に製造することができる。
【0057】
また、本発明によれば、好ましくは、
分散液が、樹脂成分2〜12重量部と微粒子4〜6重量部とを分散媒100重量部中に分散させることによって形成され、
静電噴霧が、静電噴霧装置を用いて、分散液を0.5〜1.5μL/分の供給速度で供給し、20〜60℃で行われる場合、不純物の含有量が少ない単分散なコア−シェル粒子をより容易に製造することができる。
【0058】
さらに、本発明によれば、好ましくは、
分散液が、樹脂成分2〜12重量部と微粒子0.5〜32重量部とを分散媒100重量部中に分散させることによって形成され、
静電噴霧が、静電噴霧装置を用いて、分散液を0.5〜6μL/分の供給速度で供給し、20〜60℃で行われる場合、不純物の含有量が少ない単分散なコンポジット粒子をより容易に製造することができる。
なお、この場合、コア−シェル粒子が製造される前記の好ましい範囲は除かれることが好ましい。
【0059】
本発明においては、より分散液中に含まれる分散媒をより蒸発させることができるため、気流下に静電噴霧を行うことが好ましく、放電を回避して噴霧状態を安定化させるという観点から、二酸化炭素気流下に静電噴霧を行うことがより好ましい。静電噴霧する溶液・材料によっては、大気中、窒素等の雰囲気中においても安定な静電噴霧が可能である。
【0060】
また、材料種、静電噴霧装置の供給速度等の静電噴霧条件を適宜調整することによって、コアを1つ有するカプセル型粒子のみならず、2つ以上のコアを有するカプセル型粒子、即ち、コンポジット粒子を製造することもできる。
【0061】
さらに、本発明によれば、両者のいずれかを選択的に製造することができ、両者を一度に製造することもできる。なお、所望の物性を得ることができる限り、一方の粒子が他方の粒子を少量含んでいてもよい。
【0062】
(カプセル型粒子)
本発明の製造方法を用いることによって、極めて容易に単分散なカプセル型粒子を得ることができる。
【0063】
本発明によれば、カプセル型粒子が樹脂成分と微粒子とからなる場合、前記2成分のみを実質的に含む、より不純物の含有量の少ないカプセル型粒子を得ることもできる。
【0064】
本発明においては、微粒子100重量部に対して30重量部以上の樹脂成分が含まれることが好ましい。30重量部より低い場合、微粒子が樹脂成分によって十分被覆されていないことがある。同様に、カプセル型粒子がコンポジット粒子である場合も、微粒子100重量部に対して30重量部以上の樹脂成分が含まれることが好ましい。
【0065】
また、所望の用途で適宜使用することができるため、本発明のカプセル型粒子は、好ましくは0.3〜50μm、より好ましくは0.3〜10μmの平均粒子径を有する。
【0066】
他方、より単分散なカプセル型粒子を得ることができるため、本発明のカプセル型粒子は、好ましくは厚さ0.1〜10μm、より好ましくは厚さ0.5〜2μmのシェルを有する。
【0067】
さらに、原料比率等を適宜調製することによって、球状ないし略球状のカプセル型粒子を製造することができ、楕円球状のカプセル型粒子を製造することもできる。一方、凹部および凸部を有するカプセル型粒子を適宜製造することもできる。
【0068】
本発明によれば、カプセル型粒子が、微粒子の平均粒子径の好ましくは1.1〜4倍の平均粒子径を有する場合、より大粒径で、単分散なカプセル型粒子を得ることもできる。カプセル型粒子が1.1倍より低い平均粒子径を有する場合、微粒子表面が十分に樹脂成分によって被覆されていないことがある。一方、カプセル型粒子が4倍より高い平均粒子径を有する場合、カプセル型粒子同士の融着が問題となることがある。
【0069】
また、本発明によれば、表面に凹部および凸部を有するカプセル型粒子を製造することもでき、この場合、より多孔質な構造を有するカプセル型粒子を得ることもできる。カプセル型粒子が多孔質な構造を有する場合、吸水性、吸油性等の所望の物性を向上させ得ることもある。
【0070】
本発明の製造方法により得られるカプセル型粒子は極めて単分散であるため、本発明の製造方法は、添加剤、農業分野における除草剤、医薬分野におけるDrug Delivery System (DDS)、化粧品、電子材料、生物医薬等の製造方法として好適に使用することができる。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を挙げてさらに説明するが、本発明は、これら実施例により限定されるものではない。
<CV値>
カプセル型粒子の単分散性を示すCV値(Coefficient of Variation)は、
CV[%]=(σ/D)×100(σ:標準偏差、D:平均粒径)
で得られ、この値が小さいほど単分散であることを示している。
【0072】
<平均粒子径>
微粒子およびカプセル型粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)によりそれらの粒子形態を観察し、SEM写真より粒子径を算出する。
【0073】
<シェルの厚さ>
カプセル型粒子のシェルの厚さは、走査型電子顕微鏡(SEM)により、カプセル型粒子の粒子形態を観察し、そのSEM写真より粒子径を算出する。同様にして、コアとなる微粒子の粒子径を算出し、カプセル型粒子の粒子径、コアに用いた微粒子の粒子径からシェルの厚みを算出する。
【0074】
<比較例、実施例共通条件>
シェルとなる樹脂材料をPMMA、コアとなる微粒子をシリカ(SiO2)として、静電噴霧法にて、コア−シェル粒子およびコンポジット粒子を合成する例を以下に説明する。
コアとなる微粒子は、トクヤマ株式会社製の単分散なSiO2粒子を用いた。図3に(a)平均粒子径Dpav=0.3μm(標準偏差σ=1.03、トクヤマ株式会社製、製品名St−1330)、(b)平均粒子径Dpav=1.1μm(標準偏差σ=1.02、トクヤマ株式会社製、製品名KE−P100)のSiO2粒子のSEM写真を示す。また、ポリマーにはポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA、旭化成株式会社製)を、溶媒にはジメチルホルムアミド(DMF、SIGMA-ALDRICH社製、製品名N,N-Dimethylformamide, Biotech grade solvent)を用いた。分散液には超音波式分散機を用いてSiO2粒子をポリマー溶液中へ分散させた溶液を用いた。
【0075】
<製造装置1>
カプセル型粒子を製造する静電噴霧装置の模式図を図2に示す。図2に示す装置はチャンバー内の温度を制御するためにCO2ガスを流し、加熱を行った。対向電極はアースにした。また捕集板はアース、もしくは−1kVの電圧を印加した。噴霧に用いた金属細管はゲージ径27G(内径約0.2mm)の針を用いた。CO2ガス流量は入口で3L/分、出口で1L/分とした。
入口CO2ガス温度は室温、チャンバーは50℃に加熱した。CO2ガスを用いたのは、噴霧状態を安定させやすいためである。また、加熱を行い溶媒の蒸発を促すことで、噴霧距離を近づけることが可能になり、捕集効率を上げることができる。
【0076】
<製造装置2>
大気中への静電噴霧により、カプセル型粒子を製造する静電噴霧装置の模式図を図5に示す。前記装置と同様に捕集板はアース、もしくは−1kVの電圧を印加し、噴霧に用いた金属細管はゲージ径27G(内径約0.2mm)の針を用いた。
静電噴霧方法は製造装置1の場合と同様に行う。
【0077】
(比較例1)
図2に示す製造装置を用い、PMMA:SiO2(Dpav=0.3μm):DMF=1:5:100(SiO2 4.7wt%)のSiO2粒子分散液を静電噴霧したときに合成されたカプセル型粒子のSEM写真を図4に示す。なお、本発明においては、前記PMMA、SiO2、DMFに関する数値等は重量部を意味する。ここで、PMMA:SiO2(Dpav=0.3μm):DMF=1:5:100の粘度は1.4cPであった。また、分散液の供給速度は2μL/分であった。図4より、前記条件での静電噴霧では、複雑な形状を有する数個から10個程度のコア粒子が凝集したポリマー粒子が合成されていることが分かる。
【0078】
得られた粒子の平均粒子径Dpav=0.91μm、標準偏差σ=0.19、CV(%)=21.4であった。
前記CV値から多分散なカプセル型粒子が得られていることが分かる。
【0079】
(比較例2)
図5に示す製造装置を用い、PMMA:SiO2(Dpav=1.1μm):DMF=1:5:100の溶液(粘度1.33cP)を、供給流量を変えて合成したカプセル型粒子粒子のSEM写真を図7に、粒度分布を図8にそれぞれ示す。(a)〜(c)の供給流量は、それぞれ(a)1μL/分、(b)2μL/分、(c)5μL/分である。図7、図8より、供給流量が大きくなるにつれて、複数個のSiO2粒子を含んだコンポジット粒子が合成されていることがわかる。これは、液滴径が大きくなったため、Rayleigh分裂後の液滴中に複数のSiO2粒子が含まれた状態で溶媒の蒸発、ポリマーの固化が起きたため、SiO2粒子が複数個含まれたコンポジット粒子が合成されたと考えられる。
【0080】
ここで、図8の粒度分布より、図8(a)、(b)では大きくわけて3つのピーク(13、14および15等)が発生している。2.5μm前後のピーク(15)は、複数個のSiO2粒子を含んだコンポジット粒子が発生したためである。1.5μm前後のピーク(14)はひとつのSiO2粒子の周りがポリマーで覆われたコア−シェル粒子が合成されたためである。このコア−シェル粒子のピーク(14)の部分について、平均粒子径Dpav=1.20μm、標準偏差σ=0.054、CV(%)=4.48である。0.3μm前後のピークは1μmの大きなSiO2粒子が含まれているために、Rayleigh限界による分裂が不均一に起こり、微小なポリマー粒子が発生したためと考えられる。
【0081】
(a)の場合、得られた粒子の平均粒子径Dpav=1.04μm、標準偏差σ=0.76、CV(%)=73.3であった。
(b)の場合、得られた粒子の平均粒子径Dpav=1.10μm、標準偏差σ=0.71、CV(%)=65.1であった。
(c)の場合、得られた粒子の平均粒子径Dpav=2.34μm、標準偏差σ=0.61、CV(%)=62.8であった。
前記CV値から多分散なカプセル型粒子が得られていることが分かる。
【0082】
(実施例1)
図5に示す製造装置を用い、PMMA:SiO2(Dpav=1.1μm):DMF=10:5:100の溶液(粘度7.63cP)を、供給流量を変えて合成したカプセル型粒子のSEM写真を図1に示す。(a)〜(c)の供給流量は、それぞれ(a)1μL/分、(b)2μL/分、(c)5μL/分である。供給流量が大きくなるに従い、粒子径が大きくなり内部に含まれるSiO2粒子の数が増えていることがわかる。また、供給流量が1μL/分のとき、図1(a)よりひとつのSiO2粒子の周りをPMMAが覆っているコア−シェル粒子が発生していることが確認できる。このことから、供給流量を減らし粒子径を小さくすることで、コア−シェル粒子を合成できることがわかる。また、図1(a)より極少量の複数のSiO2粒子が含まれるものとコア−シェル粒子が混在して発生している。これはSiO2粒子の個数濃度が発生液滴個数濃度よりも高いため、液滴中に複数のSiO2粒子が含まれた液滴が発生したためである。よって、溶液中のSiO2粒子濃度を調整することで、コア−シェル粒子のみを発生させることが可能である。
【0083】
(a)の場合、得られた粒子の平均粒子径Dpav=2.29μm、標準偏差σ=0.36、CV(%)=15.8であった。
(b)の場合、得られた粒子の平均粒子径Dpav=2.74μm、標準偏差σ=0.31、CV(%)=11.2であった。
(c)の場合、得られた粒子の平均粒子径Dpav=3.52μm、標準偏差σ=0.36、CV(%)=10.1であった。
【0084】
(実施例2)
原料溶液の供給流量とカプセル型粒子の粒子径について、以下に説明する。
図5に示す製造装置を用い、PMMA:SiO2 (Dpav=0.3μm):DMF=10:5:100の溶液を、供給流量を変えて合成したカプセル型粒子のSEM写真を図6に示す。(a)〜(c)の供給流量は、それぞれ(a)1μL/分、(b)2μL/分、(c)5μL/分である。図6より、ポリマー中に複数個のSiO2粒子が含まれていることがわかる。供給流量が多いほど、SiO2粒子が複数個含まれた粒径の大きいコンポジット粒子が合成されることが分かる。
【0085】
(a)の場合、得られた粒子の平均粒子径Dpav=1.67μm、標準偏差σ=0.23、CV(%)=13.6であった。
(b)の場合、得られた粒子の平均粒子径Dpav=1.99μm、標準偏差σ=0.20、CV(%)=10.3であった。
(c)の場合、得られた粒子の平均粒子径Dpav=2.99μm、標準偏差σ=0.27、CV(%)=9.24であった。
【0086】
(実施例3)
図5に示す製造装置を用い、(a)SiO2(Dpav=1.1μm)、(b)PMMA:SiO2(Dpav=1.1μm):DMF=1:5:100の溶液(粘度1.33cP)、(c)PMMA:SiO2(Dpav=1.1μm):DMF=10:5:100の溶液(粘度7.63cP)を、供給流量1μL/分で静電噴霧することで合成されたカプセル型粒子のSEM写真を図9に示す。図9(a)より、SiO2粒子のみの場合、表面は滑らかだが、図9(b)では表面に凹凸が確認できる。これは、PMMAがSiO2粒子を覆っているためと考えられる。また、図9(c)ではSiO2粒子の周りを覆っているPMMAの膜厚が図9(b)と比較して厚くなっていることがわかる。
以上の結果から、供給流量が低い条件で静電噴霧によりPMMA−SiO2コア−シェル粒子を合成できることが分かる。また、PMMAの濃度を高くすることにより、膜厚を厚くできることが分かる。
【0087】
(b)の場合、得られた粒子の平均粒子径Dpav=1.04μm、標準偏差σ=0.76、CV(%)=73.3であった。
(c)の場合、得られた粒子の平均粒子径Dpav=2.29μm、標準偏差σ=0.36、CV(%)=15.8であった。
【0088】
(実施例4)
図5に示す製造装置を用い、SiO2粒子(Dpav=1.1μm)濃度を変化させたときの、供給流量2μL/分で静電噴霧することで合成されたカプセル型粒子の形態変化についてSEM写真を図10に示す。4種類の溶液の構成比は次のとおりである。
(a)PMMA:SiO2:DMF=10:1:100、
(b)PMMA:SiO2:DMF=10:5:100(粘度7.63cP)、
(c)PMMA:SiO2:DMF=10:10:100、
(d)PMMA:SiO2:DMF=10:30:100。
図10より、SiO2粒子濃度が大きくなるに伴い、内部に含まれるSiO2粒子の個数が増えていることがわかる。また、図10(d)ではSiO2粒子がカプセル型粒子表面に凹凸をつくっていることが確認される。以上より、SiO2粒子濃度を変化させることで、カプセル型粒子の内部、また表面形態を変化させることができた。
【0089】
(a)の場合、得られた粒子の平均粒子径Dpav=2.57μm、標準偏差σ=0.34、CV(%)=13.1であった。
(b)の場合、得られた粒子の平均粒子径Dpav=2.74μm、標準偏差σ=0.31、CV(%)=11.2であった。
(c)の場合、得られた粒子の平均粒子径Dpav=2.66μm、標準偏差σ=0.31、CV(%)=12.0であった。
(d)の場合、得られた粒子の平均粒子径Dpav=2.87μm、標準偏差σ=0.30、CV(%)=10.5であった。
【0090】
本発明の実施例で得られたカプセル型粒子は比較例で得られたカプセル型粒子と比較してより低いCV値を示した。このことは、実施例で得られたカプセル型粒子は比較例で得られたカプセル型粒子と比較してより単分散であることを示している。また、実施例で得られたカプセル型粒子は微粒子と樹脂成分によって構成されるため、実質的に不純物を含まない微粒子である。
【0091】
以上の実施例において、カプセル型粒子の樹脂成分としてPMMA、微粒子としてシリカ、分散媒としてDMFを用いた例を示したが、静電噴霧可能な分散液を構成できれば、どのような材料でも使用可能である。コア粒子は有機材料/無機材料のいずれに限定されるものでなく、またシェル材料もPMMAの他、ポリエステル、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリアニリンなどが可能である。また溶媒もDMFの他、エタノール、イソプロピルアルコール、トルエン、THFなどの有機溶媒またはその混合溶液もしくは水などが利用可能である。
【符号の説明】
【0092】
1 +H.V.
2 加熱炉
3 温調機
4 回収機
5 ポンプ
6 出口
7 +H.V.
8 シリンジポンプ
9 シリンジ
10 顕微鏡
11 アルミニウム板
12 −H.V.
13 微小粒子
14 1つのコアを有するカプセル型粒子(コア−シェル粒子)
15 2以上のコアを有するカプセル型粒子(コンポジット粒子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアとなる微粒子とシェルとなる樹脂成分とを含む分散液を静電噴霧することによって、1以上のコアを有する単分散なカプセル型粒子を得ることを特徴とするカプセル型粒子の製造方法。
【請求項2】
前記カプセル型粒子が、1つのコアを有するコア−シェル粒子である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記カプセル型粒子が、2以上のコアを有するコンポジット粒子である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記分散液が、前記樹脂成分2〜20重量部と前記微粒子0.5〜40重量部とを分散媒100重量部中に分散させることによって形成され、
前記静電噴霧が、静電噴霧装置を用いて、前記分散液を0.5〜10μL/分の供給速度で供給し、20〜60℃で行われる請求項1〜3のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項5】
前記カプセル型粒子がコア−シェル粒子であり、
前記分散液が、前記樹脂成分2〜12重量部と前記微粒子4〜6重量部とを分散媒100重量部中に分散させることによって形成され、
前記静電噴霧が、静電噴霧装置を用いて、前記分散液を0.5〜1.5μL/分の供給速度で供給し、20〜60℃で行われる請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記分散液が、前記微粒子としてシリカを含み、前記樹脂成分としてポリメチルメタクリレート樹脂を含み、分散媒としてジメチルホルムアミドを含む請求項1〜5のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項7】
前記カプセル型粒子が、20%以下のCV値を有する請求項1〜6のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項8】
前記微粒子が、0.3〜2μmの平均粒子径を有する請求項1〜7のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項9】
前記静電噴霧が、二酸化炭素気流下に行われる請求項1〜8のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項10】
前記微粒子が、単分散粒子である請求項1〜9のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項11】
前記カプセル型粒子が、前記樹脂成分と前記微粒子とからなる請求項1〜10のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項12】
前記カプセル型粒子が、前記微粒子の平均粒子径の1.1〜4倍の平均粒子径を有する請求項1〜11のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項13】
前記カプセル型粒子が、前記カプセル型粒子の表面に凹部および凸部を有する請求項1〜12のいずれか1つに記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1つに記載の製造方法によって得られるカプセル型粒子。
【請求項15】
前記カプセル型粒子が、コア−シェル粒子である請求項14に記載のカプセル型粒子。
【請求項16】
前記カプセル型粒子が、コンポジット粒子である請求項14に記載のカプセル型粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−255304(P2011−255304A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131418(P2010−131418)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】