説明

カボス粉末の製造方法

【課題】菓子,パン類,ジュース類等の食品の材料等、多様な用途に適用可能なカボス粉末の製造方法に関し、未成熟カボスの果皮の特徴のある緑色が退色することなく長期間保持されるとともに口当たりが滑らかなカボス粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)未成熟カボスの果皮の表層の緑色皮肉を重曹水溶液中で銅製部材に接触させながら加熱し第一加熱処理物を得る第一加熱工程と、(b)前記第一加熱処理物を水中で加熱し第二加熱処理物を得る第二加熱工程と、(c)前記第二加熱処理物を乾燥する乾燥工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未成熟カボスの緑色皮肉を利用したカボス粉末の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
野菜や果物を加工した粉末は、菓子,パン類,ジュース類等の食品の材料等、多様な用途のために製造されている。近年では、柑橘類の粉末の製造方法が開発されている。
この従来の技術としては、例えば、(特許文献1)に「成熟した温州ミカンの果実を丸ごとミキサーにかけて得たペーストを凍結乾燥処理した後、粉砕するミカン粉末の製造方法」が開示されている。
(特許文献2)には、「柑橘類の搾り滓を、炭酸ナトリウムと塩化ナトリウムを溶解した溶液で煮沸して乾燥した後、粉砕する柑橘類の粉末の製造方法」が開示されている。
(特許文献3)には、「植物の果皮や種子を含む全果を凍結することなく常温で粉砕した後、噴霧乾燥する植物パウダーの製造方法」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−194512号公報
【特許文献2】特開2006−51411号公報
【特許文献3】特開2008−295440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来の技術を利用して、未成熟カボスの緑色の果皮からカボス粉末を製造する場合には、以下のような課題を有していた。
(1)未成熟カボスの果皮は、表層の緑色皮肉と、その下層の厚いスポンジ状の白身皮肉と、を有している。緑色皮肉は硬く凸凹しているため、(特許文献1)や(特許文献3)に開示された技術を利用して、未成熟カボスを丸ごと粉砕すると、ザラザラとして口当たりが甚だ悪くなり、また白身皮肉はスポンジ状のため細粒化が極めて困難なため、細粒化されなかった白身皮肉が緑色皮肉に混ざってカボス粉末が白濁化するという課題を有していた。食品を緑色に着色するためにカボス粉末を添加しても、カボス粉末が白濁化しているため、食品を鮮やかな緑色に着色することが難しいという課題を有していた。
(2)未成熟カボスの果皮を原料として、(特許文献2)に開示された技術を利用し、炭酸ナトリウムと塩化ナトリウムを溶解した溶液で煮沸して製造された粉末は、果皮の特徴のあるモスグリーン色が退色して褐色化してしまうという課題を有していた。
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、未成熟カボスの果皮の特徴のある緑色が退色することなく長期間保持されるとともに口当たりが滑らかなカボス粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記従来の課題を解決するために本発明のカボス粉末の製造方法は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載のカボス粉末の製造方法は、(a)未成熟カボスの果皮の表層の緑色皮肉を重曹水溶液中で銅製部材に接触させながら加熱し第一加熱処理物を得る第一加熱工程と、(b)前記第一加熱処理物を水中で加熱し第二加熱処理物を得る第二加熱工程と、(c)前記第二加熱処理物を乾燥する乾燥工程と、を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)未成熟カボスの果皮の緑色皮肉の緑色色素(クロロフィル)は、単なる加熱処理や常温での酵素反応では、配位しているマグネシウムが失われ退色し褐色化してしまう。しかし、第一加熱工程において、未成熟カボスの果皮の表層の緑色皮肉を重曹水溶液中で銅製部材に接触させながら加熱することにより、緑色皮肉の灰汁抜きをして苦味等が除去されるとともに緑色皮肉を軟化させ、さらに第一加熱処理物のpHの低下が抑えられ、銅製部材から極微量の銅イオンが溶出するので、緑色皮肉の緑色色素(クロロフィル)からマグネシウムが失われるのが防止されるとともに、一部のクロロフィルの中心元素が銅に置換され、光や酸等に対してより安定となり、退色することなく緑色が長期間保持される。
(2)第一加熱処理物を水中で加熱する第二加熱工程を備えているので、第一加熱処理物に残存する重曹成分、残存する灰汁、ぬめり及び臭みを除去することができる。
【0007】
ここで、第一加熱工程では、緑色の未成熟カボスを丸ごと水洗い又は湯洗いして、表面の農薬や汚れを取り除いた後、果皮を剥き、スポンジ状の白色皮肉を除く果皮の表層の緑色皮肉を、重曹水溶液中で銅製部材に接触させながら加熱する。未成熟カボスや緑色皮肉は、冷凍保存したものを用いることもできる。
また、重曹水溶液中で加熱する前に、緑色皮肉を重曹水溶液に12〜24時間浸して、灰汁抜きをすることもできる。これにより、苦味等をより効果的に除去できる。
【0008】
第一加熱工程においては、所定の濃度に調製した重曹水溶液中で緑色皮肉を加熱する。重曹は1乃至複数回に分けて加熱中に加えることもできる。重曹水溶液の最終的な濃度としては、1〜7%(W/V)が好適である。1%未満では緑色保持効果が薄れるとともに灰汁抜き効果も低下し、7%を超えると緑色保持効果が低下する。
【0009】
第一加熱工程で得られた第一加熱処理物は、水切りをした後、第二加熱工程を施すのが好ましい。第二加熱工程に持ち越される灰汁等の量を減少させるためである。また、第二加熱工程で得られた第二加熱処理物は、水切りをした後、乾燥工程を施すのが好ましい。乾燥効率を高めるためである。
第一加熱工程及び第二加熱工程における加熱処理は、必要に応じて、それぞれ二回以上を繰り返し行うことができる。第一加熱工程における加熱処理を二回以上繰り返し行うことにより、緑色皮肉の表面や繊維をさらに柔らかくすることができ、カボス粉末をさらに柔らかくできる。第二加熱工程における加熱処理を二回以上繰り返し行うことにより、第二加熱処理物の重曹の含有量、灰汁、ぬめり及び臭みを低減させることができる。
【0010】
第一加熱工程及び第二加熱工程においては、常圧下では、品温が90〜100℃になるように加熱するのが好ましい。品温が90℃未満では、カボス粉末の柔らかさや発色が乏しくなるからである。
圧力鍋等を用いて加圧条件下で加熱処理を行う場合は、品温は90〜120℃とすることができる。
【0011】
第一加熱工程及び第二加熱工程における各々の加熱時間としては、常圧下では、品温が90〜100℃に達した後、30〜120分間が好適である。加熱時間が30分未満では、カボス粉末の柔らかさや発色が乏しくなり、120分を超えるとカボス粉末の色鮮やかさが失われるからである。
圧力鍋等を用いて加圧条件下で加熱処理を行う場合、加熱時間は、常圧下の場合より短縮でき、例えば10〜40分とすることができる。加熱時間が10分未満では、カボス粉末の柔らかさや発色が乏しくなり、40分を超えるとカボス粉末の色鮮やかさが失われるからである。
第一加熱工程において重曹水溶液に接触させる銅製部材としては、内面の全部又は内壁面や底面の一部若しくは全部が銅又は銅合金で形成された鍋等の加熱容器を用いることができる。また、ステンレス製やホウロウ製等の加熱容器を用いる場合でも、一部若しくは全部が銅又は銅合金で形成された棒材や板材、網状等の銅製部材を加熱容器内に入れておけば、同様の効果が得られる。
なお、第二加熱工程においは、水に銅製部材を接触させながら加熱しなくても良いが、銅製部材を水に接触させながら加熱するのが好ましい。銅製部材から溶出する銅イオンの効果で、第二加熱処理物の発色をさらに鮮やかにすることができるからである。
第一加熱工程から第二加熱工程に亘る加熱時間において、銅製部材に接触させながら加熱する時間は、銅製部材に接触させずに加熱する時間より長くするのが好ましい。緑色皮肉の緑色色素(クロロフィル)の中心元素であるマグネシウムの消失を防止するとともに銅との置換を促進し、退色を防止するためである。
【0012】
乾燥工程としては、第二加熱処理物を凍結乾燥,熱風乾燥,減圧乾燥、冷風乾燥,直射日光を照射しない陰干し等が利用できる。乾燥方法は、第二加熱処理物が変色しない条件下で乾燥を行うことができれば、特に制限なく採用できる。
【0013】
本発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のカボス粉末の製造方法であって、 前記第一加熱工程及び/又は前記第二加熱工程の工程中若しくは工程後に、前記第一加熱処理物及び/又は前記第二加熱処理物から、白色皮肉を分離し、次いで、脱水して顆粒化した後、乾燥する乾燥工程を有する構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)第一加熱処理物や第二加熱処理物にスポンジ状の白色皮肉が含まれていたとしても、白色皮肉を浮上分離や網で掬う等によって除去することにより、カボス粉末中の緑色皮肉の純度を高め、鮮やかなエメラルドグリーン色にすることができる。
(2)第一加熱工程において、スポンジ状の白色皮肉を除いた緑色皮肉だけを加熱するのは、風味の悪化や白濁化を防止するためであるが、果皮を剥離する際に、緑色皮肉に白色皮肉が付着して混入してしまうのは避けられない。混入した白色皮肉を、第一加熱工程や第二加熱工程にて緑色皮肉と分離させるため、果皮の剥離作業における白色皮肉の混入は大きな問題ではなくなり、果皮の剥離作業の作業性が向上する。
(3)顆粒化することでカボス粉末の粒子が吸湿等によって塊状になることを防ぐことができ、また粉塵の発生を抑え取扱いが容易となる。
【0014】
ここで、第一加熱処理物や第二加熱処理物から白色皮肉を分離する手段としては、白色皮肉が繊維状であり、緑色皮肉より細かく低密度であることを利用して、例えば、濾過,遠心分離,浮上分離等の種々の手段を用いることができる。浮上分離は、第一加熱工程や第二加熱工程における加熱によって、重曹水溶液や水の液面に浮き上がってきた低密度の白色皮肉を緑色皮肉と分離するものである。浮き上がってきた白色皮肉は網で掬う等の手段によって除去することができる。
【0015】
脱水するには手絞り、網に入れて水を自然落下させる他、遠心分離などの機械による脱水方法が利用できる。この段階の皮肉には繊維成分が残っており、当初原料を裁断したサイズでお互いがその繊維成分によって繋がっているため、脱水した後で、かるく脱水物を解すだけで顆粒状にすることができる。
【0016】
本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のカボス粉末の製造方法であって、前記乾燥工程の前に、前記第二加熱処理物を裏ごしにかける構成を有している。
この構成により、請求項1又は2で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)柔らかくなった第二加熱処理物を裏ごしにかけた後に乾燥工程を行うことにより、カボス粉末をさらに細粉化或いは均質化させることができる。
【0017】
ここで、裏ごしにかける裏ごし器の網目の目開きとしては、8〜30メッシュが好適に用いられる。目開きが8メッシュより小さくなるにつれ、裏ごし器の網目が目詰まりを起こし生産性が低下する傾向がみられ、30メッシュより大きくなるにつれ細粉化や均質化が困難になる傾向がみられる。
【0018】
本発明の請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の内いずれか1に記載のカボス粉末の製造方法であって、前記乾燥工程による乾燥物を粉砕する粉砕工程を備えている構成を有している。
この構成により、請求項1乃至3のいずれか1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)粉砕工程において、第二加熱処理物を微細化することにより、硬く凸凹のある緑色皮肉の皮繊維部分が解砕され、口当たりが滑らかで水への分散性の良い微細なカボス粉末を得ることができる。
【0019】
ここで粉砕工程としては、カッタミル等の剪断粗砕機、回転ミル,ジェット粉砕機等の粉砕機を用いて、粉砕するものが用いられる。また、乾燥と粉砕の順序を逆にして、第二加熱処理物を湿った状態で粉砕した後、流動乾燥等によって乾燥することもできる。また、第二加熱処理物を凍結させた状態で粉砕する凍結粉砕を行なうこともできる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明のカボス粉末の製造方法によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)第一加熱工程において、未成熟カボスの果皮の表層の緑色皮肉を重曹水溶液中で銅製部材に接触させながら加熱することにより、緑色皮肉の灰汁抜きをして苦味等が除去されるとともに緑色皮肉を軟化させ、さらに第一加熱処理物のpHの低下が抑えられ、銅製部材から極微量の銅イオンが溶出するので、緑色皮肉の緑色色素(クロロフィル)からマグネシウムが失われるのが防止されるとともに、一部のクロロフィルの中心元素が銅に置換され、光や酸等に対してより安定となり、退色することなく緑色が長期間保持されるカボス粉末の製造方法を提供できる。
(2)第一加熱処理物を水中で加熱する第二加熱工程を備えているので、第一加熱処理物に残存する重曹成分、残存する灰汁、ぬめり及び臭みを除去できるカボス粉末の製造方法を提供できる。
【0021】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)第一加熱処理物や第二加熱処理物にスポンジ状の白色皮肉が含まれていたとしても、白色皮肉を浮上分離等によって除去することにより、カボス粉末中の緑色皮肉の純度を高め、エメラルドグリーン色の鮮やかなカボス粉末の製造方法を提供できる。
(2)混入した白色皮肉を、第一加熱工程や第二加熱工程にて緑色皮肉と分離させるため、果皮の剥離作業における白色皮肉の混入は大きな問題ではなくなり、果皮の剥離作業の作業性に優れたカボス粉末の製造方法を提供できる。
(3)顆粒化することでカボス粉末の粒子が吸湿等によって塊状になることを防ぐことができ、また粉塵の発生を抑え取扱いが容易となるカボス粉末の製造方法を提供できる。
【0022】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加え、
(1)柔らかくなった第二加熱処理物を裏ごしにかけた後に乾燥工程を行うことにより、さらに細粉化或いは均質化させたカボス粉末の製造方法を提供できる。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至3の内いずれか1の効果に加え、
(1)粉砕工程において、第二加熱処理物を微細化することにより、硬く凸凹のある緑色皮肉の皮繊維部分が解砕され、口当たりが滑らかで水への分散性の良いカボス粉末が得られる製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
未成熟カボスの果皮を剥き、果皮の表層の緑色皮肉3kgを銅鍋に入れた。この銅鍋に水8Lを入れ重曹80gを加えた後、銅鍋を火にかけて沸騰させた。沸騰後は弱火にして重曹80gをさらに加えた後1.5時間加熱し、第一加熱処理物を得た。最終的な重曹水溶液の濃度は2%(W/V)であった。
8Lの水を入れた銅鍋に、水切りした第一加熱処理物3.2kgを入れ、重曹160gを水に添加して溶解させた後、火にかけて沸騰させた。沸騰後は弱火にして第一加熱処理物を1時間加熱した。加熱停止後、重曹水溶液を交換して、同様の操作を3回行なった(以上、第一加熱工程)。なお、緑色皮肉から剥がれて液面付近に浮き上がってきた白色皮肉は、第一加熱工程の最中に掬い取り、緑色皮肉と分離して銅鍋内から除去した。
8Lの水を入れた銅鍋に、水切りした第一加熱処理物を入れ、火にかけて沸騰させた。沸騰後は弱火にして1時間加熱しながら、緑色皮肉から剥がれて液面付近に浮き上がってきた白色皮肉を掬い取り、緑色皮肉と分離して銅鍋内から除去した。加熱停止後、水を交換して、同様の操作を3回行なった(以上、第二加熱工程)。
水切りを行った第二加熱処理物を、網目の目開きが9メッシュの裏ごし器を通すことによって、裏ごしにかけた。裏ごしされた第二加熱処理物を広げて、冷風乾燥を行い十分に乾燥させた。乾燥後、製粉機を用いて粉砕することによって実施例1のカボス粉末を得た。
【実施例2】
【0026】
未成熟カボスの果皮を剥き、果皮の表層の緑色皮肉3kgを銅鍋に入れた。この銅鍋に水8Lを入れ重曹80gを加えた後、銅鍋を火にかけて沸騰させた。沸騰後は弱火にして重曹80gをさらに加えた後1.5時間加熱し、第一加熱処理物を得た。最終的な重曹水溶液の濃度は2%(W/V)であった。加熱停止後、重曹水溶液を交換して、同様の操作を3回行なった(以上、第一加熱工程)。
8Lの水を入れた銅鍋に、水切りした第一加熱処理物3.2kgを入れ、火にかけて沸騰させた。沸騰後は弱火にして1時間加熱し、第二加熱処理物を得た。得られた第二加熱処理物を水切りした後、銅鍋に入れて加熱する同様の操作を繰り返し2回行なった(以上、第二加熱工程)。なお、緑色皮肉から剥がれて液面付近に浮き上がってきた白色皮肉は、第二加熱工程の最中に掬い取り、緑色皮肉と分離して銅鍋内から除去した。
銅鍋から第二加熱処理物を取り出した後、木綿製のさらし布に入れて手絞りによって脱水した。脱水した後、トレイに取り出し、脱水物をよく解して冷風乾燥を行い十分に乾燥させ、実施例2の顆粒状のカボス粉末を得た。
【実施例3】
【0027】
実施例2の顆粒状のカボス粉末を、ジェット粉砕機を用いて粉砕することによって実施例3のカボス粉末を得た。
【実施例4】
【0028】
未成熟カボスの果皮を剥き、冷凍した果皮の表層の緑色皮肉1kgをステンレス製の圧力鍋に入れた。この圧力鍋に、銅製の金網と水2.7Lを入れ重曹53gを加えた後、蓋を閉め火にかけた。圧力鍋から蒸気が吹き出した後は弱火にして0.5時間加熱し、第一加熱処理物を得た。重曹水溶液の濃度は2%(W/V)であった。加熱停止後、重曹水溶液を交換して、同様の操作を2回行なった(以上、第一加熱工程)。
2.7Lの水を入れた銅鍋に、水切りした第一加熱処理物1.1kgを入れ、重曹53gを添加して溶解させた後、火にかけて沸騰させた。沸騰後は弱火にして1時間加熱し、第二加熱処理物を得た。得られた第二加熱処理物を水切りした後、銅鍋に入れて加熱する同様の操作を繰り返し3回行なった(以上、第二加熱工程)。なお、緑色皮肉から剥がれて液面付近に浮き上がってきた白色皮肉は、第二加熱工程の最中に掬い取り、緑色皮肉と分離して銅鍋内から除去した。
得られた第二加熱処理物を凍結粉砕することによって、実施例4のカボス粉末を得た。
【実施例5】
【0029】
第二加熱工程の最中に白色皮肉を緑色皮肉と分離して銅鍋内から除去するのではなく、第二加熱工程の後、遠心分離によって緑色皮肉と白色皮肉とを分離して白色皮肉を除去した以外は、実施例2と同様にして、実施例5の顆粒状のカボス粉末を得た。
【実施例6】
【0030】
実施例5の顆粒状のカボス粉末を、ジェット粉砕機を用いて粉砕することによって実施例6のカボス粉末を得た。
【実施例7】
【0031】
第二加熱工程において、緑色皮肉と白色皮肉とを分離しない以外は、実施例2と同様にして、実施例7の顆粒状のカボス粉末を得た。
【実施例8】
【0032】
実施例7の顆粒状のカボス粉末を、ジェット粉砕機を用いて粉砕することによって実施例8のカボス粉末を得た。
【実施例9】
【0033】
第二加熱工程において、銅鍋に代えてステンレス製の鍋を用いて加熱処理を行なった以外は、実施例1と同様にして、実施例9のカボス粉末を得た。
【0034】
(比較例1)
第一加熱工程、第二加熱工程において、銅鍋に代えてステンレス製の鍋を用いて加熱処理を行なった以外は、実施例1と同様にして、比較例1のカボス粉末を得た。
【0035】
(比較例2)
第一加熱工程において、重曹を加えずに水煮した以外は、実施例1と同様にして、比較例2のカボス粉末を得た。
【0036】
(比較例3)
第二加熱工程において、濃度2%(W/V)の重曹水溶液中で加熱した以外は、実施例1と同様にして、比較例3のカボス粉末を得た。
【0037】
(評価)
実施例1〜9、比較例1〜3のカボス粉末を皿の上に広げて載せ、室内の晴天時には直射日光の当たる場所に1ヶ月間放置した。1ヶ月間放置後のカボス粉末の色を、目視観察により、放置前のカボス粉末と比較して評価した。
実施例1〜9のカボス粉末は、1ヶ月放置した後も、鮮やかな緑色が保たれていた。
但し、実施例7及び実施例8のカボス粉末は、実施例1乃至実施例3のカボス粉末と比較すると、緑色が若干薄いと評価された。実施例7及び実施例8のカボス粉末は、第二加熱工程において白色皮肉の分離除去を行っていないため、白色皮肉が混入し、緑色皮肉の純度が実施例1乃至実施例3のカボス粉末より低いためであると推察された。
また、実施例9のカボス粉末も、実施例1のカボス粉末と比較すると、緑色が若干薄く鮮やかさが少し欠けると評価された。実施例9のカボス粉末は、第二加熱工程において、銅製部材(銅鍋)を用いずにステンレス製の鍋を用いて加熱したため、水中に銅イオンが溶出せず、このため緑色皮肉の発色性が低下したものと推察された。
【0038】
一方、比較例1と比較例2のカボス粉末は、退色し褐色化した。また、比較例3のカボス粉末は褐色化していないが、実施例1〜9のカボス粉末と比較して、明らかに緑色がくすんでいた。比較例3のカボス粉末は、第二加熱工程において、濃度2%(W/V)の重曹水溶液中で加熱したため、発色が悪くなったものと推察される。
以上のように、本実施例のカボス粉末は、光に対して安定となり、退色することなく緑色が長期間保持され常温保存が可能なことが明らかとなった。
【0039】
また、ロールケーキのスポンジ、プリン及びゼリーを製造する材料の配合に、実施例1,3,4,6、8及び9のカボス粉末(水で戻したもの)を適量ずつ加えることにより、緑色が鮮やかで風味も良いロールケーキ、プリン及びゼリーを製造することができた。この結果から、卵等の他の材料と混ぜる、オーブンで焼く、煮詰める等の処理を施しても、カボス粉末は退色せず、鮮やかな色を保持できることが明らかとなった。また、実施例2,5及び7の顆粒状のカボス粉末を少量混入することでカボスの存在感が増し、その緑がより引き立つ製品となった。
また、プリンは、ざらざらした感触がなく口当たりが非常に滑らかであった。本実施例のカボス粉末は、第一加熱工程及び粉砕乾燥工程を経ることにより、皮繊維部分が解砕されており水への分散性に優れているため、だまになり難く、卵と良く混ざり合ったためであると推察された。
また、豆腐を製造する際に、水で戻した実施例1,3,4,6、8及び9のカボス粉末を添加したところ、口当たりが滑らかで風味の良い緑色の豆腐を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、未成熟カボスの緑色皮肉を利用したカボス粉末の製造方法に関し、未成熟カボスの果皮の特徴のある緑色が退色することなく長期間保持されるとともに、口当たりが滑らかなカボス粉末の製造方法を提供でき、未成熟カボスの緑色を長期間保持でき常温保存が可能で口当たりが滑らかな水への分散性の良いカボス粉末は、食品産業に多大な貢献をもたらす新しい食材である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)未成熟カボスの果皮の表層の緑色皮肉を重曹水溶液中で銅製部材に接触させながら加熱し第一加熱処理物を得る第一加熱工程と、(b)前記第一加熱処理物を水中で加熱し第二加熱処理物を得る第二加熱工程と、(c)前記第二加熱処理物を乾燥する乾燥工程と、を備えていることを特徴とするカボス粉末の製造方法。
【請求項2】
前記第一加熱工程及び/又は前記第二加熱工程の工程中若しくは工程後に、前記第一加熱処理物及び/又は前記第二加熱処理物から、白色皮肉を分離することと、次いで、脱水して顆粒化した後、乾燥する乾燥工程を有することを特徴とする請求項1に記載のカボス粉末の製造方法。
【請求項3】
前記第2加熱処理物を裏ごしにかけた後に前記乾燥工程を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のカボス粉末の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程による乾燥物を粉砕する粉砕工程を備えていることを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか1に記載のカボス粉末の製造方法。