説明

カルシウム系粉体の発塵抑制剤、カルシウム系粉体、該カルシウム系粉体の製造方法、及びカルシウム系粉体の発塵抑制方法

【課題】水と接触した際にカルシウムイオンを溶出するカルシウム系粉体を取り扱う際に発生する粉塵を持続して抑制する方法、該方法を行う際に使用する発塵抑制剤、該発塵抑制剤を用いて発塵抑制処理されたカルシウム系粉体、該カルシウム系粉体の製造方法を提供する。
【解決手段】水と接触した際にカルシウムイオンを溶出するカルシウム系粉体であって、水と接触した際にアルギン酸を溶出する発塵抑制剤からのアルギン酸と前記カルシウム系粉体からのカルシウムイオンとによって、水和遅延剤及び/又はカルシウムイオンとキレートを形成するキレート化合物の存在下で形成される保水ゲルを含むカルシウム系粉体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント、セメント組成物、セメント系固化材、石灰等のカルシウム系粉体を取り扱う際に発生する粉塵を抑制するカルシウム系粉体の発塵抑制剤、該発塵抑制剤を用いることにより発塵が抑制されたカルシウム系粉体、該カルシウム系粉体の製造方法、及び該発塵抑制剤によるカルシウム系粉体の発塵抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、大型容器や大型機器を用いて大量の粉体あるいは粉塵発生層を処理する際の発塵がしばしば問題となる。
【0003】
例えば、軟弱地盤を改良する際セメント系固化材を用いるが、フレコンバック(フレキシブルコンテナーの略)と呼ばれる粉末や粒状物の荷物を保管・運搬するための袋状の包(以下、単に「フレコンバック」という。)で現場に搬入されたセメント系固化材をフレコンバックから取り出す際やセメント系固化材を軟弱地盤に散布したり、軟弱地盤の土砂と混合攪拌する際には粉塵が発生するので、住宅地や農地などが近隣にある場合は環境面で問題となる。また、土木・建築工事における粉体の吹き付け施工や粉塵発生層を剥離・除去作業においても粉塵が発生するので問題となる。
【0004】
そのため、様々な発塵抑制方法が検討されているが、その中の一つとして、ゲルを形成する発塵抑制剤を用いた方法が知られている。例えば、特許文献1にはゲル形成剤としてポリ(メタ)アクリルアミドを用いた粉塵処理剤が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には粉末状の珪酸塩からなる結合剤と、粉末状の水溶性高分子からなる増粘剤と、粉末状の高吸水性樹脂からなる保水剤および/または粉末状の水溶性ゲル化剤とを含有する粉末状の粉塵飛散抑制剤が開示されている。
【0006】
また、特許文献3にはセメント系材料による吹付け施工においてリバウンド率や粉塵量を低減できるアルギン酸塩とポリアクリル酸塩を含有してなるリバウンド低減剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−248225号公報
【特許文献2】特開2009−035647号公報
【特許文献3】特開2001−261397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のようにゲルを形成する発塵抑制剤を用いて発塵を抑制する方法は知られているものの、特許文献1、特許文献2記載のものは粉塵発生層全体に噴霧して粉塵発生層からの発塵を抑えるものであるから、一時的に発塵が抑制できればよい解体工事等における発塵抑制には向いているものの、セメント系固化材のように微粉末の集合から発生する粉塵を十分かつ持続して抑制するのには不向きである。また、特殊な有機薬剤を複数使用するため高価となる。
【0009】
特許文献3記載のものは本発明と同様、アルギン酸塩使用しているもののリバウンド低減剤であり、吹付け材料に添加して用いるものなので、施工時に一時的に発生する発塵を抑制するだけのものであり、施工するまでの様々な処理過程で発生する粉塵を十分かつ持続して抑制するものではない。
【0010】
本発明は、上記背景と課題を鑑みてなされたものであり、土壌や地盤を改良するのに用いる石灰系処理材やセメント系固化材のような水と接触した際にカルシウムイオンを溶出するカルシウム系粉体を取り扱う(例えば、フレコンバックの開袋による粉体の取り出し、粉体の土壌への散布等)際に発生する粉塵を持続して抑制する方法、該方法を行う際に使用する発塵抑制剤、該発塵抑制剤を用いて発塵抑制処理されたカルシウム系粉体、及び該カルシウム系粉体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、水と接触した際にセメント等から供給されるカルシウムイオンを利用し、これと反応して水に難溶な保水ゲルを粉体表面や粉体間に形成させればよいこと、抑制効果を持続させるには、水和遅延剤等により前記カルシウムイオンの供給を抑制し前記保水ゲルの形成速度をコントロールすればよいこと、前記保水ゲルを形成させる薬剤として、比較的安価で安全かつ汎用的なアルギン酸塩を用いればよいことなどを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明の一つは、
[1] 「アルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体と、水和遅延剤とからなることを特徴とするカルシウム系粉体の発塵抑制剤」である。
【0013】
カルシウム系粉体とは、水と接触した際にカルシウムイオンを溶出して水和する粉体であり、セメント、セメント組成物、セメント系固化材、石灰、石灰組成物、石灰系土壌処理材、焼成ドロマイト等である。また、水和遅延剤とはセメントの凝結遅延剤・硬化遅延剤や生石灰の水和遅延剤であり、キレート化合物を除くものである。
【0014】
アルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体は水と接触するとアルギン酸を溶出し、また、カルシウム系粉体はカルシウムイオンを溶出する。そして、このアルギン酸とカルシウムイオンとが反応して水に難溶な保水ゲルが形成されるので、これが粉体表面や近傍に存在することにより発塵が抑制される。
【0015】
また、前記反応に際して前記水和遅延剤が存在することによりカルシウムイオンの溶出速度が遅くなり前記保水ゲルが徐々に形成されるので持続した発塵抑制が可能となる。
【0016】
他の発明の一つは、
[2] 「アルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体と、カルシウムイオンとキレートを形成するキレート化合物とからなることを特徴とするカルシウム系粉体の発塵抑制剤」である。
【0017】
前記水和遅延剤の代わりに前記キレート化合物を用いてもカルシウムイオンの溶出速度を遅くできるので、水和遅延剤を用いた場合と同様の効果が得られる。
【0018】
他の発明の一つは、
[3] 「アルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体と、カルシウムイオンとキレートを形成するキレート化合物と、水和遅延剤とからなることを特徴とするカルシウム系粉体の発塵抑制剤」であり、水和遅延剤とキレート化合物とを併用する場合である。
【0019】
上記の通り、水和遅延剤とキレート化合物とは、発塵抑制の持続的効果をねらって用いるものであり同様の効果が得られるが、両者は性能や価格の面で大きく異なる。
【0020】
水和遅延剤は概して安価であるが、性能の安定性は悪い。水和遅延剤の種類によって遅延効果は大きくことなり、添加量や反応温度の影響も受け易い。ショ糖やグルコース等では、多すぎるとセメントの水和を阻害する方向に働くが少なすぎると水和促進の方向に働く。
【0021】
キレート化合物は概して高価であるが、性能は安定しており、少量の使用であれば遅延効果はマイルドである。このように、水和遅延剤とキレート化合物は各々一長一短があるので、併用して補完することにより、よりよい発塵抑制剤が得られ易くなる。
【0022】
他の発明の一つは、
[4] 「水と接触した際にカルシウムイオンを溶出するカルシウム系粉体であって、水と接触した際にアルギン酸を溶出する薬剤からのアルギン酸と前記カルシウム系粉体からのカルシウムイオンとによって形成されるゲルを含むことを特徴とするカルシウム系粉体」である。
【0023】
この発明のカルシウム系粉体は発塵抑制処理された粉体であり、搬送、開袋、攪拌、散布等の作業において、発塵し難い。溶出したアルギン酸はコロイド状態(ゾル)の高分子で、カルシウムイオン等の2価カチオンを加えると瞬時にイオン架橋によりゲル化する。
【0024】
上記ゲルはアルギン酸のこの性質を利用して得たアルギン酸カルシウムであり、難溶性で熱に対して安定な保水ゲルである。また、このゲルは、カルシウム系粉体から溶出したカルシウムイオンにより形成されるので、粉体表面や粉体の極近傍で形成され粉体を被覆したり粉体間に介在したりする。したがって、発塵抑制効果は大きい。
【0025】
アルギン酸を溶出する薬剤としては、前記アルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体が挙げられる。
【0026】
他の発明の一つは、
[5] 「前記薬剤が、前記[1]〜[3]のいずれか一項に記載される発塵抑制剤であることを特徴とする前記[4]に記載のカルシウム系粉体」である。
【0027】
前記発塵抑制処理(発塵が抑制されたカルシウム系粉体の製造)を、前記発塵抑制剤を用いて行なえば、容易に持続的発塵抑制効果を有するカルシウム系粉体が得られる。
【0028】
他の発明の一つは、
[6] 「発塵の少ないカルシウム系粉体の製造方法であって、アルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体と、必要に応じて、水和遅延剤及び/又はカルシウムイオンとキレートを形成するキレート化合物とを、水又は水とアルコールとの混合液に添加してアルギン酸の水溶液又は混合溶液を作製し、前記カルシウム系粉体に対して0.5〜5重量%の前記水溶液又は混合溶液を添加し混練することを特徴とするカルシウム系粉体の製造方法」である。
【0029】
この発明はカルシウム系粉体の前記発塵抑制処理に関する発明であり、この発明の製造方法によれば、容易に発塵の少ないカルシウム系粉体が得られる。
【0030】
アルギン酸塩等を添加して作製する液は水溶液でもよいが、水溶液を用いることによりカルシウム系粉体の表面が水和したり風化したりして品質低下を招く場合があるので、カルシウム系粉体の品質や性能を重視する場合は、水とアルコールとの混合液を用いた混合溶液の方がよい。
【0031】
ここで、アルコールは、エチルアルコール、メチルアルコールのみではなく、エチレングリコールなどのグリコール類、グリセリンなどの三価のアルコールも使用できる。
【0032】
水とアルコールとの割合は1〜5:5〜1である。アルギン酸を含む水溶液又は混合溶液は、カルシウム系粉体に対して0.5〜5重量%、好ましくは1〜3重量%添加して混練される。
【0033】
0.5重量%未満では、発塵抑制に十分な量の発塵抑制剤を添加し難く、また、混練もし難い。5重量%を超えるとカルシウム系粉体に対して水分が多過ぎ、カルシウム系粉体自体の品質や性能の低下を招くおそれが生じる。
【0034】
混錬は、ホバートミキサー、ナウターミキサー、プロシェアミキサー、ロッキングミキサー、V型混合機、コンクリート用ミキサー等の従来から用いられている粉体の混錬装置で行えばよい。
【0035】
他の発明の一つは、
[7] 「前記アルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体は、前記カルシウム系粉体に対して50〜1000ppm添加されることを特徴とする[6]に記載のカルシウム系粉体の製造方法」である。
【0036】
アルギン酸とカルシウムイオンによる形成ゲルは、少なすぎると十分な発塵抑制効果が得られないし、多すぎると十分な発塵抑制効果は得られるもののカルシウム系粉体自体の品質・性能に影響を及ぼす。
【0037】
セメント等のカルシウム系粉体においてはカルシウムイオンの供給量は無限にあるので、ゲルの形成量はアルギン酸量によってコントロールすることになる。
【0038】
上記の通り、アルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体は、前記カルシウム系粉体に対して50〜1000ppm添加されるのが好ましい。50ppm未満では十分な発塵抑制効果が得られない。1000ppmを超えると、形成ゲルがカルシウム系粉体自体の品質・性能に影響を及ぼすので好ましくない。前記アルギン酸の水溶液又は混合溶液の濃度は、この添加量と前記水量を考慮して調整される。
【0039】
他の発明の一つは、
[8] 「前記水和遅延剤及び/又はカルシウムイオンとキレートを形成するキレート化合物は、前記カルシウム系粉体に対して200〜1000ppm添加されることを特徴とする[6]又は[7]に記載のカルシウム系粉体の製造方法」である。
【0040】
水和遅延剤及び/又はカルシウムイオンとキレートを形成するキレート化合物は、持続的発塵効果を得るべく、ゲルの形成速度を遅くするために必要に応じて添加するものであり、その添加量はカルシウム系粉体に対して200〜1000ppmが好ましい。200ppm未満では十分な遅延効果が得られない。1000ppmを超えるとカルシウム系粉体自体の水和を阻害するおそれが出てくる。
【0041】
他の発明の一つは、
[9] 「水と接触した際にカルシウムイオンを溶出するカルシウム系粉体の発塵抑制方法であって、カルシウムイオンとキレートを形成するキレート化合物及び/又は水和遅延剤が存在する中で、アルギン酸と前記カルシウムイオンとによってゲルを形成させ、前記ゲルを前記カルシウム系粉体に混在させることにより前記カルシウム系粉体の発塵を抑制することを特徴とするカルシウム系粉体の発塵抑制方法」である。
【0042】
セメント等のカルシウム系粉体の発塵抑制方法は従来から様々な方法があるが、この発明の方法では、カルシウム系粉体から溶出するカルシウムイオンを利用するのでキメ細かくゲルを形成させることができるとともに水和遅延剤やキレート化合物が存在する中でゲルを持続的に形成させるので、グリセリンやジエチレングリコール等の従来の薬剤を使った発塵抑制方法に比べ、十分かつ持続的に発塵抑制ができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明の発塵抑制剤を用いれば、土壌や地盤を改良するのに用いる石灰系処理材やセメント系固化材のような水と接触した際に、カルシウムイオンを溶出するカルシウム系粉体を取り扱う際に発生する粉塵を持続して抑制することができる。
【0044】
また、本発明のカルシウム系粉体は効果が持続するよう発塵抑制処理されているので、処理後から現場使用までの種々の段階で発塵させずに取り扱うことができる。
【0045】
また、本発明のカルシウム系粉体の製造方法によれば、持続的発塵効果を有するカルシウム系粉体を容易に得ることができる。
【0046】
また、本発明のカルシウム系粉体の発塵抑制方法は、水と接触した際にカルシウムイオンを溶出するセメント等のカルシウム系粉体からの持続的発塵抑制に効果的な簡便な方法である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明のカルシウム系粉体の製造工程概略図(フローチャート)である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下に、本発明のカルシウム系粉体の発塵抑制剤、(発塵抑制処理された)カルシウム系粉体、該カルシウム系粉体の製造方法について、より具体的に示す。
【0049】
<カルシウム系粉体の発塵抑制剤>
本発明のカルシウム系粉体の発塵抑制剤は、アルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体と、水和遅延剤及び/又はカルシウムイオンとキレートを形成するキレート化合物とからなる。カルシウム系粉体とは、前述の通り、水と接触した際にカルシウムイオンを溶出して水和する粉体であり、セメント、セメント組成物、セメント系固化材、石灰、石灰組成物、石灰系土壌処理材、焼成ドロマイト等である。
【0050】
アルギン酸塩としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウムなどが挙げられる。また、アルギン酸誘導体としては、アルギン酸プロピレングリコールエステルなどが挙げられる。
【0051】
水和遅延剤及び/又はカルシウムイオンとキレートを形成するキレート化合物は、カルシウム系粉体からのカルシウムイオンと前記アルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体からのアルギン酸とによるゲルの形成速度を調節するために添加される。
【0052】
水和遅延剤とは、前述の通り、セメントの凝結遅延剤・硬化遅延剤や生石灰の水和遅延剤(EDTA化合物を除く)であり、クエン酸、ショ糖、グルコン酸ナトリウム、リン酸またはその塩、ヘキサフルオロケイ酸塩などが挙げられる。カルシウムイオンとキレートを形成するキレート化合物は、EDTA、メタリン酸またはその塩などである。
【0053】
本発明の一つの、(A)アルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体と水和遅延剤とからなるカルシウム系粉体の発塵抑制剤におけるアルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体と水和遅延剤との割合は、重量比で1:4〜4:1が好ましい。
【0054】
また、本発明の他の一つの、(B)アルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体とキレート化合物とからなるカルシウム系粉体の発塵抑制剤におけるアルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体とキレート化合物との割合は、重量比で1:4〜4:1が好ましい。
【0055】
また、本発明の他の一つの、(C)アルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体と、水和遅延剤及びキレート化合物とからなるカルシウム系粉体の発塵抑制剤におけるアルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体と水和遅延剤及びキレート化合物との割合は、重量比で1:4〜4:1が好ましい。
【0056】
後者の水和遅延剤とキレート化合物との割合は、薬剤の種類によって価格や遅延効果が異なるので特に限定されない。
【0057】
前記(A)〜(C)のカルシウム系粉体の発塵抑制剤は、これらとカルシウム系粉体とを混練するのに使用される混練水(水又は水とアルコールとの混合液)に添加して使用される。また、これらは、必ずしも粉末の一剤として存在しなくてもよい。使用時に前記混練水に各薬剤を所定量添加するか、前記混練水に各薬剤を所定量添加した溶液として保存しておいてもよい。
【0058】
<本発明のカルシウム系粉体>
本発明のカルシウム系粉体は、セメント等のカルシウム系粉体を前記発塵抑制剤等により処理してなるものである。
【0059】
発塵抑制効果に持続性を持たせたければ、前記(A)〜(C)のカルシウム系粉体の発塵抑制剤を用いるのが好ましいが、一時的に発塵抑制効果でよければ、アルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体からなる発塵抑制剤でもよい。
【0060】
このカルシウム系粉体は、粉体表面や近傍に、このカルシウム系粉体からのカルシウムイオンと発塵抑制剤からのアルギン酸との反応によるアルギン酸カルシウムの保水ゲルが存在しており、これによって、現場搬入後のフレコンバックの開封、散布等のこの粉体を取り扱う種々の場面で発塵抑制効果を発揮する。
【0061】
アルギン酸は従来から食品分野等でも用いられているものなので安全性が高い。このカルシウム系粉体に存在する保水ゲルの量は特に限定されないが、多すぎると発塵抑制効果はあるもののカルシウム系粉体自体の水和を阻害するおそれが生ずるので好ましくない。
【0062】
本発明のカルシウム系粉体の種類や用途は特に限定されないが、カルシウム系粉体が土壌改良や地盤改良に用いられるセメント系固化材や石灰系改良材であるのが好ましい。土壌改良や地盤改良では粉体をフレコンバックで現場に搬入したり、土壌に散布したり、簡易な機械により土壌と混練したりするので発塵が起き易い。
【0063】
また、建築構造物や土木構造物に用いる粉体ほど厳しい品質・性能を要求されないので、前記保水ゲルが存在することによりカルシウム系粉体自体の品質・性能に若干変化が生じても問題が生じるおそれは少ない。
【0064】
<本発明のカルシウム系粉体の製造方法>
本発明のカルシウム系粉体の製造方法(カルシウム系粉体の発塵抑制処理方法)の一例を図1に基づき説明する。
【0065】
まず、発塵抑制処理すべきセメント等のカルシウム系粉体を用意する。次に、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸塩及び/又はアルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸誘導体(M)を用意する。併せてクエン酸、ショ糖等の水和遅延剤及び/又はEDTA等のキレート化合物(S)を用意する。
【0066】
次にカルシウム系粉体に添加して混練する水又は水とアルコールの混合液からなる混練水を所定量用意する。混練水の量はカルシウム系粉体の0.5〜5重量%となるようにする。前記アルコールはメチルアルコール、エチルアルコール等の一価のアルコールだけでなく、エチレングリコールなどのグリコール類、グリセリンなどの三価のアルコールも使用できる。
【0067】
水とアルコールとの割合は、前述の通り、1〜5:5〜1である。水とアルコールとの混合液は、例えば、生石灰のように水和反応が著しく水和がカルシウム系粉体の物性に大きく影響を与える場合に使用する。
【0068】
次に、前記混練水に前記(M)と(S)の薬剤をそれぞれ添加し(M)と(S)とからなる本発明の発塵抑制剤の水溶液又は混合溶液を作製する。これら溶液における(M)と(S)の各濃度は、溶液の所定量をカルシウム系粉体に添加した際、(M)はカルシウム系粉体に対し50〜1000ppmとなるように、(S)はカルシウム系粉体に対し200〜1000ppmとなるように調整される。
【0069】
次に、処理するカルシウム系粉体をホバートミキサー等の混練機に投入し、前記水溶液又は混合用液を所定量添加しまたは添加しながら混練する。混練時間は混合機ごとに設定されるので特に限定されない。混練することにより粉体表面や粉体近傍にアルギン酸カルシウムの保水ゲルが形成し、保湿性状の粉体が得られる。
【0070】
<発塵抑制性能の確認試験>
次に、本発明のカルシウム系粉体における発塵抑制性能の確認試験について示す。
【0071】
(1)使用材料
1) カルシウム系粉体
・普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
・高炉セメントB種(デイ・シイ社製)
2) アルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体
・アルギン酸ナトリウム(キミカ社製)
・アルギン酸プロピレングリコールエステル(キミカ社製)
3) 水和遅延剤
・クエン酸(試薬)
・ショ糖(試薬)
4) キレート化合物
・EDTA(試薬)
・メタリン酸ナトリウム(試薬)
5) 従来の発塵抑制用薬剤
・グリセリン(試薬)
・ジエチレングリコール(試薬)
6) 混練水
・水道水
・エチルアルコール(試薬)
・グリセリン(試薬)
【0072】
(2)カルシウム系粉体の処理(本発明のカルシウム系粉体の製造等)
カルシウム系粉体1kgを、表1に示す薬剤と配合で、図1に示す製造工程により処理した。比較として用いた従来の発塵抑制用薬剤は、本発明のカルシウム系粉体の発塵抑制剤に代えて、同様に所定量を混練水に添加して用いた。
【0073】
なお、カルシウム系粉体と発塵抑制剤水溶液又は水とアルコールとの混合溶液との混練は、ホバートミキサーにより10分間行なった。混練後取り出して室内でビニール袋に脱気した状態で密閉した。
【0074】
【表1】

【0075】
(3)発塵抑制性能の確認試験方法
測定対象のカルシウム系粉体200gを2リットルの透明な密封型ガラス瓶に入れ、20秒間ガラス瓶の上下を入れ替えることにより撹拌して瓶を静置した後、瓶側面の曇り度合いを目視観察して評価した。測定は、上記処理直後、処理後1日、処理後3日、処理後7日の4材令で行なった。評価は、10秒以内にガラス瓶の反対側が目視できた場合を◎、30秒以内を○、60秒以内を△、60秒を超えてもガラス瓶の反対側が目視できない場合を×とする4段階評価とした。なお、測定対象のカルシウム系粉体は、各々測定材令となるまでビニール袋内に脱気した状態で密閉保管した。
【0076】
(4)測定結果
測定結果を表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
試験No.1、試験No.2、試験No.3は比較例である。発塵抑制処理していない試験No.1は、発塵によりガラス瓶は当初から曇る。グリセリン、ジエチレングリコールなどの従来の発塵抑制剤を用いて処理した試験No.2と試験No.3は処理後1日まで発塵抑制効果は見られるものの、持続的な発塵抑制効果はないことがわかる。また、表1に示されるように、これら従来の発塵抑制剤では、本発明の発塵抑制剤に比べ、カルシウム系粉体への添加量を多くしないと十分な発塵抑制効果が得られない。
【0079】
本発明のうち、水和遅延剤やキレート化合物を併用していないアルギン酸ナトリウム単味の試験No.4でも、処理後3日までは発塵抑制効果が見られた。アルギン酸ナトリウム又はアルギン酸プロピレングリコールエステルとともに水和遅延剤やキレート化合物のどちらか一種以上を併用した試験No.5〜試験No.15は処理後7日経っても発塵抑制効果が見られた。
【0080】
以上のように、本発明の発塵抑制剤は従来のものより持続性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体と、水和遅延剤とからなることを特徴とするカルシウム系粉体の発塵抑制剤。
【請求項2】
アルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体と、カルシウムイオンとキレートを形成するキレート化合物とからなることを特徴とするカルシウム系粉体の発塵抑制剤。
【請求項3】
アルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体と、カルシウムイオンとキレートを形成するキレート化合物と、水和遅延剤とからなることを特徴とするカルシウム系粉体の発塵抑制剤。
【請求項4】
水と接触した際にカルシウムイオンを溶出するカルシウム系粉体であって、水と接触した際にアルギン酸を溶出する薬剤からのアルギン酸と前記カルシウム系粉体からのカルシウムイオンとによって形成されるゲルを含むことを特徴とするカルシウム系粉体。
【請求項5】
前記薬剤が、前記請求項1〜3のいずれか一項に記載される発塵抑制剤であることを特徴とする請求項4に記載のカルシウム系粉体。
【請求項6】
発塵の少ないカルシウム系粉体の製造方法であって、アルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体と、必要に応じて、水和遅延剤及び/又はカルシウムイオンとキレートを形成するキレート化合物とを、水又は水とアルコールとの混合液に添加してアルギン酸の水溶液又は混合溶液を作製し、前記カルシウム系粉体に対して0.5〜5重量%の前記水溶液又は混合溶液を添加し混練することを特徴とするカルシウム系粉体の製造方法。
【請求項7】
前記アルギン酸塩及び/又はアルギン酸誘導体は、前記カルシウム系粉体に対して50〜1000ppm添加されることを特徴とする請求項6に記載のカルシウム系粉体の製造方法。
【請求項8】
前記水和遅延剤及び/又はカルシウムイオンとキレートを形成するキレート化合物は、前記カルシウム系粉体に対して200〜1000ppm添加されることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のカルシウム系粉体の製造方法。
【請求項9】
水と接触した際にカルシウムイオンを溶出するカルシウム系粉体の発塵抑制方法であって、カルシウムイオンとキレートを形成するキレート化合物及び/又は水和遅延剤が存在する中で、アルギン酸と前記カルシウムイオンとによってゲルを形成させ、前記ゲルを前記カルシウム系粉体に混在させることにより前記カルシウム系粉体の発塵を抑制することを特徴とするカルシウム系粉体の発塵抑制方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−20890(P2012−20890A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158524(P2010−158524)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(592037907)株式会社デイ・シイ (36)
【Fターム(参考)】