説明

カルバミン酸エステルの製造方法

【課題】金属を含有する塩基性触媒存在下での炭酸エステルとアミンの反応による、カルバミン酸エステルの製造方法において、上記反応により得られる反応混合物から、上記金属を含有する反応生成物を容易に分離することのできる、カルバミン酸エステルの製造方法を提供すること。
【解決手段】金属を含有する塩基性触媒存在下での炭酸エステルとアミンの反応による、カルバミン酸エステルの製造方法であって、前記炭酸エステル及び前記アミンに含有される水分量の合計は、0.001〜50ppmであり、前記反応により、前記カルバミン酸エステルと共に前記金属を含有する反応生成物を得る、製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルバミン酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルバミン酸エステル(ウレタン)は、ポリウレタンフォーム、表面コーティング、エラストマー、塗料、接着剤等に広く用いられている、工業的に非常に有用な化合物である。また、カルバミン酸エステルは、ホスゲンを使用せずにイソシアネートを製造するための原料としても有用である。
【0003】
イソシアネートの主な工業的製造法は、アミンとホスゲンとの反応(ホスゲン法)であり、全世界の生産量のほぼ全量がホスゲン法により生産されている。しかしながら、ホスゲン法は多くの問題がある。
【0004】
第1に、原料としてホスゲンを大量に使用することである。ホスゲンは極めて毒性が高く、従業者への暴露を防ぐためにその取扱いには特別の注意を要し、廃棄物を除外するための特別の装置も必要である。
【0005】
第2に、ホスゲン法においては、腐食性の高い塩化水素が大量に副生するため、上記塩化水素を除外するためのプロセスが必要となる上、製造されたイソシアネートには多くの場合加水分解性塩素が含有されることになり、ホスゲン法で製造されたイソシアネートを使用した場合に、ポリウレタン製品の耐候性、耐熱性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0006】
このような背景から、ホスゲンを使用しないイソシアネート化合物の製造方法が望まれている。ホスゲンを使用しないイソシアネート化合物の製造方法の一つとして、カルバミン酸エステルの熱分解による方法が提案されている。カルバミン酸エステルの熱分解によってイソシアネートとヒドロキシ化合物が得られることは古くから知られている(例えば、特許文献1、2及び非特許文献1参照)。その基本反応は下記一般式によって例示される。
【化1】


(一般式(a)中、Rは、x価の有機残基を表し、R’は、1価の有機残基を表し、xは、1以上の整数を表す。)
【0007】
このように、カルバミン酸エステルは、工業的に有用な化合物である。
【0008】
カルバミン酸エステルの製造方法として、これまで様々な方法が提案されている。
【0009】
特許文献3の記載によれば、脂肪族ジウレタンおよび/または脂環式ジウレタンおよび/または脂肪族ポリウレタンおよび/または脂環式ポリウレタンは、脂肪族第1級ジアミンおよび/または脂環式第1級ジアミンおよび/または脂肪族第1級ポリアミンおよび/または脂環式第1級ポリアミンをO−アルキルカルバメートと、アルコールの存在下にアミンのNH基:カルバメート:アルコールの比1:0.8〜10:0.25〜50で160℃〜300℃で、触媒の存在下または不存在下で反応させ、かつ必要に応じて生じるアンモニアを除去することによって得られる。
【0010】
また、特許文献4の記載によると、アリールジウレタンおよび/またはアリールポリウレタンは、芳香族第1級アミンおよび/または芳香族第1級ポリアミンをO−アルキルカルバメートと、触媒の存在下または不存在下、ならびに、尿素およびアルコールの存在下または不存在下で反応させ、アリールジウレタンおよび/またはアリールポリウレタンを生じさせ、生じるアンモニアを必要に応じて除去する方法によって製造される。
【0011】
他の刊行物には、カルボニル含有化合物、例えば、N−置換カルバメートおよび/またはジアルキルカーボネート、またはモノ置換尿素もしくはジ置換尿素またはモノ置換ポリ尿素もしくはジ置換ポリ尿素による、尿素および/またはジアミンの部分的置換に関する記載がある(特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9参照)。特許文献10には、(環式)脂肪族ポリアミンを尿素および芳香族ヒドロキシ化合物と反応させることにより脂肪族O−アリールウレタンを製造する方法が記載されている。
【0012】
また、特許文献11によると、アミンと炭酸ジメチルとから、カルバミン酸エステルを製造する方法が開示されている。上記方法は、ルイス酸触媒、鉛、チタンあるいはジルコニウム系触媒、アルカリ触媒等の存在下、アミンと炭酸ジメチルを反応させるものである。
【0013】
このように、様々なカルバミン酸エステルの製造方法が提示されているが、塩基性触媒を使用する方法として、特許文献12には、アミンと炭酸エステル類とをアルカリ金属アルコラートないしアルカリ土類金属アルコラート存在下で反応させてカルバミン酸エステルを含有する粗反応液を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】日本国特許出願公開59−48452号公報
【特許文献2】日本国特許出願公開2004−262831号公報
【特許文献3】米国特許第4497963号公報
【特許文献4】米国特許第4290970号公報
【特許文献5】米国特許第4388238号公報
【特許文献6】米国特許第4430505号公報
【特許文献7】米国特許第4480110号公報
【特許文献8】米国特許第4596678号公報
【特許文献9】米国特許第4596679号公報
【特許文献10】欧州特許出願公開第0320235号公報
【特許文献11】米国特許第4395565号公報
【特許文献12】日本国特許出願公開平6−72982号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Berchte der Deutechen Chemischen Gesellschaft,第3巻,653頁,1870年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献12に記載の方法において製造されるカルバミン酸エステルは、引き続きイソシアネートの製造に用いられるが、上記粗反応液に含有される触媒が副反応を生起する場合が多いことから、上記粗反応液に含有される触媒をイオン交換樹脂等によって中和する等、触媒を失活させるための工程を経る必要があった。しかしながら、例えば、イオン交換樹脂によって中和する場合、中和作業によって破過したイオン交換樹脂は廃棄するか、酸洗浄等によって再生させる必要があることから、作業が煩雑になるという問題があった。
【0017】
本発明は、金属を含有する塩基性触媒存在下での炭酸エステルとアミンの反応による、カルバミン酸エステルの製造方法において、上記反応により得られる反応混合物から、上記金属を含有する反応生成物を容易に分離することのできる、カルバミン酸エステルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、金属を含有する塩基性触媒存在下での炭酸エステルとアミンの反応による、カルバミン酸エステルの製造方法であって、上記炭酸エステル及び上記アミンに含有される水分量の合計は、0.001〜50ppmであり、上記反応により、上記カルバミン酸エステルと共に上記金属を含有する反応生成物を得る、製造方法を提供する。
【0019】
本発明のカルバミン酸エステルの製造方法は、上記炭酸エステル及び上記アミンに含有される水分量の合計が0.001〜50ppmであることによって、上記反応生成物が、上記反応により得られる反応混合物に不溶性となり、反応混合物から上記反応生成物を容易に分離することができるようになる。
【0020】
上記炭酸エステルは、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【化2】


[式中、Rは炭素数1〜10の脂肪族基を表す。]
【0021】
上記アミンは、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【化3】


[式中、Rは、酸素原子を含んでいてもよい、炭素数1〜20のn価の脂肪族基又は炭素数6〜20のn価の芳香族基であり、nは2〜10の整数を表す。]
【0022】
上記一般式(2)で表される化合物におけるnは2であることが好ましい。
【0023】
上記金属を含有する塩基性触媒は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアルコラートであることが好ましい。
【0024】
上記反応生成物は、上記反応により得られる反応混合物に不溶であり、上記反応混合物から上記反応生成物の分離を行なうことが好ましい。
【0025】
上記分離は濾過により行なうことが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明のカルバミン酸エステルの製造方法によれば、金属を含有する塩基性触媒存在下での炭酸エステルとアミンの反応による、カルバミン酸エステルの製造方法において、上記反応により得られる反応混合物から、上記金属を含有する反応生成物を容易に分離することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0028】
まず、本実施の形態における炭酸エステルについて説明する。
【0029】
本実施の形態において使用される炭酸エステルについて、特に制限はないが、下記一般一般式(1)で表される炭酸エステルが好ましく使用される。
【化4】


[式中、Rは炭素数1〜10の脂肪族基を表す。]
【0030】
上記一般式(1)におけるRとしては、上記基を構成する炭素の数が1〜10のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(各異性体)、ブチル基(各異性体)、ペンチル基(各異性体)、ヘキシル基(各異性体)、ヘプチル基(各異性体)、オクチル基(各異性体)、ノニル基(各異性体)、デシル基(各異性体)を挙げることができるが、中でも、Rが炭素数2〜6のアルキル基である炭酸エステル、すなわち、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピル(各異性体)、炭酸ジブチル(各異性体)、炭酸ジペンチル(各異性体)、炭酸ジヘキシル(各異性体)が好ましく使用される。
【0031】
上記炭酸エステルの製造方法としては、公知の方法を用いることができるが、好ましくは、スズ−酸素−炭素結合を有する有機スズ化合物と二酸化炭素を反応させて炭酸エステルを製造する。
【0032】
つぎに、本実施の形態において使用されるアミンについて説明する。
【0033】
本実施の形態において使用されるアミンについて、特に制限はないが、下記一般式(2)で表されるアミンが好ましく使用される。
【化5】


[式中、Rは、酸素原子を含んでいてもよい、炭素数1〜20のn価の脂肪族基又は炭素数6〜20のn価の芳香族基であり、nは2〜10の整数を表す。]
【0034】
上記式(2)において、好ましくはnが2以上のポリアミンであり、さらに好ましくはnが2であるジアミンが使用される。
【0035】
このようなポリアミンの例としては、ヘキサメチレンジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)(各異性体)、シクロヘキサンジアミン(各異性体)、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン(各異性体)等の脂肪族ジアミン;フェニレンジアミン(各異性体)、トルエンジアミン(各異性体)4,4’−メチレンジアニリン等の芳香族ジアミンを挙げることができる。中でもヘキサメチレンジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)(各異性体)、シクロヘキサンジアミン(各異性体)、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン(各異性体)等の脂肪族ジアミンが好ましく使用され、中でも、ヘキサメチレンジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンがより好ましく使用される。
【0036】
上記炭酸エステル及び上記アミンに含有される水分量の合計は、0.001〜50ppmである。本発明者らは、驚くべきことに、炭酸エステルとアミンに含有される水分量が50ppmよりも多くなると、後述する、上記塩基性触媒に由来する金属を含有する反応生成物の生成量が低下する場合があり、反応液からの分離が困難となる場合があることを見出した。上記塩基性触媒に由来する金属を含有する化合物の反応生成物と水分量との明確な相関については不明であるが、本発明者らは、炭酸エステルとアミンに含有される水によって、上記塩基性触媒に由来する金属を含有する反応生成物が加水分解されるためではないかと推測している。このような観点から、上記炭酸エステル及び上記アミンに含有される水分量の合計は、好ましくは30ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下である。
【0037】
一方、本発明者らは、さらに驚くべきことに、炭酸エステル及びアミンに含有される少量の水が、上記塩基性触媒の活性を向上させる効果を奏することを見出した。このような効果を発現する機構については明らかではないが、本発明者らは、反応系中に存在する少量の水が、上記塩基性触媒とともに炭酸エステルに作用し、上記炭酸エステルのカルボニル炭素を活性化させるためではないかと推測している。このような観点から、上記炭酸エステル及び上記アミンに含有される水分量の合計は、好ましくは、0.001ppm以上であり、より好ましくは0.003ppm以上である。
【0038】
上記炭酸エステル及び上記アミンに含有される水分量は、公知の方法により定量することができ、例えば、カールフィッシャー、H−NMR、赤外吸収法等の方法を用いることができる。
【0039】
上記炭酸エステルと上記アミンとの反応において使用される塩基性触媒としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアルコラートが好ましく使用される。上記塩基性触媒におけるアルカリ金属、アルカリ土類金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウムを例示することができる。一方、上記塩基性触媒のアルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルキル基に酸素原子が付加したアルコキシ基が好ましく使用され、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基(各異性体)、ペンチルオキシ基(各異性体)、ヘキシルオキシ基(各異性体)、ヘプチルオキシ基(各異性体)、オクチルオキシ基(各異性体)、ノニルオキシ基(各異性体)、デシルオキシ基(各異性体)を挙げることができる。中でも、上記アルコキシ基が、上記式(1)で表される炭酸エステルを構成する基RO(Rは上記で定義した基であり、Oは酸素原子を表す)と同一の基であるアルコキシ基が好ましい。
【0040】
上記炭酸エステルとアミンとの反応がおこなわれる反応条件は,反応させる化合物によって異なるが、上記アミンのアミノ基に対して上記炭酸エステルを化学量論比で、2〜1000倍の範囲であるとよい。反応速度を高め、反応を早期に完結させるためには、炭酸ジエステルはアミンのアミノ基に対して過剰量が好ましいが、反応器の大きさを考慮すれば、好ましくは0.1〜100倍の範囲、さらに好ましくは、2〜30倍の範囲である。反応温度は、通常、0℃〜300℃の範囲であり、反応速度を高めるためには高温が好ましいが、一方で、高温では好ましくない反応も起こる場合があるので、好ましくは20℃〜150℃の範囲である。反応温度を一定にするために、上記反応器に公知の冷却装置、加熱装置を設置してもよい。また、反応圧力は、用いる化合物の種類や反応温度によって異なるが、減圧、常圧、加圧のいずれであってもよく、通常20〜1×10Paの範囲で行われる。
【0041】
反応時間(連続法の場合は滞留時間)に、特に制限はなく通常0.001〜50時間、好ましくは0.01〜10時間、より好ましくは0.1〜5時間である。また、反応液を採取し、例えば、液体クロマトグラフィーによってカルバミン酸エステルが所望量生成していることを確認して反応を終了することもできる。
【0042】
本実施の形態においては、必ずしも反応溶媒を使用する必要はないが、反応操作を容易にする等の目的で適当な不活性溶媒、例えば、ヘキサン(各異性体)、ヘプタン(各異性体)、オクタン(各異性体)、ノナン(各異性体)、デカン(各異性体)等のアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン(各異性体)、エチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン(各異性体)、ジブチルベンゼン(各異性体)、ナフタレン等の芳香族炭化水素およびアルキル置換芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン(各異性体)、ブロモベンゼン、ジブロモベンゼン(各異性体)、クロロナフタレン、ブロモナフタレン、ニトロベンゼン、ニトロナフタレン等のハロゲンもしくはニトロ基によって置換された芳香族化合物類;ジフェニル、置換ジフェニル、ジフェニルメタン、ターフェニル、アントラセン、ジベンジルトルエン(各異性体)等の多環炭化水素化合物類;シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;メチルエチルケトン、アセトフェノン等のケトン類;ジブチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ベンジルブチルフタレート等のエステル類;ジフェニルエーテル、ジフェニルスルフィド等のエーテル類およびチオエーテル類;ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド等のスルホキシド類等を反応溶媒として好適に使用する。これらの溶媒は単独でも2種類以上の混合物として使用することもできる。また、アミンのアミノ基に対して過剰量使用される炭酸エステルも、上記反応における溶媒として好適に使用される。
【0043】
反応器は、公知の槽型反応器、塔型反応器、蒸留塔、および、これらの反応器を組み合わせた反応器を使用することができる。反応器およびラインの材質は、出発物質や反応物質に悪影響を及ぼさなければ、公知のどのようなものであってもよいが、SUS304やSUS316、SUS316L等が安価であり、好ましく使用できる。
【0044】
以上に示した方法によって得られるカルバミン酸エステルは、下記一般式(3)で表される化合物である。
【化6】


[式中、RおよびRは、各々、上記一般式(1)及び(2)中で定義した基であり、nは、2〜10の整数である。]
【0045】
このようなカルバミン酸エステルとしては、例えば、N,N’−ヘキサンジイル−ジカルバミン酸−ジメチルエステル、N,N’−ヘキサンジイル−ジカルバミン酸−ジエチルエステル、N,N’−ヘキサンジイル−ジカルバミン酸−ジブチルエステル(各異性体)、N,N’−ヘキサンジイル−ジカルバミン酸−ジペンチルエステル(各異性体)、N,N’−ヘキサンジイル−ジカルバミン酸−ジヘキシルエステル(各異性体)、N,N’−ヘキサンジイル−ジカルバミン酸−ジオクチルエステル(各異性体)、ジメチル−4,4’−メチレン−ジシクロヘキシルカルバメート、ジエチル−4,4’−メチレン−ジシクロヘキシルカルバメート、ジプロピル−4,4’−メチレン−ジシクロヘキシルカルバメート(各異性体)、ジブチル−4,4’−メチレン−ジシクロヘキシルカルバメート(各異性体)、ジペンチル−4,4’−メチレン−ジシクロヘキシルカルバメート(各異性体)、ジヘキシル−4,4’−メチレン−ジシクロヘキシルカルバメート(各異性体)、ジヘプチル−4,4’−メチレン−ジシクロヘキシルカルバメート(各異性体)、ジオクチル−4,4’−メチレン−ジシクロヘキシルカルバメート(各異性体)、3−(メトキシカルボニルアミノ−メチル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルカルバミン酸メチルエステル、3−(エトキシカルボニルアミノ−メチル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルカルバミン酸エチルエステル、3−(プロピルオキシカルボニルアミノ−メチル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルカルバミン酸プロピルエステル(各異性体)、3−(ブチルオキシカルボニルアミノ−メチル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルカルバミン酸ブチルエステル(各異性体)、3−(ペンチルオキシカルボニルアミノ−メチル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルカルバミン酸ペンチルエステル(各異性体)、3−(ヘキシルオキシカルボニルアミノ−メチル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルカルバミン酸ヘキシルエステル(各異性体)、3−(ヘプチルオキシカルボニルアミノ−メチル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルカルバミン酸ヘプチルエステル(各異性体)、3−(オクチルオキシカルボニルアミノ−メチル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルカルバミン酸オクチルエステル(各異性体)、トルエン−ジカルバミン酸−ジメチルエステル(各異性体)、トルエン−ジカルバミン酸−ジエチルエステル(各異性体)、トルエン−ジカルバミン酸−ジプロピルエステル(各異性体)、トルエン−ジカルバミン酸−ジブチルエステル(各異性体)、トルエン−ジカルバミン酸−ジペンチルエステル(各異性体)、トルエン−ジカルバミン酸−ジヘキシルエステル(各異性体)、トルエン−ジカルバミン酸−ジヘプチルエステル(各異性体)、トルエン−ジカルバミン酸−ジオクチルエステル(各異性体)、N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジフェニル)−ジカルバミン酸−ジメチルエステル、N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジフェニル)−ジカルバミン酸−ジエチルエステル、N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジフェニル)−ジカルバミン酸−ジプロピルエステル、N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジフェニル)−ジカルバミン酸−ジブチルエステル、N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジフェニル)−ジカルバミン酸−ジペンチルエステル、N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジフェニル)−ジカルバミン酸−ジヘキシルエステル、N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジフェニル)−ジカルバミン酸−ジヘプチルエステル、N,N’−(4,4’−メタンジイル−ジフェニル)−ジカルバミン酸−ジオクチルエステル等のカルバミン酸エステルを挙げることができる。
【0046】
一方、上記の方法により生成する、上記塩基性触媒に由来する金属を含有する反応生成物は、その構造は明確ではないが、本発明者らは、H−NMRによる構造分析やICP(誘導結合型プラズマ発光分析)による金属含有量の定量等の結果から、カルバミン酸エステルと、上記塩基性触媒に由来する金属との複合体ではないかと推測している。
【0047】
上述した方法によって生成する、上記塩基性触媒に由来する金属を含有する反応生成物は、多くの場合、反応系において粉体として分散していて、濾過、膜分離、デカンテーション、遠心分離等の公知の方法によって反応系より分離回収することができる。上記分離操作は、好ましくは、窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオン等の不活性雰囲気下で実施される。この操作により、上述した方法によって製造されるカルバミン酸エステルを含有する反応液に含有される金属量を低減することができるため、カルバミン酸エステルと、触媒に由来する金属とを分離する際の作業・負荷を低減することができる。
【0048】
上記で示した方法によって得られるカルバミン酸エステルは、イソシアネートの製造に有用な化合物であり、上記カルバミン酸エステルより製造されるイソシアネートは、ポリウレタンフォーム、塗料、接着剤等の製造原料として好適に使用することができる。また、上述の方法によって、カルバミン酸エステルと、上記塩基性触媒に由来する金属を含有する化合物とを容易に分離することができ、カルバミン酸エステルに含有される金属量を低減することができることから、本発明は、産業上極めて重要である。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
<分析方法>
1)水の分析方法
装置:日本国、三菱化学社製、CA−05微量水分計
(1)定量分析法
乾燥窒素雰囲気下においてシリンジを使用して分析サンプルを約1g採取し重量を測定した後、そのまま水分計に注入し、水の定量をおこなった。その後、再び上記シリンジの重量を量り、サンプル注入量を計算し、サンプル中の水含有量を計算した。
【0051】
2)液体クロマトグラフィー分析方法
装置:日本国、島津社製 LC−10ATシステム
カラム:日本国、東ソー社製 Silica−60カラム 2本直列に接続
展開溶媒:ヘキサン/テトラヒドロフラン=80/20(体積比)の混合液
溶媒流量:2mL/分
カラム温度:35℃
検出器:R.I.(屈折率計)
【0052】
(1)液体クロマトグラフィー分析サンプル
サンプルを約0.1g秤量し、テトラヒドロフラン(日本国、和光純薬工業社製、脱水)を約1gと内部標準物質としてビスフェノールA(日本国、和光純薬工業社製、一級)を約0.02g加えて均一に混合した溶液を、液体クロマトグラフィー分析のサンプルとした。
【0053】
(2)定量分析法
各標準物質について分析を実施し、作成した検量線を基に、分析サンプル溶液の定量分析を実施した。
【0054】
3)ガスクロマトグラフィー分析方法
装置:日本国、島津社製 GC−2010
カラム:米国、アジレントテクノロジーズ社製 DB−1
長さ30m、内径0.250mm、膜厚1.00μm
カラム温度:50℃で5分間保持後、昇温速度10℃/分で200℃まで昇温
200℃で5分間保持後、昇温速度10℃/分で300℃まで昇温
検出器:FID
【0055】
(1)ガスクロマトグラフィー分析サンプル
サンプルを約0.05g秤量し、トルエン(日本国、和光純薬工業社製、脱水)を約1gと内部標準物質としてジフェニルエーテル(日本国、和光純薬工業社製、特級)を約0.02g加えて均一に混合した溶液を、ガスクロマトグラフィー分析のサンプルとした。
【0056】
(2)定量分析法
各標準物質について分析を実施し、作成した検量線を基に、分析サンプル溶液の定量分析を実施した。
【0057】
4)ICP質量分析法
装置:セイコー電子社製、SPQ−8000
【0058】
(1)定量分析方法
サンプル0.1gを希硫酸で灰化させた後、希硝酸に溶解した。この試料中のナトリウム元素量をICP質量分析装置で定量した。
【0059】
[実施例1]
内溶液5Lの4つ口フラスコに炭酸ビス(3−メチルブチル)1537g(7.6mol)とヘキサメチレンジアミン(米国、Aldrich社製)220.8g(1.9mol)を入れ、撹拌子を入れ、留出液受器と連結した還流冷却器付き分留頭、および温度計を取り付け、上記フラスコ内を真空−窒素置換した。上記フラスコ内の溶液を約1g採取し、カールフィッシャー水分計により含水量を計測したところ、約10ppmの水が含有されていた。上記フラスコを、80℃に加熱したオイルバスに浸漬し、ナトリウムメトキシド(米国、Aldrich社製、25%メタノール溶液)10gをシリンジで添加した。6時間後、白色の沈殿が目視で確認された。反応液をサンプリングしてガスクロマトグラフィー分析をおこなったところ、ヘキサメチレンジアミンが検出されなかった。
【0060】
上記反応液を、窒素雰囲気下で、PTFE製メンブレンフィルター(日本国、東洋濾紙社製、ポアサイズ0.25μm)を具備したタンク付ステンレスホルダー(日本国、東洋製作所社製、KST−90)に入れ、上記タンク内に0.4MPaの窒素を導入して濾過をおこなった。上記フィルター上に、16.5gの白色固体が得られ、上記白色固体は約5wt%のナトリウムを含有していた。
【0061】
ろ液を液体クロマトグラフィーで分析した結果、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ビス(3−メチルブチル)エステルを含有していた。また、ろ液に含有されるナトリウムは約20ppmであった。
【0062】
[比較例1]
内溶液5Lの4つ口フラスコに炭酸ビス(3−メチルブチル)1245g(6.2mol)とヘキサメチレンジアミン179g(1.5mol)を入れ、撹拌子を入れ、留出液受器と連結した還流冷却器付き分留頭、および温度計を取り付け、上記フラスコ内を真空−窒素置換した。上記フラスコ内の溶液を約1g採取し、カールフィッシャー水分計により含水量を計測したところ、約120ppmの水が含有されていた。上記フラスコを、80℃に加熱したオイルバスに浸漬し、ナトリウムメトキシド(25%メタノール溶液)10gをシリンジで添加し反応をおこなった。6時間後、反応液には白色沈殿が確認されなかった。反応液をサンプリングしてガスクロマトグラフィー分析をおこなったところ、ヘキサメチレンジアミンは検出されなかった。
【0063】
上記反応液を、窒素雰囲気下で、PTFE製メンブレンフィルター(日本国、東洋濾紙社製、ポアサイズ0.25μm)を具備したタンク付ステンレスホルダー(日本国、東洋製作所社製、KST−90)に入れ、上記タンク内に0.4MPaの窒素を導入して濾過をおこなった。上記フィルター上には固形物が得られなかった。
【0064】
ろ液を液体クロマトグラフィーで分析した結果、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ビス(3−メチルブチル)エステルを35.7wt%含有していた。また、ろ液に含有されるナトリウムは約700ppmであった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のカルバミン酸エステルの製造方法は、カルバミン酸エステルの製造において製造される、上記塩基性触媒に由来する金属を含有する反応生成物をカルバミン酸エステルと容易に分離することができる。したがって、本発明は、産業上極めて重要である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を含有する塩基性触媒存在下での炭酸エステルとアミンの反応による、カルバミン酸エステルの製造方法であって、
前記炭酸エステル及び前記アミンに含有される水分量の合計は、0.001〜50ppmであり、
前記反応により、前記カルバミン酸エステルと共に前記金属を含有する反応生成物を得る、製造方法。
【請求項2】
前記炭酸エステルが、下記一般式(1)で表される化合物である請求項1に記載の製造方法。
【化1】


[式中、Rは炭素数1〜10の脂肪族基を表す。]
【請求項3】
前記アミンが、下記一般式(2)で表される化合物である請求項1又は2に記載の製造方法。
【化2】


[式中、Rは、酸素原子を含んでいてもよい、炭素数1〜20のn価の脂肪族基又は炭素数6〜20のn価の芳香族基であり、nは2〜10の整数を表す。]
【請求項4】
前記一般式(2)で表される化合物におけるnが2である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記金属を含有する塩基性触媒が、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のアルコラートである請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記反応生成物は、前記反応により得られる反応混合物に不溶であり、前記反応混合物から前記反応生成物の分離を行なう、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記分離を濾過により行なう、請求項6に記載の製造方法。


【公開番号】特開2010−215584(P2010−215584A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66062(P2009−66062)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】