説明

カルバミン酸(R)−1−アリール−2−テトラゾリル−エチルエステルの製造方法

アリールケトンの不斉還元及びアルコール化合物のカルバメート化を含む、カルバミン酸(R)−1−アリール−2−テトラゾリル−エチルエステルの製造方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルバミン酸(R)−1−アリール−2−テトラゾリル−エチルエステルの製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、アリールケトンの不斉還元を含むカルバミン酸(R)−1−アリール−2−テトラゾリル−エチルエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているとおり、カルバミン酸(R)−1−アリール−2−テトラゾリル−エチルエステル(以下、‘カルバメート化合物’と称する)は、抗痙攣(anticonvulsants)効果により、中枢神経系の障害、特に不安、鬱病、痙攣、てんかん、偏頭痛、躁鬱、薬物乱用、喫煙、注意欠陥過活動性障害(ADHD)、肥満、睡眠障害、神経障害性の痛み、脳卒中、認知障害、神経退化及び麻痺による筋痙攣などの治療に有用である。
【0003】
上記カルバメート化合物は、そのテトラゾール部分におけるNの位置によって、テトラゾール−1−イル(以下、‘1Nテトラゾール’と称する)及びテトラゾール−2−イル(以下、‘2Nテトラゾール’と称する)の2種の位置異性体に分けられる。カルバメート化合物を製造するためのテトラゾール導入は、上記2種の位置異性体が1:1混合物で生成し、薬物学的に用いるためには個々に単離する必要がある。
【0004】
上記のカルバメート化合物はキラリティーを有し、医薬品として使用するために高い光学純度と化学的純度が求められる。
【0005】
その観点から、上記特許文献1では、純粋な鏡像立体異性体である、(R)−アリール−オキシレンを出発物質として用い、適切な塩基の存在下に溶媒中でテトラゾールによる開環反応を介してアルコール中間体に転化した後、該アルコール中間体にカルバモイル基を導入している。また、かくして生成される1Nと2N位置異性体を単離及び精製するために、アルコール中間体またはカルバメートの生成後にカラムクロマトグラフィー法が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0258718号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記製造において使用するため、(R)−2−アリール−オキシレンは、置換された(R)−マンデル酸誘導体などの光学活性物質から様々な経路を通して合成されるか、α−ハロアリールケトンの不斉還元−環形成反応またはラセミ体2−アリール−オキシラン混合物のその個々の鏡像異性体への分離により得られる。そのため、(R)−2−アリール−オキシレンは高価な化合物である。
【0008】
さらに、上記(R)−2−アリール−オキシレンのテトラゾールとの開環反応は、テトラゾールの低い求核性のために比較的高い温度で行われる。しかし、テトラゾール類は約110〜120℃で自発的に分解し始めるため、上記の開環反応は暴走反応の高い危険性を内包している。
【0009】
反応選択性において、(R)−2−アリール−オキシラン及びテトラゾールには、それぞれ2個の反応部位が存在するため、これらの間の開環反応は、ベンジル位置または末端位置で1N及び2N−テトラゾールの置換が生じ、合計で4個の位置異性体の混合物が生成する。したがって、それぞれの位置異性体は製造収率が低く、単離精製することが困難である。
【0010】
したがって、本発明は先行技術における上記の問題を考慮に入れてなされたものであり、本発明の目的は、(R)−1−アリール−2−テトラゾリル−エチルエステルの新規な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明は、下記一般式(2)で表わされるアリールケトンの(R)−選択的不斉還元に付し、そして下記一般式(5)で表わされる(R)−立体配置のアルコール化合物を生成せしめ、そして該アルコールをカルバメート化することを含む下記一般式(1)で表わされるカルバミン酸(R)−1−アリール−2−テトラゾリル−エチルエステルの製造方法が提供するものである:
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、ペルフルオロアルキル,炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のチオアルコキシ及び炭素数1〜8のアルコキシよりなる群から選択され;そして
及びAの一方はCHであり、他方はNである)
【発明の効果】
【0014】
一般式(8)及び(9)で表わされる化合物は商業的に入手可能な安価な化合物であるので、これらの化合物から一般式(2)のアリールケトンの合成は経済的に有利である。また、上記置換反応は(R)−2−アリール−オキシランとテトラゾールとの間の開環反応と比較して、比較的温和な条件下で行うことができる。したがって、本発明に係る方法は、潜在的に爆発性のテトラゾールを使用するが、工程安全性が確保され、不要なベンジル位置における位置異性体が生成せず、収率が高く、精製が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の態様に従えば、下記一般式(2)で表わされるアリールケトンの(R)−選択的不斉還元及び下記一般式(5)で表わされるアルコール化合物のカルバメート化を含む下記一般式(1)のカルバミン酸(R)−1−アリール−2−テトラゾリル−エチルエステルの製造方法が提供される。
【0016】
【化2】

【0017】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、ペルフルオロアルキル,炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のチオアルコキシ及び炭素数1〜8のアルコキシよりなる群から選択され;そして
及びAの一方はCHであり、他方はNである)
【0018】
本発明の製造方法において出発物質として用いられる一般式(2)のアリールケトンは、例えば、下記一般式(8)で表わされるアリールケトンと下記一般式(9)で表わされるテトラゾールとの間の置換反応により合成することができる:
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、R及びRは上記定義のとおりであり、
Xはハライドまたはスルホネートのような離脱基である)
【0021】
一般式(8)及び(9)で表わされる化合物は商業的に入手可能な安価な化合物であるので、これらの化合物から一般式(2)のアリールケトンの合成は経済的に有利である。また、上記置換反応は(R)−2−アリール−オキシランとテトラゾールとの間の開環反応と比べて、比較的温和な反応条件下で行うことができる。本発明に係る方法は、したがって、潜在的に爆発性のテトラゾールを使用するが、工程安全性が確保され、不要なベンジル位置の位置異性体が生成せず、製造収率が高く、精製が容易である。
【0022】
上記テトラゾールとの置換反応によって合成することができる一般式(2)で表わされるアリールケトンは、下記一般式(3)で表わされる1Nアリールケトン及び下記一般式(4)で表わされる2Nアリールケトンを含む位置異性体の混合物で存在することができ、それは商業的に利用可能な結晶化により単離精製することができる。
【0023】
【化4】

【0024】
本発明において有用な結晶化は、上記置換反応の生成物、すなわち位置異性体の混合物に溶解剤を添加し、次いで沈殿剤を添加することを含むことができる。上記結晶化は、場合により、沈殿後、沈殿物をろ過し、ろ液を濃縮し、沈殿剤を更に追加することを更に含んでいてもよい。
【0025】
上記溶解剤の非制限的な例は、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、酢酸
エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、1,4−ジオキサン及び炭素数1〜4の低級アルコール、ならびにこれらの組み合わせを含む。上記溶解剤は、上記位置異性体の混合物の重量(g)に基いて、0〜20mL(v/w)の量で使用することができる。本明細書で、溶解剤を0mL(v/w)で添加するとは、上記ろ液を希釈することなく、後続の添加剤を直ちに添加することを意味する。
【0026】
上記沈殿剤の例は、水、C1〜C4の低級アルコール、ジエチルエーテル、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン及びこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。上記沈殿剤は上記位置異性体の混合物の重量(g)に基いて、0〜40mL(v/w)の量でゆっくり添加することができる。本明細書で、沈殿剤を0mL(v/w)で添加するとは、沈殿剤を添加することなく、放置または冷却して沈殿物を生じさせることを意味する。
【0027】
沈殿剤の添加によって得られる結晶をろ過により、一般式(3)の1Nアリールケトンが高純度の結晶として生成する。
【0028】
他方、ろ過工程後に得られるろ液は濃縮し、沈殿剤対溶解剤の比率を高め、それによって一般式(4)の2Nアリールケトンを高純度で得ることができる。ろ液の濃縮比は当業者によって適切に決定することができる。例えば、濃縮は溶媒が完全に除去されるまで行い、次に上述したように溶解剤と沈殿剤を加える。
【0029】
上記結晶化はカラムクロマトグラフィー方法と異なり、何ら困難なく商業的に利用することができる。
【0030】
(R)−選択的不斉還元は、一般式(2)のアリールケトンの下記一般式(5)で表わされる(R)−立体配置をもつアルコール化合物への転換を可能にする。
【0031】
【化5】

【0032】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、ペルフルオロアルキル、炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のチオアルコキシ及び炭素数1〜8のアルコキシよりなる群から選択され;そして
及びAの一方はCHであり、他方はNである)
【0033】
上記(R)−選択的不斉還元は、例えば、生物学的または化学的に行うことができる。
【0034】
本発明の態様に従うカルバミン酸(R)−1−アリール−2−テトラゾリル−エチルエ
ステルの製造方法において、一般式(2)のアリールケトン化合物は生物学的不斉還元により高い光学純度を有する(R)−立体配置をもつアルコール化合物に転換される。
【0035】
上記生物学的不斉還元は、酸化還元酵素を生産し得る微生物菌株、一般式(2)のアリールケトン化合物及び補基質を含む緩衝溶液中で適切な温度において遂行することができる。上記酸化還元酵素を生産し得る微生物菌株は、カンジダ(Candida)属の酵母(yeast)、例えば、カンジダ・パラシローシス(Candida parapsilosis)またはカンジダ・ルゴサ(Candida rugosa);ピキア(Pichia)属の酵母、例えば、ピキア・アノマラ(Pichia anomala)またはピキア・ジャディニィ(Pichia jadinii);サッカロマイセス(Saccharomyces)属の酵母、例えば、パン酵母(Baker's yeast)、サッカロマイセス・セレビジ(Saccharomyces cerevisiae)またはサッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus);ロドトルラ・ムチラギノーザ(Rhodotorula mucilaginosa)またはトリゴノプシス・バリアビリス(Trigonopsis variabilis)などのその他の酵母;細菌(bacteria)、例えば、クレジエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)、エルウィニア・へルビコーラ(Erwinia herbicola),ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)またはロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous);カビ(fungi)、例えば、ムコール・ラセマウセス(Mucor racemosus)またはゲオトリクム・カンジドゥム(Geotrichum candidum)などを包含する。
【0036】
上記酸化還元酵素を生産し得る微生物菌株は、一般式(2)のアリールケトン1g当たり、約0.1〜10gの量で使用することができる。
【0037】
上記生物学的不斉還元の速度を高めるために、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)又はニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD)のような追加の補酵素を一般式(2)のアリールケトンの1g当たり、約0.1〜1mgの使用量で緩衝溶液に加えてもよい。
【0038】
上記補酵素、NADP又はNADは、酸化還元酵素及び/又は補基質を用いて、それぞれ、その還元形態、NADPH又はNADHに転換することができる。
【0039】
上記補基質の例は、ブドウ糖(glucose)、グリセロールまたは蔗糖(sucrose)などの糖類;メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−ペンタノール、2−メチルペンタノール、2−ヘキサノール、2−ヘプタノール、2−オクタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、2−メチル−2−ブタノールなどのアルコール類を含む。上記アルコールの中、メタノール、1−プロパノール、1−ブタノール及び2−メチル−2−ブタノールが好ましい。
【0040】
生物学的不斉還元に有用な上記緩衝溶液は、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)または例えば、pHは6〜8のリン酸ナトリウム、リン酸カリウムもしくはトリエタノールアミン水溶液であってもよい。
【0041】
上記生物学的不斉還元は10℃〜45℃で実施することができる。
【0042】
上記生物学的不斉還元は、経済的で環境にやさしいだけでなく、光学選択性が非常に高い。かくして、高い光学純度の(R)−立体配置をもつアルコール化合物が上記の反応条件下に上記酵素の存在下で得ることができる。
【0043】
本発明の他の態様に従うカルバミン酸(R)−1−アリール−2−テトラゾリル−エチルエステルの製造方法において、一般式(2)のアリールケトン化合物は不斉条件下で化
学的に、高い光学純度を有する(R)−立体配置をもつアルコール化合物に転換される。
【0044】
化学的不斉還元は、例えば、適切な温度において有機溶媒中でキラル型ボラン還元剤を用いて、または不斉触媒水素化(asymmetric catalytic hydrogenation)もしくは不斉転移触媒水素化(asymmetric catalytic transfer hydrogenation)によって遂行することができる。
【0045】
キラル型ボラン還元剤の使用に関して、一般式(2)のアリールケトン化合物の有機溶媒、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトニトリル、ジクロロメタン、クロロホルムまたはこれらの混合物中の溶液に、1〜4当量のナトリウム(−)−B−クロロジイソピノカンフェイルボラン(以下、‘(−)−DIP−Cl’と称する)または(R)−2-メチル−CBS−オキサザボロリジン/ボラン(以下、‘(R)−CBS/BH’と称する)を添加し、反応は約−10℃〜約60℃で行うことができる。
【0046】
上記不斉触媒水素化は次のとおり行うことができる:0.0002〜0.1当量の(R)−ビスホスホノ−ルテニウム(II)−(R,R)−キラル性ジアミン錯体触媒を有機溶媒、例えば、イソプロパノール、メタノール、エタノールまたはt−ブチルアルコールに溶解した溶液に、0.0004〜0.2当量の無機塩基を加える。一般式(2)のアリールケトン化合物を添加し、生じる溶液を1〜20気圧の水素圧力下に、約−10℃〜約60℃に保持する。不斉触媒水素化に有用な触媒の非制限的な例は、下記一般式(10)で表わされる、ジクロロ[(R)−(+)−2,2’−ビス(ジフェニルホスホノ)1,1’−ビナフチル][(1R,2R)-(+)−1,2−ジフェニルエチレンジアミン]ルテニウム(II)である。
【0047】
【化6】

【0048】
上記不斉触媒転移水素化に関して、一般式(2)のアリールケトン化合物の5:2ギ酸−トリエチルアミン共沸混合物またはイソプロパノール中の溶液に、約−10℃〜60℃において、0.001〜0.1当量の[S,S]−モノスルホネートジアミン−M(II)アーレン錯体触媒(ここでMはルテニウムまたはロジウムである)を添加することにより行うことができる。不斉転移触媒水素化のために有用な触媒の非制限的な例は、下記一般式(11)で表わされるクロロ{[(1S,2S)−(+)−アミノ−1,2−ジフェニルエチル](4−トルエンスルホニル)アミド}(p−シメン)ルテニウム(II)である。
【0049】
【化7】

【0050】
上記不斉還元により得られるアルコール化合物は一般式(6)の1Nアルコール及び一般式(7)の2Nアルコールの位置異性体混合物として存在することができ、それは結晶化により高純度を有する個々の位置異性体に単離精製することができる:
【0051】
【化8】

【0052】
上記結晶化は、上記不斉還元により生成する位置異性体混合物に溶解剤を添加し、沈殿剤を添加し、そして場合により、沈殿をろ過し、ろ液を濃縮し、追加の沈殿剤を更に添加することを含むことができる。
【0053】
上記結晶化に有用な溶解剤の例は、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、1,4−ジオキサン、炭素数1〜4の低級アルコール及びこれらの混合物を含むが、それらに制限されない。上記溶解剤は上記位置異性体混合物の重量(g)に基いて、0〜20mL(v/w)の量で添加することができる。
【0054】
上記沈殿剤の非制限的な例は、水、炭素数1〜4の低級アルコール、ジエチルエーテル、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン及びこれらの混合物を含む。上記沈殿剤は上記位置異性体混合物の重量(g)に基いて、0〜40mL(v/w)の量でゆっくり添加することができる。
【0055】
沈殿剤の添加後、ろ過により、1Nアルコール(6)を高純度の沈殿として得ることができる。
【0056】
さらに、ろ液を濃縮し、沈殿剤対溶解剤の比率を高めることによって、2Nアルコール(7)を非常に高い純度の結晶形態で得ることができる。
【0057】
上記結晶化工程は、一般式(2)のアリールケトンの位置異性体が既に単離精製されている場合には、省略することができる。
【0058】
一般式(5)の(R)−立体配置をもつアルコール化合物へのカルバモイル部分の導入により一般式(1)で表わされる(R)−立体配置をもつカルバメートが得られる:
【0059】
【化9】

【0060】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、ペルフルオロアルキル,炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のチオアルコキシ及び炭素数1〜8のアルコキシよりなる群から選択され;そして
及びAの一方はCHであり、他方はNである)
【0061】
上記カルバメート化工程において、例えば、無機シアネート−有機酸、イソシアネート−水またはカルボニル化合物−アンモニアをカルバモイル基を導入するために使用することができる。
【0062】
上記無機シアネート−有機酸を用いるカルバメート化のために、一般式(5)の(R)−立体配置をもつアルコール化合物を有機溶媒、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトニトリル、ジクロロメタン、クロロホルムまたはこれらの混合物中に溶解し、1〜4当量のナトリウムシアネートのような無機シアネートと有機酸、例えば、メタンスルホン酸または酢酸と混合した後、約−10℃〜70℃で反応させる。
【0063】
上記イソシアネート−水を使用する場合については、一般式(5)の(R)−立体配置をもつアルコールの有機溶媒、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトニトリル、ジクロロメタン、クロロホルムまたはこれらの混合物中の溶液に、1〜4当量のイソシアネート、例えば、クロロスルホン酸イソシアネート、トリクロロアセチルイソシアネート、トリメチルシリルイソシアネートを添加し、約−50℃〜40℃で反応させる。次に、精製することなく、加水分解を誘導するために1〜20当量の水を加える。
【0064】
上記カルボニル化合物−アンモニアの使用については、一般式(5)のアルコール化合物の有機溶媒、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、
アセトニトリル、ジクロロメタン、クロロホルムまたはこれらの混合物中の溶液に、1〜4当量のカルボニル化合物、例えば、1,1’−カルボニルジイミダゾール、カルバモイルクロリド、ジスクシニルカルボネート、ホスゲン、トリホスゲンまたはクロロホルメートを加え、約−10℃〜70℃で反応させた後、精製することなく、1〜10当量のアンモニアを加える。
【0065】
上記カルバメート化後、かくして得られる一般式(1)のカルバメート化合物は、以下に記述する結晶化により更に高い光学的及び化学的純度で精製することができる。結晶化はカルバメート化の生成物に溶解剤を添加し、次いで沈殿剤を添加し、そして場合により、沈殿をろ過し、追加の沈殿剤を添加すること;を含む製薬学的用途のためには、使用前にカルバメート化生成物を常に最終的に精製するが、本方法のより早い段階で結晶化を行ってもよい。
【0066】
上記溶解剤の非制限的な例は、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、1,4−ジオキサン、炭素数1〜4の低級アルコール及びこれらの混合物を含む。上記溶解剤は上記反応生成物の重量(g)に基いて、0〜20mL(v/w)量で用いることができる。
【0067】
上記沈殿剤の非制限的な例は、水、炭素数1〜4の低級アルコール、ジエチルエーテル、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン及びこれらの混合物を含む。上記沈殿剤は上記反応生成物の重量(g)に基いて、0〜40mL(v/w)の量でゆっくり添加することができる。生物学的または化学的不斉還元を含む本発明の方法により、光学的純度の高いカルバメート化合物を提供することができる。また、本発明の方法は温和な反応条件で行われるので、工程安定性を確保することができる。さらに、不斉還元の前後またはカルバメート化の後に大規模生産に適用可能な結晶化工程を行うことによって、化学的純度が更に高いカルバメート化合物が生じる。
【0068】
以下に記載する実施例により本発明をより良く理解することができるが、これらは本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0069】
テトラゾールアリールケトン類の製造
製造例1:1−(2−クロロフェニル)−2-(1,2,3,4−テトラゾール−1−イル)エタン−1−オンの製造
アセトニトリル(2000mL)中の2−ブロモ−2’−クロロアセトフェノン(228.3g、0.978mol)及び炭酸カリウム(161.6g、1.170mol)の懸濁液に、35w/w%1H−テトラゾールジメチルホルムアミド溶液(215.1g、1.080mol)を室温で添加した。反応物を45℃で2時間撹拌し、減圧蒸留して約1500mLの溶媒を除去した。濃縮液を酢酸エチル(2000mL)で希釈し、10%食塩水(3回×2000mL)で洗浄した。分離された有機層を減圧蒸留し、216.4gの油状の固体残渣を得た。固体残渣の酢酸エチル(432mL)溶液に、ヘプタン(600mL)をゆっくり加えた。生成した沈殿を室温でろ過し洗浄して、90.1g(0.405mol)の1−(2−クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール−1−イル)エタン-1−オン(以下、‘1Nケトン’と称する)を得た。
1H-NMR(CDCl3) d8.87(s, 1H), d7.77(d, 1H), d7.39-7.62(m, 3H), d5.98(s, 2H)
【0070】
製造例2:1−(2−クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール−2−イル)エタン−1−オンの製造
上記製造例1のろ過後、ろ液を濃縮し、イソプロパノール(100mL)に溶かし、それにヘプタン(400mL)をゆっくり加えて結晶化を完結させた。ろ過し5℃で洗浄し
て、94.7g(0.425mol)の1−(2−クロロフェニル)−2(1,2,3,4−テトラゾール−2−イル)エタン−1−オン(以下、‘2Nケトン’と称する)を得た。
1H-NMR(CDCl3) d8.62(s, 1H), d7.72(d, 1H), d7.35-7.55(m, 3H), d6.17(s, 2H)
【0071】
生物学的不斉還元による(R)−立体配置のアルコール化合物の製造
酸化還元酵素を発現する菌株が生物学的不斉還元において使用するのに適している。パン酵母(Baker's yeast)(Jenico)のような、凍結乾燥された形態で市販される菌株は反応のために適切に秤量することができる。他の微生物菌株のように、急速冷凍庫(deep
freezer)(Revco)に保存された菌株は、LB平板培地(バクトトリプトン:1%、酵母抽出物:0.5%、NaCl:0.5%、ブドウ糖:0.1%、寒天:1.5%)上に散布し、コロニーを形成せしめることができる。これを次いで3mLのLB培地を含む試験管に接種した後、30℃で1日間前培養する。前培養の完了後、それを300mLのLB培地を含む1L三角フラスコにスケールアップし、30℃で2日間培養した。遠心分離により菌株を小球状に沈殿させ、これを定量して反応に使用した。
【0072】
製造例3:ロドトルラ・ムチラギノーザ(Rhodotorula mucilaginosa)を用いた1Nアルコールの製造
5%(w/v)のグリセロールを含むPBS(10mL、pH7.0)中で酸化還元酵素を生産する微生物菌株であるロドトルラ・ムチラギノーザ(Rhodotorula mucilaginosa)KCTC 7117(500mg)の存在下に、上記製造例1で製造された1−(2−クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール-1−イル)エタン−1−オン(100mg、0.449mmol)を、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD、0.5mg)と共に室温で4日間インキュベーションした後、酢酸エチル(1mL)で抽出して、R−立体配置のアルコール化合物、すなわち(R)−1−(2−クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール−1−イル)エタン−1−オル(以下、‘1Nアルコール’と称する)を得た。転換率及び生成物の光学純度を下記表1に示す。転換率(%)、純度(%)及び生成物の光学純度(%)はHPLCを使用して測定し、下記の数式を使用して計算した。
転換率(%)=[(生成物の面積)/(反応物の面積+生成物の面積)]×100
純度(%)=(生成物の面積)/(HPLC上の全ピークの面積)]×100
光学純度(%)=[(R−立体配置の面積又はS−立体配置の面積)/(R−立体配置の面積+S−立体配置の面積)]×100
1H-NMR(CDCl3) d8.74(s, 1H), d7.21-7.63(m, 4H),d5.57(m,1H), d4.90(d, 1H), d4.50(d, 1H), d3.18(d, 1H)
【0073】
製造例4:ロドトルラ・ムチラギノーザ(Rhodotorula mucilaginosa)を用いた2Nアルコールの製造
1−(2−クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール−1−イル)エタン-1−オンの代わりに、製造例2で製造された1−(2−クロロフェニル)−2(1,2,3,4−テトラゾール−2−イル)エタン−1−オンを使用した以外は、上記製造例3と同じ方法を繰り返し、(R)−1(2−クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール−2−イル)エタン−1−オル(以下、‘2Nアルコール’と称する)を得た。転換率及び生成物の光学純度を下記表1に示す。
1H-NMR(CDCl3) d8.55(s, 1H), d7.28-7.66(m, 4H), d5.73(d, 1H), d4.98(d, 1H), d4.83(d, 1H), d3.38(br, 1H)
【0074】
製造例5:トリゴノプシス・バリアビリス(Trigonopsis variabilis)を使用した1Nアルコールの製造
酸化還元酵素を生産する菌株として、ロドトルラ・ムチラギノーザ(Rhodotorula muci
laginosa)KCTC 7117の代わりに、トリゴノプシス・バリアビリス(Trigonopsis variabilis)KCTC 7263を使用した以外は、製造例3と同じ方法を繰り返して、R−立体配置の1Nアルコールを得た。その転換率及び生成物の光学純度を下記表1に示す。
【0075】
製造例6:トリゴノプシス・バリアビリス(Trigonopsis variabilis)を使用した2Nアルコールの製造
酸化還元酵素を生産する菌株として、ロドトルラ・ムチラギノーザ(Rhodotorula mucilaginosa)KCTC 7117の代わりに、トリゴノプシス・バリアビリス(Trigonopsis variabilis)KCTC 7263を使用した以外は、製造例4と同じ方法を繰り返して、R−立体配置の2Nアルコールを得た。その転換率及び生成物の光学純度を下記表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
製造例7及び8:カンジダ(Candida)属の酵母を用いた1Nアルコールの製造
酸化還元酵素を生産する菌株として、ロドトルラ・ムチラギノーザ(Rhodotorula mucilaginosa)KCTC 7117の代わりに、カンジダ・パラシローシス(Candida parapsilosis)ATCC 20179またはカンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)KCTC 7292を使用した以外は、製造例3と同じ方法を繰り返して、R−立体配置の1Nアルコールを得た。その転換率及び生成物の光学純度を下記表2に示す。
【0078】
製造例9及び10:カンジダ(Candida)属の酵母を用いた2Nアルコールの製造
酸化還元酵素を生産する菌株として、ロドトルラ・ムチラギノーザ(Rhodotorula mucilaginosa)KCTC 7117の代わりに、カンジダ・パラシローシス(Candida parapsilosis)ATCC 20179またはカンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)KCTC 7292を使用した以外は、製造例4と同じ方法を繰り返して、R−立体配置の2Nアルコールを得た。その転換率及び生成物の光学純度を下記表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
製造例11及び12:ピキア(Pichia)属の酵母を用いた1Nアルコールの製造
酸化還元酵素を生産する菌株として、ロドトルラ・ムチラギノーザ(Rhodotorula mucilaginosa)KCTC 7117の代わりに、ピキア・アノマラ(Pichia anomala)KCTC 1206またはピキア・ジャディニィ(Pichia jadinii)KCTC 7008を使用した以外は、製造例3と同じ方法を繰り返して、R−立体配置の1Nアルコールを得た。その転換率及び生成物の光学純度を下記表3に示す。
【0081】
製造例13及び14:ピキア(Pichia)属の酵母を用いた2Nアルコールの製造
酸化還元酵素を生産する菌株として、ロドトルラ・ムチラギノーザ(Rhodotorula mucilaginosa)KCTC 7117の代わりに、ピキア・アノマラ(Pichia anomala)KCTC 1206またはピキア・ジャディニィ(Pichia jadinii)KCTC 7008を使用した以外は、製造例4と同じ方法を繰り返して、R−立体配置の2Nアルコールを得た。その転換率及び生成物の光学純度を下記表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
製造例15〜20:サッカロミケス(Saccharomyces)属の酵母を用いた1Nアルコールの製造
酸化還元酵素を生産する菌株として、ロドトルラ・ムチラギノーザ(Rhodotorulamucilaginosa)KCTC 7117の代わりに、パン酵母(Baker's yeast),サッカロマイセス・セレビジ(Saccharomyces cerevisiae)KCTC 7108、サッカロマイセス・セレビジ(Saccharomyces cerevisiae)KCTC 1205、サッカロマイセス・セレビジ
(Saccharomyces cerevisiae)KCTC 7107、サッカロマイセス・セレビジ(Saccharomyces cerevisiae)KCTC 1552またはサッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)KCTC 1218を使用した以外は、製造例3と同じ方法を繰り返して、R−立体配置の1Nアルコールを得た。その転換率及び生成物の光学純度
を下記表4に示す。
【0084】
製造例21〜26:サッカロマイセス(Saccharomyces)属の酵母を用いた2Nアルコールの製造
酸化還元酵素を生産する菌株として、ロドトルラ・ムチラギノーザ(Rhodotorula mucilaginosa)KCTC 7117の代わりに、パン酵母(Baker's yeast),サッカロマイセス・セレビジ(Saccharomyces cerevisiae)KCTC 7108、サッカロマイセス・セレビジ(Saccharomyces cerevisiae)KCTC 1205、サッカロマイセス・セレビジ(Saccharomyces cerevisiae)KCTC 7107、サッカロマイセス・セレビジ(Saccharomyces cerevisiae)KCTC 1552またはサッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)KCTC 1218を使用した以外は、製造例4と同じ方法を繰り返して、R−立体配置の2Nアルコールを得た。その転換率及び生成物の光学純度を下記表4に示す。
【0085】
【表4】

【0086】
製造例27〜30:細菌(Bacteria)を用いた1Nアルコールの製造
酸化還元酵素を生産する菌株として、ロドトルラ・ムチラギノーザ(Rhodotorula mucilaginosa)KCTC 7117の代わりに、クレジエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)IFO 3319、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)KCTC 1752、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)KCCM 40452またはロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC 21197を使用した以外は、製造例3と同じ方法を繰り返して、R−立体配置の1Nアルコールを得た。その転換率及び生成物の光学純度を下記表5に示す。
【0087】
製造例31〜37:細菌(Bacteria)を用いた2Nアルコールの製造
酸化還元酵素を生産する菌株として、ロドトルラ・ムチラギノーザ(Rhodotorula mucilaginosa)KCTC 7117の代わりに、クレジエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)IFO 3319、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)KCTC 2361、エルウィニア・へルビコーラ(Erwinia herbicola)KCTC 2104、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)KCTC 1071、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)KCTC 1752、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)KCCM 40452またはロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC 21197を使用した以外は、製造例4と同じ方法を繰り返して、R−立体配置の2Nアルコールを得た。その転換率及び生成物の光学純度を下記表5に示す。
【0088】
【表5】

【0089】
製造例38及び39:カビ(Fungi)を用いた1Nアルコールの製造
酸化還元酵素を生産する菌株として、ロドトルラ・ムチラギノーザ(Rhodotorula mucilaginosa)KCTC 7117の代わりに、ムコール・ラセマウセス(Mucor racemosus)KCTC 6119、ゲオトリクム・カンジドゥム(Geotrichum candidum)KCTC
6195、ゲオトリクム・カンジドゥム(Geotrichum candidum)IFO 5767またはゲオトリクム・カンジドゥム(Geotrichum candidum)IFO 4597を使用した以外は、製造例3と同じ方法を繰り返して、R−立体配置の1Nアルコールを得た。その転換率及び生成物の光学純度を下記表6に示す。
【0090】
製造例40〜42:カビ(Fungi)を用いた2Nアルコールの製造
酸化還元酵素を生産する菌株として、ロドトルラ・ムチラギノーザ(Rhodotorula mucilaginosa)KCTC 7117の代わりに、ムコール・ラセマウセス(Mucor racemosus)KCTC 6119、ゲオトリクム・カンジドゥム(Geotrichum candidum)KCTC6195、ゲオトリクム・カンジドゥム(Geotrichum candidum)IFO 5767またはゲオトリクム・カンジドゥム(Geotrichum candidum)IFO 4597を使用した以外は、製造例4と同じ方法を繰り返して、R−立体配置の2Nアルコールを得た。その転換率及び生成物の光学純度を下記表6に示す。
【0091】
【表6】

【0092】
化学的不斉還元による(R)−立体配置のアルコール化合物の製造
製造例43及び44:キラル型ボラン還元剤を用いた1Nアルコールの製造
製造例1で製造された1Nケトン(100mg、0.449mmol)のテトラヒドロフラン(1mL)中の溶液に、2当量のキラル型ボラン還元剤、例えば(−)−B−クロロジイソピノカンフェイルボランまたは(R)−2−メチル−CBS−オキサザボロリジン/ボランを0℃で添加した。室温で24時間撹拌後、酢酸エチル(1mL)で抽出して、下記表7の結果を得た。
【0093】
製造例45及び46:キラル型ボラン還元剤を用いた2Nアルコールの製造
製造例2で製造された2Nケトン(100mg,0.449mmol)のテトラヒドロフラン(1mL)中の溶液に、2当量のキラル型ボラン還元剤、例えば(−)−B−クロロジイソピノカンフェイルボランまたは(R)−2−メチル−CBS−オキサザボロリジン/ボランを0℃で添加した。室温で24時間撹拌後、酢酸エチル(1mL)で抽出して、下記表7の結果を得た。
【0094】
【表7】

【0095】
製造例47及び48:不斉触媒転移水素化を用いた1N及び2Nアルコールの製造
製造例1で製造された1Nケトンまたは製造例2で製造された2Nケトン(222mg、1.0mmol)を5:2ギ酸−トリエチルアミン共沸混合物(1.4mL)に溶解し
、アルゴン環境に付した。溶液を0℃に冷却した後、それに、アルゴン環境中で、一般式(11)のクロロ{[(1S,2S)−(+)−アミノ−1,2−ジフェニルエチル](4−トルエンスルホニル)アミド}(p−シメン)ルテニウム(II)(2mg、0.003mmol)を添加した。室温で48時間撹拌後、酢酸エチル(2mL)で抽出して下記表8の結果を得た。
【0096】
【表8】

【0097】
カルバメートの製造
製造例49:カルバミン酸(R)−1−(2−クロロフェニル)−2−(テトラゾール−1−イル)エチルエステルの製造
5%(w/v)のグリセロールを含むPBS(1000mL,pH7.0)に、パン酵母(50g)及び上記製造例1の方法で製造された1Nケトン(10g、44.9mmol)を、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD、1mg)と一緒に添加した。生じる反応懸濁液を30℃で4日間撹拌し、酢酸エチル(500mL)と混合した。分離後、形成された有機層を10%塩水(3回×500mL)で洗浄した。有機層に硫酸マグネシウムを加えた後、生じる懸濁液をろ過した。次いでろ液を減圧下に蒸留して、8.5gの固体残渣を得、この固体残渣に次いで酢酸エチル(10mL)中に、45℃で溶解し、室温に冷却した。ヘプタン(20mL)をゆっくり加えて、結晶化させた。かくして生成した沈殿をろ過洗浄して、7.32g(32.6mmol)の1−(2−クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール−1−イル)エタン−1−オル(光学純度99.9%)を得た。沈殿をジクロロメタン(73mL)に溶解し、メタンスルホン酸(5.5mL、84.7mmol)を10℃で添加した後、ナトリウムシアネート(4.24g、65.2mmol)をゆっくり添加した。反応混合物を10℃で12時間撹拌し、10%塩水(3回×100mL)で洗浄した。かくして生成した有機層を減圧下に濃縮し、濃縮液をイソプロパノール(14mL)中に溶解した。溶液を45℃に加温し、室温に冷却して、結晶化を完結させた。かくして得られる沈殿をろ過洗浄して、7.84g(29.3mmol)のカルバミン酸(R)−1−(2−クロロフェニル)−2−(テトラゾール−1−イル)エチルエステル(純度>99.0%、光学純度>99.0%)を得た。
1H-NMR(Acetone-d6)d9.14(s,1H),d7.31-7.59(m,4H),d6.42(m,1H),d6.0-6.75(br,2H)d4.90(d,1H),d5.03(m,2H)
【0098】
製造例50:カルバミン酸(R)−1−(2−クロロフェニル)−2−(テトラゾール−2−イル)エチルエステルの製造
上記製造例2に方法で製造された2Nケトン(15.5g、69.6mmol)を5:2ギ酸−トリエチルアミン共沸混合物(60mL)中に溶解し、アルゴン環境に付した。この溶液に、一般式(11)のクロロ{[(1S,2S)-(+)−アミノ−1,2−ジフェニルエチル](4−トルエンスルホニル)アミド}(p−シメン)ルテニウム(II)(140mg、0.220mmol)を添加した後、室温で48時間撹拌した。溶液を酢酸エチル(200mL)で希釈し、10%塩水(3回×100mL)で洗浄した。かくして形成された有機層を硫酸マグネシウムで乾燥しろ過し、ろ液を減圧下に蒸留して、14.8g(65.9mmol)の1−(2−クロロフェニル)−2−(1,2,3,4−テトラゾール−2−イル)エタン-1−オル(光学純度87.8%)を油状残渣として得た。これにテトラヒドロフラン(150mL)を添加した。−15℃に冷却した後、クロロスルホニルイソシアネート(6.9mL、79.2mmol)をゆっくり添加し、−10℃で2時間撹拌した。水(10mL)をゆっくり添加して反応を終結させた。生じた溶液を減圧下に濃縮して約100mLの溶媒を除去した。濃縮液を酢酸エチル(200mL)で希釈し、10%の塩水(3回×150mL)で洗浄した。有機層を減圧下に濃縮し、濃縮液をイソプロパノール(30mL)中に溶解し、ヘプタン(90mL)をゆっくり加えて結晶化を完結させた。かくして生成した沈殿をろ過洗浄して、15.4g(57.5mmol)のカルバミン酸(R)−1−(2−クロロフェニル)−2−(テトラゾール−2−イル)エチルエステル(純度>99.0%、光学純度>99.0%)を得た。
1H-NMR(Acetone-d6)d8.74(s,1H),d7.38-7.54(m,4H),d6.59(m,1H),d6.16(br,2H)d4.90(d,1H),d5.09(m,2H).
【0099】
上述したとおり、本発明に従い、光学的及び化学的純度の高いカルバメート化合物を経済的に製造することができる。
【0100】
本発明の好ましい態様を例示の目的のために開示したが、当業者は、添付の特許請求の範囲に開示された発明の範囲及び精神から逸脱することなく、種々の修正、追加及び代替が可能であることは認識するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2)で表わされるアリールケトンを(R)−選択的不斉還元に付し、下記一般式(5)で表わされる(R)−立体配置のアルコール化合物を生成せしめ、そして該アルコールをカルバメート化することを含む下記一般式(1)で表わされるカルバミン酸アリール−2−テトラゾリル−エチルエステルの製造方法:
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、ペルフルオロアルキル,炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のチオアルコキシ及び炭素数1〜8のアルコキシよりなる群から選択され;そして
及びAの一方はCHであり、他方はNである)
【請求項2】
上記(R)−選択的不斉還元を、生物学的不斉還元または化学的不斉還元によって行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記生物学的不斉還元を、上記一般式(2)のアリールケトン、酸化還元酵素を生産し得る微生物菌株及び補基質(cosubstrate)を含有する緩衝溶液中で行う請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記微生物菌株が、カンジダ・パラシローシス(Candida parapsilosis)またはカンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)を含むカンジダ(Candida)属の酵母(yeast);ピキア・アノマラ(Pichia anomala)またはピキア・ジャディニィ(Pichia jadinii)を含むピキア(Pichia)属の酵母;パン酵母(Baker's yeast),サッカロマイセス・セレビジ(Saccharomyces cerevisiae)またはサッカロマイセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)を含むサッカロマイセス(Saccharomyces)中の酵母;ロドトルラ・ムチラギノーザ(Rhodotorula mucilaginosa)またはトリゴノプシス・バリアビリス(Trigonopsis variabilis)を含む酵母;クレジエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)、エルウィニア・へルビコーラ(Er
winia herbicola)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)またはロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)を含む細菌(Bacteria);ムコール・ラセマウセス(Mucor racemosus)またはゲオトリクム・カンジドゥム(Geotrichum candidum)を含むカビ(fungi)よりなる群から一つ以上選択される請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記化学的不斉還元を、キラル型ボラン還元剤を用いて、或いは不斉触媒水素化(asymmetric catalytic hydrogenation)または不斉触媒転移水素化(asymmetric catalytic transfer hydrogenation)により行う請求項2に記載の方法。
【請求項6】
上記キラル型ボラン還元剤が、(−)−B−クロロジイソピノカンフェイルボランまたは(R)−2−メチル−CBS−オキサザボロリジン/ボランである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記不斉触媒水素化を、(R)−ビスホスホノ−ルテニウム(II)−(R,R)−キラル性ジアミン錯体触媒の存在下で、上記一般式(2)のアリールケトンを水素気体と反応させることにより行う請求項5に記載の方法。
【請求項8】
上記不斉触媒転移水素化を、[S,S]−モノスルホネートジアミン−M(II)−アーレン錯体触媒系(ここで、Mはルテニウムまたはロジウムである)の存在下で、上記一般式(2)のアリールケトンをギ酸トリエチルアミンまたはイソプロパノール−無機塩基と反応させることにより行う請求項5に記載の方法。
【請求項9】
上記カルバメート化工程を、上記一般式(5)の(R)−立体配置のアルコール化合物を無機シアネート及び有機酸と反応させることにより行う請求項1に記載の方法。
【請求項10】
上記カルバメート化工程を、上記一般式(5)の(R)−立体配置のアルコール化合物と、クロロスルホン酸イソシアネート、トリクロロアセチルイソシアネート及びトリメチルシリルイソシアネートよりなる群から選択されるイソシアネート化合物との反応により生じる生成物を加水分解することにより行う請求項1に記載の方法。
【請求項11】
上記カルバメート化工程を、上記一般式(5)の(R)−立体配置のアルコール化合物と、1,1’−カルボニルジイミダゾール、カルバモイルハライド、ジスクシニルカルボネート、ホスゲン、トリホスゲンまたはクロロホルメートを含むカルボニル化合物との反応により生じる生成物に、NHを導入することにより行う請求項1に記載の方法。
【請求項12】
上記(R)−選択的不斉還元工程及びカルバメート化工程の少なくとも一方の工程後、結晶化工程を更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項13】
上記結晶化工程が、反応生成物に、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、1,4−ジオキサン、炭素数1〜4の低級アルコール及びこれらの混合物から選択される溶解剤を添加する工程;及び
水、炭素数1〜4の低級アルコール、ジエチルエーテル、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン及びこれらの混合物から選択される沈殿剤を添加する工程
を含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
上記一般式(2)のアリールケトンを、下記一般式(8)で表わされるアリールケトンと下記一般式(9)で表わされるテトラゾールとの置換反応により製造する製造工程を更に含む請求項1に記載の方法:
【化2】

(式中、R及びRは請求項1で定義したとおりであり、
Xはハライド及びスルホネートの中から選択される離脱基である)
【請求項15】
上記置換反応により得られる生成物にアセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、1,4−ジオキサン、炭素数1〜4の低級アルコール及びこれらの混合物から選択される溶解剤を添加する工程;及び
水、炭素数1〜4の低級アルコール、ジエチルエーテル、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン及びこれらの混合物から選択される沈殿剤を添加する工程
を含む結晶化工程を更に含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】
下記一般式(2)で表わされるアリールケトンの(R)−選択的不斉還元による下記一般式(5)で表わされるアルコール化合物の製造方法であって、上記(R)−選択的不斉還元を生物学的不斉還元または化学的不斉還元により行う方法:
【化3】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、ペルフルオロアルキル、炭素数1〜8のアルキル、炭素数1〜8のチオアルコキシ及び炭素数1〜8のアルコキシよりなる群から選択され;そして
及びAの一方はCHであり、他方はNである)
【請求項17】
上記生物学的不斉還元を、上記一般式(2)で表わされるアリールケトン、酸化還元酵素を生産し得る微生物菌株及び補基質を含有する緩衝溶液中で行う請求項16に記載の方法。
【請求項18】
上記化学的不斉還元を、キラル型ボラン還元剤を用いて、或いは不斉触媒水素化(asymmetric catalytic hydrogenation)または不斉触媒転移水素化(asymmetric catalytic transfer hydrogenation)により行う請求項16に記載の方法。

【公表番号】特表2012−530513(P2012−530513A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−517362(P2012−517362)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【国際出願番号】PCT/KR2009/005906
【国際公開番号】WO2010/150946
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(511310672)エスケー バイオファーマシューティカル カンパニー リミテッド (2)
【Fターム(参考)】