説明

カルボカチオンの関与による発熱反応の段階的実施法

本発明は、カルボカチオンの関与による反応を行うための方法に関し、それによって、反応の初期の最も強い発熱段階が、マイクロリアクター中で、高温(60〜120℃)および短い滞留時間(1〜30秒)で行われ、その後のより弱い発熱の複数の段階が、より滞留時間の長い(1〜30秒)2つ以上の滞留時間ユニット中で任意により低温で行われる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
カルボカチオンの関与によって進行する反応、例えば、リッター反応、アルケンへの求電子付加反応、またはフリーデル−クラフツ(Friedel−Crafts)アルキル化反応は一般に、発熱を伴い、大抵の場合選択性がほとんどなく、高い反応速度で進行する。強酸をこれらの反応に用いる場合、腐食の問題も生じる。これらの理由のため、これらの反応が工業的に行われる場合、多くの不具合が生じる。
【0002】
反応による熱生成の制御を可能にするために、これらの反応は、通常、化学的根拠により必要とされるかまたは推奨されるであろうよりも低温で行われる。
【0003】
反応を制御するために、高レベルの逆混合を行う試みもなされたが、これは既に形成された生成物の分解を引き起こし得る。
【0004】
生産規模の反応は、反応が制御された方式で進行できるように、反応速度が許容するであろうよりもゆっくりと行われる。
【0005】
収率は、場合により副産物の生成のため、場合により不完全な転化のために、大抵の場合、中程度に留まる。
【0006】
最後に、大量の非常に反応性の高い出発物質および中間体のために、高レベルの危険性が常に存在する。
【0007】
高度の発熱性の反応に伴う安全上の問題を回避するとともにより高い収率を得るために、これらの反応をマイクロリアクター内で行うことが文献に提案されている。
【0008】
例えば、国際公開第01/23328号パンフレットには、混合要素と、任意に滞留セクションとから構成されるマイクロリアクター内での有機化合物のフリーデル−クラフツアルキル化反応の実施が記載されている。
【0009】
EP 1 500 649号明細書には、アリールリチウム化合物を得るための臭化アリールとブチルリチウムとの反応などの現場(in situ)クエンチ反応、ならびにそれに続く求電子剤との反応が、任意に以下の滞留時間ユニットを有するマイクロリアクター内で実施可能であることが開示されている。
【0010】
任意に以下の滞留時間セクションを有するマイクロリアクターの使用は、他のプロセス向けにも知られている。これらの例は、ジヒドロピロンの調製(国際公開第02/068403号パンフレット)、有機化合物のカップリング(国際公開第02/00577号パンフレット)、有機化合物へのアルキリデン基の転移(国際公開第02/00576号パンフレット)、酸触媒による、クメンヒドロペルオキシドの均一開裂(国際公開第01/30732号パンフレット)などである。
【0011】
これらのプロセスにおいては、反応全体がマイクロリアクター中で行われ、このため、この目的に適しているのは一般に非常に速度の速い反応のみである。さらに、上記のプロセスにより、理論的に可能であると考えられるよりも著しく低い収率が得られる。上に記載したプロセスのスループットおよび選択性も十分でない。
【0012】
本発明の目的は、先行技術と比較して、スループットならびに収率および選択性の向上した、カルボカチオンの関与による反応の実施を可能にする方法を見出すことにある。
【0013】
予想外にも、反応を複数の工程に分割することによってこの目的を達成することが可能であり、ここで、反応の最も強い発熱段階が、最も高い温度および最も短い滞留時間で行われ、その後のより弱い発熱の複数の段階が、任意により低温で、より長い滞留時間で行われる。
【0014】
したがって、本発明は、カルボカチオンの関与による反応を行うための改良された方法を提供し、本方法は、反応の初期の最も強い発熱段階を、マイクロリアクター中で、高温および短い滞留時間で行うことと、その後のより弱い発熱の複数の段階を、より滞留時間の長い2つ以上の滞留時間ユニット中で任意に低温で行うこととを含む。
【0015】
本発明の方法は、カルボカチオンの関与による反応を行うのに適している。
【0016】
これらの反応の例は、リッター反応、アルケンへの求電子付加反応、またはフリーデル−クラフツアルキル化反応などである。
【0017】
本発明の方法は、カルボカチオンがニトリルと反応されるリッター反応に用いるのが好ましい。本明細書で用いられるカルボカチオン源の例は、アルコール、アルケンなどである。
【0018】
本方法は、硫酸の存在下での、アクリロニトリルと、ジアセトンアルコール、アセトン、または酸化メシチルとの反応、ならびにその後の加水分解によるジアセトンアクリルアミドの調製に用いるのが特に好ましい。
【0019】
本発明は、複数の段階で、カルボカチオンの関与による反応を行うものである。
【0020】
第1の段階は、初期の最も強い発熱段階である。
【0021】
この段階は、マイクロリアクター中で、高温および短い滞留時間で行われる。
【0022】
本明細書における好適なマイクロリアクターは、例えば、独国特許発明第39 26 466 C2号明細書、米国特許第5,534,328号明細書、DE 100 40 100号明細書、国際公開第96/30113号パンフレット、EP 0 688 242号明細書、EP 1 031 375号明細書、あるいはMikrotechnik Mainz GmbH(独国)からの刊行物、または「Microreactors;Wolfgang Ehrfeld,Volker Hessel,Holger Loewe;Wiley−VHC;ISBN 3−527−29590−9;第3章 Micomixers」といった文献から公知であるような慣例のマイクロリアクターのうちのいずれか、あるいは、例えば、Institut fuer Mikrotechnik,Mainz GmbH、Cellular Process Chemistry GmbHまたはMikroglass AGから市販されているマイクロリアクターである。
【0023】
使用が好ましいマイクロリアクターは、混合モジュールおよび熱交換モジュールを含む。
【0024】
用いられる混合モジュールは、様々な機能原理に基づいた、スタティックミキサーの構造を有することが好ましい。一例として、これらは、T字型ミキサー、マイクロジェットリアクター、副流噴射ミキサー、Y字型またはV字型ミキサー、インターデジタル型ミキサー、矩形ミキサー、スロット型ミキサー、三角形多層ミキサー、キャタピラー型ミキサー、サイクロン型ミキサー、またはこれらの組合せであり得る。
【0025】
本発明の方法は、サイクロン型ミキサーまたはT字型ミキサーを用いることが好ましい。
【0026】
混合モジュールは、1つないし複数のマイクロ熱交換器を含む熱交換器モジュールと組み合わされる。
【0027】
好適なマイクロ熱交換器の例は、マイクロ直交流熱交換器、直交流混合を伴う直交流熱交換器、または積層型向流熱交換器などである。
【0028】
直交流熱交換器を用いることが好ましい。
【0029】
用いられるマイクロリアクターは、任意に、熱安定性混合部位を有する。
【0030】
本発明は、反応用の適切な出発物質をマイクロリアクター内で混合するものであり、この段階におけるマイクロリアクター内の反応混合物の滞留時間は短い。
【0031】
本明細書における短い滞留時間とは、好ましくは、行われるそれぞれの反応および温度に応じて、1〜30秒、好ましくは3〜20秒を意味する。
【0032】
反応温度はこの段階において最も高く、行われる反応および冷却剤の温度に応じて、60〜120℃である。
【0033】
行われる反応はリッター反応であり、マイクロリアクターにおける滞留時間は好ましくは5〜20秒であり、反応温度は70〜110℃である。
【0034】
硫酸の存在下での、アクリロニトリルと、ジアセトンアルコール、アセトン、または酸化メシチルとの反応、ならびにその後の加水分解によるジアセトンアクリルアミドの調製のために特に好ましいリッター反応では、マイクロリアクターにおける滞留時間は5〜20秒であり、反応温度は70〜110℃、好ましくは75〜100℃である。
【0035】
反応の第1の段階の後、反応混合物を第1の滞留時間ユニットに移し、より弱い発熱の段階でこの反応混合物を引き続き反応させ、結果として、所望の最終生成物の収率の増加が得られる。
【0036】
好適な滞留時間ユニットは、一例として、EP 1 157 738号明細書またはEP 1 188 476号明細書から公知である。しかし、滞留時間ユニットは、毛細管などの単純な滞留時間セクション、渦巻き式熱交換器、平板熱交換器などの熱交換器、または任意に熱安定性ループ型リアクター、あるいは単純な攪拌槽、または攪拌槽翼列でもあり得る。熱交換器、攪拌槽、攪拌槽翼列、または熱安定性ループ型リアクターを用いることが好ましい。
【0037】
この滞留時間ユニットにおける滞留時間は、マイクロリアクターにおける滞留時間より長く、1分〜30分である。この段階での反応温度は、マイクロリアクター中と同じか、またはそれより5〜30℃だけ低い。
【0038】
硫酸の存在下での、アクリロニトリルと、ジアセトンアルコール、アセトン、または酸化メシチルとの反応、ならびにその後の加水分解によるジアセトンアクリルアミドの調製のために行われるのが好ましいリッター反応の場合、滞留時間ユニットにおける反応温度は60〜100℃であり、滞留時間は1〜20分である。
【0039】
この第1の滞留時間ユニットの後、もう1つの滞留時間ユニット、および任意にさらなる滞留時間ユニットがある。
【0040】
1つのさらなる引き続く滞留時間ユニットがあるのが好ましい。これが単純な攪拌槽または攪拌槽翼列であるのが特に好ましい。
【0041】
この第2の滞留時間ユニットでは、そこで最後の後反応(afterreaction)が起こり、結果として収率のさらなる増加が得られる。
【0042】
本明細書においては、このユニットにおける滞留時間が最も長く、1〜10時間である。
【0043】
対照的に、このユニットにおける反応温度は最も低く、30〜70℃である。
【0044】
この段階的な温度分布および段階的な滞留時間は、特にジアセトンアクリルアミドの調製において、従来の手順の約61%(粗収率)と比較して、78%超(粗収率)もの著しい収率の増加を可能にする。
【0045】
本発明による反応の実施によってより高い収率が得られると同時に、高エネルギーの出発物質または中間体がもたらす危険性を回避しながら、反応がより速くより選択的に進行する。
【0046】
[実施例1]
[第1の滞留時間ユニットのための渦巻き式熱交換器の使用]
アクリロニトリル(AN)対ジアセトンアルコール(DiAOH)対HSOの化学量論的モル比が1.0:1.0:2.4である反応溶液の滞留時間は、マイクロリアクター(ハステロイ(Hastelloy)製の混合モジュールと熱交換器モジュールとから構成される)において90℃で12秒、渦巻き式熱交換器において90℃で100秒、連続攪拌槽において50℃で2時間である。
【0047】
ジアセトンアクリルアミドの全収率は、ACNを基準にして78%であり、最終的な転化率は、最初の12秒で74%、次の100秒で21%、残りの2時間で5%であった。
【0048】
[実施例2〜6]
実施例1と同様に行った。表1は、用いられる出発物質、滞留時間、温度および収率を示している。
【0049】
【表1】

【0050】
[実施例7]
反応は、AN対DiaOH対HSO=1.0:1.0:2.2の化学量論比を用いて73.5%の最終収率、ならびに、マイクロリアクターにおいて90℃で12秒、第1の連続攪拌槽において65℃で960秒、第2の連続攪拌槽において55℃で10800秒の滞留時間分布をもたらした。
【0051】
[実施例8〜10]
実施例7と同様に行った。表2は、用いられる出発物質、滞留時間、温度および収率を示している。
【0052】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボカチオンの関与による反応を行うための改良された方法であって、反応の初期の最も強い発熱段階を、マイクロリアクター中で、高温および短い滞留時間で行うことと、その後のより弱い発熱の複数の段階を、より滞留時間の長い2つ以上の滞留時間ユニット中で任意により低温で行うこととを含む方法。
【請求項2】
前記初期の段階には、T字型ミキサー、マイクロジェットリアクター、副流噴射ミキサー(substream injection mixer)、Y字型またはV字型ミキサー、インターデジタル型ミキサー、矩形ミキサー、スロット型ミキサー、三角形多層ミキサー(triangular multilamination mixer)、キャタピラー型ミキサー、サイクロン型ミキサー、またはこれらの組合せの群からの混合モジュールと、マイクロ直交流熱交換器、直交流混合を伴う直交流熱交換器、または積層型向流熱交換器の群からの1つないし複数のマイクロ熱交換器を有する熱交換モジュールとを有するマイクロリアクターが用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マイクロリアクターにおける滞留時間が1〜30秒であり、反応温度が60〜120℃である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記マイクロリアクターの後に、毛細管、熱交換器、任意に熱安定性ループ型リアクター、攪拌槽、または攪拌槽翼列から構成される第1の滞留時間ユニットが存在する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記マイクロリアクターの後の前記第1の滞留時間ユニットにおける滞留時間が1〜30分であり、反応温度が、前記マイクロリアクター中と同じか、またはそれより5〜30℃だけ低い、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
攪拌槽または攪拌槽翼列が、第2の滞留時間ユニットとして用いられる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の滞留時間ユニットにおける滞留時間が1〜10時間であり、反応温度が60〜100℃である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
カルボカチオンの関与による反応として、リッター(Ritter)反応が行われる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
カルボカチオンの関与による反応として、ジアセトンアクリルアミドを得るために、硫酸の存在下での、アクリロニトリルと、ジアセトンアルコール、アセトン、または酸化メシチルとの反応、ならびにその後の加水分解が行われる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2008−542212(P2008−542212A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512710(P2008−512710)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【国際出願番号】PCT/EP2006/003859
【国際公開番号】WO2006/125502
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(505326209)ディーエスエム ファイン ケミカルズ オーストリア エヌエフジー ゲーエムベーハー ウント ツェーオー カーゲー (13)
【Fターム(参考)】