説明

カルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩のゲルの製造方法

【課題】弾性と強度が高く、しかも保水性および耐久性に優れたゲルを安価に且つ簡便に得ることができるカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩のゲルの製造方法を提供する。
【解決手段】カルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩、保水剤、酸、および水を配合した混合物を混練してゲルを得ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩のゲルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩(CMC:carboxymethylcellulose)は、天然パルプを原料として製造され、安全性が高く、現在最も一般的に使用されている水溶性高分子である。
【0003】
CMCの分子間に架橋を形成することで、CMC分子が三次元の網目構造をとり、この網目構造の内部に水をしっかりと保持したゲルが得られる。CMCの分子間に架橋を形成したゲルを得る方法として、具体的には多価金属イオンでCMCゲルを製造する方法(例えば特許文献1)、架橋剤を添加する方法(例えば特許文献2)が知られている。
【0004】
しかしながら、これらの方法では高弾性を有するゲルを製造することは困難であるという問題点があった。
【0005】
また、CMCの分子間に架橋を形成したゲルを得る別の方法として、CMCに水を加えてペースト状に練り放射線を照射する方法が知られている(例えば特許文献3)。
【0006】
しかしながら、この方法では放射線照射装置が必要であり、ゲル製造の簡便性に欠けるという問題点があった。
【0007】
以上の問題点を改善する方法として、CMCに酸を加えることによってCMC分子間に水素結合を形成する方法を本発明者らは提案した(特許文献4)。また、本発明者らは、ゲルの強度を上げるために非水溶性無機金属化合物(特許文献5)や有機化合物(特許文献6)を添加する方法を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−90121号公報
【特許文献2】特開平10−251447号公報
【特許文献3】特開2005−82800号公報
【特許文献4】特開2008−69315号公報
【特許文献5】特願2007−70145号
【特許文献6】特願2007−188845号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らの提案による方法は、上記のゲル物性やゲル製造の簡便性を改善している一方で、ゲル中の水分が蒸発し易く、保水性が要求される用途には適さない場合があるという問題点があった。また、ゲル強度が徐々に低下するために用途に制約があるという問題点があった。
【0010】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、弾性と強度が高く、しかも保水性および耐久性に優れたゲルを安価に且つ簡便に得ることができるカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩のゲルの製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0012】
第1:カルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩、保水剤、酸、および水を配合した混合物を混練してゲルを得ることを特徴とするカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩のゲルの製造方法。
【0013】
第2:混合物におけるカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩の配合量は、混合物の全量に対して3〜64質量%であることを特徴とする上記第1のカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩のゲルの製造方法。
【0014】
第3:混合物における保水剤の配合量は、混合物の全量に対して5〜60質量%であることを特徴とする上記第1または第2のカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩のゲルの製造方法。
【0015】
第4:混合物に品質安定剤を配合することを特徴とする上記第1から第3のいずれかのカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩のゲルの製造方法。
【0016】
第5:カルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩と保水剤とを予め混練し、次いで、得られたカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩と保水剤との混合物と、酸水溶液とを混練することを特徴とする上記第1から第4のいずれかのカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩のゲルの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、弾性と強度が高く、しかも保水性および耐久性に優れたカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩のゲルを安価に且つ簡便に得ることができる。
【0018】
すなわち、多価金属イオンを使用し架橋させる製造方法や架橋剤を使用する製造方法に比べて、高弾性で保水性および耐久性に優れたゲルを得ることができ、また、放射線照射装置のように高価な設備が不要であるため安価に且つ簡便にゲルを製造することができる。
【0019】
さらに、酸のみを使用する製造方法、および非水溶性金属化合物や補強材としての有機化合物を添加する製造方法に比べて、保水性と耐久性に優れたゲルを得ることができる。
【0020】
本発明により得られるゲルは、植物由来の材料であるCMCを原料としているため環境に優しいゲルであり、家畜排せつ物処理材、排水処理材、脱臭剤、衝撃吸収材、医療用粘着材、医療用パテなどに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態におけるCMCゲルの製造方法の概略構成を示すフローチャートである。
【図2】実施例1および比較例1におけるCMCゲル質量の経時変化(20℃)を示すグラフである。
【図3】実施例2におけるCMCゲルの圧縮破壊強度の経時変化を示すグラフである。
【図4】比較例2におけるCMCゲルの圧縮破壊強度の経時変化を示すグラフである。
【図5】実施例3および比較例3におけるCMCゲルの圧縮弾性率の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明に係るCMCゲルの製造方法は、カルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩、保水剤、酸、および水を配合した混合物を混練してゲルを得ることを特徴としている。本発明の一実施形態におけるCMCゲルの製造方法の概略構成をフローチャートで図1に示す。
【0024】
本発明に使用されるCMCの具体例としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、カルボキシメチルセルロースカリウム塩などが挙げられる。
【0025】
CMCのエーテル化度、粘度などは特に制限されるものではなく、場合に応じて適宜のものを用いることができる。ここでいう粘度とは、CMCを1質量%水溶液とした場合の粘度であり、粘度の高低は分子量の高低を間接的に示している。
【0026】
CMCは、保水剤、酸、および水と共に均一に混練できるものであれば、混合物に配合する形態として粉末であってもよく、水溶液であってもよい。CMCを水溶液の形態で混合物に配合する場合、混練を簡便なものとする点からは、当該水溶液のCMC濃度は3質量%以上とすることが好ましい。
【0027】
混合物におけるCMCの配合量は、混合物の全量に対して好ましくは3〜64質量%、より好ましくは5〜30質量%である。CMCの配合量が少な過ぎると、十分な強度を持つCMCゲルが得られない場合があり、CMCの配合量が多過ぎると、混合物を均一に混練することが困難になる場合がある。
【0028】
本発明において、保水剤は、得られるCMCゲルの弾性、強度、保水性、および耐久性を向上させるために特に重要である。本発明では、CMCに酸と共に保水剤を加えることで、弾性と強度が高く、しかも保水性と耐久性に優れたCMCゲルを得ることができる。
【0029】
本発明に使用される保水剤の具体例としては、マルチトール、ラクチトール、トレハロース、マルトース、ヒアルロン酸(例えば平均分子量1,200,000以下)、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、アルギン酸ナトリウム(平均分子量1,000,000以下)等の糖類、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、1,5−ペンタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、ポリエチレングリコール(例えば平均分子量200〜3,500,000)、ポリプロピレングリコール(例えば平均分子量300〜4,000)等の多価アルコール類、アルギン酸プロピレングリコール、三酢酸グリセロール、プロピレングリコールジアセタートなどのエステル類などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
ゲルの弾性、強度、および耐久性に優れたCMCゲルを得るためには、ソルビトール、トレハロース、マルトース、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、およびプロピレングリコールが好ましい。
【0031】
混合物における保水剤の配合量は、混合物の全量に対して好ましくは5〜60質量%、より好ましくは10〜50質量%である。保水剤の配合量が少な過ぎると、CMCゲルの強度、弾性、保水性、および耐久性が不十分な場合があり、保水剤の配合量が多過ぎると、CMCゲルが不均一となり十分な強度を有するCMCゲルが得られない場合がある。
【0032】
本発明に使用される酸は、有機酸、無機酸のいずれであってもよく、その具体例としては、塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、硝酸、ギ酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、イタコン酸、マレイン酸、シュウ酸、クエン酸などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
混合物に酸を配合する形態としては、特に制限はなく酸水溶液として配合してもよく、酸単独で配合してもよいが、混練を簡便なものとする等の点から、好ましくは酸水溶液として配合される。酸水溶液として配合する場合、酸濃度は特に制限はないが、混練を簡便なものとする点からは0.1〜3Mの範囲が好ましい。酸濃度が高いとゲル化の進行が速くなる傾向にあるため、酸濃度が高過ぎるとゲル化が瞬時に進行してしまい、均一に混練することが困難になり、弾性と強度が高く保水性と耐久性に優れたCMCゲルを得ることが困難になる場合がある。
【0034】
また、混合物における酸水溶液の配合量は、混合物の全量に対して好ましくは35〜87質量%、より好ましくは40〜80質量%である。酸水溶液の配合量が少な過ぎると、CMCゲルが不均一となり十分な強度を有するCMCゲルが得られない場合があり、酸水溶液の配合量が多過ぎると、十分な保水性を有するCMCゲルを得ることが困難になる場合がある。
【0035】
本発明において、CMCゲルの保存性と耐久性をさらに向上させるために、混合物に品質安定剤を配合することができる。品質安定剤の具体例としては、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、フェノキシエタノール、フェノキシプロパノール、安息香酸等の抗菌剤、パラオキシ安息香酸エステルなどが挙げられる。
【0036】
品質安定剤の使用量は、品質安定剤の種類および使用目的に応じて適宜のものとすればよく特に制限はないが、例えば混合物の全量に対して0.1〜5質量%である。
【0037】
本発明では、上述したカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩、保水剤、酸、水、および必要に応じて品質安定剤を配合した混合物を、混練機などを用いて混練しゲルを調製する。これらの各成分の配合順序は特に制限はなく、例えば、カルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩に保水剤を添加して混練した後、これに酸水溶液を添加して混練してもよく、あるいはカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩に保水剤と酸水溶液を同時に添加してこれを混練してもよい。
【0038】
しかしながら本発明では、カルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩と保水剤とを予め混練し、次いで、得られたカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩と保水剤との混合物と、酸水溶液とを混練することで、ゲルの製造に要する時間を大幅に短縮することができる。すなわち、カルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩と保水剤とを予め混ぜることによって、酸を加えた後の脱泡が容易になり、これ以外の手順、例えば保水剤と酸水溶液とを混合し、次いでこの混合液とカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩とを混練する場合等には、混練後の脱泡に要する時間が長くなる。
【0039】
混合物の混練には、市販されている混練機を用いることができる。例えば、スクリュー状の攪拌機などを用いて混合物を直接攪拌してもよいし、あるいは、容器に入れた混合物を、(株)シンキー製、スーパーミキサー「あわとり練太郎」のように容器を自転させながら公転させる方法で混練してもよい。
【0040】
混練時において、CMCと酸を含有する混合物を混練する時の温度は、CMCの加水分解を抑制する点からは、好ましくは約70℃よりも低い温度に設定される。一般に混練時の温度が高いほど速やかにゲル化が進行する傾向にあるため、保水剤の種類や使用量の違いによるCMCとの混合度合いとゲル化の進行度を考慮して混練時の温度を適宜に設定し、保水剤と品質安定剤が均一に混練された状態でゲル化を進行させることが望ましい。
【0041】
なお、CMCの濃度や酸水溶液の濃度が高い場合にもゲル化が速やかに進行する傾向にあるため、混練時の温度と合わせて適宜に設定することが望ましい。
【0042】
目的とするCMCゲルは、混練後に所定温度で所定時間放置することにより得ることができる。これらの温度と放置時間の条件はゲルの使用目的などにより適宜に設定すればよい。
【0043】
以上に説明した本発明の方法によれば、CMC、保水剤、酸、および水を単に混練してゲル化させることで、弾性と強度が高く、しかも保水性および耐久性に優れたCMCゲルを、特殊な装置を要せずに安価に且つ簡便に得ることができる。本発明により得られるゲルは、植物由来のCMCを原料として使用しているので、環境に優しい環境保全型のゲルでもある。従って、本発明により得られるCMCゲルは、農業、工業、医療、化粧品、食品などの広範囲の分野において利用可能であり、例えば、家畜排せつ物処理材、排水処理材、脱臭剤、触媒担体、衝撃吸収材、手芸用品、化粧用パックシート、医療用粘着材、医療用パテとして好適に使用できる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
なお、下記の実施例および比較例において、CMCなどを配合した混合物の混練には(株)シンキー製、スーパーミキサー「あわとり練太郎」を使用した。
<実施例1>
市販のCMC(ダイセル化学工業株式会社製、CMC1380、エーテル化度1.36、濃度1質量%水溶液の25℃での粘度は1640mPa・s)、保水剤、およびクエン酸水溶液を表1に示す組成で混練し、直径2cm、厚さ1cmの円柱状に試料を成型し、密閉容器に入れ、30℃で10日間保存した。
【0046】
その後、試料を3つのグループに分け、各5個をシャーレにのせ、通風条件下、20℃、30℃、50℃で保存し、試料の質量変化を調べた。
<比較例1>
市販のCMC(ダイセル化学工業株式会社製、CMC1380、エーテル化度1.36、濃度1質量%水溶液の25℃での粘度は1640mPa・s)およびクエン酸水溶液を表1に示す組成で混練し、直径2cm、厚さ1cmの円柱状に試料を成型し、密閉容器に入れ、30℃で10日間保存した。
【0047】
その後、試料を3つのグループに分け、各5個をシャーレにのせ、通風条件下、20℃、30℃、50℃で保存し、試料の質量変化を調べた。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例1および比較例1の20℃での質量変化の測定結果を図2に示す。保水剤を加えた実施例1の試料ではゲルの質量減少が抑制された。これに対して保水剤を加えずにCMCとクエン酸水溶液のみを混練した比較例1の試料では、酸の濃度に関わらずゲルの質量減少が著しかった。実施例1と比較例1において30℃、50℃で測定した結果も、傾向は図2と同様であった。
<実施例2>
市販のCMC(ダイセル化学工業株式会社製、CMC1380、エーテル化度1.36、濃度1質量%水溶液の25℃での粘度は1640mPa・s)、保水剤、およびクエン酸水溶液を表2に示す組成で混練し、直径2cm、厚さ1cmの円柱状に試料を成型し、密閉容器に入れ、30℃で保存した。なお、実施例2の各試料は、クエン酸量が等しくなるように調製した。
【0050】
【表2】

【0051】
その後、各試料についてゲルの圧縮破壊強度を測定した。圧縮破壊強度は(株)島津製作所製小型卓上試験機EZTest(EZ−L)を使用し、直径5cmのステンレス製圧縮治具で2mm/分の速度で圧縮し測定した。
【0052】
保水剤としてプロピレングリコールを使用した結果を図3に示す。プロピレングリコールの濃度の増加とともにゲル強度は高くなり、一定時間経過後にはゲル強度は一定になった。ゲル強度を測定した期間内ではゲル強度の低下はなく、耐久性を有するゲルが得られることが明らかとなった。エチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコールを使用した場合にも同様にゲル強度は高く、ゲル強度の低下はゲル調製後40日間は認められなかった。
<比較例2>
市販のCMC(ダイセル化学工業株式会社製、CMC1380、エーテル化度1.36、濃度1質量%水溶液の25℃での粘度は1640mPa・s)およびクエン酸水溶液を表2に示す組成で混練し、直径2cm、厚さ1cmの円柱状に試料を成型し、密閉容器に入れ、30℃で保存した。
【0053】
その後、各試料について実施例1と同じ条件にてゲルの圧縮破壊強度を測定した。その結果を図4に示す。ゲル調製後1週間を経過すると、各試料共にゲル強度は徐々に低下した。また、ゲル強度は保水剤を配合した図3のゲルに比較して約1/2と低かった。
<実施例3>
実施例2で調製したCMC1380 10質量%、プロピレングリコール30質量%、0.75Mクエン酸水溶液60質量%からなるゲルの圧縮弾性率(5,10N)を、(株)島津製作所製小型卓上試験機EZTest(EZ−L)を用い、直径5cmのステンレス製圧縮治具で2mm/分の速度で圧縮し測定した。
【0054】
なお、圧縮弾性率(5,10N)は、応力−ひずみ曲線において、応力5N、10Nの時のひずみをそれぞれS5、S10とした場合に応力の差(10N−5N)をひずみの差(S10−S5)で除し、単位面積当たりの値として表したものである。
<比較例3>
比較例2で調製したCMC1380 10質量%、0.75Mクエン酸水溶液90質量%からなるゲルの圧縮弾性率(5,10N)を、実施例3と同じ条件にて測定した。
【0055】
実施例3および比較例3の測定結果を図5に示す。プロピレングリコールを配合した実施例3のゲルは、圧縮弾性率が高く、さらに圧縮弾性率の変化は測定期間内においてほとんど無く、耐久性を有する安定なゲルであった。これに対して保水剤を配合せずにCMCとクエン酸水溶液のみを混練した比較例3の試料では、実施例3のゲルに比較して圧縮弾性率は0.8倍程度であった。
<実施例4>
市販のエーテル化度1.15〜1.45のCMC(第一工業製薬株式会社製、セロゲンHE-1500F、HE-600F、HE-90Fの3種類、濃度1質量%水溶液の25℃での粘度は順に3000mPa・s、900mPa・s、200mPa・s)、保水剤、クエン酸水溶液、および品質安定剤を表4に示す組成で混練し、直径2cm、厚さ1cmの円柱状に試料を成型し、密閉容器に入れ、30℃で保存した。
【0056】
その後、ゲル物性を(株)島津製作所製小型卓上試験機EZTest(EZ−L)を使用して実施例2、3と同じ条件にて測定した。
<比較例4>
市販CMC(第一工業製薬株式会社製、セロゲンHE−1500F、濃度1質量%水溶液の25℃での粘度は3000mPa・s)、0.5Mクエン酸水溶液、および水を表3に示す組成で混練し、直径2cm、厚さ1cmの円柱状に試料を成型し、密閉容器に入れ、30℃で保存した。
【0057】
その後、ゲル物性を(株)島津製作所製小型卓上試験機EZTest(EZ−L)を使用して実施例4と同じ条件にて測定した。
【0058】
実施例4および比較例4の測定結果を表3に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
プロピレングリコールを配合した実施例4のゲルは、ゲル調製後53日間、更には384日間保存しても高い圧縮破壊強度を示した。これに対してCMCとクエン酸水溶液のみを混練した比較例4の試料では、実施例4のゲルに比較して圧縮破壊強度は低かった。実施例2と実施例3のゲルは、異なるメーカーのCMCであるが、メーカー、CMCのエーテル化度にかかわらず、保水剤を加えたゲルでは、加えないゲルよりも強度が高いことが分かる。
<実施例5>
市販のCMC(ダイセル化学工業株式会社製、CMC1380、エーテル化度1.36、濃度1質量%水溶液の25℃での粘度は1640mPa・s)10質量%、プロピレングリコール30質量%、0.5Mクエン酸水溶液、および品質安定剤を表3に示す組成で配合した混合物を混練し、直径2cm、厚さ1cmの円柱状に試料を成型し、密閉容器に入れ、30℃で保存した。
【0061】
その後、ゲル物性を(株)島津製作所製小型卓上試験機EZTest(EZ−L)を使用して実施例2、3と同じ条件にて測定した。また、ゲル調製3ヶ月後において微生物の発生の有無を観察した。
<参考例1>
CMC1380 10質量%、プロピレングリコール30質量%、0.5Mクエン酸水溶液60質量%を配合した混合物を混練し、直径2cm、厚さ1cmの円柱状に試料を成型し、密閉容器に入れ、30℃で保存した。
【0062】
その後、ゲル物性を実施例5と同じ条件にて測定した。また、ゲル調製3ヶ月後において微生物の発生の有無を観察した。
【0063】
実施例5および参考例1の測定、観察結果を表4に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
実施例5において、品質安定剤の配合量が1%未満の場合には、ゲル物性には品質安定剤による影響は認められなかった。品質安定剤としてエタノールを5質量%配合した試料ではゲル物性は向上傾向を示した。また、30℃で3ヶ月以上ゲルを保存してもゲル中に微生物は認められず、ゲルが微生物で分解されることはなかった。
【0066】
一方、品質安定剤を配合しなかった参考例1のゲルでは、30℃で3ヶ月保存後に観察したところカビが表面に認められた。
<実施例6>
市販のCMC(第一工業製薬株式会社製、セロゲンHE−1500F、濃度1質量%水溶液の25℃での粘度は3000mPa・s)、1Mクエン酸水溶液、およびプロピレングリコールを表5に示す組成で混練し、50℃で保存した。
【0067】
その後、ゲルを直径2cmのコルクボーラーで打ち抜き、ゲル物性を(株)島津製作所製小型卓上試験機EZTest(EZ−L)を使用して実施例2、3と同じ条件にて測定した。
<比較例5>
プロピレングリコールを添加しなかった以外は実施例6と同様にしてゲルを調製し、ゲル物性を測定した。
【0068】
実施例6および比較例5の測定結果を表5に示す。
【0069】
【表5】

【0070】
プロピレングリコールを配合した実施例6のゲルは、ゲル調製後21日間、更には46日間保存しても高い圧縮破壊強度を示した。
【0071】
これに対してCMCとクエン酸水溶液のみを混練した比較例5の試料では、弱い集合体状態のゲルであり圧縮破壊強度を測定することができなかった。
【0072】
このように、CMC濃度が5質量%の場合には、保水剤を加えないゲルではゲル化が進行しなかったのに対し、保水剤を加えたゲルでは、ゲル化が進行し、高い強度のゲルとなることが分かる。
<実施例7>
市販のCMC(ダイセル化学工業株式会社製、CMC1380、エーテル化度1.36、濃度1質量%水溶液の25℃での粘度は1640mPa・s)、保水剤およびクエン酸水溶液を表6に示す組成で混練し、50℃で保存した。
【0073】
その後、ゲルを直径2cmのコルクボーラーで打ち抜き、ゲル物性を(株)島津製作所製小型卓上試験機EZTest(EZ−L)を使用して実施例2、3と同じ条件にて測定した。
【0074】
実施例7の測定結果を表6に示す。
【0075】
【表6】

【0076】
保水剤としてプロピレングリコールの他に他の1種類を配合した実施例7のゲルは、ゲル調製後21日間保存しても高い圧縮破壊強度を示した。
【0077】
このように、保水剤を組み合わせて用いることにより、強度の高いゲルを作製できることが分かる。
<実施例8>
ポリ袋中でプロピレングリコール30gと市販のCMC(ダイセル化学工業株式会社製、CMC1380、エーテル化度1.36、濃度1質量%水溶液の25℃での粘度は1640mPa・s)10gを混合し、次いで0.5Mクエン酸水溶液60gを加えて混ぜることによりゲルを作製した。プロピレングリコールとCMCの混合、クエン酸水溶液の添加、混練後、脱泡までに要した時間は5分であった。
【0078】
その後、試料を50℃で保存し、実施例2、3と同じ条件でゲルの圧縮破壊強度を測定した。
<参考例2>
市販のCMC(ダイセル化学工業株式会社製、CMC1380、エーテル化度1.36、濃度1質量%水溶液の25℃での粘度は1640mPa・s)10gを、0.5Mクエン酸水溶液60gとプロピレングリコール30gとの混合液に加え、あわとり練太郎で混練して袋に詰めた。混練、脱泡までに要した時間は45分間であった。
【0079】
その後、試料を50℃で保存し、実施例2、3と同じ条件でゲルの圧縮破壊強度を測定した。
<比較例6>
ポリ袋中でエタノール30gと市販のCMC(ダイセル化学工業株式会社製、CMC1380、エーテル化度1.36、濃度1質量%水溶液の25℃での粘度は1640mPa・s)10gを混合し、0.5Mクエン酸水溶液60gを加えて混ぜることにより試料を作製した。混合、脱泡までに要した時間は5分間であった。
【0080】
その後、試料を50℃で保存し、実施例2、3と同じ条件でゲルの圧縮破壊強度を測定した。
【0081】
実施例8、参考例2および比較例6の観察結果および物性測定結果を表7に示す。
【0082】
【表7】

【0083】
実施例8において、プロピレングリコールにCMCを混ぜ、そこに酸水溶液を加えた時点で硬化が始まり、ゲル作製に要した時間は5分のみであった。ゲル作製直後、ゲルは既に均一であった。プロピレングリコールにCMCを混ぜることによって、CMC中の空気が除かれ、酸を加えた後の脱泡が容易になるものと考えられる。ゲル作製から1日後ではゲル化は完全ではなかったが、4日後には完全にゲル化した。ゲル作製から1日後、4日後のゲル強度は高く、5.9N/mmの荷重をかけてもゲルは壊れることがなかった。
【0084】
一方、参考例2においては、プロピレングリコールと酸水溶液の混合液にCMCを加え、混練することによりゲルを作製したが、作製直後にはダマも認められた。しかし、ゲル作製から1日を経過した時点でゲルは均一であり、ゲル化も完全であった。ゲル作製から1日後、4日後のゲル強度は高く、5.9N/mmの荷重をかけてもゲルは壊れることがなかった。
【0085】
比較例6においては、エタノールにCMCを混ぜ、そこに酸水溶液を加えた時点では白濁しており、硬化は起こらなかったが、全ての材料を混ぜ、脱泡までに要した時間は5分のみであった。しかし50℃で1日間、更には4日間保存してもゲル化は進行せず、物性測定はできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩、保水剤、酸、および水を配合した混合物を混練してゲルを得ることを特徴とするカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩のゲルの製造方法。
【請求項2】
混合物におけるカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩の配合量は、混合物の全量に対して3〜64質量%であることを特徴とする請求項1に記載のカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩のゲルの製造方法。
【請求項3】
混合物における保水剤の配合量は、混合物の全量に対して5〜60質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載のカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩のゲルの製造方法。
【請求項4】
混合物に品質安定剤を配合することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩のゲルの製造方法。
【請求項5】
カルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩と保水剤とを予め混練し、次いで、得られたカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩と保水剤との混合物と、酸水溶液とを混練することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のカルボキシメチルセルロースアルカリ金属塩のゲルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−280800(P2009−280800A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102427(P2009−102427)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(506314450)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(591179639)株式会社京都科学 (10)
【出願人】(508122541)比果産業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】