説明

カルボキシメチルセルロースナトリウム塩粉末の製造方法

【課題】カサ比重の高いカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMC−Na)粉末を製造する。
【解決手段】溶媒法によるエーテル化反応後に、中和されたCMC−Na中の溶媒を分離することで、揮発分が30〜50重量%のCMC−Naを得、つぎにCMC−Naに水を加えて、揮発分50〜80重量%にしたCMC−Naを混練し、つぎに、混練後のCMC−Naを10〜30倍量の含水率5〜15重量%の含水メタノールに投入して攪拌することでCMC−Na中の副生塩および水分を除去し、脱塩・脱水されたCMC−Naからメタノールを分離し、乾燥、粉砕することによって、カサ比重が0.5〜0.8カルボキシメチルセルロースナトリウム塩粉末を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カサ比重の高いカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(以下、CMC−Naと称す)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(以下、CMC−Naと称す)のカサ比重を高める方法としては、たとえば粉末を水で混練して乾燥後粉砕する方法がある。上記の従来の製造方法は以下の欠点を有している。すなわち、(1)粉末に水を添加して混練する装置が必要なこと、(2)水を混練後、乾燥、粉砕することで煩雑な工程が必要になること、および(3)ユーティリィティコストが高くなること、などの欠点である。
【0003】
また、反応物の残留溶媒中に占める水の割合を80〜90重量%(wt%)とする方法(たとえば、特許文献1参照)もある。上記の従来の製造方法の場合には、多量の水を添加して混練した後の乾燥時に、ユーティリィティコストが高くなるという欠点がある。
【0004】
【特許文献1】特許第2617410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこれらの欠点を解決するものであり、ユーティリィティコストを高くすることなく、カサ比重の高いCMC−Naを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、溶媒法によるエーテル化反応後に、中和されたカルボキシメチルセルロースナトリウム塩中の溶媒を分離することで、揮発分が30〜50重量%のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を得る第1工程と、水を加えることでカルボキシメチルセルロースナトリウム塩中の揮発分を50〜80重量%にした状態で混練する第2工程と、混練後のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を10〜30倍量の含水率5〜15重量%の含水メタノール中に投入して攪拌することで、CMC−Na中の副生塩および水分を除去する第3工程と、第3工程で脱塩・脱水されたカルボキシメチルセルロースナトリウム塩からメタノールを分離し、乾燥、粉砕する第4工程とを含む、カサ比重が0.5〜0.8のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩粉末の製造方法にかかわる。
【0007】
好ましくは、前記第2工程が40〜60℃で行われることを特徴とするカルボキシメチルセルロースナトリウム塩粉末の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
カサ比重の高い、低エーテル化度のCMC−Na粉末を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、反応終了物に加える水をより少なくし、充分混練した後に、反応終了物を高濃度のメタノールに浸してCMC−Naの形状を固く絞め上げることで、カサ比重を高くすることができるという知見を得たことに基づくものであり、エーテル化度0.3〜0.7のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(以下CMC−Na)粉末のカサ比重を高める製造方法である。
【0010】
まず、溶媒法によるエーテル化反応終了後、中和した後にCMC−Na中の溶媒を分離する(第1工程)。このときのCMC−Na中の揮発分は30〜50重量%(wt%)とすることが好ましい。なお、溶媒法で反応させた反応終了物のCMC−Na中の揮発分は50wt%以上になる。そこで、反応終了物のCMC−Naをしぼり機でしぼるか、または加熱により溶媒を気化させることで、CMC中の揮発分を30〜50wt%にする。
【0011】
揮発分を30wt%以下にしてもよいが、しぼり機、また加熱時の負荷が著しく大きくなるので好ましくない。
【0012】
揮発分を50wt%以上にすると、CMC中の反応溶媒量が多くなるため、CMCを水で混練して練り上げ密度を高める効果を得ることが困難である。
【0013】
揮発分を30〜50wt%に調整したCMCに、CMCに対して重量比で20〜30%の水を加えてCMC−Na中の揮発分が50〜80wt%となる状態にした状態で、40〜60℃で1時間から2時間混練し(第2工程)、CMCの密度を高める。
【0014】
ここで、水を加えた後の混練温度は40〜60℃にすることが好ましい。40℃以下ではCMC中の脱塩効果が少ない。一方、60℃以上では揮発量が多くなりすぎるので、CMC−Na粉末のカサ比重を高める効果が小さい。
【0015】
混練時間は60〜120分が好ましい。60分以下では充分均一にできないため、高いカサ比重は望めない。120分以上混練することで、カサ比重は高くなるが、工程が長くなるためコストupとなり好ましくない。
【0016】
充分混練したCMC−Naを、CMC−Naに対して重量比で10〜30倍の含水率5〜15wt%の含水メタノール(メタノール濃度が85〜95wt%)に投入して、40〜60℃で攪拌することで、CMC中に残る副生塩および水分を抽出する(第3工程)。この操作によりCMC−Naの密度を高めることができる。
【0017】
ここで、メタノール濃度が95%wt%を超えると、副生塩の除去が不十分になるので好ましくない。
【0018】
この脱塩、脱水したCMC−Naを、メタノールを用いて分離し、乾燥、粉砕(第4工程)してカサ比重が0.5〜0.8のCMC−Na粉末を得る。
【0019】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0020】
(1)乾燥減量(CMCの揮発分量)の測定方法
試料1〜2gを秤量ビンに精密に秤量し、105±2℃の低温乾燥機中において4時間乾燥し、デシケーター中で冷却した後、フタをして秤量する。乾燥前後の試料の減量から次の式によって乾燥減量を算出する。
【0021】
【数1】

【0022】
(2)塩分の測定方法
精密に秤量した1g前後の試料(無水物)を300mlのビーカーに中に投入し、この上から約200mlの水を加えて、試料を溶解する。0.1モル/リットル(l)の硝酸銀で、電位差滴定し、その所要の量から塩分を算出する。
【0023】
【数2】

【0024】
(3)エーテル化度の測定方法
試料(無水物)0.5〜0.7gを精密にはかり、ろ紙に包んで磁製ルツボ中で灰化する。冷却した後、これを500mlビーカーに移し、約250mlの水を加え、さらにピペットで0.05モル/lの硝酸35mlを加えて30分間煮沸する。これを冷却し、フェノールフタレイン指示薬を加えて、過剰の酸を0.1モル/lの水酸化カリウムで逆滴定して、次の式によって置換度を算出する。
【0025】
【数3】

【0026】
A:試料1g中の結合アルカリに消費された0.05モル/l硝酸のml
a:0.05モル/lの硝酸の使用ml
f:0.05モル/lの硝酸の力価
b:0.01モル/lの水酸化カリウムの滴定ml
1:0.01モル/lの水酸化カリウムの力価
162:グルコースの分子量(MW)
80:CH2COONa−HのMW
【0027】
(4)アルカリ度の測定方法
精密に秤量した1g前後の試料(無水物)を300mlの三角フラスコに中に投入し、このうえから約200mlの水を加えて試料を溶解する。これに0.05モル/lの硫酸5mlをピペットで加え、10分間煮沸した後冷却して、フェノールフタレイン指示薬を加え、0.1モル/l水酸化カリウムで滴定する(Sml)。同時に空試験を行い(Bml)、次の式によって算出する。
【0028】
【数4】

【0029】
なお(B−S)f値が(−)のときにはアルカリ度を、酸度と読み変える。
【0030】
(5)粘度の測定方法
(ア)溶液調整
共栓付300mlの三角フラスコ中で、たとえば1%の溶液の場合には、約2.2gの試料を精密に秤量し、次の式に従って、所要量の水を加えて溶解する。
1%溶液の場合:
試料の重量(g)×(99−水分(%))=所要とする水の重量(g)
【0031】
(イ)測定方法
上記溶液を一夜間(約10時間)放置後、マグネチックスターラーで約5分間かき混ぜ、完全な溶液とする。その後、口径約4.5mm、高さ約145mのフタつき容器に、攪拌された溶液を移し、25±0.2℃の高温槽中で30分間放置する。溶液の温度が25℃になった後、溶液をガラス棒でゆるくかき混ぜる。BM型粘度計の適当なローターおよびガードを取り付け、ローターを回転させて、回転開始3分後の目盛りを読み取る。回転数は60rpmとし、ローター番号(No.)、または回転数によって下表の係数を乗じて粘度値を得る。
【0032】
【表1】

【0033】
(6)pHの測定方法
無水物換算で1gの試料を秤取し、水*99mlを加えてよくかき混ぜ、均等な糊状の溶液になるまで放置する。ガラス電極を備えたpHメーターを用いて、作製した溶液のpHを測定する。このとき、測定温度は25℃とする。
*:イオン交換法による純水を使用し、かつ使用に先立ち水中に溶解しているCO2ガスを駆使するため5〜10分間煮沸し、再びガスを吸収しないようにして冷却した水で、比抵抗2×104Ωm(25℃)以上のものを用いる。なお、煮沸に用いる容器にはアルカリを溶出しない材料製の容器を選択する。
【0034】
(7)溶媒量の測定方法
FIDガスクロ、充填剤をセロモソルブ(Chromosorb)101とするカラムを用いて、ヘッドスペース法で分析した。
【0035】
(8)カサ比重の測定方法
直径50mmで50mlの容器に、上部50mmから試料を注入し、試料が容器に一杯になった状態の試料重量を計測し、容器容量からカサ比重を求める。
【0036】
【数5】

【0037】
(9)CMC−Naの合成方法
容量5リットルのニーダー型反応機に、パルプ種(Aグラム)をミキサーで粉砕したチップ状のパルプ500gを仕込む。
【0038】
これとは別に80wt%のイソプロパノール(IPA)水溶液(Bグラム)にフレーク苛性ソーダ(Cグラム)を溶解する。
【0039】
その後、一旦、20℃まで冷却する。
【0040】
このアルカリを溶解させた有機溶媒を、反応機内のパルプ上になじませながら添加し、35℃で60分間、リフラックスコンデンサーを付けて溶媒組織変化を起こさせないように反応させる。
【0041】
この間の反応機の回転数は20rpmとした。
【0042】
次に、モノクロル酢酸(Dグラム)を80wt%のIPA水溶液(Eグラム)に溶解し、温度を20℃にした。
【0043】
調整したモノクロル酢酸溶液を、60分間かけて反応機内のパルプに添加した。添加終了後に、30分間かけて反応温度を77℃まで昇温する。77℃で90分間放置することで、エーテル化反応を進行させた。
【0044】
反応後に、反応物を50℃まで冷却し、50wt%の酢酸を反応物に加え、pH6.5〜7.5になるように中和した。
【0045】
中和後、反応機に80〜90℃の熱を加え、反応溶媒を気化回収してCMC中の揮発分を30〜50wt%とした。
【0046】
さらに、合成したCMC−Naに水を加えて揮発分を調整した。その後、反応機中に、CMC−Naに対して10〜30倍量の含水メタノール(メタノール濃度85〜95重量%)を加え、40〜60℃の温度に調整した状態で、攪拌機を用いて30分間攪拌することとで、CMC−Na中に残る副生塩および水分を抽出し除去した。
【0047】
実施例では、表2に示すようにパルプ種(Aグラム)、IPA水溶液(Bグラム)、NaOH(Cグラム)、モノクロル酢酸(Dグラム)、またはモノクロル酢酸溶解用のIPA水溶液(Eグラム)などの配合比が異なる6種類の組み合わせ(1〜6)を検討した。
【0048】
【表2】

【0049】
6種類の組み合わせ(1〜6)を用い、作製条件の異なる各8種類の実施例により試料を作製した。また、組み合わせ(1、2、6)については各8種類の比較例により試料を作成した。その結果を、表3〜8に示す。
【0050】
表3〜8に示すように、本発明の製造方法により作製された試料では、エーテル化度0.3〜0.7のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩粉末はいずれも、0.5〜0.8の範囲の高いカサ比重を示した。また、実施例の試料の塩分量はいずれも1.0未満という低い数値を示した。
【0051】
一方、比較例の試料は、カサ比重が0.5未満であった。
【0052】
以上説明したように、本発明の製造方法により、カサ比重の高いカルボキシメチルセルロースナトリウム塩粉末を得ることができる。
【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
【表5】

【0056】
【表6】

【0057】
【表7】

【0058】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒法によるエーテル化反応後に、中和されたカルボキシメチルセルロースナトリウム塩中の溶媒を分離することで、揮発分が30〜50重量%のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を得る第1工程と、
前記カルボキシメチルセルロースナトリウム塩に水を加えて、前記カルボキシメチルセルロースナトリウム塩中の揮発分を50〜80重量%にした前記カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を混練する第2工程と、
混練後の前記カルボキシメチルセルロースナトリウム塩を10〜30倍量の含水率5〜15重量%の含水メタノール中に投入して攪拌することで、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩中の副生塩および水分を除去する第3工程と、
前記第3工程で脱塩・脱水されたカルボキシメチルセルロースナトリウム塩からメタノールを分離し、乾燥、粉砕する第4工程とを含む、
カサ比重が0.5〜0.8のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩粉末の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程が40〜60℃で行われることを特徴とする請求項1に記載のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩粉末の製造方法。

【公開番号】特開2009−46589(P2009−46589A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214104(P2007−214104)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】