説明

カルボキシル基含有化合物及びその硬化物

【課題】保存安定性に優れ、また現像性、硬度、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、可撓性等の特性を充分に満足する優れた硬化膜が得られる光及び/又は熱硬化性化合物及びその硬化物を提供する。
【解決手段】本発明は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂(a)のエポキシ基に、エポキシ基1当量に対して、モノカルボン酸(b)を0.3〜0.9モルの割合で反応させ、得られた反応生成物(c)のエポキシ基に、エポキシ基1当量に対して、0.1〜5.0モルの割合の水(d)の存在下で、多塩基酸無水物(e)を0.2〜5.0モルの割合で反応させ、さらに得られた反応生成物(f)のエポキシ基に、エポキシ基1当量に対して、モノカルボン酸(g)を0.0〜5.0モルの割合で反応させて得られる酸価30〜200mgKOH/gのカルボキシル基含有化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板のソルダーレジスト等の形成に使用される硬化性化合物に関し、特にカルボキシル基含有化合物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、プリント配線板のソルダーレジストの形成に使用される硬化性化合物は、環境問題への配慮から、希アルカリ水溶液で現像ができる不飽和基及びカルボキシル基含有化合物が主流になっている。このような化合物としては、エポキシ樹脂と不飽和基含有モノカルボン酸の反応物に酸無水物を付加した硬化性化合物が一般的である。
例えば、特許文献1には、ノボラック型エポキシ樹脂と不飽和基含有モノカルボン酸の反応物に酸無水物を付加した硬化性化合物が開示されている。また、特許文献2には、1分子中に2個のグリシジル基を有する芳香族エポキシ樹脂と1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する芳香族アルコール樹脂とを反応させて得られるアルコール性の二級の水酸基にエピハロヒドリンを反応させ、得られた反応物に不飽和基含有モノカルボン酸、次いで酸無水物を付加した硬化性化合物が開示されている。
これらの他、幾つかの硬化性化合物が提案されており、現在、実際のプリント配線板の製造に多く使用されている。
【0003】
近年、エレクトロニクス機器の軽薄短小化に伴いプリント配線板が高密度化されており、プリント配線板の高密度化に対応して、ソルダーレジストを形成する硬化性化合物の高性能化が要求されている。即ち、高密度化プリント配線板の製造では、従来市販されている硬化性化合物の現像性が十分でないためにソルダーレジストの極微細なパターンが得られない。また、従来の硬化性化合物を用いてソルダーレジストを形成した高密度化のプリント配線板では、高温及び高湿下での電気絶縁性が低下する。さらに、従来の硬化性化合物を用いて得られたソルダーレジストは、十分な可撓性がないためにフレキシブルプリント配線板に適用できない。これらの問題の解決のために硬化性化合物のいっそうの高性能化が要求されている。
【0004】
可撓性の問題を解決する硬化性化合物として、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のアルコール性の二級の水酸基に、エピハロルヒドリンを反応させ、次いで得られた多官能エポキシ樹脂に、エポキシ当量当たり0.2〜1.2モルのエチレン性不飽和カルボン酸を反応させ、さらにエポキシ当量当たり0.2〜1.0モルの多塩基カルボン酸又はその無水物あるいはその両方を反応させて得られるカルボキシル基含有化合物が提案されている(特許文献3参照)。
また、特許文献4には、ノボラック型エポキシ樹脂及びゴム変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂の混合物と該混合物のエポキシ当量当たり0.2〜1.2モルのエチレン性不飽和カルボン酸とを反応させ、得られた反応生成物と、上記混合物のエポキシ当量当たり0.2〜1.0モルの多塩基カルボン酸及び/又はその無水物とを反応させて得られるカルボキシル基含有化合物が開示されている。
【0005】
特許文献3や特許文献4のカルボキシル基含有化合物を用いてレジストを形成した高密度化プリント配線板は、可撓性に優れている。しかし、これらカルボキシル基含有化合物は、多官能エポキシ樹脂や、ノボラック型エポキシ樹脂とゴム変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂の混合物に対するエチレン性不飽和カルボン酸の反応割合がある範囲内のときはゲル化したり、高分子化したりするため、十分な現像性が得られない。
即ち、特許文献3や特許文献4のカルボキシル基含有化合物は、多官能エポキシ樹脂や、ノボラック型エポキシ樹脂とゴム変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂の混合物に、エポキシ当量当たり0.2〜1.2モルのエチレン性不飽和カルボン酸を反応させて得られる生成物に、エポキシ当量当たり、0.2〜1.0モルの多塩基カルボン酸及び/又はその無水物を反応させて得られるが、多塩基カルボン酸及び/又はその無水物の反応割合が上記範囲内のときに、多官能エポキシ樹脂や、ノボラック型エポキシ樹脂とゴム変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂の混合物に対してエポキシ当量当たり1モル未満のエチレン性不飽和カルボン酸を反応させると、多塩基カルボン酸及び/又はその無水物が上記エチレン性不飽和基含有エポキシ樹脂の架橋剤として働き、ゲル化、又は高分子化して現像性が低下する。
【0006】
一方、このような高分子化した樹脂を利用して硬化性組成物の塗膜のタック(粘着)フリー性を向上させる方法が提案されている(特許文献5参照)。タックフリー性は液状現像型レジストの重要な特性の一つであるが、アルカリ現像性と背反する特性である。そこで、特許文献5では、高分子化させた樹脂のヒドロキシル基に多塩基酸及び/又は多塩基酸無水物を付加反応させて得られる硬化性樹脂を用いることにより、硬化性組成物の塗膜のタックフリー性と現像性の両立を図っている。しかし、それでもなお、近年のエレクトロニクス機器の軽薄短小化に伴うプリント配線板の高密度化に対応した十分な現像性は得られていない。
【0007】
また、可撓性、さらには電気絶縁性の問題を解決するために、ノボラック型フェノール樹脂とアルキレンオキシドとの反応生成物に不飽和基含有モノカルボン酸を反応させ、得られた反応生成物に多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有化合物(特許文献6参照)、ノボラック型フェノール樹脂とアルキレンオキシド又は環状カーボネートとの反応生成物に不飽和基含有モノカルボン酸及び飽和脂肪族モノカルボン酸及び/又は芳香族モノカルボン酸を反応させ、得られた反応生成物に多塩基酸無水物を反応させて得られるカルボキシル基含有化合物(特許文献7参照)等が提案されている。しかしながら、上記化合物は現像性に劣る。また、上記化合物を用いてレジストを形成したプリント配線板は、高温及び高湿下での電気絶縁性には優れているが、硬度が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−243869号公報
【特許文献2】特開平5−32746号公報
【特許文献3】特開平11−65117号公報
【特許文献4】特開平9−5997号公報
【特許文献5】特開2004−067815号公報
【特許文献6】国際公開WO 02/024774 A1公報
【特許文献7】特開2005−91783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記のような問題に鑑みなされたものであり、ゲル化することなく、現像性に優れ、また硬度、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、可撓性等の特性を充分に満足する優れた硬化膜が得られる光及び/又は熱硬化性化合物及びその硬化物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係るカルボキシル基含有化合物は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂(a)のエポキシ基に、エポキシ基1当量に対して、モノカルボン酸(b)を0.3〜0.9モルの割合で反応させ、得られた反応生成物(c)のエポキシ基に、エポキシ基1当量に対して0.1〜5モルの割合の水(d)の存在下で、多塩基酸無水物(e)を0.2〜5モルの割合で反応させ、さらに得られた反応生成物(f)のエポキシ基に、エポキシ基1当量に対してモノカルボン酸(g)を0.0〜5.0モルの割合で反応させて得られる酸価30〜200mgKOH/gのものであることを特徴とする。
【0011】
本発明の具体的な好適な態様によれば、モノカルボン酸(b)及びモノカルボン酸(g)が不飽和基含有モノカルボン酸である。モノカルボン酸(b)が不飽和基含有モノカルボン酸であって、モノカルボン酸(g)が不飽和基を含有しないモノカルボン酸であっても良い。また、モノカルボン酸(b)が不飽和基を含有しないモノカルボン酸であって、モノカルボン酸(g)が不飽和基含有モノカルボン酸であっても良い。さらに、モノカルボン酸(b)及びモノカルボン酸(g)が不飽和基を含有しないモノカルボン酸であっても良く、或いは、モノカルボン酸(b)及び/又はモノカルボン酸(g)が不飽和基含有モノカルボン酸と不飽和基を含有しないモノカルボン酸の混合物であっても良い。特に1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂(a)がノボラック型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プリント配線板の高密度化に対応可能な化合物に要求される現像性を充分に満足し、且つ硬度、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、可撓性などに優れた硬化膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1のカルボキシル基含有化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図2】実施例1のカルボキシル基含有化合物のゲル浸透クロマトグラフィーによるクロマトグラムである。
【図3】実施例2のカルボキシル基含有化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図4】実施例2のカルボキシル基含有化合物のゲル浸透クロマトグラフィーによるクロマトグラムである。
【図5】実施例3のカルボキシル基含有化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図6】実施例3のカルボキシル基含有化合物のゲル浸透クロマトグラフィーによるクロマトグラムである。
【図7】実施例4のカルボキシル基含有化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図8】実施例4のカルボキシル基含有化合物のゲル浸透クロマトグラフィーによるクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、前記の課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂のエポキシ基にモノカルボン酸を部分的に反応させ、得られた反応生成物の残存するエポキシ基に部分的又は全部に多塩基酸無水物を水の存在下で反応させることにより、ゲル化を防ぎ、さらに得られた反応生成物にエポキシ基が残存する場合には、そこにモノカルボン酸を反応させることによって得られる硬化性化合物であるカルボキシル基含有化合物が、ゲル化することなく、現像性に優れ、また優れた硬度、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、可撓性を持つ硬化物を与えることを見出し、本発明を完成させるに至った。また、水の量を調節することにより、エポキシ基を有する樹脂とモノカルボン酸との反応により得られる2級のアルコール性水酸基に、多塩基酸無水物を反応させることができ、さらに得られた反応生成物にエポキシ基が残存する場合には、そこにモノカルボン酸を反応させることによって得られる硬化性化合物であるカルボキシル基含有化合物が、同様に、ゲル化することなく、現像性に優れ、また優れた硬度、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、可撓性を持つ硬化物を与えることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
このようにして得られる本発明のカルボキシル基含有化合物は保存安定性に優れる。また、本発明のカルボキシル基含有化合物は、樹脂の末端にカルボキシル基や二重結合があるために現像性や反応性に優れ、架橋密度の高い、優れた特性を持つ硬化物を与える。
【0016】
尚、本発明のカルボキシル基含有化合物の製造において、多塩基酸無水物は水の存在下で多塩基酸になり、それがモノカルボン酸を部分的に付加させたエポキシ樹脂のエポキシ基に付加すると考えられるが、多塩基酸無水物と水によって得られた多塩基酸がすべてエポキシ基に反応するとは限らない。その場合、本発明のカルボキシル基含有化合物と未反応の多塩基酸が混合して得られる場合があるが、未反応の多塩基酸の存在・非存在に関係なく、ゲル化することなく、保存安定性に優れる。
【0017】
以下、本発明に係る光及び/又は熱硬化性化合物について詳細に説明する。
本発明のカルボキシル基含有化合物は、前記したように、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂(a)のエポキシ基に、エポキシ基1当量に対して、モノカルボン酸(b)を0.3〜0.9モルの割合で反応させ、得られた反応生成物(c)のエポキシ基に、エポキシ基1当量に対して、0.1〜5モルの割合の水(d)の存在下で、多塩基酸無水物(e)を0.2〜5モルの割合で反応させ、さらに得られた反応生成物(f)のエポキシ基に、エポキシ基1当量に対して、モノカルボン酸(g)を0.0〜5.0モルの割合で反応させて得られるが、各反応は、後述するような触媒を用い、溶媒中又は無溶媒下で容易に行なわれる。
【0018】
1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂(a)としては、例えば、ジャパンエポキシレジン(株)製のエピコート828、エピコート834、エピコート1001、エピコート1004、大日本インキ化学工業(株)製のエピクロン840、エピクロン850、エピクロン1050、エピクロン2055、東都化成(株)製のエポトートYD−011、YD−013、YD−127、YD−128、ダウケミカル(株)製のD.E.R.317、D.E.R.331、D.E.R.661、D.E.R.664、住友化学工業(株)製のスミ−エポキシESA−011、ESA−014、ELA−115、ELA−128(何れも商品名)等のビスフェノールA型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン(株)製のエピコートYL903、大日本インキ化学工業(株)製のエピクロン152、エピクロン165、東都化成(株)製のエポトートYDB−400、YDB−500、ダウケミカル(株)製のD.E.R.542、住友化学工業(株)製のスミ−エポキシESB−400、ESB−700(何れも商品名)等のブロム化エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン(株)製のエピコート152、エピコート154、ダウケミカル(株)製のD.E.N.431、D.E.N.438、大日本インキ化学工業(株)製のエピクロンN−730、エピクロンN−770、エピクロンN−865、東都化成(株)製のエポトートYDCN−701、YDCN−704、日本化薬(株)製のEPPN−201、EOCN−1025、EOCN−1020,EOCN−104S、RE−306、住友化学工業(株)製のスミ−エポキシESCN−195X、ESCN−220(何れも商品名)等のノボラック型エポキシ樹脂;大日本インキ化学工業(株)製のエピクロン830、ジャパンエポキシレジン製エピコート807、東都化成(株)製のエポトートYDF−170、YDF−175、YDF−2004(何れも商品名)等のビスフェノールF型エポキシ樹脂;東都化成(株)製のエポトートST−2004、ST−2007、ST−3000(何れも商品名)等の水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン(株)製のエピコート604、東都化成(株)製のエポトートYH−434、住友化学工業(株)製のスミ−エポキシELM−120(何れも商品名)等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂;ダイセル化学工業(株)製のセロキサイド2021(商品名)等の脂環式エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン(株)製のYL−933、日本化薬(株)製のEPPN−501、EPPN−502(何れも商品名)等のトリヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン(株)製のYL−6056、YX−4000、YL−6121(何れも商品名)等のビキシレノール型もしくはビフェノール型エポキシ樹脂又はそれらの混合物;日本化薬(株)製のEBPS−200、旭電化工業(株)製のEPX−30、大日本インキ化学工業(株)製のEXA−1514(何れも商品名)等のビスフェノールS型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン(株)製のエピコート157S(商品名)等のビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂;ジャパンエポキシレジン(株)製のエピコートYL−931(商品名)等のテトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂;日産化学(株)製のTEPIC(商品名)等の複素環式エポキシ樹脂;日本油脂(株)製のブレンマーDGT(商品名)等のジグリシジルフタレート樹脂;東都化成(株)製のZX−1063(商品名)等のテトラグリシジルキシレノイルエタン樹脂;新日鉄化学(株)製のESN−190、ESN−360、大日本インキ化学工業(株)製のHP−4032、EXA−4750、EXA−4700(何れも商品名)等のナフタレン基含有エポキシ樹脂;大日本インキ化学工業(株)製のHP−7200、HP−7200H(何れも商品名)等のジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂;日本油脂(株)製のCP−50S、CP−50M(何れも商品名)等のグリシジルメタアクリレート共重合系エポキシ樹脂;シクロヘキシルマレイミドとグリシジルメタアクリレートの共重合エポキシ樹脂;1,5−ジヒドロキシナフタレンとビスフェノールA型エポキシ樹脂とを反応させて得られるアルコール性の二級の水酸基に、エピハロルヒドリンを反応させて得られる多官能エポキシ樹脂(国際公開WO 01/024774号公報);エポキシ基の一部にケトンを付加反応させて得られる1,3−ジオキソラン環を有するエポキシ樹脂(特開2007−176987号公報)等を挙げることができるが、これらに限られるものではない。これらのエポキシ樹脂は、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0019】
これらのエポキシ樹脂の中でも好ましいのは、1分子中に3個以上のエポキシ基を有する樹脂であり、より好ましくは、ノボラック型エポキシ樹脂である。
【0020】
上記エポキシ樹脂(a)に、部分的にモノカルボン酸(b)を付加反応させるが、その際、重合禁止剤及び触媒を用いて溶媒中で反応を行うことが好ましく、反応温度は好ましくは50〜150℃、より好ましくは70〜120℃である。上記エポキシ樹脂(a)のエポキシ基に、エポキシ基1当量に対して、モノカルボン酸(b)を0.3〜0.9モルの割合で反応させるが、好ましくは、0.5〜0.8モルである。モノカルボン酸(b)が0.3モル未満では、この後の反応でゲル化する。
【0021】
前記モノカルボン酸(b)の代表的なものとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、α−シアノ桂皮酸、β−スチリルアクリル酸、β−フルフリルアクリル酸などの不飽和基含有モノカルボン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、n-酪酸、イソ酪酸、バレリアン酸、トリメチル酢酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸などの飽和脂肪族モノカルボン酸、安息香酸、アルキル安息香酸、アルキルアミノ安息香酸、ハロゲン化安息香酸、フェニル酢酸、アニス酸、ベンゾイル安息香酸、ナフトエ酸などの芳香族モノカルボン酸などが挙げられるが、これらに限られるものではない。これらモノカルボン酸は、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。ここで特に好ましいのはアクリル酸、メタクリル酸、安息香酸、及び酢酸である。
【0022】
反応溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油系溶剤などが挙げられるが、これらに限られるものではない。これらの有機溶剤は、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。また反応溶媒は、この後の反応段階で追加することができる。
【0023】
反応触媒としては、例えば、トリエチルアミン等の三級アミン、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、トリフェニルホスフィン等のリン化合物、ナフテン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸やオクトエン酸のリチウム、クロム、ジルコニウム、カリウム、ナトリウム等の有機酸の金属塩などが挙げられるが、これらに限られるものではない。これらの反応触媒は、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。また反応触媒は、この後の反応段階で追加することができる。
【0024】
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、カテコール、ピロガロール、フェノチアジンなどが挙げられるが、これらに限られるものではない。これらの重合禁止剤は、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。また重合禁止剤は、この後の反応段階で追加することができる。
【0025】
さらに、前記反応生成物(c)のエポキシ基に水(d)の存在下で多塩基酸無水物(e)を付加反応させるが、反応温度は、好ましくは50〜120℃、より好ましくは60〜100℃である。前記反応生成物(c)のエポキシ基に、エポキシ基1当量に対して、多塩基酸無水物(e)を0.2〜5.0モルの割合で、水(d)の存在下で反応させるが、好ましくは、0.4〜3.0モルである。その際、使用する水(d)の量は、エポキシ基1当量に対して、0.1〜5モルの割合である。水(d)が5.0モルを超えると、加水分解が起こり、最終生成物の硬化膜に悪影響を及ぼす。
【0026】
水(d)としては、蒸留水、精製水などが挙げられる。
【0027】
多塩基酸無水物(e)の代表的なものとしては、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ナジック酸、3,6−エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸等の脂環式二塩基酸無水物;無水コハク酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、オクテニル無水コハク酸、ペンタドデセニル無水コハク酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸等の脂肪族又は芳香族二塩基酸無水物、あるいはビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等の脂肪族又は芳香族四塩基酸二無水物が挙げられるが、これらに限られるものではない。これらの多塩基酸無水物は、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。これらの中でも、脂環式二塩基酸無水物が特に好ましい。
【0028】
前記エポキシ樹脂(a)にモノカルボン酸(b)、次いで水(d)の存在下で多塩基酸無水物(e)を反応させた後、残存するエポキシ基にモノカルボン酸(g)を反応させるが、モノカルボン酸(g)の役割は、反応生成物(f)の重合を抑制するためである。しかし、反応生成物(f)の段階で、たとえエポキシ基が残存している場合でも、反応生成物(f)が保存安定性がある場合には、モノカルボン酸(g)の反応は行わなくてもよい。反応生成物(f)とモノカルボン酸(g)を反応させる際の温度は、好ましくは50〜150℃、より好ましくは70〜120℃である。上記反応生成物(f)のエポキシ基に、エポキシ基1当量に対して、モノカルボン酸(g)を0.0〜5.0モルの割合で反応させるが、好ましくは、0.0〜2.0モルである。モノカルボン酸(g)が5.0モルを超えると、多量の未反応のモノカルボン酸(f)が残り、最終生成物の硬化膜に悪影響を及ぼす。
【0029】
モノカルボン酸(g)としては、モノカルボン酸(b)と同じものが挙げられる。これらモノカルボン酸は、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。ここで特に好ましいのはアクリル酸、メタクリル酸、安息香酸、及び酢酸である。
【0030】
このようにして得られた本発明のカルボキシル基含有化合物の酸価は、30〜200mgKOH/gであるが、好ましくは40〜150mgKOH/gである。しかし、未反応のカルボン酸(水(d)と多塩基酸無水物(e)により得られる多塩基酸、モノカルボン酸(b))が存在する場合には、固形分酸価は、カルボン酸全体として、200mgKOH/gを超える場合がある。しかし未反応のカルボン酸は、多量に含まれていなければ、本発明のカルボキシル基含有化合物の硬化膜に悪影響を及ばさない。
【0031】
本発明のカルボキシル基含有化合物は、光重合開始剤、感光性(メタ)アクリレート化合物、エポキシ樹脂、熱硬化触媒などを配合して、硬化させることができる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートを総称する用語であり、他の類似の表現についても同様である。
【0032】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインとベンゾインアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン類;2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン−1−オン、N,N- ジメチルアミノアセトフェノン等のアミノアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;ベンゾイルパーオキシド、クメンパーオキシド等の有機過酸化物;2,4,5−トリアリールイミダゾール二量体;リボフラビンテトラブチレート;2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール等のチオール化合物;2,4,6−トリス−s−トリアジン、2,2,2−トリブロモエタノール、トリブロモメチルフェニルスルホン等の有機ハロゲン化合物;ベンゾフェノン、4,4´−ビスジエチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類又はキサントン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0033】
感光性(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートなどの水酸基含有のアクリレート類;ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレートなどの水溶性のアクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどの多価アルコールの多官能ポリエステルアクリレート類;トリメチロールプロパン、水添ビスフェノールA等の多官能アルコールもしくはビスフェノールA、ビフェノールなどの多価フェノールのエチレンオキサイド付加物及び/又はプロピレンオキサイド付加物のアクリレート類;上記水酸基含有アクリレートのイソシアネート変成物である多官能もしくは単官能ポリウレタンアクリレート;ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル又はフェノールノボラックエポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物であるエポキシアクリレート類、及び上記アクリレート類に対応するメタクリレート類などが挙げられる。
【0034】
熱硬化触媒としては、例えば、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、4−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体;ジシアンジアミド、メラミン、ベンジルジメチルアミン、4−(ジメチルアミノ)−N,N−ジメチルベンジルアミン、4−メトキシ−N,N−ジメチルベンジルアミン、4−メチル−N,N−ジメチルベンジルアミン等のアミン化合物;アジピン酸ヒドラジド、セバシン酸ヒドラジド等のヒドラジン化合物;トリフェニルホスフィン等のリン化合物などが挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例等を示して本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下において特に断りのない限り、「部」は質量部を意味するものとする。
【0036】
[実施例1]
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂のYDCN−700−5(東都化成(株)製、エポキシ当量:203)203部を温度計、撹拌機、還流冷却器及び空気吹き込み管を備えた反応容器に入れ、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート109部を加え、加熱溶解した。次に、アクリル酸50.4部、メチルハイドロキノン0.3部及びトリフェニルホスフィン1部を加え、空気を吹き込みながら95〜105℃で9時間反応させた。その後、無水マレイン酸39.2部、純水5.4部、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート90部及びメチルハイドロキノン0.2部を加え85〜95℃で15時間反応させて、不揮発分60%の溶液を得た。このようにして得られたカルボキシル基含有化合物は、酸価77mgKOH/g、エポキシ当量6000g/eq.であった。以下、この溶液をA−1と称す。得られたカルボキシル基含有化合物のIRスペクトルを図1に、ゲルクロマトグラムを図2にそれぞれ示す。
【0037】
[実施例2]
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂のYDCN−700−5(東都化成(株)製、エポキシ当量:203)203部を温度計、撹拌機、還流冷却器及び空気吹き込み管を備えた反応容器に入れ、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート108部を加え、加熱溶解した。次に、アクリル酸43.2部、酢酸6部、メチルハイドロキノン0.3部及びトリフェニルホスフィン1部を加え、空気を吹き込みながら95〜105℃で9時間反応させた。その後、無水マレイン酸39.2部、純水5.4部、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート90部及びメチルハイドロキノン0.2部を加え85〜95℃で15時間反応させて、不揮発分60%の溶液を得た。このようにして得られたカルボキシル基含有化合物は、酸価75mgKOH/g、エポキシ当量7800g/eq.であった。以下、この溶液をA−2と称す。得られたカルボキシル基含有化合物のIRスペクトルを図3に、ゲルクロマトグラムを図4にそれぞれ示す。
【0038】
[実施例3]
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂のYDCN−700−5(東都化成(株)製、エポキシ当量:203)159.5部及びビスフェノールA型エポキシ樹脂のエピコート828(ジャパンエポキシレジン(株)製、エポキシ当量:186)39.9を温度計、撹拌機、還流冷却器及び空気吹き込み管を備えた反応容器に入れ、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート110部を加え、加熱溶解した。次に、アクリル酸57.6部、メチルハイドロキノン0.3部及びトリフェニルホスフィン1部を加え、空気を吹き込みながら95〜105℃で9時間反応させた。その後、無水マレイン酸39.2部、純水3.6部、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート90部及びメチルハイドロキノン0.2部を加え85〜95℃で15時間反応させて、不揮発分60%の溶液を得た。このようにして得られたカルボキシル基含有化合物は、酸価75mgKOH/g、エポキシ当量21800g/eq.であった。以下、この溶液をA−3と称す。得られたカルボキシル基含有化合物のIRスペクトルを図5に、ゲルクロマトグラムを図6にそれぞれ示す。
【0039】
[実施例4]
グリシジルメタクリレート、メチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート及びt−ブチルメタクリレートの共重合体溶液(ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、不揮発分50%、重量平均分子量5836、固形分のエポキシ当量:214g/eq.)428部、アクリル酸57.6部、メチルハイドロキノン0.3部及びトリフェニルホスフィン0.5部を温度計、撹拌機、還流冷却器及び空気吹き込み管を備えた反応容器に入れ、空気を吹き込みながら95〜105℃で9時間反応させた。その後、無水マレイン酸39.2部、純水3.6部及びメチルハイドロキノン0.2部を加え85〜95℃で15時間反応させて、不揮発分60%の溶液を得た。このようにして得られたカルボキシル基含有化合物は、酸価76mgKOH/g、エポキシ当量50000g/eq.以上であった。以下、この溶液をA−4と称す。得られたカルボキシル基含有化合物のIRスペクトルを図7に、ゲルクロマトグラムを図8にそれぞれ示す。
【0040】
[比較例1]
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂のYDCN−700−5(東都化成(株)製、エポキシ当量:203)203部を温度計、撹拌機、還流冷却器及び空気吹き込み管を備えた反応容器に入れ、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート109部を加え、加熱溶解した。次に、アクリル酸43.2部、メチルハイドロキノン0.3部及びトリフェニルホスフィン1部を加え、空気を吹き込みながら95〜105℃で9時間反応させた。その後、無水マレイン酸39.2部、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート81部及びメチルハイドロキノン0.2部を加え85〜95℃で15時間反応させたところ、ゲル化した。以下、このゲルをB−1と称す。
【0041】
[比較例2]
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂のエピクロンN−695(大日本インキ化学工業(株)製、エポキシ当量:220g/eq.)220部を温度計、撹拌機、還流冷却器及び空気吹き込み管を備えた反応容器に入れ、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート220部を加え、加熱溶解した。次に、メチルハイドロキノン0.46部、トリフェニルフホスフィン3.0部を加えた。この混合物を95〜105℃に加熱し、アクリル酸72部を徐々に滴下し、空気を吹き込みながら4時間反応させた。この反応生成物を、80〜90℃まで冷却し、テトラヒドロフタル酸無水物106部を加え、5時間反応させ、不揮発分65%の溶液を得た。このようにして得られたカルボキシル基含有化合物は、酸価100mgKOH/gであった。以下、この溶液をB−2と称す。
【0042】
[比較例3]
ガス導入管、撹拌装置、冷却管、温度計、及びアルカリ金属水酸化物水溶液の連続滴下用の滴下ロートを備えた反応容器に、フェノール性水酸基当量80g/eq.の1,5−ジヒドロキシナフタレン224部とビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、エピコート828、エポキシ当量189g/eq.)1075部を仕込み、窒素雰囲気下にて、撹拌下110℃で溶解させた。その後、トリフェニルホスフィン0.65部を添加し、反応容器内の温度を150℃まで昇温し、温度を150℃で保持しながら、約90分間反応させ、エポキシ当量452g/当量のエポキシ樹脂を得た。次にフラスコ内の温度を40℃まで冷却し、エピクロルヒドリン1920部、トルエン1690部、テトラメチルアンモニウムブロマイド70部を加え、撹拌下45℃まで昇温し保持した。その後、48wt%水酸化ナトリウム水溶液364部を60分間かけて連続滴下し、その後、さらに6時間反応させた。反応終了後、過剰のエピクロルヒドリン及びトルエンの大半を減圧蒸留して回収し、副生塩とトルエンを含む反応生成物をメチルイソブチルケトンに溶解させ水洗した。有機溶媒層と水層を分離後、有機溶媒層よりメチルイソブチルケトンを減圧蒸留して留去し、エポキシ当量277g/eq.の多核エポキシ樹脂を得た。得られた多核エポキシ樹脂は、エポキシ当量から計算すると、エポキシ樹脂におけるアルコール性水酸基1.98個のうち約1.59個がエポキシ化されている。従って、アルコール性水酸基のエポキシ化率は約80%である。次に、多核エポキシ樹脂277部を撹拌装置、冷却管及び温度計を備えたフラスコに入れ、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート290部を加え、加熱溶解し、メチルハイドロキノン0.46部と、トリフェニルホスフィン1.38部を加え、95〜105℃に加熱し、アクリル酸72部を徐々に滴下し、空気を吹き込みながら4時間反応させた。この反応生成物を、80〜90℃まで冷却し、テトラヒドロフタル酸無水物129部を加え、5時間反応させ、不揮発分62%の溶液を得た。このようにして得られたカルボキシル基含有化合物は、酸価100mgKOH/gであった。以下、この溶液をB−3と称す。
【0043】
[比較例4]
温度計、窒素導入装置兼アルキレンオキシド導入装置及び撹拌装置を備えたオートクレーブに、昭和高分子(株)製ノボラック型クレゾール樹脂(商品名「ショーノールCRG951」、フェノール性水酸基当量:119.4g/eq.)119.4部、水酸化カリウム1.19部、トルエン119.4部を仕込み、撹拌しつつ系内を窒素置換し、加熱昇温した。次に、プロピレンオキシド63.8部を徐々に滴下し、125〜132℃、0〜4.8kg/cmで16時間反応させた。その後、室温まで冷却し、この反応溶液に89%リン酸1.56部を添加混合し、水酸化カリウムを中和し、不揮発分62.1%、アルコール性水酸基当量が182.2g/eq.であるノボラック型クレゾール樹脂のプロピレンオキシド反応溶液を得た。これは、フェノール性水酸基1当量当りアルキレンオキシドが平均約1.08モル付加しているものであった。得られたノボラック型クレゾール樹脂のプロピレンオキシド反応溶液293.0部、アクリル酸43.2部、メタンスルホン酸11.53部、メチルハイドロキノン0.18部、トルエン252.9部を、撹拌機、温度計、空気吹き込み管を備えた反応容器に仕込み、空気を10ml/分の速度で吹き込み、撹拌しながら、110℃で12時間反応させた。反応により生成した水はトルエンとの共沸混合物として、12.6部の水が留出した。その後、室温まで冷却し、得られた反応溶液を15%水酸化ナトリウム水溶液35.35部で中和し、次いで水洗した。その後、エバポレーターにてトルエンをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート149部で置換しつつ留去し、ノボラック型アクリレート化合物溶液を得た。次に、得られたノボラック型アクリレート化合物溶液332.5部、トリフェニルホスフィン1.22部を、撹拌器、温度計、空気吹き込み管を備えた反応器に仕込み、空気を10ml/分の速度で吹き込み、撹拌しながら、テトラヒドロフタル酸無水物60.8部を徐々に加え、95〜101℃で6時間反応させ、不揮発分65%の溶液を得た。このようにして得られたカルボキシル基含有化合物は、酸価84mgKOH/gであった。以下、この溶液をB−4と称す。
【0044】
硬化性化合物の評価
(1)現像性
前記実施例1〜4及び比較例2〜4の各溶液をバーコーターを用いて、30〜40μmの厚さになるように、パターン形成されている銅スルーホールプリント配線基板に全面塗布し、塗膜を80℃の熱風循環式乾燥炉で30分間乾燥し、1%の炭酸ナトリウム水溶液で20秒間、2.0kg/cmのスプレー圧で現像し、現像後の状態を目視判定した。但し、ゲル化したサンプル(B−1)については、評価しなかった。
○:塗膜が除去された。
×:現像されない部分があった。
結果を表1に記す。
【表1】

【0045】
光硬化性・熱硬化性組成物の調製及び各組成物の特性値
前記実施例1〜4及び比較例2〜4の各溶液を表2に示す成分及び成分比で配合し、3本ロールミルでそれぞれ混練して、光硬化性・熱硬化性組成物を調整した。
【表2】

【0046】
各組成物の特性値を表3に示す。
【表3】

【0047】
各特性値は以下の方法で評価した。
【0048】
(2)鉛筆硬度
前記組成例1〜4及び比較組成例2〜4の調整した各硬化性組成物を、スクリーン印刷法により、100メッシュのポリエステルスクリーンを用いて30〜40μmの厚さになるように、パターン形成されている銅スルーホールプリント配線基板に全面塗布し、塗膜を80℃の熱風循環式乾燥炉で30分間乾燥させた。そして、レジストパターンを有するネガフィルムを乾燥させた塗膜に密着させ、紫外線露光装置((株)オーク製作所製、型式HMW−680GW)を用いて、紫外線を照射した(露光量500mJ/cm)。次いで1%の炭酸ナトリウム水溶液で60秒間、2.0kg/cmのスプレー圧で現像し、未露光部分を溶解除去した。その後、150℃の熱風循環式乾燥炉で60分間加熱硬化を行ない、得られた硬化膜を有する評価基板について、JIS K 5400に準拠して、鉛筆硬度の試験を行なった。但し、ゲル化したサンプル(B−1)については、評価しなかった。
【0049】
(3)耐熱性
上記評価基板を、JIS C 6481の試験方法に従って、260℃のはんだ浴へ10秒間浸漬を3回行ない、外観の変化を以下の基準で評価した。ポストフラックス(ロジン系)としては、JIS C 6481に従ったフラックスを使用した。但し、ゲル化したサンプル(B−1)については、評価しなかった。
○:外観変化なし
△:硬化膜の変色が認められるもの
×:硬化膜の浮き、剥れ、はんだ潜りあり
【0050】
(4)耐酸性
上記評価基板を10容量%硫酸水溶液に20℃で30分間浸漬し、取り出し、硬化膜の状態と密着性とを総合的に判定評価した。判定基準は以下のとおりである。但し、ゲル化したサンプル(B−1)については、評価しなかった。
○:変化が認められないもの
△:ほんの僅か変化しているもの
×:塗膜にフクレあるいは膨潤脱落があるもの
【0051】
(5)耐アルカリ性
10容量%硫酸水溶液を10容量%水酸化ナトリウム水溶液に代えた以外は耐酸性試験と同様の試験を行い評価した。但し、ゲル化したサンプル(B−1)については、評価しなかった。
【0052】
(6)電気絶縁性
パターン形成されている銅スルーホールプリント配線基板の代わりに、IPCで定められたプリント回路基板(厚さ1.6mm)のBパターンを用い、前記の方法にて硬化性組成物の塗布、硬化を行ない、得られた硬化膜の電気絶縁性を以下の基準にて評価した。但し、ゲル化したサンプル(B−1)については、評価しなかった。
加湿条件:温度121℃、湿度85%RH、印加電圧5V、100時間。
測定条件:測定時間60秒、印加電圧500V。
○:加湿後の絶縁抵抗値10Ω以上、銅のマイグレーションなし。
△:加湿後の絶縁抵抗値10Ω以上、銅のマイグレーションあり。
×:加湿後の絶縁抵抗値10Ω以下、銅のマイグレーションあり。
【0053】
(7)可撓性
パターン形成されている銅スルーホールプリント配線基板の代わりに、ポリエステルフィルムを用い、前記の方法にて硬化性組成物の塗布、硬化を行ない、その後ポリエステルフィルムから硬化塗膜をはがし、長さ5cm、幅2cmの評価フィルムを得た。得られたフィルムを折り曲げ、以下の基準にて評価した。但し、ゲル化したサンプル(B−1)については、評価しなかった。
○:フィルムを170°折り曲げて割れなかったもの。
△:フィルムを170°折り曲げると割れるが、160°折り曲げて割れなかったもの。
×:フィルムを160°折り曲げて割れたもの。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のカルボキシル基含有化合物は、保存安定性に優れ、且つ、前記したような諸特性に優れた硬化物が得られるため、ソルダーレジスト、エッチングレジスト、メッキレジスト、多層配線板の層間絶縁層、テープキャリアパッケージの製造に用いられる永久マスク、フレキシブル配線基板用レジスト、カラーフィルター用レジスト、ドライフィルム用レジスト、インクジェト用レジストなどの用途にも有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂(a)のエポキシ基に、エポキシ基1当量に対して、モノカルボン酸(b)を0.3〜0.9モルの割合で反応させ、得られた反応生成物(c)のエポキシ基に、エポキシ基1当量に対して、0.1〜5.0モルの割合の水(d)の存在下で、多塩基酸無水物(e)を0.2〜5.0モルの割合で反応させ、さらに得られた反応生成物(f)のエポキシ基に、エポキシ基1当量に対して、モノカルボン酸(g)を0.0〜5.0モルの割合で反応させて得られる酸価30〜200mgKOH/gのカルボキシル基含有化合物。
【請求項2】
前記モノカルボン酸(b)及び(g)が不飽和基含有モノカルボン酸である請求項1に記載のカルボキシル基含有化合物。
【請求項3】
前記モノカルボン酸(b)が不飽和基含有モノカルボン酸であり、前記モノカルボン酸(g)が不飽和基を含有しないモノカルボン酸である請求項1に記載のカルボキシル基含有化合物。
【請求項4】
前記モノカルボン酸(b)が不飽和基を含有しないモノカルボン酸であり、前記モノカルボン酸(g)が不飽和基含有モノカルボン酸である請求項1に記載のカルボキシル基含有化合物。
【請求項5】
前記モノカルボン酸(b)及び(g)が不飽和基を含有しないモノカルボン酸である請求項1に記載のカルボキシル基含有化合物。
【請求項6】
前記モノカルボン酸(b)及び/又は(g)が不飽和基含有モノカルボン酸と不飽和基を含有しないモノカルボン酸の混合物である請求項1に記載のカルボキシル基含有化合物。
【請求項7】
1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂(a)がノボラック型エポキシ樹脂である請求項1〜6のいずれかに記載のカルボキシル基含有化合物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のカルボキシル基含有化合物の硬化物。
【請求項9】
1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂(a)のエポキシ基に、エポキシ基1当量に対して、モノカルボン酸(b)を0.3〜0.9モルの割合で反応させ、得られた反応生成物(c)のエポキシ基に、エポキシ基1当量に対して、0.1〜5.0モルの割合の水(d)の存在下で、多塩基酸無水物(e)を0.2〜5.0モルの割合で反応させ、さらに得られた反応生成物(f)のエポキシ基に、エポキシ基1当量に対して、モノカルボン酸(g)を0.0〜5.0モルの割合で反応させて、酸価30〜200mgKOH/gのカルボキシル基含有化合物を得る方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−248394(P2010−248394A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100367(P2009−100367)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000166683)互応化学工業株式会社 (57)
【Fターム(参考)】