説明

カレー粉の製造方法

【課題】 本発明は、生産性に優れ、更にまとまった風味を有し、熟成感のあるカレー粉を製造する方法、更にはこれを用いて製造したカレー粉を提供することを目的とする。
【解決手段】 2種以上の香辛料を含み、10メッシュの篩を通過する成分を50%以上含有する香辛料組成物を、スタンプミルを用いて搗く工程を有することを特徴とするカレー粉の製造方法、更にはこれを用いたカレー粉を提供した。これによれば、風味を有し、熟成感のあるカレー粉を、生産性よく製造することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熟成感のある風味の良いカレー粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、カレー粉は、ターメリック、コリアンダー、クミン、フェネグリーク、コショウ、フェンネル、赤唐辛子、陳皮、クローブなど数多くの種類の香辛料から構成され特有の香味を有している。
【0003】
カレー粉の製造方法としては、例えば、粉砕した香辛料の粉末を混合し、焙煎などを行い、密閉可能な容器または袋に入れ、半年から1年くらい常温または冷暗所に保存して熟成させるのが一般的である。カレー粉を熟成させることにより風味の調和がとれ、まとまったまろやかな風味になる。
【0004】
しかし、実際工業的に大量生産を行う場合、熟成期間中、半年から1年分のカレー粉を保存する大規模な設備や、熟成期間を踏まえた生産量の管理が必要であり、熟成期間はできるだけ短いほうが好ましい。こうした現状を少しでも克服しようと、熟成期間をできるだけ短縮するためにこれまで数多くの試みがなされてきた。即ち、カレー粉原料を密閉耐圧タンク中で加圧しつつ焙煎、次いで減圧タンク中で処理済みカレー原料にインベルターゼを加えて25℃以下、減圧下で高周波誘導加熱を行いつつ熟成する方法(特許文献1)や、予備加熱したコリアンダー、クミン、フェヌグリーク、及びターメリックの粉末をこれら以外のカレー用香辛料を粉末と混合し、例えばポリエチレン等の通気性のある袋に入れ、40〜50℃で90〜100時間熟成させる方法(特許文献2)などが開示されている。
【特許文献1】特開昭56−15669号公報
【特許文献2】特開2000−316518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、生産性に優れ、更にまとまった風味を有し、熟成感のあるカレー粉を製造する方法、更にはこれを用いて製造したカレー粉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を鑑み鋭意検討した結果、2種以上の香辛料を含み、10メッシュの篩を通過する成分を50%以上含有する香辛料組成物を、スタンプミルを用いて搗く工程を有することを特徴とする、カレー粉の製造方法を提供した。これによれば、まとまった風味を有し、熟成感のあるカレー粉を、生産性よく製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のカレー粉の製造方法によれば、まとまった風味を有し、熟成感のあるカレー粉を、生産性よく製造することが可能となり、有用な技術である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
【0009】
本発明のカレー粉の製造方法で用いる原料の香辛料としては、植物の種子、果実、花蕾、葉、樹皮、根茎等あるいはこれらから得られる物質等が挙げられ、これらをスタンプミルで搗く際に2種以上含んでいることが必要である。スタンプミルで搗く際に香辛料を2種以上含んでいることにより、香辛料同士の接触効率が良くなり、よりまとまった風味を有し、熟成感のあるカレー粉とすることが可能となる。具体的な香辛料としては、香味性香辛料に分類されるカルダモン、クローブ、ナツメグ、メース、フェネグリーク、ローレル、フェンネル、コリアンダー、クミン、キャラウェー、タイム、セージ、陳皮、オレンジピール等、また辛味性香辛料に分類されるコショウ、唐辛子、マスタード、ジンジャー等、また着色性香辛料に分類される、ターメリック、パプリカ、サフラン等が挙げられる。尚、スタンプミルで搗く際に、特にターメリックが含まれていることが好ましい。
【0010】
本発明で使用される香辛料組成物は、10メッシュの篩を通過する成分を50%以上含有することが好ましく、さらに30〜50メッシュの篩を通過する成分を80%以上含有することが好ましい。それよりも粗い場合は、香辛料同士の接触効率が悪く、効果が得られない。一方、反対に細かすぎると、香辛料同士の接触効率が良すぎて粉砕時に熱が発生し、風味が損なわれてしまうことがあるので、注意が必要である。尚、本発明で使用する香辛料組成物は、より風味を良くするために、その加工の際に(例えば殺菌や粉砕時に)熱があまりかからないような方法を採ることが好ましい。
【0011】
本発明で用いるスタンプミルとしては、各種構造のものを使用することができるが、例えば、米粉製造用途に商品設計された、ねじり粉砕方式の丸型スタンプミル(胴搗粉砕機ともいう、株式会社西村機械製作所製)等を使用することができる。このねじり粉砕方式の丸型スタンプミルは、被粉砕物を収容する複数(製品としては6個または12個のものなどがあるが、何個でも良い)の凹部(以下、つぼという)が円周に沿って所定間隔をおいて配置され、このつぼの上端開口部から内部に突入して収納された被粉砕物を粉砕するために上下動可能に構成された複数の断面形状が円形で棒状の杵を備えている。特に本発明者の使用した装置では、杵の重量55kg重、杵と被粉砕物の接触面積φ80で、高さ272mmから、1分間に60回の割合で落下し、被粉砕物を粉砕する。尚、この他に、つぼが横に並んだ形の横型スタンプミル等も挙げられる。
【0012】
尚、つぼの数は、幾つであっても構わないが、工業生産では一般に大量の材料を搗くことが要求される場合が多く、複数のつぼを備えた装置を使用することが好ましい。尚、大量の材料を投入可能な大きなつぼを設けることも考えられるが、この場合は発熱の制御が難しく、小径のつぼを複数設けることがより好ましい。
【0013】
つぼの部分は、石でできたものや、鉄でできたものが挙げられるが、鉄でできたものを使用した場合、カレー粉に鉄の風味が移行し、風味が悪くなりやすく、つぼ部分は石でできた石つぼを使用する方が好ましい。
【0014】
スタンプミルで搗く時間としては、各種可能であるが、10分以上、90分以下であることが好ましい。10分未満だと熟成感が不十分で、まとまりのある芳醇な風味を得ることが困難となりやすく、90分より長いと、例え熱が発生しにくい石つぼを用いた際でも熱が発生し、香気成分が失われ、風味が損なわれる可能性がある。
【0015】
スタンプミルを用いて搗く際には、10メッシュの篩を通過する成分を50%以上含有する香辛料組成物であれば、粉砕された粉末状態の香辛料を混合したものだけでなく、原形(ホール)の香辛料も投入することができる。この場合、粉末を整粒する場合に比べ、カレー粉の仕上がり粒度が粗くなりやすいため、90分以内でスタンプ時間を長めにとることが好ましい。
【0016】
スタンプミルを搗く頻度は、1分間に10〜80回が好ましく、更に30〜75回、特に50〜70回が好ましい。10回未満だと香辛料の接触回数が少なく、効果が得られにくい上に生産効率が悪い。反対に、80回より多いと、つぼ内で熱が発生してしまい、風味が損なわれやすい。
【0017】
本発明において焙煎を行う際は、スタンプミルを用いて搗く工程より前に、焙煎工程を有していることが好ましい。スタンプミルを用いて搗く工程の後に焙煎工程を行うと、香辛料の粒度が細かいために風味が飛びやすく、まとまった風味や熟成感が失われてしまいがちである。
【0018】
焙煎の熱源および焙煎方法については、ガス火、電気(ニクロム線)を用いて釜、ニーダー等にて焙煎する直火方式、ジャケットに生蒸気を入れて加熱するジャケット加熱方式、釜に直接電磁波を当てて加熱するIH加熱方式等の伝熱加熱方式が一般的である。これらの加熱方式は一般的に加熱時間が短くて済むため経済的であるが、香辛料を焙煎する際に、均一に加熱することが困難であるため局所的に温度上昇が激しくなり、結果として焦げが発生するなどの問題がある。一方近年、遠赤外線ヒーターによって加熱する遠赤外線加熱が、コーヒー、お茶などの焙煎、あるいは自動車の塗装の加熱乾燥に利用されている。この遠赤外線による加熱は、直接物体に作用して熱運動を起こさせるため、香辛料全体を均一にじっくりと加熱することができ、しかも通常の伝熱加熱方式の際にしばしば認められる「焦げ」の発生による風味低下も抑制することができるので、香辛料本来の香味成分を引出し、香り高く、深みのあるカレー粉を製造する点でより好ましく使用できる。遠赤外線による加熱方法については、遠赤外線ヒーター(例:東リツ株式会社製、パイプ状遠赤外線ヒーターユニット)をニーダーの開口部に取り付けて上部から加熱する方法、遠赤外線セラミックオーブン(例:株式会社久電舎製、ベーカリー用固定オーブン、型番MCXS6−3W)によって上下から同時に加熱する方法などが挙げられる。
【0019】
遠赤外線による加熱条件としては、一気に達温まで加熱するのではなく、例えば、55〜65℃に加熱後、2〜20分間維持し、その後達温(例えば75℃)まで加熱することが好ましい。この加熱方法によれば、さらに香辛料の風味がまろやかになり、熟成感のあるカレー粉としやすい。
【0020】
尚、焙煎によって得られた香辛料混合物を酸素透過度の低い袋にいれて密封した後、例えば25℃にて3ヶ月間程度保存し、本発明で使用する原料香辛料とすることも可能である。また、本発明の製造方法を用いて製造したカレー粉を、酸素透過度の低い袋にいれて密封した後、例えば25℃にて、3ヶ月間程度保存して、カレー粉として使用することも可能である。これらの場合、更に熟成感の高いカレー粉とすることが可能であるが、一方でその分だけ生産性が劣ることとなりやすいので、保存操作を併用する際には、どの様な熟成感と生産性のバランスとすべきかを考えて各保存期間を設定することが好ましい。
【0021】
本発明のカレー粉は、カレーソース、カレーピラフ、カレー炒飯、カレーうどん、カレー焼きソバ、カレーピザ、あるいは、カレーパン、ピロシキ等ベーカリーの具材(フィリング材)等の幅広いカレー関連商品用途に用いられる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0023】
(実施例1〜32)
表1に示した香辛料組成(単に組成を示すのみで、粒子の大きさを規定するものではない)の”香辛料1〜3”を、表2に示した条件により、焙煎、更にスタンプミルで搗き、カレー粉を製造した。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

即ち、予め粉砕した香辛料を混合し、次に焙煎を行った。焙煎方法を大きく分けて2水準とし、実施例1〜14、20〜25、29〜32では、”1.遠赤外線セラミックオーブンによる焙煎”、実施例15〜19、26〜28では、”2.平釜によるガス直火焙煎”とし、達温温度を75℃とした。”1.遠赤外線セラミックオーブンによる焙煎”については、焙煎条件を2水準とし、実施例1〜7、20〜22は、”A.75℃達温後5分”、実施例8〜14、23〜25、29〜32では、”B.60℃達温10分後、75℃達温”とした。荒熱をとった後、約1週間予備熟成を行い、その後、実施例1〜19、29〜32はスタンプミルのつぼ部分が石でできたもの(石臼)を使用し、実施例20〜28ではスタンプミルのつぼ部分が鉄でできたものを使用した(搗く頻度は、何れも1分間に60回の割合とした。)。尚、各実施例において、原料の香辛料組成物をスタンプミルに投入した際の香辛料組成物の篩パス比率を、表2に示した。また、スタンプミルにてそれぞれ5、10、20、30、60、90、120分間処理を行った。それを酸素透過度の低いポリ袋に入れて密封し、本発明のカレー粉を得た。
【0026】
(比較例)
比較例1、8は遠赤外線セラミックオーブンを用い、特に比較例1は”A.75℃達温後5分”の条件、比較例8は”B.60℃達温10分後、75℃達温”の条件で焙煎を行った。一方、比較例3、4、9では平釜によるガス直火焙煎で、達温温度を75℃とした。また、比較例2、5、6、7では焙煎を行わなかった。
【0027】
一方、比較例1〜3、7〜9はスタンプミルによる処理を行わなかった。また、比較例5、6ではスタンプミルのつぼ部分が石でできたものを使用し、比較例4ではスタンプミルのつぼ部分が鉄でできたものを使用した。即ち、各比較例は、表2に示した条件で各処理を行い、その後酸素透過度の低いポリ袋に入れて密封し、比較例のカレー粉を得た。
【0028】
また、比較例10については、香辛料1を構成する各香辛料を個別に遠赤外線セラミックオーブンを用いて”A.75℃達温後5分”の条件で焙煎し、更に個別のままスタンプミルに投入して搗いた後、これらを混合して評価を行った。比較例10の他の条件は、実施例2と同一とした。
【0029】
尚、上記何れの実施例、比較例も、表2に示した所定の篩パス比率(10メッシュパス,30〜50メッシュパス)とする為の粉砕は、ターメリックはパルライザー(冷却ジャケット付き)、黒コショウ、赤唐辛子はロールミル、これら以外の香辛料は冷凍粉砕機(ターボミル)を用いて行った。
【0030】
上記実施例、比較例で得たそれぞれのカレー粉について官能評価を行い、表3の結果を得た。官能評価に際しては、得られたカレー粉1gを耐熱性のガラス容器に入れ、そこへ沸騰させた水200gを加えて攪拌し、5分間放置後に香り、味について、熟練したパネラー10人によって10点満点で官能評価を行い、平均点を算出して評価点とし、表3に記載した。その際の評価基準はそれぞれ以下の通りである。
【表3】

【0031】
<香りの評価基準>
10点:非常に香り高く、しかもまとまった感じで良い(非常に熟成感がある),8点:香り高く、しかもまとまった感じで良い(熟成感がある),6点:香りはそこそこあり、ややまとまっている(やや熟成感がある),4点:香りはやや弱く、ばらついた感じ(やや熟成感がない),2点:香りが弱く、ばらついた感じ(熟成感がない),0点:香りが非常に弱く、ばらついた感じで物足りない(熟成感が全くない)。
【0032】
<味の評価基準>
10点:非常に味に深みがあり、熟成感があって良い,8点:味に深みがあり、熟成感があって良い,6点:味はそこそこあり、やや熟成感も感じられる,4点:味はやや弱く、熟成感もあまり感じられない,2点:味が弱く、熟成感も感じられない,0点:味が非常に弱く、熟成感も感じられず、物足りない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の香辛料を含み、10メッシュの篩を通過する成分を50%以上含有する香辛料組成物を、スタンプミルを用いて搗く工程を有することを特徴とするカレー粉の製造方法。
【請求項2】
スタンプミルを用いて搗く時間が10分以上、90分以下であることを特徴とする、請求項1に記載のカレー粉の製造方法。
【請求項3】
スタンプミルを搗く頻度が1分間に10〜80回であることを特徴とする、請求項1又は2の何れか1項に記載のカレー粉の製造方法。
【請求項4】
石つぼ式のスタンプミルを用いることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のカレー粉の製造方法。
【請求項5】
スタンプミルを用いて搗く工程より前に、焙煎工程を有することを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載のカレー粉の製造方法。
【請求項6】
焙煎工程が油脂存在下で行われていることを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載のカレー粉の製造方法。
【請求項7】
焙煎工程が遠赤外線を用いて行われていることを特徴とする、請求項1〜6の何れか1項に記載のカレー粉の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載のカレー粉の製造方法を用いて製造したことを特徴とする、カレー粉。