説明

カーブミラー設置のためのシミュレーション方法及び装置

【課題】
実際の交差点のカーブミラー設置前に、ディスプレー上に設置する交差点環境を再現し、指定位置にカーブミラーを設置し、視認性を良好とすべく、設置位置や設置高、角度(水平角、俯角)を検証しておくことで、実際の交差点での実際のカーブミラーの設置の迅速化を図ること。
【解決手段】
カーブミラー設置のためのシミュレーション方法は、ディスプレー上に交差点を再現する工程と、その交差点内所定の水平位置にカーブミラーを設置する工程と、所定の高さに設置する工程と、カーブミラーの俯角を所定角に、水平角も所定角とする工程と、従道路を走行する車両から主道路内の状況を鏡面内反射像を見て、所定の視認距離を有する、死角がない、中心に道路が映るようにカーブミラー本体の水平位置、高さ、水平角及び俯角を調節する工程を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、見通しの悪い道路などに設置するカーブミラー(道路反射鏡)を実際に設置する交差点の交差点環境をディスプレー上に作り、カーブミラーの設置状態を検討するシミュレーション方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
見通しの悪い道路などに設置するカーブミラーは、実際の現場で設置され、その所で調整されるのが一般的である。実際の現場での調整は、道路の条件から交差点環境は個々に異なり、設置者の長年の経験に基づいて行われていた。また自動車の往来もあり、カーブミラー設置位置、高さ、水平角、俯角の調整のため、ミラーと対面して目視しなければならず、道路に入るため、危険も伴っていた。
【0003】
カーブミラーの設置は、道路反射鏡設置指針(非特許文献1)、道路反射鏡ハンドブック(非特許文献2)にのっとって行われるが、実際の現場での設置例を検証してみると、視認性が劣悪なものも多く、そのような交差点では、交通事故も多発していた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】道路反射鏡設置指針昭和55年12月発行 社団法人 日本道路協会
【非特許文献2】道路反射鏡ハンドブック平成13年4月発行 社団法人 全国道路標識標示業協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カーブミラーは、単路部や交差点部に設置され、前記交差点部では、主道路と従道路との交差点で、十字交差点にあっては、従道路(非優先道路)上の車両が主道路(優先道路)の走行の車両等を視認できるように、従道路の車両から見て
左前方の主道路と従道路の角に設けられている。またT字型交差点にあっては、従道路の正面の主道路の反従道路側に設けられている。ここに言う、視認性が良好とは、1.ミラーの中央に道路が映る、2.ミラー反射像に死角がない、3.視認距離が長い、視認性3条件を持つものを言っている。前述したように、交差点(無信号の交差点)における視環境の改善は、視認性の向上(良好)にあると考えられる。
【0006】
このため、この発明は、交差点の視認性の向上のために、実際の交差点のカーブミラー設置前に、ディスプレー上に設置する交差点環境を再現し、所定の水平位置及び高さにカーブミラーを設置し、角度(水平角、俯角)を検証しておくことで、実際の交差点での設置を迅速且つ正確に行われ、新たなる設置のみならず、補修工事をする際に、最小限の交通阻害ですむカーブミラー設置のためのシミュレーション方法及び装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るカーブミラー設置のためのシミュレーション方法は、ディスプレー上に主道路と従道路との交差点環境を再現する工程と、その交差点内の所定の水平位置にカーブミラーを配置する工程と、前記カーブミラーを所定の高さに、そして俯角を所定角に、カーブミラーの正面を交差点中心方向に向けて所定の水平角に設置する工程と、従道路にあり、交差点にさしかかった車両を仮想し、その車両から主道路内の状況を鏡面内反射像を見て、中心に道路が映る、所定の視認距離を有する、死角がないようにカーブミラーの水平位置、高さ、水平角及び俯角を調節する工程とを持つことを特徴としている(請求項1)。
【0008】
これにより、カーブミラーを実際の交差点内への設置より先に、ディスプレー上に再現された交差点環境内でカーブミラーを設置し、水平位置、高さ、水平角、俯角を検証する。少なくとも視認性3条件を満足させるものとなるように調節する。ここで得られたカーブミラーの水平位置、高さ、水平角、俯角に基づき、カーブミラーの実際の交差点内への設置が迅速、かつ正確に行われる。
【0009】
交差点及びこの交差点を構成する主道路と従道路との少なくとも主道路に距離の目安を表示する工程を持つことが好ましい(請求項2)。これにより、鏡面内に映る道路が所定の長さの距離を有することがただちに確認できる。そして、距離の目安として路面模様とする例が示され(請求項3)、この路面模様から所定の視認距離がただちに認識しやすい(請求項4)。
【0010】
前記カーブミラーを設定する工程において、交差点にその角又は隅切りを基準に長方形を描いて対角線を引き、その対角線上に設けられるようにしても良い(請求項5)。これにより、カーブミラーの設置のための交差点の水平位置が出し易く、そこからの修正が容易となる。
【0011】
この発明のカーブミラー設置のためのシミュレーション装置は、ディスプレー上に主道路と従道路との交差点環境を再現する手段と、その交差点内の所定の水平位置に、カーブミラーを設置する手段と、前記カーブミラーの本体の下端高を所定の長さに、そして俯角を所定角に、カーブミラーの正面を交差点中心方向に
向けて所定の水平角に設置する手段と、従道路にあり、交差点にさしかかった車両を仮想し、その車両から主道路内の状況を鏡面内反射像を見て、中心に道路が映る死角がない、所定の視認距離を有するようにカーブミラー本体の水平角及び俯角を調節する手段とを具備することを特徴とする(請求項6)。この装置の発明として、前述したカーブミラーを実際の交差点内への設置より先に、ディスプレー上に再現された交差点環境内にカーブミラーを設置し、水平位置、高さ、水平角、俯角を検証する。これにより、実際の交差点内への設置が迅速かつ正確に行うことができる。
【0012】
前記交差点及び交差点を構成する主道路と従道路との少なくとも主道路に、距離の目安を表す路面模様を表示することが好ましい(請求項7)。これにより、鏡面内に映る道路が所定の長さの距離を持つことが視認される。
【0013】
カーブミラーは、カーブミラー本体とポールとより成り(請求項8)、この例では、カーブミラー本体の下端高は2500mmとなっている。また、カーブミラーの俯角は、0度から90度未満としている(請求項9)。初期設定時には、俯角を7度程としている。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、請求項1の発明によれば、カーブミラーの実際の交差点内への設置より先に、ディスプレー上に再現された交差点環境内でカーブミラーを設置し、視認性3条件を満足させるものとなるように水平位置、高さ、水平角、俯角を調節する。ここで得られたカーブミラーの設置位置における水平位置、高さ、水平角、俯角に基づき実際の交差点への実際のカーブミラーの設置が行われ、視認性良好なカーブミラーの設置が迅速、かつ正確に行うことができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、鏡面内に映る道路に目安があり、所定の長さの距離を有することが容易に確認できる。請求項3の発明によれば、目安が路面模様であり、路面模様間隔が10mとすれば請求項4の発明の所定の視認距離である安全性を確保するのに必要な距離をただちに認識できる。
【0016】
請求項5の発明によれば、カーブミラーの設定工程において、交差点に対角線を引いて、その対角線上に設ければ、カーブミラーの設定のための交差点の水平位置が出し易く、そこからの修正が容易となる利点を有する。
【0017】
請求項6の発明によれば、装置の発明として、カーブミラーを実際の交差点内への設置より先に、ディスプレー上に再現された交差点環境内にカーブミラーを設置し、水平位置、高さ、水平角、俯角を検証し、この検証結果を基に実際の交差点内への設置が迅速かつ正確に行われる。請求項7の発明によれば、交差点や道路に距離の目安となる路面模様を表示することから、鏡面に映る道路の距離がただちに認識される利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】はコンピュータを用いディスプレー上に交差点環境を再現した画面を印刷した図である。
【図2】同上再現の交差点に設置されたカーブミラーの鏡像の画面を印刷した図である。
【図3】実際の交差点にシミュレーションに基づいて得られた情報を基に設置された実際のカーブミラーの鏡像の写真である。
【図4】再現の交差点にカーブミラーを設置するためのフローチャート。
【図5】コンピュータを用いた交差点(実測描画)の平面画面を印刷した図である。
【図6】同上の交差点内にカーブミラー設置位置を得るための初期設定画面である。
【図7】再現の交差点に設置したカーブミラーの鏡像の画面を印刷した図である。
【図8】実際の交差点にシミュレーションに基づいて得られた情報を基に設定された実際のカーブミラーの鏡像の写真である。
【図9】再現の交差点に設置したカーブミラーの鏡像の画面を印刷した図で、俯角10度、水平角119度である。
【図10】再現の交差点に設置したカーブミラーの鏡像の画面を印刷した図で、俯角11度、水平角119度である。
【図11】11a,11bは実際のカーブミラーの正面図及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
図1は、実際の交差点の情報を基に、コンピュータで作られ、ディスプレー上に映された交差点環境再現で、市販の3次元CGソフトウエアを利用して作られ、主道路(優先道路)が右上方から左下方へ、それに直交する従道路(非優先道路)が横方向に表されている。そして主道路と従道路に横断歩道が、それから交差点の周囲の建物などが忠実に表されている。そして、従道路にあって左前方の主従道路の角にカーブミラー1が設置されている。
【0021】
右側の従道路上に車両2が走行し、交差点に差し掛かって、いまにも入ろうとする状態であると共に、上側の主道路上に停止線前まで走行の車両3とその50m後方に交差点方向に走行している車両4が見える。このような交差点状況が車両2からは、建物5の影になり主道路上の車両3及び車両4は直接見ることはできない。しかし、この交差点には、カーブミラー1が設置されているので、このカーブミラーから鏡面内反射像(以下鏡像という。)を見て、図2に示すように2台の車両3、4があることが確認できる。なお、鏡像は3次元CGソフトウエアにより作り出すことができる。
【0022】
コンピュータにより作り出されているカーブミラー1の鏡像は、図2に車両3、4が2台共に映し出され、安全を確保するのに必要な距離である60mぐらいの距離まで見えている。このカーブミラー1の水平位置(設定位置)や、高さ、水平角、俯角と同じ条件を基に実際の交差点に実際のカーブミラー1´を設置した例におけるカーブミラー1´の鏡像(図3)で、コンピュータ上のカーブミラーとほぼ同一のカーブミラー鏡像即ち車両3,4が映し出されている。これにより、カーブミラーの設置が迅速、かつ正確に行われる。
【0023】
ここで用いられる実際のカーブミラー1´は、図11a,図11bに示すように、凸面鏡のカーブミラー本体1aと、これを支えるポール1bとより成り、カーブミラー本体1aの上下方向の高さ、左右方向の水平角、俯角は自由に動かされる構造である。カーブミラー本体1aは、一般使用はその下端高が2500mm程となってポール1bに取付られている。カーブミラー本体1aの直径は600mmや800mmがあるが、視認性の点から800mmの方が好ましい。
【0024】
図4はカーブミラーを設置するためのフローチャートが示され、ステップ101において、コンピュータに予めインストールされた3次元CGソフトウエア(市販品)を用いて、設置する実際の交差点環境に沿って再現する。交差点の道路形状・諸元、車両、シミュレーション対象以外のカーブミラー、路面表示、横断歩道の位置、道路の優先関係(優先道路(主道路)、非優先道路(従道路))、そして交差点を囲む建築物など忠実に入力する。図5に示すように3次元CGソフトを用いた交差点がディスプレー上に表される。
【0025】
ステップ102において、再現された交差点の平面図(図5)にカーブミラーを設置するため、たとえば、図6に示すようなミラー初期設定画面上の交差点に対角線を引く。その作業はまず交差点の角又は隅切りを基準に長方形を描く。それから、その長方形を利用して対角線を引く。それから対角線上にカーブミラー1を記入する。
【0026】
ステップ103において、図1の再現された交差点の対角線上にカーブミラー1が設置されるものであるが、従道路10上を走行する車両2が主道路20を横切って走行するのを助けるため、カーブミラー1は主道路上を走行する車両3,4等を視認できるように、従道路10の車両2から見て左前方の主道路20と従道路10との角に設けられている。
【0027】
ステップ104のようにして、カーブミラー1は、再現された交差点に設置され、それから、ステップ105に進み、例えば図7に示すように、カーブミラー1の鏡像を見て視認性3条件を具備するように調節する。視認性の3条件とは、1.ミラーの中央に道路が映ること、2.ミラー像に電柱などで死角がないこと、3.所定の視認距離を有すること、である。この調節により、カーブミラーの水平位置、高さ、水平角、俯角が適宜選択され、交差点内で最適なカーブミラー位置が設定され、完了する(ステップ106)。
【0028】
これにより、前記カーブミラーの中央に主道路10が映り、図7にあるように、
距離の目安となる路面模様が付されていて、それらの目安路面模様は、10m単位となっている。したがって、好ましい視認距離はただちに判別できる。さらに、この場合、俯角は、10度が最適で、1度の相違でも10m程の差となって表れている。これは、図9、図10に示されている。このような視認性の変化として表れるから、調節は慎重にする必要がある。
【0029】
図7は、このシミュレーション上のカーブミラーの設置された状態の鏡像、図8はシミュレーションに基づいて得られた情報を基に実際の交差点に実際のカーブミラー1´が設置された状態の鏡像をそれぞれ表しているが、ほぼ同一の鏡像となっている。即ち、シミュレーションにより得られた情報が効果的であることが確認された。
【0030】
実際のカーブミラー1´が実際の交差点に設置される際に、カーブミラーの中心が交差点の中心に向けて設定しなければならないが、凸面鏡であるため難しいので、カーブミラーの中心にマーク8(図8に示す)を付することで、カーブミラーの中心に見る者の顔が中心に映れば、その者にカーブミラーが正対していることが分かり、カーブミラーの方向が確認できる。これにより水平角の設定が容易となる。
【符号の説明】
【0031】
1 カーブミラー
1´ 実際のカーブミラー
1a カーブミラー本体
1b ポール
2,3,4 車両
5 建物
8 マーク
10 従道路
20 主道路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスプレー上に主道路と従道路との交差点環境を再現する工程と、その交差点内の所定の水平位置にカーブミラーを設置する工程と、
前記カーブミラーを所定の高さに、そして俯角を所定角に、カーブミラーの正面を交差点中心方向に向けて所定の水平角に設置する工程と、
従道路にあり、交差点にさしかかった車両を仮想し、その車両から主道路内の状況を鏡面内反射像を見て、中心に道路が映る、所定の視認距離を有する、死角がないようにカーブミラーの水平位置、高さ、水平角及び俯角を調節する工程とを持つことを特徴とするカーブミラー設置のためのシミュレーション方法。
【請求項2】
前記交差点及びこの交差点を構成する主道路と従道路との少なくとも主道路に、距離の目安を表示する工程を持つことを特徴とする請求項1記載のカーブミラー設置のためのシミュレーション方法。
【請求項3】
前記交差点及びこの交差点を構成する主道路と従道路との少なくとも主道路に距離の目安を表示する工程において、所定の間隔の路面模様を付することを特徴とする請求項2記載のカーブミラー設置のためのシミュレーション方法。
【請求項4】
前記所定の視認距離は、距離感を支援する路面模様から得られることを特徴とする請求項1又は3記載のカーブミラー設置のためのシミュレーション方法。
【請求項5】
前記カーブミラーを設置する工程において、交差点にその角又は隅切りを基準に長方形を描いて対角線を引き、その対角線上に設けたことを特徴とする請求項1記載のカーブミラー設置のためのシミュレーション方法。
【請求項6】
ディスプレー上に主道路と従道路との交差点環境を再現する手段と、その交差点内の所定の水平位置にカーブミラーを設置する手段と、
前記カーブミラーを所定の高さに、そして俯角を所定角に、カーブミラーの正面を交差点中心方向に向けて所定の水平角に設置する手段と、
従道路にあり、交差点にさしかかった車両を仮想し、その車両から主道路内の状況を鏡面内反射像を見て、中心に道路が映る、所定の視認距離を有する、死角がないようにカーブミラーの水平位置、高さ、水平角及び俯角を調節する手段を具備することを特徴とするカーブミラー設置のためのシミュレーション装置。
【請求項7】
前記交差点及びこの交差点を構成する主道路と従道路との少なくとも主道路に距離の目安の路面模様を表示することを特徴とする請求項6記載のカーブミラー設置のためのシミュレーション装置。
【請求項8】
前記カーブミラーは、カーブミラー本体とポールとより成ることを特徴とする請求項6記載のカーブミラー設置のためのシミュレーション装置。
【請求項9】
前記俯角を初期設定時に0度以上90度未満とすることを特徴とする請求項6記載のカーブミラー設置のためのシミュレーション装置。

【図4】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−277283(P2010−277283A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128288(P2009−128288)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年11月29日 一般社団法人日本人間工学会発行の「2008年度 日本人間工学会・関東支部第38回大会 卒業研究発表会 講演集」に発表
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【Fターム(参考)】