説明

カーペット、それに用いる繊維質バッキング並びにズレ防止性を有する編物又は織物

【課題】軽く、吸音性に優れ、しかも滑り難いカーペット、それに用いる繊維質バッキング並びにズレ防止性を有する編物又は織物を提供すること。
【解決手段】繊維基材205の裏面側に繊維質バッキング406を形成したカーペットであって、前記繊維質バッキング406の裏面側に、表面と裏面とを有する縦編み横糸挿入編物の前記表面と裏面とを接続するループ状縦糸をカットした編物409が一体化されており、前記編物409のループ状縦糸のカット端410が、該カーペットを敷設する床面を係止する係止部として該編物409の表面から突出していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車や列車、航空機などの乗り物の床面に敷設されるカーペットやマット、建物の室内や廊下の床面に敷設されるカーペットやマット、コンピュータのオペレーション用チェアマット、部屋の出入口に敷設される床面用マット、エレベータ内やエレベータホールの開閉扉前に敷設される床面用マット、玄関マットなどに適用されるカーペット、それに用いる繊維質バッキング並びにズレ防止性を有する編物又は織物に関する。詳細には優れたズレ防止性を有すると共に軽く、しかも吸音性に優れるカーペット、それに用いる繊維質バッキング並びにズレ防止性を有する編物又は織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車床面や建物床面に敷設されるカーペット11の多くは、図5に示すように、フェルトや不織布などの繊維シート12にパイル糸13を打ち込むと共に、前記パイル糸13の抜け止めのためにプレコート層14を設けた繊維基材15と、この繊維基材15裏面に形成したバッキング16とから構成されていた。
【0003】
ところが近年、カーペット、特には自動車床面に敷設されるカーペットにおいては、自動車のハイブリッド化に伴い、軽量化、低コスト化が求められるようになってきている。その他の建物などの分野においても、省資源、省エネルギー化の流れの中で、カーペットに対する軽量化、低コスト化の克服は、大変に重要な課題となっている。
【0004】
一方、快適性の要求の高まりの中で、自動車内や建物内の静粛性に対する要求もあり、自動車床面や建物床面に敷設されるカーペットに対しても、そのような性能が求められるようになった。
【0005】
しかしながら従来のカーペット11にあっては、繊維基材15裏面に形成されているバッキング16が、ポリ塩化ビニルなどの未発砲の合成樹脂層からなるので重く、しかも該バッキング16は音の透過を遮断する遮音層として作用するので、自動車内や建物内に伝播まはた発生して当該カーペット11に衝突した騒音は、前記バッキング16に跳ね返されてしまい、室内に反響してしまうという欠点があった。
【0006】
そこで本発明者は、このような事情に鑑み、軽く、しかも吸音性に優れるカーペットを特許文献1において提案している。このカーペット101は、図6に示すように繊維基材105の裏面側に繊維質シート107を樹脂成分108で固めた繊維質バッキング106を形成したことを特徴とするものである。
【0007】
ところがこのカーペット101は、裏面が繊維質バッキング106からなるので突掛かりがなく滑りやすいという不具合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−19067号公報 (特願2001−206608号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、先に提案した特許文献1に記載の軽く、しかも吸音性に優れるカーペットをさらに改良したものであり、軽く、吸音性に優れ、しかも滑り難いカーペット、それに用いる繊維質バッキング並びにズレ防止性を有する編物又は織物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、厚み方向に向く糸を有する編物又は織物を備えたカーペットであって、前記編物又は織物の糸をカットすることで、そのカット端が床面を係止する係止部として前記編物又は織物の表面から突出していることを特徴とするカーペットをその要旨とした。
【0011】
請求項2に記載の発明は、カーペットの繊維基材裏面側に設けられる繊維質バッキングであって、該繊維質バッキングの一面に厚み方向に向く糸を有する編物又は織物が一体化されており、前記編物又は織物の糸をカットすることで、そのカット端が床面を係止する係止部として前記編物又は織物の表面から突出していることを特徴とする繊維質バッキングをその要旨とした。
【0012】
請求項3に記載の発明は、カーペットの裏面側に設けられるズレ防止性を有する編物又は織物であって、該編物又は織物は厚み方向に向く糸を有しており、前記糸をカットすることで、そのカット端が床面を係止する係止部として該編物又は織物の表面から突出していることを特徴とする編物又は織物をその要旨とした。
【発明の効果】
【0013】
本発明のカーペット401は、そのバッキングが繊維質バッキング406からなるので、従来の未発泡樹脂層からなるバッキングに比べて大幅に重量とコストを削減できるようになっている。
【0014】
またこのカーぺット401にあっては、繊維質バッキング406を採用しているので、自動車内や建物内に伝播または発生して当該カーペット401に衝突した騒音は、前記繊維質バッキング406に吸収除去され、跳ね返されて室内に反響してしまうことはない。
【0015】
さらにこのカーペット401は、繊維質バッキング206の裏面側に一体化された編物409や織物を構成する糸410のカット端が該編物409や織物の表面に突出していて、これが床面に引っ掛かって滑り難くなっている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のカーペットの別形態を示す要部拡大断面図。
【図2】図1に示すカーペットの製造過程を示す要部拡大断面図。
【図3】図1に示すカーペットの製造過程を示す要部拡大断面図。
【図4】図1に示すカーペットの製造過程を示す要部拡大断面図。
【図5】従来のカーペットを示す要部拡大断面図。
【図6】従来のカーペットの別例を示す要部拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を図面に示した実施の形態に従って説明する。図1〜図4に示すように、本発明のカーぺット401は、繊維基材205と繊維質バッキング406とを有している。繊維基材205は、不織布、紙、布、フェルトあるいはこれらの複合物からなる繊維シート202にパイル糸203を所定のボリュームで略U字状となるように打ち込み、抜け止めのためのプレコート204を施したものである。尚、本発明における繊維基材205は、パイル糸203を打ち込まない繊維シート202のみからなる形態を採ることもできる。
【0018】
繊維基材205を構成する繊維シート202には、例えばチタン、セリウム、亜鉛、銅といった光触媒粒子表面をフッ素系多孔質層で被覆した抗菌性防臭粒子を繊維表面に付着させた抗菌性防臭繊維を含ませたもの、あるいは従来公知の抗菌剤をバインダーと共にシートの構成繊維表面に塗布または散布して付着させたものを用いることができる。この場合、繊維基材205は抗菌性を有するようになり、室内の悪臭を効率よく吸収しこれを分解または吸着除去するようになる。
【0019】
また、繊維基材205を構成する繊維シート202には、導電性繊維を含んでいて静電気の空中放電機能を有する放電紙を積層すると共に、これら放電紙と繊維シート202の積層物に導電性繊維を含むパイル糸203を略U字状となるように打ち込んでなる繊維基材205を用いることもできる。
【0020】
この場合、人がカーペット201に接触したとき、パイル糸203に含まれる導電性繊維が人体に帯電した静電気を瞬時にカーペット201側へと導き、カーペット201内の放電紙によって空中放電されるようになる。また、静電気の一部は、放電紙を経由してパイル糸201に含まれる導電性繊維を通じて空中放電されるようになっている。
【0021】
尚、上記放電紙及びパイル糸203に含まれる導電性繊維としては、特に限定されず、例えば炭素繊維、金属繊維、導電性セラミック繊維などの無機繊維、合成繊維を主材とし、この繊維表面に銅や銀、アルミニウムなどの金属をメッキしたメッキ繊維、繊維表面に銅や銀、アルミニウムなどの金属を練り込んだもの、あるいは繊維成分中に導電性を有する樹脂を含ませた繊維などを挙げることができる。
【0022】
図1〜図4に示す例では、繊維基材205と後述する繊維質バッキング406との間に、両者を接着する接着剤として機能する熱接着性繊維層209が設けられている。
【0023】
熱接着性繊維層209は、通気性を確保しながら、しかも前記繊維基材205と繊維質バッキング406とを接合する機能を有する。この繊維層209を構成する熱接着性繊維としては、例えば高融点重合体を芯成分、低融点重合体を鞘成分に配した芯鞘型複合繊維からなるものを好ましいものとして挙げることができる。特に、高融点重合体の融点と低融点重合体の融点との差が15℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがさらに好ましい。高融点重合体/低融点重合体の組み合わせとしては、ポリエステル/ポリオレフィン、高融点ポリエステル/低融点ポリエステル、ポリアミド/ポリオレフィン、高融点ポリアミド/低融点ポリアミド、ポリプロピレン/ポリエチレン、高融点ポリエチレン/低融点ポリエチレン等が挙げられる。
【0024】
繊維質バッキング406には、繊維質シート407を樹脂成分408で固めたものを用いることができる。繊維質シート407は、不織布、紙、布、フェルトあるいはこれらの複合物からなる。この繊維質シート407はそれ単独では柔らかく、腰が無いので、バッキングとして所定の硬さを確保するため、樹脂成分408で固められているのである。
【0025】
樹脂成分408としては、前記繊維層409を構成する熱接着性繊維の熱溶融物であったり、繊維質シート407の構成繊維として熱接着性繊維を含ませて、これを熱溶融させた熱溶融物であったり、或いは両方であってもよい。
【0026】
繊維質シート407の構成繊維として含まれる熱接着性繊維としては、熱接着性繊維層209と同じものが好ましい。
【0027】
また別の樹脂成分408としては、繊維質シート407の構成繊維中にホットメルト樹脂を含ませておき、これを熱溶融させた熱溶融物であってもよい。ホットメルト樹脂としては、ポリアミド系ホットメルト樹脂、ポリスチレン系ホットメルト樹脂、ポリエチレン系ホットメルト樹脂、EVA系ホットメルト樹脂などを好適に使用できる。このホットメルト樹脂は、繊維質シート407に塗布または含浸することで含ませることができる。
【0028】
前述の樹脂成分としての熱溶融物は、いずれも繊維質シート407に所定の硬さを付与するためのものであり、また繊維質バッキング406には、構成繊維間及び構成繊維と熱溶融物との間に隙間が存在している。
【0029】
このため、自動車内や建物内に伝播または発生して当該カーペット401に衝突した騒音は、前述の繊維基材205を通過し、さらに繊維質バッキング406を通過する過程、すなわち、繊維質バッキング406の構成繊維間及び構成繊維と熱溶融物との間の隙間を通過する過程で、構成繊維及び熱溶融物に衝突し、ここで摩擦熱としてエネルギー変換されて吸収除去されようになっている。
【0030】
図1〜図4に示す形態において繊維質バッキング406の裏面側には、表面と裏面とを有する縦編み横糸挿入編物(図示しない)の前記表面と裏面とを接続するループ状縦糸410をカットした編物409が一体化されており、前記縦糸410のカット端が係止部として繊維質バッキング406裏面側に突出しているのである。尚、この例における縦糸410には、太く硬めの単繊維を用いているが、これに限らず、マルチフィラメントを用いてもよい。
【0031】
図1に示す繊維質バッキング406は、まず図2に示すように、縦編み横糸挿入編物(図示しない)の前記表面と裏面とを接続するループ状縦糸410をカットした編物409を熱接着性繊維を含む繊維質シート407に積層し、次いで、これを水流、空気流あるいは針を用いて絡合処理することで、図3に示すように繊維質シート407の構成繊維並びに繊維質シート407に含まれる熱接着性繊維が編物409と絡み合い、両者は一体化される。
【0032】
その上で加熱処理することで図4に示すように繊維質シート407に含まれる熱接着性繊維が熱融着して樹脂成分408となり繊維質シート407が固められて繊維質バッキング406となると共に、編物409と絡み合う熱接着性繊維も同様に熱融着して樹脂成分408となり、両者の一体性を高める。また編物409のカットされた縦糸410も樹脂成分408でその基部(根本部分)が固められ、縦糸410のカット端の強度も高くなり、床面へのくみ込み性、ズレ防止性も向上することになる。
【0033】
また、図1に示す編物に代えて、繊維質バッキングの裏面側に、二重織物を表織物と裏織物とに分離した織物の表織物又は裏織物を一体化してもよい。この場合、前記表織物又は裏織物を構成する糸のカット端が係止部として繊維質バッキング裏面側に突出することになる。
【0034】
また、図1に示す編物に代えて、繊維質バッキングの裏面側に、パイル織物のループ(よこ糸)をカットした織物を一体化してもよい。この場合、前記織物のループ(よこ糸)のカット端が係止部として繊維質バッキング裏面側に突出することになる。
【0035】
尚、図1に示す形態、または上記2例について、例えば編物、二重織物、パイル織物に、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリウレタン系、ポリ尿素系などの熱硬化性樹脂を含浸または塗布し、これを加熱して硬化処理することで、係止部として機能するカットされた糸の硬さ、強度を高くし、該糸のカット端の床面へのくみ込み性、ズレ防止性を改良することもできる。
【0036】
尚、本発明のカーペットは、熱接着性繊維層209と繊維基材205との間に連続気泡型の発泡樹脂層を設けて吸音性を高めるようにすることもできる。発泡樹脂層を構成する樹脂としては、例えば前述のポリアミド系ホットメルト樹脂、ポリスチレン系ホットメルト樹脂、ポリエチレン系ホットメルト樹脂、EVA系ホットメルト樹脂などのホットメルト樹脂に発泡剤を添加したりガスを吹き込むことで発泡させたものが好ましい。
【符号の説明】
【0037】
205・・・繊維基材
406・・・繊維質バッキング
407・・・繊維質シート
407・・・樹脂成分
209・・・熱接着性繊維層
409・・・編物
410・・・縦糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に向く糸を有する編物又は織物を備えたカーペットであって、
前記編物又は織物の糸をカットすることで、そのカット端が床面を係止する係止部として前記編物又は織物の表面から突出していることを特徴とするカーペット。
【請求項2】
カーペットの繊維基材裏面側に設けられる繊維質バッキングであって、
該繊維質バッキングの一面に厚み方向に向く糸を有する編物又は織物が一体化されており、前記編物又は織物の糸をカットすることで、そのカット端が床面を係止する係止部として前記編物又は織物の表面から突出していることを特徴とする繊維質バッキング。
【請求項3】
カーペットの裏面側に設けられるズレ防止性を有する編物又は織物であって、
該編物又は織物は厚み方向に向く糸を有しており、前記糸をカットすることで、そのカット端が床面を係止する係止部として該編物又は織物の表面から突出していることを特徴とする編物又は織物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−120926(P2011−120926A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7494(P2011−7494)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【分割の表示】特願2010−93843(P2010−93843)の分割
【原出願日】平成13年8月3日(2001.8.3)
【出願人】(000149664)株式会社大和 (35)
【出願人】(592083993)株式会社八千代 (34)
【出願人】(592084004)株式会社祥永 (34)
【Fターム(参考)】