説明

カーボンストック方法およびカーボンストック用木杭

【課題】長期的に大量のカーボンストックができ、しかも、確実な地盤の改良を行えるカーボンストック方法、および、カーボンストック用木杭の提供。
【解決手段】
排水手段1……,1’……,1”……,6……を備えたカーボンストック用木杭A,B,C,DまたはEを地盤に打設するカーボンストック方法。丸太の側面に排水溝1……,1’……,1”……を形成してなるカーボンストック用木杭

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中のCOを削減するためのカーボンストック方法およびカーボンストック用木杭に関する。
【背景技術】
【0002】
2005年2月に発効した京都議定書において温室効果ガスの排出削減義務が規定されたように、地球環境問題を考える上で大気中の温室効果ガスの削減が緊急の課題となっており、そのために種々の対策がとられているが、そのうち、COの削減に有効な対策の1つとして、森林,海草等を利用してCOの吸収・固定を行うカーボンストック技術がある。
【0003】
図13に、樹木伐採と植林との繰返しを継続した場合の、森林でのCOの炭素としての固定・貯蔵量の増加、すなわちカーボンストック量の増加の様子を示した。
個々の樹木についてみれば、そのカーボンストック量は成長に伴い漸次増加するが(区間a)、老齢化するとそのストック速度は鈍くなる(区間b)。
この時点で伐採すると、その樹木にストックされているカーボンは腐敗の進行あるいは燃焼に伴い大気中に戻る(大気中に戻る平均量は直線cのこう配として表される)が、その腐敗が進行しにくい状態におけば(傾きdを小さくすれば)、カーボンを長い期間ストック状態にしておくことができ結局大気中のCOを削減できることが明らかである。
【0004】
したがって、老齢化してカーボンのストック速度が鈍くなった樹木については、間伐材のみならず主伐材についても積極的に伐採するとともに、ストック速度の速い若い樹木をあらたに植林し森林の若返りを行うことで森林のカーボンストック速度を維持することができる。
一方で、伐採したものを腐敗が進行しにくい状態にして利用することによって、森林および伐採後の樹木全体としての総カーボンストック量を継続的に増大させることができる(区間e,f)。
【0005】
木材は建設材料として古くから利用されているが、水や空気との接触により腐朽し耐力が低下してしまうことや、基礎として使用されている木材が一度腐植するとその補修が難しいことから、現在では構造物基礎本体においてはセメントや鉄が多く用いられるようになっており、森林には伐採期を迎えても利用先が見つからない老齢の樹木が多数存在することになっている。
この森林の老齢化は花粉症の原因にもなっているので、大量の木材を有効利用しつつ、植林を進めて森林の若返りを促進する方策が必要とされているところでもある。
【0006】
そもそも、木材の腐朽は、水・空気・栄養・適温の4条件が揃わなければ進行しないものであるから、地盤中に地下水位以下にして、または水中地盤に打設された木材の腐朽の進行はきわめて遅いものになる。
【0007】
そこで、地下水位が高い軟弱地盤等で建設工事を行う場合に必要となる地盤改良を、木材の打設によって行うこととすれば、そこに打設した木材の腐朽の進行はきわめて遅いので長期的にカーボンストックができるという点で好都合であり、そのうえ腐植の進行が遅いので建設材料としての信頼性も確保される。しかも、その木材の打設は、地盤が軟弱であるので容易に行えるものである。
もちろん、このような地盤に単にカーボンストックを目的に木材を打設してもよい。
【0008】
地盤中に木製の杭を打設する技術としては、特許文献1および2に開示されたいわゆるパイルネット工法等があるが、これは、あくまでも軟弱地盤中にブロック状の土塊を作り地盤を改良することを目的としているもので、カーボンストックを意図したものでもなく、地盤強化に必要最小限の数の杭を打設するものであるから、カーボンストックの効率は必ずしも良くない。
【0009】
【特許文献1】特開昭53−71813号公報
【特許文献2】特公昭60−55648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一方、カーボンストックの効率を上げるため単純に、多数の木材を地盤に対して密に打設しようとすると、杭間地盤の体積が減少し水平応力が増加するが、短期的には、次式で示される有効応力は増加せず、過剰間隙水圧が増加し、結果的にせん断抵抗や液状化抵抗が低下したままの地盤が形成されてしまう。
【0011】
Δσh=Δu+Δσh’
(ここで、Δσh:水平全応力増加分、Δu:過剰間隙水圧、Δσh’:水平有効応力増加分)
【0012】
したがって、木材の打設後早期に過剰間隙水圧を消散させて確実な地盤改良を行うための工夫が必要となっている。
【0013】
そこで、本発明は、長期的に大量のカーボンをストックでき、しかも、確実な地盤の改良をも行えるカーボンストック方法、および、カーボンストック用木杭の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の本発明は、排水手段1……,1’……,1”……,6……を備えたカーボンストック用木杭A,B,C,DまたはEを地盤に打設するカーボンストック方法である。
【0015】
請求項2記載の本発明は、上記カーボンストック用木杭A,B,C,DまたはEを、地下水位以下に位置するように打設する請求項1記載のカーボンストック方法である。
【0016】
請求項3記載の本発明は、上記カーボンストック用木杭A,B,Cが、丸太の側面に排水溝1……,1’……,1”……を形成してなる請求項1または2記載のカーボンストック方法である。
【0017】
請求項4記載の本発明は、上記カーボンストック用木杭Dが、複数本の丸太3……を緊束ワイヤ4……で束ねてなるカーボンストック方法である。
【0018】
請求項5記載の本発明は、上記カーボンストック用木杭Eが、所要本数の丸太7……をその長さ方向に重合した重合丸太8……を複数本、緊束ワイヤ4……で束ねてなるカーボンストック方法である。
【0019】
請求項6記載の本発明は、丸太の側面に排水溝1……,1’……,1”……を形成してなるカーボンストック用木杭である。
【0020】
請求項7記載の本発明は、上記排水溝1……が、当該丸太の軸方向に彫設形成されている請求項6記載のカーボンストック用木杭である。
【0021】
請求項8記載の本発明は、上記排水溝1’……が、螺旋状に彫設形成されている請求項6記載のカーボンストック用木杭である。
【0022】
請求項9記載の本発明は、上記排水溝1”……を、当該丸太の軸方向にキズをつけるとともに、その丸太を気中に放置し乾燥収縮させることで形成した請求項6記載のカーボンストック用木杭である。
【0023】
請求項10記載の本発明は、上記排水溝1……,1’……,1”……にドレーン材を詰めてなる請求項6,7,8または9記載のカーボンストック用木杭である。
【0024】
請求項11記載の本発明は、複数本の丸太3……を緊束ワイヤ4……で束ね、それら各丸太3……の隙間を排水路6……としてなるカーボンストック用木杭である。
【0025】
請求項12記載の本発明は、所要本数の丸太7……をその長さ方向に接合した重合丸太8……を複数本、緊束ワイヤ4……で束ねるとともに、それら各重合丸太8……の隙間を排水路6……としてなるカーボンストック用木杭である。
【0026】
請求項13記載の本発明は、互いに隣接する上記重合丸太8……が、丸太7……の重合部の位置を、長さ方向にずらしている請求項12記載のカーボンストック用木杭である。
【0027】
請求項14記載の本発明は、長さ方向上部の丸太7……を、耐腐植性に優れた材質のものとした請求項12または13記載のカーボンストック用木杭である。
【0028】
請求項15記載の本発明は、上記各丸太3……または各重合丸太8……の下端を覆うように先鋭のボトムキャップ5,9を取り付けてなる請求項11,12,13または14記載のカーボンストック用木杭である。
【0029】
請求項16記載の本発明は、上記丸太に水または樹脂を吸い込ませる飽和化処理を施してなる請求項6,7,8,9,10,11,12,13,14または15記載のカーボンストック用木杭である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、カーボンを地盤中に打設したカーボンストック用木杭に長期的にストックすることにより、大気中のCOを削減し地球温暖化対策とすることができ、しかも、そのカーボンストック用木杭の打設により早期に過剰間隙水圧を消散させて確実な地盤の改良を行うこともできる。
また、従来利用先のなかった大量の木材を使用することができるので、あわせて植林を進めることにより老齢化した森林を若返らせ、花粉症等の問題をも解消しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
排水手段1……,1’……,1”……,6……を備えたカーボンストック用木杭A,B,C,DまたはEを地盤に打設するカーボンストック方法。
【0032】
丸太の側面に排水溝1……,1’……,1”……を形成してなるカーボンストック用木杭。
【実施例1】
【0033】
まず、本発明の実施例1について詳しく説明する。
図8に示したAは、たとえば直径約20cm,長さ約5mの丸太の側面に、深さ約3cmの排水手段たる排水溝1……を8本、その軸方向に全長にわたって彫設形成するとともに、その排水溝1……に、必要に応じて砂,スラグ,木くず等のドレーン材を袋状のドレーン材充填ネット2に充填したものを詰めてなる本発明カーボンストック用木杭(以下、単に「木杭」という。)である。
【0034】
この木杭Aの直径や全長は適宜変更できる。また、その下端は先鋭にするのが好ましい。これにより地盤に貫入させ易いものとなる。この木杭Aは間伐材はもちろん主伐材からも製作できるものである。
上記排水溝1……にはドレーン材を充填したドレーン材充填ネット2を詰めてあるので、当該木杭Aの地盤中への打設時に排水溝1……に土砂が詰まってしまうことが防止される。
【0035】
なお、ドレーン材はドレーン材充填ネット2に充填することなくそのまま排水溝1……に詰めてもよい。また、排水溝1……にドレーン材を詰めないこととしてもよい。
【0036】
図9〜12にそれぞれ示したB〜Gは、他の本発明木杭の例である。
【0037】
図9に示した本発明木杭Bは、上記本発明木杭Aとは、排水溝1’……を丸太の側面に螺旋状に彫設形成した点だけを異にするものである。上記木杭Aのように軸方向の排水溝1……は、のみを用いて彫ろうとすると、丸太が筋に沿って裂けやすい。この点、木杭Bは排水溝1’……を、丸太の筋を横切るよう螺旋状に形成してあるので、これを彫る際にも丸太が裂けにくい。
【0038】
図10に示した本発明木杭Cは、丸太表面にカッターのような鋭利な刃物でその軸方向に深さ数cm〜5cm程度のキズをつけるとともに、その丸太を気中に放置することで乾燥収縮させ、広がった上記キズを排水溝1”……としたものである。
上記木杭A,Bは排水溝1,1’を彫るのにやや手間が掛かり、木くずが発生してしまうが、この木杭Cはその製作が簡単かつ安価に行え、木くずも発生しない。
この木杭Cの排水溝1”……にも、上記ドレーン材をドレーン材充填ネット2に充填して、あるいはそのネット2に充填せずそのまま詰めるのが好ましい。ただし、排水溝1”……に何も詰めないこととしてもよい。
【0039】
図11に示した本発明木杭Dは、下端を先鋭にした3本の丸太3……を緊束ワイヤ4……で束ねるとともに、各丸太3……の下端を覆うように円錐形のボトムキャップ5を取り付けて地盤へ貫入し易くしてあるものである。
この木杭Dを構成する3本の丸太3……の隙間は排水手段たる排水路6になっている。木杭Dの下端には上記のとおりボトムキャップ5が取り付けられているので、木杭Dの打込みによってもその排水路6には土砂が入り込まないようになっている。
【0040】
上記ボトムキャップは円錐形に限らず先鋭のものであれば角錐形のものでもよい。
上記排水路6には、木杭A〜Cと同様にドレーン材を詰めるのが好ましい。これにより、丸太3……同士がしっかりと固定されぐらつきが防止される。
なお、束ねる丸太3……の本数は適宜変更でき、また、各丸太3……の側面には、上記木杭A〜Cのように排水溝を彫設形成してもよい。
【0041】
図12に示した本発明木杭Eは、所要本数の短い丸太7……をその長さ方向に重合した重合丸太8……を7本、その複数箇所において緊束ワイヤ4……で束ねているものである。なお、束ねる重合丸太8……の本数は適宜変更できる。

互いに隣接する重合丸太8……はその丸太7……の重合部の位置を長さ方向にずらしてあるので、上記緊束ワイヤ4により複数箇所で緊束することでしっかりと固定されているが、各丸太7……の上下端に互いに嵌合する凹凸を形成しておくことで、ずれないようにしておくのが好ましい。
【0042】
各重合丸太8……の間の隙間は排水路6……になっており、ここには、木杭A〜Dと同様にドレーン材を詰めるのが好ましい。これにより、重合丸太8……同士がしっかりと固定されることにもなり互いのぐらつきが防止される。
また、各丸太7……の側面に、排水溝を彫設形成しておくのも好ましい。
9は、各重合丸太8の下端を覆うように取り付けられた円錘形のボトムキャップである。
【0043】
上記ボトムキャップは円錐形に限らず先鋭のものであれば角錐形のものでもよい。
また、上記重合丸太8……の長さ方向上部側の丸太7……としては、腐植しないか、あるいは腐植し難い材質のものを用いるのが好ましい。
このように上部の丸太7……を腐植しないか、あるいは腐植し難い材質のものとすることにより、その部分が地下水位面より上に出た場合の腐植防止を図ることができる。
【0044】
上記木杭D,Eは、細くて短い間伐材からでも太くて長いものを製作することができるので、これまで有効利用されていなかった間伐材を多量に使うことができる。
【0045】
本発明カーボンストック方法は、上記の本発明木杭A,B,C,D,またはEを多数地盤中に打設してカーボンストックを行うとともに、必要に応じ地盤の改良をも行うものであるが、本実施例は、地下水位の高い軟弱地盤にその木杭Aを打設し、その地盤上に盛土を造成したものである(図1)。
【0046】
本発明方法は、多数本の上記木杭A……を、所定の間隔をおいて軟弱地盤11に打設することにより行う。上記木杭A……は、その全長またはほぼ全長が地下水位以下に位置するよう打設するのが木杭A……の腐植防止のために好ましい。
【0047】
木杭A……の打設時に生じる過剰間隙水圧は時間の経過とともに消散していくが、その消散時間は排水距離が短いほど早い。圧密理論によれば、消散時間は排水距離の二乗に比例する。上記木杭A……は、排水溝1を備えているので、過剰間隙水圧の早期消散を実現する。
すなわち、単に木材を打設した場合に片面排水を仮定すると軟弱地盤の厚さの二乗の消散時間を要していたものが、(杭間距離/2)の消散時間になり、圧倒的に消散時間が短くなる(なお、一般的に、軟弱地盤厚さ》(杭間距離/2)である。)。
【0048】
地盤は、間隙比が小さいほど沈下量が少なく、せん断抵抗および液状化抵抗が増すが、過剰間隙水圧の消散に伴い、早期に杭間地盤の間隙比が減少するので、これに伴い杭間地盤の沈下が抑制される。
さらに、地盤は拘束圧が増すほどせん断抵抗および液状化抵抗が増すが、木杭の打設により間隙比の減少と同時に、木杭A……間の内部の有効応力の増加により拘束圧が増加し、せん断抵抗および液状化抵抗が増加する。
したがって、打設する木杭A……が、排水溝1……を備えていることにより、早期に地盤が強化改良されることになる。
【0049】
また、木杭A……の打設により地盤が密になり、水平応力の増加により拘束圧が増加することで地盤と丸太との摩擦応力が増加し、杭間地盤の圧密沈下量が低減する。さらに、地盤の密度増加と拘束圧増加の効果により木杭A……間の地盤の強度が上がることと地盤全体の横方向の剛性が増加し水平方向への抵抗性も増加する。
【0050】
また、砂やシルトのような地盤に木杭A……を打設した場合には、地盤の液状化に対して以下の効果がある。
すなわち、木杭A……の打設により各木杭A間の地盤密度が増加すること、木杭A……間の水平応力が増加し拘束圧が増加すること、木杭A……打設により地盤全体のせん断剛性が増加することにより地盤の液状化抵抗が増加する。
さらに、木杭A……の排水溝1……は、液状化時の過剰間隙水圧を早期に低減し、地盤の確実な強化に寄与する。
【0051】
なお、一般的には、地下水位以下に丸太を打設すれば丸太は時間の経過とともに水を含み飽和するが、打設直後や地盤の液状化時等、木杭A……の浮き上がりが懸念される場合がある。
この場合、打設に先立ち、木杭A……を真空チャンバーに入れて一度真空下におき、その後吸水させる飽和化処理を予め行っておくことができる。このとき、水の代わりに樹脂等を含浸させれば飽和化が進むとともに木杭A……の強度も格段に上がる。
また、この飽和化処理は、真空チャンバーを使用することなく、木杭A……の側面を所要の膜で上下端を開口させたストロー状に被覆し、その上端または下端から水または樹脂を吸い込ませることもできる。
この飽和化処理は、上記木杭B〜Eについても、同様に施すことができる。
【0052】
木杭A……の打設後、その地盤上に盛土12をする。
上記木杭A……は、その全長またはほぼ全長が地下水位以下に位置するよう打設するのが木杭A……の腐敗防止のために好ましいが、盛土を行う場合には、たとえば、その頭部を軟弱地盤から突出状態にして打設し、その頭部同士を、鉄筋等の可撓性を有する連結部材で網状にしかも連結部材を下方へ撓ませて連結することもできる。
そして、その杭頭部および連結部材をサンドマットで埋め込み、その上に土木用シートを敷設した後に盛土12を行うことにより、盛土荷重を、軟弱地盤の表層ではなく群杭効果によってその深層に広範囲に作用させることができる。
【0053】
軟弱地盤に打設された上記木杭A……は、盛土12の荷重を地盤の深部に伝達することで表層近くの荷重増分を減らし、表層近くの圧密沈下量を低減する。
【0054】
本発明木杭Aは間伐材、主伐材のいずれからも製作できるものであるから、従来利用先の見つからなかった木材を積極的に利用することができ、しかも圧倒的に大量に使用可能である。
したがって、老齢化した樹木を大量に使用する一方、植林を進めることで、森林の若返りを促進し、花粉症等の森林問題の解決にも寄与する。
【0055】
また、地下水位以下に打設された木杭A……は、ほとんど腐植しないので、長期間にわたりカーボンをストックすることができるから、大気中のCOの削減を進めることになる。
従来、道路,水道,下水道,鉄道,建築,各種開発等を目的とする土木・建設工事は、重機の使用等によりCOを大量に排出する地球環境に対する負荷が高い産業であるとされ、その環境イメージは低いものであったが、本発明工法は、その実施によりカーボンを大量にストックすることができるものであるから、積極的に施工を推進すれば、結果として、社会基盤整備を行いつつ、同時に、多くのカーボンをストックし地球環境の改善を図ることができるものである。
【0056】
なお、本発明木杭Aに代え、上記本発明木杭B〜Eを打設してもよい。
【実施例2】
【0057】
本実施例は、本発明木杭を地下水位の高い軟弱地盤に打設してカーボンストックを行うとともに、地盤を改良し、地表にグラウンド,駐車場,公園等を造成したものである(図2)。
【0058】
グラウンド,駐車場,公園等は、地盤にかかる荷重がほとんど無いため、設計をほとんど必要としないが、地盤が軟弱な場合には不同沈下が生じ、地表面の平坦性が失われることが多い。
このような場合に本発明木杭A(またはB,C,D,E)……を、所定の間隔をおいて軟弱地盤21に打設することにより、カーボンストックを行うことができる。また、打設する木杭A(またはB,C,D,E)……は排水手段を備えているから早期に地盤を強化することができる。
なお、22は排水溝である。
【実施例3】
【0059】
本実施例は、本発明木杭を軟弱地盤に打設してカーボンストックを行うとともに地盤を改良し、かつその木杭を構造物基礎として利用した例である(図3)。
【0060】
近年、腐植のおそれから、木材の建築基礎への適用はほとんど行われていないが、上記のとおり本発明木杭A(またはB,C,D,E)……を地下水位以下に打設すれば、腐植はほとんど進行しない。
そこで、必要に応じて杭頭処理や基礎底盤の引き下げ等により本発明木杭A(またはB,C,D,E)……を軟弱地盤31中に地下水位以下にして打設することでカーボンストックを行いつつ、これを戸建て住宅(図3(a))や工場・低層ビル(図3(b))の基礎とすることができる。
【実施例4】
【0061】
本実施例は、本発明木杭を構造物周辺地盤へ打設してカーボンストックを行うとともに地盤を改良した例である(図4)。
【0062】
軟弱地盤上の構造物41は、一般的にHPC杭等の杭基礎42……で支えられる場合が多いので、その構造物41自体の沈下量は極めて小さい。
しかし、その構造物41の周辺地盤は、無対策の場合が多いため地盤沈下が発生し構造部41の一階部分と周辺の地表面との間に段差が生じてしまう場合が多い。
このようなとき、段差を縮めるために周辺地盤の表面舗装43の舗装厚を増したり盛土したりすることが行われるが、これによってさらに沈下が進むので、イタチごっこになってしまう。バリヤフリーの構造物でも、このような入り口での段差が問題となっている。
【0063】
そこで、これを解決するために、構造物41の周辺地盤の上記構造物41側には、本発明木杭A(またはB,C,D,E)……を軟弱地盤44を貫通させて比較的硬い支持層45まで届くよう打設し、構造物41から離れるほど木杭A……の長さを徐々に短くなるように打設する。
このように、本発明木杭は支持杭とすることも摩擦杭とすることも可能である。
これにより、地盤表面の沈下量は構造物から離れるほど徐々に多くなるので、段差の問題が解消されるとともに、カーボンストックを行うことができる。
一般のコンクリート杭や鋼製の杭を使用する場合は、長さの異なる杭を製作するのは手間が掛かるが、本発明木杭A(またはB,C,D,E)……であれば、現場にて容易に切断して長さ調整が可能である。
【実施例5】
【0064】
本実施例は、本発明木杭を、水路51の下方地盤に打設してカーボンストックを行うとともに地盤を改良した例である(図5)。
【0065】
水路や管路等の線状構造物は勾配を確保することが重要であるが、下水管等では、地震時の液状化や軟弱地盤の影響で勾配が変化してしまう被害がよく生じる。
この勾配の変化を防止するために水路,管路等の下方地盤に本発明木杭A(またはB,C,D,E)……を打設するとよい。
【0066】
図示したものは、地盤52に本発明木杭A(またはB,C,D,E)……を打設し、その上に貧配合混合土を埋め戻した埋戻し層53を形成しそこに水路51を形成しているものであるが、この水路51の底部に下方地盤52に連通するドレーン54……を設けて該下方地盤52へ水を供給するようにすれば、本発明木杭A(またはB,C,D,E)……の腐植の進行を遅らせ、長期間にわたりカーボンをストックしておくことができる。
また、このような線状構造物が構築される地盤は、線状であるがゆえに地盤内の地層が変化に富む場合が多いが、木杭A(またはB,C,D,E)……はその地層に応じて切断して適宜長さを調整しながら打設することができる。
【実施例6】
【0067】
本実施例は、本発明木杭を埋め立て地に打設してカーボンストックを行うとともに地盤を改良した例である(図6)。
【0068】
海洋や湖沼等の埋め立て地は、軟弱地盤に土砂を埋め立てるのでその後大きな沈下が生じる場合が多い。この対策として一般にサンドレーンやサンドコンパクション、またセメント等により地盤を固化する深層混合処理工法等がある。サンドドレーン等は山地を削り砂を確保する必要があるのに対して本実施例の工法によれば、排水のための排水溝1……を有する本発明木杭A……(またはB,C,D,E)を使用するから、サンドドレーン等と同等の効果を得ながら、環境上の効果が高い。
図6において、61は更新統、62は砂層、63は粘土層、64は砂層、65は埋土層、66は固化改良層であり、本発明木杭A(またはB,C,D,E)……は、上記埋土層65より更新統61に達するように打設されている。
その木杭A(またはB,C,D,E)……は、完全に水中に打設されることになるから腐朽のおそれがないのでカーボンを長期にストックできることになる。
【実施例7】
【0069】
本実施例は、本発明木杭を海底軟弱地盤の浚渫法面に打設してカーボンストックを行うとともに地盤を改良した例である(図7)。
【0070】
航路確保のための浚渫法面71は、浚渫作業のみによって造成されるのでその勾配は緩く、また、海底地盤72は砂やシルト等で形成されている場合が多く液状化しやすいものであることが多い。
このような地盤は、地震の後液状化し平坦になろうとするので航路の水深が確保できなくなる可能性が考えられる。
そこで、本実施例はカーボンをストックするとともに浚渫法面71を安定化するために、そこに本発明木杭A(またはB,C,D,E)……を打設したものである。
本発明木杭A(またはB,C,D,E)……の打設により浚渫法面71が安定化し、斜面勾配を急にすることも可能になる。
また、液状化しやすい地盤では、木杭A(またはB,C,D,E)……の打設により液状化抵抗を増すことができ、地震によって航路が確保できなくなることを防止できる。
【0071】
上記各実施例で示した以外にも、本発明木杭は、護岸や突堤基礎の地盤への打設、あるいは、河川堤防、スーパー堤防の地盤への打設等を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明カーボンストック方法により改良した地盤に盛土を造成した実施例1の断面図である。
【図2】本発明カーボンストック方法により改良した地盤にグラウンド,駐車場,公園等を造成した実施例2の断面図である。
【図3】本発明カーボンストック方法により地盤を改良しかつ構造物基礎を構築した実施例3の断面図である。
【図4】本発明カーボンストック方法により構造物周辺地盤を改良した実施例4の断面図である。
【図5】本発明カーボンストック方法により水路・管路等の線状構造物の下方地盤を改良した実施例5の断面図である。
【図6】本発明カーボンストック方法により海洋や湖沼等の埋め立て地の地盤を改良した実施例6の断面図である。
【図7】本発明カーボンストック方法により浚渫斜面の地盤を改良した実施例7の断面図である。
【図8】本発明カーボンストック用木杭の第1の例を示し、(a)は平面図、(b)は斜視図である。
【図9】本発明カーボンストック用木杭の第2の例を示し、(a)は平面図、(b)は斜視図である。
【図10】本発明カーボンストック用木杭の第3の例を示し、(a)は平面図、(b)は斜視図である。
【図11】本発明カーボンストック用木杭の第4の例を示し、(a)は平面図、(b)は斜視図である。
【図12】本発明カーボンストック用木杭の第5の例を示し、(a)は平面図、(b)は斜視図、(c)は(a)の部分拡大図である。
【図13】樹木伐採と植林とを繰り返し継続することによるカーボンストック量の増加を示したグラフである。
【符号の説明】
【0073】
A〜E カーボンストック用木杭
1,1’,1” 排水溝
2 ドレーン材充填ネット
3,7 丸太
4 緊束ワイヤ
5,9 ボトムキャップ
6 排水路
8 重合丸太
11,21,31,44 軟弱地盤
12 盛土
22 排水溝
41 構造物
42 杭基礎
43 表面舗装
45 支持層
51 水路
53 埋戻し層
54 ドレーン
61 更新統
62,64 砂層
63 粘土層
65 埋土層
66 固化改良層
71 浚渫法面
72 海底地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水手段(1……,1’……,1”……,6……)を備えたカーボンストック用木杭(A,B,C,D,E)を地盤に打設することを特徴とするカーボンストック方法。
【請求項2】
上記カーボンストック用木杭(A,B,C,D,E)を、地下水位以下に位置するように打設することを特徴とする請求項1記載のカーボンストック方法。
【請求項3】
上記カーボンストック用木杭(A,B,C)が、丸太の側面に排水溝(1……,1’……,1”……)を形成してなることを特徴とする請求項1または2記載のカーボンストック方法。
【請求項4】
上記カーボンストック用木杭(D)が、複数本の丸太(3……)を緊束ワイヤ(4……)で束ねてなることを特徴とするカーボンストック方法。
【請求項5】
上記カーボンストック用木杭(E)が、所要本数の丸太(7……)をその長さ方向に重合した重合丸太(8……)を複数本、緊束ワイヤ(4……)で束ねてなることを特徴とするカーボンストック方法。
【請求項6】
丸太の側面に排水溝(1……,1’……,1”……)を形成してなることを特徴とするカーボンストック用木杭。
【請求項7】
上記排水溝(1……)が、当該丸太の軸方向に彫設形成されていることを特徴とする請求項6記載のカーボンストック用木杭。
【請求項8】
上記排水溝(1’……)が、螺旋状に彫設形成されていることを特徴とする請求項6記載のカーボンストック用木杭。
【請求項9】
上記排水溝(1”……)を、当該丸太の軸方向にキズをつけるとともに、その丸太を気中に放置し乾燥収縮させることで形成したことを特徴とする請求項6記載のカーボンストック用木杭。
【請求項10】
上記排水溝(1……,1’……,1”……)にドレーン材を詰めてなることを特徴とする請求項6,7,8または9記載のカーボンストック用木杭。
【請求項11】
複数本の丸太(3……)を緊束ワイヤ(4……)で束ね、それら各丸太(3……)の隙間を排水路(6……)としてなることを特徴とするカーボンストック用木杭。
【請求項12】
所要本数の丸太(7……)をその長さ方向に重合した重合丸太(8……)を複数本、緊束ワイヤ(4……)で束ねるとともに、それら各重合丸太(8……)の隙間を排水路(6……)としてなることを特徴とするカーボンストック用木杭。
【請求項13】
互いに隣接する上記重合丸太(8……)が、丸太(7……)の重合部の位置を、長さ方向にずらしていることを特徴とする請求項12記載のカーボンストック用木杭。
【請求項14】
長さ方向上部の丸太(7……)を、耐腐植性に優れた材質のものとしたことを特徴とする請求項12または13記載のカーボンストック用木杭。
【請求項15】
上記各丸太(3……)または各重合丸太(8……)の下端を覆うように先鋭のボトムキャップ(5,9)を取り付けてなることを特徴とする請求項11,12,13または14記載のカーボンストック用木杭。
【請求項16】
上記丸太に水または樹脂を吸い込ませる飽和化処理を施してなることを特徴とする請求項6,7,8,9,10,11,12,13,14または15記載のカーボンストック用木杭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−205068(P2007−205068A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26448(P2006−26448)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)
【Fターム(参考)】