説明

カーボンナノチューブネットワークをコーティングする無溶剤方法及びポリマーをコーティングされたカーボンナノチューブネットワーク

無溶剤コーティング組成物によりカーボンナノチューブ材料をコーティングする方法が記載される。得られるコーティングは、導電性層の導電性を維持し且つその後のコーティング組成物の影響から導電性層を保護することがわかった。コーティング配合物がポリオール及びイソシアネートを含む実施例が示される。また、カーボンナノチューブネットワーク層上にポリウレタンコーティングを含む層材料も記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2009年5月14日付け米国仮出願第61/178453号の優先権を主張するものである。
【0002】
要約
無溶剤コーティング組成物によりカーボンナノチューブ材料をコーティングする方法が記載される。得られるコーティングは、導電性層の導電性を維持し且つその後のコーティング組成物(即ち、カーボンナノチューブコーティングの後に塗布/適用されるコーティング)の影響から導電性層を保護することがわかった。コーティング配合物がポリオール及びイソシアネートを含む実施例が示される。また、カーボンナノチューブネットワーク(網目構造体)層上にポリウレタンコーティングを含む層材料も記載される。
【背景技術】
【0003】
カーボンナノチューブ(CNT)は、それらの高い電気伝導度を利用する様々な用途で研究されている。CNTは懸濁液中に配合することができ、CNTネットワークと称される相互貫入(interpenetrating)CNTのフィルムを製造するために表面に付着させることができる。これらのCNTネットワークは、透明電極;EMIシールディング又は落雷保護のための電気伝導性コーティング;及び航空機防氷用ヒーターを含む用途において興味深い。CNTはまた、エレクトロニックテキスタイルや非金属配線、落雷保護を含む用途のために用いることができる巨視的繊維及び糸中に配合することもできる。これらすべての用途においては、シート抵抗の安定性が重大である。CNTの抵抗は高温、湿度及び溶剤曝露に対して敏感である。
【0004】
航空宇宙用途においては、金属基材の腐蝕を防止するためにプライマーが必要とされる一方で、紫外線や化学物質、水、摩損並びにその他のタイプの周囲環境にある危険及び飛行中に曝される危険による劣化に耐えるために、トップコートも必要とされる。プライマーコーティング及びトップコートコーティングは共に、基材に対して及び互いに対しての最適な付着のために、互いに連係して設計される。翼や他の重要な領域の着氷を防止するために電気伝導性抵抗加熱領域用のCNTのような追加のコーティング成分を導入する際には、最終用途耐久性を慎重に考慮することが必要である。
【0005】
プライマーコーティングの化学(プライマーコーティングを構成する化学材料)は、航空機の完全性を迅速に悪化させることがある錆及び腐蝕からスチール又はアルミニウム機体を保護するための防蝕性フィラー及び顔料を含有させたエポキシ又はポリウレタン樹脂を包含することができる。トップコート航空宇宙コーティングの化学は、典型的には、強い紫外線から、ジェット燃料及び除氷液等の化学物質への曝露から、並びに燃料ライン、石、岩石又は他の岩屑による摩耗から航空機を保護するために設計されたフィラー及び顔料を含有させたポリウレタン樹脂である。
【0006】
航空機の防氷又はEMIシールディングのために電気伝導性を提供すべく設計されたCNTネットワークは、最外コーティング層として塗布(適用)することができるが、しかし、このタイプの屋外用途のための耐久性要件を満たすためには一般的にトップコートが必要とされる。
【0007】
先行技術には、CNT層上のポリウレタンコーティングの例が存在する。Battelle社に譲渡されたHeintzらによる国際公開WO2008/085550号には、基材(好ましい基材は飛行機の翼である)上の導電性ナノチューブネットワーク層が記載されている。この導電性ナノチューブネットワーク層は、抵抗加熱可能なフィルムを形成することができる。この国際公開には、「好適なコーティングの例には、Deft Inc.社のPRC Polyurethane 8800系列のM85285-I-36176及びM85285-I-36375が包含される。」と記載されている。この文献には、無溶剤ポリウレタンコーティングを使用することは記載されていない。
【0008】
Luoらの米国特許出願公開第2005/0209392号明細書には、基材上に導電性ナノチューブネットワーク層を付着させることが記載されている。これらの研究者は次いで、ポリマーバインダーを付着させる。このポリマーバインダーはポリウレタンであることができ、「CNTネットワーク又はマット中に拡散」して、機械的損傷及び湿分の浸入からの保護を提供する。これらの研究者は、可能なバインダーの長いリスト中にポリウレタンを含ませているが、無溶剤ポリウレタンコーティングの記載はない。
【0009】
生物由来のポリオールは周知である。国際公開WO2007/027223A2号(以下に完全に再現されるようにここに取り入れる)には、ポリウレタンコーティングを形成させるために有利に用いることができる生物由来のポリオールが記載されている。Lu及びLarockによる“Soybean-Oil-Based Waterbourne Dispersions: Effects of Polyol Functionality and Hard Segment Content on Properties”, Biomacromolecules 2008, 9, 3332-3340には、生物由来のポリウレタンの水性分散液が記載されている。これらの著者はカーボンナノチューブ上のコーティングを報告していない。
【0010】
カーボンナノチューブ及びポリウレタンから形成される複合材料を記載した多くの刊行物が存在する。例えば、Glatowskiらの米国特許第7118693号明細書には、ポリウレタンとカーボンナノチューブとのブレンドから作られた導電性ナノチューブ相似コーティングが記載されている。実施例では、湿分硬化性ポリウレタンが用いられている。Kwonらの“Comparison of the Properties of Waterbourne Polyurethane/Multiwalled Carbon Nanotube Composites Prepared By In Situ Polymerization”, J. Poly. Sci: Part A: Polymer Chem. vol. 43, 3973-3985 (2005)には、ポリウレタン及びカーボンナノチューブの水性分散液から作られた複合材料が記載されている。Xiaらの“Preparation and characterization of polyurethane grafted single-walled carbon nanotubes and derived polyurethane nanocomposites”, Soft Matter, 2006, 16, 1843-1851には、最初にナノチューブをヒドロキシル基で官能化し、複合材料の構造を調節するために段階的態様で反応させる(図1を見よ)方法から、ポリウレタン−カーボンナノチューブ複合材料を製造することが報告されている。Xiaらは“Preparation and characterization of polyurethane-carbon nanotube composites”, Soft Matter, 2005, 1, 386-394に、ポリオール及びCNTのブレンドされた分散液からのポリウレタン−カーボンナノチューブ複合材料の製造を報告している。El Bouniaの米国特許出願公開第2008/0207817号明細書には、様々なCNT/ポリマー複合材料が記載されている。
【0011】
Miyagawaらの“Nanocomposites from biobased epoxy and single-wall carbon nanotubes: synthesis, and mechanical and thermophysical properties evaluation”、Nanotechnology, 2005, 16, 118-124には、生物由来のエポキシから作られたカーボンナノチューブ複合材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開WO2008/085550号
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0209392号明細書
【特許文献3】国際公開WO2007/027223A2号
【特許文献4】米国特許第7118693号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2008/0207817号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Lu and Larock, "Soybean-Oil-Based Waterbourne Dispersions: Effects of Polyol Functionality and Hard Segment Content on Properties", Biomacromolecules 2008, 9, 3332-3340
【非特許文献2】Kwon et. al., "Comparison of the Properties of Waterbourne Polyurethane/Multiwalled Carbon Nanotube Composites Prepared By In Situ Polymerization", J. Poly. Sci: Part A: Polymer Chem. vol. 43, 3973-3985 (2005)
【非特許文献3】Xia et. at., "Preparation and characterization of polyurethane grafted single-walled carbon nanotubes and derived polyurethane nanocomposites", Soft Matter, 2006, 16, 1843-1851
【非特許文献4】Xia et. at.,"Preparation and characterization of polyurethane-carbon nanotube composites", Soft Matter, 2005, 1, 386-394
【非特許文献5】Miyagawa et. al, "Nanocomposites from biobased epoxy and single-wall carbon nanotubes: synthesis, and mechanical and thermophysical properties evaluation", Nanotechnology, 2005, 16, 118-124
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、概括的には、コーティングされたカーボンナノチューブネットワーク及びカーボンナノチューブネットワークを無溶剤コーティング組成物でコーティングする方法に関する。好ましい実施形態において、本発明は、イソシアネート架橋剤と、イソシアネートに対して反応性の基を有していて導電性ナノチューブネットワーク用の保護コーティングとしての働きをするアクリル又はポリエステルポリオールとを有する液膜形成性組成物を提供する。このコーティングは硬化後に、その後のコーティングがカーボンナノチューブネットワークの導電性を低下させてしまうのを防ぐのに充分な機械的耐久性及び耐化学薬品性を有する。用途に応じて、その後のコーティングには、色を加えたり、屋外耐久性を高めたり、化学的耐久性を高めたり、耐腐蝕性を改善したりすることが望まれ得る。保護コーティングは、航空機の翼用の抵抗加熱領域のような広範な用途においてカーボンナノチューブネットワークの有用性を高める。航空宇宙用途のために用いられるトップコートは、軍用性能仕様のような要求が厳しい様々な試験に適合することが要求される。
【0015】
CNT材料の抵抗は、ある種の溶剤又はポリマー系との接触の際の変化に敏感である。多くの用途は、CNT材料が例えば保護トップコートでコーティングされていることを必要とする。航空宇宙用途のために商品として入手できるコーティング中にCNTネットワーク層を組み込むための研究の過程で、本発明者らは、典型的な航空宇宙トップコートをCNTネットワークに直接塗布した場合には、抵抗加熱操作に不具合を生じる点まで導電性が低下するということを見出した。
【0016】
本発明者らは、CNT材料のトップに塗布された時に抵抗を変化させず、実質的に増大させない組成物及び方法を見出した。この塗布層は、CNT材料を溶剤(特に商品として入手できるトップコート中に用いられるもの)から絶縁して元々のCNT材料の電気的性質を維持するために、用いることができる。
【0017】
通常の航空宇宙トップコート中に存在する水性又は非水性溶剤は、CNT材料に塗布された時に、いくつかのメカニズムによってCNT材料の電気的性質を阻害することがある。1つのメカニズムは、隣り合ったCNTの間の電気抵抗を増大させることによるものである。溶剤中に溶解させたトップコートは、CNT中に染み込んで、トップコートの樹脂系を個々のCNTファイバーの間に浸透させて硬化させることがある。1つのCNTから別のCNTに電荷を輸送するためには、CNT同士が緊密に接触していることが必要である;電荷の輸送は、トンネリング又はホッピングによって起こる。もしもCNTの間に非導電性ポリマー樹脂が残っていたら、これはCNTの密着を妨害し、これが電子ホッピング又はトンネリングに関連するエネルギーを増大させ、一連の高抵抗性のレジスタ(抵抗器)として挙動する。その影響は、CNT材料のバルク導電性が有意に低下することである。水や溶剤との相互作用を改善するために、CNTを界面活性剤又は分散剤で処理するということがしばしば行われている。フィルムの形成後に;これらの界面活性剤及び分散剤は、フィルム中に残って、CNTの表面特性を変性し続けることがしばしばある。これは、CNT層を水性又は非水性溶剤による浸透に対してより一層敏感にする。
【0018】
界面活性剤には、CNTを安定化させるための当技術分野において周知の典型的なアニオン性、カチオン性及び非イオン性界面活性剤が包含され得る。分散剤には、アルキルアミン等の立体配置的安定化によってCNTを安定化させる分子及びポリマーや、ピレン類及びナフタレンスルホン酸等の非共有変性によってCNTを安定化させる分子及びポリマーが包含され得る。
【0019】
別のメカニズムは、CNTの電子的性質に対する溶剤の影響に関連するものである。CNTの電気的性質は周囲環境に非常に敏感である。CNT材料を調製するための1つの通常の方法は、水及び溶剤中におけるそれらの分散性を改善するために酸酸化法を用いるものである。付着させて乾燥させた後にも、これらのCNTはp−ドープされたままである。斯かるフィルムの電気抵抗は、商業的な航空宇宙トップコートのコーティングにおいて典型的に用いられるもののような電子供与性溶剤に対して敏感である。電子供与性溶剤には、水、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、エタノール、メタノール、イソプロパノール等の通常の溶剤が包含される。CNT材料を調製するための別の通常の方法には、分散剤を使用するものが包含される。これらの系は一般的に、非ドープ系であるか又は酸素等の偶発的(付随的)ドーパントによって非意図的にp−ドープされたものである。これらの系の抵抗もまた、水及び他の電子供与性溶剤に曝された際に増大する。最後に、CNT材料は、意図的p−ドーパントとして挙動する第2の材料と共に配合されることがある。水又は溶剤による処理は、CNT材料に対するp−ドーパントの効果を取り去り又は弱めて、その抵抗を増大させることがある。
【0020】
水性コーティングは、水がCNTに対するn−ドーパントであり、p−ドープされたCNTを補償ドープする傾向があるという事実のせいで、CNTネットワークの電気的性質を変化させ、このことがその抵抗を増大させる。より環境に優しい水性コーティング系が航空宇宙用途を含む多くの用途のために開発されているところなので、CNT材料に対するこの驚異も検討されなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、溶剤フリーの保護層を用いることによって、CNT材料への有機溶剤性又は水性コーティングの塗布に付随する抵抗の変化を防ぐことができることを見出した。本発明は、導電性の維持及びその後のトップコート化学への良好な接着性等の利点を提供することができる。ポリウレタンを利用するいくつかの好ましい実施形態における別の利点は、ポリオール成分が石油化学供給原料からではなくて植物油から誘導されたものであることができるということである。
【0022】
1つの局面において、本発明は、積層CNT含有組成物の製造方法であって、
基材上に配置させたCNT層を提供し;そして
このCNT層上に無溶剤ポリマー前駆体を直接適用(塗布)する:
ことを含む、前記方法を提供する。
【0023】
この方法の追加の好ましい特徴には、次の内の1つ以上が包含される:ポリマー前駆体を硬化させることによって、CNT層と接触するポリマー層が形成されること;コーティング後のCNT層の抵抗率の変化が81%以下であること;より一層好ましくはコーティングの前後での抵抗の変化が10%未満であること;無溶剤前駆体がジイソシアネート及びジオールを含むこと;本発明の説明中に論じられている組成、条件及び測定可能な特性。
【0024】
本発明はまた、本明細書に記載されるいずれかの方法によって作られる積層材料をも包含する。無溶剤法から調製されるポリマーコーティングは、合成法の知識により又はポリマー層の物理的特徴付け(例えば無溶剤条件下で硬化させたポリマーに関する表面の形態構造及び断面の形態構造を同定するための電子顕微鏡法)によって、同定することができる。
【0025】
別の局面において、本発明は、基材;該基材とポリウレタンコーティングとの間に配置させた導電性CNTネットワーク層:を含む積層CNT含有物品であって;前記ポリウレタンコーティングがCNT層に直接接触し;さらに、下にあるCNT層が120Ω/スクエア又はそれ未満、より一層好ましくは25Ω/スクエア又はそれ未満、さらにより一層好ましくは1Ω/スクエア又はそれ未満のシート抵抗を有する、前記物品を提供する。典型的には、前記CNTネットワーク層は、p−ドープされたものである。ある実施形態において、このCNTネットワーク層は、(非p−ドープCNTから作られた分散CNTネットワーク層中に残ることがあるもののような)残留分散剤又は界面活性剤を含有しない。ある好ましい実施形態においては、一緒にされたCNTネットワーク層及びポリウレタンコーティングはCNT及びポリウレタンから本質的に成る(言い換えれば、コーティングされたCNT層の抵抗を減らしたり安定性を低下させたりしてしまう追加成分が存在しない)。ある好ましい実施形態において、前記ポリウレタンは、ポリエーテル部分を含有しない。ある好ましい実施形態において、前記ポリウレタンは、サルフェート基を含有しない;好ましくは、前記ポリウレタンは非イオン性である。ある好ましい実施形態において、前記ポリウレタンは、植物油から誘導されたポリオールから製造される(これは、ポリウレタン中のエステル基から分光分析によって観察することができる);ある好ましい実施形態において、前記ポリウレタンは、アゼライン酸(C9)エステルポリオールから誘導されたものである(国際公開WO2007/027223号を見よ);ある好ましい実施形態において、前記ポリウレタンは、アゼライン酸(C9)エステル部分を含む。好ましくは、前記物品は、5〜240Vの範囲の電圧を印加することによって400℃までの温度、ある実施形態においては40〜180℃の範囲の温度への抵抗ヒーターとしての働きをする能力を有する。好ましくは、下にあるCNT層は、20dB超、より一層好ましくは40dB超のシールディング効率を維持する。ある好ましい実施形態において、前記基材は、飛行機又は飛行機の部品、例えば翼である。コーティングされた物品の幾何学的表面積(即ちBET表面積よりもむしろ定規で測定できる面積)は、少なくとも0.5cm×0.5cmであるのが好ましく、少なくとも1cm×1cmであるのがより一層好ましい。
【0026】
前記ポリウレタンコーティングは、溶剤(水を含む)又はその後に塗布されるコーティング若しくは溶剤からのその他の周囲環境にある危険物質がポリウレタンに浸透してCNTネットワークを阻害したりその導電性を有意に変化させたりするのを防ぐのに充分な耐化学薬品性を提供する。
【0027】
本発明はまた、本発明に従って作られた層を抵抗加熱することによって、氷の形成を予防し又は表面(例えば翼の表面)から氷を取り除く方法をも包含する。
【0028】
本発明はさらに、実施例に記載した測定によって同定される特性、例えば実施例で特定した条件下での電気抵抗又は除氷特性によって規定することができる。
【0029】
用語の説明
【0030】
用語「カーボンナノチューブ」又は「CNT」は、単一(SW)、二重(DW)及び多重壁(MW)カーボンナノチューブを包含し、さらに別段の記載がない限り、束及びその他の形態構造をも包含する。本発明は、特定タイプのCNTに限定されない。CNTはこれらの材料の任意の組合せであることができ、例えばCNT組成物は単一壁CNTと多重壁CNTとの混合物を包含することができ、また、DWNT及び/又はMWNTから本質的に成ることもでき、また、SWNTから本質的に成ることもできる。CNTは、少なくとも50、好ましくは少なくとも100、典型的には1000超のアスペクト比(長さ対直径)を有する。
【0031】
「無溶剤」とは、配合されたコーティング組成物の少なくとも90質量%、好ましくは少なくとも99質量%、より一層好ましくは100%が硬化が起こった後にも乾燥フィルム中に残ることを意味する;反応成分が反応してポリマー及び低分子量揮発性分子を生成する場合には、この揮発性物質は質量%の計算に含まれない。ある好ましい実施形態において、コーティング配合物は、配合されたコーティング組成物の少なくとも99質量%が硬化が起こった後にも乾燥フィルム中に残るようなポリウレタン前駆体から本質的に成る。溶剤性の系又は水性の系においては、硬化プロセスの間に蒸発する有機溶剤又は水が液状コーティングの内の高い割合を構成する。
【0032】
本発明はしばしば「含む」(「含み」等の活用形も含む)の用語で特徴付けされるが、これは「(含)有する」等を意味する。狭い局面においては、用語「含む」はもっと限定的な用語「から本質的に成る」又は「から成る」に置き換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、基材(下部、白色)、カーボンナノチューブの層(灰色)及びポリマーのオーバーコート(上部)を含む物品の概略図である。
【図2】図2は、氷冷風洞中での試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
無溶剤ポリマー前駆体組成物でコーティングする前には、CNTネットワーク層はCNT/空気複合体の形、例えばCNTネットワークフィルム、CNTの紙若しくは布様層、又はCNTの巨視的ファイバーの形にある。本発明のCNTネットワーク層は、CNTを少なくとも25重量%含有するのが好ましく、ある実施形態においてはCNTを少なくとも50重量%、ある実施形態においては25〜100重量%含有する。CNTは、NIR分光分析(“Purity Evaluation of As-Prepared Single-Walled Carbon Nanotube Soot by Use of Solution-Phase Near-IR Spectroscopy”, M. E. Itkis, D. E. Perea, S. Niyogi, S. M. Rickard, M. A. Hamon, H. Hu, B. Zhao, and R. C. Haddon, Nano Lett. 2003, 3(3), 309)、ラマン、熱重量分析又は電子顕微鏡法(Measurement Issues in Single Wall Carbon Nanotubes. NIST Special Publication 960-19)を含めた当業者に周知の方法を用いて、他の炭素質不純物から識別することができる。CNTネットワーク層は(再びコーティングの前には)、ポリマーをほとんど又は全く有していないのが好ましい(「ポリマー」は、CNT又は典型的にCNTに付随する炭素質材料を含まない−ポリマーの典型的な例にはポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレン等が包含される);このネットワーク層は、ポリマーを5重量%未満しか含まないのが好ましく、1重量%未満しか含まないのがより一層好ましい。ネットワーク層中の体積画分は、CNTが好ましくは少なくとも2%、より一層好ましくは少なくとも5%、ある実施形態においては2〜約90%である。複合材料の残りの部分は、空気(体積による)及び/又は他の材料、例えば残留界面活性剤、炭素質材料若しくは分散剤(重量及び/若しくは容量による)を含むことができる。
【0035】
CNTネットワーク層は、コーティングされた後に、CNT同士の接触によってもたらされる電気伝導度を維持する;これはポリマーマトリックス中のCNTの分散体ではない。典型的には、複合材料の断面図は、CNTをほとんど又は好ましくは全く含有しないポリマー層と、CNT(並びに好ましくはCNTに通常付随するその他の可能な炭素質材料及び界面活性剤)を含みしかしポリマーをほとんど又は全く含まないCNTネットワーク層とを示す。好ましくは、ポリマーコーティングを上に有するCNTネットワーク層は、このCNT層内に50質量%又はそれ未満のコーティングポリマーを含むのが好ましく、より一層好ましくは25質量%又はそれ未満、さらにより一層好ましくは10質量%又はそれ未満のコーティングポリマーを層内に含む。好ましくはCNT層は、CNT及び炭素質材料を少なくとも25質量%含み、好ましくはCNTを少なくとも50質量%含み、ある実施形態においてはCNTを30〜100重量%含む。CNTネットワーク及びCNTファイバーは、高解像度SEM又はTEMによって観察されるように非常に特異なロープ様の形態構造を有する。例えばCNTネットワークについてはHu, L.; Hecht, D.S.; and Gruner, G. Nano Lett., 4 (12), 2513 -2517を、そしてCNTファイバーの図面については米国特許第6683783号明細書を参照されたい。CNT層は典型的にはポリマーをほとんど又は全く含有しないので、CNT直径及び束サイズに関連してAFMによって特徴付けされた場合に0.5〜50nmの範囲の表面粗さを示す。コーティング組成物は、CNTネットワーク層の表面と接触するが、ネットワーク層内の空間を満たさないのが好ましい。CNT層中へのコーティングの浸透はまた、多層サンプルの断面をSEM−EDS又はXPSのような方法で分析することによって、測定することもできる;CNT層は、トップコートに関連したN基を実質的に含まないのが好ましい。
【0036】
CNT層は、CNT間接触が多く、良好な導電性、即ち0.05Ω・cm未満、好ましくは0.002Ω・cm未満の抵抗率を有する。この層のシート抵抗は、500Ω/スクエア未満、好ましくは200Ω/スクエア未満、より一層好ましくは50Ω/スクエア未満であるべきである。CNT層は平面状、円筒状、又はその他の連続形状であることができる;ある好ましい実施形態において、CNT層は、実質的に平面状である(紙のシートや不織テキスタイルシートと同様に、いくつかのファイバーは平面層から飛び出ていてもよい)。これらは、CNT層上にコーティングを塗布する前及び後の両方におけるCNT層の好ましい特徴である。
【0037】
本発明におけるCNTネットワークは、基材にCNTの分散液を直接塗布することによって調製することができ、この際、分散プロセスにおいて用いた溶剤は蒸発してCNTの層が残り、これが互いに凝固して連続ネットワークになる。CNTネットワークは、分散液から調製することができ、当技術分野において周知のコーティング方法、例えば吹付(エアアシストエアレス、エアレス又はエア)、ロールコーティング、グラビア印刷、フレキソ印刷、刷毛塗り及びスピンコーティング(これらに限定されない)によって塗布することができる。CNT層の厚さは0.005μm〜100μmの範囲、好ましくは0.05μm〜100μmの範囲、より一層好ましくは0.3μm〜100μmの範囲である。
【0038】
CNT層には、p−ドーパントのような他の随意としての添加剤を含ませることができる。p−ドーパントは、ペルフルオロスルホン酸、塩化チオニル、有機π酸、ニトロベンゼン、有機金属ルイス酸、有機ルイス酸又はブレンステッド酸が包含されるが、これらに限定されるわけではない。Nafion及びヒアルロン酸のような分散剤とドーパントとの両方としての働きをする材料を存在させることができる。これらの材料は、それらの構造内に、時には主鎖上の側基として、p−ドーピング部分、即ち電子受容性基を含有する。一般的に、これらの添加剤はCNTフィルムの70重量%未満、ある実施形態においてはCNTフィルムの50重量%未満として存在させる。分散剤及びドーパントの両方としての働きをするポリマー及び炭水化物は、他のポリマー材料、即ち分散剤としての働きをするだけのものや構造用成分としての働きをするだけのものとは区別できる。電子受容性部分が存在するため、これらの材料は半導電性CNTと共に電荷輸送錯体を形成することができ、半導電性CNTをp−ドープして電気伝導度を高めることができる。かくして、これらのデュアル分散剤/ドーパントは、他のタイプのポリマー材料や界面活性剤より高いCNT層内における質量百分率を許容することができる。
【0039】
無溶剤コーティング組成物は、反応して固体状コーティングを形成する反応性成分を含む;好ましくは該組成物はポリオール及びイソシアネートを含む。本発明のポリオール成分は、(i)イソシアネート基と反応することができる(「イソシアネート反応性」)官能基を含有し、且つ、(ii)固体含有率100%を有する(有機又は水性溶剤を含有しない)。ここで用いた時の「イソシアネート反応性」官能基という表現は、硬化したコーティングの形成にとって好適な条件下でイソシアネート基と反応性である官能基の存在を意味する。斯かるイソシアネート反応性官能基は一般的にコーティング分野の当業者に周知であり、特に一般的にはヒドロキシル及びアミノ基等の活性水素含有官能基が包含される。ヒドロキシル官能基は、コーティング中のイソシアネート反応性官能基として典型的に用いられ、本発明において用いるのに本質的に好適である。ある種の実施形態において、ポリオールは、適宜モノマーを選択することによってポリマー中に組み込まれたイソシアネート官能基を有するポリエステルポリマーである。ポリエステルポリオールを合成するために用いることができるモノマーの例には、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマー及びヒドロキシル基含有エチレン性不飽和モノマーが包含される。
【0040】
任意の無溶剤、好ましくは100%固体の(有機及び水性溶剤を含有しない)好適なイソシアネート化合物又は化合物混合物を、本発明における硬化剤として用いることができる。効果的な架橋剤としての働きをするためには、イソシアネートは少なくとも2個の反応性イソシアネート基を有しているべきである。好適なポリイソシアネート架橋剤は、脂肪族、環状脂肪族、アリール脂肪族及び/又は芳香族結合したイソシアネート基を含有することができる。また、ポリイソシアネートの混合物も好適である。また、脂肪族、環状脂肪族、アリール脂肪族及び/又は芳香族結合したポリイソシアネート基を含有するポリイソシアネートも好適である。これには、例えば:ヘキサメチレントリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、m−α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1−イソシアナト−3,3,5−トリメチル−5−イソシアナトメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート若しくは「IPDI」)、ビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水素化MDI)、トルエンジイソシアネート(「TDI」)、ヘキサメチレンジイソシアネート(「HDI」)又は各種ジイソシアネートのビウレット誘導体が包含される。
【0041】
本発明の方法及び物品は、生物由来のポリマーを用いて達成することができる。石油由来の供給原料とは対照的に、生物由来のポリマーは、トウモロコシ、大豆、カスター(castor)等の生物由来の供給原料から誘導された材料を少なくとも40質量%、好ましくは少なくとも50%、さらにより一層好ましくは少なくとも80質量%、特に好ましくは100質量%含有するポリマーである。実施例に示したように、好ましいポリオールは生物由来のポリオールである。
【0042】
上記の成分に加えて、硬化触媒のようなその他の添加剤も加えることができる。イソシアネート用の硬化触媒は、当業者によく知られており、有機金属触媒、特に有機スズ化合物、例えばジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオキシド、ジブチルスズジラウレート等がある。その他の随意としての成分、例えば界面活性剤、消泡剤、チキソトロープ剤、抗ガス剤、流動性調節剤、顔料、フィラー及びその他の添加剤であって有機又は水性溶剤が加えられていないものを、前記組成物中に含ませることができる。好ましい実施形態において、ポリマー前駆体組成物は、硬化後にポリマー構造に結合する成分を少なくとも90質量%、より一層好ましくは少なくとも95質量%(ある実施形態においては少なくとも98質量%)含む。
【0043】
CNT材料上のコーティング組成物の厚さは、好ましくは2mm又はそれ未満、より一層好ましくは150μm又はそれ未満、好ましくは50μm又はそれ未満、ある種の実施形態においては250nm〜50μmの厚さである;それより厚い層は、使用中に発泡や泡立ち等を起こして、その後のトップコートがCNT層に浸透してその導電性を阻害する通路をもたらしてしまうことがある。
【0044】
無溶剤コーティング組成物は、既知の方法;例えばバーコーティング又は吹付:によってCNTネットワークに塗布することができる。CNTネットワークを阻害する技術、例えばこて塗りは、避けるべきである。CNTネットワークに保護コーティングを塗布した後に、コーティングされた基材を硬化させる(ある実施形態においては、硬化は周囲温度において実施される)。硬化操作においては、フィルム形成性材料が架橋して、機械的に耐久性があり且つ化学的に耐性があるフィルムが残る。
【0045】
コーティング前のCNT層のシート抵抗は、標準4点プローブ法又はその他の既知のシート抵抗測定方法によって、測定することができる。下にある材料のシート抵抗に対するその後のコーティングの影響は、対象用途に応じていくつかの方法の内の1つによって測定することができる。銀塗装リード線のような金属リード線をCNT層上又は下に適用して抵抗を測定することができる。次いでその後のオーバーコートをCNT層のトップに塗布して抵抗を再び調べることができる。本発明のコーティングの塗布は、コーティングの硬化の後に81%未満の抵抗の変化、好ましくは10%未満の抵抗の変化、さらにより一層好ましくは5%未満の抵抗の変化をもたらすだけである。同様に、このスタックのトップ上へのその後の層の塗布は、抵抗を5%以上増大させず、好ましくは3%以下しか増大させない。別法として、コーティングの塗布の前後にSAE ARP-1705のような方法を用いてCNTフィルムのシールディング効率を測定することができる。本発明のコーティングの塗布は、コーティングの硬化の後に38%未満、より一層好ましくは5%未満のシールディング効率の変化をもたらすだけである。同様に、このスタック(即ちCNTネットワーク層及び保護コーティング)のトップ上へのその後の層の塗布は、シールディング効率を5%以上低下させない。
【0046】
随意としてのp−ドーパント添加剤を含有するCNTフィルムは、本発明のコーティングによる処理の前後に及びこの層へのその後のコーティングの塗布の後に、これらのドーパントの存在についての分光分析的証拠を示す。これらのp−ドーパントの存在は、ドーパント化合物の分光分析的徴候を求めて、CNT層の化学分析から決定することができる。別法としてp−ドープされたCNTは、ドーパントの化学構造の知識がなくても検出することができる特定的なNIR吸収及びラマン散乱信号を有する。例えば、p−ドーピングの証拠は、NIR分光分析から決定することができる。CNTの光吸収スペクトルは、S22及びS11遷移によって特徴付けられ、その位置はCNTの構造分布に依存し、片浦プロットによって決定することができる。これら2つの吸収バンドは、半導電性CNTにおけるファンホーブ特異性のペアの間の電子遷移に関連する。電子受容体による充満状態の空乏は、これらの遷移のブリーチングをもたらし、主題コーティングによるp−ドーピングの証拠となる。別法として、p−ドーピングは、Rao, A. M.; Bandow, S.; Richter, E.; Eklund, P. C. in Thin Solid Films 1998, 331, 141-147に記載されたようにラマン分光分析から決定することができる。
【実施例】
【0047】
2インチ×3インチ(5cm×7.6cm)の領域を作り出すために長方形のサンプルの端部の外側を塗装した2つの平行銀電極において抵抗を測定することによって、初期シート抵抗を測定した。コーティング後のシート抵抗は、トップコーティングされていない同じ2つの銀電極から抵抗を測定することによって、測定した。
【0048】
比較例1及び2
【0049】
1.Alexit MC-300(商品名)ポリカーボネート高固形分クロメートプライマーで下塗りすることによって、3インチ×3インチ(7.6cm×7.6cm)Nomex試験パネルを調製した。供給元の指示に従ってコーティングを混合し、18番ワイヤ巻き棒を用いて塗布した。コーティングを、室温において一晩硬化させた。
【0050】
2.直径10nm未満の多重壁ナノチューブ(MWNT)をHelix Materials Solutions社から得た。このMWNTを、マイクロ波反応器中で硫酸と硝酸との混合物を用いて酸化させた。例として:25mLガラスマイクロ波反応器にMWNT100mg、70%硝酸1.0mL及び硫酸9.0mLを仕込んだ。この容器をCEM社製のDiscoverマイクロ波反応器中に装填し、130℃の一定温度において5分間反応させた。この内容物を次いで0.1μmPVDF膜フィルターに通し、濾液のpHが5になるまで水ですすいだ。洗浄されたMWNTを凍結乾燥によって乾燥させた。
【0051】
3.前記のMWNTを20分間のtiphorn超音波処理によって50%イソプロパノール及び50%アセトン中に分散させた。得られた分散液は1.7mg/mLの濃度を有していた。
【0052】
4.硬化後に、前記パネルをテープオフしてほぼ1インチ×2インチ(2.5cm×5cm)の2つの領域を露出させた。
【0053】
5.酸をドープされたカーボンナノチューブ分散液を、表面上で約100Ω/スクエアの抵抗率に達するまで、連続層において吹付塗布した。約1インチ離れたリード線を有する領域に、銀リード線塗料を塗布した。これにより、1平方インチ(2.5cm×2.5cm)のカーボンナノチューブネットワークのスクエアが作られた。
【0054】
6.2つのコーティングを、1つは各露出領域上に抵抗を測定するための銀リード線塗料上の小さい非コーティング領域を残して、塗布した。
【0055】
7.前記領域の内の一方には、Alexit MC-300(有機溶剤をベースとするコーティング系)を塗布し、コーティングを硬化させた後に抵抗が1100Ω/スクエアに劇的に増大した。
【0056】
8.もう一方の導電性領域には、商品として入手できる有機溶剤をベースとする航空宇宙ポリウレタントップコート(Deft - 03GY292(商品名))を塗布し、抵抗が500Ω/スクエアに増大した。
【0057】
例1
【0058】
1.比較例1について上記した工程1〜5と同じ手順を用いて、第2の3インチ×3インチ(7.6cm×7.6cm)Nomexパネルを調製した。初期抵抗は銀リード線において66Ω/スクエアだった。
【0059】
2.導電性領域に、
a.100%固形分生物由来ポリオール2g
b.100%固形分イソシアネート(Bayhydur 302(商品名))3g
c.ジブチルスズジラウレート触媒0.02g
を含む100%固形分ポリウレタンコーティングを塗布した。
【0060】
3.硬化後の抵抗は、低く保たれ、銀リード線において120Ω/スクエアだった。
【0061】
4.工程10からの100%固形分ポリウレタンコーティングによって保護された領域上に、Deft社製の商品として入手でできる航空宇宙ポリウレタントップコート03GY292(商品名)を塗布した。抵抗は120Ω/スクエアに保たれた。
【0062】
例2
【0063】
これは、生物由来ポリオール及びヘキサメチレンジイソシアネート硬化剤を含む100%固形分保護トップコートの追加の例である。
【0064】
1.Alexit MC-300(商品名)ポリカーボネート高固形分クロメートプライマーで下塗りすることによって、2インチ×2インチ(5cm×5cm)Nomex試験パネルを調製した。供給元の指示に従ってコーティングを混合し、18番ワイヤ巻き棒を用いて塗布した。コーティングを、室温において一晩硬化させた。
【0065】
2.直径10nm未満の多重壁ナノチューブ(MWNT)をHelix Materials Solutions社から得た。このMWNTを、マイクロ波反応器中で硫酸と硝酸との混合物を用いて酸化させた。例として:25mLガラスマイクロ波反応器にMWNT100mg、70%硝酸1.0mL及び硫酸9.0mLを仕込んだ。この容器をCEM社製のDiscoverマイクロ波反応器中に装填し、130℃の一定温度において5分間反応させた。この内容物を次いで0.1μmPVDF膜フィルターに通し、濾液のpHが5になるまで水ですすいだ。洗浄されたMWNTを凍結乾燥によって乾燥させた。
【0066】
3.前記のMWNTを20分間のtiphorn超音波処理によって50%イソプロパノール及び50容量%アセトン中に分散させた。得られた分散液は1.7mg/mLの濃度を有していた。
【0067】
4.硬化後に、前記パネルをテープオフしてほぼ1インチ×2インチ(2.5cm×5cm)の2つの領域を露出させた。
【0068】
5.酸をドープされたカーボンナノチューブ分散液を、表面上で約50Ω/スクエアの抵抗率に達するまで、連続層において吹付塗布した。約1インチ(2.5cm)の間隔のリード線を有する領域に、銀リード線塗料を塗布した。これにより、1平方インチ(6.5cm2)のカーボンナノチューブネットワークのスクエアが作られた。
【0069】
6.導電性領域に、
a.100%固形分生物由来ポリオール2g
b.100%固形分イソシアネート(Tolonate HDT-LV2(商品名))2.97g
c.ジブチルスズジラウレート触媒0.02g
を含む100%固形分ポリウレタンコーティングを塗布した。
【0070】
7.工程10からの100%固形分ポリウレタンコーティングによって保護された領域上に、商品として入手でできる航空宇宙ポリウレタントップコート(Deft社製の03GY292(商品名))を塗布した。抵抗は低い23Ω/スクエアに保たれた。
【0071】
比較例1並びに例1及び2によって示されたように、無溶剤ポリウレタントップコートの塗布はドープされたCNTコーティングの電気抵抗を維持する。対照的に、標準的なポリウレタンでコーティングされたCNT層は400%〜1000%の範囲の抵抗の増大を示す。100%固形分ポリウレタンでコーティングされたCNT層は、81%の増大を示しただけだった;そして、適当な配合を用いた場合には変化は10%以下ほど小さく、ある配合物(例えば例2)では抵抗が小さくなった。
【0072】
比較例3
【0073】
このナノチューブの水性分散液の例においては、溶剤として水を含有するトップコートがドーパント又は界面活性剤を含有するCNTネットワークの導電性に影響を及ぼすことが見出された。
【0074】
1.Alexit MC-300(商品名)ポリカーボネート高固形分クロメートプライマーで下塗りすることによって、スチール試験パネルを調製した。供給元の指示に従ってコーティングを混合し、18番ワイヤ巻き棒を用いて塗布した。 コーティングを、室温において一晩硬化させた。
【0075】
2.MWNTの水性分散液を次のようにして調製した。脱イオン水30g中にヒアルロン酸ナトリウム塩75mgを含有させた溶液中に、Nanocyl(商品名)MWNT(薄いMWNT、純度95%以上)150mgを入れた。この分散液をtiphorn超音波処理器を用いて超音波処理し、次いで3000rpmにおいて遠心分離して、黒褐色分散液を得た。
【0076】
3.硬化後に、前記パネルをテープオフしてほぼ2インチ×3インチ(5cm×7.6cm)の2つの領域を露出させた。前記水性MWNT分散液を、表面上で約80Ω/スクエアの抵抗率に達するまで、連続層において吹付塗布した。
【0077】
4.導電性カーボンナノチューブネットワーク上に、水性ポリウレタンコーティング系を塗布した。
【0078】
5.このコーティングは、
a.JeffolG30650(商品名)ポリオール3.43g
b.水7.0g
c.ジブチルスズジラウレート触媒0.15g
d.Bayhydur 302(商品名)イソシアネート11.50g
を含んでいた。
【0079】
銀リード線における抵抗は244Ω/スクエアに増大した。
【0080】
比較例4
【0081】
1.比較例3の工程1〜3と同様にして第2のパネルを調製し、銀リード線における抵抗を測定して83Ω/スクエアだった。
【0082】
2.商品として入手できる有機系トップコートMIL-T-81772B(商品名)(Chemsol社)を塗布して、室温において硬化させた。
【0083】
3.このパネルの抵抗は有意には増大せず、測定された抵抗は97Ωだった。
【0084】
比較例5
【0085】
比較例3の工程1〜3と同様にして第4のパネルを調製し、銀リード線における抵抗を測定して92Ω/スクエアだった。Dow社から商品として入手できる水性エマルションUCAR 6030(商品名)をCNTネットワーク上に塗布し、空気乾燥させた。このパネルの抵抗は、158Ω/スクエアに増大した。
【0086】
例3
【0087】
比較例3の工程1〜3と同様にして第3のパネルを調製し、銀リード線における抵抗を測定して93Ω/スクエアだった。このパネルを100%固形分トップコートでコーティングし、室温において硬化させた。このコーティングは、
100%固形分ポリエステルポリオールDesmophen 631A-75(商品名)10.76g
100%固形分脂肪族HDIイソシアネートTolonate HDT-LV2(商品名)10.0g
ジブチルスズジラウレート触媒0.04g
を含んでいた。
【0088】
コーティングを硬化させた後のこのパネルの抵抗は、99Ω/スクエアだった。
【0089】
上記の例において、ポリマー前駆体組成物の多くは商品として入手できる商品名で示した組成物を含有するものだった。これらの組成物の正確な構成は、本発明にとって臨界的なものではない。重要な局面は、驚くべきことに、無溶剤組成物が水性コーティングと比較して優れたコーティングをもたらしたことであり、本発明は、有機溶剤の取扱いに付随する安全性及び毒性に関する問題がある有機溶剤系方法と比較して、驚くほど優れた方法を有する。比較例3〜5におけるデータによって示されるように、水性界面活性剤から調製され且つ/又は界面活性剤若しくはドーパントとしての働きをする種を含有するCNT層は、水性コーティング(比較例3及び5)に対して敏感であり、しかし有機系コーティング(比較例4)に対しては敏感ではない。これらの材料の抵抗は、水性ポリウレタントップコートでコーティングした際に、増大する。100%固形分ポリウレタントップコートによるCNT層のコーティング(例3)は、シート抵抗の増大を本質的にもたらさない(7%未満)。100%固形分ポリウレタンでコーティングされたら、積層コーティングシステムは、その後の水又は有機溶剤への曝露に対して安定である。
【0090】
翼の前縁に対する防氷及び除氷抵抗加熱としての擬似最終用途におけるコーティングの性能の例
【0091】
この試験はさらに、Battelle社の抵抗加熱コーティング(Resistive Heating Coating、RHC)が、軽量で低電力の防氷/除氷システムを提供するのに非常に有効であることを示す。
【0092】
抵抗加熱コーティング(RHC)は、原寸の翼に対して組み込まれた時に、代表的な飛行条件及び0°F〜28°F(−18℃〜−2℃)の範囲の複数の試験ポイントにおいて、満足できる程度の防氷/除氷能力を示した。
【0093】
RHCコーティングに電気リード線を組み込むために、絶縁された穴を通して平編みした銅電力リード線を供給し、翼の表面においてエポキシ樹脂で接着させた。電力分配は、1つの大きい並列回路を形成させるための、交互の+/−リード線による。各RHC「セル」の寸法及び形状は、供給電圧、RHC厚さ等に基づいて各用途についてカスタマイズする。次いで翼にRHCを吹付塗布し、リード線を露出させて1つの均一の導電層を作る。RHCコーティングを硬化させた後に、無溶剤ポリウレタン透明コーティングを吹付塗布してRHC及びリード線をシールして保護する。
【0094】
完全に硬化したプライマー(NCP 280又はHysol E-60NC)を赤いスコッチブライト(scotch brite)(商品名)サワーリングパッドで擦り、その上にカーボンナノチューブ分散液を塗布する。これにより、2つのコーティング層の間の接着が保証される。芸術家用エアブラシを用いることによって、最良の塗布が見出された。エアブラシは非常に薄いコーティングの塗布及び比較的少ないスプレーしぶき(overspray)を可能にする。カーボンナノチューブの費用を考えると、スプレーしぶきを最小限に抑えることは費用対効果にとって至上命令である。カーボンナノチューブコーティングが厚い層状で塗布されると、滴り落ちて溜まってヘビービルドエリアになる傾向がある。これらのエリアは抵抗が小さく、電流が印加された時に熱分布が不均一な部分に「ホットスポット」をもたらす。
【0095】
典型的な5インチ×5インチ(13cm×13cm)平方の抵抗加熱の領域は、以下に記載する50ミリリットルカーボンナノチューブ分散液を用いた。この例においては、120°F(49℃)に加熱した基材に、約30〜35のコーティングを塗布した。温かい基材は、分散液の水の蒸発を促進する。
【0096】
風洞実験のために用いた大きい翼の区画は、8個の5インチ×5インチ(13cm×13cm)スクエアから成り、CNT分散液400ミリリットルを要した。最終抵抗率は15〜19Ω/スクエアの範囲だった。
【0097】
ウレタントップコートは、100%固形分生物由来ポリオール、イソシアネート硬化剤及びジブチルスズジラウレート触媒から成る。溶剤はカーボンナノチューブコーティングの導電性を阻害して壊すが、100%固形分ウレタンコーティングはCNTコーティングの導電性の変化を何ら引き起こさない。この取り組みのために、用いられるポリオールは、低粘度用にインハウス(in-house)で開発されたものである。これは、Tolonate HDT-LV2、100%固形分ヘキサメチレンジイソシアネート硬化剤と共に配合することができるが、しかし最終的な硬度への硬化時間は遅い。これらのコーティングは室温において硬化させることができたが、熱サイクルが硬化を促進させるであろう。
【0098】
上記の比較例3に示したように、この例におけるように水性分散体から調製された抵抗加熱性カーボンナノチューブコーティング上に水又は水性コーティングが塗布された時には、CNTネットワークの導電性は負の影響を受け、抵抗率が劇的に増大する。雨や翼の表面上に張った氷からの水によってCNTネットワークが危険にさらされると、抵抗加熱性コーティング(RHC)は動作不能になってしまう。100%固形分ポリウレタン保護コーティングは水がCNTネットワーク中に浸入するのを防ぎ、加熱性能は風洞実験を通じて維持された。
【0099】
風洞実験の際、RHCシステムを稼働させずに、最初の氷を翼の上に付着させる。次いで、除氷及び/又は防氷運転モードにおいて、このシステムを稼働させる。実験の大部分は、防氷能力の測定に焦点を合わせたものだった。様々なRHCシステム電力レベルにおいて連続氷冷状況をシミュレートするために、試験が進行するにつれて風洞温度及び液状水含量(Liquid Water Content)(LWC)を調節した。次いで、テクノロジーの運転を特徴付けるために、電圧を上げて電力密度を高めた。
【0100】
実験用マトリックスは、FAAガイドライン(FAA Part 25, Appendix C see US Federal Aviation Regulations, 14 C.F.R.)に適合させるためにAAIインプットに関連して開発された。システムレベルベースラインコンセプトは、実験サンプル中に組み込まれた。閉ループ氷冷用風洞(Goodrich Icing Systems)中で実験を実施した。防氷実験及び除氷実験共に、60VDC、7ワット/平方インチの電圧で実施した。
【0101】
風洞実験区画中に翼を垂直に置く。翼のRHC被覆領域は、5インチ×40インチ(13cm×101cm)だった。実験区画は、左のコールドルーム(翼の上)から、右のコントロールルーム(翼の下)から及びトップから光アクセスを提供する。30個の熱電対を、実験区画の下部に沿って通した。翼の迎え角(AOA)は、翼取付け板中のインデックス付きホールによって調節可能だった。
【0102】
下の試験マトリックスは試験条件を示した。
【表1】

【0103】
注:
1:列記した全条件についての水滴寸法20ミクロン
2:防氷=水吹付前にRHCシステムのスイッチを入れて氷層の蓄積を防ぐ;
除氷=氷が蓄積した後にRHCを稼働させた
【0104】
氷冷風洞において行った実験の結果の完全な表を図2に示す。図2において脚注は次の意味を有する:
【0105】
注:
1:実験実行中に吹き付けた液状水含量
2:防氷=水吹付前にRHCシステムのスイッチを入れて氷層の蓄積を防ぐ;
除氷=氷が蓄積した後にRHCを稼働させた
3:システム電力密度。42インチ(106cm)の長さの翼サンプルは200平方インチ(1000cm2)のRHC被覆領域を有し、15インチ(38cm)の長さの翼サンプルは25平方インチ(160cm2)のRHC被覆領域を有する
4:2番目の熱電対の温度、翼の前縁においてRHCコーティングの中央で測定、システム表面温度を示す
5:2番目の熱電対の温度と風洞温度との温度差
6:実験変数が標準FAA氷冷条件チャートに適合しているか超えているか
7:RHC被覆領域の90%以上にわたって氷の蓄積を防止又は蓄積した氷を除去するのに実験が成功したかどうか
【0106】
特に成功した試験の例は、試験番号9、20及び24〜30に見出せる。
【0107】
実験は、RHCが原寸の翼上に組み込まれた時に代表的なフライト条件において防氷/除氷能力を有することを示している。異なるLWC及び水滴寸法を用いた0°F〜28°F(−18℃〜−2℃)の範囲の複数の実験で、満足できる防氷/除氷濃度を示した。操作上のエンベロープ及び電力要件を特徴付けした。電力密度が高くなるほど、より厳しい氷冷条件に耐えることができる。さらに、電力密度の増大はランバック(runback)氷冷処理のための最良のオプションを提供する。有能電力は、最終コーティング形状寸法及び作業デザイン中への組み込みに影響を及ぼす。RHCはまた、地面上又は発射装置上の除氷及び防氷のためのオプションでもある。100%固形分ポリウレタンコーティングは、すべての風洞実験の際に、水滴、着氷及び溶けた氷からの保護を提供した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層CNT(カーボンナノチューブ)含有組成物の製造方法であって、
基材上に配置させたCNT層を提供し;そして
このCNT層上に無溶剤ポリマー前駆体を直接適用する:
ことを含む、前記方法。
【請求項2】
前記ポリマー前駆体を硬化させてCNT層と接触したポリマー層を形成させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
CNT層の抵抗が前記コーティングを塗布して硬化させた後に81%又はそれ未満しか変化しない、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
CNT層の抵抗が前記コーティングを塗布して硬化させた後に10%又はそれ未満しか変化しない、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記無溶剤ポリマー前駆体がジイソシアネート及びジオールを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法によって製造された積層物品。
【請求項7】
積層CNT含有物品であって、
基材;及び
該基材とポリウレタンコーティングとの間に配置させた導電性CNTネットワーク層
を含み、
前記ポリウレタンコーティングがCNT層に直接接触し;そしてさらに、
下にあるCNT層が120Ω/スクエア又はそれ未満のシート抵抗を有する、前記物品。
【請求項8】
前記の下にあるCNT層が25Ω/スクエア又はそれ未満のシート抵抗を有する、請求項7に記載の物品。
【請求項9】
前記の下にあるCNT層が1Ω/スクエア又はそれ未満のシート抵抗を有する、請求項7に記載の物品。
【請求項10】
前記CNTネットワーク層がp−ドープされている、請求項7〜9のいずれかに記載の物品。
【請求項11】
前記CNTネットワーク層が残留分散剤又は界面活性剤を含有しない、請求項7〜10のいずれかに記載の物品。
【請求項12】
一緒にされたCNTネットワーク層及びポリウレタンコーティングがCNT及びポリウレタンから本質的に成る、請求項7〜11のいずれかに記載の物品。
【請求項13】
前記ポリウレタンがポリエーテル部分を含有しない、請求項7〜12のいずれかに記載の物品。
【請求項14】
前記ポリウレタンがサルフェート基を含有しない、請求項7〜13のいずれかに記載の物品。
【請求項15】
前記ポリウレタンがアゼライン酸(C9)エステル部分を含む、請求項7〜14のいずれかに記載の物品。
【請求項16】
前記ポリウレタン前記の下にあるCNT層が20dB超のシールディング効率を維持する、請求項7〜15のいずれかに記載の物品。
【請求項17】
少なくとも1cm×1cmの幾何学的表面積を有する、請求項7〜16のいずれかに記載の物品。
【請求項18】
請求項7〜17のいずれかに記載の物品を含む、飛行機の翼。
【請求項19】
請求項7〜18のいずれかに記載の物品を氷冷条件に曝し、該物品に電流を通して抵抗加熱をもたらすことを含む、氷を取り除き又は氷の形成を予防する方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−526724(P2012−526724A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511061(P2012−511061)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【国際出願番号】PCT/US2010/035035
【国際公開番号】WO2010/132858
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(504306714)バテル・メモリアル・インスティテュート (26)
【氏名又は名称原語表記】BATTELLE MEMORIAL INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】505 King Avenue, Columbus, OH 43201−2693 (US)
【Fターム(参考)】