説明

カーボンナノチューブ含有樹脂複合体の製造方法、ならびにカーボンナノチューブ含有樹脂複合体、カーボンナノチューブ含有樹脂フィルム

【課題】本発明はCNT本来の物性を引き出し、高弾性率を有するCNT含有樹脂複合体の製造方法、及び高弾性樹脂複合体、樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】(I)CNTを、樹脂と溶媒を含有する混合物中に分散させてCNT含有組成物を得る工程と
(II)(I)で得られた組成物を基板上に塗布する工程と
(III)次いで、圧力9.3×10〜1.1×10Pa、20〜200℃で0.5〜5時間予備乾燥させ、その後圧力1.3〜8.0×10Pa、20〜200℃で0.5〜5時間減圧乾燥させ塗膜を形成させる工程とを有する製造方法よりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブ含有樹脂複合体の製造方法、ならびにカーボンナノチューブ含有樹脂複合体、カーボンナノチューブ含有樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂へのフィラー添加は、力学的性質例えば引張強度や弾性率等を改善し、所望の性質を持った樹脂複合体を得るための方法として、これまで広く使われてきた。このような強化用のフィラーとしては繊維状又は針状のフィラーが強化用充填材として用いられ、例えば繊維状のフィラーとしてはガラス繊維や炭素繊維、アラミド繊維など、針状のものではワラスナイト、ゾノトライト等が知られている。近年、有望な繊維状フィラーとしてカーボンナノチューブ(CNT)が注目を集めている。
しかし、CNTは、絡まった状態で製造されるため、取り扱いが非常に煩雑であり、樹脂又は溶液に混合した場合はさらに凝集し、成型加工してもCNT本来の特性が発揮できないという問題がある。
例えば非特許文献1ではCNTの存在下、メチルメタクリレートを重合させCNT/ポリメチルメタクリレート(PMMA)複合体を得ている。しかし、この方法ではCNTの分散が不十分であり、CNT本来の特性を引き出すことは困難である。
又、他の試みとして非特許文献2ではCNTを溶媒中に分散させた後、PMMAと混合したものを紡糸し、これを並べてホットプレスした樹脂フィルムの製造方法が開示されている。しかしながら、この方法では操作が煩雑であるという問題がある。又、特許文献1では共役系重合体溶液にCNTを分散し、これに樹脂を混合、乾燥することでCNT分散樹脂フィルムを得ているが、乾燥条件によっては均質な膜の製造ができない等の問題がある。
【特許文献1】特開2004−244490号公報
【非特許文献1】Seng June Park等,Macromolecular Rapid Communications 24,1070(2003)
【非特許文献2】Fangming Du等,J. of Polymer Science Part B41,3333,(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したように、従来の技術では、CNTが分散されたCNT含有樹脂複合体を得ることは難しく、CNT本来の特性を十分に反映させることが困難であった。
本発明は、簡便な方法で、CNT本来の物性を引き出し高弾性率を有するCNT含有樹脂複合体の製造方法、及び高弾性樹脂複合体、均質な樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のCNT含有樹脂複合体の製造方法は、(I)CNTを、樹脂と溶媒を含有する混合物中に分散させてCNT含有組成物を得る工程と、
(II)(I)で得られたCNT含有組成物を基板上に塗布する工程と、
(III)圧力9.3×10〜1.1×10Pa、20〜200℃で0.5〜5時間予備乾燥させ、その後圧力1.3〜8.0×10Pa、20〜200℃で0.5〜5時間減圧乾燥させ塗膜を形成させる工程とを有することを特徴とする。
又、前記樹脂と溶媒とを含有する混合物が分散剤を含むことが好ましく、前記CNTがカルボキシル基を含有していることが好ましい。加えて、前記(I)の工程を超音波印加処理と機械的混合処理を併用して行うことが好ましい
【0005】
本発明のCNT含有樹脂複合体は、前記の(I)〜(III)の工程を備えた前記製造方法で得られることを特徴とする。
【0006】
本発明のCNT含有樹脂フィルムは、前記CNT含有樹脂複合体から基板を剥離することにより得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のCNT含有樹脂複合体の製造方法によれば、煩雑な工程を経ることなくCNTが分散された樹脂複合体を得ることができ、得られたCNT樹脂複合体及びフィルムはCNTの特性が有効に発揮され、均質で高い弾性率を有することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一例について詳細に説明する。
本発明のCNT含有樹脂複合体は以下の(I)〜(III)の工程を有する。
(I)CNTを、樹脂と溶媒を含有する混合物中に分散させてCNT含有組成物を得る工程
(II)(I)で得られた組成物を基板上に塗布する工程
(III)圧力9.3×10〜1.1×10Pa、20〜200℃で0.5〜5時間予備乾燥させ、その後圧力1.3〜8.0×10Pa、20〜200℃で0.5〜5時間減圧乾燥させ塗膜を形成させる工程
【0009】
本発明の製造法の(I)の工程はCNTを樹脂、溶媒からなる混合物中に分散させたCNT含有組成物を得る工程である。
【0010】
前記樹脂と溶媒を含有する混合物中には、得られるCNT含有組成物の性状に影響しない範囲で、顔料、染料、強化剤、充填剤、耐熱剤、酸化劣化防止剤、耐侯剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、可塑剤、流動性改良剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、保存安定剤、接着助剤、増粘剤等が含まれていても良い。
【0011】
本発明で使用されるCNTは、特に限定されるものではなく、単層CNT、何層かが同心円状に重なった多層CNT、これらがコイル状になったものを用いることができる。
CNTについて更に詳しく説明すると、厚さ数原子層のグラファイト状炭素原子面を丸めた円筒が、複数個入れ子構造になったものであり、nmオーダーの、外径が極めて微小な物質が例示される。又、CNTの片側が閉じた形をしたカーボンナノホーンや、その頭部に穴の開いたナノカーボン物質も用いることができる。又、CNTの類縁体であるフラーレン、カーボンナノファイバーなども用いることができる。
又、本発明に用いるCNTは、ボールミル、振動ミル、サンドミル、ロールミル等を用いて物理的処理を行っているものや、酸化処理などの化学的処理を行っているものも用いることができる。この中で、酸化処理をしたCNTは表面にカルボキシル基を含有しており、マトリックス樹脂との親和性が高く、弾性率の向上効果が高いという観点から好ましい。
【0012】
本発明で使用される溶媒はCNT、樹脂を溶解又は分散できるものであれば特に制限されない。例えば水や、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノ−N−プロピルエーテル等のエチレングリコール類、プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のプロピレングリコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、N−メチルピロリドン等のピロリドン類が用いられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を混合して使用しても良い。
【0013】
又、本発明に用いる樹脂としては本発明に用いる溶媒に溶解可能であれば特に限定されるものではなく、具体的にはポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール類、ポリアクリルアマイド、ポリ(N−t−ブチルアクリルアマイド)、ポリアクリルアマイドメチルプロパンスルホン酸等のポリアクリルアマイド類、ポリビニルピロリドン類、ポリスチレン酸及びそのソーダ塩類、セルロース、アルキド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、マレイン酸樹脂、ポリカーボネート樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、スチレン樹脂、アクリル/スチレン共重合樹脂、酢酸ビニル/アクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン/マレイン酸共重合樹脂、フッ素樹脂ポリアクリロニトリル等が用いられる。これらは単独でも良いし、2種以上を混合して使用しても良い。
【0014】
CNTを樹脂、溶媒からなる混合物中に分散させる手段としては、ホモジナイザー、スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーサー、ハイブリッドミキサー、攪拌羽根等を用いた攪拌装置等を用いた機械的混合処理や、超音波印加機にて行うことができる。特に超音波印加処理と機械的混合処理の併用、又は超音波ホモジナイザーと機械的混合処理の併用による処理をすることが好ましい。
超音波印加処理の条件としては特に限定されるものではないが、CNTを混合物中に分散させるだけの充分な超音波の強度と処理時間があればよい。例えば、超音波発振機における定格出力が超音波発振機の単位面積あたり0.1〜2.0W/cmが好ましく、より好ましくは0.3〜1.5W/cmの範囲であり、発振周波数は10〜200kHzが好ましく、より好ましくは20〜100kHzの範囲で行うのが良い。又、処理の時間は1分〜48時間が好ましく、より好ましくは5分〜24時間である。
【0015】
これらの分散処理を行うことでCNTが分散した混合物を得ることができるが、より効率的に、又はより多くのCNTを分散させるために分散剤を併用することができる。
分散剤としては界面活性剤、導電性高分子、芳香族系化合物、タンパク質、DNA等、CNTと相互作用し、分散性を向上させることのできる化合物であれば任意に使用できる。また、分散剤を使用してCNTを混合物中に分散又は溶解させる手段として、超音波印加処理と機械的攪拌処理の併用等、前記した方法をそのまま用いることができる。
【0016】
界面活性剤としてはアルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルカルボン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、ジアルキルスルホコハク酸、α−スルホン化脂肪酸、N−メチル−N−オレイルタウリン、石油スルホン酸、アルキル硫酸、硫酸化油脂、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸、アルキルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアミド縮合物及びこれらの塩等のアニオン系界面活性剤、第一〜第三脂肪族アミン、四級アンモニウム、テトラアルキルアンモニウム、トリアルキルベンジルアンモニウムアルキルピリジニウム、2−アルキル−1−アルキル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリジウム、N,N−ジアルキルモルホリニウム、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミド、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドの尿素縮合物、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドの尿素縮合物の第四級アンモニウム及びこれらの塩等のカチオン系界面活性剤、N,N−ジメチル−N−アルキル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン、N,N,N−トリアルキル−N−スルホアルキレンアンモニウムベタイン、N,N−ジアルキル−N,N−ビスポリオキシエチレンアンモニウム硫酸エステルベタイン、2−アルキル−1−カルボキシメチル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のベタイン類、N,N−ジアルキルアミノアルキレンカルボン酸塩等のアミノカルボン酸類等の両面界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸部分エステル、トリアルキルアミンオキサイド等の非イオン系界面活性剤、フルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノール等のフッ素系界面活性剤を1種又は2種以上を使用することができる。
【0017】
導電性高分子としてはポリアニリン系重合体、ポリピロール系重合体、ポリチオフェン系重合体、ポリアセチレン系重合体、ポリフェニレン系重合体、ポリフェニレンビニレン系重合体等が使用できるが、特にポリアニリン系重合体がCNTの分散促進という観点から好ましい。
【0018】
芳香族系化合物としては例えば、フェニル基誘導体、チエニル誘導体、ピロール誘導体、ピレン誘導体等を1種又は2種以上を使用することができる。
【0019】
本発明の(II)工程は(I)工程で得られたCNT含有組成物を基板上に塗布する工程である。基材としては、プラスチック、木材、紙材、セラミックス、およびこれらのフィルム、そしてガラス板、金属板などが用いられる。
【0020】
基板に塗布する方法としては、一般の塗工に用いられる方法が用いられる。例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等の塗布方法、エアスプレー、エアレススプレー等のスプレーコーティング等の噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等が挙げられる。
【0021】
本発明の(III)工程は、圧力9.3×10〜1.1×10Pa、20〜200℃で予備乾燥させ、その後圧力1.3〜8.0×10Pa、20〜200℃で減圧乾燥させ塗膜を形成させる工程である。
【0022】
前記(II)工程で作成した塗膜前駆体から均質な塗膜を得るためには、本工程での乾燥工程が重要である。急激な乾燥は溶媒の急激な蒸発による塗膜の表面荒れ等を引き起こし、また、塗膜の白化、破壊等の原因となる。こうした観点から(III)工程では減圧乾燥の前に予備乾燥を行う。予備乾燥の工程においては工程(II)で作成した塗膜前駆体から溶媒を徐々に除去させることが均質な塗膜を得るために好ましい。したがって、予備乾燥時の圧力は9.3×10〜1.1×10Paが好ましく、9.7×10〜1.04×10Paがより好ましい。
また、予備乾燥温度は20℃未満であると溶媒を除去できず、200℃を超える温度では急激な溶媒の除去による塗膜の荒れが発生する。したがって、予備乾燥温度は20〜200℃であり、30〜150℃がより好ましい。
予備乾燥の時間は0.5時間未満であると予備乾燥としては不十分で溶媒が多量に残ってしまう懸念がある。また、5時間を越えると樹脂の劣化が起こり強度が著しく低下してしまう。したがって、減圧乾燥時間は0.5時間〜5時間であり、1時間〜3時間がより好ましい。
【0023】
次いで行われる減圧乾燥の工程は、予備乾燥で残留した溶媒を除去する目的で行われる。減圧乾燥時の圧力が1.3Pa未満であると急激に溶媒が留去され塗膜に荒れが生じ強度が著しく低下してしまい、8.0×10Paを超えると溶媒の除去が効率良く行えず、時間がかかってしまい、樹脂の劣化が起こり強度が著しく低下してしまう。したがって、減圧乾燥時の圧力は1.3〜8.0×10Paで行い、溶媒除去効率の観点から1.3〜8.0×10Paがより好ましい。また、減圧乾燥温度は20℃未満であると溶媒を除去できず、200℃を超えると急激な溶媒の除去による塗膜の荒れが発生したり、樹脂の劣化による強度の著しい低下が起こる。したがって、20〜200℃で乾燥を行い、30〜150℃で行うことがより好ましい。減圧乾燥の時間は0.5時間未満であると溶媒の乾燥が不十分で、5時間を越えると樹脂の劣化が起こり強度が著しく低下してしまう。したがって、減圧乾燥時間は0.5時間〜5時間であり、1時間〜3時間がより好ましい。
【0024】
以上の製造工程により、CNT含有樹脂複合体を得ることができ、また該複合体より基板を剥離することによりCNT含有樹脂フィルムを得ることができる。
【0025】
前記CNT含有樹脂複合体から基板を剥離する方法としては、水等に浸漬させて剥離する方法、カッター等で剥離する方法、基板を破壊して剥離する方法、粘着テープ等をフィルムに貼り付けて剥離する方法等がある。この中で簡便でフィルムを傷つけない方法である粘着テープ等をフィルムに貼り付けて基板を剥離する方法が好ましい。
【0026】
本発明では、簡便な方法でCNTをマトリックス樹脂中に分散し、かつ予備乾燥を行うことで、わずかな添加量であってもCNTの特性が有効に発揮されたCNT含有樹脂フィルムを得ることができる。加えて、得られた該フィルムの高弾性率を飛躍的に向上させることができる。また、このような特性から、電気・電子材料部材、各種構造材料等への利用が期待できる。
【実施例】
【0027】
次に本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
<CNT含有樹脂複合体の製造1>
多層CNT(CNT社製 C tube 100)1.2mgを15質量%PMMA(平均分子量28万、三菱レイヨン株式会社製)のジメチルアセトアミド溶液8.0gに加え、マグネチックスターラーで攪拌しながら、超音波ホモジナイザー(商品名:vibra cell、SONIC社製、発信周波数:20kHz)を用いて超音波ホモジナイズ処理を行い、CNT含有組成物を得た。
得られたCNT含有組成物をベーカーアプリケーターを用いてガラス基板上に厚さ250μmに塗布後、1.01×10Pa、50℃で2時間予備乾燥させた。さらに1.33×10Pa、50℃で2時間乾燥させることで、CNT含有樹脂組成物の塗膜を得た。塗膜の外縁に粘着テープを貼り、CNT含有樹脂複合体より基板を剥離することによりCNT含有樹脂フィルムを得た。
得られたCNT含有樹脂フィルムを幅10mmの短冊状に切り出し、引張試験機(商品名:小型卓上試験機EZ−TEST、株式会社島津製作所製)を用いて、引張速度1mm/minで引張試験をした。CNT含有樹脂フィルムの引張試験の結果は表1に示す。
【0028】
(比較例1)
CNTを用いない以外は実施例1と同様の操作を行いPMMAフィルムを得た。
【0029】
(比較例2)
多層CNT(CNT社製 C tube 100)1.2mgを15質量%PMMA(平均分子量28万、三菱レイヨン株式会社製)のジメチルアセトアミド溶液8.0gに加え、マグネチックスターラーで攪拌しながら、実施例1と同様に超音波ホモジナイズ処理を行い、CNT含有組成物を得た。
得られたCNT含有組成物をベーカーアプリケーターを用いてガラス基板上に厚さ250μmに塗布後、1.33×10Pa、50℃で2時間乾燥させることで、CNT含有樹脂組成物の塗膜を得た。
CNT含有樹脂フィルムは膜厚が均一でなく非常に脆いものであり、基板から剥離して測定することは不可能であった。
【0030】
(比較例3)
多層CNT(CNT社製 C tube 100)1.2mgを15質量%PMMA(平均分子量28万、三菱レイヨン株式会社製)のジメチルアセトアミド溶液8.0gに加え、マグネチックスターラーで攪拌しながら、実施例1と同様に超音波ホモジナイズ処理を行い、CNT含有組成物を得た。
得られたCNT含有組成物をベーカーアプリケーターを用いてガラス基板上に厚さ250μmに塗布後、1.01×10Pa、15℃で2時間乾燥させた。
乾燥後の塗膜は白化しており、非常に脆く、基板から剥離して測定することは不可能であった。
【0031】
(実施例2)
<CNT含有樹脂複合体の製造2>
酸化多層CNT(CNT社製 C tube 200)1.2mgを15質量%PMMA(平均分子量28万、三菱レイヨン株式会社製)のジメチルアセトアミド溶液8.0gに加え、マグネチックスターラーで攪拌しながら、実施例1と同様に超音波ホモジナイズ処理を行い、CNT含有組成物を得た。
得られたCNT含有組成物をベーカーアプリケーターを用いてガラス基板上に厚さ250μmに塗布後、1.01×10Pa、50℃で2時間予備乾燥させた。さらに1.33×10Pa、50℃で2時間乾燥させることで、CNT含有樹脂組成物の塗膜を得た。
得られたCNT含有樹脂組成物の塗膜から、実施例1と同様にCNT含有樹脂フィルムを得て、引張試験をした。CNT含有樹脂フィルムの引張試験の結果は表1に示す。
【0032】
(実施例3)
<CNT含有樹脂複合体の製造3>
多層CNT(CNT社製 C tube 100)1.2mgを15質量%PMMA(平均分子量28万、三菱レイヨン株式会社製)のジメチルアセトアミド溶液8.0g、下記製造例1で得た3%ポリ(2−スルホ−5−メトキシ−1,4−イミノフェニレン)ベンザルコニウム塩のジメチルアセトアミド溶液0.4gに加え、マグネチックスターラーで攪拌しながら、実施例1と同様に超音波ホモジナイズ処理を行い、CNT含有組成物を得た。
得られたCNT含有組成物をベーカーアプリケーターを用いてガラス基板上に厚さ250μmに塗布後、1.01×10Pa、50℃で2時間予備乾燥させた。さらに1.33×10Pa、50℃で2時間乾燥させることで、CNT含有樹脂組成物の塗膜を得た。
得られたCNT含有樹脂組成物の塗膜から、実施例1と同様にCNT含有樹脂フィルムを得て、引張試験をした。CNT含有樹脂フィルムの引張試験の結果は表1に示す。
【0033】
(製造例1)
<ポリ(2−スルホ−5−メトキシ−1,4−イミノフェニレン)ベンザルコニウム塩の製造>
2−アミノアニソール−4−スルホン酸100mmolを25℃で4mol/lのトリエチルアミン水溶液に攪拌溶解し、これにペルオキソ二硫酸アンモニウム100mmolの水溶液を滴下した。滴下終了後、25℃で12時間更に攪拌した後に反応生成物を濾別洗浄後乾燥し、水溶性導電性ポリマーであるポリ(2−スルホ−5−メトキシ−1,4−イミノフェニレン)の粉末15gを得た。
この水溶性導電性ポリマー5gを水95gに攪拌溶解し、水溶性導電性ポリマー水溶液を調整した。得られた水溶性導電性ポリマー水溶液に塩化ベンザルコニウム10gを水95gに攪拌溶解した塩化ベンザルコニウム水溶液を滴下した。滴下終了後、25℃で1時間更に攪拌した後に反応生成物を濾別洗浄後乾燥し、ポリ(2−スルホ−5−メトキシ−1、4−イミノフェニレン)ベンザルコニウム塩10gを得た。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に記載の結果より、CNTを含有しない比較例1に比べ、実施例1は引張弾性率が高い。このことから、CNT添加による弾性向上が図れたことがわかる。また、実施例2の結果から、CNTに酸化多層CNT(カルボキシル基を含有)を用いることで、引張弾性率が向上していることがわかった。一方、比較例2、3は本発明の(III)工程の要件を満たしていないため、フィルム化ができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)カーボンナノチューブを、樹脂と溶媒を含有する混合物中に分散させてカーボンナノチューブ含有組成物を得る工程と、
(II)(I)で得られた組成物を基板上に塗布する工程と、
(III)圧力9.3×10〜1.1×10Pa、20〜200℃で0.5〜5時間予備乾燥させ、その後、圧力1.3〜8.0×10Pa、20〜200℃で0.5〜5時間減圧乾燥させ塗膜を形成させる工程とを、
有することを特徴とするカーボンナノチューブ含有樹脂複合体の製造方法。
【請求項2】
前記混合物が分散剤を含むことを特徴とする、請求項1に記載のカーボンナノチューブ含有樹脂複合体の製造方法。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブがカルボキシル基を含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ含有樹脂複合体の製造方法。
【請求項4】
前記(I)の工程を超音波印加処理と機械的混合処理を併用して行うことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載のカーボンナノチューブ含有樹脂複合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の製造方法で得られたカーボンナノチューブ含有樹脂複合体。
【請求項6】
請求項5に記載のカーボンナノチューブ含有樹脂複合体から基板を剥離することにより得られるカーボンナノチューブ含有樹脂フィルム。


【公開番号】特開2008−308582(P2008−308582A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157678(P2007−157678)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】