説明

カーボンナノチューブ含有硬化性組成物、及びその硬化塗膜を有する複合体

【課題】 カーボンナノチューブ自体の特性を損なうことなく、カーボンナノチューブを分散化あるいは可溶化することが可能であり、長期保存においてもカーボンナノチューブが分離、凝集せず、導電性、成膜性、成形性に優れ、簡便な方法で基材へ塗布、被覆可能で、しかもその塗膜が耐水性、耐候性、耐擦傷性及び硬度に優れているカーボンナノチューブ含有硬化性組成物、これからなる塗膜を有する複合体を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブ(A)、シロキサン化合物(B)活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤(C)を含有し、さらに必要に応じて導電性ポリマー(D)、溶媒(E)、高分子化合物(F)、塩基性化合物(G)、界面活性剤(H)、シランカップリング剤(I)、コロイダルシリカ(J)を含むカーボンナノチューブ含有硬化性組成物と、基材の少なくとも一つの面上に該組成物からなる硬化膜を持つ複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ含有硬化性組成物、及びその硬化塗膜を有する複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブが1991年に飯島等によってはじめて発見されて以来(非特許文献1)、その物性評価、機能解明が行われており、その応用に関する研究開発も盛んに実施されている。しかしながら、カーボンナノチューブは、絡まった状態で製造されるため、取り扱いが非常に煩雑になるという問題がある。樹脂や溶液に混合した場合は、カーボンナノチューブはさらに凝集し、カーボンナノチューブ本来の特性が発揮できないという問題もある。
【0003】
この為、カーボンナノチューブを物理的に処理したり、化学的に修飾したりして、溶媒や樹脂に均一に分散又は溶解する試みがなされている。例えば、単層カーボンナノチューブを強酸中で超音波処理することにより単層カーボンナノチューブを短く切断して分散する方法が提案されている(非特許文献2)。しかしながら、強酸中で処理を実施するため、操作が煩雑となり、工業的には適した方法ではなく、その分散化の効果も十分とはいえない。
【0004】
そこで、上記提案のように切断された単層カーボンナノチューブは、その両末端が開いており、カルボキシル基等の含酸素官能基で終端されていることに着目し、カルボキシル基を酸塩化物にした後、アミン化合物と反応させ長鎖アルキル基を導入し、溶媒に可溶化することが提案されている(非特許文献3)。しかしながら、本方法では単層カーボンナノチューブに共有結合によって長鎖アルキル基を導入しているため、カーボンナノチューブのグラフェンシート構造の損傷やカーボンナノチューブ自体の特性に影響を与えるなどの問題点が残されている。
【0005】
他の試みとしては、ピレン分子が強い相互作用によってカーボンナノチューブ表面上に吸着することを利用して、ピレン分子にアンモニウムイオンを含有する置換基を導入し、これを単層カーボンナノチューブとともに水中で超音波処理し、単層カーボンナノチューブに非共有結合的に吸着させることにより水溶性の単層カーボンナノチューブを製造する方法が報告されている(非特許文献4)。この方法によれば、非共有結合型の化学修飾のためグラフェンシートの損傷などは抑制されるが、非導電性のピレン化合物が存在するため、カーボンナノチューブの導電性能を低下させるという課題がある。
【0006】
汎用の界面活性剤やポリマー系分散剤を使用して、カーボンナノチューブ自体の特性を損なうことなく、カーボンナノチューブを水、有機溶剤等の各種溶剤に分散化あるいは可溶化して分散液を得る方法が提案されている(特許文献1、特許文献2)。該分散液は溶液状態ではカーボンナノチューブが安定に分散しているとの記載があるが、該分散液から形成される塗膜や複合体中でのカーボンナノチューブの分散状態やその導電性に関しては未だ不十分である。
【0007】
また、カーボンナノチューブ、導電性ポリマー、溶媒からなる組成物、及びそれから製造される複合体が提案されている(特許文献3)。該組成物及び複合体は導電性ポリマーを共存させることでカーボンナノチューブ自体の特性を損なうことなく、カーボンナノチューブを水、有機溶剤、含水有機溶媒等の溶媒に分散化あるいは可溶化し、長期保存安定性に優れると報告されている。導電性ポリマーが共存したカーボンナノチューブ組成物は、導電性、成膜性、成形性に優れ、簡便な方法で基材へ塗布、被覆可能であるが、塗膜形成方法、特に塗膜の耐擦傷性については未だ十分とは言えないという問題点があった。
【0008】
一方、近年、透明ガラスの代替として、耐破砕性、軽量性に優れるアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂などの透明プラスチック材料が広く使用されるようになってきた。しかし、透明プラスチック材料はガラスに比較して表面硬度が低いので、表面に傷を受け易いという問題を有している。
【0009】
そこで、従来よりプラスチック材料の耐擦傷性を改良すべく多くの試みがなされてきた。これらの試みの中で、特に高い耐擦傷性をプラスチック材料に付与するために、アルコキシシラン化合物からなるシリカ系組成物をプラスチック材料の表面に塗布し、熱により硬化させて保護塗膜を形成する方法がある(特許文献4,特許文献5)。しかし、このような方法では、保護塗膜を形成する為に数十分から数時間もの加熱時間が必要となり、生産性の点で問題がある。
【0010】
これらの問題を解決するために、シロキサン骨格を有する直鎖型無機系オリゴマーとカチオン重合開始剤を必須成分とする組成物を、活性エネルギー線照射により硬化して無機系の保護塗膜を形成する方法が提案されている(特許文献6)。しかし、このような無機系の塗膜の形成においては、直鎖型の無機系オリゴマー(アルキルシリケート類)とカチオン重合開始剤からなる組成物が基板上にコーティングされ、さらに活性エネルギー線が照射されることで初めて架橋構造が形成されて硬化塗膜となるので、短時間の活性エネルギー線照射のみでは十分な架橋構造が形成されず、塗膜物性が発現されにくいという問題がある。特に、耐擦傷性の点で、十分な性能が発現されにくい。また、硬化に際して短時間に急激な重縮合反応が起こり、それに伴う収縮により発生する応力で硬化塗膜にクラックが発生したり、基材との密着性が低下したりするという問題もある。
【0011】
さらに、そのような点を改善するために、アルキルシリケート類と活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤に加えて、重合性と柔軟性に優れたカチオン重合性のエポキシ化合物や、活性エネルギー線感応性のラジカル重合開始剤とラジカル重合性のアクリル化合物などを配合することにより、クラックの低減と塗膜密着性を付与する方法が提案されている。しかし、これら有機化合物の配合量によっては、無機系保護塗膜の特徴である高硬度、高耐擦傷性が低下し易いという問題がある。
【特許文献1】WO2002/016257号公報
【特許文献2】特開2005−35810号公報
【特許文献3】WO2004/039893号公報
【特許文献4】特開昭48−26822号公報
【特許文献5】特開昭55−94971号公報
【特許文献6】特開2001−348515号公報
【非特許文献1】S.Iijima,Nature,354,56(1991)
【非特許文献2】R.E.Smalley等,Science,280,1253(1998)
【非特許文献3】J.Chen等,Science,282,95(1998)
【非特許文献4】Nakajima等,Chem.Lett.,638(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、カーボンナノチューブ自体の特性を損なうことなく、カーボンナノチューブを分散化あるいは可溶化することが可能であり、長期保存においてもカーボンナノチューブが分離、凝集せず、導電性、成膜性、成形性に優れ、簡便な方法で基材へ塗布、被覆可能で、しかもその塗膜が耐水性、耐候性、機械強度、耐擦傷性及び硬度に優れているカーボンナノチューブ含有硬化性組成物、及びその硬化塗膜を有する複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、これらの課題を解決するため鋭意研究をした結果、カーボンナノチューブを分散したシロキサン化合物をカチオン重合開始剤で硬化することにより耐擦傷性に優れる硬化塗膜を形成できることを、更に導電性ポリマーを共存させることによりカーボンナノチューブの分散が促進されより効果的な硬化塗膜を形成できることを見出だし、本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明の第1は、カーボンナノチューブ(A)、シロキサン化合物(B)および活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤(C)を含有することを特徴とするカーボンナノチューブ含有硬化性組成物に関する。本発明のカーボンナノチューブ含有硬化性組成物は、更に導電性ポリマー(D)含有することで分散性、導電性等を向上することができる。
【0015】
本発明の第2は、基材の少なくとも一つの面上に、請求項1または請求項2記載のカーボンナノチューブ含有硬化性組成物を塗工し、活性エネルギー線を照射及び/または常温で放置若しくは加熱処理して形成した硬化塗膜を有することを特徴とする複合体に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のカーボンナノチューブ含有硬化性組成物は、カーボンナノチューブ自体の特性を損なうことなく、カーボンナノチューブが分散化あるいは可溶化することが可能であり、長期保存においても分離、凝集しない。また、本発明のカーボンナノチューブ含有硬化性組成物によれば、該組成物を基材に塗工し、活性エネルギー線を照射することにより、極めて短時間で硬化塗膜を形成することが出来る。そしてカーボンナノチューブ(A)及びシロキサン化合物(B)、更には導電性ポリマー(D)自体の特性を充分発揮させて、湿度依存性がなく導電性、成膜性に優れた塗膜を得ることができる。しかも、その塗膜は、耐水性、耐候性、機械強度、耐擦傷性及び硬度に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
<カーボンナノチューブ(A)>
本発明のカーボンナノチューブ含有硬化性組成物の必須構成成分であるカーボンナノチューブ(A)は、特に限定されるものではなく、通常のカーボンナノチューブ、すなわち、単層カーボンナノチューブ、何層かが同心円状に重なった多層カーボンナノチューブ、これらがコイル状になったもの等を用いることができる。
【0018】
カーボンナノチューブ(A)について更に詳しく説明すると、厚さ数原子層のグラファイト状炭素原子面を丸めた円筒が、単層あるいは複数個入れ子構造になったものであり、nmオーダーの外径の極めて微小な物質が例示される。また、カーボンナノチューブの片側が閉じた形をしたカーボンナノホーンやその頭部に穴があいたコップ型のナノカーボン物質なども用いることができる。
【0019】
また、カーボンナノチューブ(A)の類縁体であるフラーレン、金属内包フラーレン、玉葱状フラーレン、カーボンナノファイバー、気相成長カーボン(VGCF)、ピーポッド、カーボンナノ粒子なども用いることができる。
【0020】
本発明におけるカーボンナノチューブ(A)の製造方法は、特に限定されるものではない。具体的には、二酸化炭素の接触水素還元、アーク放電法、レーザー蒸発法、CVD法、気相成長法、気相流動法、一酸化炭素を高温高圧化で鉄触媒と共に反応させて気相で成長させるHiPco法等が挙げられる。
【0021】
これらの製造方法によって得られるカーボンナノチューブ(A)としては、好ましくは単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブであり、更に洗浄法、遠心分離法、ろ過法、酸化法、クロマトグラフ法等の種々の精製法によって、より高純度化されたカーボンナノチューブの方が、各種機能を十分に発現することから、好ましく用いられる。
【0022】
また、カーボンナノチューブ(A)としては、ボールミル、振動ミル、サンドミル、ロールミルなどのボール型混練装置等を用いて粉砕しているものや、化学的、物理的処理によって短く切断されているものも用いることができる。
【0023】
<シロキサン化合物(B)>
本発明で使用されるシロキサン化合物とは、分子内に−O−Si−O−の構造を有する化合物の総称である。本発明で使用されるシロキサン化合物には特に限定はないが、例えば、アルキルシリケートやオルガノシラン、あるいはこれらの縮合物などが好適に用いられる。
【0024】
アルキルシリケートは、テトラアルコキシシランおよびこれらを直線状に重縮合した化合物の総称であり、下記一般式(1)であらわされる。
【化1】

(式中R45、R46、R47、およびR48はそれぞれ炭素原子数1〜5のアルキル基を示し、nは1〜20の整数、好ましくは4〜10の整数を示す)
【0025】
アルキルシリケートを予め加水分解・縮合し、アルキルシリケート分子間に架橋構造を形成して高分子量化することにより、組成物とした際の硬化性の向上と、得られる硬化塗膜の物性を格段に向上させることができる。また、高分子量化したオリゴマーを用いることにより、硬化時の重縮合による収縮とそれに伴い発生する応力を低減でき、その結果クラックの低減と塗膜密着性を向上することができる。
【0026】
アルキルシリケート類の繰り返し単位数nが20より大きいと、加水分解・縮合の際にゲル化し易くなる。良好な硬化性、塗膜物性が得られる点とゲル化し難い点から、nは4〜10(シリカ換算濃度:約51〜54質量%に相当)の整数であることが好ましい。ここで、シリカ換算濃度とは、アルキルシリケート類を完全に加水分解し、縮合させた際に得られるSiO2の質量を意味する。
【0027】
一般式(1)で示されるアルキルシリケートの具体例としては、R45〜R48がメチル基であるメチルシリケート、R45〜R48がエチル基であるエチルシリケート、R45〜R48がイソプロピル基であるイソプロピルシリケート、R45〜R48がn−プロピル基であるn−プロピルシリケート、R45〜R48がn−ブチル基であるn−ブチルシリケート、R45〜R48がn−ペンチル基であるn−ペンチル基シリケート等が挙げられる。中でも、製造が容易な点、加水分解速度が速い点から、メチルシリケート、エチルシリケートが好ましい。
【0028】
アルキルシリケートの加水分解・縮合は、既知の方法を用いて行うことができる。例えば、アルキルシリケートをアルコール類に混合し、さらに水(アルキルシリケート類1モルに対して、例えば水1〜1000モル)および塩酸や酢酸などの酸を加えて溶液を酸性(例えばpH2〜5)とし、攪拌する方法がある。また、アルキルシリケートをアルコール類に混合し、さらに水(アルキルシリケート1モルに対して、例えば1〜1000モル)を加えて加熱(例えば30〜100℃)する方法がある。加水分解に際して発生するアルコールは、系外に留去してもよい。加水分解に続く縮合は、加水分解状態にあるアルキルシリケートを放置することにより進行させることができる。その際、pHを中性付近(例えば、pH6〜7)に制御することにより、縮合の進行を速めることができる。縮合に際して発生する水は、系外に留去してもよい。
【0029】
本発明で使用するオルガノシランとは、Si原子に直接有機基が1〜3個、アルコキシ基が1〜3個結合した化合物の総称である。オルガノシランの具体例としては、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。オルガノシランの加水分解・縮合は、アルキルシリケートの加水分解・縮合と同様の方法で行うことができる。尚、アルキルシリケートの加水分解・縮合に際して、オルガノシランを共存させ、本発明の効果を損なわない範囲で共縮合してもかまわない。
【0030】
<シランカップリング剤(I)>
また、本発明においては、シロキサン化合物(B)の一種としてシランカップリング剤(I)を併用することができる。シランカップリング剤(I)を併用したカーボンナノチューブ含有硬化性組成物から得られる塗膜の耐水性は著しく向上する。シランカップリング剤(I)としては、下記一般式(31)で示されるシランカップリング剤(I)が好ましく用いられる。
【化2】

(式(31)中、R42、R43、R44は各々独立に、水素、炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基、炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルコキシ基、アミノ基、アセチル基、フェニル基、ハロゲン基よりなる群から選ばれた基であり、Xは、
【化3】

を示し、l及びmは0〜6までの数であり、Yは、水酸基、チオール基、アミノ基、エポキシ基及びエポキシシクロヘキシル基よりなる群から選ばれた基である。)
【0031】
具体的に、エポキシ基を持つものとしては、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。アミノ基を持つものとしては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、β−アミノエチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロポキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。チオール基を持つものとしては、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、β−メルカプトエチルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。水酸基を持つものとしてはβ−ヒドロキシエトキシエチルトリエトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。エポキシシクロヘキシル基を持つものとしては、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0032】
<活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤(C)>
本発明で使用する活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤(C)は、可視光線、紫外線、熱線、電子線などの活性エネルギー線によりカチオン重合開始反応を起こす開始剤である。可視光線、紫外線により酸を発生する光感応性カチオン重合開始剤、熱線により酸を発生する熱感応性カチオン重合開始剤が好ましい。中でも、活性が高い点、プラスチック材料に熱劣化を与えない点から、光感応性カチオン重合開始剤がより好ましい。
【0033】
光感応性カチオン重合開始剤としては、例えば、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、セレニウム塩、オキソニウム塩、アンモニウム塩化合物等が挙げられ、好ましくはヨードニウム塩、スルホニウム塩等が用いられる。具体例としては、イルガキュア250(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商品名)、アデカオプトマーSP−150、SP−170(以上、旭電化工業(株)製、商品名)、サイラキュアUVI−6970、サイラキュアUVI−6974、サイラキュアUVI−6990、サイラキュアUVI−6992、サイラキュアUVI−6950(以上、ダウケミカル日本社製、商品名)、DAICATII(ダイセル化学工業社製、商品名)、UVAC1591(ダイセル・ユーシービー(株)社製、商品名)、CI−2734、CI−2855、CI−2823、CI−2758(以上、日本曹達(株)製、商品名)などが挙げられる。
【0034】
<導電性ポリマー(D)>
本発明では導電性ポリマーを併用することにより、カーボンナノチューブの溶解性・分散性が向上し、安定な硬化性組成物が得られ、その結果、硬化塗膜の強度、硬度等の物性や導電性などを更に向上させることが出来る。本発明で使用される導電性導電性ポリマー(D)は、フェニレンビニレン、ビニレン、チエニレン、ピロリレン、フェニレン、イミノフェニレン、イソチアナフテン、フリレン、カルバゾリレン等を繰り返し単位として含むπ共役系高分子である。この中でも特にチエニレン、ピロリレン、イミノフェニレン、フェニレンビニレン、カルバゾリレン、イソチアナフテンを含む骨格を有する導電性ポリマーが好ましく用いられる。
【0035】
導電性ポリマー(D)の中でも、溶解性、導電性、製膜性などの観点からスルホン酸基及び/またはカルボキシル基を有するπ共役系の水溶性導電性ポリマーあるいはその塩が好ましく用いられ、特に、スルホン酸基のアンモニウム塩(−SO3-+ )及び/またはカルボキシル基のアンモニウム塩(−COO-+ )を有するπ共役系高分子が好適に用いられる。ここで、スルホン酸基(のアンモニウム塩)及び/またはカルボキシル基(のアンモニウム塩)を有する導電性ポリマーとは、π共役系高分子の骨格または該高分子中の窒素原子上に、スルホン酸基(のアンモニウム塩)及び/またはカルボキシル基(のアンモニウム塩)、あるいはスルホン酸基(のアンモニウム塩)及び/またはカルボキシル基(のアンモニウム塩)で置換されたアルキル基またはエーテル結合を含むアルキル基を有している導電性ポリマーが挙げられる。ここで、前記アンモニウム塩のアンモニウムイオン(M+ )は、下記一般式(2)で示されるものである。
【化4】

(式(2)中、R48〜R51は各々独立に水素、炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基、フェニル基、ベンジル基、R35OH、CONHまたはNHであり、R48〜R51うのうち少なくとも一つが炭素数5以上の基である。なお、R35は炭素数1〜24のアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基である。)
【0036】
スルホン酸及び/またはカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマーとしては、例えば、特開昭61−197633号公報、特開昭63−39916号公報、特開平01−301714号公報、特開平05−504153号公報、特開平05−503953号公報、特開平04−32848号公報、特開平04−328181号公報、特開平06−145386号公報、特開平06−56987号公報、特開平05−226238号公報、特開平05−178989号公報、特開平06−293828号公報、特開平07−118524号公報、特開平06−32845号公報、特開平06−87949号公報、特開平06−256516号公報、特開平07−41756号公報、特開平07−48436号公報、特開平04−268331号公報、特開平09−59376号公報、特開2000−172384号公報、特開平06−49183号公報、特開平10−60108号公報に示された水溶性導電性ポリマーが好ましく用いられる。
【0037】
また、スルホン酸及び/またはカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマーは、アンモニウム塩類及び/またはアミン類と反応させることにより、本発明に用いられるスルホン酸基のアンモニウム塩及び/またはカルボキシル基のアンモニウム塩を有する導電性ポリマーを合成する際の原料としても用いることができる。
【0038】
好ましいスルホン酸及び/またはカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマーあるいはスルホン酸基のアンモニウム塩及び/またはカルボキシル基のアンモニウム塩を有する導電性ポリマーは、下記一般式(3)〜(11)から選ばれた少なくとも一種以上の繰り返し単位を、ポリマー全体の繰り返し単位の総数中に20〜100%含有する導電性ポリマーである。
【0039】
【化5】

(式(3)中、R1 、R2 は各々独立に、H、−SO3-、−SO3-+ 、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3-+ 、−R35SO3 H、−OCH3 、−CH3 、−C25、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R352 、−NHCOR35、−OH、−O- 、−SR35、−OR35、−OCOR35、−NO2 、−COO-+ 、−COOH、−R35COOH、−R35COO-+ 、−COOR35、−COR35、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、M+ はアンモニウムイオンであり、R35は炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、かつR1 、R2 のうち少なくとも一つが−SO3-、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3 H、−COOH、−R35COOH、及び−SO3-+ 、−R35SO3-+ 、−COO-+ 、−R35COO-+ からなる群より選ばれた基である。)
【0040】
【化6】

(式(4)中、R3 、R4 は各々独立に、H、−SO3-、−SO3-+ 、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3-+ 、−R35SO3 H、−OCH3 、−CH3 、−C25、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R352 、−NHCOR35、−OH、−O- 、−SR35、−OR35、−OCOR35、−NO2 、−COO-+ 、−COOH、−R35COOH、−R35COO-+ 、−COOR35、−COR35、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、M+ はアンモニウムイオンであり、R35は炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、かつR3 、R4 のうち少なくとも一つが−SO3-、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3 H、−COOH、−R35COOH、及び−SO3-+ 、−R35SO3-+ 、−COO-+ 、−R35COO-+ からなる群より選ばれた基である。)
【0041】
【化7】

(式(5)中、R5 〜R8 は各々独立にH、−SO3-、−SO3-+ 、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3-+ 、−R35SO3 H、−OCH3 、−CH3 、−C25、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R352 、−NHCOR35、−OH、−O- 、−SR35、−OR35、−OCOR35、−NO2 、−COO-+ 、−COOH、−R35COOH、−R35COO-+ 、−COOR35、−COR35、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、M+ はアンモニウムイオンであり、R35は炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、かつR5 〜R8 のうち少なくとも一つが−SO3-、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3 H、−COOH、−R35COOH、及び−SO3-+ 、−R35SO3-+ 、−COO-+ 、−R35COO-+ からなる群より選ばれた基である。)
【0042】
【化8】

(式(6)中、R9 〜R13は各々独立に、H、−SO3-、−SO3-+ 、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3-+ 、−R35SO3 H、−OCH3 、−CH3 、−C25、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R352 、−NHCOR35、−OH、−O- 、−SR35、−OR35、−OCOR35、−NO2 、−COO-+ 、−COOH、−R35COOH、−R35COO-+ 、−COOR35、−COR35、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、M+ はアンモニウムイオンであり、R35は炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、かつR9 〜R13のうち少なくとも一つが−SO3-、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3 H、−COOH、−R35COOH、及び−SO3-+ 、−R35SO3-+ 、−COO-+ 、−R35COO-+ からなる群より選ばれた基である。)
【0043】
【化9】

(式(7)中、R14は、−SO3-、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3 H、−COOH、−R35COOH、及び−SO3-+ 、−R83SO3-+ 、−COO-+ 及び−R83COO-+ からなる群より選ばれ、ここで、M+ はアンモニウムイオンであり、R83は炭素数1〜24のアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基である。)
【0044】
【化10】

(式(8)中、R52〜R57は各々独立に、H、−SO3-、−SO3-+ 、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3-+ 、−R35SO3 H、−OCH3 、−CH3 、−C25、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R352 、−NHCOR35、−OH、−O- 、−SR35、−OR35、−OCOR35、−NO2 、−COO-+ 、−COOH、−R35COOH、−R35COO-+ 、−COOR35、−COR35、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、M+ はアンモニウムイオンであり、R35は炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、かつR52〜R57のうち少なくとも一つが−SO3-、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3 H、−COOH、−R35COOH、及び−SO3-+ 、−R35SO3-+ 、−COO-+ 、−R35COO-+ からなる群より選ばれた基であり、Htは、NR82、S、O、Se及びTeよりなる群から選ばれたヘテロ原子基であり、R82は水素及び炭素数1〜24の直鎖または分岐のアルキル基、もしくは置換、非置換のアリール基を表し、R52〜R57の炭化水素鎖は互いに任意の位置で結合して、かかる基により置換を受けている炭素原子と共に少なくとも1つ以上の3〜7員環の飽和または不飽和炭化水素の環状構造を形成する二価鎖を形成してもよく、このように形成される環状結合鎖にはカルボニル、エーテル、エステル、アミド、スルフィド、スルフィニル、スルホニル、イミノの結合を任意の位置に含んでもよく、nはヘテロ環と置換基R53〜R56を有するベンゼン環に挟まれた縮合環の数を表し、0または1〜3の整数である。)
【0045】
【化11】

(式(9)中、R58〜R66は各々独立に、H、−SO3-、−SO3-+ 、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3-+ 、−R35SO3 H、−OCH3 、−CH3 、−C25、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R352 、−NHCOR35、−OH、−O- 、−SR35、−OR35、−OCOR35、−NO2 、−COO-+ 、−COOH、−R35COOH、−R35COO-+ 、−COOR35、−COR35、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、M+ はアンモニウムイオンであり、R35は炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、かつR58〜R66のうち少なくとも一つが−SO3-、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3 H、−COOH、−R35COOH、及び−SO3-+ 、−R35SO3-+ 、−COO-+ 、−R35COO-+ からなる群より選ばれた基であり、nは置換基R58及びR59を有するベンゼン環と置換基R61〜R64を有するベンゼン環に挟まれた縮合環の数を表し、0または1〜3の整数である。)
【0046】
【化12】

(式(10)中、R67〜R76は各々独立に、H、−SO3-、−SO3-+ 、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3-+ 、−R35SO3 H、−OCH3 、−CH3 、−C25、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R352 、−NHCOR35、−OH、−O- 、−SR35、−OR35、−OCOR35、−NO2 、−COO-+ 、−COOH、−R35COOH、−R35COO-+ 、−COOR35、−COR35、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、M+ はアンモニウムイオンであり、R35は炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、かつR67〜R76のうち少なくとも一つが−SO3-、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3 H、−COOH、−R35COOH、及び−SO3-+ 、−R35SO3-+ 、−COO-+ 、−R35COO-+ からなる群より選ばれた基であり、nは置換基R67〜R69を有するベンゼン環とベンゾキノン環に挟まれた縮合環の数を表し、0または1〜3の整数である。)
【0047】
【化13】

(式(11)中、R77〜R81は各々独立に、H、−SO3-、−SO3-+ 、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3-+ 、−R35SO3 H、−OCH3 、−CH3 、−C25、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R352 、−NHCOR35、−OH、−O- 、−SR35、−OR35、−OCOR35、−NO2 、−COO-+ 、−COOH、−R35COOH、−R35COO-+ 、−COOR35、−COR35、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、M+ はアンモニウムイオンであり、R35は炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、かつR77〜R81のうち少なくとも一つが−SO3-、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3 H、−COOH、−R35COOH、及び−SO3-+ 、−R35SO3-+ 、−COO-+ 、−R35COO-+ からなる群より選ばれた基であり、Xa-は、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、フッ素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、リン酸イオン、ほうフッ化イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、及びトリフルオロメタンスルホン酸イオンよりなる1〜3価の陰イオン群より選ばれた少なくとも一種の陰イオンであり、aはXのイオン価数を表し、1〜3の整数であり、pはドープ率であり、その値は0.001〜1である。)
【0048】
その他の好ましいスルホン酸及び/またはカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマーとして、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフェートも用いられる。この水溶性導電性ポリマーは、導電性ポリマーの骨格にはスルホン酸基は導入されていないが、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸が付与している構造を有している。
また、好ましいスルホン酸基のアンモニウム塩及び/またはカルボキシル基のアンモニウム塩を有する導電性ポリマーとして、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホン酸アンモニウムまたは置換アンモニウム塩も用いられる。この導電性ポリマーは、導電性ポリマーの骨格にはスルホン酸アンモニウム塩基は導入されていないが、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩が付加している構造を有している。これらのポリマーは、3,4−エチレンジオキシチオフェン(バイエル社製 Baytron M)をトルエンスルホン酸鉄(バイエル社製 Baytron C)などの酸化剤で重合することにより製造されるポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の付加体或いはこの付加体をアミン類またはアンモニアと反応させることにより製造することが可能である。また、このポリマーは、バイエル社製 Baytron P或いはBaytron Pとアミン類または/及びアンモニウム類とを反応させることにより製造することも可能である。
【0049】
以上のスルホン酸基のアンモニウム塩及び/またはカルボキシル基のアンモニウム塩を有する導電性ポリマーのうち、下記一般式(12)で表される繰り返し単位を、ポリマー全体の繰り返し単位の総数中に20〜100%含む導電性ポリマーが更に好ましく用いられる。
【化14】

(式(12)中、yは0<y<1の任意の数を示し、R15〜R32は各々独立に、H、−SO3-、−SO3-+ 、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3-+ 、−R35SO3 H、−OCH3 、−CH3 、−C25、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R352 、−NHCOR35、−OH、−O- 、−SR35、−OR35、−OCOR35、−NO2 、−COO-+ 、−COOH、−R35COOH、−R35COO-+ 、−COOR35、−COR35、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、M+ はアンモニウムイオンであり、R35は炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、R15〜R32のうち少なくとも一つが−SO3-、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3 H、−COOH、−R35COOH、及び−SO3-+ 、−R35SO3-+ 、−COO-+ 、−R35COO-+ からなる群より選ばれた基である。)
【0050】
ここで、ポリマーの繰り返し単位の総数に対するスルホン酸基及び/またはカルボキシル基あるいはスルホン酸基のアンモニウム塩及び/またはカルボキシル基のアンモニウム塩を有する繰り返し単位の含有量が50%以上の導電性ポリマーは、有機溶媒、含水有機溶媒等の溶媒への溶解性が非常に良好なため、好ましく用いられる。スルホン酸基及び/またはカルボキシル基あるいはスルホン酸基のアンモニウム塩及び/またはカルボキシル基のアンモニウム塩を有する繰り返し単位の含有量は、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上、特に好ましくは100%である。
【0051】
また、芳香環に付加する置換基は、導電性及び溶解性の面からアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基等が好ましく、特にアルコキシ基を有する導電性ポリマーが最も好ましい。これらの組み合わせの中で最も好ましい水溶性導電性ポリマーを下記一般式(13)に示す。
【化15】

(式(13)中、R33は、スルホン酸基、カルボキシル基、及びこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩及び置換アンモニウム塩からなる群より選ばれた1つの基であり、そのうち少なくとも一つがスルホン酸基、カルボキシル基、及びスルホン酸基のアンモニウム塩、カルボキシル基のアンモニウム塩からなる群より選ばれた基であり、R34は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ドデシル基、テトラコシル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘプトキシ基、ヘクソオキシ基、オクトキシ基、ドデコキシ基、テトラコソキシ基、フルオロ基、クロロ基及びブロモ基からなる群より選ばれた1つの基を示し、Xは0<X<1の任意の数を示し、nは重合度を示し3以上である。)
【0052】
本発明における導電性ポリマーとしては、化学重合または電解重合などの各種合成法によって得られるポリマーを用いることができる。例えば、本発明者らが提案した特開平7−196791号公報、特開平7−324132号公報に記載の合成方法が適用される。すなわち、下記一般式(14)で表される酸性基置換アニリン、そのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、置換アンモニウム塩からなる群より選ばれた1つの化合物を、塩基性化合物を含む溶液中で酸化剤により重合させることにより得られた導電性ポリマーである。
【化16】

(式(14)中、R36〜R41は各々独立に、H、−SO3-、−SO3-+ 、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3-+ 、−R35SO3 H、−OCH3 、−CH3 、−C25、−F、−Cl、−Br、−I、−N(R352 、−NHCOR35、−OH、−O- 、−SR35、−OR35、−OCOR35、−COO-+ 、−COOH、−R35COOH、−R35COO-+ 、−COOR35、−COR35、−CHO及び−CNからなる群より選ばれ、ここで、M+ はアンモニウムイオンであり、R35は炭素数1〜24のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、R36〜R41のうち少なくとも一つが−SO3-、−SO3 H、−R35SO3-、−R35SO3 H、−COOH、−R35COOH、及び−SO3-+ 、−R35SO3-+ 、−COO-+ 、−R35COO-+ からなる群より選ばれた基である。)
【0053】
特に好ましい導電性ポリマーとしては、アルコキシ基置換アミノベンゼンスルホン酸、そのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、置換アンモニウム塩を、塩基性化合物を含む溶液中で酸化剤により重合させることにより得られた導電性ポリマーが用いられる。
【0054】
また、スルホン酸基及び/またはカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマーから、スルホン酸基のアンモニウム塩及び/またはカルボキシル基のアンモニウム塩を有する水溶性導電性ポリマーの合成方法としては、下記一般式(15)で示されるアンモニウム塩類及び/または下記一般式(16)で示されるアミン類とスルホン酸基及び/またはカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマーとを、溶液中で反応させることにより目的とする導電性ポリマーが容易に得られる。
【0055】
【化17】

(式(15)中、R148〜R151は各々独立に水素、R35OH、炭素数1〜24(C〜C24)のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいはフェニル基、ベンジル基、CONHまたはNHであり、かつR148〜R151のうち少なくとも一つが炭素数5以上の基であり、R35は炭素数1〜24のアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基であり、XZ- は水酸化物イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、フッ素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、アミド硫酸イオン、亜硫酸イオン、ホスフィン酸イオン、リン酸イオン、ピロリン酸イオン、トリポリリン酸イオン、ほうフッ化イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、吉草酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、カンファースルホン酸イオン、酪酸イオン、蟻酸イオン、トリメチル酢酸イオン、ブロモ酢酸イオン、乳酸イオン、クエン酸イオン、コハク酸イオン、シュウ酸イオン、酒石酸イオン、フマル酸イオン、マレイン酸イオン、マロン酸イオン、アスコルビン酸イオン、アニス酸イオン、アントラニル酸イオン、安息香酸イオン、ケイ皮酸イオン、フェニル酢酸イオン、フタル酸イオン、アニリンスルホン酸イオン、チオカルボン酸イオン、メチルスルフィン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、及びトリフルオロメタンスルホン酸イオンよりなる1〜3価の陰イオン群より選ばれた少なくとも1種の陰イオンを示す。また、ZはXのイオン価数であり、1〜3の整数を示し、jは1〜3の整数を示す。)
【0056】
【化18】

(式(16)中、R145〜R147は各々独立に水素、炭素数1〜24(C〜C24)のアルキル、アリールまたはアラルキル基あるいは、フェニル基、ベンジル基、R35OH、CONHまたはNHであり、かつR145〜R147のうち少なくとも一つが炭素数5以上の基である。なお、R35は炭素数1〜24のアルキレン、アリーレンまたはアラルキレン基である。)
【0057】
好ましいアンモニウム塩類としては塩化ベンザルコニウム、塩化トリメチルベンジルアンモニウム等のハロゲン化化アルキルジメチルベンジルアンモニウム、塩化アルキルジエチルベンジルアンモニウム、臭化トリエチルベンジルアンモニウム等のハロゲン化アルキルジエチルベンジルアンモニウム、塩化トリオクチルメチルアンモニウム等のハロゲン化テトラアルキルアンモニウム、水酸化トリメチルベンジルアンモニウムが用いられる。
【0058】
また、好ましいアミン類としては、ベンジルアミン、トリ−n−オクチルアミン、ジ−n−オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン、アニリン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、ジ−n−プロピルアニリン、ジ−iso−プロピルアニリン等のアニリン類が用いられる。
【0059】
本発明における導電性ポリマー(D)としては、その質量平均分子量が、GPCのポリエチレングリコール換算で、2000以上、300万以下のものが導電性、成膜性及び膜強度に優れており好ましく用いられ、質量平均分子量3000以上、100万以下のものがより好ましく、5000以上、50万以下のものが最も好ましい。
【0060】
導電性ポリマー(D)はそのままでも使用できるが、公知の方法によって酸によるドーピング処理方法を実施して、外部ドーパントを付与したものを用いることができる。例えば、酸性溶液中に、導電性ポリマー(D)を含む導電体を浸漬させるなどの処理をすることによりドーピング処理を行うことができる。ドーピング処理に用いる酸性溶液は、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸;p−トルエンスルホン酸、カンファスルホン酸、安息香酸及びこれらの骨格を有する誘導体などの有機酸;ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパン)スルホン酸、ポリビニル硫酸及びこれらの骨格を有する誘導体などの高分子酸を含む水溶液、あるいは、水−有機溶媒の混合溶液である。これらの無機酸、有機酸、高分子酸はそれぞれ単独で用いても、また2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0061】
<溶媒(E)>
本発明のカーボンナノチューブ含有硬化性組成物は構成成分として溶媒(E)を含むことによりカーボンナノチューブ(A)の分散性がより向上し、塗布性、操作性なども向上する。溶媒(E)は、カーボンナノチューブ(A)、シロキサン化合物(B)及び活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤(C)を溶解または分散するものであれば特に限定されない。導電性ポリマー(D)を溶解または分散するものであれば更に好ましい。
【0062】
溶媒(E)としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル等のエチレングリコール類;プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のプロピレングリコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;N−メチルピロリドン、 N−エチルピロリドン等のピロリドン類;ジメチルスルオキシド、γ−ブチロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチル、β−メトキシイソ酪酸メチル、α−ヒドロキシイソ酪酸メチル等のヒドロキシエステル類等;アニリン、N−メチルアニリン等のアニリン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、m−クレゾール、アセトニトリル、テトラハイドロフラン、1,4−ジオキサンが好ましく用いられる。
【0063】
導電性ポリマー(D)としてスルホン酸基のアンモニウム塩及び/またはカルボキシル基のアンモニウム塩を有する導電性ポリマーを用いる場合の好ましい溶媒(E)として、は溶解性、カーボンナノチューブ(A)の分散性の点で、有機溶媒または含水有機溶剤が好ましく用いられる。
【0064】
また、導電性ポリマー(D)としてスルホン酸及び/またはカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマーを用いる場合の好ましい溶媒(E)として、溶解性、カーボンナノチューブ(A)の分散性の点で、溶媒(E)としては、水または含水有機溶剤が好ましく用いられる。
【0065】
本発明のカーボンナノチューブ含有硬化性組成物には、更に所望により、高分子化合物(F)、塩基性化合物(G)、界面活性剤(H)、コロイダルシリカ(J)、前述したシランカップリンング剤(I)等を併用することができる。これらの併用剤は目的により単独で併用することも、複数あるいは全種併用することもできる。
【0066】
<高分子化合物(F)>
本発明のカーボンナノチューブ含有硬化性組成物において、高分子化合物(F)を添加することにより塗膜の基材密着性、強度は更に向上する。本発明に用いることができる高分子化合物(F)としては、本発明のカーボンナノチューブ含有硬化性組成物に溶解または分散可能であれば特に限定されるものではなく、具体的にはポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルコール類;ポリアクリルアマイド、ポリ(N−t−ブチルアクリルアマイド)、ポリアクリルアマイドメチルプロパンスルホン酸などのポリアクリルアマイド類;ポリビニルピロリドン類、ポリスチレンスルホン酸及びそのソーダ塩類、セルロース、アルキド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、マレイン酸樹脂、ポリカーボネート樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、スチレン樹脂、アクリル/スチレン共重合樹脂、酢酸ビニル/アクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン/マレイン酸共重合樹脂、フッ素樹脂及びこれらの共重合体などが用いられる。また、これらの高分子化合物(F)は2種以上を任意の割合で混合したものであってもよい。
【0067】
これら高分子化合物(F)の中でも、導電性ポリマー(D)としてスルホン酸基のアンモニウム塩及び/またはカルボキシル基のアンモニウム塩を有する導電性ポリマーを用いる場合は、アルキド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、マレイン酸樹脂、ポリカーボネート樹脂、酢酸ビニル樹脂、スチレン樹脂、アクリル/スチレン共重合樹脂、酢酸ビニル/アクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン/マレイン酸共重合樹脂が溶媒への溶解性、組成物の安定性、導電性の点で、好ましく用いられ、その中でも特に好ましくはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル/スチレン共重合樹脂、酢酸ビニル/アクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂のうちの1種または2種以上を混合して使用することが 溶媒への溶解性、組成物の安定性、導電性の点で、好ましい。
【0068】
これら高分子化合物(F)の中でも、スルホン酸基及び/またはカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマーを用いる場合は、水溶性高分子化合物または水系でエマルジョンを形成する高分子化合物が溶媒への溶解性、組成物の安定性、導電性の点で、好ましく用いられ、特に好ましくはアニオン基を有する高分子化合物が用いられる。また、その中でも、水系アクリル樹脂、水系ポリエステル樹脂、水系ウレタン樹脂および水系塩素化ポリオレフィン樹脂のうちの1種または2種以上を混合して使用することが好ましい。
【0069】
<塩基性化合物(G)>
本発明のカーボンナノチューブ含有硬化性組成物が導電性ポリマーを含む場合、塩基性化合物(G)は導電性ポリマーを脱ドープし、組成物中への溶解をより向上させる効果がある。また、フリーのスルホン酸基及びカルボキシル基と塩を形成することにより組成物や溶媒への溶解性が特段に向上するとともに、カーボンナノチューブ(A)の可溶化あるいは分散化が促進される。
【0070】
塩基性化合物(G)としては、特に限定されるものではないが、例えば、アンモニア、脂式アミン類、環式飽和アミン類、環式不飽和アミン類やアンモニウム塩類、無機塩基などが好ましく用いられる。
塩基性化合物(G)として用いられるアミン類の構造式を下記一般式(17)に示す。
【化19】

(式(17)中、R245〜R247は各々互いに独立に、水素、炭素数1〜4(C1 〜C4 )のアルキル基、CH2OH 、CH2CH2OH、CONH2 またはNH2 を表す。)
【0071】
塩基性化合物(G)として用いられるアンモニウム塩類の構造式を下記一般式(18)に示す。
【化20】

(式(18)中、R248〜R251は各々互いに独立に、水素、炭素数1〜4(C1 〜C4 )のアルキル基、CH2OH 、CH2CH2OH、CONH2 またはNH2 を表し、X- はOH- 、1/2・SO42-、NO3-、1/2CO32-、HCO3-、1/2・(COO)22-、またはR’COO- を表し、R’は炭素数1〜3(C1 〜C3 )のアルキル基である。)
【0072】
環式飽和アミン類としては、ピペリジン、ピロリジン、モリホリン、ピペラジン及びこれらの骨格を有する誘導体及びこれらのアンモニウムヒドロキシド化合物などが好ましく用いられる。
環式不飽和アミン類としては、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、キノリン、イソキノリン、ピロリン及びこれらの骨格を有する誘導体及びこれらのアンモニウムヒドロキシド化合物などが好ましく用いられる。
無機塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの水酸化物塩が好ましく用いられる。
【0073】
塩基性化合物(G)は2種以上を混合して用いても良い。例えば、アミン類とアンモニウム塩類を混合して用いることにより更に導電性を向上させることができる。具体的には、NH3 /(NH42CO3 、NH3 /(NH4)HCO3、NH3 /CH3COONH4 、NH3 /(NH42SO4 、N(CH33/CH3COONH4、N(CH33/(NH42SO4 などが挙げられる。またこれらの混合比は任意の割合で用いることができるが、アミン類/アンモニウム塩類=1/10〜10/0が好ましい。
【0074】
<界面活性剤(H)>
本発明のカーボンナノチューブ含有硬化性組成物は、界面活性剤(H)を加えると更に可溶化あるは分散化が促進するとともに、平坦性、塗布性及び導電性などが向上する。
【0075】
界面活性剤(H)の具体例としては、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルカルボン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、ジアルキルスルホコハク酸、α−スルホン化脂肪酸、N−メチル−N−オレイルタウリン、石油スルホン酸、アルキル硫酸、硫酸化油脂、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸、アルキルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびこれらの塩などのアニオン系界面活性剤;第一〜第三脂肪アミン、四級アンモニウム、テトラアルキルアンモニウム、トリアルキルベンジルアンモニウムアルキルピリジニウム、2−アルキル−1−アルキル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウム、N,N−ジアルキルモルホリニウム、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミド、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドの尿素縮合物、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドの尿素縮合物の第四級アンモニウムおよびこれらの塩などのカチオン系界面活性剤;N,N−ジメチル−N−アルキル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン、N,N,N−トリアルキル−N−スルホアルキレンアンモニウムベタイン、N,N−ジアルキル−N,N−ビスポリオキシエチレンアンモニウム硫酸エステルベタイン、2−アルキル−1−カルボキシメチル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインなどのベタイン類、N,N−ジアルキルアミノアルキレンカルボン酸塩などのアミノカルボン酸類などの両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸部分エステル、トリアルキルアミンオキサイドなどの非イオン系界面活性剤;およびフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノールなどのフッ素系界面活性剤が用いられる。ここで、アルキル基は炭素数1〜24が好ましく、炭素数3〜18がより好ましい。なお、界面活性剤は二種以上用いても何らさしつかえない。
【0076】
<コロイダルシリカ(J)>
本発明においては、カーボンナノチューブ含有硬化性組成物に、更にコロイダルシリカ(j)を併用することができる。コロイダルシリカ(J)を併用したカーボンナノチューブ含有硬化性組成物から得られる塗膜は、表面硬度や耐候性が著しく向上する。
【0077】
本発明で使用されるコロイダルシリカ(J)は、特に限定されないが、水、有機溶剤または水と有機溶剤との混合溶媒に分散されているものが好ましく用いられる。有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル等のエチレングリコール類;プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のプロピレングリコール類等が好ましく用いられる。
【0078】
また、コロイダルシリカ(J)としては、粒子径が1nm〜300nmのものが用いられ、好ましくは1nm〜150nm、更に好ましくは1nm〜50nmの範囲のものが用いられる。ここで粒子径が大きすぎると硬度が不足し、またコロイダルシリカ自体の溶液安定性も低下してしまう。
【0079】
<カーボンナノチューブ含有硬化性組成物>
本発明のカーボンナノチューブ含有硬化性組成物の構成成分組成比は、シロキサン化合物(B)100質量部に対して、カーボンナノチューブ(A)0.0001〜40質量部(好ましくは0.001〜20質量部)、活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤(C)0.01〜10質量部(好ましくは0.05〜5質量部)である。導電性ポリマー(D)を併用する場合は、シロキサン化合物(B)100質量部に対して、0.001〜50質量部(好ましくは0.01〜30質量部)用いる。
【0080】
本発明のカーボンナノチューブ含有硬化性組成物は構成成分として溶媒(E)を用いることができ、溶媒の使用により溶解性・分散性、塗布性、操作性などが向上するが、溶媒(E)を用いる場合の組成比は以下の通りである。
【0081】
カーボンナノチューブ(A)と溶媒(E)の使用割合は、溶媒(E)100質量部に対してカーボンナノチューブ(A)が0.0001〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.001〜10質量部である。カーボンナノチューブ(A)が0.0001質量部未満では、導電性等のカーボンナノチューブ(A)による性能が低下する。一方、20質量部を超えると、カーボンナノチューブ(A)の可溶化あるは分散化の効率が低下する。
【0082】
シロキサン化合物(B)と溶媒(E)の使用割合は、溶媒(E)100質量部に対してシロキサン化合物(B)が1〜40質量部であることが好ましく、より好ましくは5〜30質量部である。シロキサン化合物(B)が1質量部未満では、耐擦傷性が劣る傾向にある。
【0083】
活性エネルギー線感応性カチオン性重合開始剤(C)の配合量は、特に限定されないが、シロキサン化合物(B)100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲内が好ましい。0.01質量部以上であれば、活性エネルギー線の照射によって十分に硬化し、良好な保護塗膜が得られる傾向にある。また、10質量部以下であれば、硬化して得られる保護塗膜の物性について、特に着色が無く、表面硬度や耐擦傷性が良好となる傾向にある。さらに、硬化性が良好である点、良好な性能の保護塗膜が得られる点から、その配合量は0.05〜5質量部の範囲内がより好ましい。
【0084】
導電性ポリマー(D)と溶媒(E)の使用割合は、溶媒(E)100質量部に対して導電性ポリマー(D)が0.001〜50質量部であることが好ましく、より好ましくは0.01〜30質量部である。導電性ポリマー(D)が0.001質量部未満では、導電性が劣ったり、カーボンナノチューブ(A)の可溶化あるは分散化の効率が低くなったりする。一方、50質量部を超えると導電性はピークに達して大きく増加しないし、高粘度化して、カーボンナノチューブ(A)の可溶化あるは分散化の効率が低くなったりする。
【0085】
高分子化合物(F)と溶媒(E)の使用割合は、溶媒(E)100質量部に対して高分子化合物(B)が0.1〜400質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜300質量部である。高分子化合物(F)が0.1質量部以上であれば成膜性、成形性、強度がより向上し、一方、400質量部以下の時、導電性ポリマー(D)やカーボンナノチューブ(A)の溶解性の低下が少なく、高い導電性が維持される。
【0086】
塩基性化合物(G)と溶媒(E)の使用割合は、溶媒(E)100質量部に対して塩基性化合物(G)が0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5質量部である。塩基性化合物(G)がこの範囲にあるとき、水溶性導電性ポリマーの溶解性が良くなり、カーボンナノチューブ(A)の溶媒(E)への可溶化あるいは分散化が促進され、導電性が向上する。
【0087】
界面活性剤(H)と溶媒(E)の使用割合は、溶媒(E)100質量部に対して界面活性剤(H)が0.0001〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.01〜5質量部である。界面活性剤(H)が10質量部を超えると、塗布性は向上するが、導電性が劣るなどの現象が生じるとともに、カーボンナノチューブ(A)の可溶化あるいは分散化の効率が低下する。
【0088】
シランカップリング剤(I)と溶媒(E)の使用割合は、溶媒(E)100質量部に対してシランカップリング剤(I)が0.001〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.01〜15質量部である。シランカップリング剤(I)0.001質量部未満では、耐水性及び/または耐溶剤性の向上幅が比較的小さく、一方、20質量部を超えると溶解性、平坦性、透明性、及び導電性が悪化することがある。
【0089】
コロイダルシリカ(j)と溶媒(E)の使用割合は、溶媒(E)100質量部に対してコロイダルシリカ(J)が0.001〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは0.01〜50質量部である。コロイダルシリカ(J)が0.001質量部以上であれば、耐水性、耐侯性及び硬度の向上幅が大きくなる。一方、100質量部を超えると溶解性、平坦性、透明性、及び導電性が悪化することがある。
【0090】
更に本発明のカーボンナノチューブ含有硬化性組成物には、必要に応じて、可塑剤、分散剤、塗面調整剤、流動性調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保存安定剤、接着助剤、増粘剤などの公知の各種物質を添加して用いることができる。
【0091】
また、本発明のカーボンナノチューブ含有硬化性組成物には、その導電性を更に向上させるために導電性物質を含有させることができる。導電性物質としては、炭素繊維、導電性カーボンブラック、黒鉛等の炭素系物質、酸化錫、酸化亜鉛等の金属酸化物、銀、ニッケル、銅等の金属が挙げられる
【0092】
<カーボンナノチューブ含有硬化性組成物の製造方法>
本発明のカーボンナノチューブ含有硬化性組成物の必須成分であるカーボンナノチューブ(A)、シロキサン化合物(B)、活性エネルギー線感応性カチオン開始剤(C)、及び必要によりその他の構成成分を混合する際、超音波、ホモジナイザー、スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーサー、ハイブリットミキサーなどの撹拌又は混練装置が用いられる。特に、分散性と塗布性の良いカーボンナノチューブ含有硬化性組成物を得て、高性能な複合体を得ようとした場合、必須成分のほかに導電性ポリマー(D)と溶媒(E)の併用が効果的である。この場合は、導電性ポリマー(D)、溶媒(E)、カーボンナノチューブ(A)、あるいは更に他の成分を混合し、これに超音波を照射することが好ましく、この際、超音波照射とホモジナイザーを併用(超音波ホモジナイザー)して処理をすることが特に好ましい。
【0093】
超音波照射処理の条件は、特に限定されるものではないが、カーボンナノチューブ(A)を溶媒(E)中に均一に分散あるいは溶解させるだけの十分な超音波の強度と処理時間があればよい。例えば、超音波発振機における定格出力は、超音波発振機の単位底面積当たり0.1〜2.0ワット/cm2 が好ましく 、より好ましくは0.3〜1.5ワット/cm2 の範囲であり、発振周波数は、10〜200KHzが好ましく、より好ましくは20〜100KHzの範囲である。また、超音波照射処理の時間は、1分〜48時間が好ましく、より好ましくは5分から48時間である。この後、更にボールミル、振動ミル、サンドミル、ロールミルなどのボール型混練装置を用いて分散あるいは溶解を徹底化することが望ましい。
【0094】
所定の構成成分を混合する際には、すべての成分を一括添加してもよいし、例えば、溶媒を使用する場合は、使用する溶媒(E)のうち、その少量を用いて、濃厚なカーボンナノチューブ含有硬化性組成物を調製した後、所定の濃度に希釈して良い。また、溶媒(E)を2種類以上混合して用いる場合には、使用する溶媒(E)のうち1成分以上を用いて、濃厚なカーボンナノチューブ含有硬化性組成物を調製し、その後、その他の溶媒(E)成分で希釈しても良い。また好ましい調製方法としては、導電性ポリマー(D)、カーボンナノチューブ(A)および溶媒(E)を超音波ホモジナイザー処理を施してカーボンナノチューブを分散させたカーボンナノチューブ含有組成物とシロキサン化合物(B)、活性エネルギー線感応性カチオン性重合開始剤(C)および溶媒(E)からなる硬化性組成物とを混合してカーボンナノチューブ含有硬化性組成物を調製する方法が用いられる。
【0095】
また、超音波照射処理を行う際のカーボンナノチューブ含有硬化性組成物の温度は、分散性向上の点から、60℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。
【0096】
<複合体>
本発明において、カーボンナノチューブ含有硬化性組成物を塗工し硬化塗膜を形成する基材としては、高分子化合物、プラスチック、木材、紙材、セラミックス、繊維、不織布、炭素繊維、炭素繊維紙、及びこれらのフィルム、発泡体、多孔質膜、エラストマー、そしてガラス板などが用いられる。
例えば、高分子化合物、プラスチック及びフィルムとしては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、メタクリル樹脂、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアラミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルニトリル、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリウレタン、これらのフィルム、発泡体及びエラストマーなどが挙げられる。これらのフィルムは、少なくともその一つの面上に硬化塗膜を形成させるため、該硬化塗膜の密着性を向上させる目的で、その表面をコロナ表面処理またはプラズマ処理することが好ましい。
【0097】
本発明における硬化塗膜は、一般の塗工に用いられる方法によって基材の表面に形成される。例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等の塗布方法、エアスプレー、エアレススプレー等のスプレーコーティング等の噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等が用いられる。
【0098】
<複合体の製造方法>
基材の表面にカーボンナノチューブ含有硬化性組成物を塗工した後は、活性エネルギー線を照射してもよいし、常温で放置あるいは加熱処理を行って硬化塗膜を形成することができる。
【0099】
カーボンナノチューブ含有硬化性組成物を硬化する為の活性エネルギー線としては、例えば、真空紫外線、紫外線、可視光線、近赤外線、赤外線、遠赤外線、マイクロ波、電子線、β線、γ線などが挙げられる。中でも、紫外線、可視光線を、活性エネルギー線感応性酸発生剤と組み合わせて使用することが、重合速度の速い点、基材の劣化が比較的少ない点から好ましい。活性エネルギー線の光源の具体例としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、白熱電球、キセノンランプ、ハロゲンランプ、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、蛍光灯、タングステンランプ、ガリウムランプ、エキシマーレーザー、太陽などが挙げられる。照射エネルギーに関しては、200〜600nmの波長の積算エネルギーが0.05〜10J/cm2となるように照射することが好ましい。活性エネルギー線の照射雰囲気は、空気中でも良いし、窒素、アルゴン等の不活性ガス中でも良い。活性エネルギー線は、一種を単独で使用しても良いし、異なるものを複数種使用しても良い。異なる複数種の活性エネルギー線を使用する場合は、同時に照射してもよいし、順番に照射しても良い。
【0100】
一方、塗膜を常温で放置するか、あるいは塗膜を加熱処理することでも硬化塗膜を形成することが出来る。加熱処理によりシロキサン化合物(B)、更には高分子化合物(F)、塩基性化合物(G)、導電性ポリマー(D)が含まれる場合は、それらとの架橋反応が更に促進して、耐水性をより短時間で付与でき、また残留する溶媒(E)の量をより低下することができ、導電性がさらに向上するため好ましい。加熱処理温度は、20℃以上、250℃以下が好ましく、特に40℃〜200℃の加熱が好ましい。250℃より高いと導電性ポリマー(D)自体が分解してしまい導電性が著しく低下することがある。
【0101】
塗膜の膜厚は、0.01〜100μmの範囲が好ましく、更に好ましくは0.1〜50μmの範囲である。
【0102】
本発明の複合体は、このままでも優れた導電性を有するものであるが、導電性ポリマー(D)を含有する場合には、基材の少なくとも一つの面上に、カーボンナノチューブ含有硬化性組成物を塗工して塗膜を形成した後に、酸によりドーピング処理を行い、次いで常温で放置あるいは加熱処理をすることにより、さらに導電性を向上させることができる。酸によるドーピング処理方法は、特に限定されるものではなく公知の方法を用いることができる。例えば、酸性溶液中に導電体を浸漬させるなどの処理をすることによりドーピング処理を行うことができる。酸性溶液は、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸や、p−トルエンスルホン酸、カンファスルホン酸、安息香酸及びこれらの骨格を有する誘導体などの有機酸や、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパン)スルホン酸、ポリビニル硫酸及びこれらの骨格を有する誘導体などの高分子酸を含む水溶液、あるいは、水−有機溶媒の混合溶液である。なお、これらの無機酸、有機酸、高分子酸はそれぞれ単独で用いても、また2種以上を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0103】
以上説明した本発明の導電性ポリマー(D)及び溶媒(E)を併用したカーボンナノチューブ含有硬化性組成物にあっては、カーボンナノチューブ(A)を導電性ポリマー(D)、シロキサン化合物(B)とともに溶剤(E)に加えているので、カーボンナノチューブ(A)およびシロキサン化合物(B)自体の特性を損なうことなく、カーボンナノチューブ(A)が溶媒(E)に分散化あるいは可溶化することが可能であり、長期保存においても分離、凝集しない。この理由ははっきりわかっていないが、導電性ポリマー(D)がカーボンナノチューブ(A)に吸着もしくはらせん状にラッピングすることにより、カーボンナノチューブ(A)が導電性ポリマー(D)とともに分散化あるいは可溶化してるものと推測される。また、本発明の導電性ポリマー(D)を用いたカーボンナノチューブ含有硬化性組成物にあっては、導電性ポリマー(a)とカーボンナノチューブ(A)とを併用しているので、導電性、成膜性、成形性に優れている。更にシロキサン化合物(B)の使用により、成膜性、耐擦傷性に優れた硬化塗膜を形成することができる。
【実施例】
【0104】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。なお、原料のカーボンナノチューブは、日機装社製の気層流動法による多層カーボンナノチューブを使用した。(以下、カーボンナノチューブをCNTと略記することもある。)
【0105】
<導電性ポリマーの製造>
(製造例1、水溶性導電性ポリマー(D−1))
ポリ(2−スルホ−5−メトキシ−1,4−イミノフェニレン)の合成:
2−アミノアニソール−4−スルホン酸100mmolを25℃で4mol/Lのトリエチルアミン水溶液に攪拌溶解し、これにペルオキソ二硫酸アンモニウム100mmolの水溶液を滴下した。滴下終了後、25℃で12時間更に攪拌した後に反応生成物を濾別洗浄後乾燥し、ポリマー粉末15gを得た。この導電性ポリマー(A−1)の体積抵抗値は9.0Ω・cmであった。
【0106】
(製造例2、水溶性導電性ポリマー(D−1)と塩化ベンザルコニウムとの反応によって得られる導電性ポリマー(D−2))
水溶性導電性ポリマー(D−1)5gを水95gに攪拌溶解し、水溶性導電性ポリマー水溶液を調製した。得られた水溶性導電性ポリマー水溶液に塩化ベンザルコニウム 10gを水95に攪拌溶解した塩化ベンザルコニウム水溶液を滴下した。滴下終了後、25℃で1時間更に攪拌した後に反応生成物を濾別洗浄後乾燥し、スルホン酸アンモニウム塩基を有する導電性ポリマー(D−2)10gを得た。
【0107】
<シロキサン化合物溶液の製造>
(製造例3、シロキサン化合物溶液(B−1))
シリカ換算濃度53%のメチルシリケート(コルコート(株)製、平均分子量約789、
商品名メチルシリケート53A)100g(固形分53.0g)、メチルトリメトキシシ
ラン(信越化学工業(株)製、分子量136、商品名KBM−13)172g(固形分84
.7g)、イソプロピルアルコール100gを混合攪拌し、均一な溶液とした。さらに、
水21.0gを加え、攪拌しつつ80℃で3時間加熱し加水分解・縮合を行った。
【0108】
その後温度を25℃まで冷却し、24時間攪拌して縮合を進行させた。さらに、イソプ
ロピルアルコールを加え、全体を690gとし、固形分濃度20%のケイ素化合物Aの溶
液を得た。ここで固形分濃度とは、ケイ素化合物溶液中の固形分の質量分率(%)を意味
する。また、固形分とはケイ素化合物が完全に加水分解・縮合した場合に得られる化合物
の質量を意味する。
【0109】
<カーボンナノチューブ含有組成物>
カーボンナノチューブ含有組成物1:
上記製造例1の導電性ポリマー(D−1)1質量部、カーボンナノチューブ1.0質量部を水100質量部に室温にて混合し、超音波ホモジナイザー処理(SONIC社製 vibra cell 20kHz)を1時間実施し、カーボンナノチューブ含有組成物1を調製した。
【0110】
カーボンナノチューブ含有組成物2:
上記製造例1の導電性ポリマー(D−2)1質量部、カーボンナノチューブ0.5質量部をジメチルアセトアミド100質量部に室温にて混合し、超音波ホモジナイザー処理(SONIC社製 vibra cell 20kHz)を1時間実施し、カーボンナノチューブ含有組成物2を調製した。
【0111】
カーボンナノチューブ含有組成物3:
カーボンナノチューブ1.0質量部を水100質量部に室温にて混合し、超音波ホモジナイザー処理(SONIC社製 vibra cell 20kHz)を1時間実施し、カーボンナノチューブ含有組成物3を調製した。
【0112】
カーボンナノチューブ含有組成物4(比較例3):
カーボンナノチューブ含有組成物1 5質量部、水系エマルジョンであるアクリル樹脂「ダイヤナールMX−1845」(三菱レイヨン社製、樹脂分40質量%)47.5質量部、水47.5質量部を混合・撹拌し、カーボンナノチューブ含有組成物5を調製した。
【0113】
<硬化性組成物>
硬化性組成物1(比較例1):
シロキサン化合物溶液 95質量部、サイラキュアUVI−6992(ダウケミカル日本社製、商品名)0.4質量部を混合・撹拌し、硬化性組成物1を調製した。
【0114】
硬化性組成物2(比較例2):
シロキサン化合物溶液 90質量部、サイラキュアUVI−6992(ダウケミカル日本社製、商品名)0.4質量部を混合・撹拌し、硬化性組成物2を調製した。
【0115】
<カーボンナノチューブ含有硬化性組成物>
カーボンナノチューブ含有硬化性組成物1(実施例1):
カーボンナノチューブ含有組成物1 5質量部、シロキサン化合物溶液 95質量部、サイラキュアUVI−6992(米国ユニオンカーバイド社製、商品名)0.4質量部を混合・撹拌し、カーボンナノチューブ含有硬化性組成物1を調製した。
【0116】
カーボンナノチューブ含有硬化性組成物2(実施例2):
カーボンナノチューブ含有組成物2 10質量部、シロキサン化合物溶液 90質量部、サイラキュアUVI−6992(米国ユニオンカーバイド社製、商品名)0.4質量部を混合・撹拌し、カーボンナノチューブ含有硬化性組成物2を調製した。
【0117】
<評価方法>
実施例1〜2及び比較例1〜3で得られたカーボンナノチューブ含有硬化性組成物1〜2、硬化性組成物1〜2、カーボンナノチューブ含有組成物4をガラス基板上に適量滴下し、バーコーティング法(バーコーター♯12)にて塗布し、乾燥機で60℃、約10分間乾燥した。次いで高圧水銀灯((株)オーク製作所、紫外線照射装置、ハンディーUV−1200、QRU−2161型)にて紫外線を約30秒間、約2000mJ/cm照射し、硬化塗膜を形成し、外観観察後、表面抵抗値、耐擦傷性を測定した。結果を表1に示す。
【0118】
(溶液状態の目視観察)
実施例及び比較例で得られたカーボンナノチューブ含有硬化性組成物の溶液状態を分散処理直後、及び1日静置後に目視でで観察した。
○:溶液状態で目視上均一な組成物。
×:溶液状態で目視上不均一な組成物。
(表面抵抗値)
25℃、50%RHの条件下で表面抵抗値の測定には、表面抵抗値が10Ω以上の場合は二探針法(電極間距離:20mm)を用い、表面抵抗値が10Ω以下の場合は四探針法(各電極間距離:5mm)を用いた。
(塗膜面外観)
目視により塗膜の状態を観察した。
○:均一な塗膜が形成された。
×:カーボンナノチューブが不均一に存在する塗膜が観察された。
(耐擦傷性)
得られた硬化塗膜の表面を、#000スチールウールで、9.8×104Paの圧力を加えて10往復擦り、1cm×3cmの範囲に発生したキズの程度を観察し、以下の基準で評価した。
「A」:1〜9本のキズがつく。光沢面あり。
「B」:無数のキズがつく。光沢面あり。
【0119】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明のカーボンナノチューブ含有組成物は、塗布、スプレー、キャスト、ディップ等の簡便な塗工手法を用いることにより各種帯電防止剤、コンデンサー、電気二重層キャパシタ、電池、燃料電池及びその高分子電解質膜、電極層、触媒層、ガス拡散層、ガス拡散電極層、セパレーターなどの部材、EMIシールド、化学センサー、表示素子、非線形材料、防食剤、接着剤、繊維、紡糸用材料、帯電防止塗料、防食塗料、電着塗料、メッキプライマー、静電塗装用導電性プライマー、電気防食、電池の蓄電能力向上などの用途に適用可能である。また、本発明の複合体は、半導体、電器電子部品などの工業用包装材料、半導体製造のクリーンルームなどで使用される透明導電性樹脂板、オーバーヘッドプロジェクタ用フィルム、スライドフィルムなどの電子写真記録材料等の帯電防止フィルム、透明導電性フィルム、オーディオテープ、ビデオテープ、コンピュータ用テープ、フロッピィディスクなどの磁気記録用テープの帯電防止、電子デバイスのLSI配線、フィールド・エミッション・ディスプレイ(FED)の電子銃(源)及び電極、水素貯蔵剤、更に透明タッチパネル、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの入力及び表示デバイス表面のディスプレイ保護板、前面板、帯電防止や透明電極、透明電極フィルム、有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する発光材料、バッファ材料、電子輸送材料、正孔輸送材料及び蛍光材料、熱転写シート、転写シート、熱転写受像シート、受像シートとして利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ(A)、シロキサン化合物(B)、および活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤(C)を含有することを特徴とするカーボンナノチューブ含有硬化性組成物。
【請求項2】
さらに、導電性ポリマー(D)を含有することを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブ含有硬化性組成物。
【請求項3】
基材の少なくとも一つの面上に、請求項1または請求項2記載のカーボンナノチューブ含有硬化性組成物を塗工し、活性エネルギー線を照射及び/または常温で放置若しくは加熱処理して形成した硬化塗膜を有することを特徴とする複合体。

【公開番号】特開2007−56125(P2007−56125A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242390(P2005−242390)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノカーボン応用製品創製プロジェクト」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】