説明

カーボンナノチューブ強化プラスチックの被覆方法

従来の被覆処理と比較して1つ又は複数のステップを省略することによって高い生産性及びコスト削減を実現し、塗膜に優れた接着性と光沢とを付与する、カーボンナノチューブ強化プラスチック被覆方法を開示する。本発明の方法には、被覆対象のプラスチック品を、微量のナノチューブが混合されたプラスチック材料から形成する形成ステップと、前記プラスチック品から油脂及び異物を取り除く前処理ステップと、前記プラスチック品を保護するために、前記プラスチック品の表面を塗料で直接に被覆する表面被覆ステップとが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本方法は、カーボンナノチューブ強化プラスチックの被覆方法に関し、より詳細には、従来の被覆処理と比較して幾つかの手順を省略することで生産性の向上及びコストの削減が可能であり、また被膜の接着力及び光沢をより優れたものとすることが可能な、カーボンナノチューブ強化プラスチックの被覆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な種類のプラスチック製のベースを様々な合成樹脂塗料で被覆することで得られる様々な種類の被覆プラスチック品が、様々な分野で大量生産され、広く使用されている。特に自動車、貨物輸送車両及び地方交通車両の製造分野において、プラスチックが一層重要となってきている。
【0003】
本明細書の「プラスチック」という用語は、熱及び/又は圧力下で塑造変形することによって成形可能な、高度に重合されたあらゆる種類の化合物を指すものとして用いられる。プラスチック材料は、天然樹脂と合成樹脂とに分類されるが、本明細書の「プラスチック」という用語は、通常、合成樹脂を意味するものとして用いられる。
【0004】
典型的に用いられるプラスチック材料には、ポリプロピレン、ポリエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などが含まれる。これらのプラスチック材料から形成されたプラスチック品又は部品は、強靭、軽量で、錆びないという利点を持つ。
【0005】
これらの好ましい物理的及び化学的特性を持つ一方で、プラスチック材料は、分子内に極性基及び官能基を持たないために化学的に不活性であり、また溶媒に溶解しにくいために被覆処理において接着性が低いという短所も有する。
【0006】
特に自動車業界では、多層被覆システムが採用されている。そのような多層被覆システムでは、下塗りと、この下塗りの上に施される中塗り又は上塗りとの間の層間接着性が重要であるため、優れた接着性を有する塗料を選択することが求められる。
【0007】
更に、プラスチック材料は静電気を帯びやすい。塗料で被覆されたプラスチック材料の表面が静電気を帯びると、前記表面に塵が過剰に付着する。従って、プラスチック材料の塗装の容易さと帯電のしにくさとを向上させるための様々な表面処理方法が試みられている。
【0008】
図1は、従来のプラスチック被覆処理を説明するフローチャートである。
【0009】
図1に示すように、従来のプラスチック被覆処理は、前処理ステップ、下塗りステップ、中塗りステップ、上塗りステップの4つの基本的なステップから構成されている。
【0010】
前処理ステップには、表面の状態が均一となるように、表面を化学的及び物理的に平滑にするステップと、前記表面と下塗りとの接着性を高めるために、前記表面を処理して前記表面上に多数の微細な孔を形成するステップと、イソプロピルアルコール又はアルカリ性の油脂除去剤を用いて、前記表面から(以下に「油脂」として述べる)脂肪、グリース又は油を除去するか、或いは前記表面平滑化ステップの間に生じた異物及び被覆された前記表面に付着した汚れを除去するステップとが含まれる。この後に乾燥が行われ、次に、塗料での被覆対象の物品をジグ上に配置する一次準備ステップが、下塗り被覆ステップへの準備として実施される。
【0011】
下塗りステップは、中塗りステップ及び上塗りステップにおける被覆の際の接着性を高めるため及び、塗料での被覆対象の物品の表面を平滑化させるためのステップである。この後に、被覆状態を検査する一次被覆検査ステップが行われ、次に、前記塗料で被覆された物品を乾燥させ、その表面から汚れを取り除き、前記塗料で被覆された物品をジグ上に配置する二次準備ステップが、中塗りステップへの準備として実施される。
【0012】
中塗りステップは、物品を色のついた塗料で被覆するステップである。自動車の内装又は外装部材を塗料で被覆する際には、その美的外観が重視されることから、平面度、写像性及び耐水性に優れた被覆を形成するために、有機溶剤に希釈した熱硬化性の塗料がしばしば用いられる。この後に、被覆状態を検査する二次被覆検査ステップが行われ、次に、前記塗料で被覆された物品を乾燥させ、その表面から汚れを取り除き、前記塗料で被覆された物品をジグ上に配置する三次準備ステップが、上塗りステップへの準備として実施される。
【0013】
上塗りステップは、下塗り及び中塗りステップで形成された塗料被覆を保護するために実施される。例えば、有機溶剤に希釈された熱硬化性の透明な塗料を繰り返し塗布した後に、二層の塗料を同時に硬化させる方法を用いてもよい。この後に、被覆状態を検査する三次被覆検査ステップが行われ、次に、乾燥ステップが行われる。塗料で被覆された前記物品が前記被覆検査ステップで不合格となった場合には、前記物品が廃棄されるか、上述の被覆処理が繰り返し実施される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述の従来の被覆処理では、被膜の平面度、光沢及び接着性を向上させるための下塗りステップ及び彩色のための中塗りステップが不可欠であるために、被覆処理全体が非常に複雑で品質管理が困難であることが、生産性の低さ及び処理コストと材料コストとの高さの原因になっている。
【0015】
従って、本発明は、上述の問題を解決することを目的とし、幾つかの手順を省略することによって生産性の向上及びコストの削減を図り、被膜に優れた接着性及び光沢を付与することの可能な、カーボンナノチューブ強化プラスチック被覆方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一局面によれば、微量のナノチューブと混合されたプラスチック材料から被覆対象のプラスチック品を形成するプラスチック形成ステップと、前記プラスチック品から油脂及び異物を除去する前処理ステップと、前記プラスチック品を保護するために前記プラスチック品の表面を塗料で直接に被覆するステップと、を含むカーボンナノチューブ強化プラスチック被覆方法が提供される。
【0017】
更に、前記プラスチック品の表面を彩色するために、前記表面被覆ステップにおける塗料が顔料と混合される。
【0018】
本発明の別の一局面によれば、微量のナノチューブと混合されたプラスチック材料から被覆対象のプラスチック品を形成するプラスチック形成ステップと、前記プラスチック品から油脂及び異物を除去する前処理ステップと、前記プラスチック品の表面を彩色するために、前記プラスチック品を顔料と混合された塗料で被覆する中塗りステップと、前記プラスチック品を保護するために、前記プラスチック品を前記中塗りの上から塗料で直接に被覆する表面被覆ステップと、を含むカーボンナノチューブ強化プラスチック被覆方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明のカーボンナノチューブ強化プラスチック被覆方法によれば、プラスチック材料にカーボンナノチューブを混合することにより、従来の被覆処理における前処理手順を簡略化して、下塗り及び中塗りステップ又は中塗りステップを従来の被覆処理から省くことが可能であり、この結果、生産性の向上及びコスト削減が図られると共に、塗膜に優れた接着性及び光沢が付与される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
発明の実施態様
本発明の幾つかの実施例を、添付の図面を参照しながら以下に記載する。
【0021】
先進材料として近年注目を集めているカーボンナノチューブは、炭素原子が6員環構造に結合した層状グラファイトからなる分子規模の管である。カーボンナノチューブの直径は、数ナノメータから数十ナノメータである。
【0022】
カーボンナノチューブは、強靭であるが、非常に柔軟である。加えて、カーボンナノチューブは繰り返し使用した場合でも破損したり磨耗したりせず、その体積に比較して表面積が非常に大きい。更に、カーボンナノチューブは化学的に安定しており、優れた熱特性及び電気的特性を有する。これらの特性を持つことから、カーボンナノチューブは、電磁波吸収体、静電防止剤、電界放出装置、半導体装置、ガスセンサ及びバイオセンサ、燃料電池、補強材などの様々な用途に用いられている。
【0023】
図2は、本発明の一実施例に基づくプラスチック被覆処理を説明するフローチャートである。
【0024】
図2に示すように、本発明のプラスチック被覆処理には、プラスチック形成ステップと、前処理ステップと、表面被覆ステップとが含まれる。
【0025】
前記プラスチック形成ステップは、微量のカーボンナノチューブをプラスチック材料と混合し、この混合物を被覆対象のプラスチック品へと成形するステップである。このようにカーボンナノチューブで強化されたプラスチックを被覆する方法では、微量のカーボンナノチューブをプラスチック内に混合することで塗膜の光沢及び接着性が向上するので、既存の被覆処理を簡略化することが可能である。
【0026】
噴射成形、押出成形及びプレス成形などのいかなる成形処理によって製造された成形プラスチック品を本発明で用いてもよい。そのようなプラスチック品には、日用品、容器、機械部品、自動車部品、パイプなどが含まれる。
【0027】
前記前処理ステップは、油脂及び/又は異物を取り除くステップである。例えば、アルコール又はアルカリ性の油脂除去剤を用いて、塗料での被覆対象の物品(即ちプラスチック成形された物品)から油脂が除去される。次に乾燥が行われ、この後に、前記物品をジグ上に配置する準備ステップが、表面被覆ステップへの準備として実施される。
【0028】
前記表面被覆ステップは、前記物品の表面を保護するために、前記物品の表面に塗料を直接に塗布するステップである。前記塗料の接着性が、前記プラスチック成形品自体に混合されたカーボンナノチューブによって向上するので、従来の被覆技術では不可欠である下塗りステップを省略することが可能である。
【0029】
より詳細には、カーボンナノチューブが塗料被覆対象の物品内に混合され、カーボンナノチューブの一部が前記物品の表面上に露出されるので、カーボンナノチューブがナノ規模の強靭な支持体としての役割を果たし、前記塗料と前記物品との優れた接着性が得られる。加えて、カーボンナノチューブは既存のグラファイト及びカーボンブラックと比較してより優れた光沢を有し、前記塗料被覆対象の物品内にナノ規模で均一に分散されるので、前記塗料被覆対象の物品に、マイクロ規模の黒色顔料で被覆された物品と比較してより優れた表面光沢が付与される。
【0030】
本発明の別の一実施例によれば、前記表面被覆ステップにおいて、前記塗料が顔料と混合されて着色されていることが望ましい。前記顔料が、一般的な着色顔料に加えて、グラファイト、カーボンブラック及びカーボンナノチューブから選択されてもよい。従って、美的外観が重視される自動車の内装又は外装材料を被覆する際に、様々な色を選択及び使用することが可能である。
【0031】
本発明で使用可能な粉末状の被覆用組成物は、例えば粉末状の熱硬化性被覆組成物などの、当業で公知のいかなる粉末状の被覆組成物であってもよい。例えば、前記粉末状の被覆組成物が、粉末状のエポキシ樹脂塗料、粉末状のポリエステル塗料、粉末状のアクリル樹脂塗料などであってもよい。
【0032】
図3は、本発明の別の一実施例に基づくプラスチック被覆処理を説明するフローチャートである。
【0033】
図3に示すように、カーボンナノチューブ強化プラスチック被覆方法に、プラスチック形成ステップと、前処理ステップと、中塗りステップと、表面被覆ステップとが含まれる。
【0034】
前記プラスチック形成ステップは、微量のカーボンナノチューブをプラスチック材料と混合し、この混合物を塗料被覆対象のプラスチック品へと成形するステップである。従って、本発明に基づくカーボンナノチューブ強化プラスチック被覆方法では、微量のカーボンナノチューブをプラスチック内に混合して塗膜の光沢及び接着性を向上させることにより、既存の被覆処理を簡略化することが可能である。
【0035】
前記前処理ステップは、油脂及び/又は異物を取り除くためのステップである。例えば、油脂がアルコール又はアルカリ性の油脂除去剤を用いて、塗料での被覆対象の物品(即ちプラスチック成形品)から除去される。次に乾燥が行われ、この後に、前記物品をジグ上に配置する準備ステップが、表面被覆ステップへの準備として実施される。
【0036】
前記中塗りステップは、前記プラスチック品を顔料が混合された塗料で被覆することにより、前記プラスチック品を彩色するステップである。前記顔料が混合された塗料での被覆をこのステップで行うので、美的外観が重視される自動車の内装又は外装材料を被覆する際に、様々な色を選択及び使用することが可能である。
【0037】
前記表面被覆ステップは、前記顔料が混合された塗料と前記プラスチック品とを保護するために塗料を被覆するステップである。
【0038】
二成分ウレタン塗料、単一成分アルキドメラミン塗料及び単一成分アクリル塗料を含めた様々な塗料を、本発明の表面被覆ステップで使用可能である。
【0039】
本発明は、プラスチック材料の種類並びに、カーボンナノチューブの形状、直径及び長さに制約されるものではない。更に、カーボンナノチューブとプラスチックとが、0.1乃至10対100の割合で混合されることが望ましい。この結果、被覆されたプラスチック品の表面抵抗率が1012Ω・cm以下となるので、塵の表面付着が防止される。
【0040】
本発明の幾つかの実施例を説明を目的として記載したが、添付の請求の範囲に開示された本発明の範囲及び精神から逸脱することなく様々な変更、追加及び置換が可能であることが当業者に理解されるであろう。
産業上の利用可能性
【0041】
以上のように、本発明は、自動車、貨物輸送車両及び地方交通車両の分野において用いられる様々なプラスチック材料に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
本発明のこれらの及びその他の目的、特徴及び長所は、添付の図面と関連させながら以下の詳細な説明を参考にすることにより、より十二分に理解されるであろう。
【図1】従来のプラスチック被覆処理を説明するフローチャートである。
【図2】本発明の一実施例に基づくプラスチック被覆処理を説明するフローチャートである。
【図3】本発明の別の一実施例に基づくプラスチック被覆処理を説明するフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ強化プラスチックを被覆するための、以下を含む方法:
被覆対象のプラスチック品を、微量のナノチューブと混合されたプラスチック材料から形成する、プラスチック形成ステップと;
前記プラスチック品から油脂及び異物を除去する、前処理ステップと;
前記プラスチック品を保護するために、前記プラスチック品の表面を塗料で直接に被覆する、表面被覆ステップ。
【請求項2】
前記表面被覆ステップにおける前記塗料が顔料と混合されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
カーボンナノチューブ強化プラスチックを被覆するための、以下を含む方法:
被覆対象のプラスチック品を、微量のナノチューブと混合されたプラスチック材料から形成する、プラスチック形成ステップと;
前記プラスチック品から油脂及び異物を除去する、前処理ステップと;
前記プラスチック品を彩色するために、前記プラスチック品を顔料と混合された塗料で被覆する、中塗りステップと;
前記プラスチック品を保護するために、前記プラスチック品を前記中塗りの上から塗料で直接に被覆する、表面被覆ステップ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2010−506717(P2010−506717A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533231(P2009−533231)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【国際出願番号】PCT/KR2007/003063
【国際公開番号】WO2008/047993
【国際公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(508083943)デ ジン インダストリアル コーポレーション リミテッド (1)
【出願人】(508083954)クラスター インストルメンツ コーポレーション リミテッド (1)
【Fターム(参考)】