カーボンナノホーンをキャリアとする抗菌剤徐放化製剤
【課題】 カーボンナノホーンをキャリアとすることによって、徐放化が図られた抗菌剤を包含する抗菌剤徐放化製剤を提供する。
【解決手段】 抗菌剤徐放化製剤は、銀などの無機系抗菌剤や合成系有機物抗菌剤、天然物系抗菌剤などを含む抗菌剤を内包し、この抗菌剤は、殺菌剤及び抗生剤の内の少なくとも一種を含む開口カーボンナノホーンをキャリアとして有する。このカーボンナノホーンの側壁、先端、あるいは、開孔部縁には、内包薬剤の放出速度を制御するための化学修飾を施されても良い。
【解決手段】 抗菌剤徐放化製剤は、銀などの無機系抗菌剤や合成系有機物抗菌剤、天然物系抗菌剤などを含む抗菌剤を内包し、この抗菌剤は、殺菌剤及び抗生剤の内の少なくとも一種を含む開口カーボンナノホーンをキャリアとして有する。このカーボンナノホーンの側壁、先端、あるいは、開孔部縁には、内包薬剤の放出速度を制御するための化学修飾を施されても良い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノホーンをキャリアとする抗菌剤徐放化製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
また、抗菌剤を含有する製剤として、無機系抗菌剤を吸着剤に吸着したものが提案されている(例えば、特許文献1、参照)。特許文献1に記載された抗菌製品は、吸着剤として、活性炭、木炭、カーボンナノチューブ等の炭素系、シリカゲルなどが例示されている。しかしながら、カーボンナノチューブは口径が1.4nm程度と小さく、その中に有機系の抗菌剤を包含させるには、容易ではない。
【0003】
更に、特許文献2には、特許文献1と同様な製品に関するものであるが、吸着剤として、カーボンナノホーンを用いることが開示されている。しかしながら、特許文献2には、被吸着物質の開示はない。
【0004】
また、特許文献3には、カーボンナノホーンにデキソメタゾンやシスプラチン等の抗癌剤などのステロイド系ホルモンを含有させることが開示されているが抗菌剤ではない。
【0005】
【特許文献1】特開2003−40718号公報
【特許文献2】特開2006−007217号公報
【特許文献3】特開2005−343885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
まず、抗菌剤の製剤の徐放化の必要性について、抗生剤の一つである塩酸バンコマイシンを例にとって説明する。塩酸バンコマイシンは細菌感染症起因菌として重大な問題となっているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の治療薬として広く用いられているが、副作用として腎毒性を有し、至適血中濃度と毒性発現濃度が近接しているため血中濃度の測定のもと厳密な投与量・間隔の調整が必要である。
【0007】
また、抗生剤一般の性質として、手術部位・感染部位への局所投与では薬剤濃度が維持できず急激に減少するためほとんど効果がない。
【0008】
これらの欠点を解決する手段として、薬剤を徐放化する方法が知られており、塩酸バンコマイシンの徐放化製剤としてpoly(lactide−co−glycolide)(PLGA)のmicroparticleをキャリアとした製剤の報告があるが、この製剤では含有する塩酸バンコマイシンの約90%が24時間以内に放出されてしまい、長時間の至適濃度の維持はできない。
【0009】
前述したように、塩酸バンコマイシンの場合、poly(lactide−co−glycolide)(PLGA)のmicroparticleをキャリアとした徐放化製剤技術では1日1回の投与が必要となり、塩酸バンコマイシン単独投与と比べてメリットが少ない。
【0010】
また、徐放が長時間継続する製剤を開発する事で1回の投与で長時間の抗菌作用維持が可能となり、投与間隔延長や、手術部位への局所使用のように投与機会が1度しかない局面での抗菌効果の長期維持に有用となる。
【0011】
そこで、本発明の技術的課題は、カーボンナノホーンをキャリアとすることによって、徐放化が図られた抗菌剤を包含する抗菌剤徐放化製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、抗菌剤を内包したカーボンナノホーンをキャリアとして有することを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。
【0013】
また、本発明によれば、前記抗菌剤徐放化製剤において、前記抗菌剤は、無機系抗菌剤や合成系有機物抗菌剤、天然物系抗菌剤などを含むことを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。ここで本発明において、無機系抗菌剤として銀、及び銀系抗菌剤を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
また、本発明によれば、前記抗菌剤徐放化製剤において、前記抗菌剤は、殺菌剤及び抗菌剤の少なくとも一種を含むことを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【0015】
ここで、本発明において、殺菌剤としては、ヨウ素を例示することができ、また、抗菌剤としては、塩酸バンコマイシンなどの抗生剤などを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンは開孔部を有するカーボンナノホーンであることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。
【0017】
また、本発明によれば、前記抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンの側壁、先端、あるいは、開孔部縁は、内包薬剤の放出速度を制御するための化学修飾が施されていることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。
【0018】
また、本発明によれば、前記抗菌剤徐放化製剤において、カーボンナノホーンの側壁、先端、あるいは、開孔部縁には、疎水性である当該カーボンナノホーンの親水性を高めるための化学修飾または細網内皮系の貪食作用を回避するための化学修飾が施されていることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。
【0019】
また、本発明によれば、前記抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンの側壁、先端、あるいは、開孔部縁に、前記患部に選択的に到達するように患部に特異的に発現している抗体等に選択的に付着する分子が付加されていることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。
【0020】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンまたは化学修飾カーボンナノホーンに機能性物質を物理吸着させたことを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。
【0021】
また、本発明によれば、前記抗菌剤徐放化製剤において、前記機能性物質の機能は、内包抗菌剤の徐放制御、抗菌作用、薬剤、親水性分子、標的分子などであることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。
【0022】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの抗菌剤徐放化製剤において、前記抗菌剤内包カーボンナノホーンを、皮膚疾患治療用として用いることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。
【0023】
また、本発明によれば、前記抗菌剤内包カーボンナノホーンを皮膚などに塗布しやすくなるような機能を備えた物質と混合して用いることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。
【0024】
また、本発明によれば、前記いずれか一つに記載の抗菌剤徐放化製剤において、前記抗菌剤内包カーボンナノホーンを、皮膚疾患治療用として体内投与して用いることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。
【0025】
また、本発明によれば、キャリアとしてカーボンナノホーンを開孔処理し、抗菌剤を内包させることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤の製造方法が得られる。
【0026】
また、本発明によれば、前記抗菌剤徐放化製剤の製造方法において、前記抗菌剤は、無機系抗菌剤や合成系有機物抗菌剤、天然物系抗菌剤などを含むことを特徴とする抗菌剤徐放化製剤の製造方法が得られる。
【0027】
また、本発明によれば、前記抗菌剤徐放化製剤の製造方法において、前記抗菌剤は、殺菌剤及び抗生剤の内の少なくとも一種を含むことを特徴とする抗菌剤徐放化製剤の製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、カーボンナノホーンをキャリアとすることによって、徐放化が図られた抗菌剤を包含する抗菌剤徐放化製剤を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明をより詳しく説明する。
【0030】
本発明において、カーボンナノホーン(CNH)はグラファイトシートが円筒状に丸まり、端が円錐状の形態をした単層カーボンナノチューブがほぼ放射状に並んで直径80〜100nm球形集合体を形成したものである。
【0031】
CNHはチューブ壁に孔を開けることが可能であり、開孔制御、化学修飾によりチューブへの薬剤の内包・放出をコントロールすることができ、薬剤の徐放化製剤のキャリアとしての有用性が報告されている。
【0032】
本発明では、薬剤キャリアとしてCNHを用いることで、より優れた塩酸バンコマイシンなどの抗菌剤の徐放化製剤を設計したものである。
【0033】
本発明の抗菌剤所放化製剤は、抗菌剤を内包したカーボンナノホーンをキャリアとして有する。
【0034】
ここで、カーボンナノホーンは、過酸化水素等の開孔処理によって設けられた開孔部を有する開孔カーボンナノホーンであることが好ましい。
【0035】
また、前記抗菌剤として、無機系抗菌剤やさらに合成系有機物抗菌剤、各種天然物系抗菌剤なども含むことができる。
【0036】
無機系抗菌剤としては、銀や銀系抗菌剤のほかにマンガン(Mn2+)、鉄(Fe3+)、コバルト(Co2+)、ニッケル(Ni2+)、銅(Cu2+)等の金属イオンなどを含む酸化物又は水酸化物等の化合物が好ましい。
【0037】
また、合成系有機物抗菌剤としては、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾールなどイミダゾール誘導体、シクロフルアニドなどN−ハロアルキルチオ系化合物、10、10’−オキシビスフェノキサアルシンなどフェニルエーテル誘導体、セシルジメチルエチルアンモニウムブロミドなど第4級アンモニウム塩および2、3、5、6テトラコロル−4−(メチルスルホニル)ピリジンなどスルホン誘導体、アミド類、トリアジン誘導体、トリアゾール誘導体、メチロール基含有化合物、活性ハロゲン含有化合物、活性化されたN−S結合含有化合物、イソチアゾロン系、有機ヨウ素系、ベンズイソチアゾロン系、およびピリチオン系等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0038】
また、前記抗菌剤は、殺菌剤及び抗生剤の内の少なくとも一種を含み、殺菌剤としては、ヨウ素、抗生剤としては、塩酸バンコマイシンなどが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
また、本発明の抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンの側壁、先端、あるいは、開孔部縁は、内包薬剤の放出速度を制御するための化学修飾が施されていることが好ましい。
【0040】
また、本発明の前記抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンの側壁、先端、あるいは、開孔部縁は、疎水性である当該カーボンナノホーンの親水性を高めるための化学修飾または細網内皮系の貪食作用を回避するための化学修飾が施されているが施されていることが好ましい。親水性は、例えば、スパッタ等によって酸素原子を化学修飾させることで得られるが、これらに限定されるものではないことは勿論である。
【0041】
また、本発明の前記抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンの側壁、先端、あるいは、開孔部縁に、前記患部に選択的に到達するように患部に特異的に発現している抗体等に選択的に付着する分子が付加されていることが好ましい。
【0042】
また、本発明の前記抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンまたは化学修飾カーボンナノホーンに機能性物質を物理吸着させることが好ましい。
【0043】
この機能物質は、内包抗菌剤の徐放制御、抗菌作用、薬剤、親水性分子、標的分子などを有する。親水性分子としては、酸素含有分子を用いることができる。
【0044】
また、本発明の前記抗菌剤徐放化製剤は、前記抗菌剤内包カーボンナノホーンを、皮膚疾患治療用として用いる。この抗菌剤徐放化製剤としては、前記抗菌剤内包カーボンナノホーンを皮膚などに塗布しやすくなるような機能を備えた物質と混合して用いることが好ましい。
【0045】
また、本発明の前記抗菌剤徐放化製剤において、前記抗菌剤内包カーボンナノホーンを、皮膚疾患治療用として体内投与して用いることが好ましい。
【0046】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではないことは勿論である。
【実施例1】
【0047】
本発明の実施例1では、塩酸バンコマイシン(VCM)内包カーボンナノホーンについて説明する。
【0048】
VCM約18mgを水100ccに溶解させ、その中に開孔単層カーボンナノホーン(SWNHox)約25mgを分散させる。分散液を大気圧窒素気流中に1週間放置したところ、VCM内包SWNHox(以下、VCM@SWNHoxと表わす)の黒色粉末を得ることができた。He中での熱重量分析により、内包されたVCMは約30〜40%(0.4〜0.7g/g)であった。収率は95%程度であった。
【0049】
VCM@SWNHox1.85mgを緩衝液4mlに分散させ、一定時間経過後、10,000rpmで5分間遠心分離して上澄み液を回収し、さらに、孔サイズ200nmのメンブレンを用いてろ過した。ろ液の紫外可視吸収スペクトルを測定し、〜280nmのピークの強度からVCMの濃度を見積もった。遠心分離管の底に残ったVCM@SWNHoxを再び4mlの緩衝液に分散させて、実験をくりかえした。その結果を図1に示す。
【0050】
図1は、VCM@SWNHoxから緩衝液中へのVCM放出量を示す図であり、図の数字はデータポイントの測定順を示している。
【0051】
図1から、ナノホーンからのVCM放出は特殊であり、緩衝液にはじめて浸漬したときに現れたVCM初期バースト放出(図1の点1と2)以外は、VCM放出量は低かった。しかも、緩衝液浸漬15分以内に、VCMの放出と取り込みが平衡に達し、見かけ上放出がとまった。これは、生体内で放出したVCMが周辺にあるときには、過剰放出しないことを示唆し、これまでにない、薬剤放出パターンである。なお、初期バーストは、SWNHox外壁に付着したVCMの溶け出しが原因である。
【0052】
上記放出特性は、臨床において、過剰投与を防ぐ好ましい特徴であると思われ、1回の本製剤の投与で少なくとも200時間以上に渡り薬剤の濃度を一定に保つ事が可能となる。血中に投与する際は抗菌効果の長期間に渡る維持が可能となり、通常1日に1〜4回の投与が必要な薬剤の投与間隔を大幅に延長する事が可能となる。また手術・処置の際にMRSA感染の可能性がある部位に局所投与することで長期間に渡る抗菌効果が可能となる。
【0053】
また塩酸バンコマイシンは、腸管で吸収されないため内服薬として骨髄移植の前処置の際の消化管内殺菌や一部の細菌感染症の治療に用いられているが(1日4回の内服が必要)、本製剤を使用する事により投与間隔を延長し、かつ持続的な抗菌力の維持が可能となる。
【0054】
(抗バクテリア試験)
大腸菌(E.coli:JM101)抗菌性試験に用いた。最初に、トリプトン(DIFCO研究所)、酵母エキス(DIFCO研究所)、NaCl,寒天(BD),及び水を2:1:2:3:200の重量比率で混ぜて、LB寒天固体培養培地を作製した。この培地を1.5時間高圧滅菌して、それから50℃まで冷却された時に、培養皿(100mm)に移動した。大腸菌は、LB液体培地に接種されて、37℃で一夜で培養された。細菌の溶液のほんの一部分は、個々のLBプレートに接種されて、寒天表面に広がり、それから、後の使用のために4℃で蓄えた。
【0055】
VCMを内包したSWNHox(VCM@SWNHoxで示す)の活性を調査するために、約3mgサンプル(約1.2mgVCM包含)を、図2に示すようにバクテリアを接種する寒天表面に置いた。比較のために、1.2mgVCMおよび1.8mgSWNHoxを同じ皿に入れた。その皿は、一晩中37℃で培養された。
【0056】
図2はVCM,SWNHox、VCM@SWNHoxを使用した大腸菌(E.coli)実験結果を示している。固体培地の白色は大腸菌(E.coli.)が存在することを示している。挿入物から、バクテリアがVCM(図2上図)及びVCM@SWNHox(図2左下図)付近で殺菌されているのに対して、SWNHoxはバクテリアに対して殺菌効果がない(非中毒性)である(図2右下図)ことが分かる。
【0057】
図2から、VCM及びVCM@SWNHox試料の周囲に、バクテリアが存在しないことによる抑制リングがあることが分かった。これは、VCM@SWNHoxがバクテリアの増殖の抑制効果を有することを示している。しかしながら、SWNHoxはそれ自身は抗生作用を有してはいない。
【実施例2】
【0058】
本発明の実施例2では、ナノホーンを用いたヨウ素吸着剤について説明する。
【0059】
1.<ナノホーンのヨウ素吸着能について>
カーボンナノホーン(CNH)を過酸化水素(100℃、3時間加熱)処理にて開孔した。開孔カーボンナノホーン(CNHox)(52mg)をヨウ素粒(0.5g)とともに密閉ガラス容器中にいれ、放置し、ヨウ素ガスをCNHoxに吸着させた(I2/CNHox)。ヨウ素吸着によるCNHoxの重量増加を調べた結果を図3に示す。図3はCNHoxに吸着されたヨウ素量の時間依存性を示している。図4は、I2/CNHoxのラマンスペクトルを示している。CNHoxに内包されたヨウ素はI5−やI3−となっていることがわかった。CNHoxのGバンドは通常のCNHox1592cm−1より約8cm−1ブルーシフトしていた。これより、CNHoxからヨウ素に電子移動したことが明らかである。
【0060】
2.<I2/CNHoxからのヨウ素放出>
I2/CNHoxからのI2の放出は、取り込み速度よりもよりゆっくり進行した。I2/NHoxは、室温で空気にさらされた。I2/CNHoxからのヨウ素放出に伴うI2/NHoxの重量減少を図5に示す。図5に示すように、I2/CNHoxの初期の重量は、180.5mg(128.5mgのI2と52mgのCNHox)であった。それは、52日間のI2がCNHoxに包含された結果である。I2/CNHoxを64日間空気にさらした後に、その重量は120.6mgに減少しただけで、まだ、59.9mgのI2がCNHox中に残存していた。吸着量半減期は約2000時間(約83日)であった。
【0061】
3.<放出ヨウ素の抗菌作用>
I2/NHoxの抗菌性の効果を、大腸菌(colon bacilli)において研究した。CNHoxにI2を26日間吸着後、CNHoxに含まれているI2の重量比率は2:1であった。0.15mgのI2/CNHoxは、その上に大腸菌が増殖した培養皿上に置かれた。対比のために、20μlの水および20μlのペニシリンが、同じ培養皿に滴下された。図6に示すように、1日の定温培養の後に、ペニシリンとI2/CNHoxは、大腸菌への成長抑制効果があることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上の説明の通り、本発明においては、カーボンナノホーンをキャリアとすることで抗菌剤を徐放化する製剤に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施例1によるVCM@SWNHoxから緩衝液中へのVCM放出量を示す図で、図中の数字はデータポイントの測定順を示している。
【図2】VCM,SWNHox、VCM@SWNHoxを使用した大腸菌(E.coli)実験結果を示す写真である。
【図3】本発明の実施例2によるCNHoxに吸着されたヨウ素量の時間依存性を示している。
【図4】本発明の実施例2によるI2/CNHoxのラマンスペクトルを示す図である。
【図5】本発明の実施例2によるI2/CNHoxからのヨウ素放出に伴うI2/NHoxの重量減少を示す図である。
【図6】1日の定温培養の後のペニシリンとI2/CNHoxの大腸菌への成長抑制効果を示す写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノホーンをキャリアとする抗菌剤徐放化製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
また、抗菌剤を含有する製剤として、無機系抗菌剤を吸着剤に吸着したものが提案されている(例えば、特許文献1、参照)。特許文献1に記載された抗菌製品は、吸着剤として、活性炭、木炭、カーボンナノチューブ等の炭素系、シリカゲルなどが例示されている。しかしながら、カーボンナノチューブは口径が1.4nm程度と小さく、その中に有機系の抗菌剤を包含させるには、容易ではない。
【0003】
更に、特許文献2には、特許文献1と同様な製品に関するものであるが、吸着剤として、カーボンナノホーンを用いることが開示されている。しかしながら、特許文献2には、被吸着物質の開示はない。
【0004】
また、特許文献3には、カーボンナノホーンにデキソメタゾンやシスプラチン等の抗癌剤などのステロイド系ホルモンを含有させることが開示されているが抗菌剤ではない。
【0005】
【特許文献1】特開2003−40718号公報
【特許文献2】特開2006−007217号公報
【特許文献3】特開2005−343885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
まず、抗菌剤の製剤の徐放化の必要性について、抗生剤の一つである塩酸バンコマイシンを例にとって説明する。塩酸バンコマイシンは細菌感染症起因菌として重大な問題となっているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の治療薬として広く用いられているが、副作用として腎毒性を有し、至適血中濃度と毒性発現濃度が近接しているため血中濃度の測定のもと厳密な投与量・間隔の調整が必要である。
【0007】
また、抗生剤一般の性質として、手術部位・感染部位への局所投与では薬剤濃度が維持できず急激に減少するためほとんど効果がない。
【0008】
これらの欠点を解決する手段として、薬剤を徐放化する方法が知られており、塩酸バンコマイシンの徐放化製剤としてpoly(lactide−co−glycolide)(PLGA)のmicroparticleをキャリアとした製剤の報告があるが、この製剤では含有する塩酸バンコマイシンの約90%が24時間以内に放出されてしまい、長時間の至適濃度の維持はできない。
【0009】
前述したように、塩酸バンコマイシンの場合、poly(lactide−co−glycolide)(PLGA)のmicroparticleをキャリアとした徐放化製剤技術では1日1回の投与が必要となり、塩酸バンコマイシン単独投与と比べてメリットが少ない。
【0010】
また、徐放が長時間継続する製剤を開発する事で1回の投与で長時間の抗菌作用維持が可能となり、投与間隔延長や、手術部位への局所使用のように投与機会が1度しかない局面での抗菌効果の長期維持に有用となる。
【0011】
そこで、本発明の技術的課題は、カーボンナノホーンをキャリアとすることによって、徐放化が図られた抗菌剤を包含する抗菌剤徐放化製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、抗菌剤を内包したカーボンナノホーンをキャリアとして有することを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。
【0013】
また、本発明によれば、前記抗菌剤徐放化製剤において、前記抗菌剤は、無機系抗菌剤や合成系有機物抗菌剤、天然物系抗菌剤などを含むことを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。ここで本発明において、無機系抗菌剤として銀、及び銀系抗菌剤を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
また、本発明によれば、前記抗菌剤徐放化製剤において、前記抗菌剤は、殺菌剤及び抗菌剤の少なくとも一種を含むことを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【0015】
ここで、本発明において、殺菌剤としては、ヨウ素を例示することができ、また、抗菌剤としては、塩酸バンコマイシンなどの抗生剤などを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンは開孔部を有するカーボンナノホーンであることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。
【0017】
また、本発明によれば、前記抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンの側壁、先端、あるいは、開孔部縁は、内包薬剤の放出速度を制御するための化学修飾が施されていることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。
【0018】
また、本発明によれば、前記抗菌剤徐放化製剤において、カーボンナノホーンの側壁、先端、あるいは、開孔部縁には、疎水性である当該カーボンナノホーンの親水性を高めるための化学修飾または細網内皮系の貪食作用を回避するための化学修飾が施されていることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。
【0019】
また、本発明によれば、前記抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンの側壁、先端、あるいは、開孔部縁に、前記患部に選択的に到達するように患部に特異的に発現している抗体等に選択的に付着する分子が付加されていることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。
【0020】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンまたは化学修飾カーボンナノホーンに機能性物質を物理吸着させたことを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。
【0021】
また、本発明によれば、前記抗菌剤徐放化製剤において、前記機能性物質の機能は、内包抗菌剤の徐放制御、抗菌作用、薬剤、親水性分子、標的分子などであることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。
【0022】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの抗菌剤徐放化製剤において、前記抗菌剤内包カーボンナノホーンを、皮膚疾患治療用として用いることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。
【0023】
また、本発明によれば、前記抗菌剤内包カーボンナノホーンを皮膚などに塗布しやすくなるような機能を備えた物質と混合して用いることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。
【0024】
また、本発明によれば、前記いずれか一つに記載の抗菌剤徐放化製剤において、前記抗菌剤内包カーボンナノホーンを、皮膚疾患治療用として体内投与して用いることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤が得られる。
【0025】
また、本発明によれば、キャリアとしてカーボンナノホーンを開孔処理し、抗菌剤を内包させることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤の製造方法が得られる。
【0026】
また、本発明によれば、前記抗菌剤徐放化製剤の製造方法において、前記抗菌剤は、無機系抗菌剤や合成系有機物抗菌剤、天然物系抗菌剤などを含むことを特徴とする抗菌剤徐放化製剤の製造方法が得られる。
【0027】
また、本発明によれば、前記抗菌剤徐放化製剤の製造方法において、前記抗菌剤は、殺菌剤及び抗生剤の内の少なくとも一種を含むことを特徴とする抗菌剤徐放化製剤の製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、カーボンナノホーンをキャリアとすることによって、徐放化が図られた抗菌剤を包含する抗菌剤徐放化製剤を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明をより詳しく説明する。
【0030】
本発明において、カーボンナノホーン(CNH)はグラファイトシートが円筒状に丸まり、端が円錐状の形態をした単層カーボンナノチューブがほぼ放射状に並んで直径80〜100nm球形集合体を形成したものである。
【0031】
CNHはチューブ壁に孔を開けることが可能であり、開孔制御、化学修飾によりチューブへの薬剤の内包・放出をコントロールすることができ、薬剤の徐放化製剤のキャリアとしての有用性が報告されている。
【0032】
本発明では、薬剤キャリアとしてCNHを用いることで、より優れた塩酸バンコマイシンなどの抗菌剤の徐放化製剤を設計したものである。
【0033】
本発明の抗菌剤所放化製剤は、抗菌剤を内包したカーボンナノホーンをキャリアとして有する。
【0034】
ここで、カーボンナノホーンは、過酸化水素等の開孔処理によって設けられた開孔部を有する開孔カーボンナノホーンであることが好ましい。
【0035】
また、前記抗菌剤として、無機系抗菌剤やさらに合成系有機物抗菌剤、各種天然物系抗菌剤なども含むことができる。
【0036】
無機系抗菌剤としては、銀や銀系抗菌剤のほかにマンガン(Mn2+)、鉄(Fe3+)、コバルト(Co2+)、ニッケル(Ni2+)、銅(Cu2+)等の金属イオンなどを含む酸化物又は水酸化物等の化合物が好ましい。
【0037】
また、合成系有機物抗菌剤としては、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾールなどイミダゾール誘導体、シクロフルアニドなどN−ハロアルキルチオ系化合物、10、10’−オキシビスフェノキサアルシンなどフェニルエーテル誘導体、セシルジメチルエチルアンモニウムブロミドなど第4級アンモニウム塩および2、3、5、6テトラコロル−4−(メチルスルホニル)ピリジンなどスルホン誘導体、アミド類、トリアジン誘導体、トリアゾール誘導体、メチロール基含有化合物、活性ハロゲン含有化合物、活性化されたN−S結合含有化合物、イソチアゾロン系、有機ヨウ素系、ベンズイソチアゾロン系、およびピリチオン系等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0038】
また、前記抗菌剤は、殺菌剤及び抗生剤の内の少なくとも一種を含み、殺菌剤としては、ヨウ素、抗生剤としては、塩酸バンコマイシンなどが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
また、本発明の抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンの側壁、先端、あるいは、開孔部縁は、内包薬剤の放出速度を制御するための化学修飾が施されていることが好ましい。
【0040】
また、本発明の前記抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンの側壁、先端、あるいは、開孔部縁は、疎水性である当該カーボンナノホーンの親水性を高めるための化学修飾または細網内皮系の貪食作用を回避するための化学修飾が施されているが施されていることが好ましい。親水性は、例えば、スパッタ等によって酸素原子を化学修飾させることで得られるが、これらに限定されるものではないことは勿論である。
【0041】
また、本発明の前記抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンの側壁、先端、あるいは、開孔部縁に、前記患部に選択的に到達するように患部に特異的に発現している抗体等に選択的に付着する分子が付加されていることが好ましい。
【0042】
また、本発明の前記抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンまたは化学修飾カーボンナノホーンに機能性物質を物理吸着させることが好ましい。
【0043】
この機能物質は、内包抗菌剤の徐放制御、抗菌作用、薬剤、親水性分子、標的分子などを有する。親水性分子としては、酸素含有分子を用いることができる。
【0044】
また、本発明の前記抗菌剤徐放化製剤は、前記抗菌剤内包カーボンナノホーンを、皮膚疾患治療用として用いる。この抗菌剤徐放化製剤としては、前記抗菌剤内包カーボンナノホーンを皮膚などに塗布しやすくなるような機能を備えた物質と混合して用いることが好ましい。
【0045】
また、本発明の前記抗菌剤徐放化製剤において、前記抗菌剤内包カーボンナノホーンを、皮膚疾患治療用として体内投与して用いることが好ましい。
【0046】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではないことは勿論である。
【実施例1】
【0047】
本発明の実施例1では、塩酸バンコマイシン(VCM)内包カーボンナノホーンについて説明する。
【0048】
VCM約18mgを水100ccに溶解させ、その中に開孔単層カーボンナノホーン(SWNHox)約25mgを分散させる。分散液を大気圧窒素気流中に1週間放置したところ、VCM内包SWNHox(以下、VCM@SWNHoxと表わす)の黒色粉末を得ることができた。He中での熱重量分析により、内包されたVCMは約30〜40%(0.4〜0.7g/g)であった。収率は95%程度であった。
【0049】
VCM@SWNHox1.85mgを緩衝液4mlに分散させ、一定時間経過後、10,000rpmで5分間遠心分離して上澄み液を回収し、さらに、孔サイズ200nmのメンブレンを用いてろ過した。ろ液の紫外可視吸収スペクトルを測定し、〜280nmのピークの強度からVCMの濃度を見積もった。遠心分離管の底に残ったVCM@SWNHoxを再び4mlの緩衝液に分散させて、実験をくりかえした。その結果を図1に示す。
【0050】
図1は、VCM@SWNHoxから緩衝液中へのVCM放出量を示す図であり、図の数字はデータポイントの測定順を示している。
【0051】
図1から、ナノホーンからのVCM放出は特殊であり、緩衝液にはじめて浸漬したときに現れたVCM初期バースト放出(図1の点1と2)以外は、VCM放出量は低かった。しかも、緩衝液浸漬15分以内に、VCMの放出と取り込みが平衡に達し、見かけ上放出がとまった。これは、生体内で放出したVCMが周辺にあるときには、過剰放出しないことを示唆し、これまでにない、薬剤放出パターンである。なお、初期バーストは、SWNHox外壁に付着したVCMの溶け出しが原因である。
【0052】
上記放出特性は、臨床において、過剰投与を防ぐ好ましい特徴であると思われ、1回の本製剤の投与で少なくとも200時間以上に渡り薬剤の濃度を一定に保つ事が可能となる。血中に投与する際は抗菌効果の長期間に渡る維持が可能となり、通常1日に1〜4回の投与が必要な薬剤の投与間隔を大幅に延長する事が可能となる。また手術・処置の際にMRSA感染の可能性がある部位に局所投与することで長期間に渡る抗菌効果が可能となる。
【0053】
また塩酸バンコマイシンは、腸管で吸収されないため内服薬として骨髄移植の前処置の際の消化管内殺菌や一部の細菌感染症の治療に用いられているが(1日4回の内服が必要)、本製剤を使用する事により投与間隔を延長し、かつ持続的な抗菌力の維持が可能となる。
【0054】
(抗バクテリア試験)
大腸菌(E.coli:JM101)抗菌性試験に用いた。最初に、トリプトン(DIFCO研究所)、酵母エキス(DIFCO研究所)、NaCl,寒天(BD),及び水を2:1:2:3:200の重量比率で混ぜて、LB寒天固体培養培地を作製した。この培地を1.5時間高圧滅菌して、それから50℃まで冷却された時に、培養皿(100mm)に移動した。大腸菌は、LB液体培地に接種されて、37℃で一夜で培養された。細菌の溶液のほんの一部分は、個々のLBプレートに接種されて、寒天表面に広がり、それから、後の使用のために4℃で蓄えた。
【0055】
VCMを内包したSWNHox(VCM@SWNHoxで示す)の活性を調査するために、約3mgサンプル(約1.2mgVCM包含)を、図2に示すようにバクテリアを接種する寒天表面に置いた。比較のために、1.2mgVCMおよび1.8mgSWNHoxを同じ皿に入れた。その皿は、一晩中37℃で培養された。
【0056】
図2はVCM,SWNHox、VCM@SWNHoxを使用した大腸菌(E.coli)実験結果を示している。固体培地の白色は大腸菌(E.coli.)が存在することを示している。挿入物から、バクテリアがVCM(図2上図)及びVCM@SWNHox(図2左下図)付近で殺菌されているのに対して、SWNHoxはバクテリアに対して殺菌効果がない(非中毒性)である(図2右下図)ことが分かる。
【0057】
図2から、VCM及びVCM@SWNHox試料の周囲に、バクテリアが存在しないことによる抑制リングがあることが分かった。これは、VCM@SWNHoxがバクテリアの増殖の抑制効果を有することを示している。しかしながら、SWNHoxはそれ自身は抗生作用を有してはいない。
【実施例2】
【0058】
本発明の実施例2では、ナノホーンを用いたヨウ素吸着剤について説明する。
【0059】
1.<ナノホーンのヨウ素吸着能について>
カーボンナノホーン(CNH)を過酸化水素(100℃、3時間加熱)処理にて開孔した。開孔カーボンナノホーン(CNHox)(52mg)をヨウ素粒(0.5g)とともに密閉ガラス容器中にいれ、放置し、ヨウ素ガスをCNHoxに吸着させた(I2/CNHox)。ヨウ素吸着によるCNHoxの重量増加を調べた結果を図3に示す。図3はCNHoxに吸着されたヨウ素量の時間依存性を示している。図4は、I2/CNHoxのラマンスペクトルを示している。CNHoxに内包されたヨウ素はI5−やI3−となっていることがわかった。CNHoxのGバンドは通常のCNHox1592cm−1より約8cm−1ブルーシフトしていた。これより、CNHoxからヨウ素に電子移動したことが明らかである。
【0060】
2.<I2/CNHoxからのヨウ素放出>
I2/CNHoxからのI2の放出は、取り込み速度よりもよりゆっくり進行した。I2/NHoxは、室温で空気にさらされた。I2/CNHoxからのヨウ素放出に伴うI2/NHoxの重量減少を図5に示す。図5に示すように、I2/CNHoxの初期の重量は、180.5mg(128.5mgのI2と52mgのCNHox)であった。それは、52日間のI2がCNHoxに包含された結果である。I2/CNHoxを64日間空気にさらした後に、その重量は120.6mgに減少しただけで、まだ、59.9mgのI2がCNHox中に残存していた。吸着量半減期は約2000時間(約83日)であった。
【0061】
3.<放出ヨウ素の抗菌作用>
I2/NHoxの抗菌性の効果を、大腸菌(colon bacilli)において研究した。CNHoxにI2を26日間吸着後、CNHoxに含まれているI2の重量比率は2:1であった。0.15mgのI2/CNHoxは、その上に大腸菌が増殖した培養皿上に置かれた。対比のために、20μlの水および20μlのペニシリンが、同じ培養皿に滴下された。図6に示すように、1日の定温培養の後に、ペニシリンとI2/CNHoxは、大腸菌への成長抑制効果があることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上の説明の通り、本発明においては、カーボンナノホーンをキャリアとすることで抗菌剤を徐放化する製剤に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施例1によるVCM@SWNHoxから緩衝液中へのVCM放出量を示す図で、図中の数字はデータポイントの測定順を示している。
【図2】VCM,SWNHox、VCM@SWNHoxを使用した大腸菌(E.coli)実験結果を示す写真である。
【図3】本発明の実施例2によるCNHoxに吸着されたヨウ素量の時間依存性を示している。
【図4】本発明の実施例2によるI2/CNHoxのラマンスペクトルを示す図である。
【図5】本発明の実施例2によるI2/CNHoxからのヨウ素放出に伴うI2/NHoxの重量減少を示す図である。
【図6】1日の定温培養の後のペニシリンとI2/CNHoxの大腸菌への成長抑制効果を示す写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌剤を内包したカーボンナノホーンをキャリアとして有することを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項2】
請求項1に記載の抗菌剤徐放化製剤において、前記抗菌剤は、無機系抗菌剤や合成系有機物抗菌剤、天然物系抗菌剤などを含むことを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抗菌剤徐放化製剤において、前記抗菌剤は、殺菌剤及び抗生剤の内の少なくとも一種を含むことを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項4】
請求項1乃至3の内のいずれか一つに記載の抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンは開孔部を有するカーボンナノホーンであることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項5】
請求項4に記載の抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンの側壁、先端、あるいは、開孔部縁には、内包薬剤の放出速度を制御するための化学修飾が施されていることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項6】
請求項4に記載の抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンの側壁、先端、あるいは、開孔部縁には、疎水性である当該カーボンナノホーンの親水性を高めるための化学修飾または細網内皮系の貪食作用を回避するための化学修飾が施されていることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項7】
請求項4に記載の抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンの側壁、先端、あるいは、開孔部縁に、前記患部に選択的に到達するように患部に特異的に発現している抗体等に選択的に付着する分子が付加されていることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項8】
請求項1乃至6の内のいずれか一つに記載された抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンまたは化学修飾カーボンナノホーンに機能性物質を物理吸着させたことを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項9】
請求項8に記載の抗菌剤徐放化製剤において、前記機能性物質の機能は、内包抗菌剤の徐放制御、抗菌作用、薬剤、親水性分子、または標的分子などであることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項10】
請求項1乃至9の内のいずれか一つに記載の抗菌剤徐放化製剤において、前記抗菌剤内包カーボンナノホーンを、皮膚疾患治療用として用いることを特徴とする抗菌剤抗菌剤徐放化製剤。
【請求項11】
請求項1乃至9の内のいずれか一つに記載の抗菌剤徐放化製剤において、あるいは、抗菌剤内包カーボンナノホーンを皮膚などに塗布しやすくなるような機能を備えた物質と混合して用いることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項12】
請求項1乃至9の内のいずれか一つに記載の抗菌剤徐放化製剤において、前記抗菌剤内包カーボンナノホーンを、皮膚疾患治療用として体内投与して用いることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項13】
キャリアとしてカーボンナノホーンを開孔処理し、抗菌剤を内包させることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の抗菌剤徐放化製剤の製造方法において、前記抗菌剤は、無機系抗菌剤や合成系有機物抗菌剤、天然物系抗菌剤などを含むことを特徴とする抗菌剤徐放化製剤の製造方法。
【請求項15】
請求項13に記載の抗菌剤徐放化製剤の製造方法において、前記抗菌剤は、殺菌剤及び抗生剤の内の少なくとも一種を含むことを特徴とする抗菌剤徐放化製剤の製造方法。
【請求項1】
抗菌剤を内包したカーボンナノホーンをキャリアとして有することを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項2】
請求項1に記載の抗菌剤徐放化製剤において、前記抗菌剤は、無機系抗菌剤や合成系有機物抗菌剤、天然物系抗菌剤などを含むことを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抗菌剤徐放化製剤において、前記抗菌剤は、殺菌剤及び抗生剤の内の少なくとも一種を含むことを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項4】
請求項1乃至3の内のいずれか一つに記載の抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンは開孔部を有するカーボンナノホーンであることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項5】
請求項4に記載の抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンの側壁、先端、あるいは、開孔部縁には、内包薬剤の放出速度を制御するための化学修飾が施されていることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項6】
請求項4に記載の抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンの側壁、先端、あるいは、開孔部縁には、疎水性である当該カーボンナノホーンの親水性を高めるための化学修飾または細網内皮系の貪食作用を回避するための化学修飾が施されていることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項7】
請求項4に記載の抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンの側壁、先端、あるいは、開孔部縁に、前記患部に選択的に到達するように患部に特異的に発現している抗体等に選択的に付着する分子が付加されていることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項8】
請求項1乃至6の内のいずれか一つに記載された抗菌剤徐放化製剤において、前記カーボンナノホーンまたは化学修飾カーボンナノホーンに機能性物質を物理吸着させたことを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項9】
請求項8に記載の抗菌剤徐放化製剤において、前記機能性物質の機能は、内包抗菌剤の徐放制御、抗菌作用、薬剤、親水性分子、または標的分子などであることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項10】
請求項1乃至9の内のいずれか一つに記載の抗菌剤徐放化製剤において、前記抗菌剤内包カーボンナノホーンを、皮膚疾患治療用として用いることを特徴とする抗菌剤抗菌剤徐放化製剤。
【請求項11】
請求項1乃至9の内のいずれか一つに記載の抗菌剤徐放化製剤において、あるいは、抗菌剤内包カーボンナノホーンを皮膚などに塗布しやすくなるような機能を備えた物質と混合して用いることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項12】
請求項1乃至9の内のいずれか一つに記載の抗菌剤徐放化製剤において、前記抗菌剤内包カーボンナノホーンを、皮膚疾患治療用として体内投与して用いることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤。
【請求項13】
キャリアとしてカーボンナノホーンを開孔処理し、抗菌剤を内包させることを特徴とする抗菌剤徐放化製剤の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の抗菌剤徐放化製剤の製造方法において、前記抗菌剤は、無機系抗菌剤や合成系有機物抗菌剤、天然物系抗菌剤などを含むことを特徴とする抗菌剤徐放化製剤の製造方法。
【請求項15】
請求項13に記載の抗菌剤徐放化製剤の製造方法において、前記抗菌剤は、殺菌剤及び抗生剤の内の少なくとも一種を含むことを特徴とする抗菌剤徐放化製剤の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2009−184973(P2009−184973A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26970(P2008−26970)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年8月7日 日本褥瘡学会誌編集委員会発行の「日本褥瘡学会誌 Vol.9 No.3 2007」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年10月21日 第10回日本組織工学会発行の「第10回日本組織工学会 エイジング研究・再生組織工学への挑戦 プログラム・抄録集」に発表
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年8月7日 日本褥瘡学会誌編集委員会発行の「日本褥瘡学会誌 Vol.9 No.3 2007」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年10月21日 第10回日本組織工学会発行の「第10回日本組織工学会 エイジング研究・再生組織工学への挑戦 プログラム・抄録集」に発表
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
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