説明

カーボンナノ構造体、キャパシタ、カーボンナノ構造体の加工方法ならびに製造方法

【課題】カーボンナノ構造体の形状や電気的特性を制御する。
【解決手段】本発明に従ったカーボンナノ構造体の加工方法は、カーボンナノ構造体(たとえばカーボンナノチューブ1)を準備する工程(CNT準備工程)と、当該カーボンナノチューブ1に対して、振動を加えた状態で、エネルギー線(たとえば電子線)を照射する工程(照射工程)とを備える。このようにすれば、カーボンナノチューブ1の長さや電気的特性を容易に変更することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カーボンナノ構造体、キャパシタ、カーボンナノ構造体の加工方法ならびに製造方法に関し、より特定的には、一方向に延びる形状を有するカーボンナノ構造体、当該カーボンナノ構造体を用いたキャパシタ、カーボンナノ構造体の加工方法ならびに製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンナノチューブ(Carbon NanoTube:CNT)などのカーボンナノ構造体が知られている(たとえば、特開2010−99572号公報(以下、特許文献1と呼ぶ)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−99572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カーボンナノチューブなどのカーボンナノ構造体は、炭素原子がナノメートルレベルの直径で並ぶことにより形成される構造体であって、電子材料など様々な分野への応用が検討されている。そのため、カーボンナノ構造体が比較的新しい材料でもあることから、カーボンナノ構造体の電気的特性といった特性の制御方法やカーボンナノ構造体の加工方法、さらにカーボンナノ構造体を利用した素子などが広く研究され、さまざまな分野への応用が期待されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者は、カーボンナノ構造体について鋭意研究を進める中で、以下のような新たな知見を得た。すなわち、カーボンナノ構造体に振動を加えた状態でエネルギー線を照射すると、カーボンナノ構造体の長さが変化するという新たな現象を見出した。このようなカーボンナノ構造体の長さの変化は、上述した振動のような応力を加えた状態でさらにエネルギー線を照射するという条件が揃って初めて起きる現象であった。また、エネルギー線のエネルギーレベルを変更することで、カーボン構造体の長さの変化量も変更可能であった。さらに、このように長さの変化したカーボンナノ構造体では、その電気抵抗も長さの変化の前後において変化していた。また、カーボンナノ構造体に振動を印加する方法として、カーボンナノ構造体を固定した部材に振動を加えるという方法に限らず、カーボンナノ構造体を表面に乗せたホルダを振動させることで、カーボンナノ構造体を間接的に振動させることによっても、エネルギー線の照射に伴う長さの変化が観察された。上記のような知見に基づく本発明に従ったカーボンナノ構造体の加工方法は、カーボンナノ構造体を準備する工程と、当該カーボンナノ構造体に対して、振動を加えた状態で、エネルギー線を照射する工程とを備える。
【0006】
このようにすれば、カーボンナノ構造体の一軸方向における長さを、エネルギー線の照射エネルギーを調整することで変更することができる。また、発明者の知見によれば、エネルギー線の照射により長さが変更されたカーボンナノ構造体は、その電気的特性(たとえば電気抵抗値)もエネルギー線の照射前後で異なる。このため、たとえば1種類のカーボンナノ構造体より、長さおよび/または電気的特性が異なる複数種類のカーボンナノ構造体を得ることができる。
【0007】
さらに、上述のようにエネルギー線の照射により長さが短くなったカーボンナノ構造体は、エネルギー線の照射前に比べて単位体積当たりの表面積が大きくなる。そのため、カーボンナノ構造体の表面積が特性に影響を与えるような用途に本発明によるカーボンナノ構造体を適用すれば、当該特性を任意に変更することができる。たとえば、本発明によるカーボンナノ構造体をキャパシタの電極として利用すれば、従来と同じサイズのキャパシタにおいて電極の面積をより大きくできるので、従来よりキャパシタ容量を大きくすることが可能になる。
【0008】
なお、ここでカーボンナノ構造体とは、炭素原子により構成されるナノメートルオーダーの構造を持つ物質であり、たとえばカーボンナノチューブ(1層あるいは複数層のもの)が例として挙げられる。
【0009】
この発明に従ったカーボンナノ構造体の製造方法は、上記カーボンナノ構造体の加工方法を用いている。このようにすれば、エネルギー線の照射エネルギーを適宜変更することにより、一種類のカーボンナノ構造体を出発材料として、長さや電気的特性の異なる複数種類のカーボンナノ構造体を製造することができる。
【0010】
この発明に従ったカーボンナノ構造体は、上記カーボンナノ構造体の製造方法を用いて製造される。得られたカーボンナノ構造体は、たとえば一方向に延び、側壁を有するカーボンナノ構造体であって、当該一方向に対して、側壁が周期的に屈曲している。発明者は、上述したカーボンナノ構造体の加工方法または製造方法を適用して得られたカーボンナノ構造体の側壁を観察した結果、当該側壁が周期的に波打つように屈曲していることを見出した。このように側壁が周期的に屈曲することで、カーボンナノ構造体の延在方向(上記一方向)における単位長さ当たりでのカーボンナノ構造体の表面積は、当該屈曲が形成されていない場合(つまりエネルギー線を照射されていない場合)より大きくなる。このため、カーボンナノ構造体の単位体積当たりの表面積を大きくすることができるので、たとえば触媒などの用途に本発明によるカーボンナノ構造体を適用すると、触媒の単位体積当たりの反応面積(表面積)を大きくすることができる。
【0011】
この発明に従ったキャパシタは、カーボンナノ構造体を含む1対の電極と、当該1対の電極の間に配置された電解液およびセパレータとを備える。このようにすれば、電極が本発明によるカーボンナノ構造体を含むので、電極のサイズを変更することなく、当該電極の表面積を従来の一般的なカーボンナノ構造体を用いた場合より大きくすることができる。このため、キャパシタの容量を従来より大きくすることが可能になる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、長さや電気的特性の異なるカーボンナノ構造体を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によるカーボンナノチューブの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】図1に示した照射工程を説明するための模式図である。
【図3】照射工程を実施した後のカーボンナノチューブを示す斜視模式図である。
【図4】図3の領域IVにおけるカーボンナノチューブの側壁の断面を示す模式図である。
【図5】図1に示した照射工程(S20)の第1の変形例を示す模式図である。
【図6】図1に示した照射工程(S20)の第2の変形例を示す模式図である。
【図7】図1に示した照射工程(S20)の第3の変形例を示す模式図である。
【図8】本発明によるカーボンナノチューブを用いたキャパシタを示す模式図である。
【図9】図8に示したキャパシタの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図10】図9に示した構成材準備工程に含まれる照射工程を説明するための模式図である。
【図11】実験1の比較例の試料に対して電子線を照射した前後における試料の状態を示す写真である。
【図12】実験1の実施例の試料に対して電子線を照射した前後における試料の状態を示す写真である。
【図13】実験2の結果を示すグラフである。
【図14】実験3の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0015】
図1および図2を参照して、本発明によるカーボンナノチューブの製造方法を説明する。
【0016】
図1に示すように、本発明によるカーボンナノ構造体の一例であるカーボンナノチューブの製造方法では、まずカーボンナノチューブ(CNT)準備工程(S10)を実施する。具体的には、図2に示すように、カーボンナノチューブ1を、金属製のホルダ5の表面とカンチレバー2の先端との間を繋ぐように配置する。ホルダ5とカーボンナノチューブ1との間の接続方法、およびカーボンナノチューブ1とカンチレバー2との接続方法は、任意の方法を用いることができる。たとえば、カーボンナノチューブ1をホルダ5に接触させて通電し、ホルダ5表面に吸着している炭素成分とカーボンナノチューブ1とを接着させる、といった方法を用いることができる。この結果、図2に示すようにカンチレバー2とホルダ5の表面とを繋ぐようにカーボンナノチューブ1が配置された状態となる。
【0017】
ここで、カーボンナノチューブ1としては、炭素の層(グラフェン)が1層だけ筒状になっているシングルウォールナノチューブ(SWNT)や、炭素の層が複数層積層した状態で筒状になっているマルチウォールナノチューブ(MWNT)を用いることができる。カーボンナノチューブ1の長さはたとえば1μm以上3μm以下とすることができる。また、カーボンナノチューブ1がMWNTである場合には、当該カーボンナノチューブ1の直径はたとえば10nm程度である。また、カーボンナノチューブ1がSWNTである場合には、当該カーボンナノチューブ1の直径はたとえば2nm程度である。
【0018】
次に、図1に示した照射工程(S20)を実施する。つまり、図2に示したように、カーボンナノチューブ1に超音波振動を与えながら電子線を照射する。具体的には、カーボンナノチューブ1の一方端が固定されているホルダ5の裏面には圧電素子6を接続する。この圧電素子6は発振器7と電気的に接続される。この発振器7からの電力制御により、圧電素子6が超音波振動する。この超音波振動によって、ホルダ5およびこのホルダ5に接続されているカーボンナノチューブ1が振動する。そして、予め真空状態にされた処理室20の内部において、カーボンナノチューブ1に超音波振動が与えられた状態で電子線4を照射する。
【0019】
なお、超音波の印加方法は上記以外の任意の方法を用いることができる。たとえば、カンチレバー2に圧電素子6などの超音波振動子を接続し、カンチレバー2を介してカーボンナノチューブ1を振動させてもよい。
【0020】
なお、印加する超音波の周波数は任意の波長とすることができるが、たとえば当該周波数を1.2MHzとすることができる。また、電子線の照射エネルギー値としては、たとえば300eV以上30keV以下、より好ましくは1keV以上30keV以下といった数値範囲を採用することができる。このように、振動を加えた状態でカーボンナノチューブ1にエネルギー線を照射することで、エネルギー線の照射を行なう前に比べてカーボンナノチューブ1の長手方向における長さを変化させる(たとえば長さを短くする)ことができる。
【0021】
このように振動を印加した状態でのエネルギー線の照射により長さが短くなったカーボンナノチューブ1は、図3および図4に示すように、その側壁が波打ったような状態になることにより、全体としての軸方向での長さがエネルギー線の照射前より短くなっている。
【0022】
図3および図4に示すように、本発明によるカーボンナノチューブ1は、その側壁を軸方向(カーボンナノチューブ1が延在する方向)に対して周期的に波打つように(屈曲するように)変形することにより、全体としての長さがエネルギー線の照射前よりも短くなっている。
【0023】
図5を参照して、照射工程(S20)の変形例を説明する。
図5に示した照射工程は、基本的には図2に示した照射工程と同様であるが、カーボンナノチューブ1の配置が異なっている。すなわち、カーボンナノチューブ1はホルダ5の表面上に配置されており、ホルダ5に対して特に固定はされていない。この状態で、圧電素子6によって発生した超音波を用いてホルダ5およびカーボンナノチューブ1を振動させる。そして、電子線4を照射することによっても、図2に示した場合と同様にカーボンナノチューブ1の長さを短くすることができる。
【0024】
ここで、ホルダ5においてカーボンナノチューブ1を搭載する表面の状態は、図5に示すように平坦でもよいが、ある程度の粗さを有するようにしておくことが好ましい。また、図6に示すように、ホルダ5の表面に凹凸形状を形成しておいてもよい。
【0025】
図6に示したホルダ5は、基本的には図5に示したホルダ5と同様の構造であるが、その表面状態が異なっている。すなわち、図5に示したホルダ5は、カーボンナノチューブ1が搭載されるべき表面に複数の凸部13が形成されている。この凸部13の頂点間の距離は、カーボンナノチューブ1の長さよりも短くなっていることが好ましい。このようにすれば、カーボンナノチューブ1とホルダ5との接触部の接触面積を小さくできるので、カーボンナノチューブ1がホルダ5の表面に固着することを効果的に防止できる。このため、圧電素子6によって発生した超音波によってカーボンナノチューブ1がより確実に振動する。
【0026】
図7は、図1に示した照射工程(S20)の第3の変形例を示す模式図であって、カーボンナノチューブ1のホルダ5への搭載方法の変形例を示している。図7に示すように、ホルダ5の表面に、当該表面に対して交差する方向(たとえば垂直方向)に延びるように複数のカーボンナノチューブ1を形成してもよい。そして、当該ホルダ5の側端面に圧電素子6を接続し、当該圧電素子6によって発生した超音波により複数のカーボンナノチューブ1を振動させてもよい。この状態で電子線4を照射することによっても、上述した構造と同様にカーボンナノチューブ1の長さを短くすることができる。
【0027】
なお、圧電素子6の配置は、図6などに示した構成と同様にホルダ5の裏面に配置してもよい。
【0028】
上述のように本発明による加工方法によって得られたカーボンナノチューブは、その側壁の表面に凹凸部が形成されることによって単位体積当たりの表面積が従来のカーボンナノチューブよりも大きくなっている。そのため、その反応にカーボンナノチューブの表面積が関係するような用途において適用することが考えられるが、たとえば当該カーボンナノチューブ1を用いて図8に示すようなキャパシタ30を形成することが考えられる。図8を参照して、本発明によるカーボンナノチューブを用いたキャパシタを説明する。
【0029】
図8を参照して、キャパシタ30は、集電体電極31と、当該集電体電極31の表面に形成された本発明によるカーボンナノチューブ1と、2つの集電体電極31の間において、複数のカーボンナノチューブ1の間に挟まれるように配置されたセパレータ32とからなる。セパレータ32には電解液が含浸されている。このようなキャパシタ30では、電極として用いられているカーボンナノチューブ1の単位体積当たりの表面積が従来のカーボンナノチューブより大きくなっているので、キャパシタ30のサイズを変更することなくキャパシタ30の容量(静電容量)を大きくすることができる。
【0030】
図9は、図8に示したキャパシタの製造方法を説明するためのフローチャートである。図10は、図9に示した構成材準備工程に含まれる照射工程を説明するための模式図である。図9および図10を参照して、図8に示したキャパシタ30の製造方法を説明する。
【0031】
図9に示すように、まず構成材準備工程(S100)を実施する。具体的には、図8に示したキャパシタの集電体電極31の表面にカーボンナノチューブ1が形成されたもの、および電解液が含浸されたセパレータ32を準備する。集電体電極31の表面にカーボンナノチューブ1を形成する方法は、従来周知の任意の方法を用いることができる。そして、このカーボンナノチューブ1が形成された集電体電極31に対して、図1に示した本発明による照射工程(S20)を実施することにより、当該カーボンナノチューブ1の長さを短くする(つまり、側壁表面に凹凸構造を有するカーボンナノチューブ1を形成する)。
【0032】
具体的には、図10に示すように、カーボンナノチューブ1が形成された集電体電極31をホルダ5の上に搭載する。そして、発振器7からの電力制御によって圧電素子6を駆動することにより超音波を発生させる。この超音波によってホルダ5およびカーボンナノチューブ1が振動した状態で、電子線4を照射する。なお、このとき処理室20の内部は真空状態(たとえば、1×10-4Pa以上1×10-3Pa以下、という雰囲気圧力条件)にしておくことが好ましい。この結果、カーボンナノチューブ1の表面に凹凸構造ができるとともにカーボンナノチューブ1の長さが短くなる。
【0033】
次に、図9に示した組立工程(S200)を実施する。具体的には、上記工程により得られたカーボンナノチューブ付きの集電体電極31を2個向かい合わせに配置するとともに、その間にセパレータ32を配置する。このようにして、図10に示すキャパシタ30を得ることができる。
【0034】
(実験1)
カーボンナノチューブに対する振動印加状態でのエネルギー線の照射により、カーボンナノチューブが変形することを確認するため、以下のような実験を行なった。
【0035】
(試料)
実施例および比較例の試料として、SWNTであるカーボンナノチューブを準備した。実施例の試料であるカーボンナノチューブは、図2に示すようにホルダ5とカンチレバー2との間をつなぐように配置された。一方、比較例の試料であるカーボンナノチューブはその一方端がプローブ針3に固定された状態とされた。なお、準備したカーボンナノチューブの直径は約2.0nmであり、長さは約1.0μmであった。なお、ここで用いたカーボンナノチューブは、複数のカーボンナノチューブが束になったバンドル状のカーボンナノチューブ束として取り扱われており、当該カーボンナノチューブ束の直径は約100nm程度である。以下、当該カーボンナノチューブ束を単にカーボンナノチューブとも呼ぶ。
【0036】
(実験)
上記のように準備した各試料に対して、図2で説明したようにエネルギー線としての電子線を照射した。ただし、実施例については圧電素子6により周波数が1.2MHzの超音波を印加した状態で電子線を照射する一方、比較例の試料については特に振動などを加えることなく電子線を照射した。具体的には、実施例および比較例の試料に照射エネルギーが5keVである電子線を照射した。
【0037】
(結果)
図11および図12を参照して、上述した実験の結果を説明する。なお、図11および図12では、それぞれ(a)として電子線照射前の試料の写真を示し、(b)として電子線照射後の試料の写真を示している。
【0038】
図11に示すように、カーボンナノチューブに対して振動を加えない状態で電子線を照射しても、比較例の試料ではカーボンナノチューブの長さに大きな変化は見られなかった。一方、本発明の実施例については、カーボンナノチューブの軸方向における長さに変化が見られた。具体的には、図12に示すように、振動を加えながらエネルギーが5keVの電子線を照射した場合には、電子線の照射前(図12(a))に比べて照射後のカーボンナノチューブは図12(b)に見られるようにその長さが照射前の長さの80%〜90%程度まで縮小した。図11および図12から分かるように、単にカーボンナノチューブに電子線を照射するだけではカーボンナノチューブの長さは変化せず、振動を加えた状態で電子線を照射することで、カーボンナノチューブの長さが変化することが示された。
【0039】
(実験2)
次に、照射工程における電子線のドーズ量とカーボンナノチューブの長さの変化量との関係、およびカーボンナノチューブに対する応力の印加方法の違いの影響について以下のような実験を行なった。
【0040】
(試料)
試料としては、カーボンナノチューブ(シングルウォールナノチューブ(SWNT))を準備した。なお、準備したSWNTの直径は約2.0nmであり、長さは約1.0μmであった。そして、こられのカーボンナノチューブを図2に示すようにホルダとカンチレバーとの間を接続するように固定した実験系を4つ準備した。
【0041】
(実験)
それぞれ実験系におけるカーボンナノチューブの試料に対して、応力の印加条件を変えた上で、照射する電子線のドーズ量を変えたときのカーボンナノチューブの長さ変化を測定した。電子線のドーズ量としては、0〜0.08C/cmの範囲で変化させた。なお、電子線の加速電圧は5keVとした。
【0042】
また、応力の印加条件としては、条件1)引張応力も振動も印加しない、条件2)引張応力のみ印加する、条件3)超音波振動のみ印加する、条件4)引張応力と超音波振動との両方を印加する、という4つの条件を各実験系に適用した。なお、超音波の条件としては、周波数を1.2MHzの超音波を印加した。また、印加した引張応力の値は約0.8GPaとした。
【0043】
(結果)
カーボンナノチューブの長さ変化を、収縮率という指標で評価した。ここで、収縮率とは、((電子線照射前のカーボンナノチューブの長さ)−(電子線照射後のカーボンナノチューブの長さ))/(電子線照射前のカーボンナノチューブの長さ))である。その結果を図13に示す。
【0044】
図13は、実験の結果を示すグラフであり、横軸が照射した電子線のドーズ量を示す。横軸の単位はC/cmである。また、縦軸が上述した収縮率を示す。また、図13では、条件1(作用なし:振動も引張応力も加えられていない条件)のデータは黒塗り丸形のマークで示されており、条件2(引張応力のみ)のデータは黒塗り菱形のマークで示されている。また、条件3(超音波振動のみ)のデータは白抜き四角のマークで示されており、条件4(引張応力+超音波振動)のデータは白抜き三角のマークで示されている。
【0045】
図13からもわかるように、条件2)〜条件4)のデータにはほとんど差が無かった。これは、超音波振動も引張応力の印加も、本発明における加工方法における作用として同等であることを示していると考えられる。なお、図13のグラフから、電子線のドーズ量を増やすことで収縮率の値が小さくなる(つまり収縮量を多くできる)ことがわかる。一方、条件1の振動も引張応力も印加されない条件では、電子線を照射してもカーボンナノチューブの長さに変化はほとんど見られなかった。
【0046】
(実験3)
次に、超音波印加状態での照射工程前後でのカーボンナノチューブについて、共鳴ラマンシフト測定を行なった。
【0047】
(試料)
試料として、SWNTを準備した。当該SWNTを実験2の場合と同様に、図2に示したようにホルダ5とカンチレバー2との間に固定した。なお、準備したSWNTの直径は約2.0nmであり、長さは約1.0μmであった。
【0048】
(実験)
準備した資料について、まず電子線照射前に共鳴ラマンシフト測定を行なった。その後、当該試料に対して超音波を印加した状態で電子線を照射した。そして、電子線の照射後におけるカーボンナノチューブについて再度共鳴ラマンシフト測定を行なった。なお、照射した電子線のエネルギーは5keVとし、カーボンナノチューブの長さが約3%収縮するまで電子線を照射した。
【0049】
また、共鳴ラマンシフト測定の方法としては、顕微ラマン分光分析装置を用いた。当該顕微ラマン分光分析装置において、光源としては波長が632.8nmのHe−Neレーザを用いた。なお、顕微ラマン分光分析装置は、一般的に上述したレーザ光を出射する光源(レーザ光源)と、当該光源から出射したレーザ光を顕微鏡の対物レンズを介して分析対象物の試料に入射するための光学系と、当該試料から散乱した光(ラマン散乱成分)を分光するための分光器と、当該分光器に上述した散乱した光を導入するためのフィルタと、分光器で分光されたラマン散乱成分を検出するための検出器とを備える。検出器としては、たとえばCCDを用いたマルチチャネル検出器を用いることができる。
【0050】
(結果)
図14を参照して、上述した測定結果を説明する。図14の横軸はラマンシフト(単位:cm−1)を示し、縦軸が測定強度(単位:任意単位)を示す。図14において(a)で示されたグラフ(上側の曲線)は電子線照射前の測定データであり、(b)で示されたグラフ(下側の曲線)は電子線照射後(つまりカーボンナノチューブの長さが3%収縮した後)の測定データを示す。
【0051】
図14からわかるように、電子線をカーボンナノチューブに照射する前では、Gバンドピークが観察されていたが、電子線照射後では当該Gバンドピークの強度が著しく減少していることがわかる。
【0052】
以下、上述した実施の形態と一部重複する部分もあるが、本発明の特徴的な構成を列挙する。本発明に従ったカーボンナノ構造体の加工方法は、カーボンナノ構造体(たとえばカーボンナノチューブ1)を準備する工程(CNT準備工程(S10))と、当該カーボンナノチューブ1に対して、振動を加えた状態で、エネルギー線(たとえば電子線)を照射する工程(照射工程(S20))とを備える。なお、エネルギー線として電子線以外では、たとえば光やX線などの電磁波や粒子線などの、任意の放射線を用いることができる。
【0053】
このようにすれば、カーボンナノチューブ1の上記一軸方向における長さを、電子線の照射エネルギーを調整することで変更することができる。また、発明者の知見によれば、電子線の照射により長さが変更されたカーボンナノチューブ1は、その電気的特性(たとえば電気抵抗値)も電子線の照射前後で異なる。このため、たとえば1種類のカーボンナノチューブ1から、長さおよび/または電気的特性が異なる複数種類のカーボンナノチューブを得ることができる。
【0054】
さらに、上述のようにエネルギー線の照射により長さが短くなったカーボンナノチューブ1は、エネルギー線の照射前に比べて単位体積当たりの表面積が大きくなる。そのため、カーボンナノチューブ1の表面積が特性に影響を与えるような用途に本発明によるカーボンナノチューブ1を適用すれば、当該特性を任意に変更することができる。たとえば、本発明によるカーボンナノチューブ1をキャパシタ30の電極として利用すれば、従来と同じサイズのキャパシタ30において電極の面積をより大きくできるので、従来よりキャパシタ容量を大きくすることが可能になる。
【0055】
上記カーボンナノ構造体の加工方法では、エネルギー線を照射する工程(照射工程(S20))において、カーボンナノチューブ1に対して加えられる振動は超音波振動であってもよい。ここで、用いる超音波振動の周波数としてはたとえば10kHz以上とすることができる。このように超音波振動をカーボンナノチューブ1に加えることで、局所的に十分な強さの応力をカーボンナノチューブ1に加えることができる。そのため、エネルギー線の照射によりカーボンナノチューブ1の長さの変化を確実に起こすことができる。なお、用いる超音波振動の周波数は好ましくは20kHz以上とすることができる。また、当該超音波振動の周波数の上限は、たとえば10MHzとすることができる。
【0056】
上記カーボンナノ構造体の加工方法において、エネルギー線を照射する工程(照射工程(S20))では、図5に示すようにホルダ5の表面上にカーボンナノチューブ1を搭載するとともに、ホルダ5に振動を加えることでカーボンナノチューブ1を振動させてもよい。この場合、ホルダ5の上にカーボンナノチューブ1を載せるだけで特にホルダ5にカーボンナノチューブ1を接続する必要がない。そのため、本発明による加工方法を容易に実施することができる。
【0057】
上記カーボンナノ構造体の加工方法において、エネルギー線を照射する工程照射工程(S20))では、図2や図7に示すように、ホルダ5の表面上にカーボンナノチューブ1の少なくとも一部を固定するとともに、ホルダ5に振動を加えることでカーボンナノチューブ1を振動させてもよい。この場合、カーボンナノチューブ1を確実に振動させることができるので、カーボンナノチューブ1の長さをエネルギー線の照射により確実に短縮することができる。
【0058】
上記カーボンナノ構造体の加工方法において、カーボンナノ構造体を準備する工程(CNT準備工程(S10))では、図10に示すように、支持体としての集電体電極31の表面にカーボンナノチューブ1が固定されてもよく、エネルギー線を照射する工程(照射工程(S20))では、カーボンナノチューブ1が固定された集電体電極31をホルダ5の表面上に搭載するとともに、ホルダ5に振動を加えることでカーボンナノチューブ1を振動させてもよい。なお、ホルダ5に振動を加える方法としては、ホルダ5に振動発生部材としての圧電素子6を接続し、当該圧電素子6を駆動することで振動(超音波振動)をホルダ5に加えてもよい。
【0059】
この場合、カーボンナノチューブ1を含む部品(たとえばカーボンナノチューブ1が表面に複数個接続された集電体電極31からなるキャパシタ電極)をそのままホルダ5上に搭載し、カーボンナノチューブ1の長さを変更する(つまりカーボンナノチューブの側壁に周期的な屈曲部(凹凸部)を形成する)ことが可能になる。このため、予めカーボンナノチューブ1を用いて部品を作製しておき、その後の上述した本発明によるカーボンナノ構造体の加工方法を適用することで当該部品に含まれるカーボンナノチューブ1の長さ(形状)を変更できる。この結果、部品の特性を事後的に変更することができる。
【0060】
上記カーボンナノ構造体の加工方法では、照射工程(S20)において用いられるエネルギー線は電子線であってもよい。この場合、確実にカーボンナノチューブ1の長さを変更することができる。また、電子線は電子の加速電圧を変更することでエネルギーレベルを容易に変更できるので、カーボンナノチューブ1の長さや電気的特性を調整するために電子線のエネルギーレベルの変更を容易に行なうことができる。
【0061】
上記カーボンナノ構造体の加工方法において、電子線のエネルギーは1keV以上30keV以下であってもよい。この場合、カーボンナノチューブ1の長さを、電子線の照射により確実に短くすることができる。また、カーボンナノチューブ1の電気抵抗値を電子線の照射前に比べて高くすることができる。ここで、電子線のエネルギーの下限は好ましくは3keV以上であり、より好ましくは5keV以上である。なお、電子線などのエネルギー線の照射エネルギーは、少なくともカーボンナノ構造体を構成する炭素原子の内殻励起の閾値である300eV以上であることが好ましい。
【0062】
上記カーボンナノ構造体の加工方法において、照射工程(S20)では、カーボンナノチューブ1を加熱しながら振動を加えた状態で、エネルギー線(たとえば電子線)を照射してもよい。この場合、カーボンナノチューブ1の加熱条件を変えることで、エネルギー線の照射エネルギーレベルが一定であってもカーボンナノチューブ1の変形(長さの伸長あるいは短縮)の程度や電気的特性を変えることができる。つまり、カーボンナノチューブ1の長さ変化や電気的特性の変化を制御する要因として、エネルギー線の照射エネルギーに加えてカーボンナノチューブ1の加熱条件も利用することができる。このため、カーボンナノチューブ1の長さや電気的特性の変更における自由度をより大きくすることができる。
【0063】
この発明に従ったカーボンナノ構造体(たとえばカーボンナノチューブ1)の製造方法は、上記カーボンナノ構造体の加工方法を用いている。このようにすれば、エネルギー線の照射エネルギーを適宜変更することにより、一種類のカーボンナノ構造体(カーボンナノチューブ1)を出発材料として、長さや電気的特性の異なる複数種類のカーボンナノ構造体を製造することができる。
【0064】
この発明に従ったカーボンナノ構造体としてのカーボンナノチューブ1は、上記カーボンナノ構造体の製造方法を用いて製造されたものである。具体的には、この発明に従ったカーボンナノチューブ1は、一方向に延び、側壁を有するカーボンナノチューブであって、図4に示すように当該一方向に対して、側壁が周期的に屈曲している。このように側壁が周期的に屈曲することで、カーボンナノチューブ1の延在方向(上記一方向)における単位長さ当たりでのカーボンナノチューブ1の表面積は、当該屈曲が形成されていない場合(つまりエネルギー線を照射されていない場合)より大きくなる。このため、カーボンナノチューブ1の単位体積当たりの表面積を大きくすることができるので、たとえば触媒などの用途に本発明によるカーボンナノチューブ1を適用すると、触媒の単位体積当たりの反応面積(表面積)を大きくすることができる。
【0065】
この発明に従ったキャパシタは、図8に示すように、上記カーボンナノ構造体の一例であるカーボンナノチューブ1を含む1対の電極(複数のカーボンナノチューブ1が表面に接続された集電体電極31)と、1対の電極の間に配置された電解液およびセパレータ32とを備える。このようにすれば、電極が本発明によるカーボンナノチューブ1を含むので、電極のサイズを変更することなく、当該電極の表面積を従来の一般的なカーボンナノチューブを用いた場合より大きくすることができる。このため、キャパシタの容量を従来より大きくすることが可能になる。
【0066】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、特に所定の方向に延びる線状のカーボンナノ構造体に特に有利に適用される。
【符号の説明】
【0068】
1 カーボンナノチューブ、2 カンチレバー、3 プローブ針、4 電子線、5 ホルダ、6 圧電素子、7 発振器、13 凸部、20 処理室、30 キャパシタ、31 集電体電極、32 セパレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノ構造体を準備する工程と、
前記カーボンナノ構造体に対して、振動を加えた状態で、エネルギー線を照射する工程とを備える、カーボンナノ構造体の加工方法。
【請求項2】
前記エネルギー線を照射する工程において、前記カーボンナノ構造体に対して加えられる振動は超音波振動である、請求項1に記載のカーボンナノ構造体の加工方法。
【請求項3】
前記エネルギー線を照射する工程では、ホルダの表面上に前記カーボンナノ構造体を搭載するとともに、前記ホルダに振動を加えることで前記カーボンナノ構造体を振動させる、請求項1または2に記載のカーボンナノ構造体の加工方法。
【請求項4】
前記エネルギー線を照射する工程では、ホルダの表面上に前記カーボンナノ構造体の少なくとも一部を固定するとともに、前記ホルダに振動を加えることで前記カーボンナノ構造体を振動させる、請求項1または2に記載のカーボンナノ構造体の加工方法。
【請求項5】
前記カーボンナノ構造体を準備する工程では、支持体の表面に前記カーボンナノ構造体が固定され、
前記エネルギー線を照射する工程では、前記カーボンナノ構造体が固定された前記支持体をホルダの表面上に搭載するとともに、前記ホルダに振動を加えることで前記カーボンナノ構造体を振動させる、請求項1または2に記載のカーボンナノ構造体の加工方法。
【請求項6】
前記エネルギー線を照射する工程において用いられるエネルギー線は電子線である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のカーボンナノ構造体の加工方法。
【請求項7】
前記電子線のエネルギーは1keV以上30keV以下である、請求項6に記載のカーボンナノ構造体の加工方法。
【請求項8】
請求項1に記載のカーボンナノ構造体の加工方法を用いた、カーボンナノ構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のカーボンナノ構造体の製造方法を用いて製造されたカーボンナノ構造体。
【請求項10】
請求項9に記載のカーボンナノ構造体を含む1対の電極と、
前記1対の電極の間に配置された電解液およびセパレータとを備える、キャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−190822(P2012−190822A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50388(P2011−50388)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】