説明

カーボンブラックおよびその製造方法

【課題】 漆黒性と分散性とを両立し、且つ青味色調を有する、安全性の高いカーボンブラックを提供する。
【解決手段】 以下の特徴(a)〜(d)を有するカーボンブラック。
(a)DBP吸収量と24M4DBP吸収量の差(ΔDBP)が30ml/100g以下。
(b)凝集体の最頻度径(Dmod)が40nm以上50nm以下。
(c)凝集体の積算25%値(D25)とDmodとの差の絶対値が10nm以下。
(d)凝集体の積算75%値(D75)とDmodとの差の絶対値が20nm以下。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は充填材料、補強材料、導電材料及び着色材料などの種々な用途に用いられるカーボンブラックとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは、樹脂着色剤、印刷インキ、塗料、水性インキ等における着色剤として、また自動車用タイヤ等のゴム組成物の補強剤として広く使用されている。そして樹脂成型品や各種インクにおける分散性、黒度(漆黒性)、色調、光沢、着色力等に優れた効果を奏するカーボンブラックが求められている。またゴム組成物に於いては、これらの他に耐摩耗性に優れた効果を奏するカーボンブラックが求められている。
【0003】
例えば、分散性と漆黒性の双方の効果向上を目的として、カーボンブラックに対して様々な改良がなされている。各種インク等への応用に於いては、CBの比表面積や、DBP吸収量等やこれらの相関について着目し、種々の改良方法が提案されている(例えば特許文献1〜5参照)。
カーボンブラックは、複数の一次粒子が連なった凝集体であり、この凝集体の大きさ(凝集体径)や形、及び凝集体径分布を制御する事は、例えばゴム組成物とした際の補強性やインクとした際の黒色度、分散性などに密接に関係していることが知られている(例えば非特許文献1参照)。例えばゴム組成物への応用では、カーボンブラックの凝集体径が小さい程、着色剤として黒度が高く、ゴム組成物としての物性にも優れることが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
凝集体を構成するカーボンブラック一次粒子同士の結合には、化学結合等の、一次粒子の結晶子レベルまで完全に融着している強い結合部分と、物理結合等の、圧縮などの外部からの圧力によって容易に切り離される弱い結合部分とが存在する。
通常、カーボンブラックにおける、この強い結合部分の存在割合の指標として圧縮DBP吸収量(24M4DBP吸収量)が用いられ、また弱い結合部分のそれにDBP吸収量が用いられている。これまで、樹脂着色用途や塗料用途において黒度と分散性が両立するカーボンブラックを得るために、カーボンブラックの凝集体径やDBP吸収量、24M4DBP吸収量、DBP吸収量と24M4DBP吸収量の差(ΔDBP)などの物性値を制御していた。例えばこれらを特定の値とし、特にゴム組成物に適したカーボンブラックの提案がなされている(例えば特許文献6参照)。
【0005】
またカーボンブラックにおいてはそのDBP吸収量が高い程、黒度やハンドリング特性が低下し、嵩密度が高いので輸送効率も低下してしまう。しかし24M4DBP吸収量は高い程、分散性が良好となり、カーボンブラックも青味色調となることが知られている。よって、二律背反の物性(漆黒性・分散性)両立の為には、ΔDBPを小さくするという提案もなされている(例えば特許文献7参照)。
【0006】
そしてまた、この様なカーボンブラックの製造方法においては、原料油の滞留時間を短縮することで凝集体径分布を狭くし、カーボンブラック特性の両立を図っていた(例えば特許文献8参照)。例えば、凝集体径の小さなカーボンブラックの製造方法においては、アルカリ金属塩またはその溶液を、原料油に添加したり、あるいは燃焼域や反応域に導入する方法が知られている(例えば特許文献9参照)。
【非特許文献1】カーボンブラック便覧第3版、I.総括概論 7頁
【特許文献1】特公昭50−68992号公報
【特許文献2】特公昭52−13808号公報
【特許文献3】特公昭52−27632号公報
【特許文献4】特公昭52−41234号公報
【特許文献5】特許第3373712号公報
【特許文献6】特公平6−104788号公報
【特許文献7】特開2000−80302号公報
【特許文献8】特許第3185652号公報
【特許文献9】特許第3419123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
カーボンブラックを各種インク等へ応用する際に、カーボンブラックと、ビヒクルや樹脂との混合を考慮すると、小凝集体径のカーボンブラックは黒度が高いという利点がある。しかし、この様な黒度の高いカーボンブラックは、インク中における分散性の低下や、樹脂組成物とした際にはその流動性の低下などが問題となるなど、未だ黒度と分散性双方の充分な特性向上に至っていなかった。
【0008】
またこの小凝集体径のカーボンブラックは、その製造方法に起因してカーボンブラック中に未反応油や多環式芳香族炭化水素(PAH)が残存するために、色調が赤みを帯びたり(赤味色調)、安全性が低下するという問題があった。
例えば特許文献6に記載のカーボンブラックでは、凝集体径と応用特性への影響、特に、小凝集体のカーボンブラックと大凝集体のカーボンブラックが及ぼす影響について考慮しておらず、そしてカーボンブラックの安全性に配慮した設計がされていないという問題があった。更にはその製造方法において、全供給原料の約50〜80%と、残り約50〜20%を高温燃焼ガス流中に分割して導入する方法を挙げているが、この方法では実際の工業的規模での生産においては凝集体径を制御し難く、カーボンブラックの応用特性に影響する小さい凝集体や大きい凝集体の低減が困難となるという問題があった。
【0009】
また特許文献9に記載の製造方法では、アルカリ金属塩またはその溶液を原料油に添加したり、燃焼域或いは反応域に導入する為に、アルカリ金属が灰分としてカーボンブラックに残存し、塗料のビヒクル並びに樹脂に配合した場合、バインダーとなって分散性や流動性の劣化を引き起こすと言う問題があった。
本発明は、カーボンブラックの特性と樹脂組成物等のカーボンブラック含有組成物の物性との関係において、上述したような二律背反の関係にあるとされていた高黒度と良分散性とを両立し、更に青味色調であり且つ安全性も高いカーボンブラックとその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、カーボンブラックの分散性、黒度に影響する因子を解析し、従来よりも高黒度、良分散性を示し、青味色調で安全性の高いカーボンブラックを得るために鋭意検討した。その結果、以下の(1)、(2)の両方を満たすことが重要であることを見出した。
(1)凝集体を形成する一次粒子間の結合に於いて、化学結合等の強い結合が多い際に、分散性と色調が改善された。よってDBP吸収量と24M4DBP吸収量との差(ΔDBP)は一定値以下であることが良い。
(2)小径凝集体が分散性と色調の低下に関与し、そして大径凝集体が黒度の低下に関与することが確認されたことから、凝集体径の最大頻度径に最適範囲がある。
【0011】
即ち、凝集体を構成するカーボンブラック一次粒子同士が、化学的に強く結合しており、且つ凝集体の最大頻度径を好ましい範囲とし、過度に小さい凝集体と過度に大きい凝集体を低減させることで、従来二律背反であると考えられていた高黒度と分散性を両立し、青味色調を示し且つ安全性の高いカーボンブラックとなる事を見出し、本発明を完成させた。
【0012】
そしてファーネス法によるカーボンブラックの製造方法において、製造炉内における原料炭化水素化合物導入位置の酸素濃度を高くし、且つ、この原料炭化水素化合物のカーボンブラック生成反応停止までの滞留時間を特定範囲とすることによって、カーボンブラック一次粒子間の結合が強くなることで凝集体の最大頻度径が好ましい範囲に調整され、且つ凝集体径の分布が狭いカーボンブラックとなり、この様なカーボンブラックが、上述した特性を満たすカーボンブラックとなることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
即ち本発明の要旨は、以下の特徴(a)〜(d)を有するカーボンブラックに存する。
(a)DBP吸収量と24M4DBP吸収量の差(ΔDBP)が30ml/100g以下。
(b)凝集体の最頻度径(Dmod)が40nm以上55nm以下。
(c)凝集体の積算25%値(D25)とDmodとの差の絶対値が10nm以下。
(d)凝集体の積算75%値(D75)とDmodとの差の絶対値が20nm以下。
【0014】
また本発明の今ひとつの要旨は、少なくとも、高温燃焼ガス流を形成させる第1反応帯域と、第1反応帯域の下流にあり、第1反応帯域からの高温燃焼ガス流に原料炭化水素化合物を接触させてカーボンブラックを生成させる第2反応帯域と、第2反応帯域の下流にあり、カーボンブラック生成反応を停止させる第3反応帯域とを含むカーボンブラック製造装置を用いるカーボンブラックの製造方法において、酸素含有量が4体積%以上6体積%以下である高温燃焼ガス流中に原料炭化水素化合物を供給し、且つ第2反応帯域における該原料炭化水素化合物の滞留時間が10ms以上25ms以下であることを特徴とするカーボンブラックの製造方法に存する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の、凝集体分布が好適な範囲に制御された新規なカーボンブラックは、ゴムや各種インク等へ応用した際、良好な黒度と分散性を発現し、また良好な青味色調と高安全性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のカーボンブラックは、DBP吸収量と24M4DBP吸収量との差(DBP吸収量−24M4DBP吸収量)、すなわちΔDBPが30ml/100g以下、凝集体の最頻度径Dmodが40nm以上55nm以下、凝集体の積算25%値であるD25とDmodとの差の絶対値が10nm以下、凝集体の積算75%値であるD75とDmodとの差の絶対値が20nm以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明のカーボンブラックにおいては、ΔDBPが30ml/100gを超えると黒色顔料として用いた場合の黒度やハンドリング性が低下する。ΔDBPは30ml/100g以下であれば特に限定はないが、あまりに小さすぎるカーボンブラックは、化学工業的な製造が困難となる場合があるので、一般的には5ml/100g以上、中でも10ml/100g以上25ml/100g以下であることが好ましい。
【0018】
本発明のカーボンブラックにおいては、Dmodが小さ過ぎると分散性が低下する場合があり、逆に大きすぎても黒度が充分とならない場合がある。よってDmodは40nm以上であり、55nm以下、中でも53nm以下、更には50nm以下、特に45nm以下であることが好ましい。
本発明のカーボンブラックは、凝集体の積算25%値であるD25とDmodとの差の絶対値が10nm以下であり、且つ凝集体の積算75%値であるD75とDmodとの差の絶対値が20nm以下である。D25は、カーボンブラックのストークス相当径とその相対的発生頻度を各々X軸、Y軸にとった際に描かれるヒストグラムにおいて、ストークス径の小さい方からの体積総和の積算値が25%となるストークス径(nm)を意味し、D75はこのヒストグラムにおいて、ストークス径の小さい方からの体積総和の積算値が75%となるストークス径(nm)を意味する。
【0019】
本発明のカーボンブラックにおいては、D25とDmodとの差の絶対値が大きすぎると分散性が低下する場合がある。本発明のカーボンブラックにおいては、この絶対値の差が10nm以下であれば特に制限はないが、この差があまりに小さすぎるカーボンブラックは、化学工業的な製造が困難となる場合があるので、一般的には1nm以上、中でも3nm以上であることが好ましく、10nm以下、中でも8nm以下、特に5nm以下であることが好ましい。
【0020】
またD75とDmodとの差の絶対値が大きすぎると黒度が低下する場合がある。本発明のカーボンブラックにおいては、この絶対値の差が20nm以下であれば特に制限はないが、この差があまりに小さすぎるカーボンブラックは、化学工業的な製造が困難となる場合があるので、一般的には1nm以上、中でも5nm以上、特に10nm以上であることが好ましく、20nm以下、中でも18nm以下、特に15nm以下であることが好ましい。
【0021】
本発明のカーボンブラックにおける窒素比表面積(以下、「SN2」と記すことがある。)は、特に制限はないが、小さすぎると黒度が低下する場合があり、逆に大きすぎても分散性が低下する場合がある。よってSN2は150m/g以上、中でも180m/g以上、更には200m/g以上、特に230m/g以上であることが好ましく、300m/g以下、中でも240m/g以下であることが好ましい。
【0022】
また本発明のカーボンブラックにおいては、凝集体の大きさは特に制限はないが、小さ過ぎると分散性が低下する場合があり、逆に大きすぎても黒度が低下する場合がある。よってこの凝集体の大きさの指標となるDBP吸収量は、90ml/100g以上、中でも110ml/100g以上であることが好ましく、130ml/100g以下、中でも120ml/100g以下であることが好ましい。また24M4DBP吸収量は85ml/100g以上、中でも90ml/100g以上であることが好ましく、105ml/100g以下、中でも100ml/100g以下であることが好ましい。
【0023】
本発明のカーボンブラックにおける灰分含有量は任意であり、特に制限はないが、灰分含有量が多すぎると分散性が低下する場合があるので、出来るだけ少ない方が好ましい。一般的には0.05重量%以下、中でも0.03重量%以下、特に0.02重量%以下であることが好ましい。
本発明のカーボンブラックは、黒度、分散性、色調及び安全性の全てに優れたものである。中でも黒度指数が11以上14以下であることが好ましい。また分散性を示す分散面積指数は50以下、中でも40以下、特に35以下であることが好ましい。測色計によるABSコンパウンドの色度(b値)は−0.9以下であることが好ましい。そしてPAH量は出来る限り少ない方が好ましく、50ppm以下であることが好ましい。
【0024】
本発明のカーボンブラックの製造方法は任意であり、特定の製造方法に限定されるものではないが、中でもファーネス法による製造方法は、所望のカーボンブラックを効率的に得られるので好ましい。以下に、ファーネス法を例にして、本発明のカーボンブラックの製造方法を説明する。
ファーネス法によるカーボンブラックの製造炉の一例として、その要部縦断面概略図を図1に示す。炉は長さ方向に、高温燃焼ガス流を形成させる第1反応帯域1と、第1反応帯域にて生成された高温燃焼ガス流に原料炭化水素化合物を混合してカーボンブラックを生成させる、チョーク部を有する第2反応帯域2と、第2反応帯域に引き続いた下流にあり、カーボンブラックの生成反応を停止させる第3反応帯域とを有する。
【0025】
第1反応帯域では一般に燃焼バーナー4から燃料炭化水素と酸素含有ガスを導入して燃焼させ、高温燃焼ガス流を生成させる。酸素含有ガスとしては一般に空気、酸素またはそれらの混合物が用いられ、燃料炭化水素としては一般に水素、一酸化炭素、天然ガス、石油ガス並びに重油等の石油系液体燃料、クレオソート油等の石炭系液体燃料が使用される。
【0026】
第2反応帯域では第1反応帯域で生成された高温燃焼ガス流に並流又は略垂直方向に設けた原料炭化水素化合物導入ノズル5から原料炭化水素化合物を噴霧等により導入し、原料炭化水素化合物を熱分解させてカーボンブラックを生成させる。このカーボンブラックの原料となる炭化水素化合物としては一般に、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、アントラセン等の芳香族炭化水素;クレオソート油、カルボン酸油等の石炭系炭化水素;エチレンヘビーエンドオイル、FCCオイル等の石油系重質油;アセチレン系不飽和炭化水素;エチレン系炭化水素;ペンタンやヘキサン等の脂肪族飽和炭化水素などが好適に使用される。
【0027】
第3反応帯域では高温反応ガスを冷却し、例えば1000〜800℃程度とする。具体的には例えば、反応停止流体導入用ノズル6から水等の液体又は気体の冷却媒体を炉内に噴霧等により導入する。冷却されたカーボンブラックは、第3反応帯域の更に下流にある捕集バッグフィルター等(図示せず)によってガス流と分離されて回収される。
本発明のカーボンブラックを、この様なカーボンブラック製造炉により製造する場合には原料炭化水素化合物を導入する位置や高温燃焼ガス流の組成や流速等を調整し、原料炭化水素化合物を供給する高温燃焼ガス流中の酸素含有量と、第二反応帯域における原料炭化水素化合物の滞留時間を特定範囲内とすることが重要である。
【0028】
本発明のカーボンブラックの製造方法においては、原料炭化水素導入位置における高温燃焼ガス流の酸素含有量を比較的高く、具体的には4体積%以上6体積%以下とすることが重要である。酸素含有量が低すぎると、△DBPが大きくなって黒度が低下する場合があり、逆に高すぎると、導入した原料油が燃焼し生産性が低下する場合があるので、中でも4.5体積%以上5体積%以下とすることが好ましい。また第2反応帯域における原料炭化水素化合物の滞留時間、即ち、原料炭化水素化合物を炉内に導入してから反応停止領域である第3反応帯域に至るまでの時間を、10ms以上25ms以下とすることが重要である。この滞留時間が短すぎるとDmodが小さくなって分散性が低下する場合があり、逆に長すぎるとDmodが大きくなって黒度が低下する場合があるので、中でも15ms以上20ms以下とすることが好ましい。
【0029】
酸素含有量や上述した原料炭化水素化合物の滞留時間の測定方法は特に制限はない。例えば酸素含有量は、製造炉内に導入する空気量と燃料導入量から従来公知の方法により計算して求める方法や、原料炭化水素化合物導入部位から燃焼ガスを採取し、ガスクロマトグラフィー等により分析して求めても良い。尚、この様な分析の際には、燃焼により発生する水は計算に入れない。また滞留時間は高温燃焼ガス流量と製造炉の断面積から従来公知の方法によって計算して求める方法や、流体シミュレーションにより計算して求めても良い。
【0030】
更に、本発明においては原料炭化水素化合物の導入部位の炉内温度は原料炭化水素化合物が均一に気化、熱分解するために充分高温であることが望ましく、具体的には1800℃以上、中でも1900℃以上、さらに2000以上であることが好ましく、一般的には2400℃以下である。この温度範囲とすることによって、カーボンブラック一次粒子同士が化学的に強く結合し、且つ凝集体の最大頻度径を好ましい範囲とし、過度に小さい凝集体と過度に大きい凝集体が低減された、凝集体分布の狭いカーボンブラックとなる。
【0031】
原料炭化水素化合物導入部位の温度を上述の範囲とするには、例えば第1反応帯域において高温燃焼ガス流を形成させる際、空気に酸素を添加する方法や、空気を予熱する等の方法により行えばよい。炉内の温度は、例えば放射温度計等により測定すればよい。
第2反応帯域におけるチョーク部は、炉内断面積が急激に狭くなっている部分である。本発明において用いる製造炉においては、チョーク部が短すぎると凝集体径が充分に大きくなりにくく、逆に長すぎても凝集体径分布が広くなり過ぎたり、過度に大きな凝集体が増える場合がある。よって本発明においては、例えばチョーク部の炉内直径が30〜170mmの場合には、その長さを800mm以上3000mm以下とすることが好ましい。
【0032】
更に本発明の製造方法においては、第2反応帯域において、大凝集体径のカーボンブラック生成を抑制する為に、チョーク部等による炉内径変化に伴う高温燃焼ガス流の高撹乱場を出来るだけ少なくすることが好ましい。例えば本発明においてチョーク部の開始部と終端は、流路の最も狭い部分を含み、流路の縮小する軸方向に対する角度が5°を超える値から5°以下に変化する部位を開始部とし、流路の拡大する軸方向に対する角度が5°を超える値となる部位を終端とする。チョーク部の直径は炉の大きさ等により任意であるが、一般的には170mm以下が好適である。特に好ましくは30mm以上、中でも50mm以上であることが好ましく、170mm以下、中でも150mm以下であることが好ましい。この範囲とすることで、凝集体分布の狭いカーボンブラックを容易に得ることができる。
【0033】
本発明においては、チョーク内での高温燃焼ガス流の流速は任意だが、速いほど凝集体分布の狭いカーボンブラックを容易に得ることができるので好ましい。原料炭化水素化合物は製造炉内へ導入された後、高温燃焼ガス流の運動及び熱エネルギーにより微粒化されるが、その際、高温燃焼ガス流の速度は速い程良く、具体的には250m/s以上、中でも300m/s以上であることが好ましく、一般的には500m/s以下である。
【0034】
更には、原料炭化水素化合物を炉内に均一に分散させるために、原料炭化水素化合物を2個以上に分割して製造炉内へ導入することが好ましい。原料炭化水素化合物の供給位置は、チョーク部内であってもチョーク開始部から高温燃焼ガス流の断面平均流速基準で1ms以内に移動できる範囲内とすることが好ましく、中でも0.6ms以内に移動できる範囲内とすることが好ましい。この部位で導入することによって、特に凝集体径分布の狭いカーボンブラックを得ることができる。
【0035】
以上説明した本発明のカーボンブラックを含有する塗料組成物、樹脂組成物、ゴム組成物を調製することにより、これら各種の用途で好適な特性を発揮させることができる。本発明のカーボンブラックを含有する樹脂組成物を調整する場合、適用可能な樹脂も特に限定されず、例えば各種の熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂、それら樹脂の混合物あるいはフィラー等の各種添加物を加えたものであってもよい。通常、樹脂組成物の調製に用いられるものを、目的に応じて適宣選択して用いればよい。これらの樹脂成分に本発明のカーボンブラックを添加し、必要に応じて混練する。この際、ゴム混練機として通常使用されているもの、例えばバッチ式開放型としてロールミキサー、バッチ式密閉型としてバンバリータイプミキサー、連続スクリュー式として単軸混練押出機、ニ軸混練押出機、連続ローター式として単軸混練機、ニ軸混練機等を使用することもできる。カーボンブラックの含有量もまた公知の技術を採用して決定すればよく、一般には1〜60重量%が好適である。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明を実施例によって、更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
各物性値の分析方法は以下の通りである。
(1)Dmod
最大頻度ストークス径Dmodは次のようにして決定した。スピン液として20%エタノール溶液を用い、遠心沈降式の粒度分布測定装置(BROOKHAVEN INSTRUMENTS CORPORATION社製 BI−DCP PARTICLE SIZER)により、ストークス相当径を測定し、ストークス相当径対与えられた試料中の相対的発生頻度のヒストグラム(図2)を作る。ヒストグラムのピーク(A)から線(B)を、Y軸に平行にX軸まで引き、ヒストグラムのX軸の点(C)で終わらせる。点(C)でのストークス直径がDmodである。
【0037】
(2)D25、D75
D25(体積25%径)及びD75(体積75%径)は次のようにして決定した。上記最大頻度ストークス径を決定する方法において、ストークス相当径対試料の相対的発生頻度のヒストグラム図2からそれぞれのストークス直径と頻度から体積を求め、ストークス直径対その直径までの得られた試料の体積総和を表すグラフを作る(図3)。よって図3中の点(A)は全試料の体積の総和を表す。ここで、この体積総和の25%の値の点(B)を決定し、点(B)よりX軸に平行に曲線と交わる点(C)まで線を引く。点(C)からY軸に平行に線を引き、X軸と交わった点(D)の値が体積25%径(D25)である。同様の方法で求めた点(E)の値が体積75%(D75)である。
【0038】
(3)黒度指数
PVC樹脂30gを125℃に加熱した2本ロールミルにてスリット幅0.3mmで2分間素練りし、試料を0.3g投入後7分間混練して、シート化する。これを同様の方法で三菱化学(株)製カーボンブラック「#45」及び「#990」のPVC黒色シートの黒度をそれぞれ10点、14点と基準値を定め、試料の黒度を視感判定した結果を黒度指数とする。黒度指数が高い程、黒度に優れたカーボンブラックであることを示している。
【0039】
(4)分散面積指数
分散指数は次の方法により評価した。ABS樹脂中の分散状態を観察し、未分散凝集塊の数をカウントし、この数が多い、すなわち、分散指数が大きいほど、分散性が悪いと評価した。250ccバンバリーミキサーにてAS樹脂に試料カーボンブラックを40%重量配合し、165℃、10分混練りする。スリット幅0.3mmでシート化し、このシートをチップに切断、240℃のホットプレート上で65±3μmのフィルムに成形する。倍率100倍の光学顕微鏡にて3.6mm×4.7mmの視野中の0.2mm以上の直径の未分散塊の直径分布を測定し、その総面積を計算する。この面積を0.35mm径の未分散凝集塊の面積を基準に、総面積を基準面積で割り、基準粒子の個数とし計算する。これを25視野以上観察し、平均値を分散指数とする。分散面積指数の小さいもの程、塗料化する際に速やかに分散する。
【0040】
<配合条件>
AS樹脂 :114.21g
イルガノックス1010 :1.14g
ステアリン酸Ca :1.14g
試料カーボンブラック :77.66g
<希釈コンパウンド作成条件>
ABS樹脂 :97.50g
ステアリン酸Ca :0.20g
カーボンブラック40%配合樹脂:2.50g
【0041】
(5)b値
165℃、10分混練りし、スリット幅0.3mmでシート化したものを測色計(日本電色(株)製 300A)にて分析する。3回測定を行い、その平均値をb値とする。b値が小さい程、青味色調にあることを示している。
(6)DBP吸収量
JIS K6221−1982に、準拠する。
(7)24M4DBP吸収量
試料25gをシリンダーに入れ、ピストンを差込み、油圧プレスで24000psi(1687kg/cm)の圧力を5秒間加える。その加圧後試料を取り出し、1000μmの篩に移し、カーボン塊をほぐして篩を通過させる。その操作を4回繰り返して処理した試料についてJIS K6221−1982に準拠してDBP吸収量を測定し、CrDBP吸収量とする。
【0042】
(8)PAH量
乾燥したカーボンブラック5gを円筒状のガラス濾紙に入れ、溶媒としてモノクロロベンゼンを180cc用いてソックスレー抽出を48時間行う。この抽出液を濃縮し、液体クロマトグラムにより、抽出量を定量し、カーボンブラックの重量で割り含有量とした。液体クロマトグラムの条件は以下の通りである。
【0043】
液クロマトグラム分析計 :島津製作所社製 LC−6A
フローコントローラ :島津製作所社製 SCL−6A
検出器 :ミリポアー社製 Watera 490E型
注入量 :5μリットル
【0044】
実施例1〜3
図1に示す燃焼バーナー4を備える第1反応帯域1、該第1反応帯域1に連接され、周辺から複数の原料炭化水素化合物供給ノズル5を貫設した内径150mm、長さ860mmのチョーク部を有する第2反応帯域2、急冷装置を備えた内径400mm、長さ2700mmの第3反応帯域3を順次結合同した構造のカーボンブラック製造炉を使用した。表1、表2に使用した燃料と原料炭化水素化合物の組成を示す。表3に製造条件と得られたカーボンブラックの物性値を示す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
表3に示す製造条件によって得られたカーボンブラックの物性値を表4に示す。実施例1〜3のカーボンブラックは黒度11〜14と優れており、分散面積指数も50以下と非常に良好な分散性を示している。またb値も−0.9以下と優れた青味色調を示し、且つPAHも50ppm以下と、安全性に優れたカーボンブラックであることを示している。
【0050】
比較例1、2
比較例1は実施例1、2、3と同等の黒度を得るため|Dmod−D25|及び|Dmod−D75|を小さくして製造した例である。確かに黒度は13.7と良好であるが、△DBPが高いため分散面積指数が高く、b値も−0.72と赤味色調である。比較例2も△DBPが高いため分散面積指数が高い。
【0051】
比較例3
比較例3は実施例1、2、3と同等の黒度を得るためにDmodを小さくして製造した例である。確かに黒度は13.3であって、△DBPも18と良好であるが、Dmodが38と小さいために分散面積指数が高く、b値も−0.84である。さらに、PAH量も240ppmと非常に高い。
【0052】
比較例4
比較例4は実施例1、2、3と同等の分散性を得るために△DBPを小さくして製造した例である。確かに分散面積指数は30と良好であるが、Dmodが大きく、|Dmod−D25|が高く、|Dmod−D75|が高いために黒度が低い。以上のことから、上述のように△DBP、Dmod、|Dmod−D25|、|Dmod−D75|を好適な範囲に制御することによって、黒度と分散性を両立し、青味色調を有し、かつ安全性も良好なカーボンブラックを得ることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のカーボンブラックは、樹脂着色剤、塗料等において黒色顔料として使用したときに、従来二律背反の関係にあり困難とされていた黒色度と分散性を満足することができる。さらに、青味色調を有し、かつ安全性にも優れる。従って、樹脂着色剤、塗料の調製において非常に有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のカーボンブラックの製造に用いることのできる製造炉の一例を示す要部縦断面概略図。
【図2】最大頻度ストークス相当径Dmodの求め方を示す図。
【図3】体積25%径、体積75%径の求め方を示す図。
【符号の説明】
【0055】
1 第1燃焼帯域
2 第2燃焼帯域
3 第3燃焼帯域
4 燃焼バーナー
5 原料炭化水素化合物供給ノズル
6 反応停止流体導入用ノズル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の特徴(a)〜(d)を有するカーボンブラック。
(a)DBP吸収量と24M4DBP吸収量の差(ΔDBP)が30ml/100g以下。
(b)凝集体の最頻度径(Dmod)が40nm以上55nm以下。
(c)凝集体の積算25%値(D25)とDmodとの差の絶対値が10nm以下。
(d)凝集体の積算75%値(D75)とDmodとの差の絶対値が20nm以下。
【請求項2】
灰分含有量が0.05重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンブラック。
【請求項3】
多環式芳香族炭化水素含有量が50ppm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のカーボンブラック。
【請求項4】
少なくとも、高温燃焼ガス流を形成させる第1反応帯域と、第1反応帯域の下流にあり、第1反応帯域からの高温燃焼ガス流に原料炭化水素化合物を接触させてカーボンブラックを生成させる第2反応帯域と、第2反応帯域の下流にあり、カーボンブラック生成反応を停止させる第3反応帯域とを含むカーボンブラック製造装置を用いるカーボンブラックの製造方法において、酸素含有量が4体積%以上6体積%以下である高温燃焼ガス流中に原料炭化水素化合物を供給し、且つ第2反応帯域における該原料炭化水素化合物の滞留時間が10ms以上25ms以下であることを特徴とするカーボンブラックの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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