説明

カーボンブラックの製造方法、それより得られたカーボンブラックおよびそれを含有するゴム組成物

【課題】従来のカーボンブラックと比較して、水素含有量を増加させることなく、高24M4DBP化を達成することができるカーボンブラックの製造方法、該製造方法により得られたカーボンブラックの提供およびゴム組成物の提供。
【解決手段】反応帯域上流端で前記高温燃焼ガス流中に原料油を噴霧導入し、熱分解反応によりカーボンブラックを含む反応ガス流となし、次いで反応停止帯域において急冷媒体を前記反応ガス流中に導入することにより反応ガス流を急冷して反応を終結させることからなるカーボンブラックの製造方法において、原料油導入位置での流速、熱分解反応初期の温度ピークまでの滞留時間および熱分解反応における熱履歴を制御することを特徴とする、低水素含有量と高24M4DBPという特性を有するカーボンブラックの製造方法、当該製造方法により得られるカーボンブラック及び該カーボンブラックをゴムに配合して得られるゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム成分への配合時にタイヤトレッド用ゴム組成物として好ましい補強性と低発熱性を両立させるとともに、耐疲労性能を維持させることができるカーボンブラックの製造方法、それより得られたカーボンブラックおよびそれを含有するゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは、ファーネス炉内で発生させたおよび/または外部で発生されて炉内に導入された高温燃焼ガス中へ原料油を噴霧させ、この原料油の熱分解または不完全燃焼を基礎とした化学反応を厳密に制御された条件下で操業しているファーネス炉内で生産される産業上有用な原材料であり、ゴム配合時の組成物に対して機械的性質、特に引張り強さ、耐摩耗性などの特性を飛躍的に向上させることができるという特異な性質を有することから、タイヤをはじめとする各種ゴム製品の補強性充填剤として広く用いられている。
【0003】
ゴム配合用カーボンブラックは、その物理化学的特性、すなわちカーボンブラックを構成する単位粒子の直径、単位重量当たりの表面積(比表面積)、粒子のつながり度合(ストラクチャー)、表面性状などにより配合ゴム組成物の特性・性能に大きな影響を与えるので、要求されるゴム製品の性能、使用される環境等によって特性の異なる種々のカーボンブラックが選択的に使用されている。
【0004】
タイヤの接地面(トレッド部)に用いられるゴム組成物では、高速度で回転しながら道路面と接触するので摩損に対する耐性(補強性)に優れていると同時に、路面からタイヤへの繰り返し変形によるゴム組成物の耐疲労性、耐カット性に大きな影響を与える伸び特性も重要な要素である。これら2つの特性は互いに相反する二律背反事項、すなわち一方の特性を向上させると他の特性が低下することが知られており、特にトラック,バス用などの大型タイヤでは、この二律背反事項の解消が大きな技術的課題となっている。
【0005】
タイヤトレッドに用いられるゴム組成物に対して高い耐摩耗性を与えるカーボンブラックとしては、一般的により大きな比表面積、あるいは高いストラクチャーを有するカーボンブラックが採用されるが、基本特性のコントロールだけではなく、最小分散単位であるアグリゲートのサイズや分布、空隙容積などの制御、結晶構造、含酸素官能基量、水素含有量の制御による耐摩耗性を含むゴム配合特性との両立が検討されてきており、種々の解決手段が提唱されている。
【0006】
例えば、カーボンブラックに含まれる炭素以外の構成元素や表面活性に着目し、カーボンブラック表面の水素量を特定した発明(特許文献1および2など)、あるいは水素量と酸素量の和、また比を特定した発明(特許文献3および4など)、あるいはカーボンブラックのストラクチャー、水素放出率、およびトルエン着色透過度を特定した発明(特許文献5など)が提案されている。
【0007】
しかしながら、これらの従来技術は主にカーボンブラック表面とポリマーとの相互作用に対する関与度合いを制御することにより耐摩耗性と低発熱性をある程度まで両立する事はできているが、タイヤへの繰り返し変形による疲労劣化への耐性に対しては充分な性能を有しているとはいえず、このため耐カット性能での悪化が懸念される。
【0008】
【特許文献1】特開昭61−207452号公報
【特許文献2】特開平1−144434号公報
【特許文献3】特開平4−108837号公報
【特許文献4】特開平10−36703号公報
【特許文献5】特開2005−272734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のカーボンブラックは耐摩耗性と低発熱性の両立という技術課題に対してはかなりの効果の発現は見られるが、耐摩耗性と耐疲労性、特に伸び特性との両立に対しては充分な改良効果が得られていないのが現状である。かかる現状から、本発明の課題は、タイヤトレッドゴム配合用として耐摩耗性と低発熱性を両立させ、かつ耐疲労特性をより一層高度に維持することを可能とするカーボンブラックの製造方法ならびにこの製造方法で製造されたカーボンブラック、カーボンブラックを用いたゴム組成物、さらにはこの組成物をトレッド部の構成部材とするタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題、すなわちゴム配合時に耐摩耗性と低発熱性を両立させ、かつ耐疲労性を従来よりも一層高度に維持させることのできる充填剤としてのカーボンブラックの物理化学特性としてどのような特性を有する材料が好ましいのかの研究を進め、その結果、カーボンブラックの粒子のつながり度合、特に圧縮処理後の液体吸収量で評価される圧縮DBP吸収量(24M4DBP)が高く、かつカーボンブラック表面上に存在する水素量が従来よりも低い特性を持つカーボンブラックが好適であることを見出したことが本発明を生み出す基礎となったものである。
【0011】
すなわち、本発明者らは上記特性を有するカーボンブラックを製造する方法について種々のプロセスを検討し、特にカーボンブラックの製造方法における原料油の熱分解反応(一部不完全燃焼反応を含む)の反応初期段階すなわち、カーボンブラック生成核発生段階における反応速度および熱履歴の効果について鋭意検討を行った。その結果、原料油導入位置における燃焼ガス流速、原料油の熱分解反応の反応温度ピークまでの滞留時間、原料油の熱分解反応の全熱履歴(暴露量)を制御することにより、高ストラクチャー化と低水素含有量の両特性を同時に付与し、タイヤトレッドゴム配合用として耐摩耗性と低発熱性を両立させ、かつ耐疲労性、特に引張り特性を高度に維持させ得るカーボンブラックの製造方法を見い出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0012】
本発明の第1は、高温燃焼ガス生成帯域、反応帯域および反応停止帯域とからなるカーボンブラック製造装置を用い、高温燃焼ガス生成帯域において炭化水素の燃焼により高温燃焼ガスを生成させ、引き続き反応帯域上流端で前記高温燃焼ガス流中に原料油を噴霧導入し、熱分解反応によりカーボンブラックを含む反応ガス流となし、次いで反応停止帯域において急冷媒体を前記反応ガス流中に導入することにより反応ガス流を急冷して反応を終結させることからなるカーボンブラックの製造方法において、原料油導入位置での燃焼ガス流速をv[m/s]、原料油導入位置から原料油の熱分解反応温度ピークまでの滞留時間をt[s]、原料油導入位置から反応停止位置までの滞留時間をt[s]、原料油導入位置から反応停止前の反応温度の平均値をT[℃]として、v、t、t、およびTの数値に関して下記の式(i)、(ii)および(iii)を満足する条件下で制御することを特徴とするカーボンブラックの製造方法に関する。[s]は時間の単位、秒を示す。
(i)30≦v≦110 [m/s]
(ii)0.0019−0.000015×v−0.00000026×CTAB
比表面積[m/g]≦t≦0.0017 [s]
(iii)50≦t×T≦90 [℃・s]
本発明の第2は、請求項1に記載された製造方法により得られたカーボンブラックに関する。
本発明の第3は、請求項2に記載されたカーボンブラックを配合したゴム組成物に関する。
【0013】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明においては、高温燃焼ガス生成帯域、反応帯域および反応停止帯域からなる一般的なカーボンブラック製造装置、例えば特開2005−272729号公報(出願人:旭カーボン株式会社)で開示された製造装置を用いることができる。より詳しく記載すると、高温燃焼ガス生成帯域において燃料用炭化水素の燃焼により高温燃焼ガスを生成させ、引き続き反応帯域で前記高温燃焼ガス流中に原料油を噴霧導入し、熱分解反応によりカーボンブラックを含む反応ガス流となし、次いで反応停止帯域において前記反応ガス流を急冷して反応を終結させることからなるカーボンブラックの製造方法において、原料油導入位置での燃焼ガス流速をv[m/s]、原料油導入位置から原料油の熱分解反応温度ピークまでの滞留時間をt[s]、原料油導入位置から反応停止位置までの滞留時間をt[s]、原料油導入位置から反応停止前の反応温度の平均値をT[℃]として、各パラメータのv、t、t、Tに関して下記式(i)、(ii)、(iii)の条件を満足するように製造条件を制御することにより、カーボンブラック表面上に存在する水素量を低く抑制するために熱分解反応初期におけるカーボンブラック生成核発生量を少なく抑え、かつカーボンブラック粒子のつながり度合いであるストラクチャーを発達させるために充分な熱履歴を与えることで高ストラクチャーと低水素含有量の両特性を同時に付与するカーボンブラックを製造することができる。
(i)30≦v≦110 [m/s]
(ii)0.0019−0.000015×v−0.00000026×CTAB
比表面積[m/g]≦t≦0.0017 [s]
(iii)50≦t×T≦90 [℃・s]
さらに該方法により得られたカーボンブラックを配合することにより耐摩耗性と低発熱性を両立させ、かつ耐疲労性を維持するゴム組成物を得ることができる。
【0014】
(i)式においてvは原料油導入位置の燃焼ガス流速であり、30[m/s]から110[m/s]の範囲であることが必要である。原料油導入位置の燃焼ガス流速は、生成燃焼ガス流量の変更または原料油導入位置の断面積の変更のいずれかにより制御できる。原料油導入位置の流速が30[m/s]より低い場合には流速が遅くなるため、原料油と高温燃焼ガスの混合が不充分となり、カーボンブラックの生産性が低下する。また、原料油導入位置の流速が110[m/s]より高い場合には、反応装置内部を覆う耐火物の寿命が著しく低下するのでこの範囲で制御する。より好ましい流速範囲は60[m/s]から100[m/s]である。
【0015】
(ii)式においてtは、原料油の熱分解反応における温度ピークまでの滞留時間(秒)であり、
〔0.0019−0.000015×v−0.00000026×CTAB比表面積[m/g]〕
で算出される数値以上のものであり、かつ0.0017秒以下の範囲で制御することが重要である。tを上記範囲内で制御することにより、原料油の熱分解反応初期におけるカーボンブラック核生成量を好適に保つことができ、低水素含有量と高ストラクチャーを両立することができる。
は燃焼ガス流量の変更、燃料量の変更、原料油導入位置における断面積の変更のいずれかの手法を用いて、あるいはこれらを組み合わせることにより制御することができる。燃焼ガス流量を減らす、燃料量を減らす、原料油導入位置の断面積を大きくすることにより、tを長くすることができる。t
〔0.0019−0.000015×v−0.00000026×CTAB比表面積[m/g]〕
を下回った場合は、原料油の熱分解反応におけるカーボンブラック核生成が速すぎるために多量の核が生成し、低水素化および高ストラクチャー化が困難となる。
また、tが0.0017[s]を上回る場合は原料油の熱分解反応が充分に進まず、充分な低水素化が困難になるとともに、原料油からカーボンブラックへの変換率(収率)が低下する。
【0016】
(iii)式において係数〔t×T〕値は原料油の不完全燃焼反応における反応停止位置までに受ける総熱履歴を表しており、50[℃・s]から90[℃・s]の間が好適である。〔t×T〕値が50[℃・s]を下回る場合は原料油の熱分解反応が充分でなく、低水素化が困難となる。また〔t×T〕値が90[℃・s]を上回る場合は燃焼ガス量を大幅に減らす必要があり、原料油の導入量の減少により生産量が低下する。より好ましい総熱履歴は50[℃・s]から80[℃・s]の間である。
【0017】
本発明において用いられるカーボンブラック製造パラメータであるv、t、t、およびTは次のように定義される。
は原料油導入位置における燃焼ガス流の標準状態における流速であり、
=(燃焼ガス流量[kg/h])/(燃焼ガス標準状態の密度[kg/m
×反応炉原料油導入位置の断面積[m]×3600[s/h])
で算出される。ここで燃焼ガス標準状態の密度とは、0℃、1気圧における燃焼ガス温度の密度であり、窒素は1.25[kg/m]、酸素は1.43[kg/m]、二酸化炭素は1.98[kg/m]の密度を有し、油燃料は化学量論的二酸化炭素と水が生成するものとし、過剰に導入された空気(組成は窒素79、酸素21とする)はそのままで存在するものとし、水の生成量は少ないので無視できるものと仮定して燃焼ガス組成より算出し、vを算出した。
は原料油の熱分解反応における原料油導入位置から原料油の熱分解反応温度ピークまでの滞留時間であるが、カーボンブラックの熱分解反応は数ミリ秒から数十ミリ秒の反応であるため、熱分解反応の反応温度ピークを検出することは困難である。従って本発明では、流動燃焼数値解析からtを算出した。数値解析には、RANS(Reynolds Average Navier−Stokes)モデルを用い、原料油の蒸発はLongwellの式を用い、不完全燃焼反応は渦消散モデル(Eddy Breakupモデル)を用い、乱流時間スケールτはτ=Cτ×(原料油ノズル径/原料油噴霧速度)を用いてtを算出した。ここでCτは原料油導入により生じる乱流時間スケールの補正係数であり、補正係数は噴霧流動実験から導出した燃焼ガス速度と原料油量の実験式で表され、
τ=26.9×(過剰空気率〔%〕)/v−0.0287×(原料油量〔kg/h〕)+23.5
(過剰空気率〔%〕)=(1−空気量〔kg/h〕/15.58×(燃料量〔kg/h〕))×100
を用いてtを算出した。
は原料油導入位置から反応停止位置までの滞留時間であり、
=(原料導入位置から反応停止位置までの反応炉の容積[m])/
(反応ガス流量[m/s])
で算出される。また、Tは反応炉内の平均反応温度である。
これらの各パラメータの意味付けは図5に示したとおりである。図5において、平均温度とは原料油導入位置から反応停止位置までの温度曲線のプラス部分とマイナス部分の面積が等しくなる直線に対応する温度を意味する。なお、複数の原料油導入面、例えば8Aと8Bを用いた場合には上流側の原料油導入面の8Bを基準として各数値を算出する。
【0018】
本発明で得られたカーボンブラックは、従来方法に従ってポリブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム等のジエン系合成ゴム、天然ゴムもしくは前記ジエン系合成ゴムと天然ゴムの1種もしくは2種以上に配合して使用することができる。本発明で得られたカーボンブラックは表面水素量を低下させたことにより、ゴムに配合した際のカーボンブラック表面とゴム分子との化学結合が抑制され、その結果、ゴムの伸び特性を改良した。また、カーボンブラックの24M4DBP特性を高くしたことによりゴムに配合した際の物理的な補強性を高くすることができ、これにより、耐摩耗性と耐疲労性を両立したゴム組成物を得ることができる。カーボンブラックの配合比率は、ゴム成分100重量部に対して20重量部から100重量部に設定することが好ましい。カーボンブラックの配合比率が20重量部を下回ると配合ゴムに充分な耐摩耗性を付与することができず、100重量部を超えると配合ゴムの粘度が上昇するために混練り加工性が悪化する。配合に際しては、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤、軟化剤、可塑剤等の必要成分とともに混練りし、加硫することによって、耐摩耗性と低発熱性を両立させ、さらに耐疲労性、特に引張り特性を維持することのできるタイヤトレッドに好適なゴム組成物を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法を適用することにより、カーボンブラックの高ストラクチャーと低水素含有量という物理化学的特性を同時に満たすカーボンブラックを得ることが可能となった。また本発明で得られたカーボンブラックを配合して得られるゴム組成物は耐摩耗性と低発熱性を両立させ、かつ耐疲労性、特に伸び特性を維持させることができ、タイヤトレッド用ゴムとして好適に使用することができる。
【0020】
次に、実施例および比較例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
図1および図2に示すカーボンブラック反応装置1を用い、実施例1〜5、および比較例1〜5のカーボンブラックを製造した。
図1は、本発明において用いた装置の縦断正面説明図である。
図2は、図1のA−A矢視における断面図である。
図1において、カーボンブラック製造炉の各帯域の区分は、
高温燃焼ガス生成帯域…反応炉上流端から原料油導入位置(図1では8B)まで
反応帯域…原料油導入位置から反応停止用急冷水圧入噴霧手段設置位置(図1ではe)まで
反応停止帯域…反応停止用急冷水圧入噴霧手段設置位置(図1ではe)より下流側
を意味する。したがって、各帯域の空間は、製造時で使用する原料油導入位置および/または反応停止用急冷水圧入噴霧装置設置位置により変動することができる。
カーボンブラック製造装置1は、可燃性流体導入室(内径450mmφ、長さ400mm)2の内部に反応装置頭部外周に備えられた酸素含有ガス導入管3を通して導入された酸素含有ガスを整流するための整流板5を有する酸素含有ガス導入用円筒(内径250mmφ、長さ300mm)4とその中心軸に燃料油(LPG)導入管6を介して燃料導入装置(図示せず)を備え、前記円筒の下流側は、次第に収れんする収れん室(上流端内径370mmφ、下流端内径80mmφ、収れん角度5.3°)7となし、かつ収れん室7の下流側には図2において例として示した8B平面のような4つの原料油噴霧口(8B−1、8B−2、8B−3、8B−4)を同一平面上に設置した4つの別個の平面を形成する原料油噴霧口(8A〜8D)を含む原料油導入室9を有し、この下流側は複数の反応停止用急冷水圧入噴霧装置(a〜y)を備えた反応継続兼冷却室(内径140mmφ、長さ4000mm)10からなる、全体が耐火物で覆われたカーボンブラック反応装置1を用いた。燃料にLPG、原料油としてエチレンボトム油を使用し、表1および表2に示す各条件でSAF級のカーボンブラックを製造した。
【0022】
表1および表2における各製造条件と制御要因をより詳しく説明する。
実施例1は従来条件よりも燃料導入量を減らすことにより原料油の熱分解反応ピークまでの滞留時間tを長くし、原料油の熱分解反応におけるカーボンブラック生成核発生量(従来よりも少ない)を好適な状態とし、反応停止位置を後方に移行させることにより反応生成物への熱履歴の大きさを表す〔t×T〕値を高い側に制御した製造条件である。一方、比較例1は従来の製法、比較例2は比較例1から反応停止位置を後方に移行させて反応生成物の熱履歴の値のみを高く制御した製造条件である。
比較例1および比較例2と実施例1の比較から明らかなように、従来手法において熱履歴のみを高くした比較例2ではカーボンブラック生成核発生量が多いため低水素化が充分でなく、24M4DBP特性は低化し、両者は二律背反関係であったが、本発明製造方法を適用することにより24M4DBP特性を維持したまま低水素含有量化が可能となった。
比較例3は実施例1から反応停止位置を前方に移行することにより、反応生成物への熱履歴の大きさを表す〔t×T〕値を50よりも小さく制御した製造条件である。実施例1と比較例3の比較から明らかなように、〔t×T〕値を50よりも小さく制御した場合は反応生成物への熱履歴が充分ではなく低水素量と高24M4DBP特性の両立が困難であることがわかる。
実施例2は実施例1からさらに燃料を減らすことによりtを長くし、反応停止位置を下流方向に移動することにより〔t×T〕を高くした製造条件である。
実施例3は実施例1から燃焼ガス流量を約15%減らすことにより、tを長くし、〔t×T〕を高くした製造条件である。さらにtを長く、〔t×T〕を高く制御することにより、高24M4DBPと低表面水素含有量を高度に両立させることができることは明らかである。
実施例4は実施例1の生産性を考慮し、燃焼ガス流量を増加させ、反応停止位置をさらに下流方向に移動した製造条件である。一方、比較例4は比較例2の燃焼ガス流量を増加させた条件である。
実施例4から、生産性を上げるために燃焼ガス流量を増加させても本発明に記載の条件に制御することにより、高24M4DBPと低表面水素含有量を高度に両立できることは明らかである。一方、比較例4では比較例2よりもtを長く制御しているが、〔0.0019−0.000015×v−0.00000026×CTAB比表面積[m/g]〕に達しておらず、反応ピークまでの滞留時間が十分確保されていないためにカーボンブラック生成核発生量が多くなって低水素量化は充分に達成されない。
実施例5は原料油導入位置を断面積の大きな上流側に変更することによりvを小さくするとともにtを長くし、反応停止位置を下流側に移動することにより〔t×T〕値を高くした製造条件である。
一方、比較例5は比較例1から原料油導入位置を上流側に変更することによりvを小さくするとともにtを長くした製造条件である。
従来手法である比較例5では24M4DBP特性は高くなるが水素含有量も高く、低水素含有量化が充分に進んでいない。
これに対し〔t×T〕値を高く制御した実施例5では高24M4DBPと低水素含有量という特性を高度に両立させることができることを示している。
これらの各製造条件で製造したカーボンブラックの物理化学特性を表1、表2に示した。
また、図3は表1、表2の24M4DBP特性値と水素含有量の相関性を表したグラフである。図3から明らかなように従来製法では二律背反関係にあった高24M4DBPと低水素含有量という特性を高度に両立していることがわかる。
【0023】
【表1】

【表2】

【0024】
なお、各特性の測定方法は下記の通りである。
1)CTAB比表面積(CTAB):JIS K6217−3:2001に記載された方法により測定され、試料1g当たりに吸着されるCTAB量から計算される比表面積(m/g)で表示される。
2)24M4DBP吸収量(24M4 DBP):JIS K6217−4:2001に記載された方法により測定され、試料100g当たりに吸収されるジブチルフタレート(DBP)のcm数で表示される。
3)水素含有量:カーボンブラック試料を105℃の恒温乾燥機中で1時間乾燥し、デシケータ中で室温まで冷却し、10mgを精秤し、スズ製のチューブ状サンプル容器に圧着・密栓する。水素分析装置〔株式会社堀場製作所製、EMGA621W〕でアルゴン気流下、2000℃で15分間加熱したときの水素ガス発生量を測定し、試料に対する百万分率(ppm)で表示される。
【0025】
ゴム組成物の調製ならびにゴム性能試験
表1および表2に記載された条件により製造された実施例および比較例で示された各カーボンブラックを表3に示した配合比率でバンバリーミキサーを用いて混練し、更に加圧型加硫装置を用いて145℃で30分間加硫して加硫ゴム試料片を得た。この加硫ゴム試料片を用いて、300%引張応力(M300)、破断時の伸び(Eb)および耐摩耗性の特性を測定し、その結果を表4および表5に示した。
【0026】
【表3】

MBTS:ジベンゾチアジルジスルフィド
IPPD:N−フェニル−N′−イソプロピル−p−フェニレンジアミン
【0027】
【表4】

【表5】

* 各特性の数字は、比較例1の数値を100としたときの指数である
なお、ゴム性能特性の測定方法は下記の通りである。
【0028】
引張り試験(M300、Eb):JIS K6251:2004「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に記載された方法により実施した。試験片はダンベル状3号形を用い、測定温度25℃、引張速度500mm/minで測定し、第8項にしたがって300%伸長時の応力(M300)、破断時の伸び(Eb)を算出した。
耐摩耗性試験:ランボーン摩耗試験器を用い、試験荷重4kg、スリップ率60%、測定温度25℃における各試験片の摩耗損失量を測定し、比較例1を基準試験片として次式により耐摩耗性指数を算出した。なお、指数値が大きい程、耐摩耗性に優れる。
式:耐摩耗指数=(S/T)×100
ここで、S:比較基準(比較例1)試験片の摩耗損失量
T:各ゴム試験片の摩耗損失量
【0029】
表4、表5に示した実施例1から5および比較例1から5における数値は、表1、表2に示した製造条件により製造したカーボンブラックを配合して得られたゴム組成物において、比較例1を対照標準とした場合の指数(比較例1を100とする)で表したゴム性能特性である。図3は、各実施例と比較例の24M4DBPと水素含有量との関係を示す。また、図4はこの表4、表5の数値からEbと耐摩耗性との相関性について示した図である。表4、表5および図4から明らかなように、本発明で得られたカーボンブラックは高24M4DBPと低水素含有量という特性を高度に両立しているため、配合して得られるゴム組成物は高24M4DBPという特徴によるゴム組成物への物理的な補強性付与(耐摩耗性)と低水素含有量という特徴によりゴム組成物との化学的な結合を抑制することによる破断時の伸び特性の維持を高度に両立していることがわかる。すなわち本発明で得られたカーボンブラックは従来手法では耐摩耗性と低発熱性を両立させようとした場合に二律背反関係にあって性能低下が見られた耐疲労性、特に引張り特性(Eb)を高度に維持しており、トラック・バスタイヤ用トレッドゴム組成物への配合剤として好適なカーボンブラックを提供することができ、充填材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明において用いた装置の縦断正面説明図である。
【図2】図1のA−A矢視における断面図である。
【図3】実施例および比較例における水素含有量と24M4DBP特性値の関係を表すグラフである。
【図4】実施例および比較例における耐摩耗性と耐疲労性の関係を表すグラフである。
【図5】本発明で用いた各種パラメータの定義を表すモデル図である。
【符号の説明】
【0031】
1 カーボンブラック反応装置
2 可燃性流体導入室
3 酸素含有ガス導入管
4 酸素含有ガス導入用円筒
5 整流板
6 燃料油噴霧装置導入管
7 燃料導入手段を備えた収れん室
8A 原料油噴霧口
8B 原料油噴霧口
8C 原料油噴霧口
8D 原料油噴霧口
9 原料油導入室
10 反応継続兼冷却室
a〜y 急冷水圧入噴霧手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温燃焼ガス生成帯域、反応帯域および反応停止帯域とからなるカーボンブラック製造装置を用い、高温燃焼ガス生成帯域において炭化水素の燃焼により高温燃焼ガスを生成させ、引き続き反応帯域上流端で前記高温燃焼ガス流中に原料油を噴霧導入し、熱分解反応によりカーボンブラックを含む反応ガス流となし、次いで反応停止帯域において急冷媒体を前記反応ガス流中に導入することにより反応ガス流を急冷して反応を終結させることからなるカーボンブラックの製造方法において、原料油導入位置での燃焼ガス流速をv[m/s]、原料油導入位置から原料油の熱分解反応温度ピークまでの滞留時間をt[s]、原料油導入位置から反応停止位置までの滞留時間をt[s]、原料油導入位置から反応停止前の反応温度の平均値をT[℃]として、v、t、t、およびTの数値に関して下記の式(i)、(ii)および(iii)を満足する条件下で制御することを特徴とするカーボンブラックの製造方法。
(i)30≦v≦110 [m/s]
(ii)0.0019−0.000015×v−0.00000026×CTAB
比表面積[m/g]≦t≦0.0017 [s]
(iii)50≦t×T≦90 [℃・s]
【請求項2】
請求項1に記載された製造方法により得られたカーボンブラック。
【請求項3】
請求項2に記載されたカーボンブラックを配合したゴム組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−144003(P2010−144003A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320964(P2008−320964)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000116747)旭カーボン株式会社 (19)
【Fターム(参考)】