説明

カーボンブラックの製造方法及びカーボンブラック

【課題】耐摩耗性と低発熱性と切断時伸び特性を同時に満足するカーボンブラックの製造方法、及びこれにより得られるカーボンブラックの提供。
【解決手段】燃焼ガス生成帯域と反応帯域及び反応停止帯域を同軸上に連設した反応装置を用いたカーボンブラックの製造方法であって、原料導入装置の少なくとも一つの原料噴霧角度(A)を、360°/3n≦(A)≦360°/n(n:原料炭化水素噴霧平面での原料噴霧装置の本数)の範囲とし、原料噴霧角度(B)を15°以下とすると共に、滞留時間t(秒)、反応温度T(℃)、滞留時間t(秒)、反応温度Tが、下記(1)式及び(2)式を満たすように制御するカーボンブラックの製造方法。
(1)3.50≦α≦10.00
(2)−0.5×α+45.0≦β≦50.0
(式中、α=t×T、β=t×T

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラックの製造方法及びこの方法により得られるカーボンブラックに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは、厳密に制御された条件下においてファーネス炉内で発生させた高温燃焼ガス中及び/又は外部で発生させて炉内に導入された高温燃焼ガス中へ原料炭化水素を噴霧導入し、この原料炭化水素の熱分解又は不完全燃焼により生産される産業上有用なほぼ純粋な炭素元素で構成される原材料であり、ゴム配合時の組成物に対して機械的性質、特に引張り強さ、耐摩耗性などの特性を飛躍的に向上させることができるという特異な性質を有することから、タイヤをはじめとする各種ゴム製品の充填補強剤として広く、かつ約100年もの長い期間にわたって用いられてきており、その色彩的特徴である黒色度を利用して各種塗料、インキ用原材料などとしても利用されている。
ゴム配合用カーボンブラックは、その物理化学的特性、即ちカーボンブラックを構成する単位粒子径、単位重量当たりの表面積(比表面積)、粒子のつながり度合(ストラクチャー)、表面性状などにより、配合ゴム組成物の特性・性能に大きな影響を与えるので、要求されるゴム製品の性能、使用される環境等によって各種特性の異なるカーボンブラックが選択的に使用されている。
【0003】
タイヤの接地面(トレッド部)に用いられるゴム組成物の場合には、高速度で回転しながら道路面と接触するため、摩損に対する耐性(耐摩耗性)に優れていると同時に、種々の条件下の路面との接触で生じる繰り返し変形によるゴム組成物の発熱特性に大きな影響を与えるヒステリシス特性も重要な要素である。また、路面からタイヤへの繰り返し変形によるゴム組成物の耐疲労性、耐ティアー性に大きな影響を与える切断時伸び特性も重要な要素である。これら3つの特性は互いに相反する三律背反事項、即ち、いずれかの特性を向上させると他の特性が低下することが知られており、この解消あるいは高い次元での性能維持が大きな課題となっている。
例えばタイヤトレッド配合用カーボンブラックを用いてゴム組成物の耐摩耗性を向上させるため、より大きな比表面積、あるいは高いストラクチャーを有するカーボンブラックを採用した場合、耐摩耗性は向上するが、発熱特性と切断時伸び特性は低下する。
【0004】
従来、上記問題の改善に対し、カーボンブラック形態を制御すること、即ち、高いストラクチャー及びシャープな凝集体分布を有するカーボンブラックを製造することによる、高い次元での三律背反の解決を目指したアプローチが試みられてきた。その一つとして、本出願人はカーボンブラック製造時の原料噴霧角度を特定した発明(特許文献1)を提案した。この発明では反応装置内での燃焼ガスの流れに垂直な面及び流れ方向に対する原料噴霧角度を各々特定することにより、反応場におけるカーボンブラック生成反応を均一化し、これにより上記物性の高い次元での両立を達成している。しかしながら、生成反応開始点の均一化は成されているものの、以降の反応場の環境に依存する成長反応に関しては十分に均一化されているとは言えず、その影響により、場合によっては凝集体径が過度に成長したカーボンブラックが生成する可能性を孕んでいた。このような凝集体径のカーボンブラックの生成はゴム配合時の補強構造構築の阻害要因となる為、特許文献1の発明による凝集体分布のシャープ化による効果が完全には発揮されない場合も有り、改良の余地を残していた。
【0005】
また、上記と同様のカーボンブラック製造における他のアプローチとして、カーボンブラック反応炉の構成形態を規定した発明(特許文献2)も提案されている。この発明では反応炉の原料導入部を狭小化し、更に狭小部を従来よりも長尺とすることによりカーボンブラック生成反応の均一化を行い、一次粒子径が小さく、且つ凝集体分布が狭いカーボンブラックを製造している。しかし、この技術における反応炉の狭小化は炉内圧力上昇の原因となり、カーボンブラック生産量及び収率の低下を招くことに加え、高温燃焼ガスの流動速度上昇により反応炉の寿命を著しく縮める為、工業的観点及びコスト面から好ましいとは言えない。また、上記反応炉を運転する際には、専用の反応系列の確保、或いは通常の反応炉の構成からその都度変更する必要が有り、生産性を低下させる恐れがある。
更に、シャープな凝集体分布のカーボンブラックの安定生産を目的として、特許文献2の発明の問題点である反応炉の短命化改善の為、反応炉内壁に冷却手段を設けて耐熱性を向上させる発明(特許文献3)も提案されている。しかし、この発明は特許文献2の技術よりも更に特殊な構成の反応装置を要するものであり、コスト面、製造管理面から一般的な装置構成として広く用いることが出来るものとは言えない。
【0006】
一方、上記公知技術とは異なるアプローチとして、カーボンブラック形態に依らない手法も模索されており、その一つとして、本出願人はカーボンブラック表面の化学的物性制御のため、カーボンブラック製造時の反応停止に用いる急冷媒体の導入手法制御による、カーボンブラック製造時の加熱のプロファイル(熱履歴)を特定した発明(特許文献4、以下、先願発明という)を提案した。
先願発明は、燃焼ガス生成帯域と反応帯域及び反応停止帯域を同軸上に連設したカーボンブラック反応装置を用い、燃焼ガス生成帯域内で燃料炭化水素の燃焼により高温燃焼ガスを生成させ、引き続き反応帯域で前記高温燃焼ガス流中に原料炭化水素を噴霧導入し、不完全燃焼又は熱分解反応により前記原料炭化水素から転化されたカーボンブラックを含む反応ガス流となし、次いで反応停止帯域において前記反応ガス流を急冷して反応を終結させることからなるカーボンブラック製造方法において、前記原料炭化水素が前記高温ガス流中に導入されてから急冷媒体が導入されるまでの滞留時間をt(秒)、この空間での平均反応温度をT(℃)とし、さらに急冷媒体が導入されてから前記反応停止域通過までのカーボンブラックを含む反応ガス流の滞留時間をt(秒)、この空間内での平均反応温度をT(℃)として、下記(1)式及び(2)式を満たす条件下で制御することを特徴とするカーボンブラックの製造方法(請求項1)に関するものである。
(1)2.00≦α≦9.00
(2)−2.5α+85.0≦β≦90.0
(式中、α=t×T、β=t×Tを表す)
【0007】
即ち、先願発明は、各工程においてどの様な温度でどの位の間、生成中の及び/又は生成したカーボンブラックが熱暴露を受けているかを示す前記パラメータ(t、T、t、T)の積α、β(熱履歴の程度を強さと長さの積で表示した指標)を新規に定義し、かつこれらの値が前記(1)式及び(2)式を満足するように、生成中の及び/又は生成したカーボンブラックの熱履歴を最適化したものであり、これによりゴム組成物の機械的特性、特に耐摩耗性の低下を回避でき、タイヤトレッドゴム配合用カーボンブラックとして耐摩耗性と低発熱性を高度に両立させたものである。
しかし、耐摩耗性と低発熱性に加えて切断時伸び特性も同時に満足させることはできていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−262001号公報
【特許文献2】特開2003−277645号公報
【特許文献3】特開平11−181322号公報
【特許文献4】特開2005−272729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、耐摩耗性と低発熱性と切断時伸び特性を同時に満足する、特にタイヤトレッドゴム配合用として好適なカーボンブラックの製造方法、及び、この製造方法により得られるカーボンブラックの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、次の1)〜2)の発明によって解決される。
1) 燃焼ガス生成帯域と反応帯域及び反応停止帯域を同軸上に連設した反応装置を用い、燃焼ガス生成帯域で燃料炭化水素の燃焼により高温燃焼ガスを生成させ、続いて反応帯域で前記高温燃焼ガス流中に複数の原料導入装置から原料炭化水素を噴霧導入し、不完全燃焼又は熱分解反応により前記原料炭化水素から転化したカーボンブラックを含む反応ガス流となし、次いで反応停止帯域において急冷媒体の導入により前記反応ガス流を反応停止温度まで冷却して反応を終結させるカーボンブラックの製造方法であって、
前記複数の原料導入装置の少なくとも一つについて、反応装置内での燃焼ガスの流れに垂直な面における原料噴霧角度(A)を、360°/3n≦(A)≦360°/n(n:原料炭化水素噴霧平面での原料噴霧装置の本数)の範囲とし、かつ反応装置内での燃焼ガス流れ方向の原料噴霧角度(B)を15°以下とすると共に、
前記原料炭化水素が前記高温燃焼ガス流中に導入されてから急冷媒体が導入されるまでの滞留時間をt(秒)、急冷媒体が導入される直前の反応温度をT(℃)、急冷媒体が導入されてから前記反応停止帯域通過までの反応ガス流の滞留時間をt(秒)、反応停止帯域で反応ガス流を急冷して反応を終結する直前の反応温度(反応継続兼冷却室の下流端空間での温度)をT(℃)として、下記(1)式、及び(2)式を満たすように制御することを特徴とするカーボンブラックの製造方法。
(1)3.50≦α≦10.00
(2)−0.5×α+45.0≦β≦50.0
(式中、α=t×T、β=t×T
2) 1)記載の製造方法により得られるカーボンブラック。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐摩耗性と低発熱性と切断時伸び特性を同時に満足する、特にタイヤトレッドゴム配合用として好適なカーボンブラックの製造方法、及びこの製造方法により得られるカーボンブラックを提供できる。
また、本発明では従来技術のような特殊な構造の反応装置を用いる必要もない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に用いるカーボンブラック反応装置の一例の縦断正面説明図である。
【図2】図1のA−A矢視における断面図である。(イ)原料炭化水素噴霧装置が4本の場合、(ロ)原料炭化水素噴霧装置が8本の場合。
【図3】図1のB−B矢視断面における反応空間温度測定用熱電対装置を含む断面図である。
【図4】(a)及び(b)は、本発明で用いるカーボンブラック製造装置内の噴霧装置の噴霧パターンの予想模式図、(c)は、その噴霧パターンの模式図、(d)は、反応装置内燃焼ガス流れ方向に垂直な面(X−X線断面)における噴霧パターンの原料噴霧角度(A)を示す図、(e)は反応装置内燃焼ガス流れ方向(Y−Y線断面)での噴霧パターンの原料噴霧角度(B)を示す図である。
【図5】図1のC−C矢視における急冷媒体圧入噴霧ノズルの断面図である。
【0013】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
本出願人は、前記先願発明により得られたカーボンブラックに対して、耐摩耗性と低発熱性を好ましいレベルに維持しながら、ゴム組成物の切断時伸び特性を向上させることの出来るカーボンブラックについて検討し、カーボンブラック表面からの水素放出率を低下させることにより切断時伸び特性が改良できることを見出した。なお、切断時伸び特性は耐ティアー性(繰返し変形負荷時におけるゴム組成物中の亀裂発生に対する耐性)の指標となる特性である。
そして、先願発明においてカーボンブラック表面からの水素放出率を低下させるには、カーボンブラック生成反応後の熱履歴量(β)を高く制御する方法が考えられ、この方法はカーボンブラックが含有する未反応の溶媒抽出成分(多環芳香族炭化水素。多くは発がん性を有し、ゴムへの補強性は無い)の低減にも寄与すると推測された。しかしながら、βを大きくすると、生成反応が完了したカーボンブラックに対して反応装置後半部分で強く且つ長い熱履歴を与えることになり、場合によっては接触成長反応が過剰に進行するため非常に大きな凝集体が生成し、配合ゴム組成物の耐摩耗性に悪影響を与えることが予想され、このために水素放出率の制御によるゴム組成物への作用、効果が十分に発揮されない怖れも懸念された。
【0014】
そこで、検討を重ねた結果、凝集体分布のシャープ化に適した前記特許文献1の発明に係る原料噴霧角度の範囲を更に最適化し、高温燃焼ガスと原料炭化水素との接触効率を最大限にして熱接触効率を上げることにより、カーボンブラック生成反応場での均一性を向上させ、未反応の溶媒抽出成分を低減させると共に水素放出率を低く制御し、かつ、先願発明で定義したパラメータ(t、T、t、T)の積α、βについて、αを略同一熱履歴条件とする一方で、βを先願発明よりも著しく低く制御することにより、水素放出率で評価されるカーボンブラック表面の化学的活性を低下させると共に、更なる凝集体分布のシャープ化を行って、カーボンブラック配合時に耐摩耗性と低発熱性を高度に両立させ、かつ切断時伸び特性をも満足させることに成功した。
【0015】
即ち、本発明の製造方法は、第一要件として、原料噴霧角度(A)(B)を前記一定の範囲に制御した上で、第二要件として、前述したα、βの値が前記(1)式及び(2)式を満たすように制御することにより、カーボンブラック生成反応の均一化を図ると共に、カーボンブラック生成中の及び/又は生成したカーボンブラックへの熱履歴を最適化する方法である。
そして、上記構成により、適度な多環芳香族炭化水素の除去及び水素放出率の制御を行って、トルエン着色透過度を向上させ、水素放出率を低下させると共に、凝集体の過度の成長反応を阻害して、従来よりも凝集体分布(ΔD50/Dst及びDw/Dn)がシャープ化された均一なカーボンブラックとすることができ、タイヤトレッドゴム配合用カーボンブラックとして好適な、耐摩耗性と低発熱性と切断時伸び特性を同時に満足するカーボンブラックが得られる。
【0016】
まず、本発明における各帯域について図1を参照しつつ説明する。図1は本発明で用いるカーボンブラック反応装置の一例を示す図である。
このカーボンブラック反応装置1は、酸素含有ガス導入管3と、可燃性流体導入室2の内部に反応装置頭部外周から導入された酸素含有ガスを整流するための整流板5を有する酸素含有ガス導入用円筒4と、その中心軸に燃料炭化水素噴霧装置導入管6を有し、前記円筒の下流側は次第に収れんする収れん室7とし、収れん室7の下流側には図2に一例を示したような原料炭化水素噴霧装置〔図2の(イ)は8B平面に4つの原料炭化水素噴霧装置(8B−1〜4)を均等角度で設けた場合、図2の(ロ)は8B平面に8つの原料炭化水素噴霧装置(8B−1〜8)を均等角度で設けた場合である〕を同一平面上に設置した4つの別個の平面を形成する原料炭化水素噴霧平面(8A〜8D)を含む原料炭化水素導入室9を有し、この下流側は反応停止のための急冷媒体圧入噴霧手段(a〜y)を備えた反応継続兼冷却室10からなり、全体が耐火物で覆われた装置である。
なお、反応継続兼冷却室10という名称を用いたのは、原料導入時点から前記急冷媒体圧入噴霧手段の作動時点までが反応帯域、その下流側で急冷媒体圧入噴霧手段の作動時点以降が反応停止帯域であり、この急冷媒体圧入噴霧手段の作動時点が、要求されるカーボンブラック性能により移動することがあるためである。
また、通常、急冷媒体としては水を用いる。
【0017】
燃焼ガス生成帯域とは燃料と空気との反応により高温ガス流が生成される領域であり、この下流端は原料炭化水素が反応装置内に導入される点、例えば図1の8Bの原料炭化水素噴霧平面から原料炭化水素が導入される場合は、それよりも上流側(図1では左端)から原料炭化水素が導入される8Bまでを指す。また、複数位置から原料炭化水素が導入される場合の燃焼ガス生成帯域とは、例えば図1の8A、8B、8Cの原料炭化水素噴霧平面から同時に原料炭化水素が導入される場合は、図1の左端から原料炭化水素が導入される最も上流の8Cまでを指す。
【0018】
反応帯域とは、原料炭化水素が導入された点(複数位置での導入の場合は最も上流側)から、反応継続兼冷却室10内の急冷媒体圧入噴霧手段設置用空間(a〜z)における反応生成物の冷却のための急冷媒体圧入噴霧手段(a〜y)を作動させた点までを指す。急冷媒体圧入噴霧手段(a〜y)は抜き差し自在であり、生産する品種、特性により使用位置は選択される。即ち、8Bで原料炭化水素を導入し、急冷媒体を位置fで導入した場合、この間の領域(8B〜f)が反応帯域となる。
また、急冷媒体圧入噴霧手段設置位置のすぐ上流側空間には、反応空間温度測定装置が設置されている〔例えば、上記8B〜fが反応帯域の場合にはeに設置され、ここの温度がT(℃)となる〕。図3に、図1のbに温度測定装置を設けた場合のB−B矢視断面を示す。Tcは反応空間温度測定用熱電対装置である。
【0019】
反応停止帯域とは、急冷媒体圧入噴霧手段を作動させた点よりも下流側(図1では右側)の帯域を指す。
なお、zは急冷媒体圧入噴霧手段設置用空間(a〜z)の下流端という意味合いだけで、設置空間の数又は長さを限定するものではない。また、zは反応停止帯域の最後の反応停止位置であるが、前述のように急冷媒体圧入噴霧手段(a〜y)は本願発明で特定した温度及び滞留時間を満足させる条件で適宜選択されるから、これに伴い、反応停止位置も変化する。
【0020】
次に、前記第一要件に係る原料噴霧角度(A)(B)について図4を示して説明する。(a)及び(b)は、本発明で用いるカーボンブラック製造装置内の噴霧装置の噴霧パターンの予想模式図であり、(c)は、その噴霧パターンの模式図である。そして(d)が、反応装置内燃焼ガス流れ方向に垂直な面(X−X線断面)における噴霧パターンの原料噴霧角度(A)を示す図であり、(e)が反応装置内燃焼ガス流れ方向(Y−Y線断面)での噴霧パターンの原料噴霧角度(B)を示す図である。
【0021】
前記第一要件では、原料噴霧角度(A)を360°/3n≦(A)≦360°/n(n:原料炭化水素噴霧平面での原料噴霧装置の本数)の範囲とし、原料噴霧角度(B)を15°以下とする。好ましくは5°〜10°である。これらの条件は、燃焼ガスと原料噴霧液滴との接触効率を向上させ、カーボンブラック生成反応を均一かつ効率良く行ってカーボンブラックの完成度を上げ、生成後のカーボンブラックに過度の熱履歴を与えないためのものである。nは通常、4〜8とする。理論的には20まで増やすことが可能であるが、炉材強度などの関係で現実的には12程度が上限である。
原料噴霧角度(A)が関係式下限よりも小さいと、原料導入部の反応装置の断面において原料噴霧によって被覆される領域に間隙が生じ、凝集体分布が幅広になることに加えて収率も低下する。また、関係式上限よりも大きいと、噴霧された原料同士が重なり合う領域が生じ、原料が衝突して不均一な反応場となるため、凝集体の生成に悪影響を及ぼす。
更に原料噴霧角度(B)が15°よりも大きいと、反応装置の流れ方向において原料噴霧液滴と高温ガス流の接触時間が異なる領域が発生し、カーボンブラック生成反応の初期状態に差異が発生し易くなる為、均一化された凝集体の生成にとって好ましくない。また、原料噴霧角度(B)の下限は、噴霧装置の製造技術上の問題(実現性)から5°程度であり、これを下回ると炉内にコークスができやすく、生産性が悪くなる懸念がある為、好ましくない。
【0022】
前記第二要件では、α、βに関する(1)式及び(2)式を満たす必要がある。
αは3.50以上、好ましくは3.90以上である。αが3.50未満では、トルエン着色透過度が90%未満となり、カーボンブラック中に含まれる多環芳香族炭化水素成分が多くなるが、多環芳香族炭化水素はゴムに対して十分な補強性を与えない成分であり、カーボンブラックの切断時伸び特性が低下するため好ましくない。
また、αが10.00を超える熱暴露の大きい製造条件では、カーボンブラック中に含まれる多環芳香族炭化水素成分は少なくなるが、水素放出率も過度に低下し、ゴム組成物の耐摩耗性が低下すると共に、反発弾性により示されるゴム組成物の硬さが必要以上に失われる為に発熱性が高くなり、タイヤトレッド用途として好ましくない。
【0023】
また、βは、−0.5×α+45.0以上、好ましくは−0.5×α+47.0以上である。βが下限よりも小さい場合、即ち急冷媒体導入後から反応停止帯域までの熱履歴が小さい場合には、トルエン着色透過度が90%以下となり、やはりゴム組成物の補強性に関して好ましくない。逆にβが50.0を超える場合には、水素放出率が著しく低下し、ゴム組成物の耐摩耗性が低下し、繰返し変形時でのゴム組成物の発熱性が大きくなってしまう。また、カーボンブラック成長反応が過剰に行われる為、凝集体成長の不均一化の機会が増大し、極めて大きな凝集体径のカーボンブラックが生成する可能性も増大し、ゴム組成物の補強効果に悪影響を与えるので好ましくない。
【0024】
また、反応帯域や反応停止帯域での反応温度T、Tを調整するため、原料炭化水素導入位置から急冷媒体導入位置までの範囲及び/又は急冷媒体導入位置から反応停止帯域下流端までの範囲の空間内に、空気又は酸素と炭化水素の混合物、あるいはこれらの燃焼反応による燃焼ガス等のガス体を導入添加してもよく、反応温度Tの調整のため、急冷媒体導入位置での水などの急冷媒体の導入量を適宜制御してもよい。
【0025】
滞留時間t、tの算出は、燃焼帯域中に導入された燃料と空気の燃焼反応生成物を用いた公知の熱力学的計算法により燃焼ガス流体の容積を算出し、次式に代入すれば求められる。なお、原料炭化水素の分解反応及び急冷媒体による体積変化は無視するものとする。
【数1】

【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の範囲が限定されるものではない。
【0027】
実施例1〜6、比較例1〜9
図1〜図5に示すカーボンブラック反応装置1を用いて、実施例及び比較例のカーボンブラックを下記の要領で製造した。
可燃性流体導入室2(内径450mmφ、長さ400mm)の内部に整流板5を有する酸素含有ガス導入用円筒4(内径250mmφ、長さ300mm)と燃料炭化水素噴霧装置導入管6を備え、円筒の下流側が収れん室7(上流端内径370mmφ、下流端内径80mmφ、収れん角度5.3°)となり、かつ収れん室7の下流側には図2に8B平面で例示した4つ又は8つの原料炭化水素噴霧装置(8B−1〜4又は8B−1〜8)を同一平面上に設置した4つの別個の平面を形成する原料炭化水素噴霧平面(8A〜8D)を含む原料炭化水素導入室9を有し、この下流側は急冷媒体圧入噴霧手段を200mm間隔で25ヶ所備えた反応継続兼冷却室10(内径140mmφ、長さ6500mm)からなる、全体が耐火物で覆われたカーボンブラック反応装置1を用いた。急冷媒体圧入噴霧手段としては、図5に示す急冷媒体圧入噴霧ノズルを用いた。
なお、実施例1〜4及び比較例1〜8では、前記図2(ロ)に示す原料炭化水素噴霧装置が8つの装置を用い、実施例5〜6及び比較例9〜10では、前記図2(イ)に示す原料炭化水素噴霧装置が4つの装置を用いた。
また、本実施例では、最も好ましい態様として、4つ又は8つの原料炭化水素噴霧装置の全てを制御した例を示したが、これらの複数の原料炭化水素噴霧装置の少なくとも一つを制御すれば、場の均一性が上がるので、本発明の効果は得られる。
【0028】
燃料には比重0.8622(15℃/4℃)のA重油を用い、原料炭化水素としては表1に示した性状の重質油を使用した。
なお、0.8622(15℃/4℃)は、15℃のときのA重油の質量と、4℃の水の質量との比が0.8622となることを意味しており、原料炭化水素の場合も同様である。
【表1】

【0029】
上記カーボンブラック反応装置1を用い、表2〜表3の各実施例及び比較例の欄に示す条件となるように制御してカーボンブラックを製造した。
温度Tは、空気導入量と燃料導入量を変えることにより制御し、温度Tは、急冷媒体(水)の導入量を変えることにより制御した。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
実施例及び比較例の各カーボンブラックの物理化学的特性等を表4〜表5に示す。
【表4】

【0033】
【表5】

【0034】
上記表4〜表5に示した各特性は、下記の方法により測定したものである。
(1)24M4DBP吸収量
JIS K6217−4:2008に記載の方法で測定。カーボンブラック100g当たりに吸収されるジブチルフタレート(DBP)のmLで表示される。
(2)CTAB吸着比表面積
JIS K6217−3:2001に記載の方法で測定。単位重量当たりの比表面積(m/g)で表示される。
【0035】
(3)遠心沈降分析によるカーボンブラック凝集体径分布分析法
JIS K6217−6:2008記載の方法にしたがって遠心沈降法を用いて測定し、得られたデータから以下の物性を導出した。
(i)Dst
上記方法で得られた凝集体分布曲線において、その最多頻度を与える凝集体直径。
(ii)ΔD50
上記方法で得られた凝集体分布曲線において、その頻度が最大点の半分の高さの時の分布の幅。
(iii)ΔD50/Dst
凝集体径の分布を評価する指標。数字が小さいほど、凝集体径の分布が均一であると見做すことが出来る。
(iv)Dw/Dn
上記方法で得られた重量平均粒子(凝集体)径(Dw)と数平均粒子(凝集体)径(Dn)の比率。多分散度指数とも呼ばれ、数字が大きい程、径の分布の始点終点間が幅広い。本特性に対しては、特に大きい側の凝集体径の多寡が指数に影響を与える。
【0036】
(4)トルエン着色透過度
JIS K6218−4:2011記載の方法で測定した。純粋なトルエンの透過率を100%としたときの処理液の透過率(%)で表示される。数字が大きいほど、トルエン汚染度が小さい、即ち未分解芳香族炭化水素成分が少ないことを意味する。
【0037】
(5)水素放出率
次の(a)〜(c)の操作により得られる。
(a)カーボンブラック試料を105℃の恒温乾燥機中で1時間乾燥し、デシケータ中で室温まで冷却する。
(b)試料約10mgを精秤し、スズ製のチューブ状サンプル容器に入れて圧着・密栓する。
(c)水素分析装置〔堀場製作所製EMGA621W〕を用い、アルゴン気流下、2000℃で15分間加熱したときの水素ガス発生量を測定し、その質量分率(%)を求める。
【0038】
実施例及び比較例の各カーボンブラックの性能を評価するため、表6に示した配合割合でゴム組成物を調製し、その特性試験を行った。結果を表7〜表8に示す。
なお、各ゴム特性の性能は、比較例1を対照標準(特性値100)としたときの指数で表した。
【0039】
【表6】

表中の略号の詳細は以下のとおりである。
RSS♯1:Ribbed Smoked Sheet 1号
MBTS :2,2′−ジベンゾチアジルジスルフィド
IPPD :N−イソプロピル−N−フェニル−P−フェニレンジアミン

【0040】
【表7】

【0041】
【表8】

【0042】
ゴム特性は次のようにして測定した。
(1)ゴム配合方法
表6に示す配合割合のゴム組成物をバンバリーミキサーを用いて混練し、さらに加圧型加硫装置を用いて145℃で30分間加硫し加硫ゴムを得た。
(2)ランボーン耐摩耗指数評価
JIS K6264−2:2005に記載の方法により、ランボーン摩耗試験器を用いて摩耗損失量を測定し、次式により耐摩耗性指数を算出した。なお、数値が大きいほど、耐摩耗性に優れる。
耐摩耗指数=(S/T)×100
式中、Sは比較基準(比較例1)試験片の摩耗損失量、Tは各ゴム試験片の摩耗損失量
(3)反発弾性指数評価
JIS K6255:1996に記載の方法により反発弾性を測定した。指数値が大きい程、反発弾性が高く、低発熱性に優れる。
(4)切断時伸び(Eb)
JIS K6251:2010「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に記載された方法により実施した。試験片はダンベル状3号形を用い、測定温度25℃、引張速度500mm/minで測定し、切断時伸びEb(%)を15.1項記載の式(3)を用いて算出した。指数値が大きい程、伸びが高く、耐疲労性、耐ティアー性に優れる。
【0043】
表4と表5に示した物理化学特性、及び表7と表8に示したゴム特性の結果から、本発明のカーボンブラック製造方法の効果・利点を説明する。
比較例1、9は、噴霧角度(A)が関係式の下限を下回った例であり、反応場の不均一性から凝集体分布(ΔD50及びΔD50/Dst)が広くなっている。
比較例2、10は、噴霧角度(A)が関係式の上限を上回った例であり、噴霧領域の過度な重複によって原料に不均一な衝突が発生し、ΔD50/Dstに加えてDw/Dnも広くなっているため、ゴム組成物の物性全般に低下傾向が見られる。また、未分解原料が反応炉内壁に付着しやすい為にコークスが多く発生し、生産安定性に悪影響を及ぼす。
比較例3は、αが下限の3.5を下回った例であり、十分な熱履歴が与えられなかったため未分解の芳香族炭化水素が多く見られ、トルエン着色透過度が90%以下となっている。また、水素放出率も高く、その影響で伸び特性が低下している。
比較例4、5は、βが下限の「−0.5×α+45.0」を充たしていない例であり、比較例3と同様に、十分な熱履歴が与えられなかった例であるが、βは反応後期の熱履歴であることからトルエン着色透過度が85%以下となっており、伸び特性だけでなく補強性にも悪影響を及ぼし、耐摩耗、反発弾性においても低下が見られる。
比較例6は、αが上限の10を上回った例であり、十分に熱履歴が与えられているので未分解芳香族炭化水素量が減少し、トルエン着色透過度も高い値であるが、半面、水素放出率の低下を招き、反発弾性が大きく低下している。また、過剰な熱暴露の為に凝集体成長反応の不均一化も招き、Dw/Dn(1.451)から分かるように極めて大きな径の凝集体生成制御が成されておらず、耐摩耗性においても極端な低下が見られる。
比較例7は、βが上限の50.0を上回った例であるが、これも比較例6と同様に過剰な熱暴露の影響で低位な水素放出率、及び高めのDw/Dnを示しており、比較例6よりも高い値ではあるが、同様に反発弾性及び耐摩耗性の低下が見られる。
比較例8は、Bが上限の15°を上回った例であるが、反応炉流れ方向の均一性が失われるため、24M4DBPが若干低めになり、かつ凝集体分布(ΔD50及びΔD50/Dst)も広くなっている。
【0044】
一方、実施例1〜6のカーボンブラックは、比較例のカーボンブラックと比べていずれも非常に良好なバランスで耐摩耗性、低発熱性及び切断時伸び特性を有していることが判る。本発明は特にカーボンブラック粒子径に依らずに補強物性を向上している為、カーボンブラックの様々なグレードに転用することが可能であり、粒子径制御による更なる補強効果向上を図ることも可能である。
また、本発明は上記のように凝集体径分布の制御に際して反応装置径に依存しない。その為、反応装置への負荷低減による長寿命化、生産量の増大化等の効果が得られ、コスト的に非常に優位である他、敢えて反応装置狭小化を行うことにより更なる改良の余地を含ませる等、多用途への展開を可能とする技術である。
【符号の説明】
【0045】
1 カーボンブラック反応装置
2 可燃性流体導入室
3 酸素含有ガス導入管
4 酸素含有ガス導入用円筒
5 整流板
6 燃料炭化水素噴霧装置導入管
7 燃料導入手段を備えた収れん室
8A 原料炭化水素噴霧平面
8B 原料炭化水素噴霧平面
8C 原料炭化水素噴霧平面
8D 原料炭化水素噴霧平面
8B−1 原料炭化水素噴霧装置
8B−2 原料炭化水素噴霧装置
8B−3 原料炭化水素噴霧装置
8B−4 原料炭化水素噴霧装置
8B−5 原料炭化水素噴霧装置
8B−6 原料炭化水素噴霧装置
8B−7 原料炭化水素噴霧装置
8B−8 原料炭化水素噴霧装置
9 原料炭化水素導入室
10 反応継続兼冷却室
a〜z 急冷媒体圧入噴霧手段設置用空間
a〜y 急冷媒体圧入噴霧手段、又は反応空間温度測定装置設置用空間
z 反応停止位置
Tc 反応空間温度測定用熱電対装置
Qa1 急冷媒体圧入噴霧ノズル
Qa2 急冷媒体圧入噴霧ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼ガス生成帯域と反応帯域及び反応停止帯域を同軸上に連設した反応装置を用い、燃焼ガス生成帯域で燃料炭化水素の燃焼により高温燃焼ガスを生成させ、続いて反応帯域で前記高温燃焼ガス流中に複数の原料導入装置から原料炭化水素を噴霧導入し、不完全燃焼又は熱分解反応により前記原料炭化水素から転化したカーボンブラックを含む反応ガス流となし、次いで反応停止帯域において急冷媒体の導入により前記反応ガス流を反応停止温度まで冷却して反応を終結させるカーボンブラックの製造方法であって、
前記複数の原料導入装置の少なくとも一つについて、反応装置内での燃焼ガスの流れに垂直な面における原料噴霧角度(A)を、360°/3n≦(A)≦360°/n(n:原料炭化水素噴霧平面での原料噴霧装置の本数)の範囲とし、かつ反応装置内での燃焼ガス流れ方向の原料噴霧角度(B)を15°以下とすると共に、
前記原料炭化水素が前記高温燃焼ガス流中に導入されてから急冷媒体が導入されるまでの滞留時間をt(秒)、急冷媒体が導入される直前の反応温度をT(℃)、急冷媒体が導入されてから前記反応停止帯域通過までの反応ガス流の滞留時間をt(秒)、反応停止帯域で反応ガス流を急冷して反応を終結する直前の反応温度(反応継続兼冷却室の下流端空間での温度)をT(℃)として、下記(1)式及び(2)式を満たすように制御することを特徴とするカーボンブラックの製造方法。
(1)3.50≦α≦10.00
(2)−0.5×α+45.0≦β≦50.0
(式中、α=t×T、β=t×T
【請求項2】
請求項1記載の製造方法により得られるカーボンブラック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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