説明

カーボンブラック及びその製造方法

【課題】分散性、流動性に優れた新規なカーボンブラック、特にインクジェットインク用カーボンブラック分散液へ適用した場合に、安定した分散性を得ることが可能な新規なカーボンブラック、及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】活性遊離基を有するか、または生成することができる有機化合物の分解物が原料カーボンブラックの表面に均一にグラフト化され、均一にグラフト化されている粒子が個数基準で80%以上存在し、かつフェレ径が10〜50nmの粒子を個数基準で50%以上含有することを特徴とするカーボンブラック。ただし、均一にグラフト化されているとは、走査型プローブ顕微鏡を用いて個々の粒子表面のコンタクト電流(Contact Current)を測定し、グラフト化されていない粒子の平均コンタクト電流値を100としたときの相対電流値が粒子表面全域で30を超えないことをいう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散性、流動性に優れた新規なカーボンブラック及びその製造方法に関する。本発明のカーボンブラックは、ゴム工業、プラスチック工業や油性インク、塗料、乾電池等、多くの業界で広範に使用される。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは、着色性、導電性、耐候性、耐薬品性等に優れるため、例えばプラスチックやエラストマーの補強剤や充填剤や油性インクの黒色顔料等、種々の目的で幅広く使用されている。
【0003】
通常、カーボンブラックは、複数の基本粒子が化学的、物理的に結合した二次粒子、すなわち凝集体(ストラクチャともいう)として存在している。この凝集体は、不規則な鎖状に枝分かれした複雑な凝集構造をとっている。また、凝集体同士がVan der Waals力や単なる集合、付着、絡み合い等から二次凝集体をも形成するため、十分なミクロ分散構造を得ることは困難であった。また複雑な形状を有していることもあり、例えば樹脂やゴムに分散して成型しても、それら成型物の表面の光沢度や仕上がりが十分ではなかった。
【0004】
カーボンブラックは、その形状が粉状または粒状のため、単独で使用されていることが少なく、通常、ゴムや樹脂等の固状の基材または水や溶剤等の液体に均一に分散されてその特性を発揮する。しかし、カーボンブラックは、粒子間の凝集力に比べて他の物質、例えば有機高分子、水及び有機溶剤等との親和性が弱いために、通常の混合または分散条件では、均一に混合または分散することが極めて困難であった。この問題を解決するために、カーボンブラッック表面を各種の界面活性剤や樹脂で被覆して、固状の基材または液体との親和性を高めることにより、カーボンブラックの分散性を改良する検討が数多くなされている。
【0005】
例えば、重合性単量体をカーボンブラック(凝集体)共存下に重合させることにより得られる有機化合物をグラフトしたカーボンブラックは、重合性単量体の種類を適当に選択することにより、親水性及び/または親油性を適宜変えることができるため注目されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、媒体に対する分散性を向上させることができたとしても、そのカーボンブラックは、凝集体の表面にグラフトした形態であり、樹脂やゴムに分散して成型しても、それら成型物の表面の光沢度や仕上がりが十分ではなかった。
【0006】
カーボンブラックを微細化するには、低ストラクチャー化や凝集体を構成する基本粒子への分解等が考えられる。しかし、低ストラクチャー化だけでは、凝集体としての特性が発揮され、分散性改良には至らなかった。また、基本粒子への分解は、カーボンブラックの一次粒子の凝集力は非常に強大なため、凝集体を微細化しても、直ちに凝集して凝集体を形成してしまい、安定した一次粒子を得ることができなかった。
【0007】
これらの問題を解決するために、活性遊離基を有する有機化合物とカーボンブラックを機械的せん断力の作用下、有機化合物の融点以上の温度で直接グラフト反応させ、有機化合物で被覆されたカーボンブラックを得る方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この方法では、せん断力が生じた部分で次々にグラフト反応が起こるために、カーボンブラック粒子間での均一性が得られず、溶剤等への良好な分散性が得られなかったり、製造ロットごとのバラツキが大きいことが分かった。
【特許文献1】米国特許第6,417,283号明細書
【特許文献2】中華人民共和国特許出願公開第1,781,999号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、分散性、流動性に優れた新規なカーボンブラック、特にインクジェットインク用カーボンブラック分散液へ適用した場合に、安定した分散性を得ることが可能な新規なカーボンブラック、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記課題は、以下の構成により達成される。
【0010】
1.活性遊離基を有するか、または生成することができる有機化合物の分解物が原料カーボンブラックの表面に均一にグラフト化され、均一にグラフト化されている粒子が個数基準で80%以上存在し、かつフェレ径が10〜50nmの粒子を個数基準で50%以上含有することを特徴とするカーボンブラック。
【0011】
ただし、均一にグラフト化されているとは、走査型プローブ顕微鏡を用いて個々の粒子表面のコンタクト電流(Contact Current)を測定し、グラフト化されていない粒子の平均コンタクト電流値を100としたときの相対電流値が粒子表面全域で30を超えないことをいう。
【0012】
2.前記有機化合物が、少なくともフェノール系化合物及び/またはアミン系化合物を含むことを特徴とする前記1に記載のカーボンブラック。
【0013】
3.活性遊離基を有するか、または生成することができる有機化合物の分解物が原料カーボンブラックの表面に均一にグラフト化され、均一にグラフト化されている粒子が個数基準で80%以上存在し、かつフェレ径が10〜50nmの粒子を個数基準で50%以上含有するカーボンブラックの製造方法において、グラフト化する前に前記有機化合物と前記原料カーボンブラックを予め均一に混合することを特徴とするカーボンブラックの製造方法。
【0014】
ただし、均一にグラフト化されているとは、走査型プローブ顕微鏡を用いて個々の粒子表面のコンタクト電流(Contact Current)を測定し、グラフト化されていない粒子の平均コンタクト電流値がを100としたときの相対電流値が粒子表面全域で30を超えないことをいう。
【0015】
4.前記グラフト化する前の均一混合を、前記有機化合物の融点以下で行い、さらに均一混合後に前記有機化合物の融点〜350℃の温度で機械的せん断力を加えることにより原料カーボンブラックの表面に前記有機化合物の分解物をグラフト化することを特徴とする前記3に記載のカーボンブラックの製造方法。
【0016】
5.前記有機化合物が、少なくともフェノール系化合物及び/またはアミン系化合物を含むことを特徴とする前記3または4に記載のカーボンブラックの製造方法。
【0017】
6.前記原料カーボンブラック100質量部に対して、前記有機化合物50〜150質量部を添加することを特徴とする前記3〜5のいずれか1項に記載のカーボンブラックの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、分散性、流動性に優れた新規なカーボンブラック、特にインクジェットインク用カーボンブラック分散液へ適用した場合に、安定した分散性を得ることが可能な新規なカーボンブラック、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明者らは上記問題に鑑み鋭意検討を行った結果、活性遊離基を有するか、または生成することができる有機化合物が原料カーボンブラックの表面に均一にグラフト化され、均一にグラフト化されている粒子が個数基準で80%以上存在し、かつフェレ径が10〜50nmの粒子を個数基準で50%以上含有するカーボンブラックにより、分散性、流動性に優れ、特にインクジェットインク用カーボンブラック分散液へ適用した場合に、安定した分散性を得ることが可能な新規なカーボンブラックを実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0020】
また、このようなカーボンブラックは、グラフト化する前に前記有機化合物と前記原料カーボンブラックを予め均一に混合することにより得られることを見出した。
【0021】
このような効果が発現される理由は、以下のように考えている。有機化合物の融点以上で強い機械的せん断力を加えることで、原料カーボンブラック表面に前記有機化合物をグラフト化させることができたにも関わらず再凝集を起こしてしまうのは、フェレ径が10〜50nmに微粒化した粒子に不均一にグラフト化しているためであることを見出した。これは有機化合物の融点以上の条件で強いせん断力を加えることで次々にグラフト化が進行して、カーボンブラック粒子間でグラフト化率がゼロの粒子、低い粒子及び高い粒子が存在するためと思われる。均一にグラフト化することで、分散性、流動性に優れた新規なカーボンブラックが得られるものと考えている。
【0022】
ここでいう「グラフト化」とは、ドネ(Jean−Baptiste Donnet)らがその著書「カーボンブラック」(1978年5月1日、株式会社講談社発行)にて定義しているように、カーボンブラックのような基質に対する有機化合物の不可逆的な付加のことである。
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
(フェレ径)
本発明のカーボンブラックは、フェレ径が10〜50nmの粒子を個数基準で50%以上含有することが特徴である。
【0025】
ここでフェレ径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影されたカーボンブラック粒子の任意の一方向における最大長さを表す。最大長さとは、上記任意の一方向に対して垂直で、粒子の外径に接する2本の平行線を引く場合の平行線間の距離をいう。
【0026】
フェレ径の測定対象は、安定に存在するカーボンブラックの一次粒子と二次粒子である。凝集体として存在するカーボンブラックの場合は、その凝集体が測定の対象となり、凝集体中の基本粒子を計測するものではない。
【0027】
カーボンブラックのフェレ径をこの範囲に制御するには、凝集体として存在する原料カーボンブラックの基本粒子径が上記の範囲に入るものを適宜選択して処理を行うことや、凝集体を一次粒子に分断する製造時の条件を変更することで達成することができる。
【0028】
このフェレ径を求めるときは、走査型電子顕微鏡(SEM)により、10万倍に拡大して撮影し、算出する。なお、樹脂等の成型物からカーボンブラックのフェレ径を求める場合は透過型電子顕微鏡(TEM)により10万倍に拡大して撮影し、算出してもよい。
【0029】
本発明のカーボンブラックは、一次粒子が10〜50nmであることが好ましい。つまりフェレ径10〜50nmのカーボンブラック粒子とは、一次粒子か、もしくは2〜5個の一次粒子が凝集した状態のことである。
【0030】
(粒子の割合)
本発明のカーボンブラックは、フェレ径が10〜50nmの粒子を個数基準で50%以上含有する。好ましくは65%以上、より好ましくは80%以上である。上限は100%である。これらの割合は、適用する工業分野によって好適な割合が変わるが、一次粒子の存在割合が多いほど、適用する工業分野での製品の性能を良好にすることが可能となる。一次粒子の割合を測定するときは、上述の電子顕微鏡を用いて同様に行うが、測定粒子数はカーボンブラック粒子1000個中に存在する一次粒子をカウントして計算する。
【0031】
(均一にグラフト化されたカーボンブラック)
本発明のカーボンブラックは、後述する活性遊離基を有するかまたは生成することができる有機化合物でその表面が均一にグラフト化されている。有機化合物の分解物でグラフト化されていることは、グラフト化処理後のカーボンブラックをTof−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)で測定したとき、元の有機物の質量数に対応する二次イオンスペクトルピークが観察されず、分解されたピークのみが観察されることで分かる。ここで、均一にグラフト化されているとは、カーボンブラック粒子個々の間で実質的に差異がないだけでなく、一つの粒子表面全域に有機化合物の分解物がグラフト化していることをを意味する。
【0032】
この粒子個々のグラフト均一化を測定する方法としては、走査型プローブ顕微鏡のコンタクト電流測定(Contact Current Mode)を用いて、個々の粒子表面の電流値を測定する方法がある。カーボンブラック表面が均一にグラフト化されている場合には、グラフト化されていない場合の平均コンタクト電流値を100としたときに粒子表面全域で30以下の相対電流値を示す。一つの粒子表面上のグラフト化率が上がるとコンタクト電流値は低下する。本発明では、均一にグラフト化されているとは、走査型プローブ顕微鏡を用いて個々の粒子表面のコンタクト電流(Contact Current)を測定し、グラフト化されていない粒子の平均コンタクト電流値を100としたときの相対電流値が粒子表面全域で30を超えない粒子が、全粒子中で80%以上存在することであり、好ましくは90%以上存在する場合である。
【0033】
このような構成をとることにより、インクジェット用インクを作製した場合でも安定な分散液を得ることができる。
【0034】
(カーボンブラックの製造方法)
本発明のカーボンブラックの製造方法について説明する。
【0035】
本発明で使用できる好適な製造方法としては、活性遊離基を有するか、または生成することができる有機化合物で原料カーボンブラックの表面をグラフト化する前に、予め有機化合物と原料カーボンブラックを均一に混合しておき、その後グラフト化を行うものである。
【0036】
グラフト化する前に、予め均一に混合しておく方法とは、原料カーボンブラック表面への有機化合物のグラフト化が起こらない条件、例えば有機化合物の融点以下で混合したり、機械的せん断力がかからない条件で混合することであり、湿式混合でも乾式混合でもどちらでもよい。原料カーボンブラックの微粒化とグラフト化を簡便に行うためには、乾式混合が好ましい。
【0037】
乾式で機械的せん断力がかからない混合とは、例えばV型混合機(例えば、株式会社三喜製作所製VM−10)やリボンミキサー(例えば、槇野産業株式会社製マキノ式リボンミキサー)のようなせん断力のかからない混合機を使用してもよいし、後述する機械的せん断力を与える装置で、投入量、回転速度をコントロールしてせん断力がかからないようにして混合してもよい。投入量や回転数は装置やローター形状等により異なるが、概ね軸トルクとして50N・m以下であればせん断力がかからない。また、例えば乾式で機械的せん断力を加えないで均一混合する場合には、添加する有機化合物の融点以下にすることが好ましい。融点以上にすると原料カーボンブラックとの間に粘度が生じ、それに伴いせん断力が発生して部分的にグラフト化が進行し、不均一化が起こってしまう。
【0038】
表面グラフト化が起こらない状態で均一混合を行い、好ましくは機械的せん断力を加えることで粒子間で均一にグラフト化が起こり、良好な分散性、製造ロットごとのバラツキの少ない表面処理したカーボンブラックを得ることができる。
【0039】
上記のように、グラフト化前に均一混合された原料カーボンブラック凝集体と活性遊離基を有するか、または生成することができる有機化合物を、好ましくは有機化合物の融点以上で機械的剪断力を付与することによって、カーボンブラックがフェレ径10〜50nmに分散され、表面が活性化され、さらに、有機化合物自体も剪断力にて分解、活性化され、いわゆるラジカル化された状態となりやすく、結果として原料カーボンブラック表面に有機化合物が均一にグラフト化される。
【0040】
機械的剪断力を与える装置としては、ポリラボシステムミキサ(サーモエレクトロン社製)、リファイナ、単軸押出機、二軸押出機、遊星軸押出機、錐形軸押出機、連続混練機、密封ミキサー、Z形ニーダー等を使用することができる。また、これら装置を使用することにより、効果的、かつ、連続的に機械的エネルギーを粒子全体に均一に付与することができるため、グラフト化を効率的、かつ、均一に行うことができる点で好ましい。
【0041】
上記装置を使用する場合には、混合機中の混合ゾーンの混合物充満度が80%以上となるように設定することが好ましい。充満度は下記の式により求められる。
【0042】
Z=Q/A
Z:充満度(%) Q:充填物体積(m2) A:混合部空隙量(m2
すなわち、混合時に高い充満状態とすることで機械的な剪断力を粒子全体に均一に付与することができる。この充満度が低い場合には剪断力の伝達が不十分となり、原料カーボンブラックや有機化合物の活性を高くすることが難しく、グラフト化が進行しにくくなる可能性がある。
【0043】
混合時は混合ゾーンの温度を、上記有機化合物の融点〜350℃、さらに融点+10℃から300℃とすることが好ましい。なお、複数種類の有機化合物が混合される場合は最も融点の高い有機化合物の融点に対して温度設定がされることが好ましい。
【0044】
せん断力を与える時間は、所望の表面処理の程度にもよるが、15秒から120分程度である。好ましくは1〜100分である。
【0045】
表面処理に使用する有機化合物は、原料カーボンブラック100質量部に対して、50〜150質量部の範囲内で添加して表面処理工程を行うことが好ましい。このような範囲で有機化合物を添加することにより、原料カーボンブラック表面に均一に有機化合物を付着させることができ、さらに、粒子が再度凝集することを効果的に防止できる。
【0046】
機械的剪断力の作用だけで十分に活性遊離基が形成できない場合には、超音波、マイクロ波、紫外線、赤外線等の電磁波の照射、オゾンの作用、または酸化剤の作用において、活性遊離基数を補完することができる。
【0047】
(原料カーボンブラック)
本発明に使用可能な原料カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等、市販のものが使用できるが、凝集体構造を有しているカーボンブラックである。この凝集体構造とは、基本粒子である一次粒子が凝集して形成されて、ストラクチャ構造を有するもので、いわゆる一次粒子の凝集体からなる、二次粒子化されたカーボンブラックを意味する。また、原料カーボンブラックへの有機化合物の表面処理やグラフト反応を円滑にするために、原料カーボンブラックの表面に十分なカルボキシル基、キノン基、フェノール基やラクトン基等の酸素含有官能基及び層面周縁の活発な水素原子が多く存在していることが望ましい。そのため、本発明で使用される原料カーボンブラックについて、酸素含有量が0.1%以上、水素含有量が0.2%以上であることが好ましい。また、酸素含有量が10%以下、水素含有量が1%以下であることが好ましい。ここで酸素含有量、水素含有量はそれぞれ、酸素元素数または水素元素数を全元素数(炭素、酸素、水素の元素の和)で割った値で求められる。
【0048】
このような範囲を選択することにより、原料カーボンブラックへの有機化合物の表面処理やグラフト反応を円滑にすることができる。
【0049】
また、上述の範囲を選択することによって、遊離基を備えているか、または生成することができる有機化合物を確実にグラフト化することができ、再凝集防止効果が高くなる。原料カーボンブラック表面の酸素含有量及び水素含有量が前記範囲を下回る場合には、加熱空気酸化やオゾン酸化等の気相酸化、または硝酸、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウム、臭素水等による液相酸化処理により原料カーボンブラックの酸素含有量及び水素含有量を増加させてもよい。
【0050】
(遊離基を備えているか、または生成することができる有機化合物)
原料カーボンブラックを表面処理するために使用する有機化合物は、遊離基を備えているか、または生成することができる有機化合物である。
【0051】
遊離基を生成することができる有機化合物において、遊離基を生成する条件は特に制限がないが、本発明で使用される有機化合物の場合は、遊離基を有している状態となることが必要である。当該有機化合物は、特にせん断力等により化合物の構造が断裂された結果、遊離基を生成可能な化合物が好ましい。
【0052】
本発明で使用される遊離基を備えているか、または生成することができる有機化合物については、その分子量が50以上であることが好ましく、上限としては1500であることが好ましい。分子量として1500以下のものとすることにより、過度な表面改質とならず、表面にグラフト化された有機化合物の特性が過度に発揮されることなく、原料カーボンブラック自体の保有する特性を十分に発揮させることができる。
【0053】
前記有機化合物の例としては、フェノール系化合物、アミン系化合物、リン酸エステル系化合物、チオエーテル系化合物の原料カーボンブラック表面の遊離基を捕捉することができる有機化合物を挙げることができる。
【0054】
これらの有機化合物としては、いわゆる酸化防止剤、光安定剤が好ましい。中でも、フェノール系化合物、アミン系化合物が好ましい。さらに好ましくは、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン系を挙げることができる。また、リン酸エステル系化合物、チオール系化合物、チオエーテル系化合物の酸化防止剤も使用することができる。これらの有機化合物は複数組み合わせて使用してもよい。その組み合わせにより、表面処理の特性を種々発揮させることもできる。
【0055】
前記有機化合物の具体例を以下に示す。
【0056】
【化1】

【0057】
【化2】

【0058】
【化3】

【0059】
【化4】

【0060】
【化5】

【0061】
【化6】

【0062】
【化7】

【0063】
【化8】

【0064】
【化9】

【0065】
【化10】

【0066】
【化11】

【0067】
【化12】

【0068】
【化13】

【0069】
【化14】

【0070】
【化15】

【0071】
【化16】

【0072】
【化17】

【0073】
【化18】

【0074】
【化19】

【0075】
【化20】

【0076】
【化21】

【0077】
【化22】

【0078】
【化23】

【0079】
【化24】

【0080】
【化25】

【0081】
【化26】

【0082】
これらのほとんどの化合物は市販されており、容易に入手できる。
【0083】
なお、本発明のカーボンブラックを含有するさまざまな分野の組成物を得るには、公知の各種の方法を採用して所望の組成物を調製することができる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」を表す。
【0085】
実施例
〔カーボンブラックの作製〕
(カーボンブラック1の作製)
カーボンブラック#2600(平均一次粒子径=13nm、三菱化学株式会社製)1.67kgと有機化合物48(分子量=741、融点=115℃)1.33kgを株式会社三喜製作所製V型混合器VM−10に投入し、常温で37rpmで15分間混合した。ついで、前記混合物を二軸押し出し機PCM−30(池貝製作所製:連続式に混練できる構成とはせず、出口を密閉し2本のスクリューにて攪拌することができるように改造したもの)に充満度が94%となるように投入し、160℃に加熱した状態で、30分間攪拌することでグラフト化を行い、カーボンブラック1を得た。
【0086】
(カーボンブラック2の作製)
カーボンブラック1の作製において、V型混合機を、二軸押し出し機PCM−30に代え、充満度50%で、油性インク1と同じ比率になるように#2600と有機化合物48を投入し、140℃に加熱した状態で5分間攪拌を行った。その後、加熱温度を160℃に上げ、30分間攪拌することでグラフト化を行い、カーボンブラック2を得た。
【0087】
(カーボンブラック3の作製)
カーボンブラック1の作製において、有機化合物48を有機化合物44(分子量=775、融点=244℃)に代え、二軸押し出し機の設定温度を280℃に変更した以外は同様にしてグラフト化を行い、カーボンブラック3を得た。
【0088】
(カーボンブラック4〜13の作製)
カーボンブラック1の作製において、原料カーボンブラックの種類、有機化合物の種類、原料カーボンブラックと有機化合物の投入量比、グラフト化温度を表1のように変更した以外は同様にして、それぞれカーボンブラック4〜13を作製した。
【0089】
(カーボンブラック14の作製)
カーボンブラック1の作製において、V型混合機をプラネタリーミキサーPVM−50(浅田鉄工株式会社製)に代えた以外は同様にしてグラフト化を行い、カーボンブラック14を得た。
【0090】
(カーボンブラック15の作製)
カーボンブラック1の作製において、V型混合機による均一混合を行わなかった以外は同様にしてグラフト化を行い、カーボンブラック15を得た。
【0091】
(カーボンブラック16の作製)
カーボンブラック1の作製において、V型混合機の回転数を10rpm、混合時間を5分に変更した。混合後、カーボンブラックと有機化合物は十分に混ざり合ってなく、ムラが観察された。その後、カーボンブラック1と同様に二軸押し出し機を用いてグラフト化を行い、カーボンブラック16を得た。
【0092】
(カーボンブラック17の作製)
カーボンブラック14と同様にして、プラネタリーミキサーPVM−50(浅田鉄工株式会社製)を用いて常温で15分間均一混合を行った後、容器のジャケット温度を160℃(有機化合物48の融点=115℃)に加熱してさらに30分間攪拌することでグラフト化を行い、カーボンブラック17を得た。
【0093】
〔カーボンブラックの評価〕
作製したカーボンブラックについて、下記方法で小粒子比率、均一グラフト化率を測定、評価した。
【0094】
また、下記方法で油性インクを作製し、カーボンブラックの分散性の指標としてインク濃度を測定した。カーボンブラックの分散性が高いとインク濃度が高い。
【0095】
評価の結果を表1に示す。
【0096】
(小粒子比率)
走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影したカーボンブラック粒子1000個について、フェレ径を測定し、フェレ径が10〜50nmの粒子の比率(%)を小粒子比率とした。
【0097】
(均一グラフト化率)
走査型プローブ顕微鏡SPI3800N及び環境制御型ユニットSPA300HV(セイコーインスツルメンツ社製)を用いて、カーボンブラック粒子100個について、コンタクト電流を測定し、処理前の平均電流値を100としたときの相対電流値が粒子表面全域で30以下である粒子の比率を均一グラフト化率とした。
【0098】
(油性インクの作製)
作製したカーボンブラックを12部、顔料分散剤であるアジスパーPB822(味の素ファインテクノ社製)6部、N−メチルピロリドン6部、ジエチレングリコールジエチルエーテル76部を混合し、直径0.5mmのジルコニアビーズを体積率で60%充填した横型ビーズミル システムゼータミニ(アシザワ社製)を用いて分散し、その後ジルコニアビーズを除去してカーボンブラック分散液を得た。
【0099】
上記カーボンブラック分散液33部にN−メチルピロリドン4部、ジエチレングリコールジエチルエーテル58部、硫酸カリウム塩含有塩化ビニル樹脂MR110(日本ゼオン社製)5部を加えた後、0.8μmフィルターにより濾過して油性インクを得た。カーボンブラック1〜21からそれぞれ油性インク1〜21を得た。
【0100】
(インク濃度)
インクをワイヤーバーNo.7で白光沢塩ビシートMD3/White/GL(メタマーク社製)に塗布し、一日間自然乾燥した後、濃度計(X−Rite社製X−Rite938)を用いて反射濃度の測定を行った。
【0101】
【表1】

【0102】
表1から、グラフト化前に、活性遊離基を有するか、または生成することができる有機化合物と原料カーボンブラックを均一に混合することで、フェレ径が10〜50nmのカーボンブラックが50%存在し、かつ均一にグラフト化したカーボンブラックが得られることが分かった。これらの本発明のカーボンブラックは分散性、流動性に優れている。さらに、本発明のカーボンブラックを用いて高濃度の油性インクが得られることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性遊離基を有するか、または生成することができる有機化合物の分解物が原料カーボンブラックの表面に均一にグラフト化され、均一にグラフト化されている粒子が個数基準で80%以上存在し、かつフェレ径が10〜50nmの粒子を個数基準で50%以上含有することを特徴とするカーボンブラック。
ただし、均一にグラフト化されているとは、走査型プローブ顕微鏡を用いて個々の粒子表面のコンタクト電流(Contact Current)を測定し、グラフト化されていない粒子の平均コンタクト電流値を100としたときの相対電流値が粒子表面全域で30を超えないことをいう。
【請求項2】
前記有機化合物が、少なくともフェノール系化合物及び/またはアミン系化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のカーボンブラック。
【請求項3】
活性遊離基を有するか、または生成することができる有機化合物の分解物が原料カーボンブラックの表面に均一にグラフト化され、均一にグラフト化されている粒子が個数基準で80%以上存在し、かつフェレ径が10〜50nmの粒子を個数基準で50%以上含有するカーボンブラックの製造方法において、グラフト化する前に前記有機化合物と前記原料カーボンブラックを予め均一に混合することを特徴とするカーボンブラックの製造方法。
ただし、均一にグラフト化されているとは、走査型プローブ顕微鏡を用いて個々の粒子表面のコンタクト電流(Contact Current)を測定し、グラフト化されていない粒子の平均コンタクト電流値がを100としたときの相対電流値が粒子表面全域で30を超えないことをいう。
【請求項4】
前記グラフト化する前の均一混合を、前記有機化合物の融点以下で行い、さらに均一混合後に前記有機化合物の融点〜350℃の温度で機械的せん断力を加えることにより原料カーボンブラックの表面に前記有機化合物の分解物をグラフト化することを特徴とする請求項3に記載のカーボンブラックの製造方法。
【請求項5】
前記有機化合物が、少なくともフェノール系化合物及び/またはアミン系化合物を含むことを特徴とする請求項3または4に記載のカーボンブラックの製造方法。
【請求項6】
前記原料カーボンブラック100質量部に対して、前記有機化合物50〜150質量部を添加することを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載のカーボンブラックの製造方法。

【公開番号】特開2008−143930(P2008−143930A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329191(P2006−329191)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】