説明

カーボン・ナノチューブ及びフラーレンと分子クリップとの錯体とその使用

【課題】 分子クリップとの非共有結合性のπ−π相互作用による、直径に応じたカーボン・ナノチューブ又はフラーレンの分離を提供すること。
【解決手段】 分子クリップは、ポリアセンとさまざまなジエノフィルとのディールス−アルダー反応によって調製される。カーボン・ナノチューブと分子クリップとのπ−π錯体は、基板上でのカーボン・ナノチューブ及びフラーレンの選択的配置にも用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カーボン・ナノチューブ又はフラーレンと、芳香族側鎖を含む分子クリップとの錯体に関する。本開示はまた、水又は有機溶媒中にこれらの錯体を含む安定化された溶液にも関する。本開示は、カーボン・ナノチューブ及びフラーレンの直径に応じた分離のためのこれらの錯体の使用、並びに特定の金属又は金属酸化物表面上でのこれらの錯体の自己集合にも関係する。本開示はまた、カーボン・ナノチューブ及びフラーレンの選択的配置のための分子クリップ−CNT錯体の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
カーボン・ナノチューブ(CNT)は、電界効果トランジスタ(FET)の「チャネル」材料として使用することができる半導体性又は金属性の材料である。CNT FETを製造する最も一般的な方法の1つは、懸濁液から酸化物薄膜上にナノチューブを堆積することから始まる。その後、ソース及びドレイン・コンタクトが、ナノチューブ上にリソグラフィによって形成される。酸化物層はゲート誘電体であり、高度にドープされたバルクSi基板がデバイスのバックゲートとなる。CNT FETの略図が、図1に示される。酸化物表面上へのCNTの堆積と、それに続くソース及びドレイン・コンタクトのリソグラフィによるパターン形成は、単一CNT電界効果トランジスタ(又はCNTのマット)の構築に首尾よく用いられている。
【0003】
カーボン・ナノチューブの溶液堆積に対する第1の必要条件は、その有機溶媒又は水溶液中にカーボン・ナノチューブを含む安定な溶液である。水中で有機石けん、例えばドデシルスルホン酸ナトリウムを用いた、水溶液中でのカーボン・ナノチューブの分散体についての多くの例がある。水性ドデシルスルホン酸ナトリウム(DSD)中にカーボン・ナノチューブを含む高度に安定な溶液が報告されているが、どの電子デバイスにおけるナトリウム塩の存在も、デバイス性能にとって不利益な有害な電気的影響をもたらす。
【0004】
カーボン・ナノチューブの安定した分散体を形成する他の方法は、置換アリールジアゾニウム塩を用いた炭素−炭素結合形成を通じた、長鎖有機化合物によるCNTの官能基化による。炭素−炭素結合形成を介したCNTの官能基化は、CNTの共役構造を破壊し、その結果、電荷の著しい散乱を示すCNTデバイスをもたらす。これらのCNTは、有機物汚染除去が極めて高い温度(500〜600℃)において除去されない限り、半導体又は金属として用いることができない。
【0005】
電子的用途におけるCNTの適用が直面する別の問題は、CNT直径の不均一性と、それゆえの、公知の方法によって調製された試料における半導体性CNTのバンド・ギャップの不均一性である。電子的用途のためには、再現性のある電子特性を有するデバイスを得るために、サイズ(直径)の分布が狭いCNTを使用することが最も望ましい。
【特許文献1】米国特許出願公開2003/0144562 A1
【特許文献2】特許出願YOR920050585US1
【非特許文献1】Kaerner,Frank Gerrit他, Chemistry-A EuropeanJournal, 2005, 11, 3363
【非特許文献2】R. J. M. Nolte他, J. Am. Chem. Soc.,1993,115, 8999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、CNTの官能基化、分散、分離及び配置に関して従来技術が直面する問題に取り組む。特に、本開示の1つの態様は、カーボン・ナノチューブ(CNT)及びフラーレンと、本明細書において「分子クリップ」と称するポリアセンとジエノフィルとのディールス−アルダー付加体とのπ−π錯体に関する。
【0007】
本開示によるCNT及びフラーレンの錯体は、水性溶媒又は有機溶媒中でCNT及びフラーレンの安定な分散体を形成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の1つの態様は、CNT又はフラーレンと分子クリップとの錯形成による、サイズ(直径)に応じたカーボン・ナノチューブ又はフラーレンの分離、並びに安定な錯体溶液の形成である。
【0009】
本開示の別の態様は、CNT又はフラーレンと分子クリップとの錯体の分散体を酸化物又は金属酸化物、金属又は半導体表面のような基板上に堆積して、基板上にCNT又はフラーレンの単層を形成することに関する。
【0010】
本開示はまた、基板と、上記のCNT−又はフラーレン−分子クリップ錯体の層とを備えた物品に関する。
【0011】
本開示のさらなる態様は、上記のゲスト−ホスト錯体の層を基板上に堆積することを含む、物品の製造に関する。
【0012】
本開示の別の態様は、上記の錯体を基板上に選択的に配置することに関係する。
【0013】
本開示のさらなる態様は、上記のCNT−分子クリップ錯体を基板上に選択的に堆積し、その後、電気コンタクトを堆積することを含む、電子デバイスの製造に関係する。典型的な実施例はFETである。逆に、本開示の態様は、電気コンタクト、CNT−分子クリップ錯体を基板上に堆積することを含む電子デバイスの製造に関係し、実施例は同様にFETである。
【0014】
本開示の他の目的及び利点は、発明を実施するための最良の形態と考えられるものの単なる例示として、好ましい実施形態にのみについて図示及び説明される以下の詳細な説明から、当業者には容易に明らかになるであろう。理解されるように、本開示は、他の、異なる実施形態が可能であり、そのいくつかの細部は、本開示から逸脱することなく、さまざまな明白な点において改変することができる。したがって、本説明は、本質的に例示とみなされるべきであり、限定とみなされるべきではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本開示は、分子クリップとカーボン・ナノチューブ(CNT)及びフラーレンとのπ−π錯体を提供する。本開示はまた、可溶性分子クリップとの錯形成によって、溶媒中のCNTの安定な分散体を調製する方法も提供する。本開示はまた、溶媒中のCNT又はフラーレンの安定な分散体を用いた、直径に応じたカーボン・ナノチューブ又はフラーレンの分離方法も提供する。特に、本開示は、CNTと、1〜3個の芳香環を有するポリアセン側鎖を含む分子クリップとのπ−π錯体を提供する。
【0016】
適切なポリアセンの例は、以下の構造によって表される。
【化1】

構造1−構造4における共通の特徴は、すべての分子が、100°〜125°の範囲の2面角を有する「V」字状であり、その2本の側鎖中に芳香環を含むことである。2本の側鎖の末端環の間の距離は、各側鎖中の芳香環の数に応じて0.5nmから2.0nmの範囲である。これらの分子中の芳香環の存在により、これらの化合物がカーボン・ナノチューブ及びフラーレンとのπ−π錯体を形成することと、その結果、分子クリップとして作用することが可能になる。例として、一般式4で示される分子クリップは、ポリアセンとジエノフィルとのディールス−アルダー反応によって容易に調製される。構造4で表される分子クリップの調製に用いられるポリアセンは、アントラセン5、テトラセン6、ペンタセン7、ジベンゾアントラセン8、ヘキサセン9、及びヘプタセン10から選択される。
【化2】

分子クリップのさらなる例は、上記化合物5−10のポリアセンであり、上記化合物の各末端環は、化合物11−14で示されるように1個から2個の窒素原子を含むこともできる。
【化3】

【0017】
、R、R、R、R及びRのそれぞれは、水素、アルキル、シラニル、ハロ及びアルコキシからなる群から独立して選択される。
【0018】
「アルキル」という用語は、1個から22個までの炭素原子、さらに典型的には1個から12個までの炭素原子、さらになお典型的には1個から4個までの炭素原子の、直鎖又は分岐鎖の非置換炭化水素基のことを表す。
【0019】
「ハロゲン」又は「ハロ」という用語は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素のことを表す。
【0020】
アルコキシ基は、典型的には酸素と、1個から22個までの炭素原子とを含み、さらに典型的には1〜12個の炭素原子を含み、さらになお典型的には1〜4個の炭素原子を含む。
【0021】
アルキル基の例は、メチル、エチル及びプロピルを含む。分岐アルキル基の例は、イソプロピル及びt−ブチルを含む。
【0022】
アルコキシ基の例は、メトキシ、エトキシ及びプロポキシを含む。
【0023】
「シクロアルキル」又は「脂環式」という用語は、随意に置換された、飽和環状炭化水素環系のことを表し、典型的には1個から3個の環を含み、環あたり3個から7個の炭素を含み、環はさらに不飽和C−C炭素環式環と縮合することができる。例示的な基は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロデシル、シクロドデシル及びアダマンチルを含む。
【0024】
「分子クリップ」を形成するために、ポリアセンは、さまざまなジエノフィルとの反応によって、そのディールス−アルダー付加体に転換される。本開示に関して適切なジエノフィルは、以下の構造から選択される。
【化4】

しかし、上記化合物に限定されない。ジエノフィル15−19のいずれかと、ポリアセン5−14のいずれかとのディールス−アルダー反応は、下記の一般式20の化合物をもたらし、式中、X及びZは、−CH又はO、N若しくはSのヘテロ原子から独立して選択され、m及びnは、それぞれ独立して0から3までの範囲であり、R及びR’は、脂環式環又は1〜12個の炭素原子のアルキル鎖のいずれかであり、末端環は、1個から2個のN原子を含むことができる。
【化5】

【0025】
本発明において用いられる分子クリップの別のクラスは、以前に報告(非特許文献1)された構造3の化合物に基づくものであり、電子不足化合物との電荷移動を通じてゲスト−ホスト構造を形成する。R及びR1は、H又は1〜12個の炭素原子のアルキル基、1〜12個の炭素原子のアルコキシ基から独立して選択され、Xは、O、S、NH、−NR基から選択される。分子クリップのさらに別のクラスは、化合物2によって示され、グリコウリル部分の両側が芳香族側鎖に結合して、かご型構造を形成する(非特許文献2)。
【0026】
ポリアセンのディールス−アルダー付加体は、酸化物、金属酸化物、金属又は半導体表面のような基板上で自己集合することが可能な第2の官能基を含むことができる。特定の例は、化合物21に示されるような、ペンタセンと置換マレイミドとのディールス−アルダー付加体である。
【化6】

【0027】
本開示に用いられるディールス−アルダー付加体は、便宜上、「分子クリップ」と呼ぶことができ、Afzali-Ardakami他に与えられ、本出願の出願人であるインターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーションに譲渡され、その全開示が引用により本明細書に組み入れられる特許文献1に開示されたプロセスによって合成することができる。
【0028】
分子クリップの例として、図5は、N−アルキル化マレイミド−ペンタセン付加体の調製のための合成スキームを示す。このスキームにおいて、第1のステップで、ペンタセンを、ジクロロベンゼン、キシレン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのような高沸点溶媒中で、高温(160〜180℃)にてマレイミドと反応させる。次に、この付加体を、トリフェニルホスフィン及びアゾジカルボン酸ジエチルの存在下で、光延反応で長鎖アルコールと反応させて、アルキル化付加体を形成する。別の例(図6参照)において、ペンタセンをルイス酸触媒の存在下でN−スルフィニルアミドと反応させて、有機溶媒に可溶な、CNT上にクランプすることができる付加体を形成する。選択的配置のための付加的な官能基を有する分子クランプの調製は、図7に示される合成スキームで表される。
【0029】
ディールス−アルダー付加体は、典型的には、二環式の中央環に結合する芳香族環が約120°の2面角を形成する構造を有する。本発明で用いられる特定のポリアセン及びジエノフィルに応じて、ポリアセン中の環の数が増えるにつれて外側環の間の距離が増大する。このことが次に、付加体と、直径が異なるカーボン・ナノチューブ又はフラーレンとの重なりの程度を変化させることになる。例えば、アントラセン−マレイミド付加体22は、約120°の2面角を有し、外側環の間の距離は約0.5nmであるのに対し、ペンタセン−マレイミド付加体23では、二面角は同様に約120°であるが、外側環の間の距離は約1.0nmまで増大する。そのため、化合物22は、小さい直径(0.4〜0.7nm)のCNTとの有意な重なりの機会がより多く、付加体23は、より大きな直径(約1〜1.3nm)のCNTとπ−π重なりを形成することができる。
【0030】
本開示で用いられるディールス−アルダー付加体は、少なくとも2個(例えば化合物22)の芳香族環の中にπ軌道を有する3次元構造を有し、これは、約0.5ナノメートルから約2.5ナノメートル、より典型的には約0.5ナノメートルから約1.6ナノメートルの範囲の直径を有するナノチューブ又はフラーレンをCNT又はフラーレンとのπ重なりによって保持するための分子クリップ(図3参照)として働くのに役立つ。それによって、付加体は、分子クリップとのπ−π重なりを形成していないナノチューブ又はフラーレンから溶解度パラメータを変化させる。この溶解度の変化は、直径の異なるカーボン・ナノチューブ又はフラーレンの分離に用いられる。
【化7】

【0031】
したがって、本開示の別の態様は、CNTの直径に応じたカーボン・ナノチューブのサイズ選択的分離のための方法を提供する。この目的のために、カーボン・ナノチューブの粉末が有機溶媒又は水中にこれらの付加体を含む溶液に加えられ、この混合物は、数時間、超音波処理され、その時間中に、特定の直径を有するナノチューブ試料の一部がπ−π重なりを通じて付加体によってクランプされ、溶液中に分散される。付加体によってクランプされなかったナノチューブは溶媒から沈降し、デカンテーションによって溶液から分離することができる。付加体に対するナノチューブの重量比は、典型的には約1:1から約1:100であり、さらに典型的には約1:2から約1:20である。典型的な例において、約5mgのナノチューブの粉末が約50mgから約60mgの付加体と共に使用される。
【0032】
例として、安定な分散体の形成及びサイズ選択的分離のために、カーボン・ナノチューブが図5に示されるペンタセン付加体の溶液に加えられ、数時間、超音波処理される。図4に示されるように、付加体との十分なπ−π相互作用を有する直径を有するカーボン・ナノチューブの一部が溶媒中に分散され、残りのCNTは、遠心分離後に沈降する。
【0033】
本開示の別の態様は、金属、半導体、又は金属酸化物の表面上でのCNTの選択的配置である。カーボン・ナノチューブの選択的配置は、−SH、−NC、−PO、−CONHOH、又は−COHを含む少なくとも1つの末端基を有する有機化合物によるCNTの共有結合的な官能基化を通じて達成することができる。(官能基化によるカーボン・ナノチューブの選択的配置;Afzali-Ardakani他(特許文献2))が報告されている。本発明において、共有結合的に官能基化された従来技術のCNTは、π−π重なりによって互いに結合されたCNT−分子クリップで置き換えられる。この目的のために、一般式21の化合物が選択された形態の付加体であり、これは、少なくとも1つの、金属(Au、Pd、Pt、Cuなど)又は半導体(GaAs、Si、CdSeなど)の表面上での配置のためのチオール(−SH)又はイソシアニド(−NC)(R=−SH又は−NC)官能基、或いは酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、又は酸化チタンなどの金属酸化物の表面上での配置のための−COH、−CONHOH、又は−PO(OH)の有機酸官能基を含む。例えば図7を参照のこと。このアプローチにおいて、CNTは、化合物21のような付加体の溶液中で分散され、適切な直径を有するCNTの一部が付加体によってクランプされるまで、超音波処理される。次に、この混合物は、クランプされなかったため溶液から出てきたCNTの一部を分離するために、遠心分離される。その後、上澄み液は、例えば金属酸化物表面上でのCNTの選択的配置のために用いられる。図8及び図9は、金属酸化物表面上でのCNT−付加体錯体の選択的配置の概略を示す。このプロセスは、パターン形成された金属酸化物表面を有する基板を溶液中に浸漬するステップと、ある時間、典型的には約10分から約24時間の後に溶媒で除去及び洗浄するステップとを伴う。このプロセスにおいて、カーボン・ナノチューブは、適切な長さの時間で付加体によって錯形成し、溶媒によって洗浄され、乾燥されると、付加体と錯形成したナノチューブが金属酸化物領域上に選択的に集合する。
【0034】
カーボン・ナノチューブ又はフラーレンの選択的配置のためのさらに別のアプローチにおいては、末端基に官能基を有する分子クリップが有機溶媒から特定の表面(官能基の性質に応じて金属又は金属酸化物)上に堆積され、その表面上に付加体の単層を形成し、次いで、その基板は、液体中にCNT又はフラーレンを含む分散体の中に浸漬される。このアプローチにおいて、特定の直径のCNT又はフラーレンが分子クリップに固定され、残りを表面から洗い流すことができる。
【0035】
以下の非限定的な実施例は、本開示をさらに例証するために提示される。
【実施例1】
【0036】
ペンタセン−マレイミド付加体(5c):ジクロロベンゼン4mL中にペンタセン(287mg、1mモル)及びマレイミド(1mモル)を含む懸濁液を、160℃で4時間、加熱する。この混合物を室温に冷却し、沈殿をろ過し、トルエンを用いて洗浄し、乾燥させる。ジクロロベンゼンからの再結晶により、白色の針状物としてペンタセン−マレイミド付加体の純粋な試料を得る。
【0037】
N−(11−ブロモウンデシル)マレイミド−ペンタセン付加体(5d):ペンタセン−マレイミド付加体(5c)(375mg、1mモル)を、無水テトラヒドロフラン40mL中にトリフェニルホスフィン(393mg、1.5mモル)及び11−ブロモ−1−ウンデカノール(375mg、1.5mモル)を含む溶液に加える。この混合物に、無水THF10mL中にアゾジカルボン酸ジイソプロピル(300mg、1.5mモル)を含む溶液を窒素気流下で1滴ずつ加える。添加完了後、溶液を室温で18時間攪拌する。溶媒を減圧下で蒸発させ、残渣をジエチルエーテルで滴定し、沈殿をろ過し、1:1のエーテル−ヘキサンを用いて洗浄し、乾燥させる。ベンゼンからの結晶化により、11−ブロモウンデシルマレイミド−ペンタセン付加体5dの純粋な試料を得る。
【実施例2】
【0038】
サイズに応じたナノチューブの分離。クロロホルム15mL中に付加体5d(60mg)を含む溶液にカーボン・ナノチューブ2.5mgを懸濁させ、その混合物を90分間、超音波処理する。超音波処理の後、混合物を30分間、遠心分離し、暗色溶液を注意深く残渣からデカントする。上澄み液中のCNTのラマン分光法は、1.3nmより大きい直径を有するナノチューブの大部分が分離され、遠心分離中に溶液から沈殿したことを示す。図10を参照のこと。
【実施例3】
【0039】
付加体5f:ペンタセン−N−アルキルマレイミド付加体5d(500mg)をトリエチルホスフェート5mLに加え、この溶液を160℃で4時間、窒素下で加熱する。溶液を室温に冷却し、過剰なトリエチルホスフェートを減圧下で蒸発させてホスホネート5eを得、これを無水ジクロロメタン10mL中に溶解し、窒素下でブロモトリメチルシラン4mモルで処理する。溶液を室温で4時間攪拌し、メタノールと1滴の濃塩酸でクエンチする。沈殿をろ過によって取り出し、メタノール、次いでエーテルで数回洗浄し、乾燥させて、ホスホン酸含有付加体5fを得る。
【0040】
本明細書で用いられる「含む」という用語(及びその文法的変化)は、「有する」又は「包含する」という包括的な意味で用いられ、「のみから成る」という排他的な意味で用いられてはいない。本明細書に用いられる「不定冠詞(aという用語)」及び「定冠詞(theという用語)」は、単数形と同様に複数形をも包含するものとして理解される。
【0041】
上述の記載は、本開示を例証し、説明する。さらに、本開示は、本開示の好ましい実施形態のみを示し、説明しているが、上述のように、上記の教示及び/又は関連技術に関する技能若しくは知識に応じて、本明細書で表現された概念の範囲内の変更又は改変が可能であることを理解すべきである。上記の実施形態はさらに、本発明の実施の既知の最良の形態を説明することを意図したものであり、且つ、当業者が本開示を、このような実施形態又は他の実施形態で、本明細書において開示される特定の用途又は使用で必要とされるさまざまな改変と共に利用できるようにするためのものであることを意図している。したがって、本記載は、本発明を本明細書に開示された形態に限定することを意図していない。また、添付の特許請求の範囲は、代替的な実施形態を包含するものとして解釈されることが意図される。
【0042】
本明細書において引用されたすべての刊行物、特許及び特許出願は、いずれかの、及びすべての目的に対して、あたかも個別の各刊行物、特許及び特許出願が具体的に個別に引用により組み入れられていることが示されているかのように、引用により本明細書に組み入れられる。矛盾がある場合は、本開示が優先する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】バックゲート付きカーボン・ナノチューブ電界効果トランジスタの概略的な配置図である。
【図2】本開示による、カーボン・ナノチューブ又はフラーレンとのπ−π錯体の形成のために分子クリップとして用いることができる、ペンタセンのディールス−アルダー付加体の例である。
【図3】ポリアセンのディールス−アルダー付加体とカーボン・ナノチューブ又はフラーレンとのπ−π錯体の略図である。
【図4】分子クリップとしてポリアセンのディールス−アルダー(DA)付加体を用いた、CNT−DA付加体錯体の安定な溶液の調製、及びカーボン・ナノチューブのサイズ選択的分離に関する略図である。
【図5】N−アルキル化マレイミド−ペンタセン付加体の調製に関する合成スキームである。
【図6】本開示で使用されるディールス−アルダー付加体の調製に関する合成スキームである。
【図7】本開示で使用されるディールス−アルダー付加体の調製に関する合成スキームである。
【図8】金属酸化物表面上へのCNT−付加体錯体の選択的配置の概略図である。
【図9】金属酸化物表面上へのCNT−付加体の錯体の選択的配置の概略図である。
【図10】上澄み液中のCNTのラマン・スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン・ナノチューブ又はフラーレンと分子クリップとのπ−π錯体。
【請求項2】
前記分子クリップは、ポリアセンとジエノフィルとのディールス−アルダー付加体である、請求項1に記載の錯体。
【請求項3】
カーボン・ナノチューブの錯体である、請求項1に記載の錯体。
【請求項4】
前記ポリアセンは、
【化1】

【化2】

からなる群から選択され、R、R、R、R、R及びRのそれぞれは、水素、アルキル、シアニル、ハロ及びアルコキシからなる群から独立して選択される、請求項2に記載の錯体。
【請求項5】
前記ポリアセンは、アントラセン、ナフタセン、ペンタセン、ヘキサセン及びヘプタセンからなる群から選択される、請求項2に記載の錯体。
【請求項6】
前記ジエノフィルは、
【化3】

からなる群から選択され、R及びRは、脂環式環又はアルキル基である、請求項2に記載の錯体。
【請求項7】
前記付加体は、ペンタセンとマレイミドとのディールス−アルダー付加体である、請求項2に記載の錯体。
【請求項8】
前記カーボン・ナノチューブ又はフラーレンの付加体に対するモル比は、1:1から1:1000である、請求項1に記載の錯体。
【請求項9】
前記カーボン・ナノチューブ又はフラーレンは、0.5ナノメートルから2.5ナノメートルの直径を有する、請求項1に記載の錯体。
【請求項10】
請求項1に記載のπ−π錯体の水又は有機溶媒中の分散体。
【請求項11】
前記有機溶媒は、クロロホルム、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロベンゼン、N,N−ジメチルホルムアミド、プロピレングリコール及びメチルエーテルアセテートからなる群から選択される、請求項10に記載の分散体。
【請求項12】
カーボン・ナノチューブの錯体である、請求項10に記載の分散体。
【請求項13】
前記ポリアセンは、
【化4】

【化5】

からなる群から選択され、R、R、R、R、R及びRのそれぞれは、水素、アルキル、シアニル、ハロ及びアルコキシからなる群から独立して選択される、請求項10に記載の分散体。
【請求項14】
前記ポリアセンは、アントラセン、ナフタセン、ペンタセン、ヘキサセン及びヘプタセンからなる群から選択される、請求項10に記載の分散体。
【請求項15】
前記ジエノフィルは、
【化6】

からなる群から選択され、R及びRは、脂環式環又はアルキル基である、請求項10に記載の分散体。
【請求項16】
前記付加体は、ペンタセンとマレイミドとのディールス−アルダー付加体である、請求項10に記載の分散体。
【請求項17】
前記カーボン・ナノチューブ又はフラーレンの付加体に対する重量比は、1:1から1:100である、請求項10に記載の分散体。
【請求項18】
前記カーボン・ナノチューブ又はフラーレンは、0.5ナノメートルから2.5ナノメートルの直径を有する、請求項10に記載の分散体。
【請求項19】
請求項1に記載のπ−π錯体の層を基板上に堆積させるステップを含む、物品の製造方法。
【請求項20】
金属又は金属酸化物の基板上に前記錯体を選択的に堆積させるステップを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項10に記載の分散体から前記錯体を堆積させるステップを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
基板上に前記錯体を選択的に堆積させ、次に電気的コンタクトを堆積させることによって、又は電気的コンタクトを備えた基板上に前記錯体を選択的に堆積させることによって、電子デバイスを製造するステップを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記デバイスがFETである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
カーボン・ナノチューブの錯体である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記ポリアセンは、
【化7】

【化8】

からなる群から選択され、R、R、R、R、R及びRのそれぞれは、水素、アルキル、シアニル、ハロ及びアルコキシからなる群から独立して選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記ポリアセンは、アントラセン、ナフタセン、ペンタセン、ヘキサセン及びヘプタセンからなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
前記ジエノフィルは、
【化9】

からなる群から選択され、R及びRは、脂環式環又はアルキル基である、請求項19に記載の方法。
【請求項28】
前記付加体は、ペンタセンとマレイミドとのディールス−アルダー付加体である、請求項19に記載の方法。
【請求項29】
基板と、カーボン・ナノチューブ又はフラーレンとポリアセン及びジエノフィルのディールス−アルダー付加体との錯体の層とを備える物品。
【請求項30】
前記基板は金属酸化物を含む、請求項29に記載の物品。
【請求項31】
電子デバイスであり、電気コンタクトをさらに備える、請求項29に記載の物品。
【請求項32】
直径に応じてカーボン・ナノチューブ又はフラーレンを分離する方法であって、
(a)溶媒中に請求項1の分子クリップを含む溶液を調製するステップと、
(b)請求項32のステップ(a)の溶液中にカーボン・ナノチューブ又はフラーレンを含む懸濁液を超音波処理するステップと、
(c)請求項32のステップ(b)の超音波処理した溶液を遠心分離するステップと、
(d)請求項32のステップ(c)の溶液の上澄み液を沈殿から分離するステップと、
を含む方法。
【請求項33】
請求項32のステップ(a)の分子クリップは、ポリアセンとジエノフィルとのディールス−アルダー付加体から選択される、請求項32に記載の分離方法。
【請求項34】
前記ポリアセンは、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ヘキサセン及びヘプタセンからなる群から選択される、請求項33に記載のカーボン・ナノチューブの分離方法。
【請求項35】
前記ジエノフィルは、
【化10】

からなる群から選択される、請求項33に記載のカーボン・ナノチューブの分離方法。
【請求項36】
請求項32のステップ(a)の前記分子クリップは、
【化11】

からなる群から選択され、構造1、3及び4の中のxは、−CH−、−CHR−、−NH−、−NR−又は−O−からなる群から選択される、請求項32に記載のカーボン・ナノチューブの分離方法。
【請求項37】
(a)基板上に分子クリップの単一層を堆積させるステップであって、前記分子クリップは−SH、−NC、−PO、−CONHOH、及び−COHからなる群から選択される少なくとも1つの末端官能基を有するステップと、
(b)請求項37のステップ(a)の基板を溶媒中にカーボン・ナノチューブを含む分散体に浸漬するステップと、
(c)付着していないカーボン・ナノチューブを溶媒によって前記基板から洗浄するステップと、
を含む、物品の製造方法。
【請求項38】
前記分子クリップは、−SH、NC、PO、−CONHOH、及びCOHからなる群から選択される少なくとも1つの末端基を有する、ポリアセンとジエノフィルとのディールス−アルダー付加体から選択される、請求項37に記載の物品の製造方法。
【請求項39】
前記付加体は、予め選択された2面角及び外側環の間の距離を有し、予め選択された直径を有するカーボン・ナノチューブ又はフラーレンは、前記付加体によって前記基板に固定され、前記方法は、所望の直径ではないカーボン・ナノチューブ又はフラーレンを前記基板から洗い流すステップをさらに含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記付加体は、120°の2面角及び0.5〜2.5nmの外側環の間の距離を有する、請求項38に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−504899(P2010−504899A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521030(P2009−521030)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【国際出願番号】PCT/US2007/074118
【国際公開番号】WO2008/011623
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MASCHINES CORPORATION
【Fターム(参考)】