カーボン付着炭化室の選定方法及びコークス炉の操業方法
【課題】 複数の炭化室によって構成されるコークス炉において、保守・点検すべき炭化室を効率よく選定する方法及び該方法を利用するコークス炉の操業方法を提供する。
【解決手段】 複数の炭化室によって構成されるコークス炉において、各炭化室における特定サイクル分の押出抵抗値の平均値Aと、特定サイクル分の押出抵抗値の標準偏差Bとを求め、各炭化室について得られた押出抵抗値の平均値Aと標準偏差Bについて、前記複数の炭化室を母集団とするその炭化室の偏差値S(A)及びS(B)を求め、上記偏差値S(A)および上記S(B)に基づいて、複数の炭化室の中から炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を選定する。この際、燃焼不良が生じ、燃焼状態指標値が一定以上になっている炭化室については、実測された最大押出抵抗値から燃焼不良による押出電力値を控除したものを最大押出抵抗値と看做す補正をする。
【解決手段】 複数の炭化室によって構成されるコークス炉において、各炭化室における特定サイクル分の押出抵抗値の平均値Aと、特定サイクル分の押出抵抗値の標準偏差Bとを求め、各炭化室について得られた押出抵抗値の平均値Aと標準偏差Bについて、前記複数の炭化室を母集団とするその炭化室の偏差値S(A)及びS(B)を求め、上記偏差値S(A)および上記S(B)に基づいて、複数の炭化室の中から炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を選定する。この際、燃焼不良が生じ、燃焼状態指標値が一定以上になっている炭化室については、実測された最大押出抵抗値から燃焼不良による押出電力値を控除したものを最大押出抵抗値と看做す補正をする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭を乾留するための炭化室と該炭化室を加熱するための燃焼室とを交互に複数列備えるコークス炉において、炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を選定する方法、及び、該選定に基づいて、炭化室の炉壁に付着しているカーボンを除去するコークス炉の操業方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コークス炉には、石炭を高温乾留するための炭化室と、炭化室を加熱するための燃焼室とが交互に複数列配置されている。石炭のコークス化は、原料となる石炭を炭化室内に装入し、炭化室の両側設けられた燃焼室に燃焼ガスと空気とを供給し燃焼させて、石炭を約1,000℃で約17時間程度乾留することによって行われる。生成したコークスは、さらに2〜4時間程度炭化室内に置かれ、均熱して収縮させてから押出機により押出される。コークスの製造は、石炭装入、乾留、均熱・収縮、および、コークス押出からなるサイクルを繰り返すことによって行なわれる。
【0003】
上記過酷な条件での連続操業によって炭化室の炉壁には、欠損箇所が生じたり、カーボンの付着が生じたりする。炉壁に欠損やカーボン付着が存在すると、生成コークスの押出し時に、炉壁方向にも大きな負荷(圧力)がかかるので、炭化室炉壁の欠損、変形、移動が生じて、コークス炉の寿命を縮める原因になると言われている。
【0004】
現在日本国内で稼動しているコークス炉の平均寿命は、約30年といわれているが、コークス炉を新たに設備投資するコストは近年極めて高額につき、新たな設備投資は、コークス製造コストを著しく押し上げることになる。そのため、現状のコークス炉を保守・点検することにより、その寿命をいかに延長できるかということが、コークス製造業界の重要な課題となっている。
【0005】
従来の保守・点検方法は、生成コークスを押出す際の押出ラムの負荷電力値や目視観察の結果、或いは、コークスの生産サイクル数などに基づいて、炉壁の壁面に付着しているカーボンを焼却除去したり、或いは、炉壁の欠損箇所を溶射補修することが行われている。
【0006】
例えば、特許文献1及び2には、コークス炉炭化室炉壁の異常判定方法が開示され、特許文献3には、コークス炉の炭化室から赤熱コークスを押出す際に押出ラムに負荷される押出抵抗の異常原因を、目視観察することなく決定できるコークス炉の操業方法が開示されている。
【特許文献1】特開平8−134458号公報
【特許文献2】特開平8−134459号公報
【特許文献3】特開2001−40359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
炭化室の両側に設けられている燃焼室は、炉長方向に20〜30程度の小燃焼室に仕切られている。炭化室の加熱は、例えば、燃焼室の一端から奇数番目と偶数番目の燃焼室を一定時間交互に燃焼させることにより行われる。しかしながら、炉長方向に仕切られた小燃焼室の一つ一つの燃焼具合は、小燃焼室に供給される燃焼ガスや空気などの経路に粉塵などが詰って、燃焼不良が起こる場合があり、必ずしも均一ではない。そして、小燃焼室において燃焼不良が生じた場合には、石炭のコークス化が不均一となり、生成したコークスを所定の置き時間保持しても、コークスが収縮せず、生成コークスを押出す際の押出抵抗値が極めて大きくなる場合がある。そのため、押出機が損壊したり、炭化室炉壁の欠損、変形、移動が生じて、コークス炉の寿命が縮まる原因となる。
【0008】
すなわち、石炭を乾留する際の燃焼室の燃焼不良によっても、石炭のコークス化が不均一になり、さらには、生成コークスの収縮率が低下して、押出抵抗値が高くなることから、押出抵抗値に基づいてコークス炉を保守・点検する従来の手法では、炭化室の炉壁のカーボン付着によって押出抵抗値が高くなっているのか、或いは、燃焼室の燃焼不良によって押出抵抗値が高くなっているのかを判別することができず、適切な補修作業ができないという問題がある。
【0009】
また、コークス炉には、石炭を乾留するための炭化室と、前記炭化室を加熱するための燃焼室とが交互に複数列備えられており、コークス炉の寿命を延長するという観点からは、各炭化室の保守・点検の回数を増加させることが好ましいが、保守・点検の回数を増加させればさせるほど、コークスの生産効率が低下することになる。
【0010】
そこで、本発明は、複数の炭化室と燃焼室によって構成されるコークス炉において、生成コークスを押出す際の押出抵抗値に基づいてコークス炉の保守・点検を行う際に、燃焼室の燃焼不良に基づいて生成コークスの最大押出抵抗値が高くなっている炭化室を選定し、斯かる炭化室については、生成コークスの最大押出抵抗値から燃焼不良に基づく押出抵抗値を控除することによって、炉壁にカーボン付着が生じている保守・点検すべき炭化室を効率よく選定する方法及び該方法を利用するコークス炉の操業方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、コークス炉炭化室の内部を詳細に検査する方法として、例えば、特願2002−126661号、特願2003−35446号を出願している。そして、コークス炉炭化室内部を継続的に検査した結果、以下のような知見が得られた。
【0012】
図1は、コークス炉を構成する複数の炭化室(総数128)について、コークス生産サイクル数と炭化室炉壁に付着しているカーボン付着量との相関を示す散布図である。図1より、コークス生産サイクル数とカーボン付着量との間には、正の相関があり、コークス生産サイクル数が増えるにつれて、カーボン付着量が増加する傾向が認められる。そして、100〜120サイクルを境として、炭化室毎のカーボン付着量にばらつきが生じていることが分かる。
【0013】
図2は、コークス炉を構成する複数の炭化室(総数128)について、カーボン付着量と押出ラムの押出電力値との相関を示す散布図である。この結果より、カーボン付着量が多くなっても必ずしも押出電力値が高くなっていない炭化室や、カーボン付着量が少ないにも関わらず押出電力値が高くなっている炭化室が存在していることが分かった。また、図1と図2とを併せて考慮すると、炭化室のコークス生産サイクル数が多くなってカーボン付着量が増加しても、押出電力値が高くならない炭化室が存在するため、炭化室のコークス生産サイクル数が多くなっているという理由のみで、炭化室の炉壁に付着しているカーボンを除去するということは、必ずしも効率的でないということが分かった。
【0014】
図3およ図4はそれぞれ、コークス炉を構成するある炭化室について、コークス生産サイクル数に対する押出電力値の推移を示すグラフである。図3及び図4中、炉壁に付着しているカーボンを焼却除去した時期を、押出電力値0で示した。図3に示した炭化室では、押出電力値は、炉壁に付着しているカーボンを除去した後、それほどばらつくことなく一定値で推移し、コークス生産サイクル数が160を超えたあたりから、上下にばらつきながら上昇した。一方、図4に示した炭化室では、押出電力値は、カーボン除去後もばらつきながら推移し、再びカーボンを除去した後、ほぼ一定値に収束した。
【0015】
これらの現象を炭化室の内部観察結果に基づいて解析した結果、図3や図4の如く押出電力値にばらつきが生ずるのは、炉壁に付着しているカーボンが部分的に剥離して、これが抵抗となって押出電力値が高くなり、これが完全に剥離して炉壁から脱落すると、押出電力値が低下することが分かった。さらに図1を参酌すると、カーボン付着量がばらつくコークス生産サイクル数とカーボンが部分的に剥離するコークス生産サイクル数とに相関があることが分かる。また、炉壁に滑らかにカーボンが付着している場合には、押出電力値が高めに推移するかもしれないがそれほど問題にはならないこと、さらに、炉壁表面に凹凸が存在して押出電力値がばらついていたとしても、該凹凸を低減するようにカーボンが付着したり、或いは、剥離して、炉壁表面が滑らかになれば、押出電力値は低下することなどが分かった。
【0016】
さらに本発明者らは、上記知見に基づいてコークス炉炭化室の一層効率的な保守・点検方法として、特願2004−008347を出願している。斯かる方法は、石炭を乾留するための炭化室と前記炭化室を加熱するための燃焼室とを複数列備えるコークス炉において、生成したコークスを押出す際の押出抵抗値を利用して、炉壁に欠損やカーボン付着が生じている炭化室を効率的に選定する方法及び、該選定に基づいて、炭化室の炉壁に付着しているカーボンを除去するコークス炉の操業方法に関するものである。
【0017】
そして本発明は、上記選定方法において採用できる最大押出抵抗値から、燃焼室の燃焼不良によって最大押出抵抗値が高くなっている炭化室を選定するとともに、斯かる炭化室については、実測された最大押出抵抗値から、燃焼不良に基づく押出抵抗値を控除した押出抵抗値を最大押出抵抗値と看做す補正をすることによって、コークス炉を構成する複数の炭化室の中から、炉壁にカーボン付着が生じている炭化室を選定する精度を一層高めることを目的とする。
【0018】
上記課題を達成することのできた本発明とは、石炭を乾留するための炭化室と前記炭化室を加熱するための燃焼室とを交互に複数列備えるコークス炉において、炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を選定する方法であって、各炭化室において、生成したコークスを押出す毎に最大押出抵抗値と炉長方向に亘る炉壁温度を測定し、
該炉壁温度と炉壁目標温度とから燃焼室の燃焼状態指標値を求めて、前記燃焼状態指標値が一定以上の炭化室を選定し、前記選定された炭化室については、前記最大押出抵抗値から燃焼室における燃焼不良に基づく押出抵抗値を控除した押出抵抗値を最大押出抵抗値と看做す補正を行い、各炭化室について、最大押出抵抗値の特定サイクル分の平均値Aと、特定サイクル分の標準偏差Bとを求め、各炭化室について得られた押出抵抗値の平均値Aと標準偏差Bについて、コークス炉を構成する複数の炭化室を母集団とするその炭化室の偏差値S(A)及びS(B)を求めて、上記偏差値S(A)および上記S(B)に基づいて、複数の炭化室の中から炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を選定することを特徴とする。
【0019】
例えば、最新の押出し時から遡って5〜10サイクル分の最大押出抵抗値の平均値Aと、最新の押出し時から遡って5〜10サイクル分の最大押出抵抗値の標準偏差Bとを求めることが好ましい態様である。また、上記選定した炭化室の炉壁に付着したカーボンを除去して、コークス炉を操業することも本発明の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、コークス炉を構成する複数の炭化室の中から、炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を効率かつ精度よく選定できる。また、斯かる選定方法を採用してコークス炉を操業すれば、生成コークスを押出す際の最大押出抵抗値を安定化して、炉壁への負担を軽減でき、さらには、コークス炉の寿命を延長できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のカーボン付着炭化室の選定方法は、石炭を乾留するための炭化室と前記炭化室を加熱するための燃焼室とを交互に複数列備えるコークス炉において、炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を選定する方法であって、各炭化室において、生成したコークスを押出す毎に最大押出抵抗値と炉長方向に亘る炉壁温度とを測定し、該炉壁温度と炉壁目標温度とから燃焼室の燃焼状態指標値を求めて、前記燃焼状態指標値が一定以上の炭化室を選定し、前記選定された炭化室については、前記最大押出抵抗値から燃焼室における燃焼不良に基づく押出抵抗値を控除した押出抵抗値を最大押出抵抗値と看做す補正を行い、各炭化室について、最大押出抵抗値の特定サイクル分の平均値Aと、特定サイクル分の標準偏差Bとを求め、各炭化室について得られた押出抵抗値の平均値Aと標準偏差Bについて、コークス炉を構成する複数の炭化室を母集団とするその炭化室の偏差値S(A)及びS(B)を求めて、上記偏差値S(A)および上記S(B)に基づいて、複数の炭化室の中から炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を選定することを特徴とする。
【0022】
まず、生成したコークスを押出す毎に最大押出抵抗値と炉長方向に亘る炉壁温度とを測定し、該炉壁温度と炉壁温度とから、燃焼室の燃焼状態指標値を求めて、燃焼状態指標値が一定以上の炭化室を選定する方法について説明する。
【0023】
本発明において測定する最大押出抵抗値としては、生成したコークスを押出ラムで押出す際に押出ラムが受ける最大押出抵抗(負荷)を指標するものであれば、特に限定されず、例えば、押出ラムの最大押出電力値や押出ラム駆動用ギアの最大トルクなどを採用することができる。一般に、コークス製造においては、生成コークスを押出す際の押出電力値を管理する場合が多いので、最大押出電力値を採用することが簡便で好ましい態様である。また、生成コークスを押出す際に押出ラムに備え付けた温度計により、炉長方向に亘る炉壁温度を測定し、押出機側(マシンサイド)からの炉長若しくは燃焼室番号を横軸とし、炉壁温度を縦軸としてグラフを作成することによって、炭化室の炉壁の炉長方向の温度分布を調べることができる。押出ラムに備え付ける温度計は、押出ラムの任意の位置に取り付けることができ、ラムヘッドの任意の高さに複数付けることも好ましい態様である。
【0024】
図5は、ある炭化室において生成したコークスを押出す際に測定した炭化室の炉長方向の炉壁温度分布である(縦軸:炉壁温度、横軸:燃焼室番号)。図5において、「●」で表される線は炉壁目標温度であり「■」で表される線は、押出ラムに備え付けた温度計で実測した温度である。炉壁目標温度は、コークス製造における公知の方法によって設定することができ、例えば、炭化室のほぼ中心の燃焼室の温度を基準として、マシンサイドからコークス取出し側(コークスサイド)に向かって高く設定する。生成したコークスの押出を容易にするために、炭化室の形状をマシンサイドからコークスサイドに向かって炉幅が広くなるようにテーパー状の形状としているので、コークス化を均一に行うためには、マシンサイドからコークスサイドに向かって温度を高くする必要があるからである。
【0025】
図5では、コークスサイド及びマシンサイドにおいて、実測した炉壁温度(以下、『炉壁実測温度』という場合がある)が炉壁目標温度よりも低下していることが分かる。この炉壁実測温度と炉壁目標温度の乖離は、燃焼室の燃焼不良を示しており、炉壁実測温度が炉壁目標温度よりも低い場合には、燃焼室の燃焼が不十分であり、炉壁実測温度が炉壁目標温度よりも高い場合は、燃焼が過剰である。そして、本発明では、炉壁実測温度と炉壁目標温度とから、燃焼室の燃焼状態を指標するもの(以下、『燃焼状態指標値』という場合がある)を求める。前記燃焼状態指標値としては、図5における各小燃焼室における炉壁実測温度と炉壁目標温度の差の絶対値を全小燃焼室(20〜30)について積算したもの、図5における炉壁実測温度曲線と炉壁目標温度曲線とで囲まれる面積を使用することが好ましく、各燃焼室における炉壁実測温度と炉壁目標温度との差の絶対値を全小燃焼室について積算したものを使用することがより好ましい。尚、図6には、図5における炉壁実測温度曲線と炉壁目標温度曲線とで囲まれる面積(S1+S2+S3)を模式的に示した。
【0026】
コークス炉を構成する複数(総数128)の炭化室について、押出電力積算値と燃焼状態指標値との関係(図7)、及び、最大押出電力値と燃焼状態指標値との関係(図8)について調べた。
【0027】
図7より、燃焼状態指標値が一定値未満(本例では400未満)であれば、押出電力積算値は安定しているが、燃焼状態指標値が一定値(本例では400)以上になると押出電力積算値も増大することが分かる。ここで、押出電力積算値とは、押出を開始してから終了するまでの押出電力値を積算したものである。また図8より、燃焼状態指標値が一定値未満(本例では400未満)の場合には、最大押出電力値と燃焼状態指標値との間に相関は認められないが、燃焼状態指標値が一定値(本例では400)以上になると、燃焼状態指標値が高くなるにつれて、最大押出電力値も高くなっていることが分かる。これらの結果より、燃焼状態指標値が一定値(本例では400)以上になると、押出電力積算値および最大押出電力値は、燃焼不良による影響を受け易くなることが分かる。
【0028】
本発明では、上述のように燃焼状態指標値が一定値以上の炭化室、すなわち燃焼不良による影響を大きく受けている炭化室を選定し、斯かる炭化室については、生成コークスを押出す際の最大押出抵抗値から、燃焼室における燃焼不良に基づく押出抵抗値を控除することによって、炉壁にカーボン付着が生じている炭化室の選定精度を高めることができる。
【0029】
次に、前記選定された炭化室について、実測された最大押出抵抗値から燃焼室における燃焼不良に基づく押出抵抗値を控除する方法について説明する。図9は、図8における燃焼状態指標値が一定値(本例では400)以上の部分について、最大押出電力値と燃焼状態指標値との相関を示す近似線を引いたグラフである。尚、図9において、近似線は、最大押出電力値Dを、燃焼状態指標値iをとしたときに、
D=0.133i+94.409 ・・・式(a)で表される。
また図9から、燃焼室の燃焼状態が最大押出電力値に影響を及ぼす最低値が約150程度(147.609)であることが分かる。そうすると、式(a)より、147.609を差し引いたものが、燃焼室の燃焼不良に基づく最大押出電力値の増分と看做すことができ、燃焼室の燃焼不良に基づく最大押出電力値の増分(ΔD)は、
ΔD=0.133i−53.2 ・・・・式(b)で表される。
【0030】
本発明では、燃焼状態指標値が一定値以上の炭化室については、上記のようにして求めた燃焼不良に基づく押出電力値の増分(ΔD)を、実測された最大押出抵抗値から控除し、得られた押出抵抗値を最大押出抵抗値と看做す旨の補正を行う。斯かる補正を行うことによって、炉壁にカーボン付着が生じている炭化室を選定する精度を一層高めることができる。尚、本発明において、燃焼状態指標値と最大押出電力値との相関を示す近似線は、上記式(a)に限定されず、燃焼状態指標値が一定以上の炭化室の数や最大押出電力値に応じて適宜最適化することができる。
【0031】
本発明では次に、各炭化室において、生成したコークスを押出す毎に測定した最大押出抵抗値(燃焼状態指標値が一定以上のものについては、補正後の最大押出抵抗値)の特定サイクル分の平均値Aと、特定サイクル分の標準偏差Bとを求める。すなわち、生成したコークスを押出す毎に最大押出抵抗値を測定し、最大押出抵抗値(燃焼状態指標値が一定以上のものについては、補正後の最大押出抵抗値)をコークス生産サイクル数ともに記録する。そして、最大押出抵抗値(燃焼状態指標値が一定以上のものについては、補正後の最大押出抵抗値)の特定サイクル分の平均値A(以下、「サイクル平均押出抵抗値A」と称する場合がある)と標準偏差B(以下、「サイクル標準偏差B」と称する場合がある)とを求める。特に、最新の押出し時から遡って特定サイクル分の平均値Aと、最新の押出し時から遡って特定サイクル分の標準偏差Bをそれぞれ求めることが好ましい態様である。最新の押出し時から遡ることによって、最新の最大押出抵抗値(燃焼状態指標値が一定以上のものについては、補正後の最大押出抵抗値)を採用することができ、選定精度が高まるからである。
【0032】
上記サイクル平均押出抵抗値Aとサイクル標準偏差Bは、通常の算出方法により求めることができる。念のため算出方法を例示すると、特定サイクル数をZとし、各サイクルの押出抵抗値をXZ、XZ-1・・・X2、X1で表すと、サイクル平均押出抵抗値Aは、下記式(1)で表される。
【0033】
【数1】
【0034】
また、サイクル標準偏差Bは、下記式(2)で表わされる。
【0035】
【数2】
【0036】
(式(2)中、Xavは、Zサイクル分の平均押出抵抗値である。)
【0037】
本発明において、上記特定サイクル数Zは、サイクル平均押出抵抗値Aとサイクル標準偏差Bを求める際にそれぞれ任意に定めることができ、サイクル平均押出抵抗値Aを求めるために遡るサイクル数とサイクル標準偏差Bを求めるために遡るサイクル数が異なっていてもよい。尚、式(2)中、サイクル平均押出抵抗値として、Xavを使用するのは、上記平均値Aと上記標準偏差Bを算出するのに使用する特定サイクル数が異なる場合には、式(2)中のXavが、式(1)中の平均値Aと異なる場合が生ずるからである。上記特定サイクル数Zは、通常、5以上とすることが好ましく、より好ましくは7以上とする。5未満であると、炉壁の状態を十分に指標できない場合もあるからである。一方、上記特定サイクル数Zの上限は、特に限定されるものではないが、通常、15程度であることが好ましく、より好ましくは12、さらに好ましくは10程度である。算出の基礎とする特定サイクル数を増やしすぎると、過去の状態の影響を大きく受けて、最新の炉壁状態を反映しない場合が生じるからである。
【0038】
そして、コークス炉を構成する複数の炭化室のそれぞれについて、上記サイクル平均押出抵抗値Aとサイクル標準偏差Bを求めた後、各炭化室について得られたサイクル平均押出抵抗値Aとサイクル標準偏差Bについて、それぞれ、コークス炉を構成する複数の炭化室を母集団とする各炭化室の偏差値S(A)及びS(B)を求める。
【0039】
コークス炉を構成する複数の炭化室の数をNとし、炭化室No.1、No.2、No.3、・・No.N−2、No.N−1、No.Nの炭化室のそれぞれのサイクル平均押出抵抗値を、A1、A2、A3、・・・AN-2、AN-1、AN、及び、炭化室のそれぞれのサイクル標準偏差Bを、B1、B2、B3、・・・、BN-2、BN-1、BNとすると、N個の炭化室からなるコークス炉を母集団として、各炭化室について得られたサイクル平均押出抵抗値Aとサイクル標準偏差Bについての偏差値S(A)およびS(B)は、それぞれ次式(3)〜(5)及び(6)〜(8)で表される。
【0040】
【数3】
【0041】
式(3)は、サイクル平均押出抵抗値Aについて、N個の炭化室を母集団とする個数平均値を求めるものである。
【0042】
【数4】
【0043】
式(4)は、サイクル平均押出抵抗値Aについて、N個の炭化室を母集団とする標準偏差を求めるものである。
【0044】
【数5】
【0045】
式(5)は、ある炭化室のサイクル平均押出抵抗値Aについて、N個の炭化室を母集団とする偏差値を求めるものである。
【0046】
【数6】
【0047】
式(6)は、サイクル標準偏差Bについて、N個の炭化室を母集団とする個数平均値を求めるものである。
【0048】
【数7】
【0049】
式(7)は、サイクル標準偏差Bについて、N個の炭化室を母集団とする標準偏差を求めるものである。
【0050】
【数8】
【0051】
式(8)は、ある炭化室のサイクル標準偏差Bについて、N個の炭化室を母集団とする偏差値を求めるものである。
【0052】
本発明では、上記のようにして得られた偏差値S(A)およびS(B)に基づいて、複数の炭化室の中から炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を選定する。
上記偏差値S(A)およびS(B)に基づくカーボン付着炭化室の選定は、例えば、下記式(9)で表されるFに基づいて行うことができる。
F=a・S(A)+b・S(B)(但し、a,bは、任意の有理数)・・・式(9)
ここで、S(A)は、炉壁に付着している滑らかなカーボンの程度を指標するものであり、S(B)は、炉壁から部分的に剥離したり、或いは、完全に剥離して、押出抵抗値のばらつきの原因となるようなカーボンの程度を指標するものである。そして、Fは、これらの影響を総合的に指標するものである。S(A)とS(B)とを総合的に考慮するのは、例えば、炉壁に付着している滑らかなカーボンの付着量が多く、押出抵抗値が高く推移している場合において、カーボンの一部が剥離して、押出抵抗値が一時的に極端に高くなると、炉壁に過度の負荷がかかって、炉壁の煉瓦の損傷や炉壁の変形などの原因となるからである。また、カーボン付着の程度を総合的に指標するF中のS(A)とS(B)の割合を意味するaとbは、考慮すべき因子の重み付けに相当し、例えば、S(A)の因子がS(B)の因子より重要である場合には、a≧bとなるようにし、S(B)の因子がS(A)の因子より重要である場合には、a≦bとなるように適宜選択することができる。通常、a:b=1:1とすることが経験的に好ましい。また、前記aおよびbとしては、任意に有理数を採用することができるが、好ましくは整数であり、さらに好ましくは1〜10程度の自然数とする。
【0053】
そして、式(9)によって得られる上記Fの値が大きいほど、炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室であると選定できる。また、選定の際、例えば、コークス生産サイクル数が100サイクル以上、より好ましくは120サイクル以上、さらに好ましくは140サイクル以上の炭化室のみを対象としてもよい。100サイクル未満の炭化室において、炉壁に付着しているカーボンを除去する必要があるのはまれであるからである。また上述した様に、生産サイクル数が120サイクル以上になると炉壁付着カーボン量がばらつく傾向があるからである(図1参照)。
【0054】
炉壁に付着しているカーボンを除去する方法は、特に限定されず、例えば、炭化室を空の状態で加熱し、炉壁付着のカーボンと炉壁の煉瓦との熱膨張差により炉壁付着カーボンを剥離させる方法、及び、空の状態の炭化室に大量の大気を強制的に吹き込んで、炉壁付着カーボンを燃焼除去する方法などを挙げることができる。
【0055】
本発明のコークス炉の操業方法は、前記選定結果に基づいて、炉壁に付着しているカーボンを除去しつつ、コークス炉を操業するものであれば、特に限定されない。上述した如く、コークス炉の操業は、原料となる石炭を各炭化室内に充填し、約1,000℃の高温で20時間程度乾留した後、押出ラムで生成コークスを炭化室から押出すサイクルを繰り返すことによって行なわれる。各炭化室においてカーボンを除去する必要が生じたときには、それぞれの炭化室の生産サイクルの適当な時期を見計らってカーボンを除去しつつ、コークス炉を操業するようにすればよい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例によってより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0057】
表1から表5には、128の炭化室によって構成されるコークス炉の炭化室の内、コークス生産サイクル数が140以上の炭化室について、最新の押出サイクル数、及び、最新の押出時から遡って10サイクル分の最大押出電力値と燃焼状態指標値と補正値と補正後の最大押出電力値とを示した。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
表1〜表5の測定結果に基づき、最新の押出し時から遡って5サイクル分のサイクル平均押出抵抗値Aと10サイクル分のサイクル標準偏差Bとを各炭化室について求めた。次いで、各炭化室のサイクル平均押出抵抗値Aとサイクル標準偏差Bについて、サイクル数が140以上の炭化室を母集団とする偏差値S(A)、S(B)、及び、F=S(A)+S(B)(a=b=1)を求め、Fの大きい順に、炭化室に優先順位を付けた。結果を表6に示した。また、本発明者らが先に提案した特願2004−008347号による選定方法に基づき、燃焼不良に基づく押出抵抗値の補正を行わず、サイクル数が140以上の炭化室について、F=S(A)+S(B)(a=b=1)を求め、Fの大きい順に炭化室に優先順位を付けた結果を参考例として、表7に示した。また、表8には、本発明による優先順位と参考例による優先順位の対比を示した。
【0064】
【表6】
【0065】
【表7】
【0066】
【表8】
【0067】
表6〜表8から明らかなように、本発明に従って燃焼不良に基づく押出抵抗値の補正を行うことによって、カーボンを除去すべき炭化室の優先順位に変動が生じていることが分かる。この結果より、参考例によるカーボン付着炭化室の選定方法では、カーボン付着による押出不良ではないものについてもカーボンの除去を行うという無駄な保守点検作業が生じていたと考えられ、本発明によれば、これらの無駄な保守点検作業を低減してカーボンを除去すべき炭化室を一層効率的に選定することができる。
【0068】
尚、本発明者らが先に提案した参考例による方法により、カーボン付着炭化室を選定し、カーボンを除去しつつ、コークス炉の操業を約3ヶ月間実施した結果を図10に、押出電力値と生成コークスサイクル数に基づく従来の保守点検作業を約3ケ月間実施した結果を図11に示した。図10から明らかなように、参考例に従ってカーボン付着炭化室を選定し、カーボンを除去しつつコークス炉を操業すれば、カーボン付着による押出不良ではないものについてもカーボンの除去を行うという無駄な保守点検作業が生じているかもしれないが、コークス生産サイクル数が増加しても最大押出電力値が安定化され、生成コークス押出し時にも、炉壁や押出機への負荷が低減されていることが明らかである。一方、図11から、コークス生産サイクル数や押出電力値のみに基づく保守点検作業では、以前として押出電力値が高くなっている炭化室が存在することから、従来の選定基準によるカーボン除去では、必ずしも効率的でないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、複数の炭化室によって構成されるコークス炉において、炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を選定する方法、及び、該選定に基づいて、炭化室のカーボンを除去するコークス炉の操業方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】コークス生産サイクル数と炉壁のカーボン付着量との相関を示す散布図である。
【図2】最大押出電力値と炉壁のカーボン付着量との相関を示す散布図である。
【図3】ある炭化室におけるコークス生産サイクル数に対する押出電力値の推移を示すグラフである。
【図4】別の炭化室におけるコークス生産サイクル数に対する押出電力値の推移を示すグラフである。
【図5】ある炭化室における炉壁温度分布を示すグラフである。
【図6】炉壁目標温度と炉壁実測温度とに囲まれる面積(燃焼状態指標値)を模式的に示すグラフである。
【図7】総数128の炭化室について、押出電力積算値と燃焼状態指標値との関係を示す散布図である。
【図8】総数128の炭化室について、最大押出電力値と燃焼状態指標との関係を示す散布図である。
【図9】最大押出電力値と燃焼状態指標値との関係を示すグラフである。
【図10】参考例によるコークス生産サイクル数と最大押出電力値との関係を示す散布図である。
【図11】従来法によるコークス生産サイクル数と最大押出電力値との関係を示す散布図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭を乾留するための炭化室と該炭化室を加熱するための燃焼室とを交互に複数列備えるコークス炉において、炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を選定する方法、及び、該選定に基づいて、炭化室の炉壁に付着しているカーボンを除去するコークス炉の操業方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コークス炉には、石炭を高温乾留するための炭化室と、炭化室を加熱するための燃焼室とが交互に複数列配置されている。石炭のコークス化は、原料となる石炭を炭化室内に装入し、炭化室の両側設けられた燃焼室に燃焼ガスと空気とを供給し燃焼させて、石炭を約1,000℃で約17時間程度乾留することによって行われる。生成したコークスは、さらに2〜4時間程度炭化室内に置かれ、均熱して収縮させてから押出機により押出される。コークスの製造は、石炭装入、乾留、均熱・収縮、および、コークス押出からなるサイクルを繰り返すことによって行なわれる。
【0003】
上記過酷な条件での連続操業によって炭化室の炉壁には、欠損箇所が生じたり、カーボンの付着が生じたりする。炉壁に欠損やカーボン付着が存在すると、生成コークスの押出し時に、炉壁方向にも大きな負荷(圧力)がかかるので、炭化室炉壁の欠損、変形、移動が生じて、コークス炉の寿命を縮める原因になると言われている。
【0004】
現在日本国内で稼動しているコークス炉の平均寿命は、約30年といわれているが、コークス炉を新たに設備投資するコストは近年極めて高額につき、新たな設備投資は、コークス製造コストを著しく押し上げることになる。そのため、現状のコークス炉を保守・点検することにより、その寿命をいかに延長できるかということが、コークス製造業界の重要な課題となっている。
【0005】
従来の保守・点検方法は、生成コークスを押出す際の押出ラムの負荷電力値や目視観察の結果、或いは、コークスの生産サイクル数などに基づいて、炉壁の壁面に付着しているカーボンを焼却除去したり、或いは、炉壁の欠損箇所を溶射補修することが行われている。
【0006】
例えば、特許文献1及び2には、コークス炉炭化室炉壁の異常判定方法が開示され、特許文献3には、コークス炉の炭化室から赤熱コークスを押出す際に押出ラムに負荷される押出抵抗の異常原因を、目視観察することなく決定できるコークス炉の操業方法が開示されている。
【特許文献1】特開平8−134458号公報
【特許文献2】特開平8−134459号公報
【特許文献3】特開2001−40359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
炭化室の両側に設けられている燃焼室は、炉長方向に20〜30程度の小燃焼室に仕切られている。炭化室の加熱は、例えば、燃焼室の一端から奇数番目と偶数番目の燃焼室を一定時間交互に燃焼させることにより行われる。しかしながら、炉長方向に仕切られた小燃焼室の一つ一つの燃焼具合は、小燃焼室に供給される燃焼ガスや空気などの経路に粉塵などが詰って、燃焼不良が起こる場合があり、必ずしも均一ではない。そして、小燃焼室において燃焼不良が生じた場合には、石炭のコークス化が不均一となり、生成したコークスを所定の置き時間保持しても、コークスが収縮せず、生成コークスを押出す際の押出抵抗値が極めて大きくなる場合がある。そのため、押出機が損壊したり、炭化室炉壁の欠損、変形、移動が生じて、コークス炉の寿命が縮まる原因となる。
【0008】
すなわち、石炭を乾留する際の燃焼室の燃焼不良によっても、石炭のコークス化が不均一になり、さらには、生成コークスの収縮率が低下して、押出抵抗値が高くなることから、押出抵抗値に基づいてコークス炉を保守・点検する従来の手法では、炭化室の炉壁のカーボン付着によって押出抵抗値が高くなっているのか、或いは、燃焼室の燃焼不良によって押出抵抗値が高くなっているのかを判別することができず、適切な補修作業ができないという問題がある。
【0009】
また、コークス炉には、石炭を乾留するための炭化室と、前記炭化室を加熱するための燃焼室とが交互に複数列備えられており、コークス炉の寿命を延長するという観点からは、各炭化室の保守・点検の回数を増加させることが好ましいが、保守・点検の回数を増加させればさせるほど、コークスの生産効率が低下することになる。
【0010】
そこで、本発明は、複数の炭化室と燃焼室によって構成されるコークス炉において、生成コークスを押出す際の押出抵抗値に基づいてコークス炉の保守・点検を行う際に、燃焼室の燃焼不良に基づいて生成コークスの最大押出抵抗値が高くなっている炭化室を選定し、斯かる炭化室については、生成コークスの最大押出抵抗値から燃焼不良に基づく押出抵抗値を控除することによって、炉壁にカーボン付着が生じている保守・点検すべき炭化室を効率よく選定する方法及び該方法を利用するコークス炉の操業方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、コークス炉炭化室の内部を詳細に検査する方法として、例えば、特願2002−126661号、特願2003−35446号を出願している。そして、コークス炉炭化室内部を継続的に検査した結果、以下のような知見が得られた。
【0012】
図1は、コークス炉を構成する複数の炭化室(総数128)について、コークス生産サイクル数と炭化室炉壁に付着しているカーボン付着量との相関を示す散布図である。図1より、コークス生産サイクル数とカーボン付着量との間には、正の相関があり、コークス生産サイクル数が増えるにつれて、カーボン付着量が増加する傾向が認められる。そして、100〜120サイクルを境として、炭化室毎のカーボン付着量にばらつきが生じていることが分かる。
【0013】
図2は、コークス炉を構成する複数の炭化室(総数128)について、カーボン付着量と押出ラムの押出電力値との相関を示す散布図である。この結果より、カーボン付着量が多くなっても必ずしも押出電力値が高くなっていない炭化室や、カーボン付着量が少ないにも関わらず押出電力値が高くなっている炭化室が存在していることが分かった。また、図1と図2とを併せて考慮すると、炭化室のコークス生産サイクル数が多くなってカーボン付着量が増加しても、押出電力値が高くならない炭化室が存在するため、炭化室のコークス生産サイクル数が多くなっているという理由のみで、炭化室の炉壁に付着しているカーボンを除去するということは、必ずしも効率的でないということが分かった。
【0014】
図3およ図4はそれぞれ、コークス炉を構成するある炭化室について、コークス生産サイクル数に対する押出電力値の推移を示すグラフである。図3及び図4中、炉壁に付着しているカーボンを焼却除去した時期を、押出電力値0で示した。図3に示した炭化室では、押出電力値は、炉壁に付着しているカーボンを除去した後、それほどばらつくことなく一定値で推移し、コークス生産サイクル数が160を超えたあたりから、上下にばらつきながら上昇した。一方、図4に示した炭化室では、押出電力値は、カーボン除去後もばらつきながら推移し、再びカーボンを除去した後、ほぼ一定値に収束した。
【0015】
これらの現象を炭化室の内部観察結果に基づいて解析した結果、図3や図4の如く押出電力値にばらつきが生ずるのは、炉壁に付着しているカーボンが部分的に剥離して、これが抵抗となって押出電力値が高くなり、これが完全に剥離して炉壁から脱落すると、押出電力値が低下することが分かった。さらに図1を参酌すると、カーボン付着量がばらつくコークス生産サイクル数とカーボンが部分的に剥離するコークス生産サイクル数とに相関があることが分かる。また、炉壁に滑らかにカーボンが付着している場合には、押出電力値が高めに推移するかもしれないがそれほど問題にはならないこと、さらに、炉壁表面に凹凸が存在して押出電力値がばらついていたとしても、該凹凸を低減するようにカーボンが付着したり、或いは、剥離して、炉壁表面が滑らかになれば、押出電力値は低下することなどが分かった。
【0016】
さらに本発明者らは、上記知見に基づいてコークス炉炭化室の一層効率的な保守・点検方法として、特願2004−008347を出願している。斯かる方法は、石炭を乾留するための炭化室と前記炭化室を加熱するための燃焼室とを複数列備えるコークス炉において、生成したコークスを押出す際の押出抵抗値を利用して、炉壁に欠損やカーボン付着が生じている炭化室を効率的に選定する方法及び、該選定に基づいて、炭化室の炉壁に付着しているカーボンを除去するコークス炉の操業方法に関するものである。
【0017】
そして本発明は、上記選定方法において採用できる最大押出抵抗値から、燃焼室の燃焼不良によって最大押出抵抗値が高くなっている炭化室を選定するとともに、斯かる炭化室については、実測された最大押出抵抗値から、燃焼不良に基づく押出抵抗値を控除した押出抵抗値を最大押出抵抗値と看做す補正をすることによって、コークス炉を構成する複数の炭化室の中から、炉壁にカーボン付着が生じている炭化室を選定する精度を一層高めることを目的とする。
【0018】
上記課題を達成することのできた本発明とは、石炭を乾留するための炭化室と前記炭化室を加熱するための燃焼室とを交互に複数列備えるコークス炉において、炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を選定する方法であって、各炭化室において、生成したコークスを押出す毎に最大押出抵抗値と炉長方向に亘る炉壁温度を測定し、
該炉壁温度と炉壁目標温度とから燃焼室の燃焼状態指標値を求めて、前記燃焼状態指標値が一定以上の炭化室を選定し、前記選定された炭化室については、前記最大押出抵抗値から燃焼室における燃焼不良に基づく押出抵抗値を控除した押出抵抗値を最大押出抵抗値と看做す補正を行い、各炭化室について、最大押出抵抗値の特定サイクル分の平均値Aと、特定サイクル分の標準偏差Bとを求め、各炭化室について得られた押出抵抗値の平均値Aと標準偏差Bについて、コークス炉を構成する複数の炭化室を母集団とするその炭化室の偏差値S(A)及びS(B)を求めて、上記偏差値S(A)および上記S(B)に基づいて、複数の炭化室の中から炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を選定することを特徴とする。
【0019】
例えば、最新の押出し時から遡って5〜10サイクル分の最大押出抵抗値の平均値Aと、最新の押出し時から遡って5〜10サイクル分の最大押出抵抗値の標準偏差Bとを求めることが好ましい態様である。また、上記選定した炭化室の炉壁に付着したカーボンを除去して、コークス炉を操業することも本発明の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、コークス炉を構成する複数の炭化室の中から、炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を効率かつ精度よく選定できる。また、斯かる選定方法を採用してコークス炉を操業すれば、生成コークスを押出す際の最大押出抵抗値を安定化して、炉壁への負担を軽減でき、さらには、コークス炉の寿命を延長できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のカーボン付着炭化室の選定方法は、石炭を乾留するための炭化室と前記炭化室を加熱するための燃焼室とを交互に複数列備えるコークス炉において、炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を選定する方法であって、各炭化室において、生成したコークスを押出す毎に最大押出抵抗値と炉長方向に亘る炉壁温度とを測定し、該炉壁温度と炉壁目標温度とから燃焼室の燃焼状態指標値を求めて、前記燃焼状態指標値が一定以上の炭化室を選定し、前記選定された炭化室については、前記最大押出抵抗値から燃焼室における燃焼不良に基づく押出抵抗値を控除した押出抵抗値を最大押出抵抗値と看做す補正を行い、各炭化室について、最大押出抵抗値の特定サイクル分の平均値Aと、特定サイクル分の標準偏差Bとを求め、各炭化室について得られた押出抵抗値の平均値Aと標準偏差Bについて、コークス炉を構成する複数の炭化室を母集団とするその炭化室の偏差値S(A)及びS(B)を求めて、上記偏差値S(A)および上記S(B)に基づいて、複数の炭化室の中から炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を選定することを特徴とする。
【0022】
まず、生成したコークスを押出す毎に最大押出抵抗値と炉長方向に亘る炉壁温度とを測定し、該炉壁温度と炉壁温度とから、燃焼室の燃焼状態指標値を求めて、燃焼状態指標値が一定以上の炭化室を選定する方法について説明する。
【0023】
本発明において測定する最大押出抵抗値としては、生成したコークスを押出ラムで押出す際に押出ラムが受ける最大押出抵抗(負荷)を指標するものであれば、特に限定されず、例えば、押出ラムの最大押出電力値や押出ラム駆動用ギアの最大トルクなどを採用することができる。一般に、コークス製造においては、生成コークスを押出す際の押出電力値を管理する場合が多いので、最大押出電力値を採用することが簡便で好ましい態様である。また、生成コークスを押出す際に押出ラムに備え付けた温度計により、炉長方向に亘る炉壁温度を測定し、押出機側(マシンサイド)からの炉長若しくは燃焼室番号を横軸とし、炉壁温度を縦軸としてグラフを作成することによって、炭化室の炉壁の炉長方向の温度分布を調べることができる。押出ラムに備え付ける温度計は、押出ラムの任意の位置に取り付けることができ、ラムヘッドの任意の高さに複数付けることも好ましい態様である。
【0024】
図5は、ある炭化室において生成したコークスを押出す際に測定した炭化室の炉長方向の炉壁温度分布である(縦軸:炉壁温度、横軸:燃焼室番号)。図5において、「●」で表される線は炉壁目標温度であり「■」で表される線は、押出ラムに備え付けた温度計で実測した温度である。炉壁目標温度は、コークス製造における公知の方法によって設定することができ、例えば、炭化室のほぼ中心の燃焼室の温度を基準として、マシンサイドからコークス取出し側(コークスサイド)に向かって高く設定する。生成したコークスの押出を容易にするために、炭化室の形状をマシンサイドからコークスサイドに向かって炉幅が広くなるようにテーパー状の形状としているので、コークス化を均一に行うためには、マシンサイドからコークスサイドに向かって温度を高くする必要があるからである。
【0025】
図5では、コークスサイド及びマシンサイドにおいて、実測した炉壁温度(以下、『炉壁実測温度』という場合がある)が炉壁目標温度よりも低下していることが分かる。この炉壁実測温度と炉壁目標温度の乖離は、燃焼室の燃焼不良を示しており、炉壁実測温度が炉壁目標温度よりも低い場合には、燃焼室の燃焼が不十分であり、炉壁実測温度が炉壁目標温度よりも高い場合は、燃焼が過剰である。そして、本発明では、炉壁実測温度と炉壁目標温度とから、燃焼室の燃焼状態を指標するもの(以下、『燃焼状態指標値』という場合がある)を求める。前記燃焼状態指標値としては、図5における各小燃焼室における炉壁実測温度と炉壁目標温度の差の絶対値を全小燃焼室(20〜30)について積算したもの、図5における炉壁実測温度曲線と炉壁目標温度曲線とで囲まれる面積を使用することが好ましく、各燃焼室における炉壁実測温度と炉壁目標温度との差の絶対値を全小燃焼室について積算したものを使用することがより好ましい。尚、図6には、図5における炉壁実測温度曲線と炉壁目標温度曲線とで囲まれる面積(S1+S2+S3)を模式的に示した。
【0026】
コークス炉を構成する複数(総数128)の炭化室について、押出電力積算値と燃焼状態指標値との関係(図7)、及び、最大押出電力値と燃焼状態指標値との関係(図8)について調べた。
【0027】
図7より、燃焼状態指標値が一定値未満(本例では400未満)であれば、押出電力積算値は安定しているが、燃焼状態指標値が一定値(本例では400)以上になると押出電力積算値も増大することが分かる。ここで、押出電力積算値とは、押出を開始してから終了するまでの押出電力値を積算したものである。また図8より、燃焼状態指標値が一定値未満(本例では400未満)の場合には、最大押出電力値と燃焼状態指標値との間に相関は認められないが、燃焼状態指標値が一定値(本例では400)以上になると、燃焼状態指標値が高くなるにつれて、最大押出電力値も高くなっていることが分かる。これらの結果より、燃焼状態指標値が一定値(本例では400)以上になると、押出電力積算値および最大押出電力値は、燃焼不良による影響を受け易くなることが分かる。
【0028】
本発明では、上述のように燃焼状態指標値が一定値以上の炭化室、すなわち燃焼不良による影響を大きく受けている炭化室を選定し、斯かる炭化室については、生成コークスを押出す際の最大押出抵抗値から、燃焼室における燃焼不良に基づく押出抵抗値を控除することによって、炉壁にカーボン付着が生じている炭化室の選定精度を高めることができる。
【0029】
次に、前記選定された炭化室について、実測された最大押出抵抗値から燃焼室における燃焼不良に基づく押出抵抗値を控除する方法について説明する。図9は、図8における燃焼状態指標値が一定値(本例では400)以上の部分について、最大押出電力値と燃焼状態指標値との相関を示す近似線を引いたグラフである。尚、図9において、近似線は、最大押出電力値Dを、燃焼状態指標値iをとしたときに、
D=0.133i+94.409 ・・・式(a)で表される。
また図9から、燃焼室の燃焼状態が最大押出電力値に影響を及ぼす最低値が約150程度(147.609)であることが分かる。そうすると、式(a)より、147.609を差し引いたものが、燃焼室の燃焼不良に基づく最大押出電力値の増分と看做すことができ、燃焼室の燃焼不良に基づく最大押出電力値の増分(ΔD)は、
ΔD=0.133i−53.2 ・・・・式(b)で表される。
【0030】
本発明では、燃焼状態指標値が一定値以上の炭化室については、上記のようにして求めた燃焼不良に基づく押出電力値の増分(ΔD)を、実測された最大押出抵抗値から控除し、得られた押出抵抗値を最大押出抵抗値と看做す旨の補正を行う。斯かる補正を行うことによって、炉壁にカーボン付着が生じている炭化室を選定する精度を一層高めることができる。尚、本発明において、燃焼状態指標値と最大押出電力値との相関を示す近似線は、上記式(a)に限定されず、燃焼状態指標値が一定以上の炭化室の数や最大押出電力値に応じて適宜最適化することができる。
【0031】
本発明では次に、各炭化室において、生成したコークスを押出す毎に測定した最大押出抵抗値(燃焼状態指標値が一定以上のものについては、補正後の最大押出抵抗値)の特定サイクル分の平均値Aと、特定サイクル分の標準偏差Bとを求める。すなわち、生成したコークスを押出す毎に最大押出抵抗値を測定し、最大押出抵抗値(燃焼状態指標値が一定以上のものについては、補正後の最大押出抵抗値)をコークス生産サイクル数ともに記録する。そして、最大押出抵抗値(燃焼状態指標値が一定以上のものについては、補正後の最大押出抵抗値)の特定サイクル分の平均値A(以下、「サイクル平均押出抵抗値A」と称する場合がある)と標準偏差B(以下、「サイクル標準偏差B」と称する場合がある)とを求める。特に、最新の押出し時から遡って特定サイクル分の平均値Aと、最新の押出し時から遡って特定サイクル分の標準偏差Bをそれぞれ求めることが好ましい態様である。最新の押出し時から遡ることによって、最新の最大押出抵抗値(燃焼状態指標値が一定以上のものについては、補正後の最大押出抵抗値)を採用することができ、選定精度が高まるからである。
【0032】
上記サイクル平均押出抵抗値Aとサイクル標準偏差Bは、通常の算出方法により求めることができる。念のため算出方法を例示すると、特定サイクル数をZとし、各サイクルの押出抵抗値をXZ、XZ-1・・・X2、X1で表すと、サイクル平均押出抵抗値Aは、下記式(1)で表される。
【0033】
【数1】
【0034】
また、サイクル標準偏差Bは、下記式(2)で表わされる。
【0035】
【数2】
【0036】
(式(2)中、Xavは、Zサイクル分の平均押出抵抗値である。)
【0037】
本発明において、上記特定サイクル数Zは、サイクル平均押出抵抗値Aとサイクル標準偏差Bを求める際にそれぞれ任意に定めることができ、サイクル平均押出抵抗値Aを求めるために遡るサイクル数とサイクル標準偏差Bを求めるために遡るサイクル数が異なっていてもよい。尚、式(2)中、サイクル平均押出抵抗値として、Xavを使用するのは、上記平均値Aと上記標準偏差Bを算出するのに使用する特定サイクル数が異なる場合には、式(2)中のXavが、式(1)中の平均値Aと異なる場合が生ずるからである。上記特定サイクル数Zは、通常、5以上とすることが好ましく、より好ましくは7以上とする。5未満であると、炉壁の状態を十分に指標できない場合もあるからである。一方、上記特定サイクル数Zの上限は、特に限定されるものではないが、通常、15程度であることが好ましく、より好ましくは12、さらに好ましくは10程度である。算出の基礎とする特定サイクル数を増やしすぎると、過去の状態の影響を大きく受けて、最新の炉壁状態を反映しない場合が生じるからである。
【0038】
そして、コークス炉を構成する複数の炭化室のそれぞれについて、上記サイクル平均押出抵抗値Aとサイクル標準偏差Bを求めた後、各炭化室について得られたサイクル平均押出抵抗値Aとサイクル標準偏差Bについて、それぞれ、コークス炉を構成する複数の炭化室を母集団とする各炭化室の偏差値S(A)及びS(B)を求める。
【0039】
コークス炉を構成する複数の炭化室の数をNとし、炭化室No.1、No.2、No.3、・・No.N−2、No.N−1、No.Nの炭化室のそれぞれのサイクル平均押出抵抗値を、A1、A2、A3、・・・AN-2、AN-1、AN、及び、炭化室のそれぞれのサイクル標準偏差Bを、B1、B2、B3、・・・、BN-2、BN-1、BNとすると、N個の炭化室からなるコークス炉を母集団として、各炭化室について得られたサイクル平均押出抵抗値Aとサイクル標準偏差Bについての偏差値S(A)およびS(B)は、それぞれ次式(3)〜(5)及び(6)〜(8)で表される。
【0040】
【数3】
【0041】
式(3)は、サイクル平均押出抵抗値Aについて、N個の炭化室を母集団とする個数平均値を求めるものである。
【0042】
【数4】
【0043】
式(4)は、サイクル平均押出抵抗値Aについて、N個の炭化室を母集団とする標準偏差を求めるものである。
【0044】
【数5】
【0045】
式(5)は、ある炭化室のサイクル平均押出抵抗値Aについて、N個の炭化室を母集団とする偏差値を求めるものである。
【0046】
【数6】
【0047】
式(6)は、サイクル標準偏差Bについて、N個の炭化室を母集団とする個数平均値を求めるものである。
【0048】
【数7】
【0049】
式(7)は、サイクル標準偏差Bについて、N個の炭化室を母集団とする標準偏差を求めるものである。
【0050】
【数8】
【0051】
式(8)は、ある炭化室のサイクル標準偏差Bについて、N個の炭化室を母集団とする偏差値を求めるものである。
【0052】
本発明では、上記のようにして得られた偏差値S(A)およびS(B)に基づいて、複数の炭化室の中から炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を選定する。
上記偏差値S(A)およびS(B)に基づくカーボン付着炭化室の選定は、例えば、下記式(9)で表されるFに基づいて行うことができる。
F=a・S(A)+b・S(B)(但し、a,bは、任意の有理数)・・・式(9)
ここで、S(A)は、炉壁に付着している滑らかなカーボンの程度を指標するものであり、S(B)は、炉壁から部分的に剥離したり、或いは、完全に剥離して、押出抵抗値のばらつきの原因となるようなカーボンの程度を指標するものである。そして、Fは、これらの影響を総合的に指標するものである。S(A)とS(B)とを総合的に考慮するのは、例えば、炉壁に付着している滑らかなカーボンの付着量が多く、押出抵抗値が高く推移している場合において、カーボンの一部が剥離して、押出抵抗値が一時的に極端に高くなると、炉壁に過度の負荷がかかって、炉壁の煉瓦の損傷や炉壁の変形などの原因となるからである。また、カーボン付着の程度を総合的に指標するF中のS(A)とS(B)の割合を意味するaとbは、考慮すべき因子の重み付けに相当し、例えば、S(A)の因子がS(B)の因子より重要である場合には、a≧bとなるようにし、S(B)の因子がS(A)の因子より重要である場合には、a≦bとなるように適宜選択することができる。通常、a:b=1:1とすることが経験的に好ましい。また、前記aおよびbとしては、任意に有理数を採用することができるが、好ましくは整数であり、さらに好ましくは1〜10程度の自然数とする。
【0053】
そして、式(9)によって得られる上記Fの値が大きいほど、炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室であると選定できる。また、選定の際、例えば、コークス生産サイクル数が100サイクル以上、より好ましくは120サイクル以上、さらに好ましくは140サイクル以上の炭化室のみを対象としてもよい。100サイクル未満の炭化室において、炉壁に付着しているカーボンを除去する必要があるのはまれであるからである。また上述した様に、生産サイクル数が120サイクル以上になると炉壁付着カーボン量がばらつく傾向があるからである(図1参照)。
【0054】
炉壁に付着しているカーボンを除去する方法は、特に限定されず、例えば、炭化室を空の状態で加熱し、炉壁付着のカーボンと炉壁の煉瓦との熱膨張差により炉壁付着カーボンを剥離させる方法、及び、空の状態の炭化室に大量の大気を強制的に吹き込んで、炉壁付着カーボンを燃焼除去する方法などを挙げることができる。
【0055】
本発明のコークス炉の操業方法は、前記選定結果に基づいて、炉壁に付着しているカーボンを除去しつつ、コークス炉を操業するものであれば、特に限定されない。上述した如く、コークス炉の操業は、原料となる石炭を各炭化室内に充填し、約1,000℃の高温で20時間程度乾留した後、押出ラムで生成コークスを炭化室から押出すサイクルを繰り返すことによって行なわれる。各炭化室においてカーボンを除去する必要が生じたときには、それぞれの炭化室の生産サイクルの適当な時期を見計らってカーボンを除去しつつ、コークス炉を操業するようにすればよい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例によってより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0057】
表1から表5には、128の炭化室によって構成されるコークス炉の炭化室の内、コークス生産サイクル数が140以上の炭化室について、最新の押出サイクル数、及び、最新の押出時から遡って10サイクル分の最大押出電力値と燃焼状態指標値と補正値と補正後の最大押出電力値とを示した。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
表1〜表5の測定結果に基づき、最新の押出し時から遡って5サイクル分のサイクル平均押出抵抗値Aと10サイクル分のサイクル標準偏差Bとを各炭化室について求めた。次いで、各炭化室のサイクル平均押出抵抗値Aとサイクル標準偏差Bについて、サイクル数が140以上の炭化室を母集団とする偏差値S(A)、S(B)、及び、F=S(A)+S(B)(a=b=1)を求め、Fの大きい順に、炭化室に優先順位を付けた。結果を表6に示した。また、本発明者らが先に提案した特願2004−008347号による選定方法に基づき、燃焼不良に基づく押出抵抗値の補正を行わず、サイクル数が140以上の炭化室について、F=S(A)+S(B)(a=b=1)を求め、Fの大きい順に炭化室に優先順位を付けた結果を参考例として、表7に示した。また、表8には、本発明による優先順位と参考例による優先順位の対比を示した。
【0064】
【表6】
【0065】
【表7】
【0066】
【表8】
【0067】
表6〜表8から明らかなように、本発明に従って燃焼不良に基づく押出抵抗値の補正を行うことによって、カーボンを除去すべき炭化室の優先順位に変動が生じていることが分かる。この結果より、参考例によるカーボン付着炭化室の選定方法では、カーボン付着による押出不良ではないものについてもカーボンの除去を行うという無駄な保守点検作業が生じていたと考えられ、本発明によれば、これらの無駄な保守点検作業を低減してカーボンを除去すべき炭化室を一層効率的に選定することができる。
【0068】
尚、本発明者らが先に提案した参考例による方法により、カーボン付着炭化室を選定し、カーボンを除去しつつ、コークス炉の操業を約3ヶ月間実施した結果を図10に、押出電力値と生成コークスサイクル数に基づく従来の保守点検作業を約3ケ月間実施した結果を図11に示した。図10から明らかなように、参考例に従ってカーボン付着炭化室を選定し、カーボンを除去しつつコークス炉を操業すれば、カーボン付着による押出不良ではないものについてもカーボンの除去を行うという無駄な保守点検作業が生じているかもしれないが、コークス生産サイクル数が増加しても最大押出電力値が安定化され、生成コークス押出し時にも、炉壁や押出機への負荷が低減されていることが明らかである。一方、図11から、コークス生産サイクル数や押出電力値のみに基づく保守点検作業では、以前として押出電力値が高くなっている炭化室が存在することから、従来の選定基準によるカーボン除去では、必ずしも効率的でないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、複数の炭化室によって構成されるコークス炉において、炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を選定する方法、及び、該選定に基づいて、炭化室のカーボンを除去するコークス炉の操業方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】コークス生産サイクル数と炉壁のカーボン付着量との相関を示す散布図である。
【図2】最大押出電力値と炉壁のカーボン付着量との相関を示す散布図である。
【図3】ある炭化室におけるコークス生産サイクル数に対する押出電力値の推移を示すグラフである。
【図4】別の炭化室におけるコークス生産サイクル数に対する押出電力値の推移を示すグラフである。
【図5】ある炭化室における炉壁温度分布を示すグラフである。
【図6】炉壁目標温度と炉壁実測温度とに囲まれる面積(燃焼状態指標値)を模式的に示すグラフである。
【図7】総数128の炭化室について、押出電力積算値と燃焼状態指標値との関係を示す散布図である。
【図8】総数128の炭化室について、最大押出電力値と燃焼状態指標との関係を示す散布図である。
【図9】最大押出電力値と燃焼状態指標値との関係を示すグラフである。
【図10】参考例によるコークス生産サイクル数と最大押出電力値との関係を示す散布図である。
【図11】従来法によるコークス生産サイクル数と最大押出電力値との関係を示す散布図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を乾留するための炭化室と前記炭化室を加熱するための燃焼室とを交互に複数列備えるコークス炉において、炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を選定する方法であって、
各炭化室において、生成したコークスを押出す毎に最大押出抵抗値と炉長方向に亘る炉壁温度とを測定し、
該炉壁温度と炉壁目標温度とから燃焼室の燃焼状態指標値を求めて、前記燃焼状態指標値が一定以上の炭化室を選定し、前記選定された炭化室については、前記最大押出抵抗値から燃焼室における燃焼不良に基づく押出抵抗値を控除した押出抵抗値を最大押出抵抗値と看做す補正を行い、
各炭化室について、最大押出抵抗値の特定サイクル分の平均値Aと、特定サイクル分の標準偏差Bとを求め、
各炭化室について得られた最大押出抵抗値の平均値Aと標準偏差Bについて、コークス炉を構成する複数の炭化室を母集団とするその炭化室の偏差値S(A)及びS(B)を求めて、上記偏差値S(A)および上記S(B)に基づいて、複数の炭化室の中から炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を選定することを特徴とするカーボン付着炭化室の選定方法。
【請求項2】
最新の押出時から遡って5〜10サイクル分の最大押出抵抗値の平均値Aと、最新の押出時から遡って5〜10サイクル分の最大押出抵抗値の標準偏差Bを求める請求項1に記載のカーボン付着炭化室の選定方法。
【請求項3】
請求項1又2の偏差値S(A)およびS(B)に基づいて、選定した炭化室の炉壁に付着したカーボンを除去することを特徴とするコークス炉の操業方法。
【請求項1】
石炭を乾留するための炭化室と前記炭化室を加熱するための燃焼室とを交互に複数列備えるコークス炉において、炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を選定する方法であって、
各炭化室において、生成したコークスを押出す毎に最大押出抵抗値と炉長方向に亘る炉壁温度とを測定し、
該炉壁温度と炉壁目標温度とから燃焼室の燃焼状態指標値を求めて、前記燃焼状態指標値が一定以上の炭化室を選定し、前記選定された炭化室については、前記最大押出抵抗値から燃焼室における燃焼不良に基づく押出抵抗値を控除した押出抵抗値を最大押出抵抗値と看做す補正を行い、
各炭化室について、最大押出抵抗値の特定サイクル分の平均値Aと、特定サイクル分の標準偏差Bとを求め、
各炭化室について得られた最大押出抵抗値の平均値Aと標準偏差Bについて、コークス炉を構成する複数の炭化室を母集団とするその炭化室の偏差値S(A)及びS(B)を求めて、上記偏差値S(A)および上記S(B)に基づいて、複数の炭化室の中から炉壁に付着しているカーボンを除去すべき炭化室を選定することを特徴とするカーボン付着炭化室の選定方法。
【請求項2】
最新の押出時から遡って5〜10サイクル分の最大押出抵抗値の平均値Aと、最新の押出時から遡って5〜10サイクル分の最大押出抵抗値の標準偏差Bを求める請求項1に記載のカーボン付着炭化室の選定方法。
【請求項3】
請求項1又2の偏差値S(A)およびS(B)に基づいて、選定した炭化室の炉壁に付着したカーボンを除去することを特徴とするコークス炉の操業方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−70111(P2006−70111A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−253357(P2004−253357)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000156961)関西熱化学株式会社 (117)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000156961)関西熱化学株式会社 (117)
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