説明

ガスの処理方法

【課題】SO成分を含むガス、例えばボイラ等で硫黄を含有する燃料の燃焼により発生するガス中の、白煙又は紫煙などの原因となるSO成分及びSO成分に由来する硫酸ミストを安価に効率良くかつ簡便安全に除去する方法の提供。
【解決手段】ボイラ1で燃料が燃焼されて生成し、煙道を通って空気予熱器2、脱硫装置4、次いで煙突5に送られるガスを処理する方法であって、平均粒子直径20μm以下、安息角65°以下、かつ分散度10%以上の炭酸水素ナトリウム粉末を、60℃以上に加熱した気体媒体を用いて分解し、少なくとも1つの煙道にて、SOを500体積ppm以上含有し、さらにSO成分を含むガス中に噴霧することにより、ガス中のSO成分を除去するガスの処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ等で硫黄分を含有する燃料の燃焼により発生するガス等に含まれるSO成分を、安価に効率良くかつ簡便、安全に中和する、ガスの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重油や石炭やコークスに代表される硫黄分を含む燃料を燃焼したり、鉄鉱石等の硫黄を含む原料を燃焼したりすると、SOやHSOが排ガス中に含有され、装置の腐食や大気汚染の原因となる。SOやHSOは、排ガスに含まれる水蒸気と反応して硫酸ミストとなり、大気中に排出されると白煙又は紫煙の原因となる。
【0003】
そのため、従来よりSO、HSO及び硫酸ミスト(本明細書ではこれらをまとめてSO成分というものとする。)を除去するために、カルシウムやマグネシウムの酸化物、水酸化物等を有機溶媒に分散したスラリを、あらかじめ燃料中に添加してSO成分の生成を防止したり、燃焼後のガスに添加したりしてSO成分を中和する方法等が使用されてきた。しかし、これらの方法ではボイラの熱交換部に添加物が堆積しやすく、多量に堆積するとボイラの運転に支障が起こるため、添加物の多量の使用が困難であった。
【0004】
また、煙道の途中でSO成分を積極的に中和するため、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等の粉体や該粉体を水に分散させたスラリを、排ガスが空気予熱器を通過した後の煙道に注入する方法も使用されている。しかし、この方法において粉体自体を注入する場合は、流動性に乏しい微粉末をスクリューフィーダ等によって注入するため定量性が悪く、安定的な効果が得にくい。さらにこれらの粉体は凝集しやすいために、ガス中に均一に分散しにくく中和剤としての効果が低い。また、スラリの状態で注入する場合は、スラリを注入するための移送ラインにスラリに含まれる粉体が堆積して詰りやすく、安定的に一定量で使用することが困難である。
【0005】
また、例えば酸化マグネシウムを使用する場合、酸化マグネシウムは反応効率が低いため酸化マグネシウム粉体の過剰の添加が必要とされる。この場合、煙道には未反応の酸化マグネシウムが残存するが、酸化マグネシウムは水への溶解性が低いため酸化マグネシウムの後処理に問題が生じることがある。さらに、微粉で流動性が不良であるために注入量を定量化することが困難である等の問題があった。
【0006】
一方、アンモニアを煙道に注入する方法もあるが、高圧ガス等の取り扱い上の規制や使用温度に問題があり、さらに別途の大規模な設備が必要である。また、アンモニアによるSOの除去の場合、充分な注入量を維持しないと酸性硫酸アンモニウムが生成する。酸性硫酸アンモニウムが装置に付着するとトラブルの原因となるので、アンモニアを過剰に注入せねばならず、過剰分のアンモニアは大気中に放出されるため環境保全上問題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ボイラ等の操作において、稼働率の低下を防止し、安定な運転を行うには、硫黄酸化物、特にSO成分を中和除去することにより、排ガスの冷却による硫酸ミストの生成を防止し、排ガスを排出するまでの各工程や煙道側壁等における酸による腐食や煙道の閉塞等を防止することが必要である。
【0008】
また、SO成分が冷却され水蒸気と反応すると硫酸ミストが生成し、煙突から排出されると白煙となってたなびく。この白煙は天候によって紫煙、茶煙又は黒煙として観察されるが、そのたなびきは容易には消失しない。白煙等となる硫酸ミストは、降下地点の人体や動植物に障害を与える。さらに、煙道等で堆積した煤塵は負荷変動等により、硫酸を多く含有したアシッドスマットとして排出され、酸性降下煤塵になり環境を悪化させる。これらの被害は、排ガスにSOが含まれている場合と比較して、特に煙突近隣における被害が大きい。そのため、SO成分を中和除去することによりこれらを抑制することは、環境対策上非常に有効である。
【0009】
したがって、SO成分を含むガス、例えば化石燃料の燃焼排気ガス等の、ボイラ等で硫黄分を含有する燃料を使用することにより発生するガスや、SO成分を不純物として含みその除去が必要であるガスにおいて、SO成分をより効率良く安全に中和処理し、除去する方法が求められている。また、製鋼、製鉄、非鉄金属精錬、ガラス溶融、硫酸製造、界面活性剤製造等における廃液や廃油や廃ガスや固形廃棄物の燃焼等の排気ガスの処理においてもSO成分を除去することが必要であり、SO成分の効率良い安全な中和処理方法が求められている。そこで本発明は、上記のようなガス中からSO成分を効率良く簡便かつ安全に除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ボイラで燃料が燃焼されて生成し、煙道を通って空気予熱器、脱硫装置、次いで煙突に送られるガスを処理する方法であって、平均粒子直径20μm以下、安息角65°以下、かつ分散度10%以上の炭酸水素ナトリウム粉末を、60℃以上に加熱した気体媒体を用いて分解し、少なくとも1つの煙道にて、SOを500体積ppm以上含有し、さらにSO成分を含むガス中に噴霧することにより、ガス中のSO成分を除去することを特徴とするSO成分を含むガスの処理方法を提供する。
【0011】
本発明において、炭酸水素ナトリウム粉末は60℃以上に加熱した気体媒体により、処理すべきガス中に噴霧されるが、炭酸水素ナトリウム粉末は、60℃以上の気体中、例えば酸(SO成分)の露点以上に加熱した気体中では、分解して炭酸ナトリウムと二酸化炭素と水となる。このとき、二酸化炭素と水が抜けた部分が空孔となって、空隙率が高く比表面積の大きい多孔質構造を有する炭酸ナトリウムの粒子となる。粒子が多孔質構造であるとSO等の吸着力が高くなり、SO成分を迅速な中和により除去できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ガス中のSO成分及びそれに由来する硫酸ミストを安価に効率良くかつ簡便、安全に除去できる。したがって、ボイラ等から排出される排気ガスの白煙及び紫煙などの着色煙を抑制できる。また、排気ガス以外の、SO成分を不純物として含むガスにおいても、SO成分の除去を安価に効率良くかつ簡便、安全に行うことは工業生産上有意義である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ボイラで燃焼された排ガスを処理する方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における炭酸水素ナトリウム粉末は、平均粒子直径20μm以下、好ましくは15μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。平均粒子直径20μm以下の炭酸水素ナトリウムは、粒子自体の比表面積が大きく、かつ熱分解時に形成される細孔の直径が大きい。そのため、SO成分のみかけ上の拡散速度が速くなり、その結果反応性が高くなると思われる。炭酸水素ナトリウム粉末の平均粒子直径は小さいほどSO成分のみかけ上の拡散速度が速いので好ましく、その下限はSO成分の除去効果の観点からは制限されないが、粉末の粉砕に要する費用や、製造した微粉末の取り扱いやすさを考慮すると、1μm以上であることが好ましい。
【0015】
処理すべきガス中に添加される炭酸水素ナトリウム粉末は、粉体物性として安息角が65°以下、特に60°以下であることが好ましい。安息角がこの範囲の炭酸水素ナトリウム粉末は流動性が良好で、例えば煙道へ噴霧する場合でも良好な噴霧状態を維持でき、さらに貯槽からの排出や空気輸送なども容易であるため、安定的に貯槽から排出され、被処理ガス中に所定量を定量的に注入でき、効率良くSOと反応する。そのため炭酸水素ナトリウムの噴霧使用量を少なくでき、かつ粉体としての取り扱いと制御が容易である。なお、ここでいう炭酸水素ナトリウム粉末の安息角とは、後述のように炭酸水素ナトリウムに固結防止剤や粗粒を加えてガス中に添加する場合は添加される粉体全体(混合物)の安息角を示す。
【0016】
ここで安息角は、ホソカワミクロン社製のパウダテスタPT−D型を使用して測定できる。すなわち、安息角は、粉体試料を直径80mm、目開き710μmの篩を振動させながら通過させた後、水平面に160mmの高さの漏斗から直径80mmのテーブルに静かに落下させた時に、粉体によって形成された円錐体の母線と水平面のなす角を測定することで規定する数値である。
【0017】
炭酸水素ナトリウム粉末は、ガス中に含まれるSO成分に対して1〜16倍モル、特に4〜10倍モル添加することが好ましい。1倍モル未満であると充分にはSO成分を除去できず、白煙又は紫煙の除去効果が不充分となるおそれがある。しかし本発明における炭酸水素ナトリウムは水酸化マグネシウム等に比べ反応効率が高いので、16倍モル存在すれば煤塵中に吸着されている以外のSO成分まで除去できるのでそれ以上の添加は不必要である。
【0018】
ここで発明者らの実際の発電所ボイラによる試験での煙突からの排気の肉眼での観察では、SO成分をSOに換算して2体積ppm以下とすれば、白煙又は紫煙の防止効果が有意義に確認できた。よってこの水準が維持できる量の炭酸水素ナトリウムを添加すれば良好な結果を得ることができる。
【0019】
本発明の方法では、500体積ppmさらには1000体積ppmを超える高濃度のSOを含むガス中に20体積ppm程度の少量のSOが含有されているガスから、SO成分を選択的に除去できる。従来SOの除去方法としてSOを除去する技術は多数開示されているが、SO成分を簡便にかつ選択的に除去できる技術は開示されていない。
【0020】
本発明ではSO成分を除去するための中和剤として炭酸水素ナトリウムを使用しているため、高圧ガスとしての取り扱い及び劇毒物の規制があるアンモニアや、劇物である水酸化ナトリウムに比較して、作業者が安全に取り扱うことができる。また、エゼクタなどの簡易な噴霧装置のみで実施できるため、実施にあたって高価な設備投資が不要である。本発明の方法では中和によりSO成分を除去するので、同じく中和により除去を行う、従来技術のアンモニアを注入する方法と容易に代替でき、従来の方法との併用もできる。
【0021】
本発明では、より効率よくガス中のSO成分を除去するために、炭酸水素ナトリウム中に炭酸水素ナトリウムの固結防止剤を混合してガス中に添加することが好ましい。炭酸水素ナトリウムは、微量の水分の存在により粒子が凝集し、固結して流動性が悪化しやすい。そのため20μm以下まで粉砕した状態で保管すると、保管時に固結したり使用時の分散性が低下したりしやすい。しかし、固結防止剤の存在により炭酸水素ナトリウムの凝集を抑制できるので、炭酸水素ナトリウムの高い流動性が維持でき、微粉末の炭酸水素ナトリウムをガス中に良好に分散させられる。その結果、高い反応効率すなわちSOの高い除去効果を維持できる。
【0022】
上記固結防止剤の平均粒子直径は、0.005〜5.0μm、特に0.005〜2.0μmであることが好ましい。この範囲の平均粒子直径の微粒子を固結防止剤として加えると、固結防止剤粒子が炭酸水素ナトリウム粒子の表面に付着し、炭酸水素ナトリウムの粒子どうしが凝集するのを防止できる。固結防止剤の平均粒子直径は0.005μm未満としても固結防止効果は高まらず、かつ安価な工業製品として入手できない。また、固結防止剤は、炭酸水素ナトリウム粒子間に介在し炭酸水素ナトリウム粒子同士の接触を防止することにより炭酸水素ナトリウム粒子の固結を防止しているので、平均粒子直径5.0μm超の大粒子であると、微粒子の場合と同じ質量割合を添加しても、固結防止剤の個数が少ないため固結防止効果が減少する。
【0023】
固結防止剤としては、炭酸マグネシウム、シリカ、アルミナ、アルミノシリケート、人工又は天然のゼオライト、ステアリン酸塩等、粉体の固結防止や流動性の向上を目的に添加される物質として一般に公知のものが使用でき、複数の物質を混合して使用することもできる。なかでもシリカが好ましく、シリカのなかでも平均粒子径の細かさと、固結防止効果と、入手の容易性よりヒュームドシリカが特に好ましい。
【0024】
ヒュームドシリカを使用する場合、装置に対する炭酸水素ナトリウムの注入位置によっては水への分散性が良好な親水性のヒュームドシリカが好ましい。疎水性のシリカでも炭酸水素ナトリウムの流動性改善の効果は良好であるが、例えばボイラでは排煙脱硫装置の上流で炭酸水素ナトリウム及びその固結防止剤を添加した場合、排煙脱硫装置の吸収塔で疎水性シリカが凝集して気液界面に膜が形成され、その膜が空気等の影響で撹拌されると発泡するおそれがある。
【0025】
シリカは、疎水化処理されていなければ親水性を有しており、固結防止剤として好適に使用できる。親水性のヒュームドシリカは水に浮上せず水中に分散するので、上記のような発泡による支障が発生しない。一方、炭酸水素ナトリウム及びその固結防止剤を添加する箇所と排煙脱硫装置との間に電気集塵器が設置されているプロセスにおいては、前述の発泡等の支障が発生しないので、固結防止剤は疎水性、親水性を問わず使用できる。
【0026】
また、固結防止剤としてはゼオライトも好ましく使用できる。ゼオライトは固結防止剤としての効果はヒュームドシリカより劣るものの酸性成分と反応し中和する効果を有するために好適に使用できる。特に4A型ゼオライトと称される合成ゼオライトは平均粒子直径が1〜5μm程度と小さく、ナトリウムを含むので酸性成分の中和作用も強く好ましい。さらにこのゼオライトは乾燥剤としても使用できるために炭酸水素ナトリウムの固結をより抑制でき、ヒュームドシリカと併用するとさらに効果的である。
【0027】
本発明では、固結防止剤を添加する場合、炭酸水素ナトリウムに対し0.1〜5.0質量%、特に0.3〜2.0質量%添加することが好ましい。0.1質量%未満であると、炭酸水素ナトリウムの流動性改善の効果が低い。固結防止剤の添加量が5.0質量%を超えても効果は高まらずコストが高くなるのみである。
【0028】
また、炭酸水素ナトリウム粉末を貯槽に貯留しておいて使用する場合において、その排出性を改善するために、平均粒子直径20μm超、特には50μm以上の炭酸水素ナトリウム又は炭酸ナトリウムの粗粒を混合することが好ましい。上記粗粒の平均粒子直径の上限は、工業的に使用するための入手の容易さから400μm以下が好ましい。上記粗粒の混合量は、炭酸水素ナトリウムにおいては平均粒子直径20μm以下の炭酸水素ナトリウムの20〜50質量%、炭酸ナトリウムにおいては13〜50質量%を混合することが有効である。また、炭酸水素ナトリウムの粗粒と炭酸ナトリウムの粗粒は混合し用いてもよい。
【0029】
上記の量の割合で粗粒を混合することにより、ラットホールと称される、貯槽内における粉体の中央部分だけ排出されて、壁近傍部分に粉体が残留する現象を防止できる。この効果は、物理的には大粒子を混合することで得られるが、酸性成分の除去効果を考慮すると、炭酸水素ナトリウム又は炭酸ナトリウムの粗粒を使用することが好ましい。炭酸ナトリウムの粗粒を使用する場合、SO成分の除去効果から、軽灰と称される多孔質の炭酸ナトリウムの使用が好ましい。
【0030】
ここで炭酸ナトリウムを使用するときは、吸湿性が強いために、長期間包装した形態で保管するためには、防湿処理された包装材料にて包装することが重要である。
【0031】
本発明では、処理すべきガスの温度は特に制限されない。炭酸水素ナトリウムを噴霧するために炭酸水素ナトリウムとともにガス中に供給される気体媒体を60℃以上に加熱しているので、処理すべきガスに噴霧する直前で炭酸水素ナトリウムが炭酸ナトリウムに分解されてガス中に噴霧される。
【0032】
本発明では、ガス中に流動性の高い炭酸水素ナトリウム粉末を好ましくは固結防止剤及び/又は粗粒とともに添加しているので、スラリと違い沈殿することがなく取り扱いやすい。また装置に詰りが生じることがなく、定量的に炭酸水素ナトリウムを注入でき、安定して正確な中和によりSO成分を除去できる。さらに、水溶液ではなく乾式で供給しているため設備の腐食などの問題が起こらず、装置と運転の管理が容易であり、安定した運転が維持できる。
【0033】
次に、ボイラで燃料が燃焼されて生成した排ガスを処理する方法を例にとって、図1を参照しながら本発明の方法を具体的に説明する。図1は、ボイラで燃焼された排ガスを処理する方法を示す図である。
【0034】
ボイラ1で燃焼された高温の排ガスは、第1の煙道6を通って空気予熱器2に送られる。ここでは燃料原単位を向上させるためボイラ1に送られる燃焼用空気と熱交換され、燃焼用空気の温度を上昇させる。次いで排ガスは第2の煙道7を通って電気集塵機3に送られ、排ガス中に含まれる粉塵を静電気により除去する。ここで電気集塵機3のかわりにバグフィルタを用いてもよく、また電気集塵機3は排ガスに含まれる成分によっては省略してもよい。電気集塵機3を通った排ガスは、第3の煙道8を通って脱硫装置4に送られ、SO等が水酸化マグネシウムスラリ等により除去される。次いで排ガスは第4の煙道9を通って煙突5に送られ、煙突5から排出される。
【0035】
SO成分を含有する排ガスが例えばSO換算で20体積ppm程度であっても、煙突5から白煙又は紫煙が長くたなびく現象が現れる。この主な原因は、排ガス中に含まれるSO成分が煙道及び脱硫装置4内で、雰囲気中に含まれる水蒸気と反応して硫酸ミストを形成するためと考えられる。したがって、排ガス中に炭酸水素ナトリウム粉末を添加することで、SO成分及び硫酸ミストを除去すれば、白煙又は紫煙等の着色煙の発生は防止できる。ガス中のSO成分濃度を、SO換算で2体積ppm以下に下げれば、ほとんど肉眼では観察できなくなるまでに、白煙又は紫煙を防止できる。
【0036】
上記工程において、本発明では炭酸水素ナトリウム粉末が第1の煙道6から第4の煙道9の間の少なくとも1つの煙道で、加熱された空気等の気体媒体により添加されるが、添加される煙道は目的に応じて適宜選択される。本発明では、加熱された気体媒体を用いて炭酸水素ナトリウムを噴霧し、ガス中には炭酸ナトリウムとして供給されるので、第3の煙道8でも第4の煙道9でも効果的にSO成分を除去できる。
【実施例】
【0037】
[例1]炭酸水素ナトリウムの添加によるガス中のSO成分の除去効果を確認するため、実際の発電所のボイラで燃料が燃焼されて生成した排ガスを用いて試験を行った。ここで設備の構成は、図1から電気集塵器3と第2の煙道7を除いたものであり、炭酸水素ナトリウムはガスの温度が50℃になっている第4の煙道9中に噴霧した。具体的には下記の工程で排ガスを処理し、脱硫装置4と煙突5の間の第4の煙道9において、25℃の空気と200℃の加熱空気を使用して表1に示す各量の平均粒子直径9μmの炭酸水素ナトリウム粉末に平均粒子直径0.01μmの親水性のヒュームドシリカを炭酸水素ナトリウム粉末に対して1.0質量%添加した混合物を噴霧した。
【0038】
そして、煙突5から排出されるガス中のSO成分の定量を行って評価した。また、煙突5から排出されるSO成分に起因する白煙(紫煙も含む)のたなびきを目視で観察して評価した。結果を表1に示す。表1には比較として炭酸水素ナトリウム粉末を添加しなかった場合も記載している。
【0039】
なお、表1中の炭酸水素ナトリウム粉末の添加量は、脱硫装置に送られる前(水蒸気に接触して硫酸ミスとが生成する前)の排ガス中に含まれるSO成分に対するモル比で示した。
【0040】
工程:ボイラで燃焼された高温の排ガスを、第1の煙道6を通して空気予熱器2に送って燃焼用空気と熱交換した後、排ガスを第3の煙道8を通して脱硫装置4に送り、水酸化マグネシウムスラリによりSO等を除去し、次いで第4の煙道9を通して煙突5に送り、煙突5から排出する。
【0041】
なお、実施時のボイラの設備仕様と排ガス組成は以下のとおりであった。
<ボイラ仕様>型式:強制貫流式ベンソンボイラ、蒸発量:83t/hr、蒸気温度:520℃、蒸気圧力:137×10Pa。
<排ガス組成>O:4.5体積%、SO:1400体積ppm、SO成分の換算濃度:17体積ppm。
【0042】
【表1】

【0043】
なお、表1における炭酸水素ナトリウム純分は、炭酸水素ナトリウムを第4の煙道9へ注入するための配管の途中で吸引、採取した固形物中の炭酸水素ナトリウムの分析値であり、中和滴定法により測定した。表1より、25℃の空気を使用して噴霧した場合は炭酸水素ナトリウムの分解が進行していないため、SO成分の除去が不充分であった。そのため、煙突から排出される白煙も25℃の空気を使用して噴霧した場合は、炭酸水素ナトリウム無添加の場合と比べ白煙のたなびきの濃度は半減したがたなびきの長さは差がなかった。一方、200℃の空気を使用して噴霧した場合の白煙のたなびきの濃度は注視して判別できる程度であり、長さも炭酸水素ナトリウム無添加の場合と比べ大幅に減少した。
【0044】
[例2]空気予熱器2と脱硫装置4との間の煙道7において、平均粒子直径9μmの炭酸水素ナトリウム粉末に平均粒子直径0.01μmの親水性のヒュームドシリカを炭酸水素ナトリウム粉末に対して1.0質量%添加した混合物を、表2に示す各量で、25℃と200℃の温度の空気をそれぞれ使用して噴霧注入した。すなわち、注入位置以外は例1と同様にして試験を実施し、例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
なお、表2における炭酸水素ナトリウム純分は、炭酸水素ナトリウムを煙道7へ注入するための配管の途中で吸引、採取した固形物中の炭酸水素ナトリウムの分析値であり、中和滴定法により測定した。表2より、200℃の空気を使用して噴霧した方が、SO成分が充分に除去されている。200℃の空気を使用した場合は、事前に炭酸水素ナトリウムが分解してから煙道に注入されるのに対し、25℃の空気を使用した場合には煙道7中で炭酸水素ナトリウムが分解するため、その分解に要する時間分、SO成分との反応時間が減少したためと推定される。また、SO成分が2ppmとなるとたなびきが消失することが確認できた。
【0047】
[例3]炭酸水素ナトリウム粉末の、固結防止剤の添加による流動性及び分散性の向上効果を確認するために以下の試験を行った。すなわち、平均粒子直径9μmの炭酸水素ナトリウム粉末に何も添加しなかったもの、当該炭酸水素ナトリウム粉末に対し固結防止剤として親水性のヒュームドシリカを1質量%添加したもの、及び当該炭酸水素ナトリウム粉末に対し固結防止剤としてゼオライト1質量%を添加したものそれぞれについて物性を評価した。
【0048】
上記物性としては、流動性の指標としては安息角、分散性の指標としては分散度を測定して評価した。一般的に安息角は65°を超えると流動性が悪化して貯槽からの排出が困難となるなど取り扱い性が低下し、分散度は10%を下回ると噴流性が悪化して気流中に噴霧した時の飛散状態が悪化すると判断できる。
【0049】
ここで安息角は上述した方法で測定した。また分散度はホソカワミクロン社製のパウダテスタPT−D型を使用し測定した。すなわち、粉体試料10gを、凹面が上になる様に設置した直径10cmの時計皿の上に、61cmの高さから一気に落下させ、落下させた粉体試料の全質量に対する時計皿の外に飛散した粉体試料の質量の100分率として規定した数値である。
【0050】
【表3】

【0051】
この結果より、親水性シリカやゼオライトの添加によって炭酸水素ナトリウムの安息角と分散度がかわり、粉体としての流動性と分散性が改善されていることがわかる。
【0052】
次に、表3に示した各粉体をそれぞれ用い、空気を用いて噴霧して煙道に供給する試験を実施したところ、固結防止剤が無添加の粉体は、固結防止剤を添加している粉体に比べ、安定して所定量を供給することが困難であった。
【0053】
[例4]炭酸水素ナトリウム粉末の、粗粒子の添加による貯槽からの、排出性向上の確認試験を実施した。すなわち、平均粒子直径9μmの炭酸水素ナトリウム粉末に対し固結防止剤として親水性のヒュームドシリカを1質量%添加したものに対し、炭酸水素ナトリウムの粗粒を添加しなかったもの(試料1)、平均粒子直径98μmの炭酸水素ナトリウム粗粒を30質量%添加したもの(試料2)、及び平均粒子直径98μmの炭酸ナトリウム粗粒を19質量%したもの(試料3)をそれぞれ作製した。
【0054】
次に、内径1mで高さ2mの円筒の下部に頂点の角度が60度で底面の直径が1mの円錐の底面を接続し、内径20cmの排出部分を円錐の頂点に接続した貯槽を準備した。なお、この排出部分にはダンパーを設置した。上記試料1〜3を用いて、この貯槽に600kgの炭酸ナトリウムを投入した後にダンパーを開放し、貯槽からの排出を観察した。粗粒を混合した試料1及び試料2の場合はほぼ全量排出できたが、粗粒を添加しなかった方は、中央部分が排出されたのみで、全体の約半分が残留した。
【符号の説明】
【0055】
1:ボイラ
2:空気予熱器
3:電気集塵機
4:脱硫装置
5:煙突
6:第1の煙道
7:第2の煙道
8:第3の煙道
9:第4の煙道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラで燃料が燃焼されて生成し、煙道を通って空気予熱器、脱硫装置、次いで煙突に送られるガスを処理する方法であって、平均粒子直径20μm以下、安息角65°以下、かつ分散度10%以上の炭酸水素ナトリウム粉末を、60℃以上に加熱した気体媒体を用いて分解し、少なくとも1つの煙道にて、SOを500体積ppm以上含有し、さらにSO成分を含むガス中に噴霧することにより、ガス中のSO成分を除去することを特徴とするSO成分を含むガスの処理方法。
【請求項2】
前記炭酸水素ナトリウム粉末が、ガス中のSO成分に対し、1〜16倍モル添加される、請求項1に記載のガスの処理方法。
【請求項3】
ボイラで燃料が燃焼されて生成し、煙道を通って空気予熱器、脱硫装置、次いで煙突に送られるガスを処理する方法であって、平均粒子直径20μm以下の炭酸水素ナトリウム粉末を、60℃以上に加熱した気体媒体を用いて分解し、少なくとも1つの煙道にて、SOを500体積ppm以上含有し、さらにSO成分を含むガス中に噴霧することにより、ガス中のSO成分を除去する際に、前記炭酸水素ナトリウム粉末とともに、炭酸水素ナトリウム粉末に対して0.1〜5質量%の固結防止剤を添加し、前記炭酸水素ナトリウム粉末に前記固結防止剤を加えた混合物の安息角が65°以下であり、かつ該混合物の分散度が10%以上であるガスの処理方法。
【請求項4】
前記固結防止剤は、平均粒子直径が0.005〜5μmである請求項3に記載のガスの処理方法。
【請求項5】
前記固結防止剤は、シリカ及び/又はゼオライトからなる請求項3又は4に記載のガスの処理方法。
【請求項6】
ボイラで燃料が燃焼されて生成し、煙道を通って空気予熱器、脱硫装置、次いで煙突に送られるガスを処理する方法であって、平均粒子直径20μm以下の炭酸水素ナトリウム粉末を、60℃以上に加熱した気体媒体を用いて分解し、少なくとも1つの煙道にて、SOを500体積ppm以上含有し、さらにSO成分を含むガス中に噴霧することにより、ガス中のSO成分を除去する際に、前記平均粒子直径20μm以下の炭酸水素ナトリウム粉末とともに、該粉末に対して20〜50質量%の平均粒子直径20μm超の炭酸水素ナトリウム粗粒又は前記粉末に対して13〜50質量%の平均粒子直径20μm超の炭酸ナトリウム粗粒を添加するガスの処理方法。
【請求項7】
SO成分を含むガスが、硫黄を含有する燃料の燃焼により生成されるものでSOを500体積ppm以上含有するガスであり、ガス中のSO成分濃度を、SO換算で2体積ppm以下に下げる、請求項1〜6のいずれかに記載のガスの処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−201427(P2010−201427A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141858(P2010−141858)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【分割の表示】特願2001−88050(P2001−88050)の分割
【原出願日】平成13年3月26日(2001.3.26)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】