説明

ガスエンジンの燃料供給装置

【課題】ガスエンジンの燃料供給装置について、コスト高騰を伴うことなく燃料ポンプのカム室に漏出する燃料の量を低減しポンプ寿命の短縮化を回避する。
【解決手段】燃料ポンプが、プランジャ302外周から遠心方向に延設されカム室301側と燃料加圧室300側とを気・液密的に区画するダイヤフラム304を往復変位可能な状態で備えており、ダイヤフラム304を挟んだ燃料加圧室300側に漏れ燃料貯留室305が形成され、これから燃料戻し通路306が延設されて燃料タンク2内部に連通し、ダイヤフラム304を挟んだカム室301側の空間から気相つなぎ配管が延設されて燃料タンク内部に連通した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスエンジンの燃料供給装置に関し、殊に、燃料タンクと燃料噴射弁を接続する燃料供給配管の途中にプランジャ往復動式の燃料ポンプを備えてガスエンジンに燃料を供給する燃料供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、所定の駆動手段によるカム軸の回転をプランジャの直線往復動作に変換して燃料を圧送するプランジャ往復動式の燃料ポンプが周知である。このような燃料ポンプを備えてエンジンの吸気通路に燃料を噴射・供給する燃料供給装置のうち、軽油を燃料としているものでは軽油自体が所定の粘性を有していることから、燃料がプランジャ・シリンダ間の潤滑剤を兼ねるようになっており、カム室側への燃料の漏出もさほど問題となっていない。
【0003】
一方、LPG(液化石油ガス)やDME(ジメチルエーテル)等の液化ガス燃料を使用するガスエンジンの燃料供給装置においては、燃料の粘性が前述の軽油と比べて顕著に低いことから、燃料ポンプのシリンダにロッドシールを配設していても燃料加圧室側からプランジャとシリンダの隙間を経て燃料がカム室側に漏出してカム室内の潤滑性を損ないやすいことが知られている。
【0004】
例えばDMEは、沸点が低く気化しやすいことから燃料供給通路内で比較的高圧を維持する必要があるため、カム室側に多量に漏出しやすいことが指摘されており、カム室内に侵入することで転がり軸受やカム軸受に注入したグリース等の潤滑剤が洗い流され、軸受部分の潤滑性が顕著に劣化してポンプ寿命を大きく損なうと言われている。
【0005】
この問題に対し、特開平6−173811号公報には、低粘度・低潤滑性の液化ガス燃料を使用する燃料供給装置において、供給する燃料よりも粘性・潤滑性の高い別の作動油を燃料ポンプが加圧するものとし、加圧された作動油を燃料供給路に配設した別のダイヤフラム装置の作動油室に導入して、ダイヤフラムを介し燃料を加圧するものが提案されており、これにより燃料漏出量の低減を実現しながらポンプ寿命を確保しやすいものとしている。
【0006】
また、特開平10−281029号公報には、燃料ポンプのプランジャ下部室とエンジンの燃焼室側とを結ぶ通路を設けて、この通路がエンジン吸入行程において開く構成とし、プランジャとシリンダの隙間を通過する燃料(DME)がカム室に到達する前に吸気通路側に吸引されるようにしたものも提案されている。
【0007】
しかしながら、前者の特許文献に記載の燃料供給装置は、使用部品が多く構造が複雑になることからコスト的に不利となりやすい。一方、後者の特許文献に記載の燃料供給装置は、エンジン停止時に気化した陽圧のガス燃料が吸気通路を介して外部に漏出しやすいことに加え、プランジャ下部室に流入する燃料の量が多いことでプランジャ外周のシール性が低下しやすくなるため、燃料がプランジャ下部室からカム室に漏出するのを完全には防ぐことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−173811号公報
【特許文献2】特開平10−281029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、ガスエンジンの燃料供給装置について、コストの高騰を伴うことなく燃料ポンプのカム室に漏出する燃料の量を低減するとともに、ポンプ寿命の短縮化を回避できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、燃料タンクから延設されてインジェクタに至る燃料供給配管と、この燃料供給配管の途中に配設されたプランジャ往復動式の燃料ポンプと、この燃料ポンプのシリンダ内周面とプランジャ外周面の隙間に侵入した燃料を燃料タンクに戻すための漏れ燃料回収通路とを備え、燃料ポンプの駆動で燃料をインジェクタに圧送してガスエンジンに燃料を供給する燃料供給装置において、その燃料ポンプは、プランジャ外周から遠心方向に延設されてカム室側と燃料加圧室側との間を気・液密的に区画するダイヤフラムをプランジャの往復動作に追従して往復変位可能な状態で備えているとともに、ダイヤフラムを挟んだ燃料加圧室側のプランジャ外周側に漏れ燃料を溜めるための空間が形成されており、この空間から漏れ燃料回収通路が延設されて燃料タンク内部まで連通し、ダイヤフラムを挟んだカム室側の空間から気相つなぎ通路が延設されて燃料タンク内部まで連通していることにした。
【0011】
このように、燃料ポンプのプランジャ外周に燃料加圧室側とカム室側との間を気・液密的に区画するダイヤフラムを設けただけの簡易な構成により、燃料がカム室側に漏出することを確実に回避できるようになり、且つ、ダイヤフラムで区画された両空間を各々燃料タンク内部に連通させたことで、ダイヤフラムを挟む両空間の圧力が平衡してダイヤフラムが圧力による破損から保護することができる。
【0012】
また、この場合、その漏れ燃料回収通路は燃料タンクの液相部に接続・連通しており、その気相つなぎ通路は燃料タンクの気相部に接続・連通していることを特徴としたものとすれば、液相燃料のカム室側への逆流や気相燃料の燃料加圧室側への逆流を回避しながらダイヤフラムを挟む両空間の圧力均衡を維持しやすくなる。
【0013】
さらに、上述したガスエンジンの燃料供給装置において、その漏れ燃料回収通路と気相つなぎ通路とはバイパス管で接続されており、このバイパス管に、気相つなぎ通路側から漏れ燃料回収通路側に向かう流れは許容し逆の流れは阻止する逆止弁が配設されていることを特徴としたものとすれば、ダイヤフラムを挟む両空間の圧力の均衡が一層維持されやすい。
【発明の効果】
【0014】
燃料ポンプのプランジャ外周に燃料加圧室側とカム室側を区画するダイヤフラムを設けてダイヤフラムを挟む両空間を各々燃料タンク側に連通させた本発明によると、簡易な構成でコストの高騰を伴うことなくカム室に漏出する燃料の量を低減することができるとともに、ポンプ寿命の短縮化を確実に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明における実施の形態の燃料供給装置を配設したガスエンジンの燃料供給システムの配置図である。
【図2】図1の燃料供給装置の燃料ポンプの部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態の燃料供給装置3を配設したガスエンジン1の燃料供給システムの配置図を示している。ガスエンジン1の吸気通路10にはインジェクタ12a,12b,12c,12dが配設され、これらに燃料タンク2から延設された燃料供給配管31が途中に燃料ポンプ30を有してフューエルレール11を介し接続しており、燃料タンク2に貯留したLPGやDME等の液化ガス燃料を圧送して吸気通路10に噴射するようになっている。
【0018】
そして、燃料ポンプ30と、燃料タンク2から延設され途中に燃料ポンプを配設されてインジェクタ12a,12b,12c,12dに接続する燃料供給配管31及び後述する漏れ燃料回収通路・気相つなぎ通路を構成して燃料タンク2に接続する配管類と、燃料ポンプ30の上流側に配設された低圧ポンプ35とで、本実施の形態の燃料供給装置3を構成している。
【0019】
燃料供給配管31の途中に配設された燃料ポンプ30は、プランジャ往復動式ポンプであり、燃料加圧室からシリンダ内周面とプランジャ外周面との隙間に侵入した燃料を燃料タンク2に戻すための燃料戻し配管32が延設されて燃料供給配管31の低圧ポンプ35の上流側に接続されており、燃料ポンプ30からの漏れ燃料回収通路が実質的に燃料タンク2に接続・連通した状態となっている。
【0020】
図2は、図1の燃料ポンプ30の詳細な構成を説明するために拡大した部分縦断面図である。上述したように、従来の燃料供給装置においては燃料ポンプのシリンダ内周面とプランジャ外周面の隙間を通ってカム室側に燃料が漏出するのを防止することが困難であった。そこで、本発明において、燃料ポンプ30のプランジャ303外周部分に、カム室301側と燃料加圧室300側とを気・液密的に区画するダイヤフラム304を設け、シリンダ302内周面とプランジャ303外周面の隙間に侵入した燃料がカム室301に侵入するのを完全に回避する構成としたものである。
【0021】
そのダイヤフラム304は、プランジャ303先端側の外周面からプランジャ中心軸線の遠心方向に延設され、シリンダ302の先端開口部側でシリンダ内径よりも大径で円盤状に形成された空間の内周面に外周面を密着・固定されて、その両側の空間を気・液密的に区画しており、ダイヤフラム304を挟んで燃料加圧室300側に形成された前記空間は、プランジャ303の摺動動作に追従するダイヤフラム304の往復変位動作を可能にする幅を有したドーナツ円盤状であり、漏れ燃料を一時的に溜める漏れ燃料貯留室305となっている。
【0022】
そして、この漏れ燃料貯留室305から燃料戻し通路306が延設されており、これが燃料戻し配管32とともに漏れ燃料回収通路を構成して、燃料タンク2の液相部分に接続・連通している。従って、使用する燃料がDMEのように粘性が低くシリンダ302内周面とプランジャ303外周面の隙間を比較的多量に通過するような場合であっても、これを一旦漏れ燃料貯留室305に溜めるとともに燃料戻し通路306を介して燃料タンク2側に戻すことができるため、漏洩燃料がカム室301側に漏出することを完全に回避することができる。
【0023】
また、この燃料供給装置3においては、図1に示すようにカム室301の気相部分と燃料タンク2の気相部分をつなぐ気相つなぎ通路としての気相連通配管33が燃料タンク2の気相部まで延設されて接続・連通している。これにより、ダイヤフラム304を挟んだ両空間の圧力が平衡するようになり、ダイヤフラム304を圧力による破損から保護することができ、装置寿命の短縮化を回避しやすくしている。
【0024】
尚、前述したように、気相連通配管33を燃料タンク2の気相部に接続し、燃料戻し配管32を燃料タンク2の液相部に接続したことで、カム室301側への液相燃料の逆流や燃料加圧室300側への気相燃料の逆流を回避しながらダイヤフラム304を挟む両空間の圧力均衡を維持しやすいものとしている。
【0025】
さらに、本実施の形態においては、図1に示すように燃料戻し配管32と気相連通配管33はバイパス管36で接続されており、このバイパス管36の途中に気相つなぎ通路側から漏れ燃料回収通路側に向かう流れを許容し逆の流れは阻止する逆止弁としてのチェックバルブ36aが配設されており、ダイヤフラム304を挟む両空間の圧力の均衡が一層維持されやすい。
【0026】
そして、カム室301のカム軸301aが回転駆動することにより、プランジャ303が往復摺動(通常は天地方向)して、上流側の燃料供給配管31を通り燃料加圧室300内に導入した燃料を加圧し、下流側の燃料供給配管31を通って燃料をガスエンジン1側に送出するが、燃料加圧室300の内部圧力が上昇することにより、燃料はシリンダ302内周面とプランジャ303外周面の隙間を通過するようになる。
【0027】
この漏洩燃料は、プランジャ303の先端側外周に設けたダイヤフラム304でカム室301側に侵入するのを完全に阻止され、ダイヤフラム304に近接して形成した漏れ燃料貯留室305に一旦溜められる。その後、漏れ燃料回収通路である燃料戻し通路306、燃料戻し配管32を通って燃料タンク2の液相部に戻される。
【0028】
このとき、往復変位動作を行うダイヤフラム304を挟んだ両空間は圧力均衡が保たれており、殊に、バイパス管36に配置したチェックバルブ36aの作用により、初期のポンプ組付け後の燃料タンク2開放時の圧力均衡を保つことが可能になっており、ダイヤフラム304の破損を確実に防止できるようになっている。したがって、カム室301内のカム軸301に付設された回転軸受301b,301cは、燃料気相(蒸気)雰囲気で動作することになり、潤滑剤が洗い流されることなくその潤滑性を長期間に亘って維持することができ、漏洩燃料によるポンプ寿命の短縮化を回避することができる。
【0029】
以上、述べたように、ガスエンジンの燃料供給装置について、本発明により、コストの高騰を伴うことなく燃料ポンプのカム室に漏出する燃料の量を低減するとともに、ポンプ寿命の短縮化を回避することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 ガスエンジン、2 燃料タンク、3 燃料供給装置、10 吸気通路、12a,12b,12c,12d インジェクタ、30 燃料ポンプ、31 燃料供給配管、32 燃料戻し配管、33 気相連通配管、36 バイパス管、36a チェックバルブ、300 燃料加圧室、301 カム室、302 シリンダ、303 プランジャ、304 ダイヤフラム、305 漏れ燃料貯留室、306 燃料戻し通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクから延設されてインジェクタに至る燃料供給配管と、 該燃料供給配管の途
中に配設されたプランジャ往復動式の燃料ポンプと、該燃料ポンプのシリンダ内周面とプランジャ外周面の隙間に侵入した燃料を前記燃料タンクに戻すための漏れ燃料回収通路とを備え、前記燃料ポンプの駆動で燃料を前記インジェクタに圧送してガスエンジンに燃料を供給する燃料供給装置において、前記燃料ポンプは、前記プランジャ外周から遠心方向に延設されてカム室側と燃料加圧室側との間を気・液密的に区画するダイヤフラムを前記プランジャの往復動作に追従して往復変位可能な状態で備えているとともに、前記ダイヤフラムを挟んだ燃料加圧室側の前記プランジャ外周側に漏れ燃料を溜めるための空間が形成されており、該空間から前記漏れ燃料回収通路が延設されて前記燃料タンク内部まで連通し、前記ダイヤフラムを挟んだカム室側の空間から気相つなぎ通路が延設されて前記燃料タンク内部まで連通していることを特徴とするガスエンジンの燃料供給装置。
【請求項2】
前記漏れ燃料回収通路は、前記燃料タンクの液相部に接続・連通しており、前記気相つなぎ通路は前記燃料タンクの気相部に接続・連通していることを特徴とする請求項1に記載したガスエンジンの燃料供給装置。
【請求項3】
前記漏れ燃料回収通路と前記気相つなぎ通路とはバイパス管で接続されており、前記バイパス管に、前記気相つなぎ通路側から前記漏れ燃料回収通路側に向かう流れは許容し逆の流れは阻止する逆止弁が配設されていることを特徴とする請求項1または2に記載したガスエンジンの燃料供給装置。






【図1】
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【図2】
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