説明

ガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラム及びその製造方法

【課題】ガスクロマトグラフィカラムを金属で作製する事により、ハンディサイズ(手のひらに載せられる程度の大きさ)といった、小型、軽量でかつ低消費電力なガスクロマトグラフィを安価でかつ高精度なガス分析能力を持たせて供給すること。
【解決手段】
上記課題を達成するために、金属基板(101)の少なくとも一方の面上に貫通孔あるいは凹状溝(102)を有する構造を特徴とするガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロマトグラフィに用いられるガス分離カラム及びその製造方法に関し、そのガス分離カラムを小型化することによりガスクロマトグラフィをハンディサイズで持ち運びを可能にするとともに、信頼性の向上と製造コストの大幅な低減を図るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、大気中や土壌中に含まれる揮発性有機化合物を個々に定量分析するのにガスクロマトグラフィが用いられてきた。
【0003】
しかしながら、従来のガスクロマトグラフィは高感度に定量分析を行うことが出来るものの、消費電力が大きいと共に、装置のサイズも大きく持ち運び可能といえなかった。そのためサンプルを採取し分析室に持ち帰り定量分析を行ってきた。また、装置としても高価であった。
【0004】
これに対して近年、ポータブルタイプと称し持ち運び可能なガスクロマトグラフィカラムとしてMEMS技術を用いたシリコンベースのカラムが発表されているがこのカラムは非常にコストのかかる作製方法を用いる事から、市販された場合でも装置が高額になる可能性がある(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−57223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の事柄に対してなされたもので、その課題はガスクロマトグラフィカラムを金属で作製する事により、ハンディサイズ(手のひらに載せられる程度の大きさ)といった、小型、軽量でかつ低消費電力なガスクロマトグラフィを安価でかつ高精度なガス分析能力を持たせて供給することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、まず請求項1の発明では、金属基板の少なくとも一方の面上に貫通孔あるいは凹状溝を有する構造を特徴とするガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムとしたものである。
【0007】
また請求項2の発明では、請求項1に記載のガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムの製造方法であって、前記貫通孔あるいは前記凹状溝を、ウェットエッチング法などの化学的加工を用いて形成することを特徴とするガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムの製造方法としたものである。
【0008】
また請求項3の発明では、請求項1に記載のガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムの製造方法であって、前記貫通孔あるいは前記凹状溝を、めっき法などの化学的加工を用いて形成することを特徴とするガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムの製造方法としたものである。
【0009】
また請求項4の発明では、請求項1に記載のガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムの製造方法であって、プレス法、切削法、ブラスト法などの機械加工、あるいは放電加工の少なくとも1種類の加工方法を用いて形成することを特徴とするガスクロマトグラフ
ィ用ガス分離金属カラムの製造方法としたものである。
【0010】
また請求項5の発明では、前記ガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムの耐食性被膜としてポリシラザンを焼成してなるSiO2を用いたことを特徴とする請求項1に記載のガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムとしたものである。
【0011】
また請求項6の発明では、前記耐食性被膜の膜厚が、0.5〜2μmであることを特徴とする請求項5に記載のガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムとしたものである。
【0012】
また請求項7の発明では、前記ガスクロマトグラフィ用金属カラムにガラスを陽極接合により密着接合させ流路間を分離したことを特徴とする請求項1、5、6の何れかに記載のガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムとしたものである。
【0013】
また請求項8の発明では、前記ガスクロマトグラフィ用金属カラムに金属薄板を超音金属接合技術を用いて密着接合させ流路間を分離したことを特徴とする請求項1、5、6の何れかに記載のガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムとしたものである。
【0014】
また請求項9の発明では、前記ガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムの背面、もしくは上面、或いは両面にヒーターを有する構造を特徴とする請求項1、5、6、7,8の何れかに記載のガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムとしたものである。
【0015】
また請求項10の発明では、前記金属基板は、鉄系合金、純鉄、ステンレス、インバー合金、コバール、チタン、アルミニウム、からなる群より選ばれた少なくとも一つ以上の金属を含む金属基板であることを特徴とする請求項1に記載のガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムとしたものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明は、例えば、厚さ0.3mm、幅30mmといった金属平板上に流路をエッチング、或いはめっき技術を用いて作製し、内部にガスクロマトグラフィ材料を封入するものなので小型かつ軽量で加熱可能である。
【0017】
請求項2、3及び4に係る発明は、厚さ0.3mm、幅30mmといった金属平板上にエッチング、或いはめっき、或いはプレス、切削、ブラストという加工技術を施すことにより小型かつ軽量でかつ加熱可能なガス分離金属カラムを安価に提供する。
【0018】
請求項5及び6に係る発明は、流路表面に耐食性皮膜としてポリシラザンを形成するので、耐食性のあるガス流路を有することになる。
【0019】
請求項7に係る発明は、動イオンを含むガラスを陽極接合により密着接合させ流路間を分離したので、試料ガスの混合を押さえる。
【0020】
請求項8に係る発明は、金属薄板を超音金属接合により密着接合させ流路間を分離したので、試料ガスの混合を押さえる。
【0021】
一般に、ガスクロマトグラフィのカラム物質は室温で使用できるものもあるが、130℃程度の高温で性能を発揮するものもある。従って、請求項9に係る発明は、背面、もしくは上面、或いは両面に付いているヒーターにより高温で性能を発揮するカラム物質を効率よく加熱すれば、ガス分析能力を高めることができる。
【0022】
以上、本発明は、ガスクロマトグラフィカラムを金属で作製する事により、ハンディサ
イズ(手のひらに載せられる程度の大きさ)といった、小型、軽量でかつ低消費電力なガスクロマトグラフィを安価でかつ高精度なガス分析能力を持たせて供給できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の最良の一実施形態を説明する。
【0024】
本発明のガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムは、図1に示すように、金属基板101の少なくとも一方の面上に貫通孔あるいは凹状溝102を有する構造を持つ。
【0025】
金属基板101は、塩化第二鉄でエッチング可能な金属であれば良い。例えば、鉄系合金、純鉄、ステンレス、インバー合金、コバール等を用いて良い。また、アルカリエッチング可能な金属でも良い。例えば、チタン、アルミニウム等を用いても良い。特に、インバー合金、コバールは、ガラスとの熱膨張係数が同程度であるため、ガラスとの接合を好適に行うことが出来、好ましい。
【0026】
貫通孔あるいは凹状溝102は、試料ガスの流路であって、ウェットエッチング、めっきなどの化学的加工、又は、プレス、切削、ブラストなどの機械加工或いは放電加工という加工技術を用いて形成される。
【0027】
またガス流路の耐食性を付加するために、流路表面に耐食性皮膜としてポリシラザンを焼成してなるSiO2を主成分とするものを形成する。
【0028】
動イオンを含むガラスとガス分離金属カラムとを陽極接合により密着接合させ流路間を分離し試料ガスの混合を押さえても良い。
【0029】
或いは、金属薄板とガス分離金属カラムとを超音金属接合により密着接合させ流路間を分離し試料ガスの混合を押さえても良い。
【0030】
ガス分離金属カラムは板状なので、その背面、もしくは上面、或いは両面に、タンタルヒーター等のヒーターを設けても良い。直接カラムにヒーターを付けることで効率よくカラム内を加熱でき、室温で性能を発揮するカラム物質だけでなく、130°程度の高温で性能を発揮するものも使用することができるようになる。
【実施例1】
【0031】
以下、本発明の実施例1として、図2に従って、ガス分離金属カラムの製造方法を説明する。
【0032】
まず、厚み0.3mmの純鉄からなる金属基板をアルカリ脱脂し、さらに70℃のアルカリ脱脂液(ヘンケ白水製ペルシーLK7重量%)に10分間浸漬した後、温純水および純水にて洗浄を行い、水分を乾燥した。次いで、膜厚20μmの市販のドライフイルムレジスト(日立化成製RY3320)を基板片面にロールラミネータを用いロール温度110℃、ロール圧力0.3MPaで貼り合わせた。
【0033】
次に、線幅0.1mmの蛇行型スリットパターンの形成されたフォトマスクを用い紫外線露光し、更にアルカリ水溶液(炭酸ナトリウム1重量%)をスプレー圧力0.1MPaで噴射し現像を行い、前記金属基板に、フォトマスクと同寸法のフォトレジストパターンを形成した(図2の(a)参照)。
【0034】
そして、比重1.50、温度65℃の塩化第二鉄液を用い、スプレー圧0.5MPaでスプレーエッチングを行い、耐食性レジストパターンを残したハーフエッチング金属平板
を作製した(図2の(b)参照)。その後、苛性ソーダ5重量%水溶液をスプレー圧0.1MPaでスプレーして耐食性レジストを剥膜し、ガス分離金属カラム用の凹状溝を作製した。形成された溝の幅は1500μm、溝深さは100μmであった。
【0035】
次に、金属基板を再びアルカリ脱脂し、水洗後ポリシラザン溶液を塗布する。このポリシラザン溶液は、ポリシラザンをジブチルエーテルに溶解させ、38重量%の割合に調整し、撹拌混合したものである。塗布方法は、スピンコート法を使用し、面内均一に、溶媒揮発前の膜厚が2μmになるように塗布した。その後、大気中で溶剤が十分揮発するまで乾燥させ、450℃で60分大気焼成を行い、SiO2を主成分とする耐食性皮膜を形成した。形成された耐食性皮膜の厚さは1.0μmであった。また、形成された耐食性皮膜には十数個のピンホールが確認され、凹状溝の金属表面部に形成される凸状のエッジ部分は幅5μm程度の金属露出を生じていた(図2の(c)参照)。
【0036】
次に、電解金めっき液(エヌ・イー・ケムキャット製K−270)を用いて、65℃1V定電圧条件にて金属露出部分に導電性耐食膜を形成した(図2の(d)参照)。形成された導電性耐食膜は膜厚が1.4μmでありピンホールや凸状のエッジ部分を確実に保護していた。
【0037】
以上の工程によりガス分離金属カラムを得た。
【0038】
前記導電性耐食性膜を形成したガス分離金属カラムを、PH1硫酸に100時間浸漬させたところ、膜の劣化はなく、金属イオンの溶出も確認されなかった。
【0039】
今回は鉄を用い試作を行ったが、熱伝導を考慮して銀、銅、アルミニウム、もしくは耐薬品性を考慮してチタン、ステンレスでガス分離カラムを作製しても同様の効果が得られる。
【実施例2】
【0040】
以下、本発明の実施例2として、図3に従って、ガス分離金属カラムの製造方法を説明する。
【0041】
まず、実施例1と同様の方法(図3の(a)〜(b)参照)で凹状溝を形成した金属基板の凹状溝部分にめっき用レジストをフォトリソグラフィー法により形成した(図3の(c)参照)。めっきパターン用レジストとしては液状レジストを選択し、露光の際、予め凹状溝形成時に金属基板に形成したアライメントパターンを目安に位置合わせを行い、露光、現像することにより、凹状溝内部のみにめっきパターン用レジストを形成した。
【0042】
その後、実施例1と同様のめっき法により導電性耐食膜を形成した(図3の(d)参照)。形成された導電性耐食膜は膜厚が2.1μmであり金属露出部を確実に保護していた。
【0043】
更に、金属基板を再びアルカリ脱脂し、水洗後、実施例1と同様の組成のポリシラザン溶液を塗布スプレーコート法により塗布、乾燥、焼成し、膜厚1.5μmの耐食性皮膜を形成した(図3の(e)参照)。
【0044】
以上の工程によりガス分離金属カラムを得た。
【0045】
前記導電性耐食性膜を形成したガス分離金属カラムを、PH1硫酸に100時間浸漬させたところ、膜の劣化はなく、金属イオンの溶出も確認されなかった。
【0046】
今回は鉄を用い試作を行ったが、熱伝導を考慮して銀、銅、アルミニウム、もしくは耐薬品性を考慮してチタン、ステンレスでガス分離カラムを作製しても同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明のガスクロマトグラフィ用ガス分離カラムの構造例を示す断面図である。
【図2】本発明のガスクロマトグラフィ用ガス分離カラムの実施例1における製造方法を説明するための図である。
【図3】本発明のガスクロマトグラフィ用ガス分離カラムの実施例2における製造方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0048】
101…金属基板
102…凹状溝
201…金属基板
202…凹状溝
204…導電性耐食膜
205…耐食性レジストパターン
206…エッジ部(金属露出部)
207…ピンホール
301…金属基板
302…凹状溝
303…耐食性皮膜
304…導電性耐食膜
305…耐食性レジストパターン
308…めっき用レジストパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板の少なくとも一方の面上に貫通孔あるいは凹状溝を有する構造を特徴とするガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラム。
【請求項2】
請求項1に記載のガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムの製造方法であって、前記貫通孔あるいは前記凹状溝を、ウェットエッチング法などの化学的加工を用いて形成することを特徴とするガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムの製造方法であって、前記貫通孔あるいは前記凹状溝を、めっき法などの化学的加工を用いて形成することを特徴とするガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムの製造方法であって、プレス法、切削法、ブラスト法などの機械加工、あるいは放電加工の少なくとも1種類の加工方法を用いて形成することを特徴とするガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムの製造方法。
【請求項5】
前記ガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラムの耐食性被膜としてポリシラザンを焼成してなるSiO2を用いたことを特徴とする請求項1に記載のガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラム。
【請求項6】
前記耐食性被膜の膜厚が、0.5〜2μmであることを特徴とする請求項5に記載のガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラム。
【請求項7】
前記ガスクロマトグラフィ用金属カラムにガラスを陽極接合により密着接合させ流路間を分離したことを特徴とする請求項1、5、6の何れかに記載のガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラム。
【請求項8】
前記ガスクロマトグラフィ用金属カラムに金属薄板を超音金属接合技術を用いて密着接合させ流路間を分離したことを特徴とする請求項1、5、6の何れかに記載のガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラム。
【請求項9】
前記ガスクロマトグラフィ用金属カラムの背面、もしくは上面、或いは両面にヒーターを有する構造を特徴とする請求項1、5、6、7,8の何れかに記載のガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラム。
【請求項10】
前記金属基板は、鉄系合金、純鉄、ステンレス、インバー合金、コバール、チタン、アルミニウム、からなる群より選ばれた少なくとも一つ以上の金属を含む金属基板であることを特徴とする請求項1に記載のガスクロマトグラフィ用ガス分離金属カラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−241543(P2008−241543A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84222(P2007−84222)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)