説明

ガスクロマトグラフ分析装置およびガスクロマトグラフ分析方法

【課題】高沸点の標準物質の供給を簡便に行い、材料中に存在する有害規制物質の分析を高精度で効率的に行うことができるガスクロマトグラフ分析装置とその分析方法を提供する。
【解決手段】試料を加熱して試料に含まれる材料の成分を抽出ガスとして抽出するガス抽出部20と、抽出ガスにキャリアガスを注入するキャリアガス供給部30と、固体の標準物質を担持させた標準物質保持部41を有し標準物質を標準物質ガスにガス化させる気化部40と、標準物質ガスをキャリアガスが注入された抽出ガスに混合するガス混合部50と、混合ガスを抽出ガスの各成分ガスと標準物質ガスとに分離するカラム71を有し、標準物質ガスを基準として各成分ガスを分析する分析部70とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロマトグラフ分析装置とその分析方法に関し、特に、保持時間(リテンションタイム)のずれに影響されずにガス成分の分析が可能なガスクロマトグラフ分析装置とその分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフ分析装置は、加熱された試料から抽出された抽出ガスをキャリアガスとともにカラムに導入し、カラム内部において抽出ガスとカラムの固定相との親和性の違いを利用して分離させ、カラムから出力される時間(以降、保持時間(リテンションタイム)という)が抽出ガスごとに異なることを利用している。この結果、抽出されたガスの成分の同定分析をすることができる。しかしながら、ガスクロマトグラフ分析装置の様々な要因により、同一抽出ガスでも保持時間にずれが生ずる。
【0003】
このような保持時間のずれ量を確認する方法として、ガスクロマトグラフ分析装置に既知の物質を含む標準物質ガスをシリンジで試料に注入して混合する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。標準物質ガスをガスクロマトグラフ分析装置の経路内にボンベから注入する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
図6は、このような従来のボンベから標準物質ガスを注入するガスクロマトグラフ装置の概略構成図である。ガスクロマトグラフ分析装置200は、試料容器201を加熱して試料から抽出ガスを発生させるガス抽出部210と、抽出ガスにキャリアガスを注入するキャリアガスボンベ220と、標準物質ガスをガスクロマトグラフ分析装置に導入する標準物質ガスボンベ230と、カラム240と検出部250とにより構成されている。
【0005】
このようなガスクロマトグラフ分析装置200では、ガス抽出部210の石英管211の中に分析試料が入れられた試料容器201を配置し、その後、シャッター212で石英管211を閉塞して、周囲に設けた加熱炉213で試料容器201を加熱して分析すべき抽出ガスを発生させている。抽出ガスはキャリアガスボンベ220から供給されるキャリアガスに搬送されてカラム240に流入する。
【0006】
このとき、従来の技術では、標準物質ガスが充填された標準物質ガスボンベ230から、マスフロー制御弁231などにより流量制御した標準物質ガスを、抽出ガスとキャリアガスに注入するようにしていた。
【特許文献1】特開平2−245656号公報
【特許文献2】特開2000−346759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、シリンジなどによって測定ごとに毎回試料に標準物質を注入する作業が必要となり、作業が煩雑となるといった課題を有していた。
また、特許文献2に記載のように、ボンベから標準物質ガスをガスクロマトグラフ分析装置に供給する方法では以下のような課題を有していた。
【0008】
すなわち、特許文献2に示す標準物質としては、フルオロベンゼンを例示しているが、フルオロベンゼンは沸点が85℃であり、室温では液化した状態となる。そのため、標準物質ガスとして10kPa程度の圧力であれば窒素中にガス化した状態として存在することが可能となり、ボンベから標準物質ガスとしてガスクロマトグラフ分析装置内に供給することが可能となる。
【0009】
しかしながら、例えば沸点が300℃を超えるような標準物質は室温では固体であり、高圧ボンベ中でガス化するためにはガスボンベや配管経路なども含めた装置全体を150℃程度に保持する必要があり、装置が大掛かりになるなどの課題を有している。
【0010】
本発明は、上記課題を解決して、高沸点材料の標準物質ガスの供給を簡便に行い、材料中に存在する有害規制物質などの分析を高精度で効率的に行うことができるガスクロマトグラフ分析装置とその分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明のガスクロマトグラフ分析装置は、試料を加熱して試料に含まれる材料の成分を抽出ガスとして抽出するガス抽出部と、抽出ガスにキャリアガスを注入するキャリアガス供給部と、固体の標準物質を担持させた標準物質保持部を有し標準物質を標準物質ガスにガス化させる気化部と、標準物質ガスとキャリアガスが注入された抽出ガスとを混合ガスに混合するガス混合部と、混合ガスを抽出ガスの各成分ガスと標準物質ガスとに分離するカラムを有し、標準物質ガスを基準として各成分ガスを分析する分析部とを備えている。
【0012】
このような構成によれば、固体の標準物質を担持させた標準物質保持部を有する気化部で標準物質ガスを発生させ、発生した標準物質ガスを抽出ガスおよびキャリアガスに注入することができ、高沸点材料の標準物質ガスを基準として、高沸点材料の成分ガスを簡単な装置構成で確実に分析することができる。
【0013】
さらに、ガス抽出部とキャリアガス供給部と気化部とガス混合部とカラムとは密閉経路を構成するとともに、密閉経路を大気に開放する開放弁を密閉経路に接続することが望ましい。このような構成によれば、気化部における温度で平衡状態となって発生した標準物質ガスを、開放弁の開放によって密閉経路内を大気圧とすることにより、容易にガス混合部に導入して抽出ガスとキャリアガスとに注入させることができる。
【0014】
さらに、気化部を150℃以上に加熱保持していることが望ましい。このような構成によれば、融点温度近傍の温度での気液平衡状態を利用して標準物質ガスを発生させてガスクロマトグラフ分析装置に導入することが可能となり、プラスチック材料などに含有する有害規制対象物質などの沸点が300℃を超える物資でも、標準物質ガスによる保持時間を基準として分析を確実に行うことができる。
【0015】
また、本発明のガスクロマトグラフ分析方法は、密閉経路中で試料を加熱して試料に含まれる材料の成分を抽出ガスとして抽出する抽出ステップと、抽出ガスにキャリアガスを注入するキャリアガス注入ステップと、固体の標準物質を担持させた標準物質保持部を加熱して標準物質ガスを発生させる気化ステップと、標準物質ガスとキャリアガスが注入された抽出ガスとを混合ガスに混合するガス混合ステップと、混合ガスを抽出ガスの各成分ガスと標準物質ガスとに分離する分離するステップと、標準物質ガスを基準として各成分ガスを分析する分析ステップとを有している。
【0016】
このような方法によれば、固体の標準物質を担持させた標準物質保持部を加熱して気化部でガスとして発生させ、発生した標準物質ガスを抽出ガスおよびキャリアガスに注入することができ、高沸点材料の標準物質ガスを基準として、高沸点材料の成分ガスを簡単な装置構成で確実に分析することができる。
【0017】
さらに、ガス混合ステップは、密閉経路を大気に開放して減圧することにより、標準物質ガスをキャリアガスが注入された抽出ガスのある密閉経路内に注入することが望ましい。このような方法によれば、より簡便に高沸点の標準物質ガスをガスクロマトグラフ分析装置の密閉経路内に注入することができる。
【0018】
さらに、気化ステップにおいて標準物質保持部を150℃以上に加熱することが望ましい。このような方法によれば、沸点が300℃を超える有害規制物質などに対しても、融点温度近傍の温度での気液平衡状態を利用して標準物質ガスを発生させて、ガスクロマトグラフ分析装置に導入することが可能となり、標準物質による保持時間を用いて分析を確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のガスクロマトグラフ分析装置とその分析方法は、材料中の高沸点な有害規制物質の分析を、高沸点の標準物質を用いて簡単な装置構成で確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態におけるガスクロマトグラフ分析装置およびその分析方法について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
(実施の形態)
図1に本発明の実施の形態におけるガスクロマトグラフ分析装置の概略構成図を示す。ガスクロマトグラフ分析装置100は試料が入れられた試料容器11をガスクロマトグラフ分析装置100に導入するための試料導入部10と、試料容器11を加熱して試料から抽出ガスを発生させるガス抽出部20と、抽出ガスにキャリアガスを注入するキャリアガス供給部30と、標準物質を気化させる気化部40と、気化部40で発生させた標準物質ガスをキャリアガスが注入された抽出ガスに混合するガス混合部50と、ガスクロマトグラフ分析装置100の経路内のガスを排出するスプリットアウト部60と、抽出ガスと標準物質ガスとを各成分ガスに分離するとともに分析する分析部となる検出部70とにより構成されている。
【0022】
試料導入部10は、複数個用意された試料容器11と試料容器11を自動で導入できる回転式の試料容器ホルダ12とから構成されている。
【0023】
ガス抽出部20は、試料容器11を導入する容器導入口21と、容器導入管22と、容器導入管22に試料容器11を導入した後に、容器導入管22を閉塞する開放弁となるシャッター23と、容器導入管22に接続されるとともに、周囲に破線で示す加熱炉24を備えた試料容器11が保持される石英管25とにより構成されている。
【0024】
また、キャリアガス供給部30は、容器導入管22あるいは石英管25に配管接続された配管31と、配管31の経路中に設けられたキャリアガス流量制御弁32と、キャリアガスを供給するボンベ33とにより構成されている。キャリアガスとしては、例えば、ヘリウム、窒素、アルゴンなどの不活性ガスを用いている。
【0025】
気化部40は、標準物質保持部41と、標準物質保持部41を加熱保持する加熱部である一点鎖線で示す加熱炉42とにより構成されている。標準物質保持部41は、内壁面に固体の標準物質が担持された容器である。
【0026】
図2は、標準物質保持部41の詳細を示す一部断面図である。図2に示すように、標準物質保持部41は、例えばステンレス管43などにより構成され、その内壁に室温状態では固体である高沸点の標準物質44の粉体が担持されている。ステンレス管43にはフランジ46によって開放端を有する配管52が接続されている。このように、フランジ46を設けることによって、標準物質44の種類が異なるステンレス管43を任意に交換可能としている。
【0027】
このようなガスクロマトグラフ分析装置100に導入する標準物質ガスとしてはシリンジで導入できるレベルの量であればよい。したがって、標準物質保持部41で発生させる標準物質ガスも少量であればよい。そのため、標準物質保持部41を小型にして、標準物質保持部41を加熱する加熱炉42も小型にすることができ、ボンベ方式でボンベ自体を加熱して高沸点の標準物質ガスを供給するようにする構成に比べて装置を小型化できる。
【0028】
ガス混合部50は、ガス抽出部20から延長された配管51により構成され、気化部40からの配管52が配管51に接続されている。また、配管51は配管接続部53に接続されている。配管接続部53には検出部70のカラム71が接続されているとともに、ガスクロマトグラフ分析装置100内のガスを排出するためのスプリットアウト部60が接続されている。
【0029】
また、スプリットアウト部60は、配管61と、配管61の経路中に設けられた排出制御弁62とにより構成されている。
【0030】
なお、図1に示すように、ガス抽出部20を加熱する加熱炉24は、ガス抽出部20からガス混合部50、さらには配管接続部52までをも加熱するように構成して、抽出ガスや標準物質ガスが冷却されて経路中でのトラップされることを防止している。
【0031】
なお、加熱炉24はガス抽出部20からガス混合部50までの一体構造に限定されるものではなく、石英管25、配管51、配管接続部53に各々設置してもよい。さらに、石英管25、配管51、配管接続部53を各々温度制御してトラップ防止の効果を高めてもよい。
【0032】
なお、これらの容器導入管22、石英管25、配管51、配管52、配管接続部53などの経路は密閉経路を構成し、シャッター23や排出制御弁62の開放によってこれらの経路が大気と連通するように構成されている。したがって、これらの経路内の圧力は、キャリアガスなどが流れることによって生じる圧力降下を除けば、ほぼボンベ33から供給されるキャリアガスの圧力か、大気圧力である。図1ではその経路内の圧力を、ガス混合部50の配管51の圧力としてP1で示している。
【0033】
一方、分析部となる検出部70は、配管接続部53に接続配管されたカラム71と、ECD(Electron Capture Detector)などの検出器72と、検出器72のデータを処理するデータ処理装置73などによって構成されている。
【0034】
なお、キャリアガス流量制御弁32、排出制御弁62などにはマスフローメーターを用い、それぞれが独立あるいは連携して、データ処理装置73からの指令に基づいて流量制御されるように構成している。
【0035】
また、ガス抽出部20への、試料容器11の導入および排出、シャッター23の開閉、加熱炉24のON-OFFおよび温度制御、キャリアガス供給部30からのキャリアガスの導入、加熱炉42のON−OFFおよび温度制御、スプリットアウト部60からのガスの排出などの動作は、データ処理装置73からの指令に基づいて自動的に行われるようにしている。
【0036】
次に、本発明の実施の形態におけるガスクロマトグラフ分析装置100を用い、プラスチック材料から発生する有害規制対象物質を分析する場合のステップについて、図3を用いて説明する。図3は本発明の実施の形態におけるガスクロマトグラフ分析方法を示すフローチャートであり、各ステップにおける圧力P1と、ガス抽出部20の加熱炉24の温度T1、気化部40の加熱炉42の温度T2、および検出部70のカラム71の温度T3も示している。
【0037】
まず、前準備ステップ(ST1)について説明する。前準備ステップ(ST1)では以下の処理を行う。
【0038】
まず、容器ホルダ12に分析すべきプラスチック材料を所定形状にして所定量入れた試料容器11を設置する。このとき、ガスクロマトグラフ分析装置100の経路内にはキャリアガス流量制御弁32を調整してキャリアガスを流すようにしている。さらに、前準備としてガス抽出部20の加熱炉24を所定の設定温度約300℃(T1)に設定し、気化部40の加熱炉42を所定の設定温度である約150℃(T2)に設定する。また、検出部70のカラム71の温度は常温よりも少し高めの温度に設定する(T3=50℃)。この段階でキャリアガスを導入するのは経路内の不純ガスのパージを兼ねている。したがって、経路内の圧力P1はボンベ33からの供給圧力とほぼ同等となる(P1=10kPa以上)。また、そのときにスプリットアウト部60の排出制御弁62を開放してもよい。このときには経路内の圧力P1は大気圧となるようにしてもよい。
【0039】
次に、シャッター23を開放し、試料容器11を容器導入口21からガス抽出部20内に導入配置する。このとき、圧力P1は大気圧となるが、キャリアガスは導入され続けている。試料容器11をガス抽出部20内に導入した時点でシャッター23と、排出制御弁62が開の場合には排出制御弁62を閉とする。その結果、経路内の圧力P1はボンベ33からの供給圧力である約10kPa以上の圧力となる。
【0040】
次に、抽出ステップ(ST2)に入る。
【0041】
抽出ステップ(ST2)では、試料容器11に入れられた試料が加熱炉24で300℃程度に加熱され、加熱された試料であるプラスチック材料からは、材料を構成する有機成分に相当した複数の抽出ガスが発生する。
【0042】
次に、気化ステップ(ST3)に入る。
【0043】
気化ステップ(ST3)では、標準物質保持部41が加熱炉42によって150℃程度に加熱される。
【0044】
なお、図3においては、前準備ステップ(ST1)の状態から、加熱炉24と加熱炉42とを所定温度に加熱しているために、抽出ステップ(ST2)と気化ステップ(ST3)とを同時進行で行うようにしている。しかしながら、状況によっては、前準備ステップ(ST1)では両方の加熱炉24、42を加熱しない状態とすることや、いずれか一方のみを加熱することも可能である。
【0045】
気化ステップ(ST3)においては、標準物質として沸点が300℃で融点が180℃、あるいは沸点が400℃で融点が300℃程度の高沸点物質を用いている。これらの物質をステンレス管43の内壁に担持させて150℃以上に加熱すると、ステンレス管43内でこれらの物質が気液平衡状態となり標準物質ガスのガス状態で存在させることができる。
【0046】
次に、ガス混合ステップ(ST4)に入る。
【0047】
試料容器11を所定時間加熱保持した後に、試料容器11をガス抽出部20から排出させる。試料容器11の排出は、試料容器11自身から発生する不純ガスなどの影響を抑制するためである。このとき、試料容器11の排出のためにシャッター23を開とすると、経路の圧力P1が10kPaの状態から大気圧となる。したがって、気化部40の標準物質保持部41内でガス化した標準物質ガスが、配管52からガス混合部50の配管51に流入し、配管51内のキャリアガスが注入された抽出ガスに混合されるガス混合ステップ(ST4)が行われる。
【0048】
最後に、分析ステップ(ST5)に入る。
【0049】
シャッター23を閉じると、キャリアガスによって分析ステップ(ST4)で混合されたキャリアガスが注入された抽出ガスと標準物質ガスの混合ガスとが搬送されて、配管接続部53からカラム71に流れ(P1=10kPa以上)、分析ステップ(ST5)に入る。このとき、スプリットアウト部60の排出制御弁62の開度を制御して、配管接続部53から、一部がガスクロマトグラフ分析装置100の外方に排出されるようにし、残りがカラム71に流入するように制御してもよい。
【0050】
すなわち、高沸点で室温では固体である標準物質からガスを発生させてガスクロマトグラフ分析装置100に標準物質ガスとして供給する方法として、本発明の実施の形態では、気化部40でその標準物質を加熱して一部がガス化した平衡状態をつくり、経路との圧力差を利用して経路中に標準物質ガスを注入するようにしている。
【0051】
したがって、標準物質ガスの発生と供給を経路の温度と圧力を制御するだけで自己整合的に注入することが可能となる。すなわち、加熱炉42の温度や、スプリットアウト部60の排出制御弁62との連動によって経路の圧力を変えたりすることで、注入する量あるいは沸点の異なる複数の標準物質からの標準物質ガスを注入することなども可能となる。
【0052】
また、容器ホルダ12から複数の試料容器11を連続的に導入して測定する場合などでも、標準物質ガスの注入を同一条件で安定して行うことができ、分析の再現性とその精度を向上させることができる。
【0053】
次に、分析ステップ(ST5)の詳細について説明する。
【0054】
上述のように、経路に標準物質ガスが注入され、試料容器11が排出された後、シャッター23を閉じることによって、経路は再び密閉経路となり圧力は所定の高圧状態となり(P1=10kPa以上)、抽出ガスと標準物質ガスとが流路抵抗の大きなカラム71に流入して分析が開始する。また、このとき、カラム71の温度T3を所定の昇温速度で50℃から350℃まで昇温させながら分析をする。
【0055】
なお、図1においては、ガス混合部50や配管接続部53には加熱炉を設けていないが、ガス抽出部20に設けた加熱炉24でそれらを加熱するようにすることによって、注入された高沸点の標準物質をガス化した状態でカラム71に搬送することが可能となる。
【0056】
カラム71には、液相としてポリジメチルシロキサンを溶融シリカに塗布した固定相が設けられている。カラム71に流入した抽出ガス、キャリアガス、標準物質ガスは、その固定相との吸着性、溶解性、化学結合性、あるいはカラム71自身の温度などによって、カラム71を移動する移動速度に差を発生する。したがって、適当な長さのカラム71を用いることによって、複数の抽出ガス、標準物質ガスを単一の成分に分離し、移動速度の違いを保持時間の違いとして検出器72に検出させることができる。
【0057】
図4は、本発明の実施の形態におけるガスクロマトグラフ分析装置100において標準物質ガスを混合せずに試料であるプラスチック材料から発生する抽出ガスのみをガスクロマトグラフ分析装置100で分析した場合の、検出器72での検出結果を示す図である。図4において横軸は、カラム71内での移動速度を示す保持時間(リテンションタイム)であり、縦軸はその強度である。図4に示すように、試料としてのプラスチック材料からは4種類の有機物質A〜Dが抽出されることがわかる。しかしながら、横軸の保持時間はそれぞれの有機物質に対して絶対的なものではなく、カラム71に流入するキャリアガス流量やカラム71の温度などによってその時間値が異なる。そのため、検出された有機物質が何であるのかを正確に同定することが困難となる。
【0058】
ガスクロマトグラフ分析装置100を用いて材料分析する用途として、材料中に有害規制物質として対象となった既知の有害物質が含まれているかどうかを判定する場合などには、既知の有害物質の近傍に存在する物質を標準物質ガスとして用いればよい。
【0059】
そこで、本発明の実施の形態では一実施例として、標準物質No1としてテトラブロモビスフェノールAを、標準物質No2としてデカブロモジフェニールエタンを用い、保持時間がこれらの間に存在する物質が有害規制物質の対象である場合に、上記4種類の物質がそれらの間に存在する有害物質であるかどうかを分析した。
【0060】
図5は、上述の標準物質ガスを抽出ガスに混合する方法を用い、標準物質保持部41に、標準物質No1としてのテトラブロモビスフェノールAと、標準物質No2としてのデカブロモジフェニールエタンの2つの物質を担持させて、気化ステップでガス化した標準物質ガスを混合して分析した検出結果を示す図である。図5に示すように、図4において検出される4種類の有機物質A〜Dが、標準物質No1と標準物質No2の間に存在する有機物質であることがわかる。
【0061】
なお、これらの物質の同定は標準物質No1と標準物質No2に対応するピークの位置から物質をより正確に分析できる。すなわち、図5に示すように、標準物質No1と標準物質No2との間の保持時間をTallとし、標準物質No1と有機物質Aとの間の保持時間をT、標準有機物質No1と有機物質Bとの間の保持時間をT、標準物質No1と有機物質Cとの間の保持時間をT、標準物質No1と有機物質Dとの間の保持時間をTとした場合、Tallに対するそれぞれの保持時間の割合は既知の値として求めることが可能である。すなわち、T/Tall、T/Tall、T/Tall、T/Tallは前もって校正によって求めておくことが可能である。すなわち、標準物質ガスを基準として抽出ガスの各成分ガスを分析することが可能である。
【0062】
したがって、例えば、図5に現れるそれぞれのピークの物質が何であるのかを、これらの標準物質No1からの保持時間を計算することによって求めることが可能となった。ゆえに、キャリアガス流量やカラム温度などが変わることにより、保持時間の絶対時間が異なってもそれぞれの物質を同定することが可能となる。
【0063】
このような方法により、標準物質以外の物質に対応したピークの位置から、試料から発生したガスの成分が、有機物質Aはヘプタブロモジフェニールエーテル、有機物質Bはオクタブロモジフェニールエーテル、有機物質Cはノナブロモジフェニールエーテル、有機物質Dはデカブロモジフェニールエーテルであることを求めることが可能となる。
【0064】
以上のように、本発明によれば、室温の状態では固体である高沸点材料である標準物質を、小型の装置でガス化してガスクロマトグラフ分析装置に注入し、材料から抽出される抽出ガス成分を正確に同定することが可能となる。そのため、特に、プラスチック材料などに含まれる高沸点の有害物質などの分析を、簡便に精度よく行うことができる。
【0065】
なお、上述の説明では、標準物質No1からの保持時間の差によって各成分ガスを同定するとしたが、標準物質No2からの保持時間の差によって各成分ガスを同定するとしてもよい。
【0066】
なお、上述の説明では、標準物質No1からの保持時間の差によって各成分ガスを同定するとしたが、標準物質No1からの保持時間と標準物質No2からの保持時間を比較して、保持時間が小さいほうの標準物質差との保持時間で各成分ガスを同定するとしてもよい。その場合、保持時間がより近い標準物質で同定されるので、分析精度が向上する。
ひとつの標準物質保持部に2種類の標準物質を担持させた場合について述べたが、標準物質保持部を複数設けてそれぞれに異なる標準物質を担持させる方法でもよい。
【0067】
なお、上述の説明では、ひとつの標準物質保持部に2種類の標準物質を担持させた場合について述べたが、標準物質保持部を複数設けてそれぞれに異なる標準物質を担持させる方法でもよい。
【0068】
なお、上述の説明では、ひとつの標準物質保持部に2種類の標準物質を担持させた場合について述べたが、3種類以上の標準物質を担持させて3つ以上の標準物質の保持時間から試料から発生される有機物質のガス成分を同定するようにしてもよい。その場合は、2つの標準物質の保持時間を最大最小とし、残りの標準物質でその保持時間の間隔をほぼ等分するようにしてもよい。
【0069】
また、標準物質の物性に応じて標準物質保持部41の加熱温度を任意に設定すればよく、室温では固体状態でしか存在しない物質を、気液平衡状態となる条件にするだけでよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のガスクロマトグラフ分析装置とその分析方法は、高沸点の標準物質ガスの供給を簡便に行い、材料中に存在する有害規制物質などの分析を高精度で効率的に行うことができるため、材料分析装置、手法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施の形態におけるガスクロマトグラフ分析装置の概略構成図
【図2】同ガスクロマトグラフ分析装置の気化部における標準物質保持部の詳細を示す一部断面図
【図3】本発明の実施の形態におけるガスクロマトグラフ分析方法を示すフローチャート
【図4】同ガスクロマトグラフ分析方法において標準物質ガスを混合しない場合の検出器での検出結果を示す図
【図5】同ガスクロマトグラフ分析方法において2つの標準物質ガスを導入した場合の検出器での検出結果を示す図
【図6】従来のボンベから標準物質ガスを注入するガスクロマトグラフ装置の概略構成図
【符号の説明】
【0072】
10 試料導入部
11 試料容器
12 試料容器ホルダ
20 ガス抽出部
21 容器導入口
22 容器導入管
23 シャッター
24,42 加熱炉
25 石英管
30 キャリアガス供給部
31,51,52,61 配管
32 キャリアガス流量制御弁
33 ボンベ
40 気化部
41 標準物質保持部
43 ステンレス管
44 標準物質
46 フランジ
50 ガス混合部
53 配管接続部
70 検出部
71 カラム
72 検出器
73 データ処理装置
60 スプリットアウト部
62 排出制御弁
100 ガスクロマトグラフ分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を加熱して前記試料に含まれる材料の成分を抽出ガスとして抽出するガス抽出部と、前記抽出ガスにキャリアガスを注入するキャリアガス供給部と、固体の標準物質を担持させた標準物質保持部を有し前記標準物質を標準物質ガスにガス化させる気化部と、前記標準物質ガスと前記キャリアガスが注入された前記抽出ガスとを混合ガスに混合するガス混合部と、前記混合ガスを前記抽出ガスの各成分ガスと前記標準物質ガスとに分離するカラムを有し、前記標準物質ガスを基準として前記各成分ガスを分析する分析部とを備えたことを特徴とするガスクロマトグラフ分析装置。
【請求項2】
前記ガス抽出部と前記キャリアガス供給部と前記気化部と前記ガス混合部と前記カラムとは密閉経路を構成するとともに、前記密閉経路を大気に開放する開放弁を前記密閉経路に接続したことを特徴とする請求項1に記載のガスクロマトグラフ分析装置。
【請求項3】
前記気化部を150℃以上に加熱保持する加熱部を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガスクロマトグラフ分析装置。
【請求項4】
密閉経路中で試料を加熱して前記試料に含まれる材料の成分を抽出ガスとして抽出する抽出ステップと、前記抽出ガスにキャリアガスを注入するキャリアガス注入ステップと、固体の標準物質を担持させた標準物質保持部を加熱して標準物質ガスを発生させる気化ステップと、前記標準物質ガスと前記キャリアガスが注入された前記抽出ガスとを混合ガスに混合するガス混合ステップと、前記混合ガスを前記抽出ガスの各成分ガスと前記標準物質ガスとに分離する分離するステップと、前記標準物質ガスを基準として前記各成分ガスを分析する分析ステップとを有することを特徴とするガスクロマトグラフ分析方法。
【請求項5】
前記ガス混合ステップは、前記密閉経路を大気に開放して減圧することにより、前記標準物質ガスを前記キャリアガスが注入された前記抽出ガスのある密閉経路内に注入することを特徴とする請求項4に記載のガスクロマトグラフ分析方法。
【請求項6】
前記気化ステップにおいて前記標準物質保持部を150℃以上に加熱することを特徴とする請求項4または請求項5に記載のガスクロマトグラフ分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−270952(P2009−270952A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121949(P2008−121949)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)