説明

ガスクロマトグラフ

【課題】試料気化室内のインサートを迅速に交換することが可能なガスクロマトグラフを提供する。
【解決手段】試料気化室20にキャリアガスとは別に不活性ガスを導入する不活性ガス導通路10を設けてガスクロマトグラフを構成する。
このように構成することにより、インサート3を交換する時はこの不活性ガス導通路10から試料気化室20に不活性ガスを吹き込むことで、不活性ガス雰囲気中でインサート交換作業を行うことができるので、試料気化室20やカラム22の温度を分析所定の高温に保ったままでインサート3を交換してもインサート3やカラム22の劣化を招く恐れがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスクロマトグラフに関し、特にガスクロマトグラフの試料気化室に関する。
【背景技術】
【0002】
図2に、一般的なガスクロマトグラフの流路構成を、試料気化室を中心に示す。
同図において、20は試料気化室であって、頂部にセプタム5で封じられた試料注入口6を有し、内部にはガラス製円筒状のインサート3がシールリング4によって支持されている。21はキャリアガスの流量制御に用いられるフローコントローラであり、22は、試料気化室20から送り込まれる気化された試料を各成分に分離するカラム、23は分離された各成分を検出し電気信号として出力する検出器である。24は試料気化室20から分岐するスプリット流路であってスプリット弁25により開閉される。
【0003】
上記のように構成されたガスクロマトグラフは以下のように動作する。
キャリアガスは、フローコントローラ21により流量制御され、キャリアガス導入流路2を通って試料気化室20の上部に供給され、その内部に設けられたインサート3内を通過し、底部に接続されたカラム22を通って検出器23へと流れる。スプリット弁25が開いているときは一定割合のキャリアガスがスプリット流路24を通って排出される。試料気化室20は図示しないヒータにより試料の気化温度以上の温度に加熱されている。
【0004】
試料の導入法としてはいくつかの方法が知られているが、その中でも最も一般的なスプリットレス導入法では、スプリット弁25が閉じた状態で、試料注入口6からシリンジ(図示しない)等でセプタム5を刺通してインサート3内に液体試料を注入する。液体試料はここで気化してキャリアガスによりカラム22に運ばれる。インサート3の内側で試料が気化する構造であるから、試料蒸気は試料気化室20の金属内壁に接触することなくカラム22へ導入される。カラム22で分離された試料中の各成分が検出器23で検出されることによりガスクロマトグラフィ分析が行われる。試料の大部分がカラム22に移行したタイミングで図示しないタイマー装置等によりスプリット弁25を開き、試料気化室20内に残る溶媒蒸気をスプリット流路24を経て排出することにより、分析の妨害となる溶媒蒸気のテーリングを抑える。
スプリット導入法の場合は、スプリット弁25を常時開いた状態で試料を注入する。
【0005】
インサート3は、上記のように試料に直接接触するものであるから、試料の気化残渣等の付着により汚れやすい。汚れたとき交換または洗浄できるようにインサート3は着脱可能に構成されている。また、インサート3は試料成分に対して吸着作用や化学作用を及ぼすものであってはならないから、一般にガラスや石英で作られるが、さらにその内面を不活性材料でコーティングを施した例もある(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−101788号公報
【特許文献2】特開平08−262003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、インサートを交換する場合は、試料気化室やカラムの温度を室温付近まで下げ、キャリアガスの供給を止めてから交換作業を行っていた。これはオペレータの火傷防止のためでもあるが、内面不活性化されたインサートを高温下で空気(酸素)に曝すと不活性化コーティングの劣化を招き、またカラムについても、高温下で内部に空気が混入すると固定相皮膜が酸化されカラム寿命を早めることになるからである。
しかし、試料気化室の温度を下げるには時間が掛かり、また、インサート交換後に温度を上げる前に、まず試料気化室内に入り込んだ空気を追い出す必要もあり、インサートの交換は時間と手間の掛かるものであった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、試料気化室内のインサートを迅速に交換することが可能なガスクロマトグラフを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、試料気化室にキャリアガスとは別に不活性ガスを導通する不活性ガス導通路を設けてガスクロマトグラフを構成する。
このように構成することにより、インサート交換時はこの不活性ガス導通路から試料気化室に不活性ガスを吹き込むことで、不活性ガス雰囲気中でインサート交換作業を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は上記のように構成されているので、試料気化室やカラムの温度を分析所定の高温に保ったままでインサートを交換してもインサートやカラムの劣化を招く恐れがない。また、温度の上げ下げに要する時間も省けるので交換作業が効率化する。さらに、副次的効果として、カラムやセプタムの交換に際しても、本発明の特徴である空気の混入防止機能を有効に活用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明が提供するガスクロマトグラフの特徴は試料気化室にキャリアガスとは別に不活性ガスを導入するように構成した点である。
従って、最良の形態の基本的な構成は、試料気化室にキャリアガスとは別に不活性ガスを導入する不活性ガス導通路を備えたガスクロマトグラフである。
【実施例1】
【0010】
図1に、本発明の一実施例である試料気化室20の断面図を示す。なお、図1は特に試料気化室20に的を絞って示したものであり、図1では示されていないガスクロマトグラフとしての全体的な流路構成は図2に準じるものとする。
図1において、1は試料気化室20の主要構造体である金属製の気化室本体、8はカラム22を固定するカラムナット、9はシールリング4を締め付けてインサート3を保持するためのシールナット、7はセプタム5を所定位置に固定するセプタムナットである。その他の図2と同符号を付したものは図2と同一物であるから、再度の説明は省く。
【0011】
本発明に特徴的な構成は、気化室本体1の下部に設けられた不活性ガス導通路10である。この流路により電磁弁26で制御される不活性ガス(窒素等)を試料気化室20に吹き込むことができる。インサート3等を交換するとき以外は、電磁弁26は閉じており、試料気化室20の機能は従来と変わらず、従来同様に分析を行うことができる。不活性ガスの供給源は図示しないが、キャリアガスの供給源から分岐してもよいし、別にボンベ等の供給源を設けてもよい。
【0012】
上記のように構成された本実施例においてインサート3を交換する手順を次に説明する。
(1)キャリアガスの供給を止め、電磁弁26を開いて不活性ガス導通路10から圧力10kPa程度に制御された不活性ガスを導入する。
(2)シールナット9を緩めて取りはずし、インサート3を抜き取り、新たにインサート3を挿入する。この間、不活性ガスでパージされているので、空気の混入は起こらないか、或いは混入しても僅かである。
(3)次にシールナット9を締めるが、完全に締める前に、暫時シールナット9の隙間から不活性ガスを漏らすことにより、混入した可能性のある空気を追い出す。
(4)最後にシールナット9を完全に締め、電磁弁26を閉じ、所定のキャリアガスを流して分析可能な状態に復旧する。
【0013】
本発明はインサート3のみでなく、セプタム5やカラム22の交換にも有効に機能する。交換の手順は上記に準じ、セプタム5を交換する場合は、セプタムナット7を緩めて行えばよく、また、カラム22を交換する場合は、カラムナット8を緩めて行えばよい。
【0014】
なお、不活性ガスを制御するには、図1に示す電磁弁26に限らず、他の制御手段、例えば電子制御式の流量制御装置を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明はガスクロマトグラフに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例を示す図である。
【図2】従来の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0017】
1 気化室本体
2 キャリアガス導入流路
3 インサート
4 シールリング
5 セプタム
6 試料注入口
7 セプタムナット
8 カラムナット
9 シールナット
10 不活性ガス導通路
20 試料気化室
21 フローコントローラ
22 カラム
23 検出器
24 スプリット流路
25 スプリット弁
26 電磁弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着脱可能なインサートに試料を注入して気化する試料気化室を有し、キャリアガスが前記試料気化室を貫流してカラムへ流れるように流路が構成されたガスクロマトグラフであって、前記試料気化室に前記キャリアガスとは別に不活性ガスを導通する不活性ガス導通路を設けたことを特徴とするガスクロマトグラフ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−92672(P2009−92672A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326782(P2008−326782)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【基礎とした実用新案登録】実用新案登録第3120611号
【原出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)