説明

ガスセル

【課題】腐食性ガスによる反射鏡の劣化を防止してガスセルの寿命を2倍に伸ばす。
【解決手段】反射鏡面上の未使用の領域に被覆を施して汚染・腐食から保護し、使用されている領域が汚染・腐食によって使用に耐えなくなったとき、上記の未使用領域の被覆を除去して、この領域を新しい反射面として使用する。凹面鏡2の表面には、金属板あるいはPTFEなどの耐薬品性に優れたプラスチックの薄板を用いて作られた保護カバー14が着脱自在に取り付けられている。多数の試料ガスの測定後に保護カバー14を取り外し、劣化していない新しい鏡面を露出させる。凹面鏡2を20度回転させることによって、劣化していない部分に光束スポット13がくる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光光度計や環境測定装置において種々のガス成分の測定において使用されるガスセルに関する。
【背景技術】
【0002】
環境汚染や大気汚染の原因となる排気ガス中にはHSやSOなどのイオウ化合物、NOやNHなどの窒素化合物、種々の炭化水素等が含まれており、環境状態、特に住民の健康状態に対するこれらの物質の影響が指摘され、空気中におけるこれらの濃度の測定が重要視されている。一方、温室効果ガスとしての二酸化炭素やメタンなどの空気中における濃度の測定も益々広く行われている。
【0003】
これらガス分析では一般に、ガスセルに試料を充填し、これに光を透過させ、目的成分による光吸収を測定し、これより目的成分の濃度を求める。この際、比較的少量の容量の試料ガスを用いて、できる限り高感度で測定するために、ガスセル内での光路長を拡大する多重反射ガスセルが一般的に使用され、その測定精度を向上させる工夫が種々提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【0004】
また、測定対象によっては試料ガス中に光学素子を汚染する成分が含まれていることもある。このような測定における装置の耐久性を向上させる工夫も提案されている(たとえば特許文献2参照)。
【0005】
一般的に使用されている多重反射ガスセルの一例を図5に示す。図5におけるガスセルは、試料ガスを収容する円筒1と、その両端にボルト9で取り付けられた2個の凹面鏡ホルダー3、4と、凹面鏡ホルダー3、4の内面に接着などの方法で保持されて、互いに反射面を対向させている2枚の凹面鏡2を主要構成要素とする。円筒1には側面に試料ガスを導入するガス導入孔5と、測定後の試料ガスを排出するガス排出孔6が設けられている。また凹面鏡ホルダー4には測定用の光を入射するための入射窓11と、ガスセルから光が出射する出射窓12が設けられ、入射窓11と出射窓12の内部には、それぞれ光透過性の窓板7が窓板押え8によって保持されている。ガスセル内部の気密性を確保するため、凹面鏡ホルダー3、4と円筒1の接触部と、窓板7と凹面鏡ホルダー4に接触部にはガスケット10が挟持されている。
【0006】
実際の測定には、試料ガスが図示されていないポンプやバルブなどの手段でガス導入孔5を通じて導入され、ガスセル内部を満たす。次に、図5には示されていない光源からの光が入射窓11から窓板7を通してガスセル内に入射する。この光は2枚の凹面鏡2の反射面間をある回数だけ反復反射したのち、窓板7を通して出射窓12から外部へ出射する。出射した光は、図5には示されていない検出器にて、測定が行われる。
【0007】
使用される光源は、ハロゲンランプや重水素ランプのような白色光源を分光器などの波長選択手段と共に使用するケースや、単色レーザーあるいは波長可変レーザーの光を直接試料ガスに照射するケースなど、目的に応じて使い分けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−58009号公報
【特許文献2】実開平3−122351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ガスセルに導入される試料ガス中には、凹面鏡の表面を汚染・腐食する成分が含まれることがある。たとえば、多量の水分は凹面鏡の表面に凝縮して曇りを生じる原因となる。また、また、SOxやNOxなどの酸性ガスや硫化水素などは長時間使用する間に徐々に凹面鏡の表面の金属蒸着膜を腐食して反射率の低下や表面精度の劣化の原因となる。これらを防止するためには、凹面鏡の表面を洗浄しなければならないが、この作業は細心の注意と技能を必要とするうえに、完全に修復することは困難である。最終的には凹面鏡を交換しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の従来法の問題点を解決すべく、互いに対向する2個の鏡に挟まれた空間に導入され、前記2個の鏡間で任意の回数多重反射された光束の強度から、前記空間内に充填された被測定ガスの定性・定量分析を行うガスセルにおいて、前記鏡の反射面の一部に着脱可能な保護用被覆を付設したことを特徴とする。
【0011】
多重反射に関与する凹面鏡上では、光束が照射する領域は一部分に限定される。光束の照射しない領域に保護用被膜を付設すれば、被膜の下の鏡面が試料ガスから保護され、劣化のない高品質の鏡面として維持される。長時間の使用によって照射領域の鏡面が劣化したときに、非照射領域の被覆を除去し、この領域を新たな照射領域として使用することにより、凹面鏡の寿命を倍加することができる。
【発明の効果】
【0012】
試料ガス中に汚染・腐食性成分が含まれている場合でも、従来法の2倍の耐久性を有する凹面鏡を備えたガスセルを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例を示す図である。
【図2】本発明にかかる凹面鏡と保護カバーの取り付け方法を示す図である。
【図3】本発明の保護カバーのより強固な取り付け方法を示す図である。
【図4】保護カバー除去後の劣化部位と光束スポットの関係を示す図である。
【図5】従来法のガスセルの構造を示す図である。
【図6】レーザー光源による凹面鏡上の光束スポットの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一般的なガスセルでは、多重反射に関与する鏡面上で光束によって照射される個所は、鏡面上の全域に及ぶことはなく、一部の領域に限られており、それ以外の領域は鏡として利用されていない。たとえば、図5の例のガスセルにレーザーを光源として使用した場合、レーザー光束が多重反射の過程で照射する凹面鏡上の領域を図6に示す。本図で見られるとおり、凹面鏡2の反射面上では、レーザー光は40度の角度で等間隔に並ぶ9個の光束スポット13のみを照射する。各光束スポット13の形は、直径約3mmの円である。
本発明にかかるガスセルは、このような鏡面上の未使用の領域に被覆を施して汚染・腐食から保護し、使用されている領域が汚染・腐食によって使用に耐えなくなったとき、上記の未使用領域の被覆を除去して、この領域を新しい反射面として使用する。
【実施例】
【0015】
本発明にかかるガスセルの一実施例は、図5に示した従来のガスセルと基本的に同一の構造を有し、光源にはレーザーを使用している。本発明の新規性は、ガスセルに用いられている凹面鏡にあり、図1にこれを示す。
【0016】
図1に示すように、凹面鏡2の表面には、保護カバー14が着脱自在に取り付けられている。保護カバー14は、凹面鏡2の外形にフィットする大きさに形成され、周縁部に9個の切り込み15が等角度間隔で形成されている。それぞれの切り込み15は、中心角20度の裁頭扇形に形作られており、隣接する2個所の切り込み15の間に残された部分も同様に、中心角20度の裁頭扇形に形成される。
【0017】
保護カバー14は、金属板あるいはPTFEなどの耐薬品性に優れたプラスチックの薄板を用いて製作する。また、保護カバー14は容易に凹面鏡2の表面に着脱できることが必要である。このため、図2に示すように、保護カバー14の周辺の9個の突出部先端は背部に折り曲げられており、この部分に凹面鏡2の側面が嵌め込まれる形に形成されている。
これによって、保護カバー14は容易に着脱可能である。
【0018】
さらに、より安定に保護カバー14を凹面鏡2に固定させるためには、図3に示すように、プラスチックあるいは金属で作った薄いバンド16を保護カバー14の折り返し部分の外側に巻き付けて、図3に示すとおりネジ17とナット18でバンド16を締める方法も採用できる。
【0019】
初めて保護カバー14を凹面鏡2に取り付けるときは、切り込み15の中心に光束スポット13が一致するように保護カバー14の取り付け角度を調節する。この状態で凹面鏡2を図5に示した凹面鏡ホルダー3に取り付ける。上記にて組み立てられたガスセルの各部の構造および実際の測定に際しての動作についての説明は、背景技術の項において詳説した従来のガスセルと同一であり、説明を省略する。
【0020】
多数の試料ガスの測定によって、凹面鏡2の保護されていない部分の劣化が進み、測定に支障をきたす状態に至ったときは、図1に示した保護カバー14を取り外し、劣化していない新しい鏡面を露出させる。そして、凹面鏡2を20度だけ中心軸の周りに回転させた状態で凹面鏡ホルダー3(図5)に取り付けるか、もしくは凹面鏡2が取り付けられた凹面鏡ホルダー3を同様に20度回転させてセル円筒部に取り付ける。その状態を図4に示す。図4では、保護カバー14を取り付けてあったときに試料ガスに触れていた部分は劣化部位19として示されている。凹面鏡2を20度回転させることによって、劣化部位19が光束スポット13の位置から光束スポット13のない位置に移動し、劣化していない部分に光束スポット13を位置させる。これによって、ただちにセルの性能が初期の最良の状態に復帰する。
【0021】
本発明の効果をより高めるためには、凹面鏡2の取り外し・再取り付けの操作の際に、凹面鏡2の光軸に狂いが生じないことが必要であるが、本実施例では図5における凹面鏡2と凹面鏡ホルダー3、あるいは凹面鏡ホルダー3と円筒1を精密嵌合加工をすることによって、精度の高い光軸設定が可能となっている。
【0022】
上記のように、本発明によって容易に凹面鏡の劣化を初期の性能に復帰させることが可能となり、難度の高い洗浄作業を行わずにガスセルの寿命を2倍に伸ばすことが可能となる。
【0023】
本発明における特徴は、上述したとおりであるが、上記ならびに図示例に限定されるものではなく、種々の変形例を含む。たとえば、実施例では光束スポットが9個であるが、ガスセルの光学系の諸元を変化させて光学スポットの数を増減することができ、本発明はこれらも包含する。また、レーザー以外に、白色光あるいは分光器で分光された単色光を用いるガスセルにおいても、本発明を適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、分光光度計や環境測定装置において種々のガス成分の測定において使用されるガスセルに関する。
【符号の説明】
【0025】
1 円筒
2 凹面鏡
3、4 凹面鏡ホルダー
5 ガス導入孔
6 ガス排出孔
7 窓板
8 窓板押え
9 ボルト
10 ガスケット
11 入射窓
12 出射窓
13 光束スポット
14 保護カバー
15 切り込み
16 バンド
17 ネジ
18 ナット
19 劣化部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する2個の鏡に挟まれた空間に導入され、前記2個の鏡間で任意の回数多重反射された光束の強度から、前記空間内に充填された被測定ガスの定性・定量分析を行うガスセルにおいて、前記鏡の反射面の一部に着脱可能な保護用被覆を付設したことを特徴とするガスセル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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